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アクティブ・ラーニングに基づく理科授業の実践的展開

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Academic year: 2021

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アクティブ・ラーニングに基づく理科授業の実践的展開 森本信也 長沼武志 野原博人

Design of Science Teaching based on the Active Learning and its Practices

ShinnyaMorimoto Takeshi Naganuma Hirohito Nohara

1.問題の所在 次期学習指導要領における最も大きな課題は,アクティブ・ラーニングを中心 とした学習活動の展開である.アクティブ・ラーニングが主唱される問題意識は, 内外の学力調査の結果から「日本の子どもは根拠をあげて自分の考えを表現する ことに課題がある」,というものである(中央教育課程審議会企画特別部会,2015). 知識基盤社会を迎え,自分にとって適切な情報を取捨選択し,適切な判断を下せ る力を子どもに育成することは,これからの学校教育を構想する上において必須 である.この意味で,この問題意識は適切であり,その解決は喫緊の課題である . 実際,理科教育においても,上述の問題は共通であり,観察,実験結果を読み とり,そこから適切な考察をするということにおいて,小学生・中学生において も課題があることが明らかにされている(文部科学省,2015).この課題を反映させ その解決で必要とされる理科授業が構想されなければならない.それは,子ども が明確な見通しをもって学習に臨み,学習の成果として得られたことを振り返り ながら整理し,知識として構築できる授業の実現である.これは上述のアクティ ブ・ラーニングの視点に合致する. こうした指摘に叶う理科授業は次の過程から構成されなければならない .子ど もにおける問題の自覚に端を発する,予想→予想を検証すべく観察,実験の設定 →結果の整理→考察,という一連の問題解決を主軸とした活動である .この活動 においては,子どもが一貫して問題を意識しながら,その解決に関わることが必 要である.言い換えれば,「予想したことを検証するための観察,実験結果は何だ ったか」「予想と観察,実験結果を比べてみて,予想は検証されたのか」,という ようなメタ認知がこの過程では求められる.メタ認知を繰り返しながら,子ども 自ら自己調整的に学習を進めることでこの活動は充実する. 理科授業でこうした活動が十全に行われれば,子どもは自らの学習活動を振り 返りながら,そこでどのような情報を処理し,それを科学概念として構築したか を説明することができる.アクティブ・ラーニングの目標は十分到達可能である. そこで本稿においては,初等理科教育を事例にし,アクティブ・ラーニングを具 現化させる指導と評価について検討する.

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2.フィードバック機能の自覚化による,アクティブ・ラーニングの具現化 2 . 1 フ ィ ー ド バ ッ ク 機 能 理科授業では,問題を明確にしながら,予想を立て,それを検証すべく観察, 実験を設定して実行する.また,結果を整理しながら考察に取り組み,科学的な 事象に対する知識構造を構築する.このような問題解決を遂行していく際,教師 の足場づくりとしての形成的アセスメントに基づくフィードバックが有用である. 渡辺らは,形成的アセスメントに基づいた理科授業を分析し,学習において教 師が収集するデータを分析・活用し,子どもに適切に,即時的なフィードバック を与えて指導を進めると,子ども自身が学習を調整しながら科学概念を構築する ことを明らかにした(渡辺,黒田,森本,2013). 一方,フィードバックについて,Hattie,J.&Timperley,H.は,現在の理解や成 績と望ましい目標とのギャップを減らすものと指摘し,フィードバックが機能す るレベルとして,表 1 に示す,タスクレベル,プロセスレベル,自己調整レベル, 自己レベルのフィードバック機能を指摘した(Hattie,J.& Timperley,H.,2007). 表 1 フィードバックが機能する四つのレベル また,長沼・森本は,それらのフィードバック機能を図 1 に示すフィードバッ ク機能の分化モデルとして模式化し,四つのレベルを視点とした形成的アセスメ ントを実施して,フィードバックを行うことにより,子どもが科学概念を構築す ることを明らかにした(長沼・森本,2015). 図1 フィードバック機能の分化モデル タスクレベル (Task level) 学習問題を明確することに対して機能する. プロセスレベル (Process level) 問題解決を遂行するプロセスに対して機能する. 自己調整レベル (Self-regulation level) モニタリングを通した自己調整に対して機能する. 自己レベル (Self-level) 学習者の意欲付けに対して機能する.

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たとえば,教師は,タスクレベルとして学習問題を明確にできているか,プロ セスレベルとして問題解決プロセスの見通しをもてているかなど,フィードバッ ク機能を視点に子どもの学習状況を把握する.そして,状況に応じてフィードバ ックを行い,科学概念構築を促すのである. アクティブ・ラーニングを具現化するためには,子どもが, 自らこれらのフィ ードバック機能を自覚的に駆動しながら問題解決に取り組むことが求められる . すなわち,タスクレベルやプロセスレベルに対して,子どもが明確な見通しをも って学習に臨み,自己調整レベルに対して,学習の成果として得られたことを振 り返りながら考えを整理し,知識構築する.また,自己レベルとして,問題解決 への意欲を自ら高めていくことにより,子どもの主体的・協働的な学びが実現す るのである. 2.2 フィードバック機能の自覚的な駆動を促す足場はずし 上述のような授業を構想するにあたり,フィードバック機能の内面化に注目す る必要がある.すなわち,子どもは,足場づくりとして教師からフィードバック を受けながら問題解決に取り組むが,徐々にフィードバック機能を内面化 するこ とにより,状況に応じてフィードバック機能を自覚的に駆動させることができる ようになるのである. ここでの教師の役割は,足場づくりから足場はずしへ移行と言えよう.三宮は, 足場づくりと足場はずしについて,次のように述べた. 「初めのうちは,問題解決のために子どもは親や教師から,おもに対話を通して 得られる支援を必要とする.この支援は足場づくりとよばれる.これがしだいに内 面化されて,自己内対話による問題解決が行われるようになる.足場は少しずつは ずされ,最後は不要となる」(三宮,2008). 教師が,子どもの学習状況を把握する際に,子どもが四つのレベルのフィード バック機能について,十分に内面化していると判断できた場合,徐々に足場はず しを実施するのである. これらのことから,フィードバック機能の自覚的な駆動によるアクティブ・ラ ーニングの具現化に向けて,図 2 に示す通り,形成的アセスメントに基づく足場 はずしを主軸とした授業デザインを構想した. 図2 フィードバック機能の自覚的な駆動を促す足場はずしのプロセス

