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地域金融構造へのアプローチ

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(1)

地域金融構造へのアプローチ

(Ⅱ)

斎 藤 一 朗

次〕

は じめに

. これ までの研究

Ⅲ.地域金融研究の方法論 的課題 (以上第46巻第2 ・3合併号 )

Ⅲ.銀行資本 の運動の機能的側面 銀行 資本 の運動の基本 的構図 貸付可能 な貨 幣資本の形成 銀行資本 の収益 メカニズム 銀行資本 の行動パ ター ン 預貸循環 のチ ャンネル設定

Ⅳ.銀行資本 の運動 の空間的側面 預金空間 と貸 出空間の非対称性 預貸循環 の重層的編成 と金融空 間 銀行資本 の空間意識 と 「地域」の析 出

(以上本号)

Ⅴ.地域金融構造 の分析枠組み と主要論点 むすびにかえて

233〕

(2)

234 46 4

Ⅲ.銀行資本の運動の機能的側面

本稿では,地域の金融構造を解明する手がか りとして,生活主体 ・政策主体 が定在す るところの 「地域」 と銀行資本 の蓄積運動 における空間意識の ミス マ ッチに着 目す る。すなわち,銀行資本が資本 としての循環を貫徹す るために は,利潤の追求を動因 とす る預貸仲介機能の発揮 と業務の完遂 に必要な空間の 編成が不可欠 となる この とき,生活圏 ・行政圏 としての 「地域」は,銀行資 本の自己中心的な空間編成にとって副次的な存在にす ぎない。 しか し,「地域」

の側か らこれをみ ると, こうした銀行資本の蓄積運動の在 り万 一空間意識 ‑ は, 「地域」の金融を機能的 ・空間的に規定するものとしてたちあ らわれ る

以下では,銀行資本がどのような様式を以 って蓄積運動を展開す るのか,その 機能的な側面か ら考察をは じめよう

銀行資本の運動の基本的構図

資本制経済のもとでは,銀行 もまた利潤に動機づけられた資本制企業 として 存在 している。いま,図 1に示 され るように,銀行資本の循環形態を産業資本 の循環範式 になぞ らえて,G‑W iApm・BkG'と表現す ることに しよ う 銀行資本の運動 は,一定の貨幣資本 (G)の投下を以て,預貸仲介操作 (Bk)

のためのファシ リテ ィ (AおよびPm)を整えることか ら始 まる 預入 ・払 戻か ら成 る預金循環 (GD・‑GD')と実行 ・回収か ら成 る貸出循環 (GLGL')

の結節点に位置す るBk過程では,①預金の入金 ・払戻,②預金取引を通 じた 貸付可能な貨幣資本の析出,③貸付可能な貨幣資本を原資 とす る貸出の実行 ・ 回収 といった一連の預貸仲介操作が行われ る 銀行資本 はこうした一連の操作 を通 じて預貸利鞘 (G')を獲得す るのであるが,それは先行投下 したファシ

リティ ・コス トの回収 と銀行利潤 (‑預貸利鞘 ‑ファシリティ ・コス ト)の実 現にはかな らない。

ここでは, こうした銀行資本の蓄積運動を以下の3つの側面か ら整理す るこ とに しよう。

(3)

地域金融構造へのアプ ローチ (Ⅱ) GD GD'

G‑ W ‑‑‑・B k・‑‑・‑G' Pm

GL GL'

235

G。・Bk‑ G。' :預金循環のチ ャンネル

GL‑Bk‑ GL' :貸 出循環のチ ャンネル

GG' :収益 メカニズムに司 られた銀行資本の蓄積運動

∴Bk :貸付可能な貨幣資本の形成を媒介項 とす る預貸業務の展開

図 1 銀行資本の循環範式

まず第 1は,貸付可能な貨幣資本の形成 メカニズムである。 これは 「どのよ うに した ら預金取引 と貸出取引を資金的に結 び付 けることがで きるのか」 とい う課題 に応えるものである。銀行資本 は預金形態で調達 した資金をそのまま貸 し出すわけではない。なぜな ら,個 々の預金の預入時期や預入期間は様 々で, そのままのかたちでは個 々の時間的属性 によって貸 出業務の展開が制約 され る か らである。 このため,Bk過程で は個 々の預金 を糾合す るなかかか ら,預金 の時間的属性 に拘束 されないフ リー ・‑ ン ドな資金への変換 (‑貸付可能な貨 幣資本の形成)が行われている。

2は,Bk過程の活動水準を コン トロールす る収益 メカニズムである。銀 行資本 も‑私的資本である以上,必然的に 「どのよ うにすれば利潤の極大化を 図 ることがで きるのか」 という課題 に応え るメカニズムー要求利潤の計算様式

‑を生来 ビル ト・イ ンしている。

ところで,上述 したふたっのメカニズムは,銀行資本の内部 にあって,それ

(4)

236 46 4

ぞれが独立 して機能 しているとい うわけではない。すなわち,収益 メカニズム が司る銀行資本の循環 G

‑G'は Bk過程 における預貸仲介操作を前提 とす る ものであ り,貸付可能な貨幣資本の形成 メカニズムはその技術的根拠をなす。

しか し,他方 において,貸付可能な貨幣資本の形成メカニズムに支え られた預 貸仲介操作それ 自体 は,収益 メカニズムによってその活動水準を コン トロール されているのである。言 い換えれば, これ らふたっのメカニズムの相互前提的 な機能連関によって,銀行資本 は独 自の資本 として存立 しているのである

これ らふたっのメカニズムが銀行資本の蓄積運動の内的条件をなすのに対 し て,貸付可能な貨幣資本の形成 メカニズムに接続す るところの預貸それぞれの 循環 チ ャンネル は,これを外的に制約す るもの としてたちあ らわれ る。これが,

