三 組商学研究 第
49巻第
6号
2007年
1月
77 2006
年
10月
10日掲載泉認
ドイツの金融システム変貌 とリスク管理
大 矢 繁 夫
<要 約>
ドイツでは,他 の先進諸国同様 に,近年金融 システムの変貌が生 じた。ユニバーサルバ ンク, とりわけ大銀行 は,商業銀行業務 か ら投資銀行業務へ と重点 を移動 し, また株式市場 も顕著 な発 展 を遂 げた。 この こ とは, い くつかの計数 で追 うこ とがで きる。
しか しなが ら,商業銀行業務 が意義 を低 めた とはいって も,商業銀行 の本質的な機能,す なわ ち,貸 出によって預金通貨 を生み出 し,マネー を供給す るとい う信用創造機能 は,依然 としてそ の重要性 を減ず るこ とはない と考 え られた。 この点,ユニバーサルバ ンクが証券 引受やデ ィー リ ング等の証券業務 を行 ったケー スに即 して検討 した。
投資銀行業務の意義増大 として捉 え られ る変貌は,銀行 に即 して重要 なポイン トを押 えよ うと すれば,銀行 資産の リス ク性増大 として理解 で きた。銀行 システムは グローバルな競争圧 力の下 で, よ りリス クの強い業務分野 ・対象へ と進 出す るこ とを余儀 な くされ る。 そ して この こ とは, 投資銀行業務 のみな らず,従来の貸 出の領域 に もわたるこ とであった。 当然, ここか らは, よ り
リス クの強 まった資産 を改めて管理す る手立てが登場す る。 中央銀行 ブンデスバ ンクの注 目した クレデ ィッ ト ・デフォル ト・スワ ップが それであった。小論 では,最後 に, これに関す るブ ンデ スバ ンクの調査 ・分析 を追 った。 この ような リス ク管理手法が どの程度効果 を もつのか,今後 も 注視 してゆ く必要があろ う。
< キー ワー ド>
金融 システムの変貌, ドイツの銀行,商業銀行 の機能,信用創造,金融仲介, リス ク資産 の管 理, クレデ ィッ ト ・デフォル ト ・スワ ップ
は じめ に
小 論 は ドイツに お け る金 融 シス テム変 貌 を追 い, 真 に どの よ うな こ とが生 じて い るか を明 らか
に しよ う とす る
。 1で は, ドイツ金 融 シス テ ム変 貌 の背景 ・要 因 を整 理 し
, 2で は変 貌 現 象 とさ
らに その 内奥 を掴 も う と した
。 3で は, 変 貌 の帰結 として生 じた, 中央銀行 ブ ンデ スバ ン ク も注
目す る新 た な リス ク管理 を追 った。
78
三 田 商 学 研 究
1
. ドイツ金 融 システム変貌 の環境 ・要 因
ト
1. 4つの環境 ・要 因
1990
年代以降, ドイツの金融 システムは変貌 を目立たせ た。 ここでい う変貌 は,例 えば 「間接 金融 システムか ら直接金融 システム‑の移行」や銀行 の 「 商業銀行業務か ら投資銀行業務への重
1 ) 点移行」 とい うような, いわば通常 なされている理解 を指す。
金融 システム変貌 を,ひ とまず このように理解す るとして
,90年代以降, あるいは
80年代後半 以降, この変貌の背景や要 因 として, または変貌 その ものを表す ようなもの として, さまざまな 事象が生起 した。 これにつ いて,重要 な もの として例 えば , 「グローバ 1 )ゼ‑ シ ョン」 , 「 情報技
術革新」 , 「 市場化 ・制度改革の進展」 , 「 金融再編」 とい うような事柄 を挙 げることがで きる。 こ れ らの事柄 につ いて,大 まかにその関連 を整理 してお くと,次のようにいえるであろう。
「グローバ リゼー ション」は,金融機関の競争 をグローバル レベ ルでいっそ う激 しい ものにす る。 この競争圧力の下 で,金融機関はよ りリス クの強い分野への進出を余儀 な くされ る。そ して, このこ とを可能にす るもの として,金融 自由化のような 「 市場化 ・制度改革の進展」が必要 とさ れ ることになる。他方,金融機関が よ りリス クの強い分野へ進 出す るようになると,金融機関の 安定性 も脅か され ることになる。その
1つの帰結 として,金融機関は 自らの 「 体力増強」のため に統合 ・合併等の 「 金融再編」へ と踏み出す。
「 情報技術革新」は , 「グローバ リゼー ション」 を加速 させ るし, また,金融機関の リスク分野 への進出を支 える。 さらに
,IT投資が 巨額 にのぼ るこ とか ら, その負担軽減 のため金融機関に は合併等が促 され もす る。
以上 の ように見て くると,上記
4つの事象の うち , 「グローバ リゼー ション」 と 「 情報技術革 新」は,金融 システム変貌のよ り外部的環境 ・ 要 因 として位 置づ けることができる。他方 , 「 市場
化 ・制度改革の進展」や 「 金融再編」は,変貌のよ り内部的な環境 ・要 因 として,あるいは変貌 によ り密着 した事柄 として整理 し,位置づ け ることがで きる。そ して, もちろんこの
4つの環境 変化 は, それぞれが一方向的な文脈 をもって金融 システム変貌 をもたらすわけでな く,相互に影 響 を与えつつ,金融 システムか らの反作用 も受けつつ,全体 として 「直接金融 システムの発展」
2 )
や 「 投資銀行業務の重点化」 をもたらしていった といえる。以下, ドイツ金融 システム変貌の, よ り内部的な環境 ・要 因 としての 「 市場化 ・制度改革」 と 「 金融再編」について一瞥 しておこうo
