日本香粧品学会誌 Vol. 44, No. 1, pp. 36–45 (2020)
〈教育シリーズ〉
皮膚をみる人たちのための化粧品知識
化粧品が原因の皮膚トラブルの見分け方
矢 上 晶 子
*
How to Distinguish Skin Problems Caused by Cosmetics
Akiko YAGAMI
*
Abstract
Skin problems caused by cosmetics include not only irritant and allergic contact dermatitis, but also leukoderma caused by application of active brightening materials and immediate type wheat allergy due to hydrolyzed wheat protein. These skin problems have characteristic clinical symptoms and causative components and require specific testing methods. This article describes the skin problems caused by cosmetics for each site where symptoms are induced. On the scalp and face, allergic contact dermatitis is induced by ingredients present in cosmetics and daily hygiene products and hair coloring agents, es-pecially preservatives such as isothiazolinones. Allergic contact dermatitis on the face also occurs due to chemicals used in eyelash extensions and components in lipstick. In Japan, the number of cases of leukoderma caused by ingredients contained in whitening cosmetics has rapidly increased and has become a social problem. Skin problems caused by cosmetics involve not only delayed allergic reactions but also immediate type reactions. After sensitization of the skin to the protein component contained in cosmetics, ingestion of foods containing the protein induces immediate type allergy. We have already experi-enced about the case of anaphylactic shock induced in immediate type allergy by hydrolyzed wheat protein or cochineal. The most useful test for identifying allergic contact dermatitis is the patch test. Repeated open application test (ROAT) using the cosmetic product is also a useful skin test. Additionally, the skin prick test is performed for immediate allergy. The Skin Safety Case Information Network (SSCI-Net) was established to quickly collect cases of contact dermatitis caused by cos-metics and daily use products, and to share the information with organizations such as cosmetic companies, relevant govern-ment agencies, and academia. It is hoped that skin troubles caused by cosmetics will be minimized through the efforts of the SSCI-Net.