ここで取 り上 げる第 3の側面である。銀行資本 は要求利潤の達成 に必要 な業量 の確保すべ く,預貸業務を展開する しか しなが ら,取引相手 となる顧客 はそ の リスク属性 において同質的ではない。それゆえ,銀行資本 は預貸業務を無差 別的に展開す ることはで きず、業量 とそ こに付随す る諸 々の リスクの トレー ド

・オ フのなかで,預貸循環のチャンネルを選択的に設定す る必要 に迫 られ るの である。 このため, 「預貸循環のチャンネルをどのよ うに設定す るか」 とい う 課題 は,銀行資本の蓄積運動 に対 して 自己制約的に作用す る。

貸付可能な貨幣資本の形成31)

銀行資本 は顧客か ら消費寄託のかたちで預 け入れ られた預金を, 自らの利潤 獲得のために貸 し出す。 しか しなが ら,銀行資本 は寄託 された預金を原資に,

右か ら左‑」 とい うかたちで貸 出を行 うわけではない。なぜな ら,預金をそ のまま貸 し出す とすれば,預金の金額 と貸 出の金額,預入時期 と実行時期,預 入期間 と貸出期間を一致 させ る必要が生 じ, これが貸 出業務の展開にとって大

31)本節 における貸付可能な貨幣資本の概念 な らびにモデルの定式化 について は,高木

1948,溝田 1993a〕・1993b〕に負 う。 また, このモデル に基づ く実証分析 としては,拙稿 1994a〕を参照されたい。

(5)

地域金融構造‑の アプ ローチ (Ⅱ) 237 きな制約 となるか らである。銀行資本の内部では,こうした「3つの不一致」32)

を克服ない しは緩和す るために,預金の属性変換がなされている。預金の精錬 ともいうべ きこのプロセスを通 じて,銀行資本はは じめて自らの裁量で,如何 なる時期 に,如何なる期間で も貸 し出す ことのできる資金 (貸付可能な貨幣資 本)を手 にす るのである。そ して, この精錬過程を支える技術的基礎が,資金 バスケ ッ トによる預金の一元的管理であり,振替取引や手形の集中決済による 支払準備の圧縮である。

いま,預金残高をD,単位期間当た りの預入額を F,預金の平均滞留期間を Tとす ると, これ らは次のような関係 にある。

D‑FT (1)

この とき,預金残高 Dは単位期間当た りの預入額 Fが増大す るほど,平均滞 留期間Tが長期化するほど増大す る。 とはいえ,単位期間当た りの預入額 Fと

平均滞留期間Tは互いに独立ではない。預金の平均滞留期間Tは,基本的に預 金の原資 となる遊休貨幣の時間的属性 ‑どの くらいの期間,貨幣が遊休す るの か 一に規定 される。 しか し,遊休貨幣の時間的属性に変化がな くて も,単位期 間当た りの預入額 と払戻額が等 しくなければ,平均滞留期間は時間の経過 とと

もに変化す る。すなわち,単位期間当た りの預入額 と同払戻額が等 しいな らば, 預金の平均滞留期間は遊休貨幣の時間的属性にのみ規定 され不変 にとどまる。

だが,単位期間当たりの預入額が同払戻額を上回るな らば,平均滞留期間は累 積的に長期化す ることとなる (遅 は逆)。 したが って,増大 した単位期間当た りの預入額が同払戻額 と等 しいか,それを上回る場合に限 り,同預入額の増大 が預金残高の増大に結びっ く ここでは簡単化のために,単位期間当た りの払 戻額 は預入額 と等 しい ものと仮定 しよう。

単位期間内における預金残高の増減に注 目すると,単位期間当た りの預入額 32)貸借取 引にお ける 「3つの不一致」 につ いて は,溝 田 ・沢 田 1992〕第 1章 第 1

節を参照。

(6)

238 46 4

Fと同払戻額Fの発現パ ター ン如何 によって,預金残高Dは最大Fの振幅で増 減す る。 しか し,預金の預入 ・払戻がそれぞれある特定の 1時点に集中す るこ

とは稀で,多数の預入 ・払戻取引が単位期間内において交錯す るのが一般的で あろ う そこでは,単位期間内に預入 された預金を以て同期間内の払戻請求に 応 じるというように,預入 と払戻の問には同時的ない しは単位期間を通 じての 相殺が生 じる。 このため,単位期間内における預金残高Dの増減幅はFよりも 小 さな もの となる。 この相殺を通 じて経験的に観測 され る預金変動縮減率をp

(o<p<1)とす ると,単位期間内における預金残高の平均的な増減幅は

pFで表 され る。 この結果,預金残高Dの うちD‑pFに相当す る額 は預入 ・ 払戻 フローに影響 されない貸付可能な貨幣資本 として析出され るのである。

さらに, この変動部分pFの一部について,振替取引等 による現金節約的な 処理が施 され るな らば,預金残高の増減 はよ り一層小 さな もの となるであろ いま・,預金取引全体に占める現金取引の比率をmとす ると,預金残高の増 減幅はpmFにまで縮減 され る。これによ り,変動部分 pFの中か ら(1‑m) i)Fに相当す る額の貸付可能な貨幣資本が追加的に析出されるO

以上か ら,一定の預金残高Dの中か ら析出される貸付可能な貨幣資本の合計 は,以下のように示 される。

(D‑pF)+(1‑m)pF‑D‑pmF (2)

なお,(2)式の右辺第 2pmFは単位期間内における預金残高の増減幅 であ り,銀行資本が預金の払戻請求をスムーズに処理す るためには,最低限こ れに相当す る額の支払準備を保有す る必要がある。

銀行資本の収益 メカニズム33)

銀行資本 は Bk過程 において,(2)式に集約 され る貸付可能な貨幣資本の 33)以下で述べ るところの銀行資本 の収益 メカニズム とそれ に導かれた行動パ ター ン