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つまり,形成的アセスメントにより,子どもの学習状況を把握する。その際, フィードバック機能が十分に内面化されていた場合に,足場はずしを実施し,自 律的活動を促す.これにより,子どもは,「学習問題を明確にできているか」「問 題解決の見通しはもてているか」など,自らの学びをメタ認知しながら,自律的 に学習できるようになるのである.すなわち,アクティブ・ラーニングの具現化 である. 2.3 小学校における授業実践 実践授業の目的は,上述したように,フィードバック機能の自覚的な駆動によ るアクティブ・ラーニングの具現化に向けて,形成的アセスメントに基づく足場 はずしを主軸とした理科授業の計画・実行を行うことにある .その上で,授業に おける発話や授業中に作成された描画を分析し,形成的アセスメントに基づく足 場はずしの有用性を検証した. 分析対象とした授業は,神奈川県小学校第4学年,単元「水の三態変化」であ る.分析は,授業を撮影したビデオ記録による発話,及び授業中に作成された子 どもの描画によって行った. 単元「水の三態変化」の学習のねらいは,水は温度によって液体,気体,また は固体に状態が変化するということをとらえるようにすることである.具体的に, 水を100℃近くまで熱すると沸騰して盛んに泡が出てくることや,その泡は水が変 化した水蒸気であり,冷やすとまた水に戻ることなど,温度と水の三態変化を関 係づけてとらえるようにする. ここでは,フィードバック機能の自覚的な駆動について検証するために,二つ の学習場面を選択した.一つは,教師が足場づくりを行った学習場面である.こ の場面で,子どもは,教師のフィードバックを受けながら,ビーカーに入れた水 を温める観察,実験を実施し,その結果をグラフで整理して考察した.具体的に は,水を温め続けた結果をグラフで整理したところ,水温が徐々に上がっていく ことが分かったため,どうして温度が上がったのかについて考察した. もう一つは,フィードバック機能の自覚的な駆動についての学習場面である. この場面では,子どもが,沸騰した時に発生した泡をビニール袋で集めた観察, 実験を行ったところ,ビニール袋が膨らんだ.しかし,ミニコンロの火を止める と,ビニールがしぼみ,中に水滴が集まった.そこで,ビニール袋がしぼんだ理 由について考察した. 2.4 結果 (1)足場づくりとしてのフィードバックの実施 表 2 は,ビーカーに入れた水をミニコンロで温めた観察,実験の結果として, 95℃くらいまで水温が上がった事実を共有し,その理由について,考察した学習 場面である.この学習場面で,教師は,問題解決の見通しをもたせる ために,タ スクレベルに対するフィードバックや動機づけるための自己レベルに対するフィ ードバックを行った.具体的には,以下の通りである.

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表2 水温が上がる理由について考察した学習場面の授業プロトコル Ca1 は,図 3 を提示し,水を温めはじめたころの温度について,「約 20 度の時 は,水の温まり方と同じように熱が入る」と,既習事項を踏まえて,水の温度が 上昇することを説明した.また,Cb1 は,「熱が入れば入るほど,温度が上がって いく」と,水を熱することによって,水の中に熱が入ると考え,熱の移動と温度 変化を関係づけて説明した. 図 3 熱の移動を説明したイメージ プロトコル 足場づくりとしての フィードバックの実施 Ca1 Cb1 T1 Cb2 T2 Cb3 T3 Cb4 T4 Cb5 T5 (図 3 を提示して)約 20 度の時は,水の温まり方と同 じように熱が入る. だけど,90 度の時になると,熱が入れば入るほど,温 度が上がっていく. ここをもう一回ゆっくり言って. ・・① 90 度の時は,熱が入れば入るほど温度が 上がっていく. つまり,温度が上がるってことは,熱が何? ・・① 熱が入っていく. どこに? ・・① 水の中に. いいよね.・・② それで,ミニコンロの火で高められる最高温度が 95 度 だから,それまで,熱が入り続けていく. いいよね.イメージがわいたね.・・② ①プロセスレベル 問題解決の見通しをも たせる. ②自己レベル 考えを承認して,学習 に対して動機づける.

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T1 は,このプロセスレベルのフィードバック機能を駆動させた発言を承認し, 学習の見通しをもたせるために,「もう一回,ゆっくり言って」と,発言を求めた. すると Cb2 は,熱の移動と温度変化について発言した.T3 は,温度が上がること と熱の移動を関係づけるために,改めて「どこに熱が入っていくのか」と,熱の 移動について焦点化した.すると,Cb4 は,「水の中」と答え,Cb5 は,「最高温 度が95 度だから,それまで熱が入り続けていく」と,説明した. T5 は,「いいよね.イメージわいたね」と,プロセスレベルのフィードバック 機能を駆動させた子どものパフォーマンスを承認して,学習に対する動機づけを 図った. (2)フィードバック機能の自覚的な駆動による科学概念構築 表 3 は,沸騰した際に発生した泡を集めた観察,実験について考察した場面で ある.子どもは,火を止めると膨らんでいたビニール袋がしぼんでしまうことに ついて,話し合った. この学習場面で教師は,プロセスレベルのフィードバック機能を自覚的に駆動 している子どもの学習状況を把握して,足場はずしを実施した.具体的には,以 下の通りである. 表3 ビニール袋がしぼんだ理由について考察した学習場面の授業プロトコル Cc1 は,しぼんだ理由として,図 4 を提示しながら,「この中(教室)が寒いか ら,熱が奪われていく」と,熱の移動について,発言した.また,Cc2 は,「残っ たのは,水だけで,しぼむ.」と,熱の移動と水の状態変化を関係づけて,説明し た.さらに Cd1 は,まず,「火がついている時は,バンって,水がバラバラになる けれど」と,過熱されている時の状態を確認した.次に,「火を止めると,熱がも プロトコル 足場はずしによるフィード バック機能の自覚的駆動 Cc1 T6 Cc2 Cc3 T7 Cd1 (図4 を提示して)えっと,まず,しぼんだ理由は, この中(教室)が寒いから,熱が奪われていく.・・① どこに? 奪われていって,残ったのは水だけで,水は重いから しぼむ.小さくなるっていうか.しぼんだと思いまし た.終わります.同じ意見の人いますか. ・・① 違う意見の人いますか. Cd1 さんの考えも同じなんだけれど,どう考えたか教 えてごらん. 火がついている時は,上に行って,バンって,水がバ ラバラになるけれど火を止めると,熱をもらえなくな るから,熱が逃げていって,残ったのは水だけになる から,その水が集まって,最終的に水滴になる.・・② ①プロセスレベル 自己レベル 自ら問題解決の見通しを もち,熱の移動と状態変化 を関係づけた. ②自己調整レベル 自己レベル 自分の考えをモニタリン グしながら,熱の移動と水 の状態変化について,既習 事項を用いて整理した.