1 ) 例 えば, 田中素香 ・長部重康 ・久保広正 ・岩 田健治 ( 20 01 )の第 7章,第1 0章,星野郁 ( 2 0 0 2 ) ,相沢幸悦 ( 2 00 2 ) ,飯野由美子 ( 20 0 3 b) を見 よ。 ドイツ金融 システム変貌 につ いて,共通の認識が見 られ る。
2)
金融 システムが
4つの環境変化 ・要 因 と交 じり合 いなが ら変貌 してゆ く, その流れ を推 し進めてゆ く根本
的要 因は,競争 とい うこ とに尽 きる。 この競争 に新 しい質 を刻 印 したのは
,70年代 に入 っての金 .ドル交換
停 止 と変動相場制 の導入であ り, これ以降,マネーや銀行 は資金過剰下 で 「 秩序」 なき,正常 でない運動 を
余儀 な くされてゆ く。 この ような基本認識につ いては,村 岡俊三 ( 2 001 ),鈴木芳徳 ( 2 00 4 ) を参照 のこ と。
ドイツの金融システム変貌 とリスク管理
/I9 1‑2.市場化 ・制度改革ドイツでは,すでに1
967年に金利調整令が廃止 され,金利 自由化 は早い時期か ら達成 されてい た。 また,ユニバーサルバ ンク制度の下 で , 「 銀 ・ 証」業態規制 は基本的に存在 しなか った。 しか し
,80年代後半以降,い くつかの 自由化が新 たに進め られた。それは,端的には,非居住者のマ ル ク建金融資産保有 を促 し,外資流入や外銀の進 出を促す措置であった。 グローバルな競争の も
とで, フランクフル ト金融市場の空洞化 を防 ごうとす るもので もあった。 この ような金融国際化, とりわけ非居住者のマル ク建金融資産保有の増大は,い うまで もな くマル ク国際化 を推 し進めて いった。
以上のように,8
0年代 に金融国際化やマル ク国際化が進んでゆ くが,他方では, 内外の競争が 激 しくなるとともに, ドイツの銀行 はよ りリス クティキングとな り,種々の金融不安が訪れた。
74
年の‑ルシュタッ ト銀行 の倒産 は衝撃 をもた らしたが,8
0‑81年 には コメルツバ ンク等が大規 模 な金利の ミスマ ッチングによ り困難に直面 し
,83年にはシュレーダー ・ミュンヒマイヤー ・へ ングス トが倒産 した。 ここか ら制度改革は,金融機関に対す る新 たな規制 とい う局面に至 ること になる。1
985年
1月には新銀行法が施行 され, そのポイン トは,銀行の貸出枠の規制 を子会社 を 含めた連結ベー スで行 うとい うものであった。 この時代 の制度改革は, この ように 自由化 と規制
3 ) とい う両面 をもつ もの となった。
1980
年代央以降,資本市場 を巡 る種々の改革 も推 し進め られていった。 ドイツの資本市場, と りわけ株式市場は,1
930年代 にその機能 をほぼ停止 し,第
2次大戦後 も長 ら く不活性 であったが,
80年代以降復活 を遂げ,9
0年代 に入 ると目立 った歩み を見せ ていった。資本市場 を巡 る制度改革
もこれ と歩調 を合 わせ て進んでいった。
重要 な改革 を挙 げてお くと
,1990年の ドイツ先物 ・オプ ション取引所
(DTB)の設立,90年以 降の
EC‑EUにおけ る制度整備 に合 わせ た数次 にわたる 「 資本市場振興法」の制定等があ る。
また97 年の新興企業向け ノイア ・マル ク ト設立 も注 目を集めた ( ただし
2003年
3月に廃止) 。 なか で もDTBの設立による先物や オプションの導入は
,90年代 の投資信託 の伸 張に関連 して, よ り 注意が払われてよい といえるだろう。 これ らの改革によって, ドイツの金融 システム も,証券市 場や投資銀行業務が重視 され るシステムへ と次第に移行 していった, と一般的にい うこ とがで き
4 ) る。
ト3.金融再編
グローバルな競争が激 しくなるなかで,国内においてこの競争の舞台を整 えることが一連の制 度改革であった とすれば,競争の主体 である金融機関が 自らの体制 を整 えることが金融再編 であ る。 ドイツ最大の銀行 である ドイチェ ・バ ンクによる主だった金融再編 をみてお くと,次の よう
3) 1980
年代の金融自由化については,生川栄治
(1987),大矢繁夫
(1993),相沢幸悦
(1993)を参牌のこと。4)1980
年代以降の資本市場の歩みについては,山口博教
(1998),大矢繁夫
(2001)第
3章,野村資本市場
研究所 『 資本市場クォータリー
2002年秋
』,飯野由美子
(2003a)を参照のこと。5 ) であった。
三 田 商 学 研 究
・1989
年 に,英マーチャン トバ ンクであ るモルガ ン ・グレンフェル を買収 し
,95年 にロン ドン に投資銀行部 門 ドイツ ・モルガ ン ・グレンフェル を発足
・93
年 に,マ ドリッ ド銀行 ( スペイン) , レッコ ・ポボラレ銀行 ( イタリア)を買収
・98
年 に米投資銀行バ ンカー ズ トラス トの買収表明
(99年買収完了)
・98
年, クレデ ィ ・リヨネ ・ベ ルギー を買収
・2002
年,米資産運用会社 チュー リッヒ ・スカグー ・インベ ス トメンツ買収
ドイチェ・ バ ンクの上 の よ うな買収 ・ 金融再編 は,投資銀行業務 の強化 とい う性格 を色濃 くもっ ていた
。97年 に頭取 となった ロルフ ・プ ロイヤー は ドイチェ ・バ ンクで初めての投資銀行部 門出 身であった。
また ドイツ最大の保 険会社 ア リア ンツが, ドイツ
3位 の大銀行 ドレスナ一 ・バ ンクを買収 した こ とも注 目を集め た
(2001年) 。 これは, ア リア ンツが,資産 運用業務 の拡 充,生保 商 品等 の販
6 ) 売チャネル拡充 を目指 した ものであった。
2.