は,拙稿 1994b〕 に基づいている。詳 しくは,同稿 を参照 されたい。

(7)

地域金融構造‑のアプローチ (Ⅱ) 239 形成メカニズムを駆動 させ ることで,時間的属性の異なる預金循環 と貸出循環 を連結す る。 しか し,銀行資本 はこの Bk過程の遂行それ 自体を目的 としてい るわけではない。銀行資本 も‑私的資本である以上,その究極の目的は眉 らの 資本 としての存続 にあ り,利潤の追求 こそが これを実現す る唯一の方途であ このため,Bk過 程の遂行 には利潤追求のためのロジックが大 きく作用す まずは,都市銀行をは じめとす るわが国の銀行行動を念頭において,銀行 資本が要求す る利潤7Tの設定方法か ら取 り上げよう

要求利潤の形成要因 としては,次のふたっが考え られる ひとつは, これま での要求水準や実現 した利潤 といった過去の経験である。実現利潤の トレン ド や前年度対比を参照軸 とす る要求水準の設定が これにあたる。 もうひとっは, 競合他行の動向である。.競争的な経営環境 において 自らが私的資本 として存続 す るためには,競合す る他行の動向を無視す るわけにはいかない。いわば 「 送船団」に遅れまいとす る性向がわが国の銀行行動に強 くビル ト・イ ンされて いる。 このような利潤要求態度 は,以下のように定式化 され る。

7T‑7Tt‑1(1+

g 言 )

g‑g子+ a lgt̲1‑gL 1l+ β lg̲1‑gt̲.L‑γ t

但 し, a,β >0,7・t≧ 0

すなわち,銀行資本 は自らの要求利潤を前期の実現利潤7T卜 1を基準 に,前 期比g言%増 というかたちで設定す る. この うち,利潤の要求伸び 率g言は,中

・長期的な要求利潤を達成す るために今期必要 な伸 び率 g与をベースに, これ に諸 々の調整を施すかたちで設定 され る。調整 に際 してまず勘案 され る事項 は,前期 の 目標達成状況 と競合他行 の動 向で あ る。す なわ ち,実績伸 び率 g卜 1が中 ・長期的な要求伸び率 gL 1よ りも大な らば,銀行 は当初の必要伸び 率を上方修正す るであろ う また,実績伸 び率g 1が競合他行の実績伸び率 g芋̲1に列後す るな らば,今期の要求伸び率 は上方修正を迫 られる。

しか しなが ら, これ らの逆 は逆 とはな らい。 もし, gt̲1gf̲1よりも小な

(8)

240 第46 4

らば,銀行資本 は中 ・長期的な要求利潤の達成に向けて,未達分を今期の当初 目標g子に上乗せす るであろ う。さらに,gtg芋」よ りも優位 にあるな らば, 銀行 はその相対関係を維持すべ く今期の 目標を設定す るであろう。それゆえ, ggを基準に して,基本的には実現 したg1のフイ‑ ドバ ックも含めて上 方累積的に設定 され る。 もちろん,g号を下方修正す るかたちでgを設定 しな ければな らない場合 もある それが調整項γtである だが, γtは中 ・長期的 に予測 しえなか ったとい う意味で,多分 に偶発的な性格を帯びている。つま り, 何 らかの下方修正要因がある場合にのみ,銀行資本はこれを勘案 した調整を行

うのである

次に,設定 された要求水準に基づいて銀行資本 はどのように行動す るのか考 えてみよう いま,貸出金利をrL, 預金金利をrD,市場金利ベースの部門間 貸借金利 (本支店 レ‑ 卜)をrc,貸 出残高をL,預金残高をD,預貸業務収 支を除 く他の業務収支をⅩ,経常的な営業経費をCとす ると,銀行資本の利潤 7Tは次のように表 される。なお, ここでは簡単化のために臨時損益な らびに課 税 は捨象する

7T‑rLL‑(6rD+(1‑6)rc)L+Ⅹ‑C 但 し, ♂‑D/L

(5)

すべての金利 はさしあたり当該銀行資本にとってすべて所与であると仮定 し よう このよ うなケースは,金利が市場において競争的に決定 されているか, 人為的に規制 されている場合 に相当す る。 この仮定の下,銀行資本 は預貸市場 において「価格受容者 ・数量設定者」として行動す る。だが,その行動 は (5) 式 に示 され る他の業務収支 Ⅹの在 り方 によって,「貸出金利を所与 とす る必要 貸出残高の確保」 と 「預貸利鞘を所与 とす る必要貸出残高の確保」 という 2 のパター ンに分類 される。

(9)

地域 金 融 構造 へ の ア プ ロー チ (Ⅱ) 241 銀行資本の行動パター ン

まずは,他の業務収支Ⅹが費用項 目の変動をヘ ッジしない場合,より端的に はⅩが存在 しない場合か ら取 り上げよう この場合,(5)式 は以下のよ うに 改編 される。

7T‑ [rL‑ (6rD+(11 6)rc)]L‑C (5')

(5')式に示 され るように, この場合 における貸出業務 と預金業務 は,刺 潤計算上,預貸利鞘 によって直接的に結びっけ られる。そ して,貸出金利が ウ エイ ト付 けされた預金金利 と部門間貸借金利の合計を上回 る限 り,銀行資本 は 預貸利鞘を所与 として,要求利潤の達成に必要な貸出残高の確保に向けて行動 す るのである。

ここで,預金金利が人為的に低位に規制 され,一定の預貸利鞘が制度的に保 証 されているとしよう。 rD<rcが恒常的に成立す るな らば,銀行資本 は要求利 潤の達成に必要な貸出残高の増加 と併せて,可能な限 り∂を上昇 させ るよ うに 行動す るであろう なぜな ら,貸出残高の うち市場性資金 に依存す る部分につ いては利鞘の縮小 ・逆鞘が避 けられないか らである。 このため,規制金利下に おける銀行資本の行動を端的に表現するな らば,それは預貸併進的な量的拡大 行動 となる

