投資信託の運用対象論
その他のタイトル Selection and Grouping of Securities in the Investment Trust
著者 今西 庄次郎
雑誌名 關西大學商學論集
巻 13
号 3
ページ 205‑225
発行年 1968‑08‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00021250
投 資 信 託 の 運 用 対 象 論
今 西 庄 次 郎
1 運用銘柄の適格性
投資信託(証券共同投資組織)の運用対象としては,株式のほかに公社債,
転換社債等もあるが,主たる対象物件が株式であることは,改めていうまで もない。株式には優先株もあるが,我が国などでは殆んど普通株であるので,
まず普通株を中心としてその適格性を取上げることとする。
一般に株式投資の運用銘柄の適格性と云った場合,何より挙げられるのは,
価値の大きい株,所謂優良銘柄たることである。素より優良株が共同投資組
織の運用銘柄とならないのではない。併し共同投資組織に於てほ,優良銘柄
でなければ運用対象とならないというのではない。確かに,個人株式投資に
於ては,優良銘柄たることは運用銘柄たる一般的要件である。既に知られる
と思うが,個人株式投資の場合は,インカムを中心目標とする純投資のみが
株式投資として成立し,キャビタル・ゲインをも併せ追う投機兼投資は(純
投機ほ勿論)株式投資というカテゴリーから外れるのである。延いて,この
場合には優良株であることが一般的条件とされ,運用対象は必ず優良銘柄で
あるべしとされる。これに対し,株式共同投資組織は純投資のほか,投機兼
投資も所謂投資行動の範囲に入る。株式共同投資組織がこのような性格,任
務をもち得るのほ,大量分散投資という仕法を活用し,又充分な調査機関を
もつ投資エキスパートによる運用組織である所に基づくこと,弦に説明する
までもない。斯くて,凡ての株式共同投資組織について云った場合,その運
用対象は優良株に限られるべきでなく,優良株でない成長株や新興事業株の
中からも選んでよいとなり,優良銘柄たることは運用銘柄の一般通有性とは
ならないのだ。
投資信託の運用対象論(今西)
所謂成長株の意義や解釈に就いては,人によって梢々区々のようであるが,
私は単に成長株と云うよりは,成長事業株と云った方が適わしいのでないか と思う。蓋し小資本の小型会社株を成長株とみなす俗見が一部にあるからで ある。世間では成長株と優良株とは対立するものと考えている。否,このよ うな人は随分多い。併し,本来両者は対立的な概念,株式の種別ではない。両 者は違った角度からされる株式の種別なのである。優良株とは価値の大きい 会社株式であり,これと対立するのほ価値の中位な通常株,価値の小なる劣 等株である。成長株とほ上記の如く発展性の余地の多い事業を営んでいる会 社株式の謂であり,これと対立するのは安定事業株,新興事業株等である。
従って,成長株の中にも優良株はあり得るのであり,両者は決して両立しな いものではない(個人株式投資では,単なる優良株よりも,優良株で成長株
(1)
を兼ねているものの方が一層よしとせられる)。 ただ成長事業は収益的にみ た場合,その基盤がしっかりしておらず,将来伸びるシェアを目ざしての企 業競争の激しい事例が多く,成長事業株で優良株に到らないものも少くない。
新興事業株に至っては,その国に於ける緒についたばかりの事業を営む会社 株式であり,一層優良株は少い。ここに世間の人々が優良株と対立する株式 として成長株,新興事業株を認める原因が存するものと思われるが,何れに しても投機兼投資目的の共同投資組織としては,これらの一一優良株でない
—成長株,新興事業株の或るものをも取入れて差支えないのである。
以上,株式共同投資組織の運用銘柄は凡て優良株でなければならぬことの ないことほ,知られたと思う。然らば株式投資信託の運用銘柄の通有すべき 適格性として何があるかと云えば,何より,市場性 M a r k e t i b i l i t y の大なる ことである。株式証券の市場性とは,その株式が何時にても市場にて売れる
(2)
こと,売れ易いことである。尤もこの売れ易いということは売買市場性であ り,市場性としては更に金融の担保物として通用する,担保物としてとられ 易いという担保市場性も含まれると云われる。従って広義では両者を含める
(1) 拙稿「株式価値の株式投資への応用」本誌第 1 2 巻第 1 号 3 頁 (2) 拙著「証券価値論」昭和 3 7 年 166‑168 頁
H.C. S a u v a i n , I n v e s t m e n t Management, 1 9 5 3 . p p . 1 6 1 ー 1 6 3 .
