順社会的行動の分類
その他のタイトル Taxonomy of prosocial behavior
著者 高木 修
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 18
号 2
ページ 67‑114
発行年 1987‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/00022707
順 社 会 的 行 動 の 分 類
高 木 修
Taxonomy of prosocial behavior Takagi Osamu
Abstract
To make the taxonomy play important role in experiment and theoretical formulation, the present research was designed to develop a taxonomy of kinds of prosocial behavior. After the brief review of prosocial behavior and its research, the results of three classification studies were reported. ln the first study, a great number of helping episodes were gathered from the sample population with wide range of age. Subjects were asked to judge the degree of similarity between a pair of episodes. The cluster analysis used that judgement" data and obtained 9 clusters of prosocial behavior. Iri the second study, subjects were asked to rate the extent of which each of 41 episodes has 12 behavioral features. The factor analysis used that rating data and derived 6 behavior patterns(factors). In the third study, subjects were asked to evaluate cach of 41 episodes in t̲erms of behavioral costs. That evaluation date was used for the factor analysis and 6 patterns of prosocial behavior were produced. There appears to be a high degree of over‑ lap among cluster and two kinds of patterns by defferent techniques.
Conclusively, an applicability of these taxonomy was examined and some of ways to go about it were suggested.
Key word : prosocial behavior, helping behavior, taxonomy, behavioral pattern, cluster of behavior, characteristic of behavior, behavioral cost
抄 録
分類体系を研究実施や理論構成に役立てるために, この研究では,順社会的行動の分類が行わ れた。まず,研究報告に先立ち,順社会的行動およびその研究が簡単に展望された。つぎに, 3 つの分類研究の結果が報告された。
研究Iでは, 10代から60代に至る広範な年代の人々から多数の援助エピソードを収集し,そこ から選定された41種類の行動の相互の類似性評定を基にクラスター分析を行い,順社会的行動の クラスター構造が明らかにされた。研究1Iでは, 41種類の各行動の特性評定を基に因子分析を行 ぃ,順社会的行動の類型が明らかにされた。研究IlIでは,特に重要な行動特性である行動出費に 焦点を合わせ, その側面からの行動評定を基に因子分析を行い, 出費特性に基づく順社会的行動 の類型が明らかにされた。
最後に,順社会的行動の分類体系がいかなる目的で利用されうるかが,簡単に考察された。
キーワード:順社会的行動,援助行動,分類(学),行動類型,行動群(クラスター),行動特性,
行動出費
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関西大学「社会学部紀要』第18巻第2号 目 次
1. 順社会的行動への研究関心の変化 2. 「順社会的」という語の由来 3. 順社会的行動の定義 4. 順社会的行動への理論的接近
5. 順社会的行動研究におけるもう1つの接近法 6. 順社会的行動研究における分類学的接近 7. 順社会的行動の分類研究
研 究 I順社会的行動のクラスター構造の解明:多様な集団を対象にして 研 究 II 行動特性に基づく順社会的行動の類型とその特徴
研究皿行動出費に基づく順社会的行動の類型とその特徴 8. 順社会的行動の分類の応用
参 考 文 献
1. 順社会的行動への研究関心の変化
善良と邪悪といった人間の基本的な性格は,長らく人々の関心と研究の対象となってきた。し かしながら,ネガティプな効果を持つ邪悪で有害な行動の統制は,ポジティプな効果を持つ善良 で有益な行動の促進よりも,人間社会にとって一層急務であると考えられたため,かつては前者 に関する研究が盛んであった。ところが,過去20年間の研究を振り返ってみると,ネガティプな 形の社会的行動からポジティプな形の社会的行動への関心の変化が,社会心理学において起こっ ている。つまり,攻撃,争い,暴力行為,薬やアルコールの常用,孤独な社会生活,および他の 反社会的行動 (antisocial behavior)の研究から,愛他心,慈善,援助行動,奉仕行動,協調 や協同,同情などの順社会的行動 (prosocialbehavior)の 研 究 へ の 変 化 が 認 め ら れ る の で あ る。
この変化に寄与したと思われる種々の要因の中のひとつに, 1964年に起こった KittyGenov‑ ese嬢の殺害事件 (Rosenthal,1964)がある。 この事件では,殺害を目撃した人が38名もいた のに,誰一人として彼女を助けるためにその事態に介入しようとしなかった。この事件を契機 に, John DarleyとBibb Lataneの2人の社会心理学者は,なぜ傍観者が援助しなかったの かの理由を解明するための一連の実験を開始した(例えば, Darley & Latane, 1968; Latane