では,預金金利が 自由化 された場合 はどうであろうか。規制金利下 と異なる のは,預金金利の自由化による競争の激化か ら規制 レン ト (‑r。‑rβ>0) 剥落 し利鞘の縮小が避 け られないこと,資金ポジションの如何が利潤の実現に 影響を及ぼさな くなるということである。そ うしたなかにあって,銀行資本 は 規制金利下 と同様に預貸利鞘を所与 として,要求利潤の達成 に必要な貸出残高 を確保すべ く行動す る。だが, ここで注意 しなければな らないことは,預貸利 鞘の縮小か ら,要求利潤の達成に必要な貸出残高が規制金利下に比べて増加 し ているとい うことである。 このため,銀行資本が これを克服 しない限 り, 自ら の利潤要求態度を下方修正す るか,規制 レン トの剥落に対す るショック ・アブ

(10)

242 46 4

ソーバーを構築す るか,あるいはその双方を同時に採択す るか とい う選択に直 面す る。他の業務収支 Ⅹによって費用項 目の変動をヘ ッジす る場合, (5)式

は以下のように改編 される。

7T‑rLL‑[(6rD+(1‑6)rc)LIX+C] (5'')

(5'')式の右辺の うち [ ]の部分 は,いわば損益分岐貸出金利息に相当 す る。損益分岐貸出金利息 とは,貸出金利息を除 く収益が全ての費用を賄 った うえで,利潤をゼ ロとす るために,なお最低限必要 とされ る貸出金利息の こと である。つまり,銀行資本が要求利潤を達成す るためには,損益分岐貸出金利 息 と要求利潤の合計 に相当す る額の貸出金利息を稼得する必要がある。 この と き,他の業務収支 Ⅹは損益分岐貸出金利息の構成要素 として,損益分岐貸出金 利息の変動をヘ ッジし, これを一定の水準に維持ない しは低減す る機能を担 っ ている。そ して,Ⅹが この機能を果たす限 り,銀行資本 は自らの関心を専 ら要 求利潤の達成に必要な貸出金利息の稼得 に集中す ることがで きるのである。す なわち,損益分岐貸出金利息が一定水準に維持 され るな らば,上方累積的に設 定 される要求利潤に対 して,銀行資本 は毎期,前期貸出金利息 +要求増益額 に 相当す る貸出金利息を稼得すればよい。 もちろん,損益分岐貸出金利息が低減 され るな らば,年々稼得を要求 される貸出金利息 も低減額だけ軽減 され る。 し たが って,所期の貸出金利息を稼得す るための銀行資本の行動 は,所与の貸出 金利の下,必要貸出残高の確保 に軸点を置いたもの となる。

ところで,他の業務収支 Ⅹが費用変動をヘ ッジす る場合,要求利潤の達成 に 必要な貸出残高 は,預貸利鞘の水準如何 に関わ りな く,外生的に与え られる貸 出金利の水準 と要求利潤の達成に必要な貸出金利息か ら導 き出され る。すなわ ち, この場合において,収益指標 としての預貸利筆削まいわば有名無実化するの である。 とい うの も,他の業務収支 Ⅹが ショック ・アブソーバーとして機能す ることで,貸出業務 と預金業務 は,利潤計算上,預貸利鞘 に指標 される直接的 な結合関係ではな く,Ⅹをクッションとするゆるやかな結合関係 として展開す

(11)

地域金融構造へのアプ ローチ (Ⅱ) 243

るか らである。 このため,え預貸利鞘が逆鞘 となるような貸出金利を設定 し たとして も,貸出残高の増加 にようて所期の貸出金利息を獲得することがで き

るな らば,逆鞘 は要求利潤達成の陸路 とはな らないのである。

預貸循環のチャンネル設定

このように,銀行資本 は技術的基盤 としての貸付可能な貨幣資本の形成メカ ニズムと利潤 ・.業量決定機構 としての収益 メカニズムを駆使 して, 自らの蓄積 運動を展開す る。だが, リスク負担上,それは顧客を無差別的に取 り込むかた ちでは展開 しえない。それゆえ,預貸業務の展開に際 しては,銀行資本 自らの 主観的な リスク許容基準に拠 って顧客層を取捨選択 し,預貸循環のチャンネル を リスク限定的に設定す ることが求め られ る。 この意味において, 「預貸循環 のチャンネルをどのように設定するか」 という自らの問いに対する自答 ‑リス クに対する許容態度 ‑の如何が,銀行資本の 「善性循環」を支えるといって も 過言ではない。

ところで, こうして設定 された預貸循環のチャンネルは,図2 ・3に示 され るように,その預金源泉 ・貸出使途の性格か ら大 きくふたっに区分 される。ひ とっは,産業資本の循環 と密接 に関連す るフロー金融回路 としての産業的チャ ンネルであり, もうひとつは,投機的な商品流通を媒介項 とす るス トック金融 回路 としての投機的チャンネルである34)35)

34)ここでは,代表的な取引先 として産業資本を想定 している。個人取引については, それが基本的に産業資本 との取引か ら派生す る取引であることか ら,さ しあたり捨 象 している。すなわち,個人預金の大部分 は産業資本 による賃金支出か ら派生 した ものであ り,住宅 ロー ンをは じめ とす る借入 もこうした預金形成の先取 りというか たちで行われる。

