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(1)

知識労働者の人的資源管理の比較分析

― 4 類型にみる組織への定着意志とコミュニケーション ―

三 輪 卓 己

1.はじめに

本研究は,日本の知識労働者(Knowledge Workers)の人的資源管理(Human Resource Management, 以下 HRM と記す)の現状を分析し,そこから彼(彼女)らに適した HRM を探求しようとするもの である.本稿では,多様な知識労働者の HRM の内容を整理したうえで,それぞれの HRM における 知識労働者の意識や行動の違いを明らかにすることを目的としている.IT (Information Technology)

技術者や経営コンサルタント(以下コンサルタントと記す),金融・保険の専門職等に対するサーベ イリサーチによって,彼(彼女)らの HRM の類型化を行い,知識労働者の組織への定着意志やコミュ ニケーションを比較分析する.

知識労働者の HRM についての先行研究はそれほど多くない.それにも関わらず,そこには多種 多様な主張や見解がみられ,全く異なる特徴を持った事例も紹介されている.議論は混沌としてい るといえるのだが,その背景には,知識労働者自体の多様性があると考えられる.Davenport(2005)

は知識労働者を「高度の専門能力,教育または経験を備えており,その仕事の主たる目的は知識の 創造,伝達,または応用にある」と定義しているが

1)

,その幅広い定義をみても知識労働者には多様 な人材が含まれ,様々な働き方があることがわかる.それゆえ,知識労働者の HRM は画一的なも のではなく,彼(彼女)らの仕事そのものや,所属する組織の特性によって多様になるのだと思わ れる.

また HRM が異なれば,そこで働く知識労働者の意識や行動も異なることが予測される.組織か らみれば,彼(彼女)らが組織に貢献する意識や行動を強化する HRM が重要になるのはいうまで もない.それに関して先行研究の中で比較的多く議論され,注目されているが,知識労働者を組織 に定着させて長く貢献させるための HRM や,彼(彼女)らを他のメンバーと交流させて知識を共 有させるための HRM である.Drucker(1999)のいうように,知識労働者は自律的で組織に依存し ない存在でありながら,同時にチームで働く機会が多く,メンバーと協働しながら成果を出すこと が求められる.それゆえ知識労働者が組織に定着し,周囲のメンバーと知識を共有することは,彼(彼 女)らを雇用する組織の成果を高めるために不可欠なことだといえるのである.

1) Davenport(2005),邦訳書,28

頁.

(2)

こうした問題意識に則り,本稿では 2 つの研究課題を設定した.第一の課題は,実際の知識労働 者の HRM の多様性を明らかにすることである.知識労働者の HRM をいくつかの類型に分けたうえ で,多様性の背景にある要因を比較分析していきたい.知識労働者は仕事自体も多様であるし,彼(彼 女)らの所属する組織の特性も様々である.それらの違いによって HRM がどう異なるかを明らか にしたい.そして第二の課題は,異なる HRM の下で知識労働者の意識や行動がどのように異なる かを明らかにすることである.本稿が特に注目するのは,彼(彼女)らの組織への定着意志やコミュ ニケーションである.それらは知識労働者の雇用する組織の成果と密接に関わるものだと考えられ る.HRM によってそれらがどの程度異なるのか,その違いを明らかにしたい.本稿では,520 名の 知識労働者に対するアンケート調査のデータを用いて,これらの研究課題に取り組んでいく.

2.先行研究のレビュー

2-1.知識労働者の HRM の多様性

知識労働者の HRM の先行研究は決して多くないのだが,その中にも異なる見解や相反する主張 がみられる.そしてその背景には,知識労働者や彼(彼女)らの所属する組織の多様性があると考 えられる.

HRM に関する代表的な議論は,個人の自律性を尊重した市場志向の HRM(労働移動があり,処 遇等の決定に個人の職務価値や外部市場での相場が重視される)と,組織志向の HRM(内部労働市 場を重視し,評価や処遇に組織内部の基準が重視される)のどちらを重視すべきかに関するもので あろう.またそれと並んで,知識労働者の中には高額な報酬を得る人もいるのだが,どの程度成果 主義(年功ではなく業績や成果によって処遇が改定される),あるいは競争的な HRM が望ましいの かについても議論がある.

例えば,ソフトウェアの世界的な大企業であるマイクロソフトの事例研究と,統計分析ソフト等 の世界的有力企業である SAS インスティテュートの事例研究は,その対照的な例といえる.

Cusumano and Selby(1995)によれば,マイクロソフトの HRM の特徴は,①人材の採用にあたっ て候補者をかなり厳しく選別する(選考にパスするのは候補者の 2〜3%),②採用した人材を競争的 で自律的な環境に置いて育てる,③優秀な人の昇進は早く,若くして重要な地位につく,④金銭的 インセンティブが強い報酬制度を導入している(高額な賞与やストックオプションなどが支給され る),というようにまとめられる.優秀な個人を集めて競争させる,市場志向で競争的な HRM とい うことができるだろう.

一方,SAS インスティテュートの HRM は全く異なっている(OʼReily and Pfeffer,2000).その特徴 は,①一般的な企業でよくみられるような業績評価シートを廃止してしまっている,②その代りに マネジャーは少なくとも年に 3 回は部下と話し合いフィードバックを行う,③ストックオプション,

利益分配その他の特典を一切設けていない,④社内での教育訓練がとても充実している,とまとめ

(3)

られる.非常に組織や協働を重視した HRM ということができるだろう.

コンサルティング・ファームにも同様の対象的な例がみられる.Dickmann, Graubner and Richer

(2006)では,アメリカのコンサルティング・ファームの HRM について,二つのタイプが示されて いる.

一つは 1950 年代から台頭した,経営戦略をはじめとする包括的なコンサルティングを行うファー ムの HRM である.それらのファームでは,弁護士事務所などにみられるパートナーシップ制によ る経営が行われることが大きな特徴だといえる.もう一つは,1980 年代に増加した,会計,監査,

IT,保険会社などを起源に持つコンサルティング・ファームの HRM である.それらのファームでは,

先述のファームに比べて組織的な活動をすることが重視されている.

前者のファームでは,従業員はプロフェッショナルのように扱われ

2)

,個人の自律性と責任を重視 した HRM が行われる.競争的な環境で Up or Out の昇進が行われること,報酬の中に変動給部分が 多く業績に応じたボーナスが支給されること,パートナーには全社の利益配分があること,そして HRM は人事部ではなくパートナーが中心になって行われることなどが特徴といえる.

それに対し後者のファームでは,やや一般企業と共通性のある HRM が行われている.人事制度 の仕組みや教育訓練プログラムは先の企業よりも詳細となり,それらを人事部が統括している.そ こでの従業員のキャリアをみると,マネジャーとなるキャリア以外にも,スペシャリストやノン・リー ダー・キャリアも用意されており,先にみた企業ほど競争的ではない(Grow or Go).そして個人業 績とチームや部門の業績がともに評価され,報酬や昇進が決められるのである.