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らえなくなるから,熱が逃げていって」と,熱の移動について説明した.最後に, 「残ったのは,水だけになるから,その水が集まって,最終的に水滴になる」と, 熱の移動と状態変化を関係づけて,説明した. 図 4 熱が奪われた水が集まって,ビニール袋がしぼむイメージ 教師は,これらの発言から,プロセスレベルや自己調整レベルのフィードバッ ク機能を自覚的に駆動して,熱の移動と状態変化の関係づけていると判断して, 足場はずしを実施した. 2.5 考察 これまでの結果から,フィードバック機能の自覚的な駆動によるアクティブ・ ラーニングの具現化に向けて,形成的アセスメントに基づく足場はずしを主軸と した授業デザインの有用性を検証する. 図 5 に示すように,水温が上がる理由について考察した学習場面では,形成的 アセスメントにより子どもの学習状況を把握し,タスクレベルやプロセスレベル に対するフィードバックを行った.具体的には,「もう一回ゆっくり言って」「熱 が何?」「どこに」と,問いかけながら,熱の移動と水温の変化の関係づけを促し た.また,「いいよね」「イメージがわいた」など,自己レベルのフィードバック として子どものパフォーマンスを価値づけて,内面化を促していた. これにより,子どもは,教師のフィードバックを受けて,「水の中に熱が入る」 「熱が入るほど,温度が上がっていく」と,水温が上昇する理由について,問題 解決を図るとともに,そのパフォーマンスを価値づけられることによって,フィ ードバック機能を内面化していった. 一方,ビニール袋がしぼんだ理由について考察した場面では,子どもは,「しぼ んだ理由は,熱が奪われていく」「残ったのは,水だけで,水は重いからしぼむ」 と,熱の移動と水の状態変化を関係づけて説明した.教師は,タスクレベルやプ ロセスレベルを視点に形成的アセスメントを実施して,フィードバック機能を自 覚的に駆動させていると把握し,足場はずしを行った.

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その後も,子どもが,ビニール袋が膨らむ理由と対比させながら,「火がついて いる時は,(熱をもらって),水がバラバラになる」と,説明し,反対に,「熱がも らえなくなるから,熱が逃げていって,水だけになる」「水が集まって,最終的に 水滴になる」と,学習を振り返りながら説明した状況をメタ認知して,自己調整 レベルのフィードバック機能を駆動させていると判断し,足場はずしをした. 図5 足場づくりと足場はずしによる,フィードバック機能の内面化 このように,教師は,形成的アセスメントに基づく足場づくりを行い,子ども にフィードバック機能の内面化を促した.また,子どもの自覚的な駆動を把握す ると,徐々に足場はずしを実施して,自律的な学習を促した. その結果,子どもは,四つのフィードバック機能の自覚的に駆動させながら, 冷やされたビニール袋がしぼむ理由について,知識構造を構築したのである.す なわち,自律的な学習を通した,主体的・協働的な学びとしてのアクティブ・ラ ーニングが具現化したのである. これらのことから,形成的アセスメントに基づく足場はずしを主軸とした授業 デザインは,アクティブ・ラーニングを具現化することが明らかとなった.

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3.科学概念の表象と組織化による,アクティブ・ラーニングの具現化 3.1 アクティブ・ラーンニグの実現による深い学び ア ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ の 実 現 に 向 け た 理 科 授 業 に お い て , 不 断 の 授 業 改 善 に 求 め ら れ て い る の は , 子どもが明確な見通しをもって学習に臨み,学習の 成果として得られたことを振り返りながら整理し,知識として構築できる授業の 実現である.アクティブ・ラーニングの具現化によって,子 ど も が 問 題 解 決 の プ ロ セ ス を 通 し て , 様 々 な 場 面 で 活 用 で き 基 本 的 な 概 念 を 体 系 的 に 身 に つ け て い く こ と の 重 要 性 が 指 摘 さ れ て い る の で あ る . 言 い 換 え る な ら ば , ア ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ の 実 現 と は , 深 い 学 び の 具 現 化 で あ る . Marton,F.ら は , 表 4 に 示 す よ う に , 学 習 者 の 学 習 ス ト ラ テ ジ ー の 同 化 と そ の 使 用 に つ い て の 分 析 か ら , 学 習 水 準 の 重 要 性 に つ い て 述 べ て い る . Marton,F.ら は , 学 習 ス ト ラ テ ジ ー に は , 表 層 レ ベ ル (surface-level)と 深 層 レ ベ ル(deep-level)が あ る こ と を 示 し て い る ( Marton,F.etal.,1984). 表 4 学 習 ス ト ラ テ ジ ー に お け る 表 層 レ ベ ル と 深 層 レ ベ ル (Marton,F.etal.,1984) 表 層 レ ベ ル(surface-level)の 学 習 深 層 レ ベ ル(deep-level)の 学 習 ・ 生 徒 は , 与 え ら れ た テ ク ス ト を , 教 科 書 に 書 か れ て い る と お り の 形 で , 記 憶 に 刻 も う と す る . い わ ば , 生 徒 は 記 憶 の 機 械 の よ う な や り 方 を と ろ う と す る . ・ 生 徒 は , テ ク ス ト の 一 文 ず つ に 注 意 を 向 け , と き に は テ ク ス ト の 段 落 ご と に ア ン ダ ー ラ イ ン を 引 き な が ら , わ ず か な ス テ ッ プ だ け 前 に 進 む . そ の 作 業 は , 細 か い 要 素 に 分 割 さ れ た 「 原 子 論 的 」 な も の で あ る . ・ 生 徒 は , 自 分 の 勉 強 方 法 を 自 覚 し て い な い し , テ ク ス ト の 内 容 の 意 味 や 関 連 性 ( レ リ バ ン ス ) に つ い て 省 察 し て い な い . 生 徒 は テ ス ト や 試 験 を ど う 切 り 抜 け る か に , 多 く の 注 意 を 向 け て い る . ・ 生 徒 は , テ ク ス ト が 何 を 意 味 し て い る の か , そ の メ ッ セ ー ジ と 関 連 性 は 何 で あ る か を 理 解 す る た め に , 言 語 の 背 後 ま で 吟 味 し よ う と す る . ・ 生 徒 は , 例 え ば 本 の 序 文 や 目 次 を 念 入 り に 吟 味 し た り , 本 全 体 を ざ っ と 目 を 通 し た り , 重 要 な 一 節 を 探 し た り す る こ と に よ っ て , 最 初 か ら 本 の 内 容 の 全 体 像 を 作 り 出 し , 本 の 構 造 や 中 心 的 な 概 念 ・ 原 理 の 輪 郭 を 描 こ う と す る . そ の 作 業 は 包 括 的 あ る い は 「 全 体 論 的 」 で あ る . ・ 生 徒 の 勉 強 の や り 方 は , 自 覚 的 で 批 判 的 で あ る . と り わ け テ ク ス ト の 内 容 を 理 解 し , そ の 真 実 性 と 有 用 性 を 熟 慮 し よ う と す る . Marton,F.ら は , 表 層 レ ベ ル で の 学 習 後 , 子 ど も の 記 憶 に は 内 容 に 関 連 す る 事 実 群 が 多 く 残 っ て い る こ と を 立 証 し た . 他 方 , 深 層 レ ベ ル の 学 習 に お い て は , 学 習 内 容 を 分 析 し た り , そ れ を 1 つ の 全 体 と し て 組 織 化 し た り , そ の 内 的 関 係 を み た り , そ れ を 新 し い 問 題 に 応 用 し た り す る た め の 能 力 を 生 み 出 す こ と を 指 摘 し て い る . こ の こ と か ら Marton,F.ら は , 表 層 的 に 学 習 し た 事 実 群 は す ぐ に 忘 れ ら れ る の に 対 し て , 深 く 同 化 さ れ た 構 成 概 念 は 事 実 を 有 意 味 な 全 体 に 結 び つ け , 事 実 が 忘 れ ら れ て い く の を 防 ぐ と 述 べ て い る .

