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教師効力感に関する研究

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平成 29 年度 修士論文

教師効力感に関する研究

三重大学 大学院 教育学研究科 修士課程 教育科学専攻 学校教育領域

215M004 渡邉駿太

平成 30 年 2月 13日提出

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【目次】

要旨・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・5

第 1章 : 研 究 1 日 本 に お け る 教 師 効 力 感 研 究 の 動 向 と 展 望

はじめ に・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・7 教師効 力感 概念の 整理

1.自己 効力 感概念 の整 理・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・9 2.教師 効力 感概念 の整 理・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・9 3.類似 の概 念につ いて ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・10 日本に おけ る教師 効力 感研究 の動 向

1.翻訳 元と なる尺 度の 整理・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・11 2.日本 に教 師効力 感尺 度に関 する 研究・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・13 3.教師 効力 感研究 の整 理①対 象別 の検討 ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・17 4.教師 効力 感研究 の整 理②変 数別 の検討 ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・20 おわり に・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・21 引用文 献・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・23

第 2章:研 究 2 教 育 実 習 生 の 教 師 効 力 感 の 変 化 に 実 習 環 境 ,観 察 学 習 の 程 度 ,実 習 中 の 余 裕 度 が 与 え る 影 響

問題と 目的 ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・29 方法

1.調査 対象 者・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・31 2.調査 時期 ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・31 3.調査 手続 き・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・31 4.質問 紙の 構成・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・32 5.分析 方法 ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・33 結果

1.尺度 構成

1-1.実習 の 余裕度 尺度 の因子 分析 の探索 的因 子分析 と信 頼性・ ・・ ・・・ ・・33 1-2.教師 効 力感尺 度の 信頼性 ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・34

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1-3.実習 校 種と実 習先 のクロ ス集 計・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・34 1-4.各尺 度 間の相 関係 数と記 述統 計量・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・35 1-5.観察 学 習の程 度尺 度によ る観 察学習 のタ イプの 分類 ・・・ ・・ ・・・ ・・35 2.平均 値の 差の検 定

2-1.教師 効 力感と 余裕 度の大 学間 比較・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・36 2-2実習 中 の余裕 度の 実習先 比較 ,実習 生の 有無の 違い による 比較 ,観察 学習 の程度 のタ イプの 違い による 比較 ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・36 2-3.観察 学 習の程 度の 実習先 比較 ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・38 2-4.効力 感 得点に おけ る,実 習中 のゆと りの 高低・ 実習 先・時 期の 違いの 比較 ・39 2-5.効力 感 得点に おけ る,実 習の 前後・ ゆと りの高 低・ 実習生 の有 無の違 い の比較 ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・41 2-6.効力 感 得点に おけ る,実 習の 前後・ ゆと りの高 低・ 観察学 習の タイプ の違 い による 比較 ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・43 3.重回 帰分 析

3-1.効力 感 事後得 点を 目的変 数と した重 回帰 分析・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・46 3-2.実習 中 の余裕 度を 目的変 数と した重 回帰 分析・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・46 考察

1.実習 中の 余裕度 につ いて・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・47 2.観察 学習 の程度 につ いて・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・50 3.教師 効力 感の変 化に ついて ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・51 4.まと めと 今後の 課題 ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・56 引用文 献・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・57

第 3章:研 究 3 教 育 実 習 生 の 教 師 効 力 感 の 変 化 に 実 習 環 境 ,観 察 学 習 の 程 度 ,実 習 中 の 余 裕 度 が 与 え る 影 響

問題と 目的 ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・62 方法

1.調査 対象 者・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・70 2.調査 時期 ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・70 3.調査 手続 き・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・70

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4.質問 紙の 構成・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・70 5.分析 方法 ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・71 結果

1.尺度 構成

1-1.批判 受 容効力 感尺 度の探 索的 因子分 析と 信頼性 ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・72 1-2.実習 中 の余裕 度尺 度の確 認的 因子分 析と 信頼性 ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・73 1-3.各尺 度 の信頼 性係 数と相 関係 数,記 述統 計量・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・76 2.平均 値の 差の検 定

2-1.教師 効 力感・ 教職 志望度 にお ける, 実習 の前後 ・実 習先の 違い による 比較 ・76 2-2.各変 数 の実習 先の 違いに よる 比較・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・77 2-3.FBの タイプ ごと の比較 ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・77 3.構造 方程 式モデ リン グ・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・78 考察