Alvesson(2004)にしたがえば,これまでみてきたような HRM の違いは,ヒューマン・キャピタ ル・アドバンテージ(Human Capital Advantage)を追求する HRM と,ヒューマン・プロセス・ア ドバンテージ(Human Process Advantage)を追求する HRM として理解することができるだろう

3)

ヒューマン・キャピタル・アドバンテージとは,卓越した人的資源による組織の優位性のことを 意味しており,それを追求する HRM とは,特に有能な人の採用と保持(リテンション)を重視す ることになる.そのための具体的な人的資源施策としては,ベスト & ブライテストといわれるよう な人材を獲得して保持すること,それらの人材に見合うだけの高い賃金を支払うこと,さらには優 秀な人を引き付けるような面白い仕事を用意すること,そして彼(彼女)らがキャリアの展望を持 てるようにすることなどがあげられる.これらの施策は,特に有能な知識労働者の高い自律性とプ ライド,仕事自体への強い関心に配慮するものであり,同時に彼(彼女)らが働く場所を選べる人 であることを認識したうえで,その定着を目指すものだともいえるだろう.次にヒューマン・プロ セス・アドバンテージとは,模倣困難なレベルに達した HRM のプロセスが生み出す優位性を意味 しており,それを追求する HRM では,強いチームや良好な人間関係,あるいは組織文化の創造を

2) ブロフェッショナルとは本来,医師や弁護士のように,長期的な教育訓練によって何らかの専門的な資格や学位を

取得しており,同業者集団に所属・準拠して公共のために働く人たちを指している(太田,1993).

3) 元々は Boxall and Steeneveld(1999)がその二つのタイプを提示している.

(4)

重視する.そのための具体的な人的資源施策としては,ワークオーガニゼーションの設計,個人へ のサポートのメソドロジーの確立,社会的関係の構築やチーム・ビルディングなどが重要なものに なる.こうした HRM は,知識労働者が組織活動を行うことに焦点をあてたものであり,同時に特 に有能な個人を活かす HRM ではなく,優れたチームや組織をつくるための HRM だと理解されるだ ろう.協働やチームを重視した組織志向の HRM であるといえる.

このように,先行研究では複数の異なる HRM が議論され,提唱されているのであるが,その背 景には知識労働者の仕事や組織の多様性がある.例えば Davenport(2005)は,知識労働者を①業 務の複雑さと②協働の度合いの二つの基準で 4 つのカテゴリーに分類している.複雑な業務に従事 する知識労働者になるほど高度な専門能力が必要となり,スター的なパフォーマンスを求められる 人も多くなる.一方協働が多い知識労働者ほど組織活動,チームワークを重視した働き方になる.

そうした知識労働者の仕事の特性に応じて,彼(彼女)らに適した HRM は変わってくるものと思 われる.また Maister(1993)は,コンサルティング・ファーム等の知識集約型企業の事業特性や仕 事内容を,①新奇性の高い仕事に取り組む「頭脳型」,②組織に蓄積された知識を応用する「経験型」,

③やや標準化された仕事を高いレベルで実施する「効率型」に分類している.そして頭脳型の企業 では個人の成果を重視した競争的な HRM が行われており,Up or Out の昇進競争や変動給部分が多 い報酬制度等が多くみられると述べている.頭脳型の企業では経験型や効率型の企業に比べると,

成果主義志向の HRM が行われやすくなるのだと考えられる.

2-2.インタビュー調査による事例研究

さて三輪(2013),三輪(2014)では,日本のコンサルティング・ファーム 12 社,IT 関連企業 11 社を対象とした HRM の事例研究が行われた.その結果からは,日本の知識集約型企業にも,多様 な HRM が存在することが明らかになった.それぞれの違いは次のようにまとめられる.

1 つめの HRM は個人の自律性をできるだけ尊重しつつ,成果主義の報酬制度や競争的な昇進制度 を志向するものである.これらの企業では,高学歴の従業員が多く,個人ごとの財務的業績が厳格 に管理され,それに基づいた処遇がなされる傾向が強い.優秀な人材のスカウト,中途採用も盛んで,

外部労働市場が活用されている.これらの企業には比較的大企業が多く,グローバルな活動や金額 の大きなプロジェクトに従事することが多いことから,そこでの仕事はかなり複雑で高度なものが 多いと考えられる.

2 つめの HRM は,組織活動と個人の自律性の双方を重視し,そのバランスを取ろうとする HRM である.役割やコンピテンシーを基準とした等級制度を持ち,業績だけでなく行動やプロセスを丁 寧に評価する制度を導入しており,充実した人材育成制度がある HRM である.1 つめの HRM の企 業と比較すれば,人材の採用は新卒が中心で,その後も内部昇進が多いのであるが,中途採用も一 定の割合で行われていて,近年はそれが増加傾向にある.

実は調査された企業の中では,こうした HRM の企業が最も多くみられた.中でも大企業や歴史

(5)

のある企業にこの HRM が多くみられ,そこでの仕事は長期的なプロジェクトや最先端のものが多い.

したがって仕事の難易度はかなり高いものと理解できる.

なお 1 つめの HRM に該当する企業はすべてコンサルティング・ファームであったのに対し,2 つ めの HRM には数多くの IT 企業が含まれている.コンサルタントに比べて IT 技術者の仕事には組 織活動が重要になることが三輪(2011)によって示されているのだが,そのことが HRM にも現れ ているのかもしれない.

次に 3 つめの HRM は,あまり競争的なものではない.少なくとも短期的に大きな報酬格差がつ くようなものではなく,熟練や地道な働き方を尊重するものだといえる.また採用は新卒が中心と いう企業が多い.それらの企業は規模が小さく,やや定型的な仕事が多いことが特徴である.

その他,これら 3 つの HRM を人材群別に使い分ける事例(コンサルティング・ファーム)や,2 つめの HRM ほど詳細なものではないが,日本的な組織志向の HRM を一部改良して,成果主義的な 要素を取り入れている事例(中堅の IT 関連企業)等がみられた.

このように日本の知識労働者においても,その HRM に多様性があることがみてとれたわけだが,

その中にいくつかの注目すべきポイントもみえてきたといえる.まず,仕事が複雑なものや先進的 なものであるほど,あるいは大企業になるほど HRM は成果主義,または市場志向になる傾向が観 察できた.これは Maister(1993)などでいわれていたこととほぼ一致した傾向だといえる.次に,

組織志向か市場志向のいずれか一つを強調するのではなく,そのバランスを取ろうとする HRM が あるということがわかってきた.中村(2006)では日本で成果主義と呼ばれている HRM の中に,

数値以外の成果や仕事のプロセスを重視して評価し,極端に報酬が増減するわけではない HRM が 多く含まれていることが明らかにされている.中村(2006)ではそれを「プロセス重視型成果主義」

と表現しているが,ここでみた 2 つめの HRM はそれに該当するものだと推察される.IT 企業等の 組織活動を重視すべき企業が,数多くそれに該当しているのも特徴的である.そして最後に,外部 労働市場を積極的に活用しているのは大企業に多いという傾向が観察できた.このことは,外部労 働市場で優秀な人を獲得するためには,相応の企業の知名度や規模が必要であることを示している のだと思われる.これらのポイントは,知識労働者の多様な HRM の背景にある要因を検討するう えで,重要なものになると考えられる.

