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投資信託の運用対象論

その他のタイトル Selection and Grouping of Securities in the Investment Trust

著者 今西 庄次郎

雑誌名 關西大學商學論集

巻 13

号 3

ページ 205‑225

発行年 1968‑08‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00021250

(2)

投 資 信 託 の 運 用 対 象 論

今 西 庄 次 郎

1  運用銘柄の適格性

投資信託(証券共同投資組織)の運用対象としては,株式のほかに公社債,

転換社債等もあるが,主たる対象物件が株式であることは,改めていうまで もない。株式には優先株もあるが,我が国などでは殆んど普通株であるので,

まず普通株を中心としてその適格性を取上げることとする。

一般に株式投資の運用銘柄の適格性と云った場合,何より挙げられるのは,

価値の大きい株,所謂優良銘柄たることである。素より優良株が共同投資組

織の運用銘柄とならないのではない。併し共同投資組織に於てほ,優良銘柄

でなければ運用対象とならないというのではない。確かに,個人株式投資に

於ては,優良銘柄たることは運用銘柄たる一般的要件である。既に知られる

と思うが,個人株式投資の場合は,インカムを中心目標とする純投資のみが

株式投資として成立し,キャビタル・ゲインをも併せ追う投機兼投資は(純

投機ほ勿論)株式投資というカテゴリーから外れるのである。延いて,この

場合には優良株であることが一般的条件とされ,運用対象は必ず優良銘柄で

あるべしとされる。これに対し,株式共同投資組織は純投資のほか,投機兼

投資も所謂投資行動の範囲に入る。株式共同投資組織がこのような性格,任

務をもち得るのほ,大量分散投資という仕法を活用し,又充分な調査機関を

もつ投資エキスパートによる運用組織である所に基づくこと,弦に説明する

までもない。斯くて,凡ての株式共同投資組織について云った場合,その運

用対象は優良株に限られるべきでなく,優良株でない成長株や新興事業株の

中からも選んでよいとなり,優良銘柄たることは運用銘柄の一般通有性とは

ならないのだ。

(3)

投資信託の運用対象論(今西)

所謂成長株の意義や解釈に就いては,人によって梢々区々のようであるが,

私は単に成長株と云うよりは,成長事業株と云った方が適わしいのでないか と思う。蓋し小資本の小型会社株を成長株とみなす俗見が一部にあるからで ある。世間では成長株と優良株とは対立するものと考えている。否,このよ うな人は随分多い。併し,本来両者は対立的な概念,株式の種別ではない。両 者は違った角度からされる株式の種別なのである。優良株とは価値の大きい 会社株式であり,これと対立するのほ価値の中位な通常株,価値の小なる劣 等株である。成長株とほ上記の如く発展性の余地の多い事業を営んでいる会 社株式の謂であり,これと対立するのは安定事業株,新興事業株等である。

従って,成長株の中にも優良株はあり得るのであり,両者は決して両立しな いものではない(個人株式投資では,単なる優良株よりも,優良株で成長株

(1) 

を兼ねているものの方が一層よしとせられる)。 ただ成長事業は収益的にみ た場合,その基盤がしっかりしておらず,将来伸びるシェアを目ざしての企 業競争の激しい事例が多く,成長事業株で優良株に到らないものも少くない。

新興事業株に至っては,その国に於ける緒についたばかりの事業を営む会社 株式であり,一層優良株は少い。ここに世間の人々が優良株と対立する株式 として成長株,新興事業株を認める原因が存するものと思われるが,何れに しても投機兼投資目的の共同投資組織としては,これらの一一優良株でない

—成長株,新興事業株の或るものをも取入れて差支えないのである。

以上,株式共同投資組織の運用銘柄は凡て優良株でなければならぬことの ないことほ,知られたと思う。然らば株式投資信託の運用銘柄の通有すべき 適格性として何があるかと云えば,何より,市場性 M a r k e t i b i l i t y の大なる ことである。株式証券の市場性とは,その株式が何時にても市場にて売れる

(2) 

こと,売れ易いことである。尤もこの売れ易いということは売買市場性であ り,市場性としては更に金融の担保物として通用する,担保物としてとられ 易いという担保市場性も含まれると云われる。従って広義では両者を含める

(1)  拙稿「株式価値の株式投資への応用」本誌第 1 2 巻第 1 号 3 頁 (2)  拙著「証券価値論」昭和 3 7 年 166‑168 頁

H.C. S a u v a i n ,  I n v e s t m e n t  Management, 1 9 5 3 .  p p .   1 6 1 ー 1 6 3 .

(4)

必要があるわけだが,主としては矢張り売買市場性を指すものとなしてよい。

而してこの市場性をつくり上げる要素となるのは,会社株式の存在数量が多 いこと(延いて資本金の大であること)であり,次にその分散がよく進んで いることであり,更に所謂市場人気がついていて日々売買の盛んなことであ る。何がゆえ市場性が一切の運用銘柄のもたねばならぬ適格性となるかとい えば,これは共同投資組織は,チャンスとみれば手持ち株を売却すべき組織 であり,そのため売れる銘柄であることが何よりの要件となるからである。

小資本で存在量の少い会社株式は共同投資組織の大口投資には物足らず,又 通常思うように手に入れ難いものであるが,その価格を吊上げるのに好都合 という面もある。けれどもこの種の銘柄は市場性が薄いだけ売るという段に なると果して売れるや確実でなく,仮令価格が騰貴したとしても絵にかいた 餅のような態にならんとする。何れにしても,市場性の大なる銘柄でなけれ ば共同投資組織の運用銘柄たる資格なしと云って過言でないのである。