35)2に示 される投機的取引G‑W‑G'について,若干付言 しておこう。マル クスは かつて,商品流通 におけるふたっの形態の存在を指摘 した。すなわち,使用価値の 実現を推進動機 とす る商品流通W ‑G‑W'と流通 による価値増殖を推進動機 とす る商品流通G‑W ‑G'の抽出がそれである (マル クス 1867,第 1巻第 2編第 4 章 第 1節 [向坂 逸郎 訳,岩 波文庫,第 1分 冊 p.255‑271])。 図 2にお け る G‑W ‑G'という表現 も,推進動機 においてはこれを踏襲するものである。だが, ここでの取引対象 としての商品Wについては, 「仮装 した存在様式」 としての機能 のはかに,その使用価値を最終 目的 とす る場合 も含めて考えている。

(12)

244 46 4

まず,預金循環の産業的チャンネル (2)では,産業資本の循環のなかか ら生 じる4種類の遊休貨幣が預金源泉 として想定 されている36)。すなわち,

①不測の事態に備えて予め投下資本か ら控除 された準備金,②収入 と支出のタ イム ・ラグか ら貨幣形態で一時的に遊休す る経常運転資金,③設備等償却資産 の更新に備えた減価償却費,そ して,④実現 した利潤の内部留保である。投機 的チャンネル (3)では,唯一,実現 した投機利潤のみが預金源泉 として想 定 されている。 というの も,貨幣価値の増殖を目的 とす る投機的取引では,取 引を手仕舞わない限 り,貨 幣が遊休す ることは基本的にあ りえないか らであ

る。

では, これ らの預金源泉を見込んだ うえで,銀行資本 はどのように預金循環 チャンネルを設定するのだろうか。前掲 (2)式か ら,貸付可能な貨幣資本の

2 銀行資本を巡る産業的チ ャンネル

36)預金源泉 と しての4種の遊休貨幣については,潰 田 1993〕第 4葦を参照。

(13)

地域金融構造へのアプローチ (Ⅱ)

G‑Ws‑G' ド G:投機元本 g:投機利潤

銀行資本

(振替取 弓 > 預

.取 弓

貸付可能な貨幣資本 支払準備

(現 、

245

3 銀行資本を巡 る投機的チ ャンネル

形成 は預金残高が多 いほど,預金残高の増減幅が小 さいほど多 い。い うまで も な く預金残高 は取引先個 々の預金勘定の集成であるか ら, これを構成す る個 々 の預金勘定のフロー ・パ ター ンや ロッ トによって如何なる方 向へ も変動 し,そ の程度 も決定 され る。 もし,預金取引が特定の産業 に偏重す るな らば,季節変 動や循環変動の シンクロナイズを通 じて増減幅は増大す るであろう また,大 口取 引に偏重す るな らば,小 口取 引に比べてその増減幅 は増大す ることとな る。 このため,銀行資本が預金残高の増減幅を極力圧縮 し,かつ残高それ 自体 の増加を図 るには,預金 ポー トフォリオに属性的な偏重が生 じないよ うに多種 多様な預金循環チャンネルを設定す る必要がある37)

次 に,貸 出循環チ ャンネルについてみてみよ う 貸出循環の産業的チ ャンネ ルは,銀行資本が産業資本 に運転資金や設備資金を供給す るル‑ トとして設定 す るものであ り,図 2に示 され るよ うに,貸出循環G‑G は産業資本 の循 環を媒介項 として成立す る そ こでは,運転資金であれば売上回収金が,設備 資金で あれば減価償却費 と利潤が返済原資 と して引 き当て られてい る。同様 に,投機的チ ャンネル とは,銀行資本が商品流通 に関わ る資金を供給す るルー 37)この意味で,銀行資本による支店網の拡大は,定量的には預金残高の増加を,定性

的には預金残高の増減幅を縮減するものとしてとらえることができる。

(14)

246 46 4

卜と して設定す るものであ り,そ こでの貸 出循環 GL‑GL'はス トック取 引 G‑W‑G'を媒介項 と して成立す る (3)。返済原資 と しては,投機的取 引 の実現 による回収金が見込 まれている。

銀行資本 はこれ らの返済原資を見込んだ うえで,どのように貸出循環チャン ネルを設定す るのだろうか。貸出チャンネルの設定 目的は,要求利潤の達成に 必要な業量を確保す ることにある だが,設定 したチャンネルにおける貸出循 環の完遂は必ず しも保証 された ものではない。なぜな ら,借 り手が実際に返済 原資を確保で きるか否かは,偏に商品の実現如何 にかか ってお り,そ こには必 然的に不確実性が伴 うか らだ。 この不確実性 こそ,銀行資本が負担す るデフォ ル ト・リスクにはかな らない。 もちろん,借 り手に付随す るデフォル ト・リス クの程度はそれぞれ異なる。 このため,銀行資本 は借 り手をその リスク属性か らセグメ ン トした うえで, 自己の リスク負担能力の範囲内で,最 も望 ま しい チャンネル ・ボ リュームとデフォル ト・リスクの組み合わせを実現す るよう, 貸 出循環チ ャンネルを設定す るのである38)。その際,貸 出ポー トフォリオ全 体 としてのデフォル ト・リスクを低減す るためには,借 り手の リスク属性の分 散化が重要 となることはい うまで もない。

Ⅳ..銀行資本の運動の空間的側面

これまでみて きたよ うに,銀行資本は,(彰預金取引を通 じる遊休貨幣の糾合, 38)但 し,同 じ産業資本 のカテ ゴ リーのなかで も,業種 や企業規模 によ ってデ フォル ト