2 - 3.組織への定着意志とコミュニケーション

先述のとおり,知識労働者の HRM には多様性があるのだが,HRM の違いは彼(彼女)らの意識

や行動にどのような影響を与えるのだろうか.組織からみれば,知識労働者が組織のために自らの

知識や能力を役立てることを促進するような HRM が重要だといえる.ところが知識労働者は,高

い自律性を有するがゆえに,ともすれば組織よりも個人の目的達成を優先する者も現れてくる.そ

のため先行研究では,①彼(彼女)らが組織に定着することによって組織のために長く働く,②彼(彼

女)らが組織のメンバーと活発に交流(コミュニケーション)することによって知識を共有する,

(6)

という二点を実現するためのマネシメントがよく議論されている.

まず知識労働者の企業組織への定着についてであるが,知識集約型企業において知識労働者の離 職は経営資源である知識の流出に他ならない.それゆえ,彼(彼女)らの HRM の議論の中で,組 織への定着が重視されるのは当然のことといえるだろう.Thite(2004), OʼReily and Pfeffer(2000),

Swart and Kinee(2004),潜道(1998)などによって活発な議論がなされている.また,Lee and Maurer(1997)では,知識労働者の離職のパターンが分類され,パターンごとの引きとめ方法の検 討がなされている

4)

.ただし,知識労働者の離職は消極的な理由によるものばかりではないし(三

輪 ,2011),ある程度雇用の柔軟性を確保した方がいい企業があることも十分に考えられる.そのた

め組織への定着率が低い企業の HRM が,すべて不適切なものだとは断定できないことに注意が必 要である.

次に知識労働者の交流,あるいはコミュニケーションであるが,例えば Davenport and Prusak

(2000)は,知識・情報社会の企業の成功要因として,賢い人々を雇い,お互いに会話させることを あげている.同様に,Krackhardt and Hanson(1997),Prusak and Cohen(2004)などにおいて,

知識労働者の人的ネットワークの重要性が述べられている.組織における知識創造を理論化した Nonaka and Takeuchi(1995)等の主要な論点は,組織で働く人たちの交流と協働による暗黙知と形 式知の共有や変換であった.そのことを想起すれば当然ではあるが,交流やコミュニケーションの 活発さは知識創造の要でもあり,それが HRM における重要な論点になるのである.

さてそれらについても,三輪(2013),三輪(2014)によって調査がなされた.①組織への定着 率(年間の退職者率や採用後 5 年経過した時の定着率),②コミュニケーション(チーム内での指導 や情報交換と,チームや部門を越えた交流)について,人事部門や事業部門のマネジャーに対する インタビュー調査が行われている.ただし,その結果は単純明快なものではなかったといえるだろう.

まず従業員の定着についてであるが,従来はかつての日本企業のように,組織活動を重視する企業 で定着率が高いと考えられていたのだが,結果は必ずしもそうではなく,個人の自律性を重視した 競争的な HRM の下でも,定着率が高い企業がみられた.その中で,HRM が組織志向であるかどう かに関わらず,高度で複雑な仕事が多い企業において,定着率が高い傾向がみられたことに注意が 必要である.

またコミュニケーションについても同様の結果がみられた.必ずしも組織志向の強い HRM の下 でコミュニケーションが活発であるとは限らず,やはり高度な仕事をしている企業において,活発 なコミュニケーションが強調される例が多かった.例えばある企業では,困難な仕事をするうえで は相互に学びあうことが不可欠になり,成果や競争を強く求める HRM の下でも,従業員同士が協 力して切磋琢磨するようになるとのコメントが得られた.また別の企業では,「競い合い学び合える

4) IT

技術者の離職を,計画的なものや突発的なもの,不満の蓄積によるものなどに分類し,その対処方法(人事異動

や教育訓練,昇給等)が検討されている.

(7)

同僚がいることが,この会社の魅力」との意見も聞けたことから,難しい仕事の下では,競争的な HRM においてもコミュニケーションが少なくなるとは限らず,むしろ活発になることもあり得ると 推察された.これらのことから,単純に組織志向の HRM が知識労働者の組織への定着やコミュニケー ションを強化すると考えるわけにはいかず,本稿においては別の可能性を考慮に入れた分析が必要 であることがわかった.

3.調査の概要と分析方法

3-1.調査の概要

さてここからは,先行研究等を踏まえて行ったアンケート調査の概要を紹介し,その分析方法を 設定していきたい.

今回の調査は平成 25 年 10 月から平成 26 年 1 月に実施され,18 社から 520 名の知識労働者の協力が 得られている(表-1 参照) .職種別にみると IT 技術者が 275 名,各種コンサルタント 168 名,金融・保 険の専門職他 77 名であった.男女別では男性が 462 名,女性 54 名(不明 4) ,平均年齢 40.2 歳であった.

表-1 調査協力企業の概要

仮名 主要事業 企業規模

A 社 インターネット事業 100〜299 名

B 社 システム開発 100〜299 名

C 社 機械製造業 5000 名超

D 社 IT サービス, IT 基盤開発 3000 〜 4999 名 E 社 マイコン,システム開発 100〜299 名 F 社 マイコン,システム開発 30〜99 名 G 社 インターネット関連サービス 100〜299 名 H 社 マイコン,システム開発 30 〜 99 名

I 社 経営コンサルティング 1000〜2999 名 J 社 情報・広告サービス 1000〜2999 名 K 社 シンクタンク(コンサルティング,調査) 300〜999 名 L 社 経営コンサルティング 100 〜 299 名 M 社 経営コンサルティング 100〜299 名 N 社 広告・マーケティング企画他 100〜299 名 O 社 会計・法律関連サービス 30〜99 名 P 社 経営コンサルティング 100 〜 299 名

Q 社 生命保険 5000 名超

R 社 金融・投資 300〜999 名

3-2.分析の方法と諸変数

本稿は 2 つの研究課題を設定している.

1. 知識労働者の HRM の多様性を明らかにする,すなわち,HRM の類型化を行い,その背景にあ

る要因を明らかにする.