ドイツ金 融 シス テム の変 貌
2‑
1 .変貌の現れ
1
では, ドイツ金融 システム変貌の環境 として,市場化 ・制度改革 と金融再編 に焦点 を当て, その動 向 を一瞥 した。 ここでは, ドイツ金融 システム変貌の現象 を追 う。金融 システム変貌 は, さしあたっては直接金融 システムや投資銀行業務 の意義増大 として理解 された。以下 では, この 観点か ら, ドイツの銀行 の収益構造や株式市場の状況等 を見 る。
銀行の収益構造
銀行 の収益構造 を,純利 息収益 及 び純手数料収益 が それ ぞれ
B/S総額 に どの ぐらいの割合 を 7 )
占めてい るか とい う数値 で追 ってみ ると,大銀行 におけ る純利息収益 の比率 の低下 は 目立 ってい る
。1985‑89年の年平均
2.6%か ら
,2000年以降はほぼ
1%を割 ってい る
(2004年
0.98%)。貯 蓄銀 行 も純利息収益 の比率低下が見て取れ るが,大銀行 ほ ど顕著 でな く
,1985‑89年 の年平均
3.6%か
ら
,2000年以降では
2.3‑2.4%となっている
(2004年
2.35%)。
また,信用協 同組合 も同様 の傾 向 を示 し
,1985‑89年 の年平均
3.7%か ら
2000年 以降 は
2.5%は
5)
ドイチェ ・バ ンクのホームペー ジ,野村資本市場研究所 『 資本市場 クォー タ ) )
‑ 2001年秋』 を参照の こ と0
6) 野村資本市場研究所 『 資本市場 クォー タ リー
2001年春』 , なお銀行業 と保 険業 の統合 につ いては相沢幸 悦
(1994), 山村延郎
(2002)を参照の こと0
7)
現在, ドイツで 「 大銀行」 と呼ばれているのは,従来の
4大銀行 に
DeutschePostbankが加 え られ,吹
の
5行 となっている
。DeutscheBank,DresdnerBank,Commerzbank,BayerischeHypo‑undVereins‑ bank,DeutschePostbank.ドイツの金融システム変貌 とリスク管理
81どへ と落 ちてい る
(2004年2.
51%)0
純 手数料収益 につ いては,大銀行 の場合,1
985‑89年 の年 平均0.
97%か ら2004年 の0.
50%まで 漸減 がみ られ, 手数料 ビジネスがパ フォーマ ンス を上 げてい るわけ で もない よ うに見 え る. しか
し
, 2つ の純 収益 の合 計 に対 す る純 手数料収益 の割合 を とってみ る と
,85‑89年 の27%か ら2003 年 の39%。2004 年 の34%へ とシェアア ップ を見せ てい る。大銀行 の,貸 出業務 か ら手数料 ビジネ スへ の傾 斜 が窺 え るの で あ る。 なお,貯 蓄 銀行 と信 用 協 同組 合 につ い て も,85‑89 年 の年 平 均
0.3‑0.4%か ら0.5‑0.6%へ と漸増 を見せ てい る。次 に,大銀行 のデ ィー リング業務 収益
(Netto‑ErgebnisausFinanzgeschaften)につ いてであ るが,や は りB/S総額 に対す る比率 を取 ってみ る と
,90年代 の0.
1%台か ら2000年 に な って0.
32%‑ と伸 び,02 年 に は一 時 落 ち込 み を見せ るが
(0.13%),翌03 年 に は0.
32%‑ と回復 す る。傾 向として2000 年 以降, デ ィー リング業務 か らの収益 が重要性 を格段 に高め てい るこ とが窺 え る。 こ の よ うな
B/S総額 に対す る比率 でみ る と,数値 はネ グ リジブルに映 るが, た とえば03年 の実 際 の金額 を示す と,大銀行 のデ ィー リング業務 の純収益 は49 億ユー ロであ る。 同年 の純利 息収益 が
130億 ユー ロ,純 手数料収益 が82 億 ユー ロであ り, デ ィー リン グ業務 は間違 い な く
3大収益 源 の
8
) 一角 をな してい る, といえよ う。
家計の金 融資産
ブ ンデ スバ ン クの示 してい る数値 か ら計算す る と,家計 の保有 す る金融資産 の うち銀行預 金 の 割合 は,91 年 の45.
8%か ら2005年 の35.
0%‑, ほぼ直線的 に減少 してい る。他 方,証券形態 での運用 ( 債券,株式,その他 エ クイティー,投信)は,91 年 の28.
3%か ら01年 の36.
