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『経営と制度』第 15 号 2017年 3月 15-42頁
【論文】
実現ボラティリティとその周辺
小池 祐太 *
*
首都大学東京 大学院社会科学研究科 経営学専攻 助教、統計数理研究所 外来研究員、CREST JSTAbstract
This article surveys recent studies on the realized volatility, which have been extremely developed in the past two decades. Some related functions implemented in the R package yuima are briefly presented as well.
概要
本稿では, ここ 20 年ほどの間に急速に進歩した実現ボラティリティと呼ばれる統計量 に関する研究について, 最近の結果を概観する.また, R 言語のパッケージの 1 つである yuima パッケージの関連機能についても簡単に触れる.
実現ボラティリティとその周辺
小池 祐太
123
Abstaract
This article surveys recent studies on the realized volatility, which have been extremely developed in the past two decades. Some related functions implemented in the R package yuima are briefly presented as well.
概要
本稿では, ここ
20
年ほどの間に急速に進歩した実現ボラティリティと呼ばれる統計量 に関する研究について, 最近の結果を概観する. また,R
言語のパッケージの1
つであるyuima
パッケージの関連機能についても簡単に触れる.1
実現ボラティリティB = (Ω, F , F = ( F
t)
t∈[0,1], P )
を確率基底とする. 金融資産の日内の(対数)
価格過程X = (X
t)
t∈[0,1]が,確率微分方程式dX
t= µ
tdt + σ
tdW
t(1)
で与えられるとする. ここに,
µ
t, σ
tはc`adl`ag
なF-適合過程, W
tはB
上の標準Wiener
過 程である. このとき,X
の2
次変動IV =
∫
1 0σ
2sds
は累積ボラティリティ(integrated volatility, IV)あるいは累積分散
(integrated variance)
と 呼ばれ,X
の日次のボラティリティを表す指標の1
つと考えられている. ボラティリティ の重要性は古くから認識されているため(例えば [11]
参照),この量をX
の日内の観測デー タから推定することは応用上重要である. いま,X
の高頻度観測データX
t0, X
t1, . . . , X
tnが与えられているとする. ここに,
t
i= i/n
である. このとき, 次で定義される統計量RV (X)
n=
∑
ni=1
(∆
niX)
2, ∆
niX = X
ti− X
ti−11首都大学東京 社会科学研究科 経営学専攻 助教
2統計数理研究所 外来研究員
3
CREST JST
小池 祐太
― 16 ―
は実現ボラティリティ(realized volatility, RV)あるいは実現分散
(realized variance)
と呼 ばれ, IVの一致推定量となることが古典的な確率解析の理論において古くから知られて いる:RV (X)
n→
pIV (n → ∞ ).
高頻度データの枠組みで, RVを日次ボラティリティの推定量として使用することが提案さ れ始めたのは, 90年代後半の研究
Foster and Nelson [60]
およびAndersen and Bollerslev
[13, 14]
にさかのぼる. 一致性の次に興味があるのは推定量の収束レートと推定誤差の漸近分布であるが,
RV (X)
nは最適収束レートn
−1/2と漸近混合正規性をもつことが知られ ている(Jacod [86]
参照):√ n(RV (X)
n− IV ) →
ds√ 2
∫
1 0σ
4sds ζ (n → ∞). (2)
ここに,
d
sは安定収束を意味し,ζ
はF
と独立な標準正規確率変数である. 上の収束は,ま ず始めにやや強めの正則条件のもとでZhang [151]
やBarndorff-Nielsen and Shephard [28]
で論じられ,その後
Barndorff-Nielsen et al. [21]
やJacod [85, 86]
において正則条件が弱め られた.安定収束
(2)
は,σ
の非退化性の下で, スチューデント化した統計量の漸近正規性√ n(RV (X)
n− IV )
√ 2 ∫
10
σ
4sds
→
dN (0, 1) (n → ∞ ).
を意味する. 従って,漸近分散
2 ∫
10
σ
s4ds
の推定量を構成することができれば,信頼区間の推 定が行える. Barndorff-Nielsen and Shephard [28]では, 2∫
10
σ
4sds
の推定量として,realized quarticity (RQ)
と呼ばれる統計量RQ(X)
n= n
∑
ni=1
(∆
niX)
4 を導入した.RQ(X)
nは3 ∫
10
σ
s4ds
の一致推定量となるので,√ n(RV (X)
n− IV )
√
23
RQ(X)
n→
dN (0, 1) (n → ∞ ) (3)
が成り立つ.1.1 YUIMA
における関連機能YUIMA
とは,R
言語のパッケージyuima
のことを指す.yuima
をインストールするには,
R
のコンソール上でinstall.packages("yuima")
実現ボラティリティとその周辺
小池 祐太
123
Abstaract
This article surveys recent studies on the realized volatility, which have been extremely developed in the past two decades. Some related functions implemented in the R package yuima are briefly presented as well.