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3 . 2 深 い 学 び を 達 成 す る た め の 知 識 の 表 象 と 組 織 化 Marton,F. ら が 示 し た 深 層 レ ベ ル に お け る 学 習 の 重 要 性 か ら , Engeström,Y.は 深 層 レ ベ ル の 探 究 的 学 習 を 達 成 す る 構 成 要 素 の 条 件 の 一 つ と し て 「 内 容 の 適 切 な 組 織 化 」 を あ げ , 知 識 の 表 象 と 組 織 化 に よ る 概 念 構 築 の 有 用 性 に つ い て 述 べ て い る(Engeström,Y.,1994). ( 1 ) 知 識 の 表 象 学 習 者 と し て の 子 ど も は , 問 題 解 決 の プ ロ セ ス を 通 し て モ デ ル を 構 成 す る . 学 習 さ れ た モ デ ル は さ ま ざ ま な 仕 方 で 表 象 さ れ る .Bruner,J.S.は , 表 象 に は 動 作 的 , 映 像 的 , 記 号 的 と い う 3 つ の 形 態 が あ る こ と を 示 し て い る (Bruner J.S.,1966) . モ デ ル は ま ず , 直 接 経 験 の 中 で 表 現 さ れ , 獲 得 さ れ る . モ デ ル は さ ら に , メ ン タ ル イ メ ー ジ に よ っ て 支 え ら れ た イ ラ ス ト , 図 や 表 に お い て も 表 現 さ れ る . 最 後 に , モ デ ル は , 言 語 や シ ン ボ ル の 助 け を 借 り て , 抽 象 的 な 一 般 化 さ れ た 形 態 で 表 現 さ れ , 獲 得 さ れ て い く .Bruner,J.S. に よ っ て 示 さ れ た 3 つ の 表 象 形 態 に よ っ て 知 識 は 表 象 さ れ て い く の で あ る . ( 2 ) 知 識 の 組 織 化 学 習 を 通 し て 構 成 さ れ た モ デ ル は , 組 織 化 に よ っ て 質 を 深 め て い く . 知 識 の 組 織 化 の 最 も 単 純 な タ イ プ は , 単 一 の 事 実 群 の 組 織 化 , 特 定 の 対 象 と 結 び つ い た 個 々 バ ラ バ ラ な 特 徴 の 組 織 化 で あ る . 次 に , 特 徴 を 基 準 と し て 事 実 群 が 分 類 さ れ , そ れ に よ っ て カ テ ゴ リ ー と 定 義 が 作 ら れ る . 知 識 の 組 織 化 の 複 雑 さ が も う 一 段 階 上 が る の で あ る . 知 識 の 活 用 を 図 る た め に , さ ら に そ の 手 続 き 化 が 行 わ れ る . 知 識 の 活 用 の プ ロ セ ス を 記 述 し た り 説 明 し た り で き る よ う に な る の で あ る . 最 終 的 に 手 続 き 化 し た 各 種 の 知 識 の ネ ッ ト ワ ー ク 化 を 図 る こ と で , 精 緻 化 さ れ た 知 識 間 の 機 能 的 な 関 連 性 と 相 互 作 用 が 可 能 に な る . ( 3 ) 知 識 は ど の よ う に 表 象 さ れ , 組 織 化 さ れ る の か Engeström,Y.は , 上 で 述 べ た 知 識 の 質 に は 2 つ の 次 元 が あ り , そ の 関 係 は , 図 1 で 示 す 2 つ の 次 元 の 中 で 考 え ら れ る と 述 べ て い る . ま た Bruner,J.S.は ,「 自 ら を 結 び 合 わ せ る 十 分 な 構 造 な し に 獲 得 さ れ た 知 識 は , お そ ら く 忘 れ 去 ら れ る 知 識 で あ る . 事 実 の 結 び つ き の な い 集 ま り は , 記 憶 の 中 で 哀 れ な ほ ど に 短 い 半 減 期 し か も た な い . 事 実 を 原 理 と 観 念 に よ っ て 組 織 化 す る こ と は , 人 間 の 記 憶 の 損 失 率 を 減 じ る 唯 一 の 知 ら れ た 方 法 で あ る .」 と , 知 識 の 同 化 の 重 要 性 に つ い て 述 べ て い る(Bruner J.S.,1966). 図6 知識はどのように表象され,どのように 組織化されるか(Engeström,Y.,1994)