必要があるわけだが,主としては矢張り売買市場性を指すものとなしてよい。
而してこの市場性をつくり上げる要素となるのは,会社株式の存在数量が多 いこと(延いて資本金の大であること)であり,次にその分散がよく進んで いることであり,更に所謂市場人気がついていて日々売買の盛んなことであ る。何がゆえ市場性が一切の運用銘柄のもたねばならぬ適格性となるかとい えば,これは共同投資組織は,チャンスとみれば手持ち株を売却すべき組織 であり,そのため売れる銘柄であることが何よりの要件となるからである。
小資本で存在量の少い会社株式は共同投資組織の大口投資には物足らず,又 通常思うように手に入れ難いものであるが,その価格を吊上げるのに好都合 という面もある。けれどもこの種の銘柄は市場性が薄いだけ売るという段に なると果して売れるや確実でなく,仮令価格が騰貴したとしても絵にかいた 餅のような態にならんとする。何れにしても,市場性の大なる銘柄でなけれ ば共同投資組織の運用銘柄たる資格なしと云って過言でないのである。
共同投資組織の運用銘柄は何より市場性の大なるものでなければならない
が,市場性が大といってもそれには相当な幅があり,従って今,どの程度に
大でなければならないかが問題となる。これを決する具体的な基準としてよ
いのは,その国の株式取引所に上場されている銘柄 L i s t e dS t o c k s というこ
とである。蓋し何れの国に於ても,株式取引所の上場条件として市場性の素
地のあることを絶対要件としているからである。斯くて,共同投資組織の運
用銘柄はその国の株式取引所上場銘柄ということになり,或る意味で結論ほ
簡単だということにもなるが,ただ我が国に於ては,この点,尚少し問題が
残る。それほ我が国の株式取引所(証券取引所)は純粋に取引所でなく,株
式取引所と株式実物市場が混合した市場構成となっているからである。周知
の如く,今日我が国の株式取引所,就中東京証券取引所,大阪証券取引所な
ど主要取引所は第一部と第二部の二つの市場から構成されているが,その第
二部市場は薄資投機の参加を認めない実物市場である。従って,二部上場銘
柄は取引所上場銘柄でなければならぬという共同投資組織運用銘柄の資格
をもたないことになるが,実際にもそれへの上場条件は株式数,分散度など
今一息というところで,市場性は竜も一流でない。併し我が国株式取引所で
投資信託の運用対象論(今西)
ややこしいのは,二部市場よりも一部市場である。蓋し二部市場が単に実物 市場であることははっきりしているのに対し,一部市場こそ取引所と実物市 場が混合しているからである。改めて云うまでもなく,取引所とは薄資投機 の参加を認める市場であり,現在の我が国ではそれは信用取引という方式で 行われている。然も我が国取引所の一部市場の銘柄には,信用取引を認める もの(これらこそ真実の取引所株式である)のほかに,それらを認めない所 謂現物銘柄なるものがある。これらの所謂現物銘柄の市場は本質実物市場に 外ならないのである。ここに,共同投資組織の運用株式は取引所上場銘柄た るべしという条件からは,第一部上場銘柄でも所謂現物銘柄は真の取引所銘 柄でないという意味から資格なしとなることになる。然らばそのように判定 してよいであろうか。吾々は所謂現物銘柄も我が国共同投資組織の運用銘柄 として資格ありと思うものである。一体,株式実物市場上場銘柄は,市場性 の上からみて幅が広く,その下位のものは共同投資組織の運用銘柄として必 要な市場性に達しないのが普通であるが,上位のものは辛うじて必要な適格 市場性を具えている。従って,実物市場上場銘柄は凡てが運用銘柄たる資格 をもたないとしても,その上位の銘柄は資格をもつわけである。今,我が国 の第一部市場の現物銘柄は恰もその上位銘柄に該当するものを上場している 市場とみられるが,事実,上場銘柄を吟味するに,株式数,分散度は可成り であり,ただ人気の度合が薄く需要供給の出廻りが幾分少いため,現物銘柄 に止まっているものが少くない。何れにしても,我が国に於ては共同投資組 織の運用銘柄として適格性をもつのは,取引所の第一部上場銘柄までとなし てよいというのが,最後の結論となる。