& Darley, 1968)。彼らの研究は, 1960年代の半ばに行われた Berkowitzと彼の研究仲間によ る研究(例えば, Berkowitz& Connor, 1966 ; Berkowitz & Daniels, 1963, 1964 ; Daniels
& Berkowitz, 1963 ; Goranson & Berkowitz, 1966)とともに,この研究領域の変化に大き な影響を与えた。
主としてアメリカにおいて,ボジティプな形の社会的行動の研究が行われるようになったの は, KittyGenovese嬢の殺害事件と Darley,Latane, Berkowitzによる指導的な研究の影響 によるだけでなく,それらが時代精神 (Zeitgeist)によって支持されたからである。当時アメリ カ社会は,疎外感の増大や暴力の増加といった社会問題に直面し,より良い生活の様式を発見す
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る,すなわち,人間関係の質を改善する方法を積極的に捜し求めていた。そして,その一つの方 法が,援助,共感,協調に向けての教育を強調することであった。新しい質の生活を求めること は, 1960年代に対抗文化を作りだした人々の価値観の中にもみられた。他人に対する同情や共 感援助,信頼を指示する人間主義的,道徳的価値観がそれである。人間関係の質の改善にアメ
リカ社会が関心を持つにつれて,ますますこの形の行動の研究は社会心理学と発達心理学におけ る一つの中心的研究領域になっていった。
2. 「順社会的」という語の由来
「順社会的」という語は, Elizabeth Z. Johnsonによるものとされている。彼女は,未公刊 の学位論文の中で,最初にこの語を用いた Qohnson,1951)。すなわち,攻撃を反社会的 (con‑ trasocial)攻撃と順社会的 (prosocial)攻撃に分けて,後者を「集団の道徳的基準に受け入れら れる」攻撃行動と定義している (Sears,1961)。BanduraとWalters(1963)も,制度的に認 可された攻撃を意味するためにこの語を用いており,この行動の目的が,危害を加えることでは なく,行動を形作ることであるとしている。このように,この語は,発達心理学において生ま れ, 1963年頃には,その領域で一般的に用いられるようになっていた。
丁度この頃に,社会心理学の文献の中にもこの語が導入された。 BryanとTest(1967)は, 助力や寄付のような,社会的責任を果たす行動を意味するために, また, RosenhanとWhite (1967)は, 得るものよりも譲るものの方が多い, しかも内在化された規範から導き出された寄 付行動を意味するために,それぞれ順社会的行動という語を用いた。皮肉なことに,この行動が 研究されるにつれて,「順社会的」という語は,「反社会的」行動とは全く逆の,ポジティブな形 の行動をますます意味するようになっていった。そして現在では,むしろその起源とは逆に,援 助,愛他心,慈善,分与,同情などのポジティブな形の行動を記述するために専ら用いられるよ うになっている。したがって,我々が「ポジティプな形の行動」 と表現しようと,「順社会的行 動」と表現しようと,もはやその意味するところは特に変わらなくなったと考えてよい。
3. 順社的会行動の定義
Wispe (1972)は,順社会的,あるいはポジティブな形の社会的行動と題する研究を概観し,
多様な形で現れるこの種類の行動をそれぞれ区別している。例えば,「愛他心」 (altruism)は, 自分自身の利益のことを考えることなく,他者の利益を配慮することを, 「同情」 (sympathy) は,他者の苦痛や悲しみを気づかい,それを共有することを, 「協同」 (cooperation)は,共通 の利益のために自ら進んで他者と一緒に働こうとすることを,「援助」 (helping)は,明確な目標 や目的に向けて他者を助け支援することを,「助力」 (aid)は,明らかな目標を達成するために必
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要なものを他者に提供することを,そして「寄付」 (donating)は,贈物をする行為,通常は慈 善に寄付することを,それぞれ意味するとしている。
Wispeが以上のように意味内容を区別したいくつかの行動の外にも, 種々多数の行動が順社 会的,ポジティプな形の行動の研究で取り上げられている。そこで, Wispもは, それらの行動 の間の類似点を明確にすることが必要であると考えて,順社会的,ポジティプな形の行動と,加 えてネガティプな形の行動の定義とを行っている。
ネガティブな形の社会的行動からポジティプな形の社会的行動を完全に区別する, 相 互 に 背 反的で,経験的に統制可能な,しかも全ての研究者が同意できる定義は不可能であると考え,
Wispeは,以下のような作業定義を提案している。
「……順社会的,ポジティプな形と特徴づけられる行動は,他者の身体的・心理的幸福と無傷 の状態を作り出し,維持するだろう。この種の行動は,他者の幸福の達成を意図するだけでな く,他者の希望する目標のみならず,他者の苦痛,欲求不満,悲しみさえも進んで共有しよう とする。……これとは対照的に,ネガティプな形の社会的行動は,他者の自由,表現,無傷な 状態身体的・心理的幸福を制限あるいは破壊するだろう。この種の行動は,自己指向的であ
り,他者の喜びや幸せの何れにも関心を向けない。……」 (Wispe,1972, 7p)
順社会的,ボジティプな形の社会的行動の特性の明確化,あるいは定義は,以後幾人かの研究 者によって試みられている。例えば, Bar‑Tal(1976)は,順社会的行動が外的源泉からの報酬 を期待することなく,自由意志で,他者に恩恵を与えようとする行動であるとしている。Mussen
とEisenberg‑Berg(1977)は,それが外的源泉からの報酬を期待することなく,他者あるいは 人々の集団を助ける,もしくは恩恵を与えるために行われる行動であり, しばしば行為者の側に ある程度の出費,自己犠牲,あるいは危険を伴うものであるとしている。 Staub(1978)は,順 社会的行動と愛他心 (altruism)とを区別し,前者が,行為の受け手と同様に行為者にも恩恵が 必ず伴う協同のような行動を含むところの他者への恩恵行動であり,後者は,物質的・社会的報 酬を得るためというよりはむしろ,他者に恩恵を与えることそれ自身を目的にしているところの 一層限定された恩恵行動であるとしている。また, Kent (1983)は, 順社会的行動が偶然にで はなく,よく熟慮した後に行われる他者への恩恵行動であるとしている。
以上の諸定義をもとにして,筆者は, 順社会的行動を, 「他者の身体的・心理的幸福のことを 配慮し,ある程度の出費を覚悟して,自由意志から,他者あるいは他の人々に恩恵を与えるため に行われる行動である。」と定義している。そして, Reykowski(1982)やGrzelakとDerlega (1982)のように,この順社会的行動の中に,援助,分与,協同,同情,共感などが含まれると考 える。
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4 .