概要
本稿では, ここ
20
年ほどの間に急速に進歩した実現ボラティリティと呼ばれる統計量 に関する研究について, 最近の結果を概観する. また,R
言語のパッケージの1
つであるyuima
パッケージの関連機能についても簡単に触れる.1
実現ボラティリティB = (Ω, F , F = ( F
t)
t∈[0,1], P )
を確率基底とする. 金融資産の日内の(対数)
価格過程X = (X
t)
t∈[0,1]が, 確率微分方程式dX
t= µ
tdt + σ
tdW
t(1)
で与えられるとする. ここに,
µ
t, σ
tはc`adl`ag
なF-適合過程, W
tはB
上の標準Wiener
過 程である. このとき,X
の2
次変動IV =
∫
1 0σ
2sds
は累積ボラティリティ(integrated volatility, IV)あるいは累積分散
(integrated variance)
と 呼ばれ,X
の日次のボラティリティを表す指標の1
つと考えられている. ボラティリティ の重要性は古くから認識されているため(例えば [11]
参照),この量をX
の日内の観測デー タから推定することは応用上重要である. いま,X
の高頻度観測データX
t0, X
t1, . . . , X
tnが与えられているとする. ここに,
t
i= i/n
である. このとき, 次で定義される統計量RV (X)
n=
∑
ni=1
(∆
niX)
2, ∆
niX = X
ti− X
ti−11首都大学東京 社会科学研究科 経営学専攻 助教
2統計数理研究所 外来研究員
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CREST JST
実現ボラティリティとその周辺
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を実行すればよい.yuima
では,上の解析を実行するために関数mpv
が用意されている. なお,mpv
は次節 で説明するMultiPower Variation
の略である.解析を行う前に, まずデータを
yuima
オブジェクトにする必要がある. いま, 観測値x0,. . . ,xn
と対応する観測時刻t0,. . . ,tn
が与えられているとする. 上の状況ではxi = X
ti, ti = i/n
である. まず,これらをzoo
オブジェクトに変換する:z <- zoo(c(x0,...,xn),c(t0,...,tn))
zoo
オブジェクトは,時系列データのような(狭義)
増加列で順序づけられたベクトルをR
で扱うためのものである.yuima
には, zooオブジェクトをyuima
オブジェクト(正確に
はyuima data-class
のオブジェクト)に変換するための関数setData
が用意されている:x <- setData(z)
このようにして, 観測データに対応する
yuima
オブジェクトx
が得られる.次に解析に進む. RVは,
mpv(x,r=2)
で計算できる. また, RQは3*mpv(x,r=4)
で計算できる. 従って, 例えば
IV
の推定値の信頼係数1 − α
の信頼区間の下限と上限は, それぞれmpv(x,r=2)-sqrt(2*mpv(x,r=4))*qnorm(1-α/2)/sqrt(n), mpv(x,r=2)+sqrt(2*mpv(x,r=4))*qnorm(1-α/2)/sqrt(n)
で与えられる.2
ジャンプ2.1
マルチパワーバリエーションBarndorff-Nielsen and Shephard [29]
では,RQ(X)
nの一般化として, 実現パワーバリ エーション(realized power variation, RPV)
と呼ばれる統計量RP V
[r](X)
n= n
1−r2∑
ni=1
| ∆
niX |
r, r ≥ 0
を導入した. この統計量は,n → ∞
のときµ
r∫
10
|σ
s|
rds
に確率収束する. ここに,µ
rは標準 正規確率変数の絶対値のr
次モーメントである. Barndorff-Nielsen and Shephard [30]では, は実現ボラティリティ(realized volatility, RV)あるいは実現分散(realized variance)
と呼 ばれ, IVの一致推定量となることが古典的な確率解析の理論において古くから知られて いる:RV (X)
n→
pIV (n → ∞ ).