Key words: allergic contact dermatitis, leukoderma, hydrolyzed wheat allergy, patch test, SSCI-Net.
1. は じ め に 化粧品は,刺激性,アレルギー性接触皮膚炎のみなら ず,近年,本邦では美白化粧品による脱色素斑や加水分 解小麦末を含有した石鹸による経皮感作により誘発され た小麦アレルギー症例など,われわれが予期しない皮膚 トラブルが発生してきた。それぞれの製品には特徴的な 臨床症状や原因成分,行うべき検査法があり,それらに 精通したうえで,化粧品による皮膚トラブルに対応した い。 本講では,代表的な皮膚トラブル事例を挙げるととも に皮膚障害事例の発生を最小化することを目的とした一 般社団法人 SSCI-Net の取り組みについて述べたい。 2. 臨床症状(刺激性・アレルギー性接触皮膚炎,脱色 素斑,即時型アレルギー) 化粧品による皮膚障害の多くは刺激性やアレルギー性 皮膚炎であり,いわゆる“かぶれ”である。 刺激性皮膚炎は,患者の皮膚の状態が安定していない 時や刺激性の高い製品を使用することにより症状が誘 発され,臨床症状としては,ヒリヒリ感,熱感,赤みを 生じる(Fig. 1)。一方,アレルギー性接触皮膚炎は,決 まった部位,つまり化粧品使用部位に使用する度に湿疹 病変が誘発される(Fig. 2)。接触皮膚炎の場合,臨床症 状としては,痒みや赤み,ジクジクした湿疹病変が主で あり,患者が使用している化粧品の使用期間,使用方法 藤田医科大学ばんたね病院総合アレルギー科 * Corresponding author:藤田医科大学ばんたね病院総合アレル ギー科,〒454–8509 名古屋市中川区尾頭橋三丁目6 番10 号 (E-mail: [email protected])
Department of Allergy, Fujita Health University Bantane Hospital (3–6–10 Otoubashi, Nakagawa-ku, Nagoya 454–8509, Japan)
が強い状態の事例が多い。この場合も原因と思われる化 粧品の使用歴や使用方法,脱色素斑誘発時の皮膚の状態 (赤みや痒みの有無)などを詳細に問診する(Fig. 3)。 さらに,化粧品を使用することにより配合されている 成分によって経皮感作が起こり,同様の成分を含む食材 を摂取することにより即時型アレルギーやより重篤な場 合はアナフィラキシーショックが誘発されることがあ る4–7)。 この場合は,即時型アレルギーが誘発された食材のみ をみていては原因成分や製品を明らかにすることができ ない。化粧品を使用する年代の主に女性における即時型 アレルギーが疑われる場合は,現在,もしくは過去に使 用していた化粧品や日用品について,配合されていた成 分を確認する必要がある(Fig. 4)。 3. 代表的な化粧品による皮膚トラブル事例:発症部 位・臨床症状別 3–1. アレルギー性接触皮膚炎 3–1–1. 頭皮:ヘアカラー剤によるアレルギー性接触皮 膚炎 われわれアジア人は,年齢を重ねると白髪になる。白 髪になる中高年以上の年齢の者にとって楽しく日常生 活を送るためにはヘアカラーは欠かせない製品である。 よって多くの日本人がヘアカラーを定期的に行っている が,ヘアカラー剤によるアレルギー性接触皮膚炎は以前 から一定の割合で使用者に引き起こされ,現在もその発 症率は下がっていない8)。典型的な臨床症状は,頭皮の 強い痒みや赤み,滲出液を伴う湿疹病変であり,顔面や 頚部に拡大することがある。また,重症の場合は,眼瞼 や顔面が腫脹し,歩行が困難になる場合があり,そのよ うな場合は入院加療が必要となる(Fig. 5, 6)。また,ヘ アカラー剤でかぶれていることに気が付かず,全身に湿 疹病変が散在し,痒みに長期的に苦慮している症例も ある。このような場合は,ヘアカラー剤の使用を中止す ると全身の湿疹病変が改善するので,検査(パッチテス ト)により原因物質を同定することが大切である。 ヘアカラー剤によるアレルギー性接触皮膚炎の主な 原因は,酸化染毛剤である para-phenylenediamine(PPD) ないしは,その類縁化合物である。PPD に対しては,一 般人のほぼ0.1 から1% が感作されていると言われ,ま たパッチテストを行った患者の約2∼5% が陽性反応を 呈すると報告されている9)。日本皮膚免疫アレルギー学 会おける日本接触皮膚炎班による疫学調査では,ジャパ ニーズベースラインシリーズに含まれる PPD の陽性率 はおよそ8% で,外国の陽性率より高いとされる8)。こ や皮膚の熱感,蕁麻疹が誘発され,救急搬送される事 例がある。