5%まで,や は り 直線的に増大 し
,02年 には若干 の後退 を見せ るが,03‑05 年 には33%台 を維 持 して い る。家計金
9 ) 融資産 の,銀行預金 と証券 におけ る減 と増 は対照 的 な動 きをな してい る。
株 式発行 と株価 の動 向
直接 金 融 の動 向 を端 的 に示 す株 式 発 行 額 ( 上場及 び非上場企業額面価格) を追 って み る と,
1980‑89年 の年 平 均 発 行 額 は36 億
DMほ どで あ り
,1990‑98年 で は それ が56.
8億
DMとな る。
1999‑2005
年 では,ユー ロ表示 とな るが,年 平均
46.2億 ユー ロの発行額 に達 す る。1
998年 固定 の ユー ロ
・DMの為 替相場 で換算す る と
,90.4億
DMとな る。株 式発行額 の顕著 な増加 が見 て取れ
1 0 ) る。
株価 の動 向 を見 てお くと
,CDAX( フランクフル ト取引所上場の ドイツ企業全銘柄の株価指数)の
8)大銀行のディー リング業務収益は
,2004年には,前年4
9億ユーロから6 億ユーロ‑ と著減を見せている
(B/S
総額に対する比率では
,0.32%から0.04%へ著減) 。これについてのブンデスバンクのコメン トは次 のようなものである
。10年間以上にわたっての期間で
,2003年には最高の利潤を達成したが
,2004年には,
1994年以来最低の結果となった。その原因は,エマージングマーケット‑の投資,転換社債の取引,金利デ リバティブからの収益低下である,と
。2004年の事態を詳しく追う必要があるが,それ以前の
10年以上にわ たっての傾向を掴むため,本文では
2004年の数値を除いた
。DeutscheBundesbank (2005)参照。9) DeutscheBundesbank (2004a),DeutscheBundesbank (2006)参照.
10) DeutscheBundesbank,Kapitalmarktstatistik,StatistishesBeiheftzumMonatsbericht2
各号による。な
お
,1998年固定のユーロ・
DMの為替相場は
, 1ユーロ
‑1.95583DMであった。田中素香 ・ 長部重康 ・ 久保
広正 ・岩田健治
(2001 )第
4章参照。
82
田 商 学 研 究
5
年 間毎の年平均 は
,1980‑84年
66.63,1985‑89年
142.84,1990‑94年
159.22,1995‑99年
298.00,
2000‑04年
285.05とな る。 また
,2005年 単年 の
CDAXは
335.59で あ る。株価 は順 調 な発 展 を示
11)
している。
2‑2.
変貌 の本質的把握
金融 システム変貌 の現象は, ドイツにおいて も,銀行, とりわけ大銀行 の収益源 としての,商 業銀行業務 ・貸 出業務 の意義低下 と投資銀行業務 の意義増大 として, また株式市場 を中心 とした 直接金融 システムの役割増大 として捉 え られた。 これ と関連 して,例 えば ドイチ ェ ・バ ンクの場 令,投資銀行業務 強化 のための組織整備 を
90年代半 ばになって本格的に行 い,証券 引受業務
, トレー デ ィング業務 ( ブローカー業務,デイラー業務)
,M&Aア ドバ イザ リー業務,証 券化 の諸 業 1 2 )
務 の強化 を目指 した。
さて金融 システム変貌 をこの ような内容 で捉 えるこ とは,大方異論 のない ところ と思 われ る。
しか しなが ら,上記の ように商業銀行業務 の意義低下が見 られ,投資銀行業務が強化 された とし て, この場合,意義低下 した商業銀行業務 とは,預金 と貸 出に よって間接金融 を担 うとい う金融 仲介業務 を指 してい るにす ぎない。 だが,商業銀行 をこの よ うな もの としてだけ捉 えるこ とは, 平板 にす ぎる。 問題 は,商業銀行 に本質的で重要 な機能 をどの ように捉 えるか, そ してその機能 が既述 の ような変貌現象の中で,真 に どの ような変更 を受け るのか, とい うこ とである。 この点,
よ り立 ち入 った検討が必要 であ る。 まず,商業銀行 に本質的で重要 な機能 をどの ように捉 えるの か, とい うこ とか らみてお こ う。
商業銀行の本質的機能
通常,商業銀行 の固有業務 として, わが国では預金 ・貸 出 ・為替 の
3業務 が挙 げ られ る。為替 業務 は,隔地 間の資金の支払い ・決済 を担 うのであ り, したが って振替決済 システム を顧客‑堤 供 している, とみ るこ とがで きる。 この商業銀行 の
3つの業務 を統合 的に捉 えて,商業銀行 の特 質 を表現 しようとすれば,次の ようにい うこ とがで きる。す なわち,商業銀行 は,預金 を吸収 し, それ を支払準備 としつつ,貸 出 を自己宛債務 の形式 をもってなす ( あるいは,貸出を自己宛債務の 形式でなし,この債務支払いの準備 として預金 を吸収する,ないし中央銀行か ら借 り入れる) 。 ここで 重要 なこ とは,支払 い準備 の量 は,貸 出によって創 り出された 自己宛債務 ・預金 の量の ご く一部 を覆 うだけで よい とい うこ とである。 そ して, この ようなこ とが可能 となるのは, 自らが有す る 振替決済 システムに よって支払 い ・決済 を処理す るか らなのである。商業銀行 はか くして貸 出能 力 を手に入れ,借 り手企業に対 して能動的力 を発揮す る。商業銀行 に固有の,本質的機能 は, こ の ように理解す るこ とが で きる。
以上 の こ とは,貸 出 を通 じて預金通貨 を創 り出す, または預金取扱銀行 がマネーサプ ライを生 み出す, とい うように も表現 で きる。 そ してこの よ うな銀行 の機能 は,銀行顧客 が支払い ・決済 に預金通貨 をその ままの形態で用 いる, とい うこ とを前提 に して成 り立 ってい る。 もし,預金通
ll) DeutscheBundesbank,KaPitalma71ktstatistik,StatistishesBeiheftzum Monatsbericht2各号による。
12)
野村資本市場研究所 『 資本市場 クォー タ リー
2001年春』参照.