順社会的行動への理論的接近多くの研究者は,今日まで,人間行動に関する理論,あるいは,接近法を社会心理学のみなら ず,他の広範な心理学の領域から借用して,順社会的行動を研究してきた。ところで, Pearceら (1983)は, この種の行動の解明に適用されてきた5つの一般的な理論について,以下のような 啓蒙的概観を行っている。
(1) 社会的学習理論からの接近
社会的学習理論家は,強化,観察,モデリングといった学習原理を用いて,順社会的行動の説 明を行う。例えば,順社会的行動は,オペラント条件づけ,あるいは,観察学習の過程を通じて 習得されると考える。確かに,行動に報酬を随伴させると,子供達が示す分与行動の量は増加し た(例えば, Midlarsky, Bryan & Brickman, 1973)。また,気前よく行動する他者を子供達 に銀察させると,子供達自身も気前よく行動するようになった(例えば, Rushton, 1973)。 し かも,このモデリング効果は,持続する傾向にあり,幾分異なる状況にも一般化することも証明 された。さらに,これらによく似たモデリング効果が,成人においても立証されている(例え ば, Bryan& Test, 1967)。
多くのモデリング状況には,外的報酬が存在していなかった。そのようなモデリング状況にお いて発見された強力な効果は,援助モデルの観察を通じて,人が自分自身の行動基準を獲得し,
その基準に一致すると自己報酬を,逸脱すると自己処罰を与えることができるようになった,っ まり,自己強化的になったから,得られたのだと説明された(例えば, Rosenhan,1978)。
(2) 認知的発達理論からの接近
認知的発達理論家は,社会的学習理論家と同様に,人が適切な行動をいかに学習していくかに 関心を持っており,認知構造の段階に沿って行動が発達するとしている。つまり,人が道徳的に 推論して,順社会的行動に従事できるかどうかは,その人がどの程度の認知の成熟水準に達して いるかに依存すると考える。
Piaget (1932)は,道徳的推論に2水準があると考えた。第1は,他律的道徳であり,行為の 結果で正邪を判断するという特徴がある。第2は,自立的道徳であり,行為の結果よりはむしろ 行為の意図に注目するという特徴がある。 Kohlberg(1969, 1976)は, Piagetのモデルを発展 させ,道徳発達の6段階説を提案している。 Kohlbergは,この発達が個人の知的能力の増大,
自己中心性の減少,他者の役割を取得する能力の増加に依存するとしている。
認知的発達の研究者は,人が順社会的行動のことを考える際に用いる道徳的ルールに主として 関心を向ける。それは,道徳をどのよう理解するかによって状況の解釈が異なり,それに応じて 順社会的行動のパクーンも違ってくると考えるからである。順社会的行動は,それがその人にと って何を意味するのか,それが一層大きな認知構造の中でいかに適合しているのか,によっての
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み解釈されるとしている (Krebs,1978)。
認知の発達段階に応じて必ずしも援助量が増加しないという主張も確かにあるにはあるが (Krebs, 1978), 多数の研究は,高い水準の道徳的推論と高い水準の援助率との相関を発見して いる(例えば, Harris,Mussen & Rutherford, 1976; Staub, 1974)。
(3) 公平理論 (EquityTheory)
公平理論家は,社会的取引に従事している個々人が,彼らの出費に比例して公平な報酬を受け るべきであるという公平規範に焦点を当てて,順社会的行動についての多くの予言を行ってい る。例えば,犠牲者の難事に大きな責任を感じているほど,人はその犠牲者に賠償しようとする だろう。しかし,両者の関係を切るよりも公平を回復するほうが一層出費を含むならば,人は犠 牲者へのそれを拒否するだろう。
Lerner (1974)は, 仕事に対して支払いを受け過ぎた子供が, 仕事に見合う支払いを受けな かった子供に比べて,後に一層多くのお金を寄付することを発見した。また,人々が互恵の強 い願いを持っており,自分達を援助してくれた人に返礼することも発見されている(例えば,
Gergen, Ellsworth, Maslach & Sepel, 1975; Gross & Latane, 1974)。さらに,他者への加 害の原因になるか,もしくは加害を目撃した人が,ある仕方で犠牲者に賠償しようとすることも 立証されている(例えば, Cialdini,Darby & Vincent, 1973)。
(4) 社会生物学からの接近
社会生物学者は,遺伝学や進化論の用語を使って,動物のみならず人間の社会的行動を説明し ようとする。しかし,ここには1つのパラドックスがある。すなわち,愛他心には,ある程度の 自己犠牲が必要である。愛他的な行動に従事するある種族のメンバーは,そのために,子孫を残 すことが一層少なくなるはずである。つまり,愛他的な傾向を遺伝によって次世代に引き継ぐ確 率は低くなるはずである。このように,愛他心の遺伝という考えと自然淘汰という進化論の考え とは,両立し難いのである。
社会生物学者は,この問題への解答にかなりの努力を捧げてきた。そして,愛他心の進化を説 明するために3つのメカニズムを仮定している。第1のメカニズムは,集団淘汰 (groupselec‑ tion)である。種族は,それぞれお互いに異なる遺伝子を持ち,競争の関係にある。愛他的な自
己犠牲の傾向を持つ種族では,そのような自己犠牲的行動のおかげで,メンバーの生存の可能性 は高まる。同じ理由で,愛他的でない種族のそれは低くなる。愛他的行動の受け手は,行動の担 い手と同様に愛他的遺伝子を持っているため,愛他的な自己犠牲的傾向は,進化を通じて,その 種族内でますます強まるというのである。
第2のメカニズムは,血族淘汰 (kinselection)である。ある個体の愛他的行動は,共通の家 系によって同一の遺伝子を共有する他者の生存と,それゆえに,再生産の可能性を増すというの である。
第3のメカニズムは, 互恵的愛他心 (reciprocalaltruism)である。 この互恵的愛他心は,
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愛他的個体が後にその受け手によって返済される時に起こる。これは,遺伝的な統制のもとにあ っても,家系に無関係な個体間においても,共に起こりうる。互恵的愛他心は,持続する関係と 記憶力を必要とするため,人間社会では一般的であっても,動物社会では希なことである。
社会生物学が,ほとんど経験的な研究を生み出していないために,順社会的行動の社会心理学 との関連性は非常に僅かである。しかし,社会生物学からのいくつかの命題は,援助に関する最 近の知見と一貫している。例えば,援助行動は,見知らぬ人から知人,友人そして血縁者へと関 係性が密になるにつれて増すという社会生物学からの予言は,種々のデータによって支持されて いる。