ヘアカラー剤による皮膚トラブルは,“日常 的に起こる皮膚炎”と認識され,対応なく過ごす使用者 は少なくないが,皮膚炎を放置していると皮膚炎の症状 が徐々に重篤になることや場合によっては命を脅かす即 時型アレルギーが誘発されることを一般の使用者に啓発 し,ヘアカラー後の“かぶれ”や“痒み”などの症状を放 置することなく,医療機関へ受診する,もしくは,ヘア カラー前にはセルフテストを実施するよう,より広く啓 発活動を行うことが望まれる。なお,酸化染毛剤による アレルギー性接触皮膚炎患者には,PPD を配合していな いヘアマニキュアの使用を勧める。 また,ヘアカラー剤を避ける使用者がよく使用する植 物性染料の「ヘナ」と呼ばれるヘアダイやヘナタトゥに も PPD が含有されていることがあり,アレルギー性接 触皮膚炎を誘発することがあることを知っておきたい。 一方,シャンプーなどのヘアケア化粧品,液体石鹸, 皮膚清浄剤などに含まれる界面活性剤である cocamido-propyl betaine(CAPB)はパッチテストでしばしば刺激 反応を引き起こす。しかしながら,CAPB は3-aminopropylamine(DMAPA) や cocamidopropyl dimethyl-amine などの感作性物質を含んでいる。よって,洗浄剤 により皮膚炎を繰り返す場合には,刺激性と断定せず, アレルギー性接触皮膚炎が誘発される症例があることを 考慮し,パッチテストを行うことが勧められる10–12)。 3–1–2. 顔面全体(化粧品成分) 化粧品やメイクアップ製品による皮膚障害の場合, 多くの症例は刺激性皮膚炎であるが,アレルギー性接 触皮膚炎が確認された症例も以前から報告されている (Fig. 2)。後者の場合,多くの症例は化粧品使用後,し ばらく使用を継続してから湿疹病変が誘発されるように なるが,過去に同一の化粧品成分で感作されている場合 は,使用後すぐに発症する。 線香,アロマオイル,シャンプー,化粧品,デオドラ ント製剤などの日用品,歯科用材料,医薬品に使用され る香料(特に cinnamic aldehyde, cinnamic alcohol, eugenol, hydroxycitronellal, isoeugenol, geraniol, Evernia prunastri [oakmoss]),香料や防腐剤として使用され,美容液やヘ アトニックなどの化粧品をはじめ,医療用外用剤,座 薬,歯科材料,陶器,塗料,ソフトドリンク,絆創膏な どに使用されるペルーバルサム(マメ科の樹木から得ら れる樹脂),アイシャドウや口紅に含まれるロジン,化 粧品の基剤としてクリーム,乳液,クレンジング剤,口 紅などの製品に使用されているラノリン(羊毛に付着す る皮脂分泌物から得られ,脂肪酸とアルコールが結合
してできるエステル混合物ラノリン)などがアレルギー 性接触皮膚炎の原因成分としてよく知られている。顔面 に,繰り返し誘発される湿疹病変に苦慮している患者に 対してはこれらの成分に対するアレルギー性接触皮膚炎 を考慮し,パッチテストを行い,製品に陽性反応が誘発 された場合,後述する連続塗布試験(患者自身が実施), 成分パッチテストを行う。 3–1–3. 顔面+頚部(防腐剤:イソチアゾリン系防腐剤に よるアレルギー性接触皮膚炎) われわれが日常的に使用する洗浄製品や洗顔料,洗顔 石鹸,スキンケア化粧品などのスキンケア製品や化粧品 に広く配合されている防腐剤にイソチアゾリノン系の 防腐剤があり,この成分は近年,アレルギー性接触皮膚 炎症例の報告が増え,注目されている13–15)。各製品には 「Kathon CG」という原料が配合されていることが多く, これは「メチルイソチアゾリノン(MI)」と「メチルクロ ロイソチアゾリノン(MCI)」の混合物の商品名である。 本邦では,従来同防腐剤は,リンスオフ(洗い流す) 化粧品のみの使用では15 ppm まで使用が許可されてき たが,2004 年よりメチルイソチアゾリノン MI が洗い流 さない化粧品にも配合可能となった。このことが背景 にあり,アレルギー性接触皮膚炎が増えたとされる。ま Fig. 1. 化粧品による刺激皮膚炎.特定の化粧品により症 状が誘発され,パッチテストを実施したが陰性の 結果であり,刺激性接触皮膚炎と判断した症例. Fig. 2. 化粧品成分によるアレルギー性接触皮膚炎.額や こめかみに淡い紅斑を認める(原因はパラベン). Fig. 3. ロドデノール誘発脱色素斑.ロドデノール含有化 粧品使用部位(額)における不完全な脱色素斑. Fig. 4. 加水分解コムギ含有石鹸による小麦アレルギー. 小麦製品(パン)摂取後の著しい眼瞼腫脹.同症 状共に,息苦しさや全身蕁麻疹が誘発され,最も 重症の場合は,血圧低下などアナフィラキシー ショックが誘発された. Fig. 5. ヘアカラー剤によるアレルギー性接触皮膚炎.ヘアカラー剤を使用するたびに湿疹を生じても使用を継続する使用者 は少なくない. Fig. 6. ヘアカラー剤によるアレルギー性接触皮膚炎.著 しい眼瞼浮腫のため,開眼せず歩行も困難になる 症例もある.