ドイツの金融システム変貌 とリスク管理
&ヲ質 ( の大部分)が その ままの形態 で利用 され るのでな く,預 金 払 い出 しに よって現金 ( 現代 では 中央銀行券) として銀行 システムの外部 に流 出 し,銀行 はそれに応 じるべ く現金 を準備 として保 有せ ねばな らない とい う事態 な らば,上記の銀行機能 は成 り立たない。 とい うのは, い うまで も な く銀行 は,全体 として,預金払 い出 しに応 え うるベー スマネー をは るかに超 えて,貸 出に よっ て預金通貨 を創 り出 しているか らである。
さて,以上 の ように,商業銀行 に固有 の,本質的な機能 とい うもの を,支払 い決済 システム を 前提 とした,預金創造 ・信用創造及び支払 い準備 のための預金収集 とい う点 で押 さえるこ とがで きるが, そ うであるな らば,他方での,商業銀行 の金融仲介機能 とい うもの をどの ように整理す れば よいか。 この点につ いては,次の ように考 え られ る。
商業銀行 は金融仲介 をも担 うとしうるが, しか し,金融仲介 は,本来,貯蓄性 資金等 を集めて それ を貸 し出す とい う通常 の理解か らすれば, これ を純粋 に担 うのは保 険や投資信託等の,預金 を取 り扱 わない機 関であ る。 もっ と詳 し くいえば,決済性預金 を取 り扱 わず, したが って顧客 間 の支払 いを自分の振替 システムで処理す る能力 を もたない機 関なのである。つ ま り, この振替 ・ 決済 システム を前提 に した,預金 を創 り出 して貸 出す とい う機能 をもたない機 関が,外部か ら資 金 を集めてそれ を貸 出すのである。他方,商業銀行 が金融仲介 を行 う場合 は, これ らの機 関 とは 異 なって,や は り預金通貨の創造 をもってなす であろ う。 ただ しこの場合,創造 された預金 は全 額流出 し, したが って準備金 もその分流 出す るこ とになる。 だか らこそ金融仲介 は,資金 を外部 か ら収集 して こな くてはな らないのであ る。 「 仲介」 と呼ぶゆ えんであろ う。要 点 は,商業銀行 が金融伸介機能 を果 たす とき, それは上 の よ うに信用創造の形 に包摂 され, いわば溶け込んで存 在す る とい うこ とである。 そ して,金融伸介 で貸 し出 した資金が 自行 か ら全額流 出す るとい う事 態 も, したが って この分 を外部か ら収集せ ねばな らない とい う事態 も,本来の信用創造 に よる貸 出 と無区別 となって見 えな くなって しまってい るのである。金融伸介 を信用創造 と区別 して掴 ま えようとすれば, この ようになるであろ う。金融仲介 をこの ように整理 した うえで,改めて,商 業銀行 に固有 の,本質的な機能,す なわち,貸 出 ・ 預金 ・ 為替業務 ( 隔地間の預金振替による決済シ ステム)を必須の もの として併せ もつ こ とに よっては じめて果 た しうる機能,商業銀行 しか果 た
しえない機能 を挙 げ るとすれば, それはや は り預金創造,信用創造 とい うこ とである。
さて,上述の ような整理 に もとづ いて,信用創造か らは区別 された金融仲介の純粋 なパ ター ン を示 してお くと図
1の ようになる。
このプ ロセスで
,Aに よる甲へ の貸 出は
,Aか ら全額 流 出 し
Bに預 入 されて い る。 したが っ て
Aに よる甲への貸 出は
100%準備 を必要 としたこ と,つ ま りは
,Aはこの金額 の預金 を外部 か ら実際に集めてこなければな らなか ったこ とを示 してい る。
以上 でみて きたのは次の こ とであった。金融 システム変貌 は,商業銀行業務 の意義低下,お よ
び投資銀行業務 の意義増大 として捉 え られ る として も, その場合 の商業銀行業務 は金融伸介業務
を指 しているにす ぎないこ と。 しか し商業銀行 に本質的に重要 な機能 は,預金創造 ・信用創造 に
あるこ と。 そ して商業銀行が金融仲介 を行 う場合 も, それは信用創造 に溶解 した状態で存在す る
田 商 学 研 究
図 1 金融仲介の純粋なパターン
①金融仲介機関
Aは預金 を吸収 し(あるいは中央銀行から借 り入れ) ,中央銀行預金 として1
00%準備保有中 央 銀 行 A 預 金 中央銀行 金融仲介機関 A
預金
( 参A は企業甲‑貸 し出し,甲は商業銀行 Bで預金保有
商 業 銀 行 B
中央銀行 金融仲介機
関A一
A 預 金 甲へ の