なお,大多数の心理学者,社会学者,そして他の社会科学者は,社会生物学からの接近に批判 的である。社会的学習における強化の効果や愛他的行動が文化によって異なることを社会生物学 者が無視してきたと,彼らは論難している。
(5) 帰属理論 (Attributiontheory)
帰属理論家は,人々が自分自身や他者の行動の原因について行う帰属に関心を持っている。
Heider (1958)によって基礎をしかれたこの理論は, 後に Rosenbaum (1972)や Weiner
(1974) によって拡張•発展させられた。そして,最近,帰属理論がその説明原理になりうる領 域として,順社会的行動の研究を帰属理論家は挙げている。例えば, IckesとKidd(1976)は, 依存性の原因が犠牲者の側の能力の欠如による時(内的,統制不可能),努力の欠如による時(内 的,統制可能)よりも援助が一層与えられる,と仮定している。さらに,彼らは,観察者が自分 自身のポジティプな成果を自分の努力よりも自分の能力に帰属するときに,援助要請に対して一 層大きな応諾を示す,と仮定している。それは,能力に成功の原因を帰属すれば,有能感が導か れ,自尊心が高揚し,知覚された援助出費が低められ,援助が成功するという信念が強まるから だとしている。
Weiner (1980)は, 感情が帰属と援助を媒介するという役割を強調している。ある人が援助 を求めていることに気付くと,観察者はその因果関係を探索する。もし観察者が,他者の苦悩の 原因を内的,統制可能な要因に帰属するならば,彼は怒りや嫌悪を感じるだろう。しかし,もし 原因を外的,統制不可能な要因に帰属するならば,同情とか心配という感情が起こるだろう。し たがって,前者の場合,援助は与えられないだろうが,後者の場合は,援助が起こりやすいだろ ぅ,と仮定している。援助に関する帰属モデルは,多数の経験的研究によって支持されている
(例えば, Ickes,Kidd & Berkowitz, 1976 ; Weiner, 1980)。
5. 順 社 会 的 行 動 研 究 に お け る も う 1つの接近法
順社会的行動に対して,以上のように,種々の理論的立場から接近する方法の他に,もう 1つ 別の接近法がある。それは,理論的枠組みにとらわれずに,種々の状況において順社会的行動を
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予言することの出来る変数を見つけ出そうとするものである。このような立場から行われた経験 的な研究は,大きく二分される。その 1つは,この行動に関係する個人の安定した人的特徴を探
し求める研究であり,もう 1つは,この行動に関係する状況変数を探求する研究である。
それらの研究が取り扱った変数には,まず順社会的行動に関係する人的変数として,①年齢 (Green & Schneider, 1974), R 社会的階層 (DePalrna, 1974), ⑧性別と人種 (Wispe&
Freshley 1971), ④都会か田舎か (Weiner,1976), ⑥個人的規範 (Schwartz, 1977), ⑥共感 (Aronfreed, 1970), ⑦自己像 (Trirnakas& Nicolay, 1974), ⑧価値観 (Staub, 1974), ⑨ 公正に関する信念 (Lerner, 1975), ⑲自己関心 (Liebhart, 1972), ⑪イデオロギー的親和性
(Ehlert, et al., 1973), ⑫政治的指向性 (Gaertner,1973), ⑬自己標識 (Kraut,1973), ⑭自 尊心 (Rudestarn,et al., 1971), ⑮統制位置 (Lerner& Reavy, 1975), などがあり,他方,順 社会的行動に関係する状況変数としては,①他者存在 (Latane& Darley, 1968, 1970), R 状況 の曖昧性 (Clark& Word, 1974), ⑧有能感覚 (Bickman,1971), ④援助出費量 (Piliavin&
Piliavin, 1972), ⑥犠牲者の苦悩の程度 (Shotland& Huston, 1979), ⑥犠牲者の依存の程度 (Harris & Meyer, 1973), ⑦援助要請のスタイル (Langer& Abelson, 1972), ⑧状況に含 まれる恐怖の程度 (Harris& Meyer, 1973), ⑨犠牲者の身体的魅力 (Mims, et al., 1975),
⑩被援助者の人種(Gaertner& Bickman, 1971), ⑪被援助者の言語と服装(Harris& Baudin, 1973), ⑫状況内の騒音 (Mathews& Canon, 1975), ⑬居住密度 (Bickman,et al., 1973),
⑭環境内の刺激過負荷の程度 (Sherrod& Downs, 1974), ⑮環境0)心地良さ (Amato,1981a, 1981b), ⑮被援助者の親しみやすさ (Pearce,1980), ⑰周囲の気温 (Schneider,et al., 1980),
⑱潜在的援助者の一時的感情状態 (Isen& Levin, 1972), などがある。
6. 順社会的行動研究における分類学的接近
以上で概観したように,順社会的行動は種々の理論的立場や変数に沿って,研究されてきた。
しかし,そこにはいくつかの重大な問題点が指摘されている。例えば, Pearceら(1683)は, 3つの弱点としてそれらを的確に表現している。すなわち,第 1の弱点は,種々の理論がそれぞ れ非常に異なる順社会的行動の側面を研究していることである。これは,各理論の興味領域が異 なるからであるが,そのために,ある枠組みで行われた研究が別の枠組みからは見当違いであっ たり,理解できなかったりする。第2の弱点は,研究知見間に一致性が欠如していることであ る。例えば,性差に関する知見がそうである。男性が女性よりも一層援助的であるという研究知 見もあれば,その逆を報告する研究もある。第3の弱点は,理論を一般化することの出来る限界 や環境が明細化されていないことである。そのために,確かに各理論は,自分自身を支持するデ ータを蓄積しているが,広く理論間でそれらを統合し,一層包括的な理論を構築することが難し い。つまり,研究は,累積的でないということである。そして, Smithsonらは,これらの問題
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を克服する 1つの方法として,分類学的,構造論的接近法を用いた順社会的行動の研究を提案し ている。
援助状況や援助パターンの分類の必要性は, Wispe (1972)によって既に指摘されていた。