共同投資組織の運用株式として資格のあるのは,市場性の大なる銘柄,具
体的には取引所上場銘柄,我が国では取引所第一部上場銘柄であることを指
摘したが,取引所上場銘柄であれば無差別的に取上げてよいというものでは
ない。云い換えると,運用銘柄としては尚もたねばならない資格がある。そ
れは劣等銘柄でないことである。吾々は優良株たることは通有適格とならな
いことを冒頭に強調したが,反面,劣等株でないということが運用銘柄の凡
てに必要な条件となるのだ。劣等株の意義に就いては既に一言触れたところ
投資信託の運用対象論(今西)
であるが,価値の大なる優良株,その中位の通常株に対し価値の小なる株式 である。株式価値の大いさの把握は株式価値論(証券価値論)の領域であり,
その詳しいことは絃には触れない。それは企業の生産性(設備や技術陣の優 劣,労使関係),資本構成,経営スクッフ等がファクターとなるが,収益を目 標とする企業としては矢張りそれらの活動結果たる業績の良否が基となる。
従って,劣等株とは業績の劣っている会社株式であるとなしてよいが,業績 の普通な株式とのけぢめをつける意味ではっきり云えば,現に赤字をかかえ ている会社株式ということになる。
然らば,共同投資組織の運用株式の資格として何故劣等株であってはなら ぬことを加えねばならないのであろうか。これを加えるに就いては,批判的 な見解がないでもない。先ず,共同投資組織には投機兼投資目的のものがあ り,キャビタル・ゲインを獲得するには現在劣等株に属するものでも差支え なく,否,むしろそれらの中に大きい値上り期待のもてるものがあるのだと いう見解がある。更に,批判ほ,共同投資組織はエキスパートが運用に当る のが特色であり,卑しくも投資エキスパートにして劣等株の回避すべきこと を知らない者は居ない筈であるがゆえ,強いて劣等株であってはいけないな どという条件を掲げるに及ばないというところからも,なされる。確かに,
共同投資組織には兼ねて投機目的のものがあるが,これらは投機一点張りで なく投資目的をも堅持するのであり,この立場からは,現在業績平凡でも成 長性のある会社株式の如きは取入れてもよいが,現に相当な赤字をかかえて いるが如き株式は殆んど性に合わず,その種の銘柄には絶対に手を延ばすべ きでないのだ。次に,共同投資組織の運用者は何れもエキスパートであるが ゅぇ,殊更に劣等株でないことを条件にする必要がないという点も,彼等が 絶対に劣等株を選ばないのであればこれを条件としても理論上おかしくない のみならず,これを積極的に掲げることは彼等がエキスパートであるがゆえ に寧ろ必要だとも云われるのだ。そのわけほ,医師の不養生という牲の如く,
彼等のエキスパート過信がややもすればキャビクル・ゲイン獲得のため劣等 株にも手を出す危険が多分にあり,これを厳戒さす必要があるからである。
先の市場性の大なる銘柄という適格性の場合,大といっても相当に幅があ
投資信託の運用対象論(今西)
り具体的にどれ位であるべきかを決めなければならないとして,取引所上場 銘柄たることが与えられたのであったが,今劣等株でないことに就いても.