・リスクの程度 が異 な る異 な ることを注意 してお こう。 このため,産業的チ ャンネ ルの設定 に際 して は, これを業種 や企業規模等 によ って さ らにセ グメ ン トす る必要 が あ る。投機 的チ ャ ンネル にお いて も同様 に,取 引対象 と しての商品Wの性格 に よって, チ ャ ンネルを さ らにセ グメ ン トす る必要があ る。 とい うの も,商品生産 に 連続 す る商品流通 とそれ以外 の商品流通 とで は プライ シ ングの方 法が異 な るか ら だOす なわち,前者 で は商品の消費やニーズの充足を前提 に,使用価値 に基礎 を置 いたプライ シングが な され る。 これに対 して,後者 で は商品の交換価値 の側面のみ が重視 され,現在価格 と将来価格 の帝離期待 に立脚 した主観的なプライ シングが な され る。 このため,後者 には拠 って立っ価値基盤が な く, 自己崩壊 の因子を 自 らの 裡 に抱えてい る分,前者 に比べてデフ ォル ト・リス クが高 い といえ る。

(15)

地域金融構造へのアプローチ (Ⅱ) 247

②預金の集積 と流動 に由来す る貸付可能な貨幣資本の形成,③ これを原資 とす る貸出取引の展開 とい うかたちで,自らの蓄積運動を機能的に展開す る。 もち ろん,そ こでの要諦が貸付可能な貨幣資本の形成 にあることはい うまで もな い..この形成 メカニズムの存在ゆえに,預金循環GD‑GD'と貸 出循環GL

GL'は,それぞれに固有の時間的属性 一時期,期間‑を以て,相対的に独 自な 展開をみせ るのである。

その一方で,預金循環 G‑Gか'と貸 出循環G‑Gェ'の空間的形態に着 目 すれば,ふたつの循環 は必然的に,それぞれに固有の空間的属性 一拡が り,方 向‑を以て展開す る。したが って,銀行資本が 自らの循環を貫徹す るためには, 預金循環 GDGD'と貸 出循環 GLGL'を機能的な側面 において リンクさせ

るのみな らず, これ らふたっの循環が展開 ・完結す る金融空間一預金空間と貸 出空問‑をそれぞれに編成す る必要がある39)

以下では, こうした銀行資本の蓄積運動の空間的側面について考察を加えよ

う。

預金空間 と貸出空間の非対称性

先に,銀行資本 は自らの循環を貫徹するために,預貸ふたっの循環が展開す る金融空間を編成す る必要があると述べたが,それは具体的にどのような も拡 が りを もっ ものであろうか。まず は,預金空間か ら取 り上げてみよう

さしあた り,銀行資本の関心が預金の確保 にあるものとしよう 銀行資本 は 預金 として取 り込むべ き遊休貨幣の将来に亘 る存在を前提に, 自らの資本を投 下 し,営業店舗を立地す る。 これを契機に,預金循環 は物理的な存在 としての 営業店舗を一方の極 に,顧客 との間で空間的に展開す る。銀行資本の意図はよ り多 くの預金の確保 にあることか ら,主体的には預金を求めて 自らの関与す る 空間を漸次拡大す るであろう。 しか し,預金空間の拡大 は無制限に開かれた も 39)ちなみに,預金空間と貸出空間はそれぞれ別個の存在として理論上措定すること̲ できるが,実際には,同一の空間において部分的に重複 して現象していることを注 意 しておこう。

(16)

248 46 4 のではない。

では,なぜ預金空間は無限定に拡大 しないのか。そ もそ も預金 には,貨幣の 保管,出納 ・決済の委託,余資の積立 ・運用 といった目的がある。預金者 はこ れ らの目的を達成すべ く手許の貨幣を銀行に預託す るのだが,そ うした行動の 多 くは預金者 の距離抵抗か ら一定の空 間的範囲のなかで生 じると考 え られ 40)。すなわち,預金者が預金取引の便益を享受す るためには,原則 として, 銀行の営業店舗 まで出向かなければな らない。その一方で,預金取引に要す る 機会 コス トは営業店舗 までの距離に比例する。営業店舗が遠 ければ遠 いほど, 預金取引に要す る金銭的,時間的および心理的 コス トは増大 し,預金者の距離 抵抗 も大 きくなる。預金者 は,機会 コス トと預金取か ら得 られる便益を比較 考量 して,預金の可否を決定するのだが,自らの距離抵抗か ら,その行動空間 には自ず と限界が画 されるのである。 このため,預金循環 はまず,一定の限 ら れた空間一店周圏‑で局地的に展開す ることとなる41)0

他方,貸出空間についてはどうであろ うか。いま,店周圏での預金獲得によ り当該営業店舗 の資金 ポ ジシ ョンが預超の状態 にあると仮定 しよう この と き,局地的な預金空間に対 して,貸 出空間の拡が りはそれよ りも広域的になる。

すなわち,銀行資本 はより多 くの貸出を実行すべ く,預金 と同様,自らの関与 す る空間を外へ外‑ と拡大す るであろう だが,預金空間とは異な り,貸出先 の側か ら貸出空間の外延的拡大 に限界が画されることはない。む しろ,それに 限界を画すのは距離 に比例す るリスク情報の収集 コス トであ り,銀行資本の距 離抵抗である。それゆえ,貸出循環 もまた限定的な空間でひとまず展開 し,店 周圏を確立す る。 しか し,預超の場合,貸出循環の展開領域 は店周圏に限定 さ れない。なぜな ら,銀行資本 は本部資金セクションやイ ンターバ ンク市場を結 節点 とす る資金ネ ッ トワークを通 じて,国内外の空間を自らの貸出空間 として 40)石原他 1989,p.98‑1020

41)漬 田 1993〕第 6章 にお いて も,同様 の理 由か ら,貨幣保管業の空間限定 的な成 立が説 明 されてい る。すなわち,「1つ は, 自分 の大切 な ものを遠 くのみ知 らぬ人 に預 け られぬ とい う心理的理 由。 もう 1つ は,あま り遠 くてはいざとい うときのお 金の出 し入れに不便だ とい う物理的な理 由である」(p.169)0

(17)

地域 金 融構造 へ の アプ ロー チ (Ⅱ) 249 編成 しうるか らである。これによって,貸 出循環 は預超相 当額の貸 出を求 めて, 銀行資本の営業地盤全体 あるいは国民経済 ・世界経済 レベルの領域 にまで拡大 す るのである。