Wispeは, 前述のように, 種々の現れ方をするボジティブな形の社会的行動を区別すべきであ ると主張した。そうすることによって,それをより正確に操作することができ,それらの間の類 似点と相違点を示すことができると考えた。そこで彼は,順社会的行動を愛他心,同情,協同,
援助,助力,寄付の6カテゴリーに分けた。しかしながら,それらのカテゴリーは,アプリオリ ーな創作物であり,お互いの関係は不明確なままであった。
順社会的行動の分類スキーマを求めようとする試みは, Wispe以降幾人かの研究者によって も行われた(例えば, Lau& Blake, 1976; Gottlieb, 1978)。しかし, それらは, そのほとん どが常識的,恣意的なカテゴリー分けであったり,特殊な母集団に限定された行動のそれであっ た。ところが, Amato& Pearce (1983)の分類は, その限界を越え, 多次元尺度法や多変量 解折法などの計量分析技法を駆使した,経験的,包括的な示唆に富むものである。
Amato & Pearceは,まず, 7種類の社会心理学関係雑誌から援助のエピソードを収集し,
それらを62種類にまとめた。次に, 72名の大学生に,援助エビソードを対にして多数提示し,対 にされたエビソードがどの程度類似していると思うかを対毎に 5段階で評定するように求めた。
そして,得られた類似性の評定値を多次元尺度法によって分析し,①計画的,形式ばった一ー衝 動的,形式ばらない,②重大,困難な―重大でない,容易な,③与える,間接的な—行う,
直接的な,といった特徴を持つ 3次元から構成される,援助の最も基本的な潜在構造を明らかに した。さらに,その3次元空間での, 62種類の援助エピソードの布置から,援助を,①緊急事態 への介入,②形式ばった,組織的な援助,③見知らぬ人に対する,形式ばらない,気まぐれな,
ありふれた援助,④寄付・分与,の 4群に分けている。
Staub(1979)も順社会的行動を分類し,体型化することの必要性を認めている。しかし, Staub の関心は,同じ考えを持つ他の研究者と幾分異なっていた。すなわち,行動を正確に予言するた めには,各人の目標の相対的重要度はもちろんのこと,それに加えて,それらの目標を活性化す る状況の特徴をも理解しなければならないと考えた。したがって, Staubのモデルにとっては,
順社会的行動の喚起を決定するところの状況の刺激特性が重要となるのである。そこで, Staub は,順社会的行動の研究を概観し,行動生起に影響する主要な状況特性として,①援助状況の曖 昧底③援助の必要性,⑧援助の責任性,④援助を扇動する刺激の影態度,⑥自発的援助の必要 性,⑥援助の出費, ⑦社会的容認の明瞭性, ⑧被援助者との関係性, ⑨心理状態, をあげてい る。 Staubは, これらの状況特性を利用することによって, ある目標に関係する状況特性を選 定し,それらの特性に沿って状況を体系的に変化させて研究を行うことが可能になると示唆して いる。
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7. 順社会的行動の分類研究
高木 (1982, 1983)は, 1978年以来,彼の共同研究者と共に,種々の変数を用いて主として野 外実験や調査研究を行ってきたが, それらの結果から, 前述の Pearceら(1983)が指摘した のと同様の問題点を指摘し,それ故に順社会的行動の分類学的,構造論的研究を開始した。高木 は,この種の前理論的研究を通じて究明された順社会的行動の分類スキーマが,①種々の異なる クイプの状況に関して,どこが異なり,どこが類似しているのかを明細化してくれる,③研究目 的に合致するとして選ばれた特性次元に沿って,研究状況を体系的に変化させることを可能にし てくれる,③得られた結果から仮説を検証しようとするときや,理論を構成しようとするとき に,それを指導してくれる,④種々の研究知見を有意味に比較し,矛盾を解決するのに役立って くれる,⑥研究結果を経験的に,理論的に一般化する際に,その限界を設定するのに役立ってく れる,ことを期待した。
そこで,高木 (1982, 1983)は,クラスター分析法によって行動の分類を行った。まず,第1 段階として, 69名の男女大学生の集団から順社会的行動に関するエビソードを多数収集し,数度
の内容分析を通じて,それらを22種類の典型的な順社会的行動に整理した。つぎに,第2段階と して,それらの行動を対にして別の 64名の男女大学生の集団に提示し,その類似度を 5段階で評
クラスター
番 号 順 社 会 的 行 動
赤い羽根、助けあい、難民救済等の募金運動に協力する。
1 Iボランティア活動に参加する。
2
3
4 5
6
献血に協力する。
財布を落とした人やお金の足りない人にお金を貸す。
困っている人に自分の持ちものをわけてあげる。
乱暴されている人を助けたり、晋察に通報する。
ケガ人や急病人が出た時に介抱したり、救急車を呼ぶ。
近所の葬式や引越しで人手のいる時に手伝う。
自動車が故障して困っている火を助ける。
迷い子を交番や案内所に連れて行くなどの世話をする。
忘れもの、落としものを届ける。
子供が自転車とか何かでころんだ時に助けおこす。
落として散らばった荷物を一緒に拾う。
乗りもの等の中で身体の不自由な人やお年よりに席を譲る,
身体の不自由な人が困っている時に手をさしのべる。
お年よりに切符を買ってあげたり荷物を持ってあげる。
荷物を網棚にのせたり、持ってあげる。
道に迷っている人に道順をおしえてあげる。
カサをさしかけたり、貸したりする。
7 I小銭のない人に両替をしてあげる。
自動販売機や器具の使い方をおしえてあげる。
カメラのシャッター押しを頼まれれぼする。
距 離
1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50
1.44
図1 順社会的行動のクラスター(群)構造(樹状図,高木 1982)
定することを彼らに求めた。第3段階として,そのようにして得た類似性の評定データにクラス クー分析法(平均法)を適用し,順社会的行動の群化を試みた。その結果,図1のような樹状図 を得た。群(クラスター)の意味の明瞭性と適度の群数であることの2点から,行動間の距離が 2.5以内であることを基準にして,次のような7種類の行動群を確定している。
① 寄付・奉仕行動群:他者のために自分のお金,血液,労力,時間などを寄付・提供する行 動
② 分与行動群:他者に自分の貴重な持ち物を分け与えたり,貸与する行動
⑧ 緊急事態における救助行動群:重大な緊急の事態に陥って困っている人を救助するため に,その事態に直接的に,あるいは間接的に介入する行動
④ 努力を必要とする援助行動群:身体的努力を必要とする事態で援助する行動
⑥ 迷い子や遺失者(物を失った人)に対する援助行動群:迷い子を世話したり,遺失物を届 けたりする行動
⑥ 社会的弱者に対する援助行動群:身体の不自由な人,老人や幼少児に援助の手を差し伸べ る行動
R 小さな親切行動群:出費をほとんど伴わない,ちょっとした親切心から行われる行動 さらに,高木 (1982, 1983)は,これらの行動群を,以下のように行動特性と行動動機の2側 面から特徴づけている。