高頻度データの枠組みで, RVを日次ボラティリティの推定量として使用することが提案さ れ始めたのは, 90年代後半の研究
Foster and Nelson [60]
およびAndersen and Bollerslev
[13, 14]
にさかのぼる. 一致性の次に興味があるのは推定量の収束レートと推定誤差の漸近分布であるが,
RV (X)
nは最適収束レートn
−1/2と漸近混合正規性をもつことが知られ ている(Jacod [86]
参照):√ n(RV (X)
n− IV ) →
ds√ 2
∫
1 0σ
s4ds ζ (n → ∞ ). (2)
ここに,
d
sは安定収束を意味し,ζ
はF
と独立な標準正規確率変数である. 上の収束は,ま ず始めにやや強めの正則条件のもとで[151]
やBarndorff-Nielsen and Shephard [28]
で論 じられ, その後Barndorff-Nielsen et al. [21]
やJacod [85, 86]
において正則条件が弱めら れた.安定収束
(2)
は,σ
の非退化性の下で,スチューデント化した統計量の漸近正規性√ n(RV (X)
n− IV )
√ 2 ∫
10
σ
s4ds
→
dN (0, 1) (n → ∞).
を意味する. 従って,漸近分散
2 ∫
10
σ
4sds
の推定量を構成することができれば,信頼区間の推 定が行える. Barndorff-Nielsen and Shephard [28]では, 2∫
10
σ
4sds
の推定量として,realized quarticity (RQ)
と呼ばれる統計量RQ(X)
n= n
∑
ni=1
(∆
niX)
4 を導入した.RQ(X)
nは3 ∫
10
σ
s4ds
の一致推定量となるので,√ n(RV (X)
n− IV )
√
23
RQ(X)
n→
dN (0, 1) (n → ∞ ) (3)
が成り立つ.1.1 YUIMA
における関連機能YUIMA
とは,R
言語のパッケージyuima
のことを指す.yuima
をインストールするには,
R
のコンソール上でinstall.packages("yuima")
小池 祐太
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を実行すればよい.yuima
では,上の解析を実行するために関数mpv
が用意されている. なお,mpv
は次節 で説明するMultiPower Variation
の略である.解析を行う前に, まずデータを
yuima
オブジェクトにする必要がある. いま, 観測値x0,. . . ,xn
と対応する観測時刻t0,. . . ,tn
が与えられているとする. 上の状況ではxi = X
ti, ti = i/n
である. まず,これらをzoo
オブジェクトに変換する:z <- zoo(c(x0,...,xn),c(t0,...,tn))
zoo
オブジェクトは,時系列データのような(狭義)
増加列で順序づけられたベクトルをR
で扱うためのものである.yuima
には, zooオブジェクトをyuima
オブジェクト(正確に
はyuima data-class
のオブジェクト)に変換するための関数setData
が用意されている:x <- setData(z)
このようにして, 観測データに対応する
yuima
オブジェクトx
が得られる.次に解析に進む. RVは,
mpv(x,r=2)
で計算できる. また, RQは3*mpv(x,r=4)
で計算できる. 従って, 例えば
IV
の推定値の信頼係数1 − α
の信頼区間の下限と上限は, それぞれmpv(x,r=2)-sqrt(2*mpv(x,r=4))*qnorm(1-α/2)/sqrt(n), mpv(x,r=2)+sqrt(2*mpv(x,r=4))*qnorm(1-α/2)/sqrt(n)
で与えられる.2
ジャンプ2.1
マルチパワーバリエーションBarndorff-Nielsen and Shephard [29]
では,RQ(X)
nの一般化として, 実現パワーバリ エーション(realized power variation, RPV)
と呼ばれる統計量RP V
[r](X)
n= n
1−r2∑
ni=1
| ∆
niX |
r, r ≥ 0
を導入した. この統計量は,n → ∞
のときµ
r∫
10
| σ
s|
rds
に確率収束する. ここに,µ
rは標準 正規確率変数の絶対値のr
次モーメントである. Barndorff-Nielsen and Shephard [30]では,RPV
の更なる一般化として,実現バイパワーバリエーション(realized bipower variation, BPV)
と呼ばれる統計量BP V
[r1,r2](X)
n= n
1−r1+2r2n−1
∑
i=1
| ∆
niX |
r1| ∆
ni+1X |
r2, r
1, r
2≥ 0
を導入した. この統計量は,n → ∞
のときµ
r1µ
r2∫
10
| σ
s|