十
B預金 貸 出
とい うこ と。
さて, この ような理解 の上 に立 って,次に改めて,金融 システム変貌 ‑商業銀行 の意義低下 ・ 投資銀行業務 の意義増大 なる事態 を検討 しよう。
証券業務 と信用創造
金融 システム変貌 は,端的には,商業銀行 の預金 ・貸 出による金融仲介業務 か ら投資銀行業務 へ と,重点が移動 した とい うこ とであ る。 この こ とは 自明 といって よい。 そこで問題 は, この場 令,商業銀行 に本質的で重要 な信用創造機能が どの よ うな影響 を受 けているか, とい うことであ
る。 この機能 まで も,意義低下が もた らされたのであろ うか。
ドイツの銀行 は,ユニバーサルバ ンクとして,本体 で投資銀行業務 をも営む。典型的 な投資銀 1 3 )
行業務 としては,証券 引受,デ ィー リング, 70 ロー カー業務 を挙 げ るこ とがで きる。 そこで, ド イツの銀行が これ らの業務へ重点 を移 し, それ を行 った として, その場合,信用創造機能 は どの よ うに関連す るのか, といった問題 であ る。銀行 の
B/Sに即 して事 態 を追 ってみ る と,証券 引 受 もデ ィー リング も, いったんは資産保有 としての証券が
B/S上 に増大す る とみ るこ とが で き る ( 図
2,資産側のプラス項 目) 。 そ して同時 に
,B/Sの負債 の側 では, 当然 なが ら,証券発行企 業 ない し証券の売 り手の当座預金勘定 に預金通貨の増大が生 じる ( 図
2,負債側のプラス項 目) 0
他方 でブ ロー カー業務 の場合 は,銀行 は証券の売買 を仲介す るだけなので,証券の買い手か ら 売 り手へ と, 当座預金 口座 間で資金が移転す るだけである. このブ ロー カー業務 とは異なって, 証券 の引受や デ ィー リング ( 買い)に際 しては,銀行 が信用創造機能 を発揮 して これ を行 ってい
るのである。
しか しなが ら, 引受 の場合,銀行 の引受 けた証券が即時に投資家に売却 されたな らば, この投 資家は証券購入資金 を銀. 行 の預金か ら引 き出 しているわけであ り, この分が,証券発行者の発行
13)典型的な投資銀行業務をリスクの観点から分析しているものとして,熊野剛雄
(1986),熊野剛雄
(1987)がある。参照のこと。
引受銀行
ドイツの金融システム変貌 とリスク管理 図
2証券引受 とデ ィー リングのケース 引受 ( 引受証券 を即座に投資家に売却)のケース
他 銀行
十証券 ( 引受) +発行企業預金 現 金準
備投資家 預 金
引 受 銀行 他 銀 行
現金 発 行 企業 預 金 一現 金準 備 一投資 家 預 金
ディー リング ( 一定の残高維持)のケース 銀行
十証券売 り手の預金
85
投 資 家 預 金 I
投資家
証 券l
手取 り金 ( 銀行の引受によって創造された預金)の増 に対 して,預 金通 貨 の減 となって対 応す る。
銀行全体 としては,結局
,B/Sの両側 で,量 的 に元 に戻 るの で あ り, ただ預 金 の保 有 者 が投 資 家か ら証券発行 者‑ と変 わ ってい るだけであ る ( 図
2参照) 0
デ ィー リングの場合 は,銀行 に よる証 券購 入 と販 売が繰 り返 され,銀行 の
B/Sに常 に証 券 の 一定残 高が維持 されてい る とす れば,上 記の引受 のケー ス と異 なって,信用創造 に よる預 金通貨 増 が もた らされ続 け るこ とにな る。
以上 の よ うに して,投 資銀行 業務へ の傾斜 として捉 え られ る金融 システム変貌 にお いて,証券 引受や デ ィー リングを銀行 が行 うとき,商業銀行 に固有 の信 用創造機 能 は変 るこ とな く発揮 され てい るのであ る。 ただ し,証券 引受 においては, 引受証券 が投 資家 に即座 に売却 され た とき,伝 用創造 に よる預 金通貨増 は持続性 を もたない とい うこ とは, みて きた とお りであ る。
か くして,商業銀行 業務 の意義低 下 ・投資銀行 業務 の意義増大 な る事 態 も,商業銀行 に とって 本質的 で重要 な信用創造 に根本 的変 更 を もた らしてい るわけではない。銀行 に生 じてい る大 きな 変化 は,上 記 の
B/Sに即 して端 的 にい えば,銀行 資産 が貸 出か ら証 券 ( 引受やディー リングによ
る保有)‑ とよ りリス クの大 きい形態 を とるよ うになった, とい うこ となのであ る.
3.