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Bruner,J.S.に よ る 知 識 の 同 化 に 基 づ い て 示 し た Engeström,Y.よ る 知 識 の 表 象 と 組 織 化 の 機 能 に は , 2 つ の 次 元 に お け る 知 識 の 柔 軟 性 と 階 層 性 が 伴 う 深 い 学 び の 展 開 が 必 要 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た . す な わ ち , 深 い 学 び と は , 学 習 内 容 を 概 念 的 に 理 解 し て い く こ と へ の 要 求 な の で あ る . ( 4 ) 知 的 に 生 産 的 な 学 習 の 構 造 深 い 学 び の プ ロ セ ス に お い て , 子 ど も の 考 え の 変 容 を 促 し て い く た め の 指 導 と 評 価 の 視 点 は 不 可 欠 で あ る .Engeström,Y.は , 図 7 に 示 す よ う に 「 知 的 に 生 産 的 な 学 習 の 構 造 」 に つ い て 提 案 し て い る (Engeström,Y.1994). こ こ で は , 「 学 習 に 必 要 な 道 具 」「 学 習 へ の 目 的 意 識 」「 学 習 の 対 象 」 と い う 三 項 関 係 を 常 に 「 学 習 に 必 要 な 道 具 」 を 媒 介 と し て 学 習 を 展 開 さ せ て い く こ と で , 深 い 学 習 は 具 現 さ れ て い く と 述 べ ら れ て い る .「 学 習 に 必 要 な 道 具 」 を 教 師 が 意 図 的 に 変 化 さ せ , 子 ど も に 自 覚 さ せ る こ と で ,「 学 習 の 対 象 」 の 変 化 や 「 学 習 へ の 目 的 意 識 」 の 向 上 と 連 動 し , 深 い 学 び は 実 現 さ れ て い く . 図 7 は , ア ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ の 実 現 に 向 か う こ と を 示 し て い る と 考 え ら れ る . 3.3 小学校における授業実践 実践授業の目的は,上述したように,知識の表 象 と 組 織 化 に よ っ て 促 さ れ る 深 い 説 明 活 動 が な さ れ る 授 業 デ ザ イ ン と そ の 内 実 に つ い て の 分 析 を 行 う こ と で あ る . そ こ で ,Engeström,Y.に よ る 理 科 授 業 に 関 わ る 「 知 的 に 生 産 的 な 学 習 の 構 造 」( 図 7 ) で 示 す 学 習 の 構 造 を 分 析 の 視 点 と し て 用 い て , 科 学 概 念 の 表 象 と 組 織 化 を 促 す 指 導 方 略 に つ い て 検 証 し た . 分析対象とした授業は,神奈川県小学校第4学年,単元「ものの温まり方 」で ある.分析は,授業を撮影したビデオ記録による発話,及び授業中に作成された 子どもの描画によって行った.単元「ものの温まり方」では,金属,水及び空気を 温めると,それらの体積は膨張し,冷やすと収縮することを確認する.その体積の 変化の様子は,金属,水及び空気によって違いがあり,これらの中では, 空気の温に よる体積の変化が最も大きいことを実験結果に基づいてとらえ,水の温度変化と物 の体積の変化との関係をとらえるようにすることがこの単元のねらいである. ここでは,知識の表象と組織化について検証するために,水の温まり方につい て,既習に基づく予想を立てる場面から,見通しをもった実験,観察を通して, 体積変化と関係づけた考察から結論を導く場面について取り上げる.「 知 的 に 生 産 的 な 学 習 の 構 造 」 を 分 析 の 視 点 と し , 水の温まり方についての科 学 概 念 の 表 象 と 組 織 化 を 通 し た 科 学 概 念 の 構築過程に つ い て 考察する. 図7 知的に生産的な学習の構造 (Engeström,Y.1994)

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3 . 4 結 果 本 研 究 に お け る 理 科 授 業 デ ザ イ ン で の 「 学 習 に 必 要 な 道 具 」 を 自 覚 的 に 変 換 し て い く 深 い 学 び の 実 現 に お い て は , 表 5 で 示 す よ う に , Ⅰ か ら Ⅴ の 過 程 に よ る 学 び の 階 層 化 が あ る こ と を 措 定 し た . そ れ ぞ れ の 過 程 に お い て は ,「 知 的 に 生 産 的 な 学 習 の 構 造 」 の 視 点 か ら , そ れ ぞ れ の 実 践 と 分 析 に つ い て 整 理 し て い く . ( 1 ) Ⅰ の 過 程 Ⅰ の 過 程 で は 金 属 の 温 ま り 方 の 学 習 を 踏 ま え , 試 験 管 内 の 水 の 温 ま り 方 に つ い て , 示 温 テ ー プ を 用 い て 観 察 , 実 験 を 行 っ た . 実 験 で は , 熱 し た 試 験 管 の 下 部 分 か ら 示 温 テ ー プ の 色 は 変 化 し て い き , 次 に 上 部 分 が 変 化 し , 上 下 か ら 真 ん 中 に か け て 全 体 に 温 ま っ て い く こ と が 確 認 さ れ た . こ の 結 果 に よ る 観 察 , 実 験 情 報 か ら , 予 想 で 立 て た 説 の 有 用 性 に つ い て の 検 討 が , 対 話 を 通 し た 協 働 作 業 に よ っ て 行 わ れ , 予 想 と 結 果 に 基 づ い た 考 え 方 を 創 出 し た . Ⅰ の 過 程 に お け る , 学 習 の 構 造 を 図 8 に 示 す . こ の 過 程 に お い て は , 水 の 温 ま り 方 を 調 べ た い と い う 目 的 意 識 を も つ こ と に よ っ て , 水 が 温 ま る 過 程 に 対 す る 問 題 意 識 が 明 ら か と な っ た . そ し て , 試 験 管 内 で の 示 温 テ ー プ の 色 の 変 化 に よ っ て , 水 の 温 度 が 変 化 し て い く 様 子 を 確 認 し た . こ の 過 程 に お け る 子 ど も の 描 画 を 図 9 に 示 す . 図 9 は , 水 の 温 ま り 方 を 示 温 テ ー プ の 変 化 に よ っ て 確 認 を し , そ の 過 程 か ら 試 験 管 内 の 場 所 に よ っ て 水 の 温 度 が 違 う と い う 観 察 情 報 に 基 づ い た 描 画 で あ る . 予 想 や 考 察 で の 観 察 情 報 を 説 明 で き る 考 え の 有 用 性 に つ い て 互 い の 考 え を 述 べ あ う こ と を 通 し た 考 え の 吟 味 が 行 わ れ た が , 図 9 で 示 す 描 画 で は 説 明 が 不 十 分 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た . 試 験 管 で の 水 の 温 度 調 べ だ け で は , 水 の 温 ま り 方 に つ い て 説 明 し て い く 根 拠 が 不 十 分 で あ り ,「 学 習 に 必 要 な 道 具 」 を 変 換 す る こ と の 必 要 感 が 高 ま っ て い っ た . Ⅰ 水は上昇して温まる Ⅱ 温かい水は軽くなって上昇する Ⅲ 同一体積では温度の違う水の重さ は異なる Ⅳ 温度による重さの違いで水の移動 が起きる Ⅴ イメージ図によりⅠ〜Ⅳの内容を 統合して説明する 表5 水の温まり方についての科学概念 構築を図るⅠからⅤの過程 図9 Ⅰの過程における子どもの描画 図8 Ⅰの過程における学習構造