に症例は減少の傾向にある。 当該成分によるアレルギー接触皮膚炎の臨床症状は, 頭皮や顔面,頚部などにおける慢性的な湿疹病変であ る。明確な原因が不明だがこれらの部位に湿疹を繰り返 している患者においては,使用しているスキンケア製 品,化粧品,日用品にこの防腐剤が含有されていない か,患者に確認するよう指示する。注意が必要なアレル ギー性接触皮膚炎の原因成分であることが報告されてか ら数年が経ち,対策も取られてきたが,いまだに,同防 腐剤が含有されているシャンプーやリンス等は市販され ており,それらの製品を使用しアレルギー性接触皮膚炎 を発症したことが疑われる患者に対してはパッチテスト (パッチテストパネル(S)(佐藤製薬)17 番 イソチアゾ リノンミックス(クロロメチルイソチアゾリノン,メチ ルイソチアゾリノン))を実施することが勧められる。 化粧品に使用される防腐剤としては,同成分の防腐 剤のほか,化粧品や医薬品,食品などの防腐剤として 使用されるパラベン(メチルパラベン(パラオキシ安息 香酸メチル),エチルパラベン(パラオキシ安息香酸エ チル),プロピルパラベン(パラオキシ安息香酸プロピ ル),ブチルパラベン(パラオキシ安息香酸ブチル),ベ ンジルパラベン(パラオキシ安息香酸ベンジル))やチメ ロサール,海外の化粧品や石鹸,シャンプーに含まれる ホルムアルデヒドなどがある。 3–1–4. 眼瞼:まつ毛エクステンションによるアレル ギー性接触皮膚炎 まつ毛エクステンションとは,まつ毛に1 本ずつ接 着剤で人工毛を付け伸長させる美容法である。天野ら の2012 年に行ったアンケート調査では,15∼60 歳の 10.3% がまつ毛エクステンション経験者であり,その 11.2% で「アレルギーによる眼の腫れ」のトラブルが あったと報告されている16)。また,国民生活センターか らは,まつ毛エクステンションの施術を経験した1,000 人にアンケート調査をしたところ,過去1 年間でまつ毛 エクステンションの施術を受けた人の1/4 が何らかの異 変や違和感を感じていた17)。これらの情報から,まつ毛 エクステンションによる皮膚障害で医療機関を受診する 患者はそれほど多くないが,同施術による皮膚障害事例 は潜在的に数多く存在することが推察される。まつ毛エ クステンションで使用される接着剤(グルー)の成分は シアノアクリレート,アクリルあるいはウレタン樹脂, カーボンブラックであり,このうち接触皮膚炎の主な原 因物質はシアノアクリレートであり,これは,家庭用, 工業用,医療用に汎用されている瞬間接着剤と同類の物 質である。上田らは,まつ毛エクステンション専門店に 使用を避けたところ症状の再燃がないとのことであっ た。 まつ毛のエクステンションの臨床症状は,施術の度に 繰り返し誘発される眼瞼炎である。通常は,まつ毛の基 部から数 mm 遠位に人工毛を接着するものであるため, 皮膚や粘膜への接着剤付着は避けられるが,施術時に皮 膚に接着剤が付着すると感作が起こる。まつ毛エクステ ンションにより眼瞼炎を繰り返す患者には接触皮膚炎の 可能性を考慮し,パッチテストを行うことが勧められる。 3–1–5. 口唇:口紅によるアレルギー性接触皮膚炎 成人女性は口紅をほぼ毎日使用する。口紅は主に油 性基剤と着色料により構成され,外気温による変形が なく,唇に塗布した際には速やかに溶けるよう作られ ている。近年は,天然系の油性基剤に代わり合成油分が 開発され,特に合成分枝脂肪酸エステルは天然油性基剤 であるヒマシ油の代替原料として開発され,ヒマシ油に 比べ感作性が弱く現在最も汎用されている油性成分であ る19, 20)。このうち,イソステアリン酸グリセリルはモノ イソステアリン酸グリセリル,ジイソステアリン酸グリ セリル,トリイソステアリン酸グリセリルの3 種の物質 を含んでおり,後者の2 成分が主な構成成分である21)。 イソステアリン酸グリセリルによる接触皮膚炎は,1987 年に Hayakawa らが第1 例を報告22)した後,現在までに も複数例報告23–26)がある。