共同投資組織の運用銘柄は何より市場性の大なるものでなければならない

が,市場性が大といってもそれには相当な幅があり,従って今,どの程度に

大でなければならないかが問題となる。これを決する具体的な基準としてよ

いのは,その国の株式取引所に上場されている銘柄 L i s t e dS t o c k s というこ

とである。蓋し何れの国に於ても,株式取引所の上場条件として市場性の素

地のあることを絶対要件としているからである。斯くて,共同投資組織の運

用銘柄はその国の株式取引所上場銘柄ということになり,或る意味で結論ほ

簡単だということにもなるが,ただ我が国に於ては,この点,尚少し問題が

残る。それほ我が国の株式取引所(証券取引所)は純粋に取引所でなく,株

式取引所と株式実物市場が混合した市場構成となっているからである。周知

の如く,今日我が国の株式取引所,就中東京証券取引所,大阪証券取引所な

ど主要取引所は第一部と第二部の二つの市場から構成されているが,その第

二部市場は薄資投機の参加を認めない実物市場である。従って,二部上場銘

柄は取引所上場銘柄でなければならぬという共同投資組織運用銘柄の資格

をもたないことになるが,実際にもそれへの上場条件は株式数,分散度など

今一息というところで,市場性は竜も一流でない。併し我が国株式取引所で

(5)

投資信託の運用対象論(今西)

ややこしいのは,二部市場よりも一部市場である。蓋し二部市場が単に実物 市場であることははっきりしているのに対し,一部市場こそ取引所と実物市 場が混合しているからである。改めて云うまでもなく,取引所とは薄資投機 の参加を認める市場であり,現在の我が国ではそれは信用取引という方式で 行われている。然も我が国取引所の一部市場の銘柄には,信用取引を認める もの(これらこそ真実の取引所株式である)のほかに,それらを認めない所 謂現物銘柄なるものがある。これらの所謂現物銘柄の市場は本質実物市場に 外ならないのである。ここに,共同投資組織の運用株式は取引所上場銘柄た るべしという条件からは,第一部上場銘柄でも所謂現物銘柄は真の取引所銘 柄でないという意味から資格なしとなることになる。然らばそのように判定 してよいであろうか。吾々は所謂現物銘柄も我が国共同投資組織の運用銘柄 として資格ありと思うものである。一体,株式実物市場上場銘柄は,市場性 の上からみて幅が広く,その下位のものは共同投資組織の運用銘柄として必 要な市場性に達しないのが普通であるが,上位のものは辛うじて必要な適格 市場性を具えている。従って,実物市場上場銘柄は凡てが運用銘柄たる資格 をもたないとしても,その上位の銘柄は資格をもつわけである。今,我が国 の第一部市場の現物銘柄は恰もその上位銘柄に該当するものを上場している 市場とみられるが,事実,上場銘柄を吟味するに,株式数,分散度は可成り であり,ただ人気の度合が薄く需要供給の出廻りが幾分少いため,現物銘柄 に止まっているものが少くない。何れにしても,我が国に於ては共同投資組 織の運用銘柄として適格性をもつのは,取引所の第一部上場銘柄までとなし てよいというのが,最後の結論となる。

共同投資組織の運用株式として資格のあるのは,市場性の大なる銘柄,具

体的には取引所上場銘柄,我が国では取引所第一部上場銘柄であることを指

摘したが,取引所上場銘柄であれば無差別的に取上げてよいというものでは

ない。云い換えると,運用銘柄としては尚もたねばならない資格がある。そ

れは劣等銘柄でないことである。吾々は優良株たることは通有適格とならな

いことを冒頭に強調したが,反面,劣等株でないということが運用銘柄の凡

てに必要な条件となるのだ。劣等株の意義に就いては既に一言触れたところ

(6)

投資信託の運用対象論(今西)

であるが,価値の大なる優良株,その中位の通常株に対し価値の小なる株式 である。株式価値の大いさの把握は株式価値論(証券価値論)の領域であり,

その詳しいことは絃には触れない。それは企業の生産性(設備や技術陣の優 劣,労使関係),資本構成,経営スクッフ等がファクターとなるが,収益を目 標とする企業としては矢張りそれらの活動結果たる業績の良否が基となる。

従って,劣等株とは業績の劣っている会社株式であるとなしてよいが,業績 の普通な株式とのけぢめをつける意味ではっきり云えば,現に赤字をかかえ ている会社株式ということになる。

然らば,共同投資組織の運用株式の資格として何故劣等株であってはなら ぬことを加えねばならないのであろうか。これを加えるに就いては,批判的 な見解がないでもない。先ず,共同投資組織には投機兼投資目的のものがあ り,キャビタル・ゲインを獲得するには現在劣等株に属するものでも差支え なく,否,むしろそれらの中に大きい値上り期待のもてるものがあるのだと いう見解がある。更に,批判ほ,共同投資組織はエキスパートが運用に当る のが特色であり,卑しくも投資エキスパートにして劣等株の回避すべきこと を知らない者は居ない筈であるがゆえ,強いて劣等株であってはいけないな どという条件を掲げるに及ばないというところからも,なされる。確かに,

共同投資組織には兼ねて投機目的のものがあるが,これらは投機一点張りで なく投資目的をも堅持するのであり,この立場からは,現在業績平凡でも成 長性のある会社株式の如きは取入れてもよいが,現に相当な赤字をかかえて いるが如き株式は殆んど性に合わず,その種の銘柄には絶対に手を延ばすべ きでないのだ。次に,共同投資組織の運用者は何れもエキスパートであるが ゅぇ,殊更に劣等株でないことを条件にする必要がないという点も,彼等が 絶対に劣等株を選ばないのであればこれを条件としても理論上おかしくない のみならず,これを積極的に掲げることは彼等がエキスパートであるがゆえ に寧ろ必要だとも云われるのだ。そのわけほ,医師の不養生という牲の如く,

彼等のエキスパート過信がややもすればキャビクル・ゲイン獲得のため劣等 株にも手を出す危険が多分にあり,これを厳戒さす必要があるからである。

先の市場性の大なる銘柄という適格性の場合,大といっても相当に幅があ

(7)

投資信託の運用対象論(今西)

り具体的にどれ位であるべきかを決めなければならないとして,取引所上場 銘柄たることが与えられたのであったが,今劣等株でないことに就いても.

