博 士 ( 水 産 学 ) 山 本 祥 一 郎
学 位 論 文 題 名
Variation in life history characteristics within and among populations of white‑spotted charr
,
Sal'veliTzztsた な
colnae7zぬ
(アメマスの生活史形質における個体群内および個体群間変異)
学位論文内容の要旨
サケ科魚類の成長や生活史形質には種間のみならず種内の個体間において も著しい変異が認められる。また、多くのサケ科魚類では同一個体群中に一 生を河川で生活を送るタイプ(河川残留型)や、ある河川生活期を経て海ま たは湖に下るタイプ(降海型)など、生活史(表現型)に多型を持つことが 知られており、このような生活史に変異を生じさせる要因やプロセスを明ら かにすることは、適応の研究のみならず、水産学などの応用分野においても 重要な知見を提示すると考えられる。サケ科魚類の表現型多型に関わる進 化 ・維 持機 構に ついて はこ れま で多く の理 論的 な研 究がなされている
(Roff,1994; Gross ,1996 など)。理論的な仮説を検証するためには、適応 度を規定する成長や生存、繁殖のスケジュールについての個体群統計学的研 究が不可欠であるが、自然個体群を対象としてそれらを扱った研究は極めて 少なぃ。
本研究は、サケ科魚類の一種であるアメマスSalvelinus leucomaems を対 象に、標識採捕を中心とした調査を行い、(1 )表現型多型の分岐様式、
(2 )生活史形質の個体群間変異、(3 )銀毛サイズ特異的な海洋での成長 速度、生存卒を調べ、生活史変異性の実態を把握するとともに、その変興に 関わる要因を明らかにすることを目的とした。
(
1)表現型の分岐様式
北海道南部を流れる原木川において、1994‑ 1997 年にかけて韜こなった標
識採捕調査の結果に基づき表現型の分岐様式を調べた。1994 〜1996 年にかけ
ての繁殖期(9 一10 月)に計1376 尾の個体に標識放流を施し、そのうち359 尾
を翌年の春期(4 ー5 月)に、79 尾を翌年の繁殖期に再び採捕した。これらの 個体は性成熟、および銀毛変態の有無から、1 )未成熟のままであった個体
(II)、2 )未 成熟 から 次年 度の春 期に 銀毛 変態 した個 体(IS) 、3 )両年 とも 成熟 魚( 河川 残留型 )であった個体
(MM)、4 )河川残留型から翌年 銀毛 変態 した 個体
(MS)の
4つのカテゴリーに分類することができた。銀 毛個体として再捕された個体(IS ,MS) は、未成熟のままであった個体
(II)に比べ標識時、採捕時の体長ともに有意に大きく、成長率は逆に低かった。
同様に、次年度の繁殖期に再捕された成熟個体(IM ,
MM)は未成熟魚のまま であった個体
(II)より有意に大きな個体から構成されていた。また、尾叉 長ー体重関係式より個体の肥満度を求めたところ、標識時に肥満度の高かっ た個体ほどより河川残留型に分化する傾向があった。一方、銀毛個体への分 化には肥満度は関わりをもたなかった。耳石による年齢査定の結果、銀毛個 体は
2才から5 才にかけての幅広い年齢群から構成されていることが明らかと されたが、分散分析の結果から上記の表現型分化に個体の年齢差は関与しな いことが示された。以上の結果から、春期の銀毛個体への分岐にはサイズ が、繁殖期の河川残留型への分化にはサイズと肥満度が強く関わっているこ とが示唆された。
(2 )個体群間変異
本種の繁殖期(10 ー
11月)および銀毛個体出現時期(4 一5 月)に韜いて、
本州の
1河川と北海道の2 河川でアメマスを採集し、個体群間でいくっかの 生活史形質を比較した。繁殖期の個体群構造は、河川残留型のみから構成さ れる本州個体群と、河川残留型と降海型から構成される北海道個体群とに大 きく区分することができ、さらに性間の違いにより、雌雄とも多型がみられ る北海道南部の個体群と、オスのみ多型を織成する北海道北部の個体群とに 分けられた。以上は、分布の南方ほど個体群内の河川残留型の山現頻度が商 くなることを示す。河川残留型の最小成熟サイズはオスが90 mm 、メスが