① 寄付・奉仕行動群:この群に属する行動の実行は,社会的規範によって中程度に指示され ているが,個人的規範によっては指示されていない。つまり,社会の人々は,行うべきだと 思っているようだが,自分自身はその実行責任を感じていない。しかも,実行には,かなり の出費が予想されている。
動機からみると,この群の行動の生起には,どちらかと言えば,合理的認知判断に基づく 責任の受容,好ましい援助・被援助経験,および,援助者・被援助者の好ましい人格特徴と 援助者の良き感情状態が関与している。他方,非生起には,好ましくない援助・被援助経験 が強く関与し,合理的認知判断に基づく責任の拒否や援助能力の欠如もいくらか関与してい る。これらから判断すると,この群の行動の場合,過去の援助経験の良し悪しと規範に基づ
<責任の受容・拒否が重要な動機のようである。
R 分与行動群:この群に属する行動の実行は,社会的規範によっても個人規範によっても指 示されていない。つまり,実行しても,他者からの承認が得られないし,自尊心も高揚しな い。逆に,実行しなくても,他者から非難されないし,そんな自分を恥しいとも思わない。
一方,実行には,大きな出費が伴うと思われている。
動機からみると,この群の行動の生起には,援助者と被援助者との間の近い関係が強く関 与し,援助者・被援助者の好ましい人格特徴と援助者の良き感情状態も少し関係している。
他方,非生起には,援助能力の欠如,責任分散の可能性,責任の拒否と非援助出費や援助報
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酬の予想無しがかなり関わっている。つまり,規範が指示しないにもかかわらず,大きな出 費を覚悟でこの行動を行うのは,援助者と被援助者との間に近い関係が存在するからであ る。しかしながら,それは,援助する能力が自分にあり,その責任を回避できないとき,援 助を求める理由が認められ,行動しないと困る,あるいは,するとよい結果が予想される場 合に限られるようである。
⑧ 緊急事態における救助行動:この群に属する行動の実行は,分与行動群の場合とは対照的 に,社会的規範によっても個人的規範によっても非常に強く指示されている。したがって,
実行しないと,他者に非難され,自尊心が傷つく。実行すれば,他者に承認され,自分を誇 れる。なお,実行には,かなりの出費が伴うと予想されている。
動機からみると,この群の行動の生起には,合理的認知判断に基づく責任の受容と責任分 散の不可能性が強く関与している。つまり,他者も自分自身もその実行を強く求め,この責 任を回避できないので,実行するのである。他方,非生起には,基本的な非援助動機として 得られたいかなる動機も関わっていない。規範が強く指示するこの群の行動を実行しないの は,よほどの理由があるのだろうが,それが何かはこの研究だけでは分からない。
④ 努力を必要とする援助行動群:この群に属する行動の実行は,寄付・奉仕行動群の場合と よく似ており,社会的規範によっていくらか指示されているが,個人的規範によっては指示 されていない。例えば,葬式や引越しの手伝いは,社会一般には,行うべきだとされている が,個人的にはその義務を感じていないのである。特に,実行には,身体的努力という出費 がかなり伴うと思われている。
動機からみると,この群の行動の生起には,援助者と被援助者との間の近い関係が強く関 わっている。つまり,例えば,知人,友人といった関係にある人々の間で生起しやすいので ある。他方,非生起には,好ましくない援助・被援助経験および当惑の回避という動機以外 の全ての動機が関わっており,規範の指示の弱いこの行動の場合,種々の理由によって行動 が抑制されるようである。
⑥ 迷い子や遺失者に対する援助行動群:この群に属する行動の実行は,緊急事態における救 助行動群ほどではないが,社会的規範によっても個人的規範によってもかなり指示されてい る。しかし,実行に出費の伴わないところがその群と違う。
動機からみると,この群の行動の生起には,非援助出費や援助報酬の予想が非常に強く関 与しており,援助者・被援助者の好ましい人格特徴および援助者の良き感情状態もいくらか 関わっている。つまり,例えば,遺失物を届けないと,社会的非難が及んでくるし,届ける と,いくらかの報酬が期待できるのである。届けるかどうかは,援助者の人格特徴やそのと きの感情状態が左右する。他方,非生起には,規範に基づく責任の拒否および非援助出費や 援助報酬の予想無しとが関係している。例えば,遺失の理由が容認できないときや,届けな くっても非難を恐れる心配がなかったり,届けても何の報酬も期待できないときに,この行
動は起こらないのである。この群の場合,出費と報酬の期待が重要な動機のようである。
⑥ 社会的弱者に対する援助行動群:この群に属する行動の実行は,社会的規範によって指示 されていないが,個人的規範によっては指示されている。つまり,社会からの実行期待はな いが,自分自身としては行うべきだと考えている。実行しなくても,社会的非難はそれほど 予想されないが,そんな自分は恥しいと思う。実行すれば,自尊心は高揚するが,社会的評 価が上がるようなことは期待できないのである。なお,実行には,出費が伴わないと思われ ている。
動機からみると,この群の行動の生起には,援助者・被援助者の好ましい人格特徴および 援助者の良き感情状態と,責任分散の不可能性とが関与している。例えば,被援助者が感じ のよい人であったり,援助者が愛他的な人であると,また,自分以外にその場に誰もいなか ったり,その人の近くに自分がいるために援助責任が回避できなくて,援助するのである。
他方,非生起には,好ましくない援助・被援助経験および当惑の回避が強く影響している。
つまり,目立つのが嫌だとか,援助に失敗して以前のように恥しい思いをしたくないため に,あるいは,かつてこのような場合に自分自身が援助されたことがないので,援助しない のである。
⑦ 小さな親切行動群:この群に属する行動の実行は,社会的規範,個人的規範のいずれによ っても指示されていない。つまり,他者からも, 自分自身からも,その実行が期待されてお らず,それを行う責任を人は感じていない。また,その実行には,全く出費が含まれていな いと思われている。
動機からみると,この群の行動の生起には,強く関与する動機は何もなく,どちらかと言 うと,援助者・被援助者の好ましい人格特徴および援助者の良き感情状態が関わっているよ うである。規範的な指示がないため,行動の生起は,援助者の一次的あるいは持続的特性や,
被援助者の特性に依存しているのである。他方,非生起には,責任分散の可能性ということ がかなり閑係している。自分以外に誰かがその場にいるとか,誰かが助けているとか,自分 はその場から遠く離れているといった理由から,援助しないで済まそうとするのである。
1. 目的
研 究
I
順社会的行動のクラスター構造の解明:多様な集団を対象にして