似たようなことが起る筈である。蓋し現に赤字をかかえているいないという その内容にも種々あるからである。而してこの解決であるが,幾分厄介であ る。一部の人々は,額面株式についてほ,株価が額面価格以下であるか否か を標準とすることを提案する。これによれば,共同投資組織の運用銘柄とし て額面割れの株式は適格性がなく,額面以上の価格たることが条件となる。

併し,会社赤字とその株価との間には関連があるとしても,後者は赤字の現 象そのものでなく,飽くまでその結果,影響たるに止まる。然も株式市場の 具合では.時として赤字が相当であるにも拘らず額面を超える事例がある。

従って,劣等株ほ,矢張り直接,会社の赤字によって決めるべく,その現に 相当な赤字をかかえているという程度は,繰越赤字があり今期現在の黒字で 埋め切れないほどであるか,現在赤字でありその額が過去の積立金や繰越利 益で埋めて配当するのが不穏当とみられるほどであるのを標準とすべきであ る。前者の場合,繰越赤字が比較的少くても現在の黒字が少なければ埋め切 れず,又現在の黒字が比較的多くても繰越赤字が大であれば埋め切れないこ

とは云うまでもなく,後者の場合,現在の赤字が比較的少くても積立金や繰 越利益が少いときは配当は到底許されず,又たとえ積立金繰越利益が多くて も現在の赤字が可成り多いときは配当までするのは不謹慎となるところであ る 。

共同投資組織の運用株式の資格として市場性が大であること,劣等株でな

いことを挙げたが,精確に云えばその資格,条件は二つに止まらない。度々

云うが,共同投資組織の目的には投資一点張りと投機兼投資があり,前者の

純投資目的にとっては,運用銘柄が劣等株でないことは勿論絶対の要件であ

るが,単に劣等株でなければよいというものでなく,積極的に優良株でない

と適合しない。更に,投資目的を遂行するのに種々特色のあるゆき方が考え

られるが,これらの特色を発揮するのにそれぞれ相応しい性格をもった銘柄

が望まれる。投機兼投資目的についても同様なことが云われる。併しこれら

の銘柄の性格,条件は,市場性の大や,劣等株でないことのように,凡ての

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投資信託の運用対象論(今西)

運用銘柄に通ずる一般的な資格,条件ではない。これらは寧ろ運用銘柄の種 別とした方がよいと思うので,以下の種別論で取上げることにする。

上来述べた運用対象の適格性ほ株式,就中普通株に就いてであり,公社債 に就いての適格性論が残されている。先ず,公社債に就いても市場性の大な るものであることが適格要件となるであろうか。この場合,議論の焦点とな るのは,公社債には株式にない償還という事態のある点である。公社債には 償還があるとしても長期限のものは共同投資組織としても償還期までの途中 で売却しなければならないことがあり,短期限の銘柄は別として,一般の銘 柄については何時にても売れるという市場性は必要だという主張に対しては,

公社債を組入れる投資組織そのものも,投資本位で長期限となっているがゆ ぇ,市場性は絶対的な要件とはならないという弁解がなされないでもない。

けれども株式共同投資組織に於て公社債が運用されるのほ,殆んど,主体た

ワキ

る株式の側役としてであり,その目的は,途中持株の値下りを避けるため一 時売却した資金,或は次の株式仕入れまでの資金を,銀行預金やコール・マ ネー運用では不利であるのを避けんとするにある。つまり共同投資組織が手 持公社債を途中で売却する必要は稀に起るのでなく往々起るのであり,この ことを知れば,市場性の必要ほ矢張り認めざるを得ないとなる。但しこの場 合の市場性は,公社債なるものは余程市場性が大でない限り取引所上場とな らないがゆえ,実物市場をもつ程度の市場性でも差支えないとなしてよい。

処で,我が国に於ても戦後要望せられていた公社債流通市場の再建が漸く実

現し,先年その実物市場が成立するに至った。その実物市場である点は素よ

り差支えなしとして,その市場が商内活澄でなくノミナルに止っている所が

問題とならないでもない。確かに,そこに上場されている銘柄の市場性は上

場によって一段高められたとは云えない。併しそれらの銘柄ほ組織的市場が

なくても或る程度市場性を具えており,不充分ながら共同投資組織組入れの

条件は具えていると認めてよいと思うのである(尚,我が国では公社債の市

場性が一般に薄いので,恰もそれに対応するものとして共同投資組織ー一勿

論公社債投資信託一がつくられた形となっていること,運用対象論に先立

つ共同投資組織生成論で触れられている筈である)。

(9)

投資信託の運用対象論(今西)

株式の場合,運用対象の適格性として劣等株でないことが取上げられたが,

公社債に就いても劣等銘柄でないことが要件となるであろうか。この場合も 劣等公社債とは如何なる銘柄であるかをはっきりさせねばならないが,この 点は割合簡単である。蓋し公社債の性質から元本,利子の支払が危擢される 銘柄は劣等とされるからである(信用度が低く高利廻りの銘柄ほ,所謂二,

三流銘柄かも知れないが,劣等銘柄とまでは云えない)。 このような銘柄ほ,

発行困難であり世に現れない筈であるが,既発債の中にはそういうものが存 在しないでもない。而して劣等な公社債でないことを要件としなければなら ない点も,公社債を運用する共同投資組織は凡て投資目的のものであり,投 機を極度に避けることを考えるならば,容易に肯定される筈である。尚,株 式の場合,劣等銘柄か否かを具体的に碓認することが問題となったが,公社 債の場合この事はエキスパートなら誰でも把握し得るところであるのみなら ず,更にそれを示す格好な指標がある。それは劣等公社債は取引所,実物市 場に上場されないことである。株式の場合,劣等銘柄でも市場性がある限り 流通市場に上場されているが,公社債はその堅実証券という立前から,市場 性だけでなく,元利払の碓実な銘柄であることが上場の条件とされている。

即ち,公社債の場合は,流通市場上場は市場性の大と劣等銘柄でないという,

共同投資組織運用銘柄の資格を二つながら満たしていることを示す具体的指 標であるわけである。

2 運 用 銘 柄 の 種 別

先の共同投資組織運用銘柄の適格性論において,市場性の大や劣等証券で ないという一般的,共通的な条件のほか,運用目的の如何によりそれぞれ適 当,必要とせられる部分的な性格があり,これらは運用銘柄の種別として取 上げる方がよいことを述べておいた。そこで,今この趣旨に従い,共同投資 組織組入れ銘柄の種別をなそうと思うのであるが,株式に就いては,何より,