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( 2 ) Ⅱ の 過 程 Ⅰ の 過 程 で 示 し た 描 画 の 検 討 を 通 し て , 水 の 温 ま り 方 の 概 念 構 築 に せ ま る た め の 「 学 習 に 必 要 な 道 具 」 の 質 を 変 換 す る 必 要 が 高 ま っ た . Ⅱ の 過 程 で は , ビ ー カ ー の 中 で 水 を 温 め る 実 験 を 行 い , そ の 温 ま り 方 に つ い て の 検 討 が 行 わ れ た . Ⅱ の 過 程 に お け る 考 察 場 面 の プ ロ ト コ ル ( 表 6 ) と 描 画 ( 図 10) を 示 す . 表 6 Ⅱ の 過 程 に お け る 考 察 場 面 の プ ロ ト コ ル プ ロ ト コ ル Ca1 Cb1 T1 Cc1 T2 Cc2 Cd1 Ce1 Cf1 Cg1 Cf2 T3 温 め た 水 は 軽 く な る の で 上 で 広 が っ て , 前 に あ っ た 水 は 温 め た 水 に と っ て は 邪 魔 に な る の で 居 場 所 が な く な っ て 移 動 し て , 温 め た 水 は ど ん ど ん 下 ま で 広 が っ て い く . そ う 同 じ . 勝 手 に 名 前 を つ け た . ミ ル フ ィ ー ユ 説 ミ ル フ ィ ー ユ の よ う に 重 な っ て い く . ど う い う こ と ? 温 め た 水 は 上 で 広 が っ て , 前 に あ っ た 冷 た い 水 は 邪 魔 に な る の で 居 場 所 が な く な っ て 最 初 に い た や つ を 下 に や っ て , 新 し い や つ が そ こ に 入 っ て 全 体 に 広 が っ て い く . 温 か い 水 が 邪 魔 に な る っ て ど う い う こ と ? 温 か い 水 の 居 場 所 が な い . だ か ら , 冷 た い 水 を 下 に や っ て 温 か い 水 が そ こ に い る . 温 ま っ た 水 の 層 に な っ て い く . だ か ら 全 体 に 広 が っ て い く . 新 し く 来 た や つ は で き た て ほ や ほ や だ か ら , そ っ ち の 方 が あ っ た か い か ら , そ っ ち の 方 が 優 先 に な る . 同 じ な ん で す け ど , 水 の 動 作 は く る く る っ て 回 っ て い る よ う に 感 じ た の で , 下 に 行 っ て こ う 行 っ て 下 に 行 っ て の 動 作 は な か っ た と 思 う ん だ け ど . 温 め た 水 は こ う 来 て ( 上 に ) こ う 来 て ( 横 に ) 下 に 落 ち て い る か ら , そ う 動 い て い る . そ う し て た ら 順 番 は ? ま ず お 湯 が 上 が っ た ら … 上 で 広 が っ て い る と こ ろ に ま た 新 し い の が 来 て ま た 広 が っ て い く . 繰 り 返 さ れ て い る と . あ た た め た 水 は 軽 く な り , 上 層 部 分 で 広 が る イ メ ー ジ を も と に , 温 度 の 異 な る 水 の 重 さ の 違 い に つ い て 説 明 が 行 わ れ , 温 度 変 化 に よ っ て 水 が 動 く こ と と 水 の 温 度 差 に よ る ス ペ ー ス の せ め ぎ 合 い と い う イ メ ー ジ を 表 出 し た . さ ら に Cd1 や Ce1 は Cc1 の 意 見 に 同 意 し , 水 の 温 度 差 に よ っ て 生 じ る 動 き に つ い て 考 え を 図 10 で 示 す よ う な , ぐ る ぐ る と 回 り な が ら 水 が 温 ま る の で は な く , 層 の よ う に し て 水 は 温 ま っ て い く と い っ た パ フ ォ ー マ ン ス を も と に し た , 水 の 移 動 に よ る 温 ま り 方 の 説 明 を 協 働 的 に 試 み て い る . 図10 Ⅱの過程における子どもの描画

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ま た , Ⅱ の 過 程 に お け る 学 習 の 構 造 を 図 11 に 示 す . 温 め ら れ た 水 は ど の よ う に 動 く の か と い う 目 的 意 識 が Ⅰ の 過 程 か ら 醸 成 さ れ た こ と に よ っ て , 学 習 問 題 は 明 確 と な り , そ の 解 決 に 向 け た 水 の 温 度 差 に よ っ て 生 じ る 水 の 動 き に つ い て の 説 明 が な さ れ て い っ た . Ⅱ の 過 程 で は , Ⅰ の 過 程 で の 説 明 活 動 で は 不 十 分 で あ っ た ,「 学 習 に 必 要 な 道 具 」 と し て の 子 ど も の パ フ ォ ー マ ン ス の 変 換 が な さ れ た と 言 え る . ( 3 ) Ⅲ , Ⅳ の 過 程 Ⅱ の 過 程 に お い て , 温 度 の 変 化 に よ っ て 水 の 重 さ の 違 い が 生 じ て 水 が 移 動 す る と い っ た , 水 の 温 ま り 方 に つ い て の 概 念 を よ り 確 か な も の に し て い く た め の ,「 学 習 に 必 要 な 道 具 」 の 変 換 に 対 す る 必 要 感 が 高 ま っ た . Ⅲ の 過 程 に お い て は , 同 じ 体 積 の 容 器 に 温 度 の 違 う 水 が 入 っ て い る 状 態 を 天 秤 で 比 較 し た . 水 よ り も 湯 の 方 に 天 秤 が 傾 く こ と か ら , 温 度 の 異 な る 水 の 重 さ に つ い て の 概 念 が 構 築 さ れ て い っ た . さ ら に , Ⅳ の 過 程 に お い て は , 温 度 の 違 い に よ っ て 水 は ど の よ う に 動 く の か に つ い て 調 べ て い く . Ⅲ の 過 程 に お い て 明 ら か と な っ た 「 学 習 に 必 要 な 道 具 」 と し て の 温 度 の 異 な る 水 の 重 さ に つ い て の 概 念 に 加 え , 温 度 が 変 化 し た 際 に 水 が ど の よ う に 動 く の か い う 問 題 意 識 を も つ こ と に よ っ て , 図 10 で 示 し た 描 画 を 通 し た 水 の 温 ま り 方 に つ い て の 科 学 概 念 構 築 に 向 け た 根 拠 と し て の 情 報 収 集 を 行 っ た . Ⅲ , Ⅳ の 過 程 に お け る 学 習 構 造 を 図 12 に 示 す . ど ち ら の 過 程 も , 水 と 湯 の 重 さ の 違 い を 明 ら か に す る こ と に よ っ て , こ こ ま で の 過 程 に お い て 不 十 分 で あ っ た 根 拠 が 明 確 に な り , Ⅴ の 過 程 に お け る 概 念 の 精 緻 化 へ の 橋 渡 し と な っ た . ( 4 ) Ⅴ の 過 程 Ⅴ の 過 程 で は , Ⅱ の 段 階 で 示 し た 描 画 を 通 し た 水 の 温 ま り 方 の 概 念 構 築 を よ り 精 緻 化 さ れ て い く . こ の 過 程 に お け る 考 察 場 面 の プ ロ ト コ ル を 表 7 に 示 す . ま た , 温 度 の 違 い に よ る 水 の 移 動 を 基 軸 に し た 水 の 温 ま り 方 に つ い て の 概 念 構 築 が 図 ら れ て い く 際 の 「 学 習 に 必 要 な 道 具 」 と し て 説 明 活 動 で 用 い ら れ た 描 画 を 図 13 に 示 す . 図11 Ⅱの過程における学習構造 図12 Ⅲ,Ⅳの過程における学習構造