似たようなことが起る筈である。蓋し現に赤字をかかえているいないという その内容にも種々あるからである。而してこの解決であるが,幾分厄介であ る。一部の人々は,額面株式についてほ,株価が額面価格以下であるか否か を標準とすることを提案する。これによれば,共同投資組織の運用銘柄とし て額面割れの株式は適格性がなく,額面以上の価格たることが条件となる。
併し,会社赤字とその株価との間には関連があるとしても,後者は赤字の現 象そのものでなく,飽くまでその結果,影響たるに止まる。然も株式市場の 具合では.時として赤字が相当であるにも拘らず額面を超える事例がある。
従って,劣等株ほ,矢張り直接,会社の赤字によって決めるべく,その現に 相当な赤字をかかえているという程度は,繰越赤字があり今期現在の黒字で 埋め切れないほどであるか,現在赤字でありその額が過去の積立金や繰越利 益で埋めて配当するのが不穏当とみられるほどであるのを標準とすべきであ る。前者の場合,繰越赤字が比較的少くても現在の黒字が少なければ埋め切 れず,又現在の黒字が比較的多くても繰越赤字が大であれば埋め切れないこ
とは云うまでもなく,後者の場合,現在の赤字が比較的少くても積立金や繰 越利益が少いときは配当は到底許されず,又たとえ積立金繰越利益が多くて も現在の赤字が可成り多いときは配当までするのは不謹慎となるところであ る 。
共同投資組織の運用株式の資格として市場性が大であること,劣等株でな
いことを挙げたが,精確に云えばその資格,条件は二つに止まらない。度々
云うが,共同投資組織の目的には投資一点張りと投機兼投資があり,前者の
純投資目的にとっては,運用銘柄が劣等株でないことは勿論絶対の要件であ
るが,単に劣等株でなければよいというものでなく,積極的に優良株でない
と適合しない。更に,投資目的を遂行するのに種々特色のあるゆき方が考え
られるが,これらの特色を発揮するのにそれぞれ相応しい性格をもった銘柄
が望まれる。投機兼投資目的についても同様なことが云われる。併しこれら
の銘柄の性格,条件は,市場性の大や,劣等株でないことのように,凡ての
投資信託の運用対象論(今西)
運用銘柄に通ずる一般的な資格,条件ではない。これらは寧ろ運用銘柄の種 別とした方がよいと思うので,以下の種別論で取上げることにする。
上来述べた運用対象の適格性ほ株式,就中普通株に就いてであり,公社債 に就いての適格性論が残されている。先ず,公社債に就いても市場性の大な るものであることが適格要件となるであろうか。この場合,議論の焦点とな るのは,公社債には株式にない償還という事態のある点である。公社債には 償還があるとしても長期限のものは共同投資組織としても償還期までの途中 で売却しなければならないことがあり,短期限の銘柄は別として,一般の銘 柄については何時にても売れるという市場性は必要だという主張に対しては,
公社債を組入れる投資組織そのものも,投資本位で長期限となっているがゆ ぇ,市場性は絶対的な要件とはならないという弁解がなされないでもない。
けれども株式共同投資組織に於て公社債が運用されるのほ,殆んど,主体た
ワキ
る株式の側役としてであり,その目的は,途中持株の値下りを避けるため一 時売却した資金,或は次の株式仕入れまでの資金を,銀行預金やコール・マ ネー運用では不利であるのを避けんとするにある。つまり共同投資組織が手 持公社債を途中で売却する必要は稀に起るのでなく往々起るのであり,この ことを知れば,市場性の必要ほ矢張り認めざるを得ないとなる。但しこの場 合の市場性は,公社債なるものは余程市場性が大でない限り取引所上場とな らないがゆえ,実物市場をもつ程度の市場性でも差支えないとなしてよい。
処で,我が国に於ても戦後要望せられていた公社債流通市場の再建が漸く実
現し,先年その実物市場が成立するに至った。その実物市場である点は素よ
り差支えなしとして,その市場が商内活澄でなくノミナルに止っている所が
問題とならないでもない。確かに,そこに上場されている銘柄の市場性は上
場によって一段高められたとは云えない。併しそれらの銘柄ほ組織的市場が
なくても或る程度市場性を具えており,不充分ながら共同投資組織組入れの
条件は具えていると認めてよいと思うのである(尚,我が国では公社債の市
場性が一般に薄いので,恰もそれに対応するものとして共同投資組織ー一勿
論公社債投資信託一がつくられた形となっていること,運用対象論に先立
つ共同投資組織生成論で触れられている筈である)。
投資信託の運用対象論(今西)
株式の場合,運用対象の適格性として劣等株でないことが取上げられたが,