それらの報告では,精製モ ノイソステアリン酸グリセリルのパッチテスト陽性濃 度は0.005∼0.15%pet. と,ジイソステアリン酸グリセリ ル,トリイソステアリン酸グリセリルに比較して低濃度 で強陽性を示している23, 25, 27)ことから,モノイソステア リン酸グリセリルは強感作物質であることが考えられて いる24)。また,同様に,ヒマシ油の代替原料として開発 された合成分枝脂肪酸エステルの一つで,イソステアリ ルアルコールとリンゴ酸のジエステルであるリンゴ酸ジ イソステアリルもリップケア製品によるアレルギー性接 触皮膚炎の原因成分として報告されており,本成分は 2002 年に杉浦らが報告28)している。本症例も皮疹部位 は口唇にみられ,原因製品はリップケア製品であった。 このほかにも,(ヘキシルデカン酸/セバシン酸)ジグリ セリルオリゴエステル29),トリイソステアリン酸ポリグ リセリルなどの症例も報告されている。 難治性の口唇炎を繰り返す患者は少なくなく,口唇自 体や口唇の周囲に炎症を繰り返し,乾燥や湿疹,亀裂 を生じる。口唇に炎症が起こる原因として,外的環境 (気温,湿度,紫外線),化学的刺激(口紅,歯磨き粉な ど),物理的刺激(喫煙,食事など),体調などが挙げら れる30)。多くは刺激性皮膚炎だが,症例の中には口紅成
分によるアレルギー性接触皮膚炎症例があり,炎症を繰 り返す場合はパッチテストを行うことが勧められる。 口紅によるアレルギー性接触皮膚炎は,使用者数,頻 度を考えるとその症例数は少ないが,難治性口唇炎に対 し漫然と外用薬などを処方するのではなく,上記の成分 などを念頭に検査を行い根治を目指したい。 3–1–6. 爪:ジェルネイルなどネイル関連試薬によるア レルギー性接触皮膚炎 近年,“爪のおしゃれ”のため普及していてきたジェ ルネイルでも爪周囲などに湿疹を誘発する事例がある。 ネイルサロンの普及で施術者や顧客が増加し,さらに 自宅でも簡便に施術が行えるため,ジェルネイルで使用 する化学物質による皮膚障害事例が報告されるように なった(Fig. 7)。そして,同類の化学物質を使用する歯 科領域でも,同様の皮膚障害が発生している31)。 人 工 爪 に は3 タ イ プ が あ り,1) ethyl methacrylate (EMA)を主成分とするアクリリックネイル,2)ジェル 状のアクリル樹脂を塗布後,UVA(ultraviolet A)を照射 し硬化させるジェルネイル,3)シアノアクリレート系 接着剤を用い自爪に貼りつけるネイルチップがあるが, 特に,2)のジェルネイルではアクリル樹脂である2-hy-droxyethyl methacrylate(2-HEMA)が頻用されており,ア レルギー性接触皮膚炎の原因成分として知られている。 樹脂に関連するアレルギー性接触皮膚炎の場合,未重合 のアクリルモノマーや残留モノマー(methyl methacry-late(MMA),ethyleneglycol dimethacrylate(EGDMA))が 感作源となるため,ジェルネイルの顧客と同時に,アク リル樹脂を使用する歯科医療従事者やネイリストなども 感作される可能性があるため注意が必要である。 ネイル領域において,ベルギーの Constandt ら32)は, 2-HEMA と ethylcyanoacrylate でほぼ全例をスクリーニ ングできるとし,Goon らは2-HEMA, EGDMA, triethyl-eneglycol dimethacrylate(TREGDMA)の 貼 付 を 勧 め て いる33)。生野は,自宅で LED ライトを使用し両手に
ジェルネイルを施行し,両手指の爪囲や爪下にびらん などを生じた30 歳代の女性例にパッチテストを実施し, 2-HEMA, EGDMA, MMA やジェルネイルに陽性反応を 呈した症例を報告している31)。自宅で安価に行うジェル ネイル使用者に対する啓発活動は今後も必要である。 3–2. 脱色素斑:美白化粧品による脱色素斑 近年,美白成分を含有した化粧品の使用者に生じた 脱色素斑が社会的な問題となった1–3)。この脱色素斑は, ロドデノール含有化粧品使用後に発症し,主として使用 部位である顔面,頸部,前腕,手背,手指の間の水かき 部位に白斑病変を生じた(Fig. 3, 8)。