1.批判 受容 効力感 につ いて・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・80 2.因果 モデ ルの検 証・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・82 3.まと めと 今後の 課題 ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・87 引用文 献・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・89

第 4章 : 総 合 考 察・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・94 引用文 献・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・97

謝辞・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・100

資料・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・・101

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5 要 旨

本研究 は「 教育場 面に おいて ,子 どもの 学習 や発達 に望 ましい 変化 をもた らす 教育的 行為 を とるこ とが できる ,と いう教 師の 信念(Ashton, 1985-」 である 「教 師効力 感」 につい て多 角 的に検 討を 行った 。

まず ,研 究 1で は, 日本に おけ る教師 効力 感研究 を概 観し, その 成果と 課題 につい て検 討 した。 まず ,教師 効力 感概念 の整 理を行 った 。その 上で ,海外 で行 われた 教師 効力感 研究 で 開発さ れた 尺度を 翻訳 した研 究, 日本の 教師 を対象 に教 師効力 感尺 度を検 討し た研究 につ い て検討 した 。その 後, 研究の 対象 別の整 理と ,教師 効力 感と合 わせ て扱わ れた 変数別 の整 理 を行い ,研 究の到 達点 と今後 の研 究にお ける 論点を 述べ た。

続い て研 究 2で は, 教育実 習前 後の教 師効 力感の 変化 を規定 する 要因と して ,実習 中の 観 察学習 と実 習先や 他の 実習生 の有 無など の実 習環境 に着 目して ,教 師効力 感の 変化を 検討 す ること を目 的とし た。 その際 に, 実習中 の余 裕度に 着目 し,観 察学 習の回 数・ 参考度 と実 習 環境が 教師 効力感 の変 化に与 える 影響が ,実 習中の 余裕 度の違 い, 特に下 位尺 度の一 つで あ る実習 中の ゆとり の違 いによ って どのよ うに 異なる のか を検討 した 。2つ の大 学の教 育実 習 生 171名 を 対象と して ,時期×実 習中の ゆと りの高 低×実習先 ,時 期×実習 中 のゆと りの 高 低×他の 実 習生の 有無 ,時期×実 習中の ゆと りの高 低×観察学 習の タイプ の 3種類の 混合 計 画 3要 因分 散分析 を行 った結 果, ①協力 校・ 地元校 では 実習の 前後 で教授 ・指 導効力 感の 有 意な上 昇が 見られ るが ,附属 学校 では見 られ ないこ と, ②他に 実習 生がい ない 時はゆ とり が ない方 が教 授・指 導効 力感が 上昇 し,他 に実 習生が いる 時はゆ とり がある 方が 教授・ 指導 効 力感が 上昇 するこ と, ③実習 生中 心・教 員中 心の観 察学 習の場 合は ゆとり があ る方が 実習 前 後で学 級経 営・管 理効 力感の 有意 な上昇 が見 られる が, 他の実 習生 ・教員 など 様々な 対象 に 対して 観察 学習が でき た場合 はゆ とりが ない 方が学 級経 営・管 理効 力感が 上昇 するこ と, ④ 一方で ,教 授・指 導効 力感の 場合 は様々 な対 象での 観察 学習が でき た場合 でも ゆとり があ る 方が実 習前 後での 上昇 するこ と, などが 明ら かとな った 。ここ から ,観察 学習 や実習 環境 は 教師効 力感 の変化 に影 響する が, 実習中 に精 神的な ゆと りがあ る場 合とな い場 合でそ の効 果 に違い があ ること 示唆 され, 実習 をデザ イン する側 は実 習生が 精神 的なゆ とり を持て てい る かを確 認し ,それ に合 わせて 実習 の内容 を調 整する 必要 がある と考 えられ る。

そし て, 研究 3では ,教育 実習 前後の 教師 効力感 の変 化を規 定す る要因 とし て,実 習中 の フィー ドバ ック(以 下 ,FB-に 着 目した 。そ の上で ,教 師効力 感と 実習中 の FBに関 連が ある と考え られ る,自 尊感 情,批 判受 容効力 感, 実習中 の余 裕度, 実習 への準 備状 況,実 習の 満