公社債に就いても劣等銘柄でないことが要件となるであろうか。この場合も 劣等公社債とは如何なる銘柄であるかをはっきりさせねばならないが,この 点は割合簡単である。蓋し公社債の性質から元本,利子の支払が危擢される 銘柄は劣等とされるからである(信用度が低く高利廻りの銘柄ほ,所謂二,
三流銘柄かも知れないが,劣等銘柄とまでは云えない)。 このような銘柄ほ,
発行困難であり世に現れない筈であるが,既発債の中にはそういうものが存 在しないでもない。而して劣等な公社債でないことを要件としなければなら ない点も,公社債を運用する共同投資組織は凡て投資目的のものであり,投 機を極度に避けることを考えるならば,容易に肯定される筈である。尚,株 式の場合,劣等銘柄か否かを具体的に碓認することが問題となったが,公社 債の場合この事はエキスパートなら誰でも把握し得るところであるのみなら ず,更にそれを示す格好な指標がある。それは劣等公社債は取引所,実物市 場に上場されないことである。株式の場合,劣等銘柄でも市場性がある限り 流通市場に上場されているが,公社債はその堅実証券という立前から,市場 性だけでなく,元利払の碓実な銘柄であることが上場の条件とされている。
即ち,公社債の場合は,流通市場上場は市場性の大と劣等銘柄でないという,
共同投資組織運用銘柄の資格を二つながら満たしていることを示す具体的指 標であるわけである。
2 運 用 銘 柄 の 種 別
先の共同投資組織運用銘柄の適格性論において,市場性の大や劣等証券で ないという一般的,共通的な条件のほか,運用目的の如何によりそれぞれ適 当,必要とせられる部分的な性格があり,これらは運用銘柄の種別として取 上げる方がよいことを述べておいた。そこで,今この趣旨に従い,共同投資 組織組入れ銘柄の種別をなそうと思うのであるが,株式に就いては,何より,
当該会社の営んでいる事業の種類別が取上げられなければならない。事業の 種類別こそ運用株式の種別の基礎であると云ってよい。
事業の種類別こそ運用株式種別の基礎であるとして,一国の産業の事業別
投資信託の運用対象論(今西)
は必ずしも統一的に碓定されていない。事業別を用いる目的の如何で相当に 精粗がある。例えば株式取引所の立会ポストは事業別で種別されており,今 共同投資組織運用株式の事業別の決定に大いに参考になるが,それは立会場 の広さや或る事業株の数の多寡により,可成り異種の業種のものも或る業種 に纏められている。製糖業と麦酒醸造業を食料品業部門に,綿紡績業と合成 繊維業を繊維業部門に,化学肥料業と製薬品業を化学工業部門に,貿易業と 百貨店業を商業部門に握めているが如くである。従って,取引所の立会ポス トを分つ業種別は共同投資組織運用株式の種別にそのまま用いられず,それ ぞれ再分し正碓なものとしなければならない。事業別で運用株式の種類を決 める際,実際に当面するのは,会社によっては一種の事業を専門的に営まず 二種以上の事業を兼営することがあり,これを如何に処置すべきかである。
綿紡績業と合成繊維業というように接近した事業を運営しているときはまだ しもであるが,綿紡績業と化粧品製造業を兼営する会社の如きは厄介である。
結局,これはその会社の事業収益額の大きい方の部類に入れるべきだと思う が,略々等しい収益源となっている事業を二種営んでいるときは,それぞれ の事業会社株式として処置するほかないであろう。
以上,共同投資組織の運用株式の種別として会社事業別が基礎となるとし たが,これを出発点として運用銘柄の分散,組合わせを考えるのは早過ぎる と云わねばならない。蓋し共同投資組織が運用銘柄の分散,組合わせをなす に当り,自己の運用目的に従い,純投資目的のときは,何より景気の影響が 少く,収益が安定している安定業種株式を中心とし,投機兼投資目的では,
途中収益に波瀾があっても将来性のある成長業種や夢のありそうな新興業種
を加えてもよいとせられるからである。斯くて,共同投資組織の運用株式の
種別としてほ,会社の営んでいる具体的な事業別より以前に,或は具体的な
事業別の上に,安定業種,成長業種,新興業種の種別を設け,具体的な事業
を,これらの三種別に大別することが有意義となる。一般的に云って,当初
新興事業であった事業の或るものがやがて成長事業に進み,更に安定事業に
到達するのが普通の順序であるが,或る事業が現在どの業種に入るかは国に
よって必ずしも同じと云えない。実際の応用に当り,或る事業が何れの部類
投資信託の運用対象諭(今西)
に入るかにつき明碓にし難いものもあるが,これは共同投資組織運用者の判 断に任かすほかない。