ドイ ツ の銀 行 の リス ク管 理
上 に述べ て きた こ とは,金融 システム変貌 は,何 よ りも,銀行 が よ りリス クの強 い資産や業務 を抱 え込む よ うになった とい う点 で押 さえ られ るのでないか, また,変貌下 で も,商業銀行 に本
1 4 ) 質的 な信用創造機能 は,依 然重要 な働 きをす る, とい うこ とであ った。
1 4) 近年の ドイツの情報技術革新に伴う決済システムの変化について,清田匡 ( 20 0 3 ) 第 3 章は詳しい分析を
行い,個人や リテール分野でのキャッシュレス ・ペイメント化についても明らかにしている。この問題は,
商業銀行の信用創造機能の高まりという問題と直結する。
田 商 学 研 究
この ような変貌が進んだ場合,銀行 は当然 この新 しい リス クレベルに対応 しよ うとす る。現在, ドイツでは,投資銀行業務 が有す る リス クに改めて対応 しようとい う新 たな動 きが 目立つ わけで はない。厳 しい競争圧力の下 で,投資銀行業務 のみな らず従来の貸 出業務 をも含めて銀行 資産全 体 が リス ク度合 い を強めてい る とい うのが現状 であ り, これへの対応 は銀行 資産 の信用 リス ク管 理 とい う面 で顕現 している。 ブ ンデスバ ンクも近年 の この リス ク管理 に注 目している。次にブ ン
1 5 ) デスバ ンクの分析 に よ りつつ この問題 を追 ってお こ う。
ブ ンデスバ ンクは
2003年秋 に,信用 リス ク移転市場 でア クティブな行動 をとってい る代表的 な ドイツの銀行
10行 (
4大銀行や貯蓄銀行 ・協同組合銀行の中央機関等)に対 し,調査 を行 ってい る。
信用 リス クの移転 とは,信用 リス クだけ を分離 して市場 で取引す る仕組みであ り,代表的 な もの は クレデ ィッ ト・デ リバ ティブ とよばれ るものである。 ブンデスバ ンクは, この ような信用 リス
ク移転市場の発展 を 「 銀行業の顔 を永久 に変 えて しまう可能性 を もつ」 とまで述べ てい る。
クレデ ィッ ト・デ リバ ティブの市場規模 は,上記調査 に よると , リス ク ・シェ ッダーお よび リ ス ク ・ティカーのポジシ ョンがそれぞれ
2630億ユー ロ
,3030億ユー ロ となっている。 この うち
4大銀行 は,前者 において
2200億ユー ロ,全体 の約
80%を,後者 において も
2200億ユー ロ,約
73%を占めている。残 りが貯蓄銀行 と協 同組合銀行 の中央機 関が 占め る。 しか しこの全体 の数値 はグ ロスの ものであ り, 同一資産 に対 して リス ク ・シェ ッダー として も1 )ス ク .ティカー として もポ ジシ ョンを持 ってい るケー スが含 まれているとい う。 この分 を差 し引いて評価すれば, リス ク ・ シェ ッダー, リス ク・テイカ‑ それ ぞれの ポジシ ョンの 「 計」 は
,860億ユー ロ
,1260億ユー ロに なるとい う。 いずれに して も市場規模 の大 きさが窺 われ る。 また クレデ ィッ ト ・デ リバ ティブの 取 引は, その大部分
(83%)が インターバ ン ク取 引 で あ り, その うち
63%が外 銀相 手 であ る.
もっぱ ら銀行 間で リス クを取 引 してい るのであ る。 ブ ンデ スバ ン クは, この調査 の結果 , 「ドイ 1 6 ) ツの銀行 の リス クマネ ジメン トは,比較的高度 な水準 に達 してい る」 と結論づ けている。
さて, クレデ ィッ ト・デ リバ ティブの中で最 も重要 な ものは クレデ ィッ ト・デ フォル ト・スワ ッ プ
(CDS)とよばれ る手法 で あ り, クレデ ィッ ト ・デ リバ ティブ全体 の
89%を 占め る とい う。
CDS
は リス ク ・シェ ッダー ( 原債権の保有銀行)が定期 的に 「 保 険料」 を リス ク ・テイカ一 に支払 い, あ らか じめ取 り決め られた クレデ ィッ ト・イベ ン トが発生 して原債権 の損傷が生 じた ときに,
リス ク ・ティカーか ら保証額 を受 け取 る とい うものであ る。原債権 は リス ク ・シェ ッダーの
B/S1 7 )
上 に存在 し続け, リス クだけが分離 されて取引 されてい るとい うわけであ る。
この
CDSにつ いて, ブ ンデ スバ ン クは他 の論文 で改め て詳 しい説 明 を行 って い る。 それ を 1 8 )
追 ってお こ う。
CDS
は, リス ク・シェ ッダー ( プロテクションの買い手)が,特定の期 間,信用関係か ら生 じる
15) DeutscheBundesbank (2004b)参照。
16)
日本では
2005年春に , 「 東京三菱」と 「 三井住友」がクレディット・ デリバティブ取引のための専門組織を 立ち上げ,先行の 「 みずほ」を加え
, 3大メガバンク間で取引を行う体制がようや く整った。『日本経済新 聞
」(2005年
5月
22日)参照。
17) DeutscheBundesbank (2004b)
参照。
18) DeutscheBundesbank (2004C)
参照。
ドイツの金融システム変貌 とリスク管理
図
3クレディッ ト・デフォル ト・スワップの
(CDS)の特徴 例)シングル ・ネーム
・CDSの締結
年間
150ベーシス ・ポイン トの70 レミアム支払いに対 して,企業
Xの負債
100万ユーロ ( 名 目価額)を保証する契約
保護 の 買 い手
プレミアム
5
年間
, 1年に
150BP‑1500ユーロ
保護の売 り手
当該期間にクレディット・イベン トが発生 した場合
100万ユーロの支払い
保護の買い手 保護の売 り手
87
Ⅹの債務 ( 名 目価額
100万ユーロ) ( 出所)
DeutscheBundesbank(2004C),ある リス クに対 して, リス ク ・テイカ‑ ( プロテクションの売 り手)にプ レ ミアム を支払 うこ とに よ り自分 を保護す る, とい うものである。 あ らか じめ定義 されている リス ク (クレディット イベ ン ト)は