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表7 Ⅴの過程における考察場面のプロトコル 表 8 の Ch1 は , 図 13 の 描 画 に つ い て 説 明 し て い る . こ れ を 受 け た Ci1, Cj1 の 承 認 に よ り , Ⅱ の 段 階 で の 描 画 の 発 展 と し て の 新 た な 説 が 承 認 さ れ て い っ た .Cj1 , Ck1 に よ っ て こ れ ま で の 段 階 に お い て 確 認 さ れ た 根 拠 が 示 さ れ , 水 の 温 度 が 上 が る と 体 積 が 変 化 し て 水 は 上 昇 す る と い う 観 察 情 報 と の 関 係 付 け を 通 し て , 温 度 変 化 に よ る 水 の 移 動 に つ い て 共 有 さ れ , 描 画 に よ っ て 水 と 湯 の 違 い を 粒 子 で 表 し , さ ら に そ の 移 動 に よ っ て 水 が 温 ま る こ と の 説 明 を 通 し て , 水 の 温 ま り 方 の 概 念 構 築 が 図 ら れ て い っ た . プ ロ ト コ ル Ch1 Ci1 T4 Cj1 Ck1 T5 Cj2 Ck1 Ch2 Ck2 T6 Ch3 Ch3 Cl1 T7 Cl2 Ci3 温 め ら れ た 水 が 上 昇 し て , 冷 た い 水 が 下 に 移 動 す る . ぐ る フ ィ ー ユ 説 だ . 新 し い 考 え 方 だ ね . 温 め ら れ た 水 が 同 じ ル ー ト を ぐ る ぐ る 回 る け ど , 中 に も 小 さ な ぐ る ぐ る が あ る の で 広 が っ て い く . 温 め ら れ た 水 は 軽 く な る こ と も 分 か っ た . 軽 く な る . こ れ は , な ん で 上 に 行 く の か っ て こ と だ よ ね . 前 の 学 習 で , 温 め た 水 は 体 積 が 大 き く な っ て 上 に 上 が っ た し , 冷 や す と 小 さ く な っ て た . 水 く ん は 温 め る と 体 積 が 大 き く な っ た ね . 体 積 が 大 き く な る と 軽 く な る の か な . 冷 え た 水 の 方 が 重 く て , 温 め た 水 は 軽 い . 空 気 の 温 め た の と つ な が る よ ね . 空 気 は 温 め る と 膨 ら ん で 軽 く な る っ て 言 っ て い た . 水 も 温 ま る と 軽 く な っ て 上 に 行 っ て , 冷 た い の は そ の ま ま で . 大 切 な の は ぐ る ぐ る 回 る っ て こ と な の ? 水 が 軽 く な る . 温 ま っ た 水 は 軽 く な っ て 上 に 上 が る . そ れ で , 冷 た い 水 が 下 に 移 動 す る . 居 場 所 が な く な る の で . ま ず 水 が 温 め ら れ て お 湯 に な っ て 上 に 上 が っ て , 元 に あ っ た 水 が 押 し 出 さ れ て お 湯 が 広 が っ て , ま た 水 が 押 し 出 さ れ て , だ ん だ ん お 湯 が 広 が っ て い っ て , 最 終 的 に は 全 体 が お 湯 に な る . こ の 違 い は 何 ? こ れ は お 湯 で , お 湯 が 軽 く な る こ と . こ れ と ( お 湯 ) こ れ ( 冷 た い 水 ) の 重 さ は 変 わ る か ら , お 湯 は 上 に 上 が る っ て い う 話 だ ね . 上 が っ た ら 広 が っ て い く . そ れ が 繰 り 返 さ れ て い く . ミ ル フ ィ ー ユ 説 の よ う に だ ね . 図13 Ⅴの過程における子どもの描画

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Ⅴ の 段 階 に お い て は , 表 7 で 示 し た プ ロ コ ト ル に お け る 発 話 に あ る よ う に , Ⅰ か ら Ⅳ の 段 階 に お け る 観 察 情 報 を 根 拠 と し た Ⅰ か ら Ⅳ の 段 階 に お け る イ メ ー ジ 図 の 発 展 を 通 し て ,「 学 習 に 必 要 な 道 具 」 の 質 的 変 化 が 起 き た こ と が 明 ら か と な っ た . こ れ は , 図 13 で 示 し た 描 画 に お け る , 水 と 湯 の 違 い を 粒 子 で 表 し , さ ら に そ の 移 動 に よ っ て 水 が 温 ま る こ と を 説 明 し て い る こ と に 現 れ て い る . Ⅴ の 過 程 に お け る 学 習 の 構 造 を 図 14 に 示 す . Ⅴ の 過 程 で は , 水 と 湯 の 重 さ の 違 い を 示 す 事 実 の 収 集 に よ っ て , 水 と 湯 の 動 き 方 の モ デ ル を 構 成 し て い く 容 態 を 見 る こ と が で き た . 3 . 5 考 察 Engeström,Y.が 示 し た 知 識 の 表 象 と 組 織 化 に つ い て 理 科 授 業 に お い て 捉 え る と き , 図 15 に 示 す よ う に , 観 察 , 実 験 過 程 の 確 認 と 記 述 , 変 化 の 要 因 に つ い て 確 認 , 比 較 , 条 件 制 御 に よ る 観 察 , 実 験 結 果 の 記 述 , 観 察 実 験 結 果 の 整 理 と 解 釈 に よ る 説 明 , Ⅲ , Ⅳ の 内 容 の モ デ ル 化 と い っ た , I か ら V に か け た 知 識 の 階 層 化 に よ っ て , 科 学 概 念 構 築 に お け る 子 ど も の 学 び は よ り 深 い 学 び へ と 変 容 し て い く も の と 捉 え る こ と が で き る . ま た , 科 学 概 念 の 表 象 と 組 織 化 を 促 す 指 導 方 略 と し て ,Engeström,Y.に よ る 理 科 授 業 に 関 わ る 「 知 的 に 生 産 的 な 学 習 の 構 造 」( 図 7 ) で 示 す 学 習 の 構 造 が 成 立 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た . 図 7 に よ る 学 習 の 構 造 は , 対 話 的 な 授 業 展 開 に よ る 深 い 説 明 活 動 を 根 幹 に 据 え て い る の で あ る . 図14 Ⅴの過程における学習構造 図15 知識の表象と組織化において必要な道具の変換過程