上述の研究(高木, 1982)は,大学生に順社会的行動のエピソードを想起させて行動を収集す ることから出発した。しかしながら,大学生の経験に基づいた行動の収集には,自ずとその限界 が予想される。したがって,幅広い年代層から,より広範な順社会的行動のエビソードを収集
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して,それを基に順社会的行動のクラスクー構造を明らかにし,得られたクラスターを特徴づけ ることが必要であり,それを行うのが,この研究の目的である。
2. 方法,結果および考察 1)典型的な順社会的行動の収集 (1) 調査対象者
10代54名(男性17名,女性37名,平均年齢16.7歳), 20代51名 (21名, 30名, 22.9歳), 30代35 名 (20名, 15名, 33.6歳), 40代29名 (7名, 22名, 44.7歳), 50, 60代27名 (12名, 15名, 55.5 歳), の合計196名 (77名, 119名, 30.8歳)を対象者として, 順社会的行動のエビソードを収集 する以下の調査を実施した。
(2) 調査の手続き
行動のエビソードを収集するために, 調査では, 『皆さんが見聞されたり,あるいは直接体験 された援助行動で思い出せるものがありましたら,どのようなものでも結構ですから,できるだ け多く, しかもできるだけ具体的に記して下さい。』,と対象者に依頼した。なおこの調査は,昭 和58年6月17日から10月27日の期間に実施された。調査員が,対象者に直接,あるいは人を介し て調査票を配布し,一定期間後に回収する方法が採られた。
(3) 収集した行動の整理
収集された多数の行動について,その記載内容を整理し,それらを予備的に, 96種類にまとめ た。さらにそれらを,次の4つの基準に従って,適当な数の典型的な順社会的行動にまとめるこ とを試みた。すなわち,①意味が変わらない程度に一般的に表現すると,いくつかの行動がまと められる場合には,できるだけそのようにしてまとめる,②想起の総件数が非常に少ないものは 省<'⑧想起件数に極端な性差があるものは省<'④想起件数に極端な年代差があるものは省
く,という基準を用いて行動の整理を行った。
(4) 結果
10代から60代に至る196名(男性77名,女性119名)の対象者から,延べ899個(男性297個,女 性602個)の順社会的行動が想起された。それらの行動を,以上の基準を用いて数度にわたり内 容分析した結果,表1に示されているように,代表的な41種類の順社会的行動にまとめることが できた。さらに,想起された899個の行動を,年代と性別に,その41種類の順社会的行動に沿っ て整理すると,表2のようになった。
2)順社会的行動のクラスター(群)構造の解明 (1) 調査対象者
K大学において,教養科目の「心理学」を受講している1, 2年次学生400名(男性233名,女 性167名)を対象者として,以下の調査を実施した。
表1選定された41種類の順社会的行動
1 何らかの国内向けあるいは海外向けの募金運動 22 災害・飢餓等で困っている国内や海外の人たち
に寄付をする。 に,必要な物資・品物を送る。
2 署名運動に協力する。 23 調査・アンケートに協力する。
3 地区の清掃や見まわり等の労働奉仕に参加す 24 募金集めの手助けをする。
る。
4 老人や身障者の方々等の身の回りの世話をす
I
25 老人ホームや孤児院等を慰問する。る。
5 団体・サークル活動を通じてあるいは個人的に
I
26 生活困窮者に様々な救済の手をさしのべる。点字本を作る。
6 献血に協力する。
I
27 腎臓バンク等への臓器の提供に協力する。7 難民を受け入れ,その世話をする。 28 発展途上国に対する様々な援助活動に協力す る。
8 困っている人に,自分の持ちものやお金を貸し 129 小銭のない人に両替えをしてあげる。
たり与えたりする。
9 溺れている人や,他者から乱暴されている人を
I
30 怪我人の介抱をする。助ける。
10 援助を必要としている人のために,警察に通報 I31 災害時などの復興作業や捜索活動に協力する。
したり,救急車を呼ぶ。*
11 お葬式や引越しの手伝いをする。
12 重い荷物を運ぶのを手伝ってあげる。
13 雨の中を歩けないで困っている人を車に乗せて あげる。
14落し物・忘れ物を本人に知らせたり,届けてあ げる。
15 老人の手をひいてあげたり,荷物をもってあげ たりする。
16 階段での車イスの人の昇降を手伝ってあげる。
17 機械の使い方を知らない人に使い方を教えてあ げる。
18 カメラのシャッター押しを頼まれて写真をとっ てあげる。
19 雨降りで傘のない人に傘をさしかけてあげる。
32 車が脱輪したときや,故障したときに手助けし てあげる。
33 迷い子を誘導したり,道に迷っている人をある 場所までつれていってあげる。
34道に迷っている人に道順を教えてあげる。
35 乗り物の中等で,老人・身障者等に席をかわっ てあげる。
36 目の不自由な人の手をひいてあげる等,体の不 自由な人の補助をする。
37 耳の不自由な人のために手話通訳の練習をす る。
38 隣りの人の荷物・順番を見ていてあげる。
39 落として散らばった物を一緒に拾ったり,なく なった物を一緒に捜してあげる。
40 危険な遊びをしている子供•青少年に,気をつ けて注意する。
20 悩み事の相談相手になったり,落ちこんでいる 41 狭い道で道を譲る等の心遣いをする。
人を励ます。 *想起されなかったが,重要な行動として追加され
21 相手を傷つけないように気を配る。 た。
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行動 番号 1 2 3 4 5 6 7
,
8 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41順 社 会 的 行 動
関西大学「社会学部紀要』第18巻第2号 表2順社会的行動の年代,性別想起件数