(8)

2. HRM の類型別に知識労働者の意識や行動(組織への定着とコミュニケーション)を比較する.

まず,第一の課題のための調査・分析方法としては,HRM の特性をさまざまな要素において調査 し,それをクラスター分析することによって,どのような類型があるのかを探索することが考えら れる.先行研究では,いくつかの企業事例の研究において,またヒューマン・キャピタル・アドバ ンテージを追求する HRM とヒューマン・プロセス・アドバンテージを追求する HRM との対比にお いて,個人業績をどの程度重視するか,報酬や昇進にどの程度差をつけるか,チーム活動やプロセ スを重視するか,人材育成にどの程度力を入れるか等が論じられていた.さらに,知識労働者の仕 事の難易度によって,彼(彼女)らに求められる仕事の成果や行動にも違いがあることがみてとれ た(Maister,1993).今回の調査では,それらの要素を中心に調査項目を設定して分析することが必 要である.またインタビュー調査において,日本では市場志向と組織志向のバランスを取ろうとす る企業が多いことがわかっている.それを含めてどの程度多様な HRM がみられるか,その内容が 検証されることになる.

さて表-2 は調査した HRM の特性についての因子分析の結果である

5)

.ここで得られた因子が,後 の分析に使用される変数となる.順に因子の内容等についてみていきたい.

第 1 因子は人材育成や教育訓練の充実に関わる因子である.人材育成と名づけられだろう.それ に対し第 2 因子は個人の業績や目標達成度,ならびにそれに基づいた報酬に関わる因子である.個 人成果重視と名づけられるだろう.前者が組織志向の HRM,あるいはヒューマン・プロセス・アド バンテージを追求する HRM で強調されるものであり,後者は特に成果主義や市場志向,あるいは ヒューマン・キャピタル・アドバンテージに関わりの強いものだと思われる.続く第 3 因子は,新 しい提案や創造性を評価することに関する因子である.提案・創造重視と名づけられるだろう.

Maister(1993)でいう頭脳型の仕事においては,新しいことに取り組み,独自の提案をすることが 重要になるはずである.そうしたことがどの程度評価されるかについて聞いた質問項目から成る因 子である.続く第 4 因子は中途採用やスカウトに関する因子である.外部労働市場活用と名づけら れる.また第 5 因子は能力や熟練による昇格に関わるもので,能力主義と名づけられるだろう.そ して第 6 因子は新卒採用や内部昇進に関わるもので,内部人材登用と名づけられる.第 4 因子は市 場志向でヒューマン・キャピタル・アドバンテージを重視した HRM の要素だといえる.それに対し,

第 5,第 6 因子は組織志向でヒューマン・プロセス・アドバンテージを重視した HRM の要素だとい えるだろう.最後に第 7 因子はプロセスやチーム業績に関わるもので,プロセス・チーム評価と呼 ぶことができる.中村(2006)でいわれていたプロセス重視の成果主義に関わるもので,インタビュー 調査で日本企業に多くみられた要素だといえよう.これらの諸変数のどれが強く現れるかによって,

いくつかの HRM の類型が識別できるものと思われる.なお第 5 因子以降の信頼性係数がやや低い のであるが,内容の重要性を考慮して分析に取り入れることにした.

5) 調査票の質問は,1.

全くあてはまらない〜5.非常にあてはまる,の間で回答するものである.

(9)

表-2 HRMの特性の因子分析結果(主因子法,プロマックス回転後)

因子

1 2 3 4 5 6 7

固有値

6.309 3.416 1.679 1.621 1.359 1.314 1.138

α

0.834 0.753 0.784 0.706 0.605 0.549 0.654

将来の幹部,中核人材を早期に選抜して育てる制度が

ある

.738

     

社内の人材育成の制度や施策が充実している

.769

      会社が主導して行うジョブ・ローテーションがある

.643

      レベルの高い研修ブログラムが用意されている

.705

      定期的に自分のキャリアや適性を考える研修やセミ

ナーなどがある

.724

     

自分の専門能力やスキルを判定,格付けする制度や仕

組みがある

.403

     

上司やメンターが定期的に能力開発やキャリア開発の

相談に乗ってくれる

.506

     

個人の業績,目標達成度が厳しく評価される  

.705

      売上,利益,生産性などの業績が個人別に管理されて

いる  

.721

     

個人の業績や成果の数値に連動するような形で報酬が

決められる  

.762

     

業績次第では報酬が大きく下がることもありえる  

.539

      先進的な仕事や創造的な仕事をした人が認められる    

.864

        新しい仕事を提案し,挑戦することが高く評価される    

.940

        優れた提案,企画,研究,技術開発,メソッド開発な

どが承認されたり,表彰されたりする.    

.475

        有能な人であれば中途採用も積極的である      

.734

      スカウトや中途採用された人が重要なポストにつくこ

とがある      

.659

     

役職につかなくても能力を高めることによって高く処

遇される(資格等級など)        

.545

   

経験やスキルの蓄積で昇給や昇進昇格が可能である        

.617

   

新卒採用が大半を占めている      

.696

マネジャーになる人は内部昇進の人が多い      

.606

  仕事のプロセスや能力の発揮・向上を重視した評価が

される      

.428

チーム,部門の業績が評価される      

.538

定性的な目標項目を含めて多様な評価の視点がある      

.616

年功的な昇給がある      

昇進や昇格のスピードにかなりの差がある      

個人の自由な働き方が認められている      

世の中全体の相場よりも賃金水準が高い      

学力や知識だけでなく人柄などを重視して採用を決め

ている      

因子の相関

1.000

     

.243 1.000

     

.459 .326 1.000

       

.073 .437 .341 1.000

     

.370 .132 .281 .088 1.000

   

-.019 -.419 -.216 -.262 .088 1.000

.498 .091 .369 -.006 .350 .110 1.000

(10)

表-3 仕事の特性の因子分析結果(主因子法,プロマックス回転後)

因子

1 2 3

固有値

2.717 1.721 1.407

α

0.742 0.743 0.635

自社の独自技術や独特のノウハウをよく使う

.731

   

社内のメンバーに共有された仕事のプロセス,進め方がある

.520

   

他社にはないツールやメソッドがある

.890

   

プロジェクトや案件の度に新しいノウハウや考え方が必要になる  

.627

先進的で不確実性の高い仕事である  

.777

独自性のある提案をすることが仕事上強く求められる  

.645

特定の顧客,ユーザーとの結びつきが強い    

.568

顧客,ユーザーの要望に忠実であることが求められる    

.648

仕事の内容は顧客やユーザーが明確に指定する    

.621

仕事の内容(仕様や最終的な成果の形)が途中で変わることがある      

因子の相関

1.000

.424 1.000

.199 .115 1.000

表-4 組織の特性の因子分析結果(主因子法,プロマックス回転後)

因子

1 2

固有値

1.843 1.626

α

0.822 0.603

自社は業界でもネームバリューがある会社である

.759

自社は同業他社からも高く評価されている

.936

同業他社との競争が厳しい  

.689

自社の顧客,市場が他社に奪われてもおかしくない  

.693

新しい競争相手が参入してくる可能性がある  

.415

因子の相関

1.000

.086 1.000

また第一の課題のためには,別の分析も必要となる.HRM の背景にあると思われる仕事と組織の 特性についても測定し,それらを見出された HRM の類型別に比較することである.表-3,表-4 はそ の因子分析結果であるが,順に因子の内容等についてみていきたい.