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足度, 教職 志望度 を合 わせて 調査 し,こ れら の変数 によ る教師 効力 感変化 の因 果モデ ルを 検 討する こと を目的 とし た。教 育実 習生 80名 を対象 に共 分散構 造分 析を行 った 結果, ①FBの 効果は 教師 効力感 の因 子によ って 異なる こと ,②FBの うち, プロ セスレ ベル の FBは学 級経 営・管 理効 力感に 正の 影響を 与え ること ,③FBの うち ,課題 レベ ルの FBは 教職志 望度 と一 部の教 師効 力感に 負の 影響を 与え るが, 批判 受容効 力感 の下位 尺度 の一つ であ る批判 への 対 応を媒 介し て教師 効力 感に正 の影 響を与 える こと, など が明ら かと なった 。こ こから ,FBの 効果は 多様 であり ,実 習生の レベ ルやニ ーズ を把握 し, それに あっ た FBを行 う必要 性が あ ると考 えら れる。

最後 に総 合考察 を行 い,本 研究 の結果 を改 めて概 観し た上で ,本 研究の 結果 から提 案で き る教育 実習 の改善 案と ,今後 の課 題を述 べた 。

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研究1

日本における教師効力感研究の動向と展望

は じ め に

近年, 教員 の多忙 化が 問題と なっ ている 。2013 年に 経 済協力 開発 機構(OECD-が 行な っ た国 際調査 「国 際教員 指導 環境調 査」(TALIS-の 結果で は, 調査の 対象 となっ た加 盟34 の 国 と地 域の中 学校(前 期中 等 教育段 階-の教員 の, 週当た りの 勤務時 間に ついて ,参 加国平 均 38.3時 間であ るの に対し ,日 本の教 員は 53.9時 間で あり, 平均 を大幅 に上 回って 世界 最長で あっ た (国 立教 育 政策研 究所 ,2013-。 一方で 指導 に使っ た時 間につ いて は,参 加国 平均 19.3時間で あるの に対 し,日 本は 17.7時 間と 平均を 下回 ってお り, 授業・ 教科 指導以 外の 場面で の業 務 の超過 が予 想され る。 近年増 加傾 向にあ る不 登校・ いじ め等の 生徒 指導上 の問 題は特 に時 間 のかか る業 務であ ると 考えら れ, こうし た教 育問題 の深 刻化は 学級 崩壊や 非行 など学 校現 場 の荒廃 につ ながり ,業 務自体 の多 忙も相 まっ て教師 の精 神的健 康に 著しく 悪影 響を与 える と 考えら れる 。また ,北 海道教 育大 ,愛知 教育 大,東 京学 芸大, 大阪 教育大 によ る「HATOプ ロジェ クト 」での 「教 員の仕 事と 意識に 関す る調査(2016-」によ る と,教 員の 平日の 仕事 時 間は学 校と 自宅を 合わ せると 平均 11 時間 半ほ どであ り, また, それ に伴っ て平 均睡眠 時間 も 5時間 程度 である こと が明ら かに なった 。一 方で, 総務 省統計 局に よる平 成 23年度 社会 生活 基本調 査に よれば ,日 本人の 平均 睡眠時 間は 7時間 半程 度であ り, ここか ら教 員の生 活に い かにゆ とり がない かが 推察さ れる 。また ,「 教員の 仕事 と意識 に関 する調 査(2016-」では ,全 校種で 7割 以上が ,特 に小学 校教 員の約 9割 が「授 業の 準備を する 時間が 足り ない」 こと が 悩みで ある と回答 して おり, 授業 準備以 外の 仕事に 時間 を割く こと を求め られ ている と予 想 される 。授 業準備 以外 の仕事 とし ては, 特に 書類の 作成 などの 事務 的な仕 事が 教員の 大き な 負担に なっ ている こと がメデ ィア などで 良く 取り上 げら れてお り, 神林(2015-は TALIS2013 年調査 で得 られた デー タに統 計的 分析を 施し ,事務 処理 や書類 作成 などに 代表 される 周辺 的 職務が 教員 の多忙 を左 右する 要因 である こと を明ら かに した。 こう した現 状を 踏まえ ,中 央 教育審 議会 は 2015 年 に「チ ーム として の学 校の在 り方 と今後 の改 善方策 につ いて(答 申-」を まとめ ,専 門スタ ッフ の配置 や教 職員の 質向 上など ,改 善に向 けて 動き出 した が,現 時点 で はそれ らが 十分に 解決 された とは 言えな いだ ろう。