( 註 ) 共同投資組織の運用株式を防禦株 D e f e n s i v es t o c k sと攻撃株 A g g r e s s i v eS t o c k s に分つことが一部に行われる。否,盛んである。この種別につき知らねばならない のほ,その用法が,投機兼投資目的の投資組織において,安定事業株と成長事業株 乃至新興事業株を組合わすとぎに生まれ,前者が防禦株,後者が攻撃株とされるの である。つまりそれらは運用組合わせによって生まれる株式の性格,地位であり,
連用組合わせ以前の性格を問題にしているここでは,当面の種別とはならない。そ (3)
れらは後の運用組合わせ論の所で触れるべき事項である。
共同投資組織の運用株式の種別は,第一に安定業種,成長業種,新興業種 の三種となし,具体的な事業株の種類はそれぞれの再分類に入れるべきだと いうことは,多数の具体的な事業株を三種類に纏めることに外ならないが,
然も多数の具体的な事業種類を纏めるとなると,なお他にも纏め方がある。
それほ近隣関係乃至共通の性格を以てする纏めである。例を挙げると,重工 業株(鉄鋼業,非鉄金属工業,重機械製作業,車輌工業,造船工業などの株 式),軽工業株(綿其の他天然繊維業,合成繊維業,製紙業,パルフ゜工業など の株式),交通業株(鉄道業,自動車運輸業,海運業,航空業などの株式),商 業サービス業株(貿易商社業,百貨店業などの株式),金融関係業株(銀行業,
保険業,証券業などの株式)等である。この種の罐め方の意義ほ,分散投資
(3) 一部の学者は,株式投資の方針を確実一点張りの純投資と値上り獲得の投機に
分ち,前者を防禦的,後者を攻撃的となし,延いてそれぞれに適した株式銘柄を防
禦株,攻撃株とみんとする(例えばソーベインの如し。 H.C.S a u v a i n , o p . c i t . , p p .
1 7 0 ‑ 1 7 3 . 。 この見解に立てば,攻撃株, 防禦株の分別は投資信託の運用組合わせ )
と関係なく,それを離れても存在し得ることとなるが,私はこの種の見解には賛成
出来ない。蓋し上の見解は保守的,進取的という対照的な二つの態度を比較的に眺
め,それぞれ防禦,攻撃と認識する立場であるが,本来,防禦,攻撃とは対照的な
二つの事態に対する言葉でなく,相反する二つの態度が関係する所に成立する称呼
であるからである。戦争,競技に於て一方の追撃に対し他方がそれを防止せんとす
る所に,攻撃,防禦の称呼が生まれること周知の通りである。株式投資に於てほ勿
綸このような押合い的な関係はないとしても,同一主体が値上り本位の投機的態度
をとりつつ,それだけでは危険とみ,それをカバーせんとして投資的態度をとる所
に両者は関係し,ここに始めて攻撃,防禦という見方が成立するのである。
投資信託の運用対象論(今西)
を有効に行うにあるが(例えば重工業部門に属する事業株の間に分散するの では分散が不徹底で他の部門の間に亘るべきであるが如し),時としては逆に
(特定部門の事業株のみを組入れ)運用の特色を発揮するところに見出され る 。
共同投資組織の運用株式の種別としては,何より会社の営む事業を取上げ ねばならないとしてその方向の種別をなしたが,運用株式の種別として取上 げるべきは,なお外にもあることを知らねばならない。それは会社の経営規 模である。会社の経営規模が運用株式の種別としてどのような意義があるか といえば,大規模な会社ほど一般に業績が安定し,規模の小なる会社ほ業績 の安定を欠くがその代わり相対的に膨脹度が大きく,共同投資組織の運用目 的からみて,それぞれ適当とする対象をつくるところにある。運用株式を会 社の規模から種別する場合,大規模会社株式(大型株)と小規模会社株式
(小型株)の中間に中規模会社株式(中型株)を設けることは一般に認めら れるとして,それらの境界をどこに引くかは,見解必ずしも一致しないと思 われる。勿論,これは国により時代によって動き,又会社の営んでいる事業 の種類によっても異るので一概に資本金の大いさで決められないところもあ るが,現在の我が国として,資本金 2, 30 億円以下は小型, 4, 50 億円乃至 1 0 0 億円程度は中型, 200 億円以上は大型となして大過がなさそうである(運 用株式は通有性として市場性の大なることが条件となっており,市場性の大 なる銘柄はその存在が多量で,よく分散していなければならず,従って小型 といってもそれは一般にいう中小会社でなく,正碓に云えば大会社中の比較 的小さい会社という意味である。こんなことは判り切っていると思うが,念 のため一言しておく)。
共同投資組織運用株式の種別を終えれば次は運用公社債の種別に入るべき であるが,この種別は余り重要性しまない。既に知れる如く,多くの証券共同
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