まず仕事の特性についてである.先に第 2 因子からみていきたい.これは仕事の先進性や独自性 に関わる因子である.ここでは先進・独自性と呼ぶことにしたい.先行研究やインタビュー調査で みられた,仕事の難しさや新奇性に関わるものだといえるだろう.これらが強い仕事において成果 主義や市場志向が重視されるものと思われる.

一方,第 1 因子と第 3 因子については若干の説明が必要である.第 1 因子は自社独自のノウハウや メソッドに関わるもので,知識の企業内特殊性と名づけられるだろう.そして第 3 因子は顧客の要望 への対応等の因子であり,ここでは顧客との結びつきと名づけたい.これらの因子は組織志向の HRM に関わりがあると考えられるもので, 村上(2003)などの技術者研究を参考にして質問項目が設定され,

それが因子として抽出されたものである.技術者に関する先行研究において,企業内特殊知識が重要

な企業ではチームや部門の内外での協働と人的交流が多く,長期雇用や組織内での人材育成が重視さ

れることがわかっている.また顧客の要望に的確に応えようとするならば,ある程度顧客と長期の関

(11)

係を持つ必要性が高くなるため,顧客との結びつきが強い企業では,長期雇用(内部での育成と登用)

を基本とした HRM が行われやすいと考えられる.それゆえこれらの仕事の特性は,知識労働者に対 する組織志向の HRM とも関わりの深いものだと考えられるのである.本稿の分析においても,これ らの因子を分析に含めることによって,HRM の多様性をより明確にできるものと予測できる.

次に組織の特性についてである.第 1 因子は企業のネームバリューや社会的評価に関わるもので ある.企業ブランドと名づけることにする.優秀な人を外部からスカウトするような HRM は,か なり知名度の高い企業でないと不可能であろう.インタビュー調査においても,大企業や高度な仕 事をしている企業において中途採用が活発であった.無名の企業では外部労働市場で競争力を持つ ことは難しい.そう考えれば企業ブランドが高いかどうかによって,企業の取りえる HRM が変わっ てくると思われる.それに対し第 2 因子は他社との競争に関わる因子である.競争の厳しさと名づ けられる.厳しい競争下にある企業の場合,成果主義の HRM が重視されやすいものと推察される.

競争に勝ち抜くために,知識労働者に高い成果をあげることを強く意識させる必要があるからであ る.この因子はそうした意図で設定された調査項目から成っている.第一の研究課題の分析では,

これら 5 つの因子の平均点が HRM の類型別に分散分析で比較されることになる.

最後に,第二の研究課題のための分析方法としては,見出された HRM の類型別に,そこで働く人々 の組織への定着意志やコミュニケーションの強さを比較することが考えられる.

表-5 組織への定着意識等の因子分析結果(主因子法,プロマックス回転後)

因子

1 2

固有値

2.764 1.878

α

0.849 0.835

今の会社に愛着を感じている

.780

この会社で長く務めることは自分にとってプラスになると思う

.893

今の会社の仕事や働き方が気に入っている

.758

社外でも通用する知識やスキルを持っていると思う  

.671

その気になれば転職や独立も可能だと思う  

.905

他の会社にも自分が活躍できる場があると思う  

.812

因子の相関

1.000

.210 1.000

表-6 コミュニケーションの因子分析結果(主因子法,プロマックス回転後)

因子

1 2

固有値

3.345 1.160

α

0.874 0.776

色々な部門に相談できる人がいる

.738

部門を越えた人との交流を活発に行っている

.934

他部門の人の知識やノウハウに触れる機会を持っている

.815

チームメンバーと積極的に教え合い学び合っている  

.786

大事な情報はすぐさまチームメンバーと共有する  

.771

若いメンバーに積極的にアドバイスをしている  

.611

因子間の相関

1.000

.559 1.000

(12)

表-5,表-6 は組織への定着意志やコミュニケーションについての因子分析結果である.順に因子の 内容等についてみていきたい.まず表-5 の第 1 因子は,企業への愛着や長く勤める意志に関する因 子である.組織への定着と名づけられるだろう.この因子の平均点を HRM の類型別に分散分析で 比較することになる.一方,第 2 因子は組織への定着意志と比較するために設けられた質問項目か ら成っている.転職の可能性や社外で通用する能力に関するもので,社外効力感と名づけるのが適 当であろう.知識労働者の場合,組織を移りながら活躍する人も多く(三輪 ,2011),そうした人が 多数いる企業もあると考えられる.そもそも知識労働者は組織にあまり依存しないものであるし,

社外で通用する自信がありながら,自社に貢献したいと思う人もいるはずである.この因子はそれ らのことを考慮して設定した質問項目から成っている.組織への定着と併せて分析することにより,

より多くの示唆が得られることが期待される.

次に,表-6 をみると,社内のコミュニケーションについて 2 つの因子が確認できる.第 1 因子は 部門間のコミュニケーション,第 2 因子は部門内のコミュニケーションといえるだろう.どのよう な HRM においてこれらが活発になるのかが分析の焦点となる.

従来は,労働者の組織への定着やコミュニケーションは,日本企業で行われていたような組織志 向の HRM において強くなると考えられていた.長期雇用や集団主義といった特性をみれば,そう 考えるのが妥当だと思われる.しかし,知識労働者を対象にした場合には,別の考え方も成立する.

ヒューマン・キャピタル・アドバンテージを追求する HRM では,自由で競争的な環境,あるいは 成長につながる高度な仕事を与えることが,彼(彼女)らの定着につながると考えられていた.ま たインタビュー調査においても,高度な仕事に従事する人は競争的な HRM の下でも活発に交流し ている例がみられた.それらのことを考慮すると,組織志向の HRM よりも,難しい仕事や市場志 向で競争的な HRM が,彼(彼女)らの企業組織への定着,コミュニケーションを促進するとも考 えられる.今回の分析では,こうした二つの見方のどちらの妥当性がより高いか,それが検証され ることになる.

4.分析結果

4-1.HRM の類型化

ここからは研究課題ごとの分析結果をみていきたい.まず第一の課題に関する分析である.クラ

スター分析(Ward 法)によって 4 つの類型の HRM が観察できた(図 -1 参照).表-7 は 4 つの類型

における HRM の諸変数の平均値を,分散分析によって比較したものである.

(13)

図 1 HRMのクラスター分析

(14)

表-7 HRMの 4 つの類型(分散分析)

         

1.

強い成果・能力

2.

プロセス成果  

3.

市場志向  

4.