このよ うに ,多忙 かつ 精神的 にも 負担が 大き い教員 とい う職に おい ては, この 職務内 容に 立

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ち向か うに あたり ,「 与えら れた 課題を 自分 自身が うま くでき る」 という 自身 の行動 への 信念 が極め て重 要であ ると 考えら れる 。Ashton(1985-はこの ような 「教 育場面 にお いて, 子ど も の学習 や発 達に望 まし い変化 をも たらす 教育 的行為 をと ること がで きる, とい う教師 の信 念」を 「教 師効力 感(Teacher Essicacy-」と 定義し てお り,実 際の 教育場 面で の行動 に大 きく 影響を 与え ている こと が明ら かに なって いる 。高い 教師 効力感 を持 つ教師 は, ①子ど もの 失 敗に対 して の強い 叱責 が減る こと(Ashton & Webb, 1986-, ②高 い 水準の 準備 や計画 を行 う傾 向があ るこ と(Allinder, 1994-, ③ 子ども のニ ーズに より 合致す るも のであ れば ,新し い手 法 による 試み であっ ても 受け入 れる こと(Berman, McLaughlin, Bass, Pauly, & Zellman,

1997-,な どが明 らか になっ てい る。ま た, 平岡乾 原(2001-は教師 のバー ンア ウトと 教師 効力

感の関 係を 検討し ,教 師効力 感が 高い教 師は バーン アウ ト得点 が低 い傾向 があ ること を示 唆 し,教 師効 力感の 向上 が教員 の精 神的健 康に つなが ると 指摘し た。

このよ うに ,教師 効力 感につ いて の研究 はさ まざま なも のがあ る。 前述し たよ うに, 国際 的 な比較 にお いて日 本の 教員が 多忙 である こと が示さ れて おり, その 教員や 教員 養成段 階の 学 生を対 象と して教 師効 力感に つい ての研 究が 展開さ れて きた。 多様 な研究 があ る一方 ,こ れ までの 日本 の教師 効力 感研究 の動 向につ いて 整理・ 検討 してい る先 行研究 は大 野木(1995-の みであ り, この研 究は 発表か らす でに 20年 が経ち ,教 員を取 り巻 く情勢 は変 化し, それ に伴 う新た な視 点から の研 究知見 が生 み出さ れて きた。 これ を踏ま え, 本研究 では ,改め てこ う した教 師効 力感に つい ての研 究を 概観し 整理 するこ とで ,日本 にお ける教 師効 力感研 究の 動 向と課 題を 明らか にし ,今後 の教 師効力 感研 究を展 望す ること とす る。こ のこ とは, 教員 の メンタ ルヘ ルスや 資質 能力の 向上 の観点 から も意義 深い もので ある と考え られ る。

なお本 研究 の構成 は以 下のと おり である 。ま ず,教 師効 力感に つい ての概 念を 整理す る。 そ の後, これ まで日 本の 教師を 対象 として 研究 されて きた 教師効 力感 研究に つい て概観 し, そ の動向 を述 べる。 最後 に日本 にお ける教 師効 力感研 究に おける 課題 と展望 を述 べる。

教 師 効 力 感 概 念 の 整 理 自 己 効 力 感 概 念 の 整 理

教師 効力 感概念 のベ ースに ある のは, 自己 効力感(Sels-Essicacy-概念で ある 。

Bandura(1977-によっ て提唱 され たこの 概念 は,「 ある 結果を 生み 出すた めに 必要な 行動 を自

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分がど の程 度うま く行 うこと がで きるか 」と いう確 信の 程度の こと を指し ,「 その行 動が どう いう結 果を もたら すの か」と いう 結果期 待と 区別し て効 力期待 と呼 ばれる 。自 己効力 感の 主 たる情 報源 は,「 制御 体験(個 人 的達成 ,遂 行体験 とも 言われ る-」「代理 経験 」「言 語的 説得」

「生理 的情 動的状 態」 の 4つ であ り,坂 野・ 前田(1987-によれ ば, 個人的 達成 は自己 効力 感 の変動 に大 きな影 響を 与える とさ れてい る。