で は,当該営業店舗 の資金 ポ ジシ ョンが貸超 となることが見込 まれ る場合 は, どうであろ うか。 ごく簡単 に述べれば,預超の場合 とは逆 に,銀行資本は 本支店勘定 とイ ンターバ ンク市場を通 じて,国内外の空間を 自らの預金空間と して編成す る。 このため,預金循環 はよ り広域的に展開 し,貸出循環 は預金の 量的制約か ら,専 ら店周圏の貸出需要 に対応す るために局地的な展開にとどま

るのである

斯 くして,営業店舗の資金 ポジシ ョンがスクェアでない限 り,銀行資本が編 成す る預金循環 と貸 出循環の空間的な拡が りは非対称 となる。すなわち,預貸 不均衡の均衡化を動因に,預超の場合には貸出空間が,貸超の場合 には預金空 間がよ り広域的に編成 され るのであ る42)。それゆえ,銀行資本の蓄積運動 は, 狭域的に展開す るとい う意味での 「地域性」 と極指向的に循環領域を拡大す る

とい う意味での 「脱地域性」を併せ もつ といえよ う

預貸循環の重層的編成 と金融空間

預金循環 と貸 出循環 は,それぞれに固有の広が り ・方向 ・境界等の空間的特 性を もつ ものであ り,それぞれが展開す る 「場」 としての預金空間 と貸 出空間 を非対称的に形成す る しか し,それは等質的な拡が りを以て形成 され るとい うわけではない。 とい うの も,そ こで展開す る預貸循環それ 自体が,店周圏に おける循環‑本支店間の循環‑銀行資本間の国民経済的 ・世界経済的循環 とい うよ うに,その展開次元を移行 させなが ら重層的に拡大す るか らだ。言 い替え れば,本部資金セ クシ ョンやイ ンターバ ンク市場を結節点 に,上位の次元で展 42)尤 も, こうした空間拡大的な預貸均衡化 に対 して,顧客層の拡大 による空間限定的 な均衡化 も考え られ る。だが,それ には,貸超の場合 には預金 に対す る付利基準の 引 き上 げが,預超 の場合 には貸 出に対す る付利基準の引き下げ (‑ リス ク ・プ レミ アムの圧縮) もしくはハイ リスクな貸出循環 チャンネルの設定が必要 となることは い うまで もない。

(18)

250 46 4

開す る循環が下位の循環を包摂するというかたちで,一個全体 としての預貸循 環が構成 されているのである。 このため,預貸循環が展開す る 「場」である金 融空間 もまた,図4に示 されるような階層次元を異 にす るい くつかのサブ空間 一店周 レベル,本支店 レベル,国民経済 ・世界経済 レペルーの重層的編成 とし て捉え られる。

重層的に編成 される金融空間において,最 も基本的な空間領域は,銀行資本 が営業店舗 レベルで関与す る店周空間である。預貸循環 は,まず, この店周 レ ベルの狭域的な空間を最小基本単位 として,顧客 と営業店舗の間で成立す る。

だが, この循環が当該領域 において完結す ること (‑資金ポジションがスクェ アとなること)は極めて稀であ り,多 くの場合,それは本部資金セ クションを 結節点 とす る本支店間の循環 に包摂 されることとなる。すなわち,本支店勘定 を通 じる預超店舗資金の本部資金セクションへの集約 と賃超店舗への資金再配 分を動因に,銀行資本の営業地盤全体を展開領域 とす る高次 レベルの循環が生

じるのである。

店周圏空間 店周圏空間

銀行資本における 「地域 弓〉脱 「地域」化

くコ 銀行資本の展開空間

4 預貸循環の重層的編成 と金融空間

銀行資本 レベル

本支店 レベル

店周圏レベル

(19)

地域金融構造‑のアプ ローチ (Ⅱ) 251 ところで, この本支店勘定を軸 に銀行資本内部で展開する循環 は,以下のよ うに捉えることがで きる 5は,銀行資本の営業店舗のバ ランス ・シー ト例 (管理会計ベース)である。一般 に,営業店舗における資産 ・負債の大宗 は貸 出金 と預金が 占め, これ らふたつの残高は一致 しない。 この例では,預金残高 が貸出金残高を上回 ってお り,当該営業店は預超の状態にある もし, こうし

た残高の不一致が調整 されなければ,それが預超店舗 における貸付可能な貨幣 資本の退蔵 と貸出需要が旺盛な店舗における貸出機会の逸機につなが るであろ うことはいうまで もない。また,管理会計的にも,営業店舗の収益を確定す る ためには調達額 と運用額を一致 させ る必要がある。 このため,銀行資本 は預金 残高 と貸出金残高の差額 (資金尻)について,本部資金セクションと営業店舗

A行本部資金セクション Ⅹ支店バランス ・シー ト

貸出金 預金

国内円資金尻 : 外為業務資産 外貨預金

外貨資金尻 : 支払承諾見返 支払承諾見返

その他の支店の資金尻

資金の不足 しているB行の本部資金セクション

5 資金の空間的移動ルー トと預貸率 ・預貸差額

(20)

252 46 4

との間で資金の貸借 (本支店勘定)を立て,本支店 レー トを以て損益を仕切 る のである。 この例 では,当該営業店舗の預超部分 について,本部資金 セ クシ ョ ン‑の本支店貸 となる。その うえで, この本支店間の貸借 を空間的 に捉え るな らば,それ は当該営業店舗の所在地か ら本部資金 セクシ ョンの所在地‑の預貸 差額相 当額 の資金移動 とみ る ことがで きるので あ る。 これ までの研 究 におい て,預貸率 と預貸差額が資金の空間的移動 の方 向 ・規模 に関す る指標 として用 い られて きた所以である43)