当該会社の営んでいる事業の種類別が取上げられなければならない。事業の 種類別こそ運用株式の種別の基礎であると云ってよい。

事業の種類別こそ運用株式種別の基礎であるとして,一国の産業の事業別

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投資信託の運用対象論(今西)

は必ずしも統一的に碓定されていない。事業別を用いる目的の如何で相当に 精粗がある。例えば株式取引所の立会ポストは事業別で種別されており,今 共同投資組織運用株式の事業別の決定に大いに参考になるが,それは立会場 の広さや或る事業株の数の多寡により,可成り異種の業種のものも或る業種 に纏められている。製糖業と麦酒醸造業を食料品業部門に,綿紡績業と合成 繊維業を繊維業部門に,化学肥料業と製薬品業を化学工業部門に,貿易業と 百貨店業を商業部門に握めているが如くである。従って,取引所の立会ポス トを分つ業種別は共同投資組織運用株式の種別にそのまま用いられず,それ ぞれ再分し正碓なものとしなければならない。事業別で運用株式の種類を決 める際,実際に当面するのは,会社によっては一種の事業を専門的に営まず 二種以上の事業を兼営することがあり,これを如何に処置すべきかである。

綿紡績業と合成繊維業というように接近した事業を運営しているときはまだ しもであるが,綿紡績業と化粧品製造業を兼営する会社の如きは厄介である。

結局,これはその会社の事業収益額の大きい方の部類に入れるべきだと思う が,略々等しい収益源となっている事業を二種営んでいるときは,それぞれ の事業会社株式として処置するほかないであろう。

以上,共同投資組織の運用株式の種別として会社事業別が基礎となるとし たが,これを出発点として運用銘柄の分散,組合わせを考えるのは早過ぎる と云わねばならない。蓋し共同投資組織が運用銘柄の分散,組合わせをなす に当り,自己の運用目的に従い,純投資目的のときは,何より景気の影響が 少く,収益が安定している安定業種株式を中心とし,投機兼投資目的では,

途中収益に波瀾があっても将来性のある成長業種や夢のありそうな新興業種

を加えてもよいとせられるからである。斯くて,共同投資組織の運用株式の

種別としてほ,会社の営んでいる具体的な事業別より以前に,或は具体的な

事業別の上に,安定業種,成長業種,新興業種の種別を設け,具体的な事業

を,これらの三種別に大別することが有意義となる。一般的に云って,当初

新興事業であった事業の或るものがやがて成長事業に進み,更に安定事業に

到達するのが普通の順序であるが,或る事業が現在どの業種に入るかは国に

よって必ずしも同じと云えない。実際の応用に当り,或る事業が何れの部類

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投資信託の運用対象諭(今西)

に入るかにつき明碓にし難いものもあるが,これは共同投資組織運用者の判 断に任かすほかない。

( 註 ) 共同投資組織の運用株式を防禦株 D e f e n s i v es t o c k sと攻撃株 A g g r e s s i v eS t o c k s   に分つことが一部に行われる。否,盛んである。この種別につき知らねばならない のほ,その用法が,投機兼投資目的の投資組織において,安定事業株と成長事業株 乃至新興事業株を組合わすとぎに生まれ,前者が防禦株,後者が攻撃株とされるの である。つまりそれらは運用組合わせによって生まれる株式の性格,地位であり,

連用組合わせ以前の性格を問題にしているここでは,当面の種別とはならない。そ (3) 

れらは後の運用組合わせ論の所で触れるべき事項である。

共同投資組織の運用株式の種別は,第一に安定業種,成長業種,新興業種 の三種となし,具体的な事業株の種類はそれぞれの再分類に入れるべきだと いうことは,多数の具体的な事業株を三種類に纏めることに外ならないが,

然も多数の具体的な事業種類を纏めるとなると,なお他にも纏め方がある。

それほ近隣関係乃至共通の性格を以てする纏めである。例を挙げると,重工 業株(鉄鋼業,非鉄金属工業,重機械製作業,車輌工業,造船工業などの株 式),軽工業株(綿其の他天然繊維業,合成繊維業,製紙業,パルフ゜工業など の株式),交通業株(鉄道業,自動車運輸業,海運業,航空業などの株式),商 業サービス業株(貿易商社業,百貨店業などの株式),金融関係業株(銀行業,

保険業,証券業などの株式)等である。この種の罐め方の意義ほ,分散投資

(3)  一部の学者は,株式投資の方針を確実一点張りの純投資と値上り獲得の投機に

分ち,前者を防禦的,後者を攻撃的となし,延いてそれぞれに適した株式銘柄を防

禦株,攻撃株とみんとする(例えばソーベインの如し。 H.C.S a u v a i n ,  o p .  c i t . ,  p p .  

1 7 0 ‑ 1 7 3 . 。 この見解に立てば,攻撃株, 防禦株の分別は投資信託の運用組合わせ )

と関係なく,それを離れても存在し得ることとなるが,私はこの種の見解には賛成

出来ない。蓋し上の見解は保守的,進取的という対照的な二つの態度を比較的に眺

め,それぞれ防禦,攻撃と認識する立場であるが,本来,防禦,攻撃とは対照的な

二つの事態に対する言葉でなく,相反する二つの態度が関係する所に成立する称呼

であるからである。戦争,競技に於て一方の追撃に対し他方がそれを防止せんとす

る所に,攻撃,防禦の称呼が生まれること周知の通りである。株式投資に於てほ勿

綸このような押合い的な関係はないとしても,同一主体が値上り本位の投機的態度

をとりつつ,それだけでは危険とみ,それをカバーせんとして投資的態度をとる所

に両者は関係し,ここに始めて攻撃,防禦という見方が成立するのである。

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投資信託の運用対象論(今西)