r1+r2ds
に確率収束する. 特に,BP V
[1,1](X)
nはµ
21IV
に収束する(この場合だけを特にバイパワ-バリエーションと呼ぶ
ことも多い). RVと
BPV
の違いは,X
がジャンプを伴って観測されるときに現れる. い ま, 観測データとしてX
t0, X
t1, . . . , X
tnの代わりにY
t0, Y
t1, . . . , Y
tnが与えられているとす る. ここに,Y
t= X
t+ J
t, J
t=
Nt
∑
k=1
c
k(4)
であり,
N
tは単純点過程, (ck)
k∈Nは0
でない確率変数の列である. このとき, よく知られ ているように, RVについてRV (Y )
n→
pIV +
N1
∑
k=1
c
2k(n → ∞)
が成り立つ. 一方で, BPVについては,
BP V
[1,1](X)
n→
pµ
21IV (n → ∞ )
が成り立つことを
Barndorff-Nielsen and Shephard [30]
は示した. これは,| ∆
niX | = O
p(n
−1/2)
に対して∑
ni=1
| ∆
niJ | = O
p(1)
であることに起因する. 従って,RV (Y )
n− µ
−21BP V
[1,1](Y )
nはジャンプの
2
乗の総和∑
N1k=1
c
2kの一致推定量となる. 彼らの方法が画期的なのは, ジャ ンプ部分に分布の仮定をおかず, かつチューニングパラメータを必要とせずに, ジャンプ の情報を得ることができる点であった. 彼らは更に, Barndorff-Nielsen and Shephard [31]において,
N
t≡ 0
の場合に√
n(RV (Y )
n− µ
−21BP V
[1,1](Y )
n)
に対する安定型中心極限定 理を導出することで,標本ω ∈ Ω
が与えられた際に, 帰無仮説N
1(ω) = 0
に対して対立仮 説N
1(ω) ≥ 1
を検定する手法を提案した. 具体的には,N
1= 0
と条件付けた際,適当な正 則条件の下で√ n(RV (Y )
n− µ
−12BP V
[1,1](Y )
n)
√ ϑ ∫
10
σ
4sds
−
d→ N (0, 1) (n → ∞ )
が成り立つことを利用する. ここに,
ϑ = π
2/4 + π − 5
である. 従って, ここでも問題は∫
10
σ
s4ds
の推定となる. 今の場合n1RQ(Y )
n→
p∑
N1k=1
c
4k(n → ∞ )
となってしまうので, RQ は使えない. この問題の解決策として, Barndorff-Nielsen and Shephard [30]は, BPVの更 なる一般化である実現マルチパワーバリエーション(realized multipower variation, MPV)
M P V
[r1,...,rm](Y )
n= n
1−12∑mk=1rkn−m+1
∑
i=1
| ∆
niY |
r1· · · | ∆
ni+m−1Y |
rm, r
1, . . . , r
m≥ 0
実現ボラティリティとその周辺
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RPV
の更なる一般化として,実現バイパワーバリエーション(realized bipower variation, BPV)
と呼ばれる統計量BP V
[r1,r2](X)
n= n
1−r1+2r2∑
n−1 i=1| ∆
niX |
r1| ∆
ni+1X |
r2, r
1, r
2≥ 0
を導入した. この統計量は,n → ∞
のときµ
r1µ
r2∫
10
|σ
s|
r1+r2ds
に確率収束する. 特に,BP V
[1,1](X)
nはµ
21IV
に収束する(この場合だけを特にバイパワ-バリエーションと呼ぶ
ことも多い). RVと
BPV
の違いは,X
がジャンプを伴って観測されるときに現れる. い ま, 観測データとしてX
t0, X
t1, . . . , X
tnの代わりにY
t0, Y
t1, . . . , Y
tnが与えられているとす る. ここに,Y
t= X
t+ J
t, J
t=
Nt
∑
k=1
c
k(4)
であり,
N
tは単純点過程, (ck)
k∈Nは0
でない確率変数の列である. このとき, よく知られ ているように, RVについてRV (Y )
n→
pIV +
N1
∑
k=1
c
2k(n → ∞)
が成り立つ. 一方で, BPVについては,
BP V
[1,1](X)
n→
pµ
21IV (n → ∞ )
が成り立つことを
Barndorff-Nielsen and Shephard [30]
は示した. これは,| ∆
niX | = O(n
−1/2)
に対して∑
ni=1
|∆
niJ| = O(1)
であることに起因する. 従って,RV (Y )
n− µ
−12BP V
[1,1](Y )
nはジャンプの
2
乗の総和∑
N1k=1
c