初期は点状の脱色 素斑で始まるが,徐々に融合し完全脱色素斑や不完全脱 色素斑を呈するという特徴があった34)。当該化粧品の使 用者は約80 万人とされ,脱色素斑を発症した症例は約2 万人(製造販売業者発表),発症率は約2% とされる。 脱色素斑の原因物質であるロドデノールは,一般名 称を4-(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノールというフェ ノール誘導体の一種で,チロシナーゼ活性抑制,チロシ ナーゼ分解,ユーメラニン生成抑制として作用する物質 であり,チロシナーゼと結合することによってロドデ ノール代謝物が生成され,この代謝物が過剰に生成する ことによりメラノサイト細胞傷害を生じることが明らか にされている35–45)。 脱色素斑は,当該化粧品の使用中止や各種外用薬,紫 外線治療により徐々に色素再生が見られることが多いこ とが明らかにされている。しかしながら,現在も脱色素 斑に苦慮している消費者も存在し,また,臨床症状から 尋常性白斑との鑑別が困難な症例,当該化粧品を使用し た消費者の2% のみが脱色素斑を生じたと推計されるこ とから,今後も,患者の遺伝的背景との関連性に関する 研究や治療法の確立,そして,より安全な化粧品の開発 が望まれる。 われわれは本事例から,安全性を確認し開発されたス キンケア製品や化粧品であっても思わぬ皮膚障害(脱色 素斑等)を起こす可能性があることを学んだ。 3–3. 経皮感作食物アレルギー:石鹸に含まれた加水分 解コムギによる経皮ないし経粘膜感作小麦アレル ギー(即時型アレルギー) 2011 年頃より,本邦では,加水分解コムギ末を含有 した石鹸使用者において,パンや麺類などの小麦製品摂 取後に全身性の即時型アレルギー発症者が大規模に生じ 社会問題となった4–7)。加水分解コムギ末は,天然の小 麦(グルテン)を酸やアルカリ,酵素などにより加水分 解して作られたものであり,化粧品に添加すると高い保 湿性を発揮することから広く利用されてきた。問題と なった石鹸には“グルパール19S”という商品名の原料 が含有されており,当該石鹸を用いて洗顔を行うことに より加水分解コムギ末による経皮もしくは経粘膜感作を 生じ,特異 IgE 抗体が体内に産生され,グルパール19S が再び皮膚に接触することで接触蕁麻疹を(Fig. 9),あ るいは小麦製品の摂取後に蕁麻疹やアナフィラキシーが 誘発された(Fig. 4)と考えられている。本邦で患者が急 増した理由としては,魅力的な広告により当該石鹸の購 入者が非常に多かったこと,また,それらの使用者が継 続的に使用を続けたこと,また,洗顔石鹸という用途で 使用したため湿潤状態で皮膚や眼や鼻の粘膜にアレルゲ ンが付着したこと,石鹸の主成分である界面活性剤が皮 膚のバリア機能を障害しアレルゲンが吸収されやすくし たこと,などが大規模な皮膚障害事例に至った要因と推 察されている。この加水分解コムギ末含有石鹸使用者に よる小麦アレルギーの特徴的な症状は,“著しい眼瞼腫 脹”であり,同時に全身蕁麻疹,呼吸困難,アナフィラ キシーショックが誘発された症例が少なくなかった。な お,グルパール19S は,グルテンを塩酸と高熱で加水分
解することで脱アミド化が起こり抗原性を獲得したと考 えられている。予後としては,当該石鹸の使用を中止し たところ,多くの症例は小麦摂取が可能となり,本事例 はほぼ収束している。本疾患患者525 例と日本人一般集 団3,244 名から得られた遺伝子型情報を使用したゲノム 解析が行われた結果,6 番染色体短腕の HLA-DQ 領域と 16 番染色体の RBFOX1 領域を示す領域が同定され,病 気のなりやすさ,なりにくさにかかわる遺伝子が存在す ることが見いだされた46)。 複数例が発症した化粧品による経皮感作食物アレル くは熱湯を含んだエタノールで抽出して得られたものが 『コチニール色素』であり,色素の主成分は『カルミン 酸』である。着色料として食品,医薬品,化粧品,染色 用染料として広く用いられている。同様の色素に『カル ミン』(カルミン酸のアルミニウムレーキ化合物または アルミニウム・カルシウムレーキ化合物)があるが本邦 では食品への使用は許可されていない(諸外国では可)。 