を有効に行うにあるが(例えば重工業部門に属する事業株の間に分散するの では分散が不徹底で他の部門の間に亘るべきであるが如し),時としては逆に

(特定部門の事業株のみを組入れ)運用の特色を発揮するところに見出され る 。

共同投資組織の運用株式の種別としては,何より会社の営む事業を取上げ ねばならないとしてその方向の種別をなしたが,運用株式の種別として取上 げるべきは,なお外にもあることを知らねばならない。それは会社の経営規 模である。会社の経営規模が運用株式の種別としてどのような意義があるか といえば,大規模な会社ほど一般に業績が安定し,規模の小なる会社ほ業績 の安定を欠くがその代わり相対的に膨脹度が大きく,共同投資組織の運用目 的からみて,それぞれ適当とする対象をつくるところにある。運用株式を会 社の規模から種別する場合,大規模会社株式(大型株)と小規模会社株式

(小型株)の中間に中規模会社株式(中型株)を設けることは一般に認めら れるとして,それらの境界をどこに引くかは,見解必ずしも一致しないと思 われる。勿論,これは国により時代によって動き,又会社の営んでいる事業 の種類によっても異るので一概に資本金の大いさで決められないところもあ るが,現在の我が国として,資本金 2, 30 億円以下は小型, 4, 50 億円乃至 1 0 0 億円程度は中型, 200 億円以上は大型となして大過がなさそうである(運 用株式は通有性として市場性の大なることが条件となっており,市場性の大 なる銘柄はその存在が多量で,よく分散していなければならず,従って小型 といってもそれは一般にいう中小会社でなく,正碓に云えば大会社中の比較 的小さい会社という意味である。こんなことは判り切っていると思うが,念 のため一言しておく)。

共同投資組織運用株式の種別を終えれば次は運用公社債の種別に入るべき であるが,この種別は余り重要性しまない。既に知れる如く,多くの証券共同

ヮキ

投資組織が公社債を組み入れるのほ,一時的に少量を側役としてであり,既

述,市場性などの適格性以上に組入れ公社債に特別な性格を要請しないので

ある。ただ,証券共同投資組織にほ公社債専門のものがあり,これについて

は多少要求が起らないでもないので,簡単に触れることとする。運用株式の

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投資信託の運用対象論(今西)

場合,会社の営んでいる事業が種別の基礎となったが,運用公社債にあって は発行者の事業はそれほど重視するに及ばない。公社債市場界に於ては発行 者の身分や存在期間が取上げられ,国債,地方債,公企業債(政府保証債),

社債と分ち,又長期債,中期債,短期債と分つことが寧ろ盛んに行われてい る。そこでも発行者の事業が取上げられないでもなく,社債に限られるが,

金融債,電力債,事業債と分つことは可成り通用している。が,それにして も,これら公社債市場界に於て採用されている分類は,今公社債共同投資組 織に於ける公社債運用に当っては余り生きないのである。蓋しそれらの種類 の間に分散しないと危険分散が出来ないというほどでなく',又どれかの種類 を中心とすれば運用の特色が発揮されるというほどでないからである。改め て云うまでもなく,公社債共同投資組織は投資本位の投資者が一段と碓実性 を要請するところに生成するものであり,この要請は一流の低利廻り債より

も二,三流の高利廻り債において著しい。斯くて,共同投資組織運用の点か らは,公社債の種別は高利廻り債と低利廻り債の二つとなすのが適当となる。

共同投資組織の運用証券の種別として最後に残されているのほ,外国証券 に就いてである。既に知れる如く(共同投資組織の生成論で触れられる筈で ある),共同投資組織と外国証券の関係は,殆んど株式が対象とされ,それも 自国証券を主体とする共同投資組織が外国証券を一部分取入れるのでなく,

外国証券のみの共同投資組織として生成するのであるが,一つの共同投資組

織が各国の証券を混ぜて運用することは少く,各国証券毎に別個の共同投資

組織として生成するところである。従って,或る国として共同投資組織の運

用外国証券の種別は,各国別が何よりとされることになる。外国証券に対す

る投資が盛んな国でほ,或る外国証券の共同投資組織も一種でなく,比較的

投資色の濃い運用組織と比較的投機色の濃い運用組織との二種が存在せんと

し,ここに運用外国株式も安定産業株と成長産業株の二種に大別することが

意義をもたんとする。併し外国株式であるので,各種産業株に分散するほど

の必要もなく,反面或る産業株に集中さすこと(例えば外国の鉄道株中心に

運用するというが如し)も出来ず,おのずからそれ以上に具体的な産業事業

別を行うには及ばないとなしてよい。ただ大型株,中小型株の種別は安定株,

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投資信託の運用対象論(今西)

成長株と関連があるのでなしておいてもよいであろう。

3  運 用 銘 柄 の 組 合 わ せ

前段に於て運用銘柄の大体の種別を終えたので,それらの組合わせによる 運用型の考察に入ろう。先ず投資本位目的の共同投資組織として存在してよ いと思われる組合わせ型を挙げ,簡単な解説をなしてみる。

( 1 ) 安定業種と成長業種 成るべく多くの事業 大型会社株式と中型

に亘る 会社株式

( 2 ) 安 定 業 種 成るべく多くの事業 大型会社株式と中型

に亘る 会社株式

( 3 ) 安 定 業 種 成るべく多くの事業 大型会社株式 に亘る

( 4 ) 安定業種と公社債, 成るべく多くの事業 大型会社株式

優先株 に亘る

既に感知せられるであろうが,( 1 )から ( 4 ) へと進むに従い,一層投資本位と なる。アメリカ合衆国に於て分散普通株ファンド D i v e r s i f i e dCommon s t o c k   fund と呼ばれているファンドは,(1 ) , ( 2 ) ,   ( 3 ) の型に該当すると思われるが,

同国のデイバーシィファイド・コモン・ストック・ファンドは各事業に亘る ことが主眼とされ,安定業種中心に組入れられているか稲々疑問である。 ( 4 ) の型に相当するものほ,アメリカでは均衡ファンド B a l a n c e dFund として 採用されている。