非競争      

1

段目

:

平均値

1

段目

:

平均値  

1

段目

:

平均値  

1

段目

:

平均値  

F

値  

2

段目

:

標準偏差

2

段目

:

標準偏差  

2

段目

:

標準偏差  

2

段目

:

標準偏差        

3

段目

:1

との差  

3

段目

:1

との差  

3

段目

:1

との差            

4

段目

:2

との差  

4

段目

:2

との差      

人材育成

3.383 2.981

2.241

2.206

     

0.596 0.679

0.602

0.625

83.521 ***

0.403 *** 1.142 *** 1.177 ***

   

     

0.74 *** 0.775 ***

   

個人成果 重視

4.037 3.357

3.359

2.955

     

0.791 0.645

0.960

0.654

35.198 ***

0.679 *** 0.678 *** 1.082 ***

   

     

-0.001

0.402 ***

   

提案・

創造重視

4.109 3.635

3.182

2.772

     

0.625 0.680

0.802

0.725

67.025 ***

0.473 *** 0.926 *** 1.337 ***

   

     

0.453 *** 0.864 ***

   

外部労働 市場活用

4.447 3.734

4.374

2.784

     

0.548 0.747

0.588

0.675

124.933 ***

0.713 *** .0740

1.663 ***

   

     

-.640* *** .950* ***

   

能力主義

3.858 3.274

2.453

2.600

     

0.591 0.822

0.838

0.706

70.934 ***

0.583 *** 1.405 *** 1.258 ***

   

     

.822* *** .675* ***

   

内部人材 登用

2.463 3.862

2.153

3.037

     

0.759 0.679

0.681

0.906

158.003 ***

-1.399 *** 0.311 * -0.574 ***

   

     

1.709* *** .825* ***

   

プロセス・

チーム 評価

3.793 3.634

3.189

2.875

     

0.625 0.591

0.787

0.595

46.611 ***

0.159

0.604 *** 0.918 ***

   

     

0.445 *** 0.759 ***

   

内訳

95

IT

技術者

32

名 内大企業

63

235

IT

技術者

166

名 内大企業

77

95

IT

技術者

29

名 内大企業

41

95

IT

技術者

48

名 内大企業

15

*p<0.05, **p<0.01,***p<0.001

一見して 1 の類型で全般的に平均点が高いことが分かる.また 2 の類型も平均点が押し並べて高 いが,1 ほどは高くない.1 と 2 を比較すると,1 は 2 に比べて個人成果重視,提案・創造重視,外 部労働市場活用が顕著に高いことが分かる.その一方で内部人材登用は明らかに低いことが特徴的 である.1 に比べると 2 の類型は全体的にバランスを取った HRM であり,成果主義・市場志向と組 織志向の中間に立つ HRM に見える.

次に 3 の類型は人材育成や内部人材登用の点数が低く,外部労働市場活用や個人成果重視の点数

が高い.1 や 2 に比べると人材育成や能力主義の点数が低いことから,市場志向で成果主義の HRM

とみなすことが可能である.そして 4 の類型は全般的に点数が低い.特に外部労働市場活用や提案・

(15)

創造重視の点数が低いことから,安定的な仕事をして処遇される企業のようである.以上の結果を みると,2 の類型は中村(2006)が指摘するプロセス重視の成果主義型の HRM だと判断できるだろ う.インタビュー調査でもたくさんの事例がみられた類型であり,今回の分析でも多くの人が該当 している.それに対し 1 の類型は成果主義,能力主義が強く,内部の人材にこだわらないことが特 徴である.強い成果・能力主義型と呼ぶことができるだろう.そして 3 の類型は 1 の類型との識別 をしやすくする意味で市場志向型と呼ぶのが適当だろう.最後に 4 の類型は非競争型と呼ぶことが できるだろう.インタビュー調査の結果と照合しても納得性の高い結果が得られたものと思われる.

4-2.HRM の背景にある要因の分析

続いて HRM の多様性の背景にある要因についての分析である.表-8 と表-9 は先にみた HRM の類 型別に仕事や組織の特性を比較したものである(分散分析).

表-8 HRMの類型(クラスター別)と仕事・組織の特性(分散分析)

1.

強い成果・能力

2.

プロセス成果  

3.

市場志向  

4.

非競争        

1

段目

:

平均値

1

段目

:

平均値  

1

段目

:

平均値  

1

段目

:

平均値  

F

値    

2

段目

:

標準偏差

2

段目

:

標準偏差  

2

段目

:

標準偏差  

2

段目

:

標準偏差          

3

段目

:1

との差  

3

段目

:1

との差  

3

段目

:1

との差              

4

段目

:2

との差  

4

段目

:2

との差       知識の

企業内 特殊性

4.070 3.733

3.519

3.326

     

0.759 0.818

0.972

0.812

14.023 ***

0.337 ** 0.551 *** 0.744 ***

   

     

0.214

0.407 ***

   

先進・

独自性

3.818 3.492

3.486

3.039

     

0.714 0.798

0.779

0.813

15.937 ***

0.325 ** 0.332 * 0.779 ***

   

     

0.006

0.454 ***

   

顧客との 結びつき

3.737 3.597

3.106

3.333

     

0.674 0.737

0.840

0.832

14.075 ***

0.140

0.630 *** 0.404 **

   

     

0.491 *** 0.264 *

   

企業 ブランド

3.858 3.213

3.410

2.847

     

0.953 0.901

0.922

0.902

20.705 ***

0.645 *** 0.448 ** 1.011 ***

   

     

-.1970

0.365 **

   

競争の 厳しさ

3.837 3.982

4.140

3.761

     

0.794 0.667

0.720

0.709

5.406 **

-0.145

-0.303 * 0.075

     

     

-0.158

0.220 ✝

   

✝p<0.10,*p<0.05, **p<0.01,***p<0.001

(16)

表-9 HRMの類型(企業別)と仕事・組織の特性(分散分析)

1.

強い成果・能力

2.

プロセス成果

3.

市場志向

4.

非競争      

1

段目

:

平均値

1

段目

:

平均値

1

段目

:

平均値

1

段目

:

平均値

F

値  

2

段目

:

標準偏差

2

段目

:

標準偏差

2

段目

:

標準偏差  

2

段目

:

標準偏差

   

3

段目

:1

との差

3

段目

:1

との差  

3

段目

:1

との差        

4

段目

:2

との差

4

段目

:2

との差   知識の

企業 特殊性

3.812 3.726

3.537

3.528

     

0.919 0.840

0.964

0.697

2.242 ✝

0.086

0.274

0.284

     

     

0.188

0.198

     

先進・

独自性

3.691 3.377

3.642

3.340

     

0.793 0.815

0.802

0.779

5.045 **

0.314 * 0.048

0.351 ✝

   

     

-0.266 * 0.036  

   

顧客との 結びつき

3.662 3.568

3.049

3.646

     

0.841 0.741

0.810

0.682

6.069 ***

0.094

0.613 *** 0.016

     

     

0.519 *** -0.078  

   

企業 ブランド

3.891 3.117

3.529

3.104

     