これまで本邦でのコチニール色素を含有した食品を摂取 した後にアナフィラキシーショックなど重篤な即時型ア レルギー反応が誘発された症例は化粧を施す世代の女性 (20∼50 歳代)に限られていたことから,その発症機序 としては,口紅や頬紅などの化粧品に含まれた本色素が 経皮的に感作し,食品として摂取した赤いジュース,マ カロン,赤いウインナーなどに含まれるコチニール色素 により即時型アレルギー反応が誘発されたと推察されて いる。また,本疾患の特徴として,それらの食品摂取後 に誘発された症状が蕁麻疹に限らず呼吸困難,顔面腫 脹,血圧低下など比較的重篤であったことが挙げられ る。また,コチニール色素の抗原としては,①コチニー ル色素に含まれる39∼45 kDa のタンパク質に特異的な IgE 抗体が関与している可能性が高い,②蜂抗原のホス ホリパーゼ類と相同性の高い,③コチニールカイガラ虫 に含まれる38 kDa のタンパク質(CC38K)が主抗原であ る,などが報告されている。またタンパク質を除去した 精製カルミン酸でも好塩基球細胞を用いた in vitro の実 験でヒスタミン遊離が誘発された30)との報告もある。 加水分解コムギ末やコチニール色素のような経皮経粘 膜感作による食物アレルギーでは,症状が誘発された食 物アレルギーのみに注目していては原因を同定したり適 切な生活指導を行うことができない。よって,われわれ は日用品や化粧品によってこのような発症機序の食物ア レルギーが誘発されることを認識したうえで診療にあた る必要がある。同時に,タンパク質成分を含有する化粧 品を開発する際には,製品を皮膚に頻回に塗布すること により,このような予期しない経皮感作を起こす可能性 があることに留意して開発する必要があることを忘れて はならない。 4. 検査(PT(成分パッチテスト),SPT(化粧品関連), ROAT) アレルギー性接触皮膚炎の診断に最も有用な検査法は パッチテストである(Fig. 10)。パッチテストにより原 因となる接触アレルゲンを明らかにすることで難治性・ 再発性のかぶれ(アレルギー性接触皮膚炎)の根治が可 能となる。洗浄剤,シャンプー,石鹸,洗顔料は1% 水 Fig. 8. ロドデノール含有化粧品塗布部位における脱色素 斑.頬から頚部にかけて脱色素斑を認める.当該 製品の使用を中止し,外用薬などを塗布したとこ ろ症状は改善した. Fig. 9. 加水分解コムギ含有石鹸使用後のアレルギー性接 触蕁麻疹.石鹸使用直後に発赤,痒みが誘発され ている.症状は15 分∼30 分程度で消退する. Fig. 7. ジェルネイルによる爪周囲の湿疹病変.爪周囲に 皮膚の落屑,赤みを伴う炎症を認める.
溶液で閉鎖貼布し,染毛剤,パーマ液,脱毛クリーム, 揮発性の製品は as is でオープンテストを行う(Fig. 11)。 化粧品による製品が陽性となった場合(Fig. 12)は成分 パッチテストに進み,原因成分を確認することが患者自 身にとって重要であり,また製品を開発した企業にとっ ても大切ではないかと考える。しかしながら,成分パッ チテストは各成分の調整などが簡単ではなく,すべての 成分で陰性となることが少なくない。そのため,化粧品 製品で陽性反応を得た後は,製品を用いた連続塗布試 験(Repeated open application test; ROAT)を行うことが勧 Fig. 11. オープンテスト.ジェルネイルやヘアカラー剤は
オープンテストを行う.
Fig. 12. パッチテスト判定(72 時間後).(国際接触皮膚
炎研究班:ICDRG 判定)ICDRG 基準において72 時間時に+以上の反応を陽性と判断する.
Fig. 13. 連続塗布試験(Repeated open application test: ROAT).
パッチテストで陽性となった化粧品を毎日2 回 肘に塗布する.
Fig. 10. パッチテストユニット.左)健常な背部や上腕伸側に試薬を載せたパッチテストユニットを48 時間貼布する.右)ICDRG
基準で判定する (International contact dermatitis research group: ICDRG).