次に,投機兼投資目的の共同投資組織として存在してよいと思われる組合 わせ型は,

( 5 ) 新 興 業 種 事特業 定事業又は小数の 小型会社株式 に亘る

( 6 )   新興業種と成長業種 特 事 定 業事業又は小数の 会 小 型 社 株 会 社 式株式と中型 に亘る

( 7 ) 成 長 業 種 普通程度の数の事業 小 会 型 社 株 会 社 式株式と中型 に亘る

( 8 )   成長業種と安定業種 普通程度の数の事業 会 中 型 社 株 会 社 式株式と大型 に亘る

この場合も ( 5 ) から ( 8 ) へと進むに従い投機色が少くなっていることは,説明

するまでもない。 ( 5 ) , ( 6 ) も投機兼投資目的の運用型に入らないではないが,

(15)

投機兼投資目的の運用型として最も代表的なのは,( 7 ) , ( 8 ) となすべきところ である。この ( 8 ) において,又先の ( 1 ) において,成長業種に属する会社株式と 安定業種に属する会社株式を組合わすのに対し,一般に,世間では前者を攻 撃的銘柄,後者を防禦的銘柄と呼ばんとしている。これは,前者でキャビタ ル・ゲインを狙い,後者でインカムを碓保するによって全体としての収益を 高めんとしているところをみたものに外ならない。アメリカに於て特定産業 普通株ファンド S p e c i f i e dCommon s t o c k  fund と呼ばれているファンドは,

( 5 ) ,   ( 6 ) の型に該当するものと思われる。

株式共同投資組織の組合わせ型の終りに一言しておくべきは,以上の型別 はそれぞれ包括的,標準的なものであることである。例えば ( 8 ) の型は成長業 種の事業株と安定業種の事業株を組合わすとしても,何れを多くするかによ

って或る程度趣の違った運用型となり,又組入れ株式の会社規模を大型を多 くするか中型を多くするかによっても,趣ほ幾分異ったものとなる。併しこ れらは ( 8 ) の再分とし,型としては ( 8 ) に包括してよいのである。

次に公社債共同投資組織の組合わせ型としては,

( 1 )   高利廻りの社債中心

( 2 )   高利廻りの社債と低利廻りの公社債 ( 3 )   低利廻りの公社債中心

しかし実際には ( 1 ) , ( 2 ) が普通で,( 3 )は稀としなければならない。優先株は 株式の一種に違いないが,共同投資組織としては寧ろ社債と同類となしてよ

ぃ。アメリカでも債券優先株ファンド Bondand p r e f e r r e d  S t o c k  fund とし て一つの運用型として扱っている。

最後に外国証券共同投資組織の組合わせ型としては,各国別となることは 最早云うまでもないとして

( 1 ) 安 定 業 種 普通程度の数の事業 大型会社株式 に亘る

( 2 )   安定業種と成長業種 普通程度の数の事業 大型会社株式と中型

に亘る 会社株式

アメリカに於てはカナダ・ファンド Canadianfund は ( 1 ) の型,ジャパン

・ファンド Japanfund は ( 2 ) の型とみられ,イギリスなどに於てもジャパン

(16)

投資信託の運用対象論(今西)

ファンドは( 2 ) の型とみる人が多いようである。併しこれはアメリカ経済やイ ギリス経済に比べ稲々後進的な日本経済の成長がより大であるので,そう認 識されるに過ぎず,われわれ日本人からみればそれらの国のジャパン・ファ ンドは ( 1 ) の型に属せしめざるを得ないところである。見誤ってはならないと 思う。

既に先にも要言したが,これまで述べた運用対象組合わせの型は,理論的 に想定せられる標準的な型であり,実際にはその国の証券界の状況などによ りそのうちの或るものだけが現れ,又現れるものも弾力的というか標準的な 型の幾分崩れた姿となることは免れない。併し,これも一部既に触れた如く,

アメリカなどに於ては,或る程度,標準的な型のものが存立しつつあるとこ ろである。これに対し,我が国に於ては,今日までのところ,存在する投資 信託の運用組合わせ型は,種類極めて少く,その単純なこと運用者の頭を疑 い度くなるほどである。公社債投資信託は兎も角とし,株式の投資信託ほ,

一体投資本位目的か投機兼投資目的か目的そのものがはっきりせず,延いて 運用組合わせも千変一律で,安定業種,成長業種に亘り凡ゆる事業株を手当 り次第に多数組入れている始末である。そこには投資信託の運用に組合わせ 型というものがあることを知っているのか疑わしく感じられる。僅かに,少 数の委託会社の手で大型株投資信託が設けられているが,これも投資目的本 位のものであることが窺われるのみで,既述標準型の ( 3 ) か ( 4 ) か明瞭に区別出 来ない。

斯くて,我が国の共同投資組織,即ち投資信託の,健全とは云わぬが,底

カのある発展のために何より計らねばならないのは,運用銘柄組合わせ型に

バラェティを持たすことである。今,理想的と思われる設計図を画いてみれ

ば,先ず,各委託会社は何れも長期限存在,即ちオープン・エンド型の投資

目的本位の運用型を設定する。それも既述 ( 1 ) , ( 2 ) ,   ( 3 ) ,   ( 4 ) の何れかの型を採

用し,各委託会社毎にそれぞれ特色をもつようにする。而して或る委託会社

はl l ) , ( 2 ) ,   ( 3 ) ,   ( 4 ) の何れか一つだけか,もう一つの型を並行(このときは二

つとなる)してもよいが,多くの委託会社としては投資本位目的のほかに投

機兼投資目的の投資組織を並行的に設定するようにするがよい。勿論,後者

(17)

投資信託の運用対象論(今西)

も長期限存在のオープン・エンド型であるが,各委託会社は既述投機兼投資 目的の運用組合わせ型の ( 5 ) , ( 6 ) ,   ( 7 ) ,   ( 8 ) の何れか一つを採用し,一段と特色 を発揮するよう努めるべきである。処で,各委託会社は以上の如くオープン