1.227 0.865

0.901

0.838

14.199 ***

0.775 *** 0.362 ✝ 0.787 ***

   

     

-0.413 ** 0.013  

   

競争の 厳しさ

3.819 3.918

4.190

3.757

     

0.864 0.687

0.641

0.724

16.114 ***

-0.099

-0.371 ** 0.062

     

     

-0.272 ** 0.161  

   

✝p<0.10,*p<0.05, **p<0.01,***p<0.001

表-8 は先にみたクラスター分析の結果をそのまま使い,データを 4 類型に分類して分析を行った ものである.ただそこで注意が必要なのは,その分類だと同一企業に勤める人が異なるクラスター に分類されることが散見されることである.もちろん同一企業の中でも階層や役割によってやや異 なる HRM が適用されることも考えられるので,直ちにそれを問題視するわけにもいかないのだが,

個人の認知の違いにより,このような差が出現した可能性も否定できない.そこで表-9 では,クラ スター分析において最も多くの人が含まれた類型をその企業の類型として定め,企業ごとに一つの 類型に統一した形でデータを再分類して分散分析を行った.この二つの表をみながら結果を検討し ていきたい.

まず強い成果・能力主義型は,双方の表で競争の厳しさ以外の全ての点数が最も高い.高度な仕 事をしており,かつ企業にも独自の知識が蓄積され,企業ブランドが確立されているものと思われる.

次に市場志向型は競争の厳しさが最も高いことが特徴である.その他では仕事の先進性,企業ブラ

ンドもかなり高く,反対に顧客との結びつきや知識の企業特殊性は低い.汎用的な知識を使い,他

社と激しい競争をしている企業とみることができる.それに対し,プロセス重視の成果主義型は全

般に点数は高いが,強い成果・能力主義型ほどではない.市場志向型に比べると知識の企業特殊性

は高く,企業ブランドは高くない.やや高度な仕事に従事していて,それなりに企業内特殊知識が

(17)

蓄積された企業とみることが可能であろう.そして非競争型はすべての点数が低く,特に企業ブラ ンドが低い.あまり高度ではない仕事に従事している企業,あるいはまだ成長途上の企業だと判断 できるだろう.これらの分析で HRM と仕事,組織の特性との関係がかなり明らかになったといえ るだろう.高度な仕事の方が成果主義になりやすく,企業内特殊知識が豊富になるほど,人材育成 が重視されるようである.また企業ブランドの高さや競争の厳しさが,外部労働市場の活用につな がるようである.

4 - 3. HRM の類型と組織への定着意志,コミュニケーション

最後に第二の課題の分析である.表-10,表-11 は HRM の類型別に組織への定着やコミュニケーショ ンの点数を分散分析で比較した結果である.ここでも先ほどと同じ理由で二つの分類方法(クラス ター分析そのまままの分類と企業ごとに統一した分類)による分析を行っている.

表-10 HRMの類型別(クラスター別)の組織への定着とコミュニケーション(分散分析)

1.

強い成果・能力

2.

プロセス成果  

3.

市場志向  

4.

非競争        

1

段目

:

平均値

1

段目

:

平均値  

1

段目

:

平均値  

1

段目

:

平均値  

F

値    

2

段目

:

標準偏差

2

段目

:

標準偏差  

2

段目

:

標準偏差  

2

段目

:

標準偏差          

3

段目

:1

との差  

3

段目

:1

との差  

3

段目

:1

との差              

4

段目

:2

との差  

4

段目

:2

との差      

組織定着

4.040 3.651

3.382

3.056

     

0.859 0.746

0.936

0.762

26.023 ***

0.389 *** 0.658 *** 0.984 ***

   

     

0.269 * 0.595 ***

   

社外 効力感

3.821 3.285

3.593

3.358

     

0.796 0.888

0.937

0.804

9.858 ***

0.536 *** 0.228

0.463 **

   

     

-0.308 * -0.073

     

部門内 コミュニ ケーション

3.975 3.698

3.530

3.368

     

0.658 0.700

0.873

0.816

11.562 ***

0.277 * 0.446 *** 0.607 ***

   

     

0.168

0.330 **

   

部門間 コミュニ ケーション

3.632 3.287

3.049

2.905

     

0.914 0.881

1.080

0.864

11.41 ***

0.345 * 0.582 *** 0.726 ***

   

     

0.238

0.382 **

   

*p<0.05, **p<0.01,***p<0.001

(18)

表-11  HRMの類型別の(企業別)組織への定着とコミュニケーション(分散分析)

1.

強い成果・能力

2.

プロセス成果

3.

市場志向

4.

非競争      

1

段目

:

平均値

1

段目

:

平均値

1

段目

:

平均値

1

段目

:

平均値

F

値  

2

段目

:

標準偏差

2

段目

:

標準偏差

2

段目

:

標準偏差  

2

段目

:

標準偏差

   

3

段目

:1

との差

3

段目

:1

との差  

3

段目

:1

との差        

4

段目

:2

との差

4

段目

:2

との差   組織への

定着

4.075 3.601

3.191

3.403

     

0.929 0.767

0.963

0.724

16.527 ***

0.474 *** 0.884 *** 0.672 ***

   

     

0.410 *** 0.198  

   

社外 効力感

4.029 3.251

3.625

3.514

     

0.738 0.869

0.890

0.766

17.757 ***

0.778 *** 0.404 * 0.515 **

   

     

-0.374 ** -0.263  

   

部門内 コミュニ ケーション

4.048 3.583

3.654

3.569

     

0.748 0.718

0.881

0.734

7.288 ***

0.465 *** 0.395 ** 0.479 **

   

     

-0.071

0.014

     

部門間 コミュニ ケーション

3.630 3.207

3.149

3.042

     

1.049 0.895

1.016

0.871

5.125 **

0.423 ** 0.482 ** 0.589 **

   

     

0.058

0.166

     

*p<0.05, **p<0.01,***p<0.001

まず組織への定着についてであるが,強い成果・能力主義型が最も高い結果となった.次いでプ ロセス重視の成果主義型であり,他の二つの類型との間に統計的に有意な差がある.一方社外効力 感については,強い成果・能力主義型が最も高く,市場志向型がそれに続く結果となった.プロセ ス重視の成果主義型や非競争型と市場志向型の間には統計的に有意な差がある.

次にコミュニケーションについてであるが,部門内においても部門間においても,強い成果・能 力主義型の点数が最も高い.クラスター別の分析(表-10)では二番目に高いのがプロセス重視の成 果主義型であるが,それは非競争型との間には有意な差があるものの,市場志向型との間には有意 な差はみられなかった.それを企業別(表-11)でみると部門内コミュニケーションで二番目に高い のは市場志向型となる他,部門間コミュニケーションでもプロセス重視の成果主義型と,他の類型 との間に統計的に有意な差はなくなってしまう.