130 mmで、サイズ特異的な成熟率に個体群間で大きな差は認められなかっ たのに対し、銀毛個体のサイズは分布の南方ほど大きく、北海道北部の個体 群ではおよそ
100 mm、北海道南部の個体群ではおよそ140 mm であった。ま た、
0才から1 才にかけての初期成長速度には緯度に沿った明瞭な関係は認め られなかった。以上より、本種の生活環は銀毛サイズの大小に強く規定され ていると考えられ、分布の北方では銀毛サイズが小さぃために河川残留型の 出現が抑制されていると推察された。
(3 )銀毛サイズに関連した海洋生活期の成長と生存
前出の結果より、銀毛サイズの大小が個体群構造を規定する近接的な要因
で あ る こ と が 示 さ れ た 。 銀 毛 サ イ ズ の 変 異 に 関 わ る 適 応 的 意 義 を 把 握 す る た め に は 適 応 度 を 規 定 す る 成 長 と 生 存 に つ い て の 個 体 群 統 計 学 的 な 調 査 が 不 可 欠 で あ る と 考 え ら れ る 。 こ こ で は 、 北 海 道 北 部 を 流 れ る 内 路 川 と 北 海 道 南 部 を 流 れ る 原 木 川 に お い て 、 ア メ マ ス の 銀 毛 個 体 と 降 海 型 個 体 を そ れ ぞ れ 採 捕 し 、 銀 毛 サ イ ズ 特 異 的 な 海 洋 生 活 期 の 成 長 率 と 生 存 率 を 調 べ 、 そ れ ら の 個 体 群 間 比 較 を 試 み た 。 銀 毛 個 体 の 尾 叉 長 の 平 均 値 ( 士 標 準 偏 差 ) は 内 路 川 で 144 mm土14.7、 原 木 川 で163 mm士19.4で あ り 、 原 木 川 の 銀 毛 個 体 の 方 が 有 意 に 大 き か っ た 。 銀 毛 個 体 の 年 齢 は 内 路 川 で2才 か ら6才 、 原 木 川 で2才 か ら5才 の 範 囲 で 構 成 さ れ て い た が 、 銀 毛 個 体 の 年 齢 群 間 で 尾 叉 長 の 平 均 値 に 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 降 海 型 の 鱗 か ら 得 た 鱗 半 径 ー 尾 叉 長 回 帰 式 よ り 個 体 の 銀 毛 サ イ ズ を 逆 算 し 、 こ れ と 回 帰 時 の サ イ ズ か ら 海 洋 生 活 期 の 成 長 速 度 を 求 め た 。 そ の 結 果 、 個 体 群 内 で は 小 さ ぃ サ イ ズ で 銀 毛 し た 個 体 の 方 が 成 長 率 が 高 い と い う 関 係 が 認 め ら れ た 。 ま た 、 異 な る 銀 毛 年 齢 群 間 で 成 長 率 に 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 銀 毛 個 体 の サ イ ズ 頻 度 分 布 と 降 海 型 の 鱗 か ら 逆 算 し た 銀 毛 サ イ ズ 頻 度 分 布 よ り 銀 毛 サ イ ズ 特 異 的 な 生 存 率 を 求 め た と こ ろ 、 大 き い サ イ ズ で 銀 毛 し た 個 体 の 方 が そ の 後 の 生 存 が 良 い こ と が 示 さ れ た 。 こ れ ら の 結 果 は 、 ア メ マ ス の 海 洋 生 活 期 の 成 長 お よ び 生 存 が 降 海 時 の サ イ ズ に 依 存 す る こ と を 示 す 。 ま た 、 銀 毛 サ イ ズ 特 異 的 な 成 長 率 、 生 存 率 に2つ の 個 体 群 で大きな相違がみられた。
以 上 の 結 果 か ら 、 ア メ マ ス の 表 現 型 の 分 岐 は 幼 魚 期 の 体 長 ( 闘 値 ) で 決 定 される条ケIニ1戡IiY8 (Gross,1996)の一例と考えられ、銀毛.イ1・ミ齢および河川残剛 型 の 年 齢 は そ れ ぞ れ の 闘 値 に 違 す る ま で の 生 育 速 度 に よ っ て 可 塑 的 に 変 化 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。 ま た 、 銀 毛 サ イ ズ は サ イ ズ 依 存 的 な 海 洋 で の 成 長 お よ び 生 存 な ど の 人 口 統 計 学 的 な 過 程 に よ り 個 体 群 間 で 異 な る 値 を と り 、 結 果 と し て 個 体 群 構 造 の 違 い を も た ら す 要 因 で あ る と 考 え ら れ た 。 こ れ ら の 知 見 は 、 サ ケ 科 魚 類 の 生 活 史 多 型 の 維 持 、 進 化 機 構 の 理 解 の 一 助 と な る だ け で な く 、 個 体 群 の 管 理 保 全 を 考 え る 上 で も 重 要 な 示 唆 を 与 え る も の と 考 え ら れ る。