・エンド型で,投資目的本位の運用組合わせ型の一つ或は二つを採用するゆ き方か,投資目的本位の組合わせ型の一つと投機兼投資目的の組合わせ型の 一つを並行するゆき方の何れかをとるとして,それを恒常的な生き方とする のが望ましいのである。恒常的な生き方と云えば,臨時的な行動のあること を示唆するが,正にその通りである。つまり時に応じ別にクローズド・エン ド型(正碓にはセミ・クローズド・エンド型)を行えばよいというのである。

投資信託制のクローズド・エンド型は有期限存在で,ここぞと思う機会に活 用すべき投機兼投資目的の投資組織として意義をもっ。勿論,オープン・エ ンド型の投機兼投資目的のもので充分に目的を達していると思う委託会社は,

特にこれを採用するに及ばないが,そうでない委託会社は,恒常的な投資組 織のほかにクローズド・エンド型で投機兼投資目的の運用組合わせ型のうち から特色ありと思う型を採用するようにすれば,一国共同投資組織の運営は 正に妙となるところである(従来我が国では凡ての投信委託会社はセミ・ク ローズド・エンド型のものを(ユニット型と呼んでいる)殆んど毎月設定し て来た。これは誤りも甚しいが,その事は別の機会に論ずる。ここではクロ ...,.ズド・エンド型の正しい活用の仕方だけを取上げるに止める)。

4  単 位 投 資 組 織 の 組 入 れ 銘 柄 数

繰返すまでもなく,運用銘柄の組合わせほ,共同投資組織に於ける分散投

資はただ漠然と多数の銘柄に分散さすだけでは能がなく,投資目的に則応さ

しつつ,運用の特色を発揮ささんとするのを狙いとする。つまりそれは分散

投資を効率的に行わんとするまでで,分散投資の原則の上に立つことを捨て

るものでない。而して先に掲げた如く,或る運用型では組入れが特定事業乃

至少数の事業に亘るのみだとすれば,組入れ銘柄の数は余り多くならないと

も考えられる。素より分散平均投資の原則に立つという以上,組合わせ型に

取入れられる銘柄数は,飽くまで或る程度以上に多数でなければならない。

(18)

猥 難 の 顆 対 象 論 ( 今 西 )

ここに共同投資組織の単位組織に組入れる銘柄数は,少くとも幾許でなけれ ばならないかが問題となる。

一体,物体を支える場合,二本の足では安定性を欠き,三本の足,即ち鼎 となって漸く安定が得られるが,或る事物の間に危険の分散を計る場合も同 様である。今, A と B の間で業績の平均をとらんとしたとき,双方が悪くな る場合,双方が良くなる場合に対し,一方が良くなり他方が悪くなるという 平均の効くケースは二つしかなく(良くなる度合,悪くなる度合の点が残る が,この点は暫く問わないことにする),業績平均の効果は不充分である。こ れに対し, A, B,  Cの三種となれば,凡てが良くなるケース,悪くなるケ ースに対し,一種が悪いが二種が

9

よいケースが三つ,二種が悪くても一種が よいケースが三つ,計六つ生じることになり,業績平均は一段と有効となる。

勿論,この平均の理ほ,共同投資組織の投資にも当てはまるところで,従っ てその単位組織の分散組入れ銘柄数は,この理論によって決めるべしとなる。

先ず一つの組織に組入れる事業の数は最低三種を原則としなければならない。

更にそれぞれに属する銘柄として組入れる株式数は最低三種,即ち三会社の 株式としなければならない。この両者を組合わすと九銘柄となるが,一つ切 上げて十銘柄とすればラウンド・ナムバーになり判り易い。結局,共同投資 組織の一単位組織に組入れるべき銘柄の数如何は,最低十銘柄というのが答

となるわけである。

先に述べた如く,投機兼投資目的の共同投資組織の運用組合わせ型には新

興業種や成長業種に属する事業のうちの特定事業に投資するものがあり,こ

の場合は上の少くとも三事業に亘るという原則に反することになるという質

問が起るかも知れない。一応はそうである。併しこの場合もそれが共同投資

組織の運用である以上,分散投資の原則ほ飽くまで守られるべきである。結

局,この場合は,事業を一事業に特定することは,その運用の特色を生かす

ものとして已むを得ないが,その代わり,そ事業に属する会社株式を三種に

止めず,少くとも十会社の株式を取入れることが要請されることとなる。上

と反対に,投資本位目的の運用組合わせ型は,殆んど,安定業種に属する多

くの事業に亘り分散投資することになっており,この場合,事業の種類は少

(19)

投資信託の運用対象論(今西)

くとも三種を選ばねばならぬという条件は問題なく満たされるとして,事業 毎に三種以上の会社株式を取入れるため組入れ銘柄数は非常な数となること が予想される。素よりそうなることは,危険分散に適うわけで峯も差支えな いが,余りに組入れ銘柄数の多いときは,運用に当り組入れ株式の会社の分 析,検討が煩雑となるのみならず,或る程度の多数を越えた分は危険分散の 作用を余り発揮しなくなるのだ。つまり取入れ事業の種類が十数種以上とも なれば,事業の間で既に危険分散が行われ,各事業毎に三種以上の会社株式 を組入れることは強いて行うに及ばないとなるのである。斯くて,取入れ事 業数の多い運用型を採用するときは,ー事業につき二,三会社ずつ選んでの 株式組入れを行ってもよいわけである。

前段に,我が国の投資信託が運用組合わせ型をもたないことを指摘したが,

同時に彼等の組入れ銘柄の数も無闇に多かった。若し彼等が何れかの運用型 に立っておれば,そのように多くの銘柄を組入れることはなかった筈だと云 われるが,一面我が国投信委託会社の間に多くの銘柄を組入れるほど分散平 均がよく行われるという素朴な考が強かったことも否定出来ないと思うので ある。そうだとすれば,たとえ何等かの運用型に立っていても,矢張り組入 れ銘柄の数は移多となったかも知れない。何れにしても,上述の如く,或る 程度以上に銘柄を多くしても危険分散の点では最早効果が発揮されないのみ ならず,徒らに多くの銘柄を組入れるときはそれらの会社の分析が手薄とな るにおいて,我が国の投資信託としては組入れ銘柄数をもっと合理的な数と

(4) 