,InternationalSwapsandDerivativesAssociation (ISDA)の基準 に基づ くものであ り,支払 い遅延,デ フォル ト,支払 い不能の 申 し立て,債権者の損失 に対す る債務 の再構成 (リ ス トラクチャリング)が挙 げ られ る
。CDSは,単一 の借 り手 との信 用 関係 を基礎 に もつ場合,
Single‑name‑CDSとよば れ る
。2003年 の調査 においては, リス ク ・シェッダーの ポジシ ョンの うち
80%以上が, そ して リス ク ・ティカーのポジシ ョンの うち
90%が
Single‑name‑CDSだった
19
)
とい う。事例 は図
3に示 され る とお りである。
図
3の例 では, クレデ ィッ ト・イベ ン トが発生 した場合, リス ク ・シェ ッダーは関係 資産 ( 債 券や貸付) を リス ク・テイカ‑‑ 引 き渡 してい る。 この ような
physicalsettlementは市場 の基準 となってい るとい う。 また名 目価額 とクレデ ィッ ト・イベ ン ト発生後の関係 資産市場価額 との差 額 を支払 う場合 もあ るとい う。
なお, リス ク ・テイカ‑,す なわちプ ロテ クシ ョンの売 り手は, ある信用 リス クが過大評価 さ れてい る と考 え る とき,市場 に参加 してプ レ ミアム を獲得 しよ うとす る。 また リス ク ・シェ ッ ダー,す なわちプ ロテ クシ ョンの買い手 は, リス クが過小評価 されてい る と考 える とき,市場 に 参加 して保護 を求め るのであ る。
さて,以上 で追 って きたよ うに, ブンデスバ ン クは, ドイツの銀行 の ポー トフォ リオが抱 え込 む信用 リス ク増大 に注 目し, そ して リス ク管理手法 として, クレデ ィッ ト ・デ リバ ティブ, とり わけ
CDSとい う, いわば銀行 システム内部 で形成 され た リス ク管理 の手法 に注 Hしてい るわけ である。 ブンデスバ ンクは, この リス ク管理手法 を高 く評価す るのであ る。 しか しなが ら他面 で,
19) DeutscheBundesbank(2004C)
参照D
銀行が 「 競争圧力のために,新 たに得 られた余裕 資金 を新 たな リス クに投 じるよう用いるか もし れない」 と,現在のグローバルな資金過剰圧力の下で ドイツの銀行が さらに リスク性 を強め る可
2 0 ) 能性 をも指摘す るのである。
おわ りに
小論 は,近年 ドイツで も生 じている金融 システムの変貌 を追 った。変貌は, ひ とまず,通常理 解 されているように 「 商業銀行業務か ら投資銀行業務‑の重点移行」や 「間接金融 システムか ら 直接金融 システムへの移行」 とい うように押 えられ るとして も,真に商業銀行の機能が どのよう な影響 を受けたのか, また, その必要性 まで もが変更 を受けたのか, とい うことが問題 として浮 かび上が った。 この点,商業銀行の本質的で重要 な機能 を改めて考察す ることとなった。
ドイツにおけ る金融 システム変貌は,つ まるところ,商業銀行機能 と投資銀行機能 を併せ もつ ユニバーサルバ ンクが,証券業務へ傾斜す るとともにその資産 の リス ク性 を強めてゆ く, とい う 点で理解 で きた。 このこと自体 は理解 し易 いことである。 そ して, ドイツの銀行 においてその資 産の リス ク性が強 まってゆ くことは,現実には証券業務 のみな らず貸出において も生 じ,その帰 結 として新 たな リス ク管理が注 目されているのであった。 ドイツの銀行が, グローバルで一段 と 強い競争圧力の下で促迫 されている業態が窺 い知れ るのである。
銀行 システムが リスク資産 を抱 え込む とともに,他方で信認不安や破綻か ら身を守 るために, みて きたような新 たな リスク管理手法 も生み出され るが, しか しこの リス ク管理が十分効果 を発
2 1 ) 揮で きない局面では,金融 システムに対す る根本的改革の提案 も繰 り返 し生 じることになる。
引 用 文 献
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20) DeutscheBundesbank (2004C)参顔。
21)
根 本 的 改革 の提 案 は,例 えば ナ ローバ ン ク論 で あ る.ナ ローバ ン クにつ いて は,吉 田
(1993),建 部
(1997)を参照せ よ。ナ ローバ ンクシステムの純粋 な形 は, 中央銀行 ( 現金通貨 ・預金通貨の発行) ,決済専
門銀行 ( 一切の貸付 はせず,要求払 い預金 で振替決済 を行 う) ,金融仲介機 関 ( 振替決済機能 をもたず,預
金 ・借入 と貸付 を行 う) とい う三者か らなる。 ここでは,信用創造 は中央銀行 のみに よって行 われ,マネー
サプ ライが一元的に管理 され る。 そ して,金融仲介機 関に よる企業等へ の貸付 は , 「 貸 出先行」 として生 じ
るのではないので,や み くもに膨張す るこ とはない。 また不良資産化 に よる金融仲介機関の信認不安や破綻
の影響 を, そこだけに留めて決済 システムに及ばないように しようとす る。 しか し,通常指摘 され るように,
この システムではマネー を供給 しうるのは中央銀行 に限 られ,成長経済へ の弾力的なマネー供給が難 しくな
る,という弱点を有する。
ドイ ツ の金 融 シ ス テ ム変 貌 と リス ク管 理
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証券経 済研 究』 第38 号 飯野 由美子
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