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そ れ ぞ れ の 段 階 と 段 階 の 間 に は , 対 話 的 な 授 業 展 開 , 子どもによるパフォ ー マ ン ス と し て の 描 画 等 を 通 し た 発 達 の 最 近 接 領 域 の 機 能 に よ っ て 階 層 化 が な さ れ て い く も の と 捉 え る こ と が で き る . す な わ ち , ZPD の 視 点 か ら 教 師 が 学 習 に 必 要 な 道 具 を 意 図 的 に 変 換 さ せ て い く こ と に よ っ て , メ タ 認 知 を 繰 り 返 し な が ら , 子 ど も 自 ら 自 己 調 整 的 に 学 習 を 進 め て い く の で あ る . 以 上 か ら , 表 象 と 組 織 化 に よ っ て 促 さ れ る 深 い 説 明 活 動 が な さ れ て い く . す な わ ち , 主 体 的 に 知 識 を 表 象 し , さ ら に 協 働 的 に 知 識 を 組 織 化 し て い く 理 科 授 業 デ ザ イ ン に よ っ て , ア ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ を 具 現 化 す る こ と が 明 ら か と な っ た . 4 . 結 語 本研究では,アクティブ・ラーニングを具現化させる指導と評価について,初 等理科教育を事例に検討し,その視点について論考した. 理科授業における自律性の志向は,フィードバック機能の自覚的な駆動が重要 であることが明らかとなった.ここでの教師の役割は,形成的アセスメントに基 づいて,子どもがフィードバック機能を内面化しているかを把握し,足場はずし を実施することである.これにより子どもは,四つのフィードバック機能の自覚 的に駆動させ,自ら知識構造を構築する.つまり,自律的な学習を志向させるこ とにより,主体的・協働的な学びとしてのアクティブ・ラーニングを具現化させ るのである. 加えて,知 識 の 表 象 と 組 織 化 の 視 点 か ら 理 科 授 業 を と ら え る と き ,ZPD の 視 点 か ら 教 師 が 学 習 に 必 要 な 道 具 を 意 図 的 に 変 換 さ せ て い く こ と に よ っ て , 子 ど も は , メ タ 認 知 を 繰 り 返 し な が ら , 自 ら 自 己 調 整 的 に 学 習 を 進 め て い く こ と が 明 ら か と な っ た . こ こ で は , 教 師 が 学 習 に 必 要 な 道 具 を 意 図 的 に 変 換 さ せ て , 表 象 と 組 織 化 を 促 し , 深 い 説 明 活 動 が な さ れ て い く こ と に よ り , 子 ど も は , 主 体 的 に 知 識 を 表 象 し , さ ら に 協 働 的 に 知 識 を 組 織 化 す る の で あ る . 以 上 の 論 考 か ら , ア ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ を 具 現 化 さ せ る 指 導 と 評 価 に 関 わ る 要 因 の 一 端 が 顕 在 化 さ れ た . 附記 本研究は,平成 27 年~29 年度科学研究費補助金・基盤研究(C)「児童・生徒に おける「汎用的な資質・能力」を育成するための理科教員養成プログラムの開発」 (題番号 15K4485,研究代表森本信也)の成果である.

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(註) (和文) 三 宮 真 智 子(2008)「 メ タ 認 知 研 究 の 背 景 と 意 義 」『 メ タ 認 知 学 習 力 を 支 え る 高 次 認 知 機 能 』 北 大 路 書 房,p5. 中央教育課程審議会企画特別部会(2015)「論点整理」 文部科学省(2015)『平成 27 年度全国学力・学習状況調査報告書 小学校理科』 文部科学省(2015)『平成 27 年度全国学力・学習状況調査報告書 中学校理科』 長沼武志,森本信也(2015)「子どもにおける科学概念の構築を支援する指導方略に 関する研究(10)-学習へのフィードバック機能の分化-」『日本理科教育学会第 65 回全国大会論文集』日本理科教育学会,p321. 渡辺理文,黒田篤志,森本信也(2013)「子どもの科学概念構築を促す「形成的アセス メント」の機能に関する研究」『日本教科教育学会誌』,第 36 巻,第 3 号,pp.13-26. (欧文)

Bruner, J. (1966). The Process of Education. Cambridge, MA: Harvard University Press.

Engeström,Y.(1994).Training for change,International Labour Organaization,pp12-16

Hattie,J.andTimperley,H.(2007) .The Power of feedback,

EDUCATIONAL ASSESSMENT AND EVLUATION,Current Issues in Formative Assessment, Teaching and Learning,Vol.Ⅳ.pp169 -183

Marton,F., Hounsell,D. and Entwistle,N. (1984) .The Experience of Learning. Edinburgh: Scottish Academic Press.

表 2  水温が上がる理由について考察した学習場面の授業プロトコル  Ca1 は,図 3 を提示し,水を温めはじめたころの温度について,「約 20 度の時 は,水の温まり方と同じように熱が入る」と,既習事項を踏まえて,水の温度が 上昇することを説明した.また,Cb1 は,「熱が入れば入るほど,温度が上がって いく」と,水を熱することによって,水の中に熱が入ると考え,熱の移動と温度 変化を関係づけて説明した.      図 3  熱の移動を説明したイメージ プロトコル  足場づくりとしての  フィードバックの

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