められる。これは,アレルギー性接触皮膚炎の原因と推 察される製品を1 日2 回,肘に近い部位に塗布する試験 法である。毎日塗布していき,発赤,痒みなどが生じた 場合は陽性と判断し塗布を終了,症状が誘発されなくて も7 日間は塗布を継続する(Fig. 13)。肘で反応が誘発さ れない場合は,部位差が懸念されるため使用部位(顔面 など)で再度塗布する。ROAT で陽性反応が得られた後 に,患者の意向を確認し,企業に成分提供を依頼すると よいと考える。 また,経皮感作食物アレルギーのような即時型アレ ルギーの場合はプリックテスト(SPT; Skin Prick Test)を 行う(Fig. 14)。プリックテストもパッチテストと同様, 製品や原料などの濃度調製を正しく行う必要がある。
5. 皮膚障害症例情報収集ネットワーク(SSCI-Net; Skin
Safety Case Information Network)
スキンケア製品や化粧品による接触皮膚炎を含めた皮 膚障害事例の発生は後を絶たない。前述した如く,本邦 では加水分解コムギ末による小麦アレルギーやロドデ ノール誘発性脱色素斑事例が社会的に問題となったこと もあり,日本各地で発生した皮膚障害事例の情報を迅速 に共有し,早期に事態を収束させる情報共有システムの 確立が急務とされてきた。これらを背景に,2016 年4 月 に“一般社団法人 SSCI-Net”(http://info.sscinet.or.jp/)(理 事長:藤田医科大学医学部アレルギー疾患対策医療学 教授 松永佳世子)が設立され,皮膚障害事例が医師か らウエブサイトもしくは紙媒体により登録され,その情 報が迅速に行政や企業に届き,行政,企業,医療者が相 互で情報を共有できるようになった(Fig. 15)。SSCI-Net では,毎月ニュースレターを発行し,収集事例数や今問 題となっている事例や成分についての情報を公表してい る。より多くの医療従事者,製造販売企業が SSCI-Net を活用し,本邦における皮膚障害事例を未然に防ぐ一助 になることを期待したい。また,本ネットワークでは, 医師より依頼があれば成分パッチテストの実施のサポー トをしている(企業への連絡,成分試薬の調製方法の確 定など)ので,成分パッチテストに苦慮されている医師 は SSCI-Net にご依頼されたい。 6. さ い ご に 本稿では,香粧品の皮膚トラブルの見分け方をテーマ に,部位別,原因別にさまざまな物質による皮膚トラブ ル事例を挙げた。 以前から報告があり,原因成分が明らかにされている が症例の発生が続いている皮膚障害もあれば,消費者の ニーズにより新たに開発され,予期しない皮膚障害事例 が発生したり,と化粧品の皮膚トラブルはこれからもな くなることはないのではないだろうか。 よって,消費者への適正使用の啓発活動や皮膚トラ ブルを予測した製品開発などが企業には求められ,そし て,われわれ医療者は,さまざまな症例を念頭に,もし かして,と思う洞察力をもって診療にあたりたい。 Fig. 15. SSCI-Net の仕組み.患者(化粧品使用者)・皮膚科医と行政,企業を繋ぎ,皮膚障害事例を最小化することを目指して いる.
謝 辞 本原稿を作成するにあたり,ご協力くださいました, 藤田医科大学ばんたね病院総合アレルギー科 鈴木加余 子先生,SSCI-Net 事務局長 杉山真理子先生に深謝い たします。 参 考 文 献 1) 塩見真理子,青山裕美,岩月啓氏:ロドデノール誘発性 脱色素斑 Rhododenol induced-leukoderma の臨床.皮膚 病診療,36: 590–595, 2014. 2) 青山裕美,伊藤明子,鈴木加余子,鈴木民夫,種村 篤,錦織千佳子,伊藤雅章,片山一朗,杉浦伸一,松永 佳世子,日本皮膚科学会 ロドデノール含有化粧品の 安全性に関する特別委員会:ロドデノール誘発性脱色素 斑症例における一次全国疫学調査結果:日皮会誌,124: 2095–2109, 2014. 3) 錦織千佳子,青山裕美,伊藤明子,鈴木加余子,鈴木民 夫,種村 篤,伊藤雅章,片山一朗,大磯直毅,篭橋雄 二,杉浦伸一,深井和吉,船坂陽子,山下利春,松永佳 世子:ロドデノール誘発性脱色素斑医療者(皮膚科医) 向けの診療の手引き.日皮会誌,124: 285–303, 2014. 4) Fukutomi, Y., Itagaki, Y., Taniguchi, M., Saito, A., Yasueda,
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