2kの一致推定量となる. 彼らの方法が画期的なのは, ジャ ンプ部分に分布の仮定をおかず, かつチューニングパラメータを必要とせずに, ジャンプ の情報を得ることができる点であった. 彼らは更に, Barndorff-Nielsen and Shephard [31]において,
N
t≡ 0
の場合に√
n(RV (Y )
n− µ
−12BP V
[1,1](Y )
n)
に対する安定型中心極限定 理を導出することで,標本ω ∈ Ω
が与えられた際に, 帰無仮説N
1(ω) = 0
に対して対立仮 説N
1(ω) ≥ 1
を検定する手法を提案した. 具体的には,N
1= 0
と条件付けた際,適当な正 則条件の下で√ n(RV (Y )
n− µ
−21BP V
[1,1](Y )
n)
√ ϑ ∫
10
σ
4sds
−
d→ N (0, 1) (n → ∞)
が成り立つことを利用する. ここに,
ϑ = π
2/4 + π − 5
である. 従って, ここでも問題は∫
10
σ
s4ds
の推定となる. 今の場合n1RQ(Y )
n→
p∑
N1k=1
c
4k(n → ∞ )
となってしまうので, RQ は使えない. この問題の解決策として, Barndorff-Nielsen and Shephard [30]は, BPVの更 なる一般化である実現マルチパワーバリエーション(realized multipower variation, MPV)
M P V
[r1,...,rm](Y )
n= n
1−12∑mk=1rkn−
∑
m+1i=1
| ∆
niY |
r1· · · | ∆
ni+m−1Y |
rm, r
1, . . . , r
m≥ 0
を導入した. max{r1
, . . . r
m} < 2
ならば,M P V
[r1,...,rm](Y )
n→
pµ
r1· · · µ
rm∫
10
| σ
s|
r1+···+rmds (n → ∞ )
が証明できる. 従って,例えばM P V
[1,1,1,1](Y )
n→
pµ
41∫
10
σ
4sds
が成り立つから,帰無仮説 の下で検定統計量T
n=
√ n(RV (Y )
n− µ
−12BP V (Y )
n)
√ ϑµ
−14M P V
[1,1,1,1](Y )
nは漸近的に標準正規分布に従い,対立仮説の下では正の無限大に発散する. よって,有意水 準を
α
とすると,z
αを標準正規分布の上側100α%点として, T
n> z
αならば帰無仮説が棄 却されることになる. この検定統計量は非常に簡便なため, 数多くの実証研究がある. 例 えばHuang and Tauchen [81]
参照.このような応用を背景として, MPVに対する極限定理の研究が盛んに行われてきた.
Barndorff-Nielsen et al. [21]
では,連続セミマルチンゲールのBPV
に対する極限定理が詳 しく述べられている. Infinite activity jumpを持つセミマルチンゲールのMPV
に対する 極限定理については, Barndorff-Nielsen et al. [22], Woerner [148], Jacod [85]およびVetter
[145]
等で研究されている. また,ジャンプ部分の推定という観点からは,極限にジャンプが残る場合の極限定理も重要である. そのような研究は
Jacod [85]
およびVeraart [143]
等で なされている. この場合,漸近分布が混合正規分布とはならない場合が生じる(Vetter [145]
で与えられた極限定理でもそのような状況が起こる). A¨ıt-Sahalia and Jacod [5]では,こ の結果を用いて上述の
Barndorff-Nielsen & Shephard
検定より精密なジャンプの有無の検 定手法を提案した. 一方で, MPVはRPV
に比べて有効性の面で劣るため, その点を改善 する試みも多くなされている. Andersen et al. [18]ではMinRV
とMedRV
というIV
の推 定量が提案されている. MedRVの長所は, (有限個の)ジャンプの存在下でも漸近混合正規 性をもち(BPV
はこの性質を必ずしももたない; Vetter [145]参照), かつ同じ性質をもつM P V
[23,23,23](Y )
nよりも小さい漸近分散をもつことである. これらの推定量はChristensen et al. [44]
においてquantile-based realized variance (QRV)
へと一般化され, 対応する極 限定理が整備された. Christensen and Podolskij [47]はrealized range-based multipower
variation
という統計量を導入し,その有効性について論じている. Nagata [123]はリターンの絶対値に基づく
IV
の推定量(two-step realized volatility)
を提案して, BPVよりも有効性 の面で優れていることを示している. Mykland et al. [121]はblocked multipower variation