これらの結果をみると,少なくとも従来いわれてきたように,組織志向の HRM において組織へ

の定着が強く,成果主義や市場志向の HRM においてそれが弱いとは断定できないようだ.プロセ

ス重視の成果主義型が市場志向型よりも組織への定着が強いことから,確かに組織志向の HRM は

組織への定着に影響力を持つようだが,強い成果・能力主義型の組織への定着の点数が最も高いこ

とをみれば,成果主義が組織への定着を決定的に阻害するとは思えない.また強い成果・能力主義

型は人材の内部登用にこだわらないことから,内部登用を重視した HRM が知識労働者の組織への

定着を強めるための絶対的な要件とは断定できないだろう.むしろ非競争型との顕著な差などを考

え合わせると,高度な仕事や成果主義,あるいは人材育成が強い HRM において組織への定着が強

(19)

くなるといえるだろう.一方,社外効力感については,明らかに成果主義,市場志向の HRM の方 が強いようだ.これはプロセス重視の成果主義型の HRM,あるいは組織志向の HRM の弱点を示す ものだといえるだろう.そして強い成果・能力主義型が,組織への定着と社外効力感の双方におい て最も得点が高いことから,社外で活躍する自信のある人が組織に定着するのは,そのような HRM であることが理解できる.

さらにコミュニケーションについてみても,組織志向の HRM の明確な優位性はみられない.プ ロセス重視の成果主義型と市場志向型との間に有意な差はないのである.従来は組織志向の HRM が働く人々の協働やコミュニケーションを支えていると考えられていたが,知識労働者における分 析において,それは確認できなかった.非競争型とその他の類型との顕著な差などを考え合わせると,

コミュニケーションはむしろ難しい仕事や競争的な HRM の下で活発になると考えられる.

5.結果の含意と今後の研究課題

さて今回の分析結果が示唆するものを考察してみたい.まず多様な知識労働に応じた HRM につ いてである.それぞれの HRM の特徴や課題はどのようにまとめられるだろうか。

4 つの類型のうち,強い成果・能力主義型は,著名な大企業などで先進的な仕事に従事する知識労 働者に適した HRM とみることができる.非常に優秀な人たちを競わせながら育てるような HRM と いえるだろう.優秀な人材を引き付けるだけのブランドや魅力の維持が重要になるのはもちろんで あるが,競争させながら人材育成にも力を入れるというのは,人的資源管理に市場原理を活かしな がら,時折組織が介入するということを意味している.その微妙なバランスを取ることが組織の課 題になるだろう.次に,市場志向型の HRM は先進的で,あまり企業内特殊知識を使わない仕事を する知識労働者に適した HRM とみることができる.メンバーはやや流動的になり,各自が自己責 任で成果を競うような働き方になる.何よりも優秀な人材を常時採用できる体制の確立することが 重要になるし,仮に優秀な従業員が退職することがあっても,それと同等以上の人が雇用できるだ けの強いインセンティブも必要になるだろう.一方プロセス重視の成果主義型は,組織活動が多く,

堅実な人材が多数必要になるような企業の HRM だとみることができる.先の二つに比べると従来 の日本企業の HRM に近いものだといえよう。社内の人材育成を充実させることが最も大事になる だろうが,特に社内ノウハウの共有や対人スキルの開発が重視されるものと思われる.そして非競 争型の HRM は,やや定型的な仕事を低いコストで,能率よく実行するような企業の HRM とみるこ とができるだろう.そこでは,比較的短期雇用で働く人も多いものと思われる.人材の流動化に対 処するために,仕事の標準化やマニュアル化を促進し,誰もが同じ水準の仕事ができるようにする ことなどが課題となろう.

その一方で,知識労働者の定着やコミュニケーションを強く促進する HRM を追求するならば,

今回の結果からは強い成果・能力主義型がそれに最も近いということになる.社外効力感について

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も最も高得点という結果であった.改めて強い成果・能力主義型の特徴をみるならば,市場志向型 に比べて人材育成が強いといえる.このことは外部から優秀な人材を採用するだけでなく,それを さらに育成することの重要性を指し示すものであろう.さらにプロセス重視の成果主義型と比べる と,個人別の成果重視や提案・創造重視の程度が強い.つまり高度な仕事や成果に積極的に報いて いるといえる.また外部労働市場活用の程度も強いのも特徴的である.これは強い成果・能力主義 型の HRM が異質な人材を積極的に活用しているのと同時に,新卒採用の人材を過度に保護してい ないことを示しているのかもしれない.このような厳しいかわりに成長する機会も多いような HRM が知識労働者を惹きつけ,活性化させているのではないだろうか.そう考えるならば,成果主義や 市場志向に基づく HRM に,人材育成が組み合わされた場合,知識労働者が組織に長く留まり,メ ンバーと協同する可能性が高いと考えられる.日本ではこれまで成果主義,市場志向の HRM に批 判的な意見も多く,かつての組織志向の HRM に回帰すべきだというような意見も聞かれている.

しかし知識労働者に関していえば,成果主義を敬遠しすぎるべきではないし,従来の日本的 HRM に固執しすぎるのも得策ではないといえるだろう.

最後に今後の課題について述べたい.分析の精緻化をはじめ,課題は数多くあるのだが,代表的 なものを 3 つあげておく.まず今回は HRM を類型化し,それによって組織への定着などを比較し たわけであるが,個別の HRM の特性が組織への定着やコミュニケーションにどの程度影響を与え ているか,その因果関係をみるような分析も必要であろう.それによって個々の HRM の特性の意 義がわかりやすくなるし,類型による分析と併せてみることで,より深い理解が可能になるものと 思われる.次に本稿では,HRM によって知識労働者の組織への定着やコミュニケーションがどう異 なるのかをみたわけであるが,他にも検討すべきことがあると考えられる.例えば HRM と個々の 知識労働者の成長の関わりである.異なる HRM の下で彼(彼女)らのキャリア発達はどう異なる のか,あるいはどんなキャリア志向の持ち主が多くなるのかなども,解明されるべきテーマだと思 われる.そして最後に,強い成果・能力主義の実態を詳しく分析することがあげられる.その HRM が知識労働者に有効であることがわかってきたのだが,現実にそれを導入できる企業というのは限 られてくると思われる.どのような企業がそれを実現できるのか,それを明らかにすることが必要 である.

(引用文献)

Alvesson, M.(2004)Knowledge Work and Knowledge-Intensive Firms, Oxford University Press.

Boxall, P. and Steeneveld,M.

1999

)ʻ

Human resource strategy and competitive advantage: A longitudinal study of engineering consultantsʼ, Journal of Management Studies, 36. pp.443-463.

Cusumano, M.A. and Selby, R.W.

1995

Microsoft Secrets, Simon&Schuster

(山岡洋一訳『マイクロソフト・シークレッ ト 上・下』日本経済新聞社, 1996年)

.

Davenport, T.H.

2005

Thinking for a Living: How to Get Better Performance and Results from Knowledge Workers,

図 1 HRM のクラスター分析

参照

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