なすよう努めることが勧められるところである。

(4)  アメリカの投資会社の組入れ株式をみるに ( A r t h u rw i e s e n b e r g e r の年鑑 I n ‑

v e s t m e n t   companies の巻末に掲げられているものによる). D i v e r s i f i e d Common 

s t o c k  fund とみられるものでも,取入れ事業の数は多くて 1 0 種ぐらいで,組入れ株

式は 1 0 0 会社ぐらいが普通となっている。投資規模の一段と小さい我が国の投資信

託が何れも 1 0 0 銘柄以上も組入れているのは,何としても多過ぎると云わざるを得

ない。

(20)

投資信託の運用対象論(今西)

5  運 用 銘 柄 の 固 定 組 入 れ 方 式 , 差 替 え 組 入 れ 方 式 自由組入れ方式

共同投資組織の運用に於ける組合わせ型なるものは,運用目的に副い所定 の業種に属する事業を営む大型或は中型,若しくは小型の会社株式を適当に

(前段に述べた如く最低必要数以上)組合わすにあるが,具体的に如何なる 会社株式を取上げるべきやまで注文をつけるものでない。勿論当該組合わせ 型の条件に適う株式銘柄には色々あり得,従ってその何れを取上げるかによ

って同一の組合わせ型でも色々な運用種類が生ずるわけである。処で,この 各種の組合わせ型に於て取入れる銘柄につき,共同投資組織として初めから 碓定しておくやり方と,運用担当者たるエキスパートに選択さすやり方とが 考えられる。前者は所謂固定方式であるが,これにも厳格に云えば二種あり 得る。一つは,初め組入れた諸銘柄とそれぞれの数贔をそのまま最後まで投 資を続ける方式であり,他ほ,組入れ銘柄の種類は初めからそのまま変更を 加えないが,時に応じ或る銘柄の組入れ量を増減することがあるとせられる

(一部分を売却し或は買増す)方式である。後者の組入れ銘柄の種類と数量 が運用エキスパートの選択に任かされる方式も,更に二つに分たれる。一つ は,組入れるべき銘柄の種類を共同投資組織として予め定めておき,運用者 はその中から適当なものを適当な量だけ組入れる方式であり,或る銘柄を売 却し代わりに他の銘柄を組入れるとしても,それは予定された銘柄の中から 選ばねばならないのである。私はこれを差替え方式と呼ぶことにしている。

他の一つは,共同投資組織として組入れる銘柄を予定せず選定を一切運用エ キスパートに任かす方式である。私はこれを運用自由方式と呼ぶことにして いる。

以上,組合わせ型の運用に固定方式,差替え方式,自由方式の三種あるこ とを述べたが,これら三種が運用上どのような特色をもつかは,殆んど想像 がつくと思う。が,念のため要言すれば大体次の如くである。先ず,固定方 式は運用の内容が最もはっきりする。併し何としても運用に弾力性がない。

特にこの方式のうちの組入れ銘柄を初めから終りまで変更しない方式は,短

(21)

投資信託の運用対象論(今西)

期間存在の共同投資組織しか採用するのは難かしく,又これでは運用者は単 なる投資番人たる地位に止まることになる。必要に応じ一部分売却,買増し の認められる方式ほ,長期間存在の共同投資組織にも採用出来ないでもなく,

運用者もその時機に手腕を振う余地がないでもないが,極めて限られる。勿 論,運用者の運用成果に対する責任は軽くなるが,優れた運用者と結びつか ない(優れた運用者に担当さすまでもない)方式ということになる。次に,

自由方式は運用の内容がはっきりしないものとなり易い。たとえ或る運用組 合わせ型といってもそれに組入れ得る銘柄の種類,又数量の如何により,そ れぞれ或る程度特色をもつことになるものであるが,自由方式ではそれらが 機に応じ変わることになるがゆえ,特色は永続きしない。自由方式の特徴ほ 何としても運用担当者が運用銘柄の種類と数量につき選択手腕を大いに発揮 し得るところにある。勿論,反面運用者の責任は重く,まじめな運用態度を 前提とする限り,有能でない運用者には難かしい方式となる。最後に,差替 え方式の特徴であるが,これは大体前二者を折衷していると云われる。運用 銘柄は余裕を以て予定されているがゆえ,その選択に運用者の手腕を発揮す る余地はあり,一方予定銘柄の枠内で選択すればよいがゆえ,銘柄選択につ き自由方式ほど責任はないとなる。但しこの差替え方式の特徴につき注意し ておかねばならないのほ,それは実際の運用銘柄の数に対し候補銘柄の数が 適当な割合一~例えば二倍ぐらいとされている標準的な差替え方式に関する ことである。等しく差替え方式でも,実際に運用する銘柄数に比べ予定候補 銘柄が多過ぎるときは,自由方式に近附き,逆に候補銘柄が少な過ぎるとき は固定方式に近附くこと,申し添えるまでもない。

上に要述した特徴から,固定組入れ方式は当該社会に運用銘柄が少く,又 優れた運用エキスパートの少い場合に通用する方式であり,証券資本主義の 進んだ先進国に於てほ,今日では,過去の方式だと云ってよい。これに対し,

自由組入れ方式は進んだ国では活用されてよい方式であるが,証券資本主義 が進んだ国でも優秀なエキスパートが多数存在しているとは限らないので,

矢張り一番無難なのは差替え組入れ方式ということになる。我が国に於ては

これまでユニット型,オープン・エンド型を通じ殆んど差替え方式を採用し

(22)

投資信託の運用対象論(今西)

て来たが,共同投資組織の歴史が浅く,優れたエキスパートの少かった我が

国として当然であったというの外がない。ただ我が国の差替え組入れ方式に

つき,ここで注文して置かねばならないことがある。それは前段の終りに述

べた我が国の投資信託の運用銘柄の縮小は,運用候補銘柄の縮小から始める

べきことである。その理由は,運用銘柄の縮小ほ勿論実際に組入れる銘柄の

数を減少することであるが,運用候補銘柄が従来の如く過多のままにされて

いては,差替え方式は実質的には自由組入れ方式に近いものとなるからであ

ること,注釈するまでもないであろう。

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