という統計量について論じている.2.2
閾値法前節で説明したマルチパワー法とは別に, ボラティリティの推定の際にジャンプの影響 を除去する方法としてよく知られているものに, 閾値法というものがある. この方法は,
Mancini [113]
とShimizu [137]
によって独立に導入された. アイディアは次のようなものである. いま,
n
が十分大きければ|∆
niX|
に比べて|∆
niJ |
ははるかに大きいので, 区間[(i − 1)/n, i/n]
においてY
がジャンプしているならば,| ∆
niY |
は大きな値をとるはずであ小池 祐太
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を導入した. max{ r
1, . . . r
m} < 2
ならば,M P V
[r1,...,rm](Y )
n→
pµ
r1· · · µ
rm∫
10
| σ
s|
r1+···+rmds (n → ∞ )
が証明できる. 従って,例えばM P V
[1,1,1,1](Y )
n→
pµ
41∫
10
σ
4sds
が成り立つから,帰無仮説 の下で検定統計量T
n=
√ n(RV (Y )
n− µ
−21BP V (Y )
n)
√ ϑµ
−41M P V
[1,1,1,1](Y )
nは漸近的に標準正規分布に従い,対立仮説の下では正の無限大に発散する. よって,有意水 準を
α
とすると,z
αを標準正規分布の上側100α%点として, T
n> z
αならば帰無仮説が棄 却されることになる. この検定統計量は非常に簡便なため, 数多くの実証研究がある. 例 えばHuang and Tauchen [81]
参照.このような応用を背景として, MPVに対する極限定理の研究が盛んに行われてきた.
Barndorff-Nielsen et al. [21]
では,連続セミマルチンゲールのBPV
に対する極限定理が詳 しく述べられている. Infinite activity jumpを持つセミマルチンゲールのMPV
に対する 極限定理については, Barndorff-Nielsen et al. [22], Woerner [148], Jacod [85]およびVetter
[145]
等で研究されている. また,ジャンプ部分の推定という観点からは,極限にジャンプが残る場合の極限定理も重要である. そのような研究は
Jacod [85]
およびVeraart [143]
等で なされている. この場合,漸近分布が混合正規分布とはならない場合が生じる(Vetter [145]
で与えられた極限定理でもそのような状況が起こる). A¨ıt-Sahalia and Jacod [5]では,こ の結果を用いて上述の
Barndorff-Nielsen & Shephard
検定より精密なジャンプの有無の検 定手法を提案した. 一方で, MPVはRPV
に比べて有効性の面で劣るため, その点を改善 する試みも多くなされている. Andersen et al. [18]ではMinRV
とMedRV
というIV
の推 定量が提案されている. MedRVの長所は, (有限個の)ジャンプの存在下でも漸近混合正規 性をもち(BPV
はこの性質を必ずしももたない; Vetter [145]参照), かつ同じ性質をもつM P V
[23,23,23](Y )
nよりも小さい漸近分散をもつことである. これらの推定量はChristensen et al. [44]
においてquantile-based realized variance (QRV)
へと一般化され, 対応する極 限定理が整備された. Christensen and Podolskij [47]はrealized range-based multipower
variation
という統計量を導入し,その有効性について論じている. Nagata [123]はリターンの絶対値に基づく
IV
の推定量(two-step realized volatility)
を提案して, BPVよりも有効性 の面で優れていることを示している. Mykland et al. [121]はblocked multipower variation
という統計量について論じている.2.2
閾値法前節で説明したマルチパワー法とは別に, ボラティリティの推定の際にジャンプの影響 を除去する方法としてよく知られているものに, 閾値法というものがある. この方法は,
Mancini [113]
とShimizu [137]
によって独立に導入された. アイディアは次のようなものである. いま,
n
が十分大きければ| ∆
niX |
に比べて| ∆
niJ |
ははるかに大きいので, 区間[(i − 1)/n, i/n]
においてY
がジャンプしているならば,|∆
niY |
は大きな値をとるはずであ る. そこで, ある正の閾値ρ
nを定めて, (∆niY )
2> ρ
nとなるようなi