10代 20代 30 代 40 代 男 女 計 男 女 計 男 女 計 男 女 計 国内外向けの募金運動 22 108 130 22 27 49 17 18 35 8 14 22 署名運動に協力 0 5 5 1 2 3 0 0 0 0 1 1 地区の清掃等の労働奉仕 7 15 22 5 8 13 3 5 8 0 6 6 老人等の身の回りの世話 4 3 7 0 9 9 1 3 4 8 13 21 個人的に点字本を作る 4 8 12 4 2 6 8 9 17 2 9 11 献血に協力 7 26 33 8 8 16 2 1 3 2 1 3 難民の受け入れ,世話 2 2 4 0 4 4 0 2 2 0 2 2 自分の持ちもの等を貸与 0 1 1 8 4 12 0 3 3 0 2 2 溺れている人等を助ける 1 2 3 1 2 3 0 0 0 0 0 0 警察に通報,救急車呼ぶ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 お葬式などの手伝い 0 0 0 2 0 2 0 1 1 0 1 1 荷物運びの手伝い 0 1 1 1 1 2 1 2 3 0 3 3 雨で困っている人を車に乗せる 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 1 1 落し物等を届ける 0 1 1 1 6 7 0 1 1 0 0 0 老人の手を引く,荷物を持つ 1 4 5 0 4 4 1 1 2 1 0 1 車イスの人の昇降を手伝う 0 2 2 1 3 4 3 0 3 1 0 1 機械の使い方を教える 1 0 1 0 0 0 2 0 2 0 0 0 カメラのシャッターを押す 0 0 0 1 1 2 0 0 0 0 0 0 傘をさしかける 0 0 0 2 1 3 2 2 4 0 1 1 悩み事の相談,励まし 0 3 3 1 10 11 1 5 6 0 2 2 傷つけないように気を配る 1 0 1 0 1 1 0 0 0 0 2 2 救援物資を送る 4 9 13 2 1 3 2 0 2 0 2 2 調査アンケートに協力 2 1 3 1 0 1 0 0 0 0 0 0 募金集めの手助け 2 5 7 0 0 0 0 0 0 0 1 1 老人ホーム等の慰問 3 7 10 0 6 6 2 0 2 1 1 2 生活困窮者へ救済の手 0 1 1 0 0 0 2 0 2 1 0 1 腎臓バンクヘ登録 2 5 7 2 3 5 2 0 2 0 0 0 発展途上国への援助活動 0 0 0 1 4 5 0 1 1 0 0 0 両替えをする 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 1 1 怪我人の介抱 0 1 1 4 3 7 1 1 2 0 0 0 災害復興に協力 3 0 3 1 2 3 0 1 1 1 1 2 車の故障時に手助け 0 0 0 2 2 4 2 0 2 0 0 0 迷い子を保護する 1 1 2 1 3 4 0 0 0 0 2 2 道順を教える 2 1 3 4 7 11 2 2 4 1 0 1 席を譲る 10 20 30 3 17 20 6 2 8 1 3 4 体の不自由な人の補助 1 5 6 2 11 13 3 2 5 1 6 7 耳の不自由な人に手話通訳 0 2 2 0 2 2 1 0 1 1 4 5 荷物・順番を見ている 0 0 0 0 1 1 0 1 1 0 0 0 散らばった物を拾う 0 1 1 0 0 0 0 1 1 0 0 0 子供に危険の注意 0 0 0 1 0 1 0 2 2 0 1 1 道を譲る心遣い 0 0 0 0 4 4 0 0 0 0 0 0
50, 60代 全 体 男 女 計 男 女 計 11 4 15 80 171 251
1 0 1 2 8 10 8 3 11 23 37 60 4 9 13 17 37 54 3 3 6 21 31 52 1 0 1 20 36 56 2 0 2 4 10 14 0 1 1 8 11 19 2 0 2 4 4 8 0 0 0 0 0 0 1 0 1 3 2 5 0 1 1 2 8 10 0 0 0 1 1 2 0 2 2 1 10 11 0 1 1 3 10 13 0 1 1 5 6 11 0 0 0 3 0 3 0 0 0 1 1 2 0 1 1 4 5 9 0 3 3 2 23 25 0 0 0 1 3 4 1 3 4 9 15 24 0 0 0 3 1 4 0 1 1 2 7 9 0 4 4 6 18 24 0 3 3 3 4 7 0 0 0 6 8 14 1 0 1 2 5 7 0 0 0 1 1 2 0 1 1 5 6 11 1 0 1 6 4 10 1 0 1 5 2 7 0 3 3 2 9 11 1 2 3 10 12 22 1 1 2 21 43 64 1 4 5 8 28 36 0 2 2 2 10 12 0 0 0 0 2 2 0 0 0 0 2 2 0 1 1 1 4 5 0 3 3 0 7 7 ムロ 計 80 240 320 82 159 241 66 66 132 29 80 109 40 57 97 297 602 899
(2) 調査の手続き
対象者に, 1)で得た41種類の順社会的行動をそれぞれ組み合わせて 1対にしたものにつき,
その類似の程度を, 「非常に似ている」 (5点)から「全く似ていない」 (1点)までの5段階で 評定することを求めた。この際, 評定の総数が820個 (41X40/2)と膨大な数になるため, 評定 の信頼性と対象者への負担の軽減を考慮して,全評定対を無作為に4等分し,それらをそれぞれ 印刷した4種類の調査票を作成し,それらを同数の対象者に無作為に配布して,評定を求めた。
なお, 4種類の調査票に反応した対象者が等質であることを確認するために,共通する 3つの対 を何れの調査票にも含めておいた。対象者の4群間で,それらの評定の有意差を検定し,差のな いことが確認されたため,評定データを, 100名の対象者が820対の全評定を行ったものと見な して,分析を進めることにした。すなわち, 100名から得られた類似性得点は, 41X41のマトリ ックスとして入力され,平均法によるRモードのクラスクー分析によって順社会的行動の構造の 解明が行われた。
なお,この調査は,昭和58年12月14日,教室において集団的に実施された。
(3) 結果と考察
41種類の行動間の類似性評定を基にクラスター分析した結果,図
2
の樹状図で示される順社会 的行動のクラスター構造が明らかとなった。群(クラスクー)の意味の明瞭性と適度の群数であ ることの2点から,行動間の類似度が3.25以上であることを便宜的な基準にして, 9種類の行動 群(クラスクー)を確定した。なお,第6群および第9群の場合,類似度の基準を幾分緩めて群 化している。確定された群(クラスター)は,以下のように解釈され,命名された。
① 寄付・分与行動:災害,飢餓,貧困などで援助を必要としている国内外の人々に自分のお 金,時間,身体的努力あるいは持ち物を寄付したり,分け与える行動
R 奉仕行動:老人や身体障害者などの身の回りの世話や彼らの慰問をする行動
⑧ 提供行動:自分の貴重な持ち物である臓器や血液を提供する行動
④ 組織的,計画的,形式ばった援助行動:署名,募金運動や調査アンケートなどに協力する 行動
⑥ 努力を必要とする援助行動:労働奉仕などの身体的努力の必要な行動
⑥ 小さな親切行動:ほとんど出費を含まない援助要請,例えば,両替えやカメラのシャック 一押し等の要請に応諾する行動
⑦ 緊急事態における救助行動:時として人命に関わるような重大な緊急事態に陥り苦しんで いる人に援助の手を差し伸べる行動
⑧ 非組織的,自発的,形式ばらない援助行動:組織的に計画されたものではなく,日常の生 活場面で,困っている人を助けるために自発的に起こる行動
⑨ ちょっとした気配り行動:相手のことを考え,気を配り,心遣いをする行動
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