さ らに, こうした本部資金 セ クシ ョンによる資金調整ののち,それで もなお 銀行資本全体 と して資金の過不足が残存す るな らば,それ はイ ンターバ ンク市 場での貸借 を通 じて調整 され る。 これによ り,イ ンターバ ンク市場 を結節点 と す るよ り高次 レベルの循環 一銀行資本間の国民経済的 ・世界経済的循環 ‑が生

じ,それまで銀行資本 内部 一店周 レベル,本支店 レペル ーに止 ま っていた預貸 循環 の展 開領域 は外部へ と拡大す るのである44)0

このよ うに,店勢圏を基本単位 に成立す る預貸循環 は,預貸不均衡の均衡化 を動因に,本部資金 セ クションやイ ンターバ ンク市場 を結節点 と してスパイラ ルに拡大す る 図式的には,店勢圏の循環を基礎 に本支店間の循環が成立 し, さ らには これ らを包摂す るかたちで銀行資本問の循環が成立す るのである。そ して, こうした預貸循環のスパイラルな展開に対応 して,金融空間 もまた重層 的に拡大編成 され ることとな る。

43)例えば,高橋 1988,藤田 ・千葉 ・大石 1988

44)これに関連 して,銀行資本による店舗網の空間的展開は,外延的に拡大する外部空 間を自らの営業地盤として内部空間化する活動と捉えることができる。R.C.ブラ イアン ト1987〕は営業拠点の空間的展開(国際化)について,3つのカテゴリーを 提示 している。すなわち,①実物部門取引に追随 した海外拠点の設置,(さ実物部門 取引を主導する海外拠点の設置,そして,③規制 ・税制 ・監督の回避を目的とした 海外拠点の設置がそれである。また,溝田 ・沢田 1992は銀行業が国際化する パターンとして,取引先の国際化に追随する型と銀行の内的な論理に基づ く型を指 摘 している。

(21)

地域金融構造へ のアプ ローチ (Ⅱ) 253

銀行資本の空間意識 と 「地域」の析出45)

以上でみてきたように,預貸それぞれの循環が展開す る預金空間と貸出空間 は,多 くの場合,その拡が りにおいて非対称であ り,なおかつ展開次元を異に す る。それゆえ,ある特定の限 られた空間一例えば,北海道 一において,銀行 資本による金融仲介活動が完結す るとは必ず しもいえない。だか らといって, 銀行資本 による金融仲介活動が,ある特定の限 られた空間で完結 しなければな

らない積極的な理由もない。

い うまで もな く,銀行資本 にとっての最大の関心 は,G‑W (岩m‑Bk‑G' によって集約的に表現 される自らの循環を貰徹 し,資本価値の増殖を実現す る

ことにある そ して,その成就 は,Bk過程 における金融仲介活動如何 に依存 す る。すなわち,所与の預貸金利の下,銀行資本 は預金 と貸出金の量的均衡を 維持 しなが ら, 自らの循環の貫徹 に必要な業量を, リスクとの トレー ド・オフ のなかで確保す る必要がある

しか しなが ら,預金 と貸出金の量的均衡を保ちなが ら必要な業量を確保でき る保証 は, どこに もない。む しろ,Bk過程で析出される貸付可能な貨幣資本 に過不足が生 じることが一般的である。 このため,銀行資本 は往 々に して,相 対的に過剰な (不足す る)貸付可能な貨幣資本を如何 に して運用 (調達)する か という課題 に直面す るのである。いま仮に,銀行資本の金融仲介活動 に対 し て空間的な制約が課せ られているものとしよう この とき, もし銀行資本が 自 らの裡に相対的に過剰な貸付可能な貨幣資本を抱え込むな らば,それはまさに 回収 されざる費用の投下 ‑デ ッ ド・ウエイ トとなる。また,眼前の貸出機会 に 対 して貸付可能な貨幣資本が不足す るな らば,それは銀行資本にとっての機会 損失を意味する。それゆえ,銀行資本が預貸の不均衡を解決 しっっ,自らの循 環を貫徹す るためには, 自らの展開空間を 自己の定在す る周辺空間のみに限

45)ここでの考察 は,産業資本の循環 の空間的形態を取 り上 げた渡辺 1978〕 に負 う

ところが大きい。

(22)

254 第46 4

定す ることはで きないのである。銀行資本が資本 として 自らの存続を図 るため には,む しろその空間運動を外延的に拡大 し,場合によっては,世界経済 レベ ルの空間まで射程に入れ る必要 さえある。 この意味において,銀行資本の空間 意識 は本来的にボーダ レスな ものであるといえよう

その一方で,銀行資本の空間運動が外‑向か うためには, 自らの空間意識に おける内と外 との峻別,つ ま り内部空間の措定が必要 となる46)。銀行資本が 本支店の立地体系によってその骨格が与え られる営業地盤について,明瞭な境 界認識を もつのはこのためである。そ して, この内部空間の措定 こそが,銀行 資本の空間意識 における 「地域」の析出にはかな らない。 このとき,銀行資本 が認識す るところの固有の「地域」と行政圏域や経済圏域を単位 とす る地域 は, 必ず しも一致す るものではない。

・こうして析出された 「地域」は,形式的にはより上位のスケールの空間に包 摂 され うるものであるが,実質的には銀行資本によって組織化 された空間 とし て,隣接ない しは上位の空間に対 して一定の排他性を もっ ものである。二だが,

この ことは,銀行資本 にとっての 「地域」が 自らの循環を完結 させ る空間であ ることを意味す るものではない。 このため銀行資本 は,一方 において内部空間 としての 「地域」を確定 しっっ も,空間運動の方向性 においては外延的な拡大 を指向す る‑のである。

(以下 続 く)

46)渡辺 1978,p.1120

参照

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