はジャンプを含むと して取り除くことにする. そのようなi
は有限個となるはずだから,漸近的には推定量に 影響を与えないはずである. よって,統計量T RV (Y )
n=
∑
ni=1
(∆
niY )
21
{(∆niY)2≤ρn}(5)
は
IV
の一致推定量となることが期待される. 統計量(5)は閾値実現ボラティリティ(threshold realized volatility, TRV)
と呼ばれる. 連続局所マルチンゲールのBrown
運動による表現定理と
Brown
運動の連続率に関するL´evy
の定理から,確率1
でlim sup
δ→+0
sup
s,u∈[0,1]
|s−u|≤δ
|X
s− X
u|
√
2δ log
1δ≤ sup
0≤s≤1
| σ
s|
が成り立つので, 上の議論はρ
n→ 0, n
−1log n
ρ
n→ 0 (n → ∞) (6)
ならば正当化される. 更にこの場合,
T RV (Y )
nは漸近混合正規性をもち,収束レートn
−1/2 および漸近分散2 ∫
10
σ
s4ds
をもつことが容易に示せる. 従って, 有効性の面で閾値法はマ ルチパワー法より優れている. 閾値法の最大の問題点は, 閾値パラメータρ
nの選択の難 しさにある. 漸近的にはρ
nは条件(6)
さえ満たせば何でもよいはずだが,現実の有限標本 の状況では,T RV (Y )
nの推定精度はρ
nの選択のよしあしに大きく左右されることが知ら れている. そのため, 閾値選択の問題は多くの文献で研究されているが(Shimizu [139]
と その参考文献参照), 現在のところ標準的な方法は定まっていない. なお, TRVはinfinite
activity jump
をもつセミマルチンゲールに対しても, 適当な正則条件の下でIV
の一致推定量になり, かつ漸近混合正規性をもつ
(Jacod [85]
参照).閾値法はボラティリティ推定以外にも多くの応用がある. セミマルチンゲールのパスの離 散観測データからその構造を調べる手法への応用として, A¨ıt-Sahalia and Jacod [6]と
Cont and Mancini [49]
は連続マルチンゲール部分が0
か否かの検定へ, A¨ıt-Sahalia and Jacod[7]
とCont and Mancini [49]
はジャンプ部分が有界変動をもつか否かの検定へ, Jacod andTodorov [91]
はボラティリティのパスとセミマルチンゲール自身のパスが同時にジャンプしているか否かへの検定へと,それぞれ応用している. また, A¨ıt-Sahalia and Jacod [4]お よび
Jing et al. [93]
はいわゆるBlumenthal-Getoor
指数の推定量を構成するために閾値法 を用いている. 一方で, Corsi et al. [50]は, ジャンプが存在する際のBPV
の推定精度を改 善するために,threshold bipower variation (およびその一般化である threshold multipower
variation)
という統計量を提案している.2.3
その他の関連する話題Lee and Mykland [107]
は, BPVと極値理論を応用して, 局所的なジャンプの存在を調べるノンパラメトリック検定を提案した. Kinnebrock and Podolskij [98]は, RPVや
BPV
実現ボラティリティとその周辺
― 21 ―
る. そこで, ある正の閾値
ρ
nを定めて, (∆niY )
2> ρ
nとなるようなi
はジャンプを含むと して取り除くことにする. そのようなi
は有限個となるはずだから,漸近的には推定量に 影響を与えないはずである. よって,統計量T RV (Y )
n=
∑
ni=1
(∆
niY )
21
{(∆niY)2≤ρn}(5)
はIV
の一致推定量となることが期待される. 統計量(5)は閾値実現ボラティリティ(threshold realized volatility, TRV)
と呼ばれる. 連続局所マルチンゲールのBrown
運動による表現定理と
Brown
運動の連続率に関するL´evy
の定理から,lim sup
δ→+0
sup
s,u∈[0,1]
|s−u|≤δ
| X
s− X
u|
√
2δ log
1δ≤ sup
0≤s≤1
| σ
s|
が成り立つので, 上の議論はρ
n→ 0, n
−1log n
ρ
n→ 0 (n → ∞) (6)
ならば正当化される. 更にこの場合,
T RV (Y )
nは漸近混合正規性をもち,収束レートn
−1/2 および漸近分散2 ∫
10
σ
s4ds
をもつことが容易に示せる. 従って, 有効性の面で閾値法はマ ルチパワー法より優れている. 閾値法の最大の問題点は, 閾値パラメータρ
nの選択の難 しさにある. 漸近的にはρ
nは条件(6)
さえ満たせば何でもよいはずだが,現実の有限標本 の状況では,T RV (Y )
nの推定精度はρ