学 位 論 文 審 査 の要 旨
主 査 教 授 山 崎 文 雄 副 査 教 授 島 崎 健 二 副 査 助 教 授 後 藤 晃
学位論文題名
Variation in life history characteristics within and among populations of white‑spotted charr , Salveli7zus leucoTnaen ぬ
( ア メ マ ス の 生 活 史 形 質 に お け る 個 体 群 内 お よ び 個 体 群 間 変 異 )
に維持され、旦、個体‖H、們 休群問で生活史に変興が予想されるアメマスSaLveLinus Leucomー aenisを 週 ん だ 点 は 上 記 の 目 的 を 遂 行 す る 上 で 適 切 な 堪 択 で あ っ た と 評 価 さ れ る 。 申請者は先ず表現型多世の分岐様 式、生活史形質の個体群問変異を調べるために、標識採捕 実験を行った。その結果アメマス河川個体觧では、各団体が性成熟と銀毛変態の有無から、j. 未成熟個体、2.未成熟から次年度の春期に銀毛変態する個体、J.河川で成熟する残留型個体、
4.河川 残留型から翌年銀毛変態する個fホの4っの表現型に分類されることを示し、これらの個 体は最終的には降海型か河川残留型 かのいずれかに分岐することを明らかにした。この2型分 岐に係わる要因分キr『の結果から河川残留型への分化には肥満度が関係し、・漂識時の肥満度が高 いほど河川残留型に分化する傾向が 強いこと、また耳石による年齢査定の結果から降海型への 分化には個体の年齢は関与せず、春 期までの成長と体サイズが大きく関わることを永した。こ の結果は相分化のみられる他の廿ケ ・マス類にも応用が可能で、降海型への分岐促進等の技術 開発に寄与するものと判断される。
次に申請者は個体群間変異の問題 を取り上げ、河川残留型のみから構成される本州個体群、
河川残留型と降海型から構成される 北海道個体群に大別し、更に性間の違いにより雌雄とも多 型がみられる北海道南部の個体群と 、雄のみ多型を構成する北海道北部の個体群とに分けてそ れぞれの個体群間の比較を行った。 その結果南方では個体群内の河川残留型の出現頻度が高く なる こと 、河 川 残留 型の 最小 成熟 廿イ ズは 雌雄 で差 があ り、 雄で9 0 m、雌では130mmであ るが、個体群間では差がナよいことを示したぃ.一方銀毛サイズは分布の南方ほど大きく、北海道 北部 の個 体群 で100 mm、 北海 道南 部の 個体 群で は約140卿 であ るこ とか ら、 銀毛 サイ ズの 小さな北方では銀毛になるのが早い ため河川残留型の出現が抑制されていること、一方北海道 南部では雄の成熟サイズが銀毛サイ ズより小さいために、成熟の早い雄は銀毛になることなく
、河川に残留して成熟に向かうが、 雌では銀毛サイズが成熟サイズより小さいために銀毛個体 の出現の割合が高くなると推定した 。また本州個体群では銀毛サイズが雌雄共に成熟サイズよ り大きいために全ての個体が河川残 留型に分化するとの考えを提示した。この考え方は銀毛を 闘値形質としてとらえたもので、他 のサケ・マス類にも適用が可能であルサケ.マスの相分化 を遺伝の支配下にありながら、生息環境により変り得る銀毛サイズ。(闘値)と固定された成熟 廿 イ ズ と の 関 わ り で 説 明 し よ う と す る 新 し い 道 を 拓 く も の と し て 評 価 さ れ た 。 ー1052―
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