nの選択のよしあしに大きく左右されることが知ら れている. そのため, 閾値選択の問題は多くの文献で研究されているが(Shimizu [139]
と その参考文献参照), 現在のところ標準的な方法は定まっていない. なお, TRVはinfinite
activity jump
をもつセミマルチンゲールに対しても, 適当な正則条件の下でIV
の一致推定量になり, かつ漸近混合正規性をもつ
(Jacod [85]
参照).閾値法はボラティリティ推定以外にも多くの応用がある. セミマルチンゲールのパスの離 散観測データからその構造を調べる手法への応用として, A¨ıt-Sahalia and Jacod [6]と
Cont and Mancini [49]
は連続マルチンゲール部分が0
か否かの検定へ, A¨ıt-Sahalia and Jacod[7]
とCont and Mancini [49]
はジャンプ部分が有界変動をもつか否かの検定へ, Jacod andTodorov [91]
はボラティリティのパスとセミマルチンゲール自身のパスが同時にジャンプしているか否かへの検定へと,それぞれ応用している. また, A¨ıt-Sahalia and Jacod [4]お よび
Jing et al. [93]
はいわゆるBlumenthal-Getoor
指数の推定量を構成するために閾値法 を用いている. 一方で, Corsi et al. [50]は, ジャンプが存在する際のBPV
の推定精度を改 善するために,threshold bipower variation (およびその一般化である threshold multipower
variation)
という統計量を提案している.2.3
その他の関連する話題Lee and Mykland [107]
は, BPVと極値理論を応用して, 局所的なジャンプの存在を調べるノンパラメトリック検定を提案した. Kinnebrock and Podolskij [98]は, RPVや
BPV
においてべき関数x → | x |
rをより一般の関数に取り換えた場合の中心極限定理について 論じている. Barndorff-Nielsen et al. [24]は, 定常増分をもつGauss
過程のRPV
に対する 極限定理について論じている. Todorov and Tauchen [140]は実現Laplace
変換(realized Laplace transform)
という統計量を導入し, ジャンプの存在下でもσ
tのパスのLaplace
変 換の一致推定量となることを示し, かつ漸近混合正規性も示した.マルチパワー法の概説としては
[33]
および[118]
がある. 閾値法の概説には[138]
があ る. 数学的内容は, [129]に概説が, [90]に詳細がまとめられている.2.4 YUIMA
における関連機能前節で少し触れたように,
yuima
にはMPV
を計算するための関数mpv
が用意されてい る. 確率過程Y
tの離散観測データに対応するyuima
オブジェクトy
が与えられていると する. このとき, 正規化されたMPV: µ
−1r1· · · µ
−1rmM P V
[r1,...,rm](Y )
nはmpv(y,r=c(r
1,...,r
m))
で計算できる. 正規化されてない
MPV
を計算したい場合は,引数normalize
をFALSE
に すればよい(予定):
mpv(y,r=c(r
1,...,r
m),normalize=FALSE)
モデル
(4)
において, 帰無仮説N
1(ω) = 0
に対して対立仮説N
1(ω) ≥ 1
を検定するBarndorff-Nielsen & Shephard
検定は, 関数bns.test
で実行できる:bns.test(y)
検定結果は
“htest”
クラスのオブジェクト1
つからなるlist
オブジェクトとして返され,“htest”
クラスのオブジェクトには検定統計量T
nの計算結果statistic
と検定のp
値(標
準正規確率変数が値T
nを超える確率)p.value
が含まれる.TRV
を計算するには,関数cce
が利用できる(予定).
閾値パラメータρ
nに対するTRV
はcce(y,method="THY",threshold=ρ
n)$covmat
で計算できる
(cce
やTHY
が何の略語か気になる方は, 次節を参照).yuima
では, TRVの 計算に時間変動する閾値を使用することもできる. このような閾値の有用性はCorsi et al.
[50]
やMancini and Ren`o [115]
で指摘されている. 具体的には, 推定量(5)
を次のように 変更する:T RV (Y )
n=
∑
ni=1
(∆
niY )
21
{(∆niY)2≤ρin}.
ここに, (ρin
)
ni=1は時間変動する閾値(閾値過程)
である. 閾値過程(ρ
in)
ni=1に対するTRV
はcce(y,method="THY",threshold=list(c(ρ
1n,...,ρ
nn)))$covmat
で計算できる.