成田 ・下 仲・中 里・ 河合・ 佐藤 ・長田(1995-によれ ば ,自己 効力 感には 2つ の水準 があ ると 考えら れ, その一 つは 特定の 課題 に固有 な自 己効力 感で ある。 そし てもう 一つ は,具 体的 な 場面や 状況 に左右 され ず,よ り一 般化し た日 常場面 にお ける行 動に 影響す る自 己効力 感で あ る。成 田ら(1995-では ,後者 の自 己効力 感を ある種 の個 人の人 格特 性的な 認知 傾向で ある と し,特 性的 自己効 力感(Generalized Sels-Essicacy-と呼 んでい る。 場面に よら ず安定 的で あ り,個 人差 がある こと が想定 され るため ,特 性的自 己効 力感の 高低 が,個 人の 行動全 般に 渡 って影 響す る可能 性が あるこ とを 成田ら(1995-は指摘 し ている 。

教 師 効 力 感 概 念 の 整 理

教師 効力 感が自 己効 力感概 念を ベース にし た概念 であ るのは 前述 したと おり である が, 自 己効力 感の 2つの 水準 で考え るの であれ ば, 場面的 な自 己効力 感で あると 考え られる 。そ の 定義と して 前述し た Ashton(1985-の 「教 育 場面に おい て,子 ども の学習 や発 達に望 まし い変 化をも たら す教育 的行 為をと るこ とがで きる ,とい う教 師の信 念」 が多く 用い られる もの で ある。 桜井(1992-によ れば, 欧米 では,1970年代 に教 師効力 感に ついて の研 究が始 まり , Gibson & Dembo(1984-により 教 師効力 感尺 度が発 表さ れた以 降に さらに 盛ん となっ た。「GD scale」と 通 称され るこ の尺度 では ,教師 や教 育の影 響力 につい ての 効力感 であ る「一 般的 教 育効力 感(Teaching Essicacy-」と ,個人 的な 教授能 力に ついて の効 力感で ある 「個人 的教 授 効力感(Personal Teaching Essicacy-」の 2因子で 構成 されて いる 。当初 は, 一般的 教育 効力 感は結 果期 待に類 する もので ある とされ ,2つの因 子の 間には 正の 相関が ある ものだ とさ れ ていた が,Woolsolk & Hoy(1990-では,Banduraとの 意見交 換か ら,ど ちら の因子 も効 力期 待であ るこ とが確 認さ れた。 個人 的教授 効力 感は教 師個 人の教 授能 力につ いて の効力 期待 で あるが ,一 般的教 育効 力感は 教育 一般に つい ての効 力感 であり ,こ の場合 ,理 論上は 独立 し た因子 とし て考え られ ,正の 相関 がなく ても 構わな い。 実際に これ までの 研究 では 2つの 因 子がほ ぼ独 立であ るこ とが示 され ている 。

一方で ,Bandura(1997-は教師 効 力感概 念に ついて ,教 師が実 際に 行う職 務内 容から 鑑み ,

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そのタ スク の形態 は一 様でな いと して, 現状 の教師 効力 感尺度 では 教師の 職能 領域を 十分 に 測りき れな いこと 指摘 し,「 意思 決定へ の影 響力に つい ての効 力感 」「学 校資 源への 影響 力に ついて の効 力感」「教 授技術 につ いての 効力 感」「 起立 につい ての 効力感 」「 児童生 徒の 親の関 与に応 じる ことに つい ての効 力感 」「コ ミュ ニティ の関 与に応 じる ことに つい ての効 力感 」

「良い 学校 風土を 作る ことに つい ての効 力感 」の 7因子 30 項目 の 尺度を 提案 した。 しか し,

これに つい ては妥 当性 ・信頼 性の 確認は 行わ れず, 他の 研究で 尺度 として 用い られる こと は なかっ た。

その 後,Tshannen-Moran & Hoy(2001-で は,そ れま での研 究を 概観し ,2因子構 造に お ける一 般的 教育効 力感 の取り 扱い や,教 師の 職能分 野を 鑑みて 個人 的教授 効力 感のさ らな る 細分化 等を 提起し た。Bandura(1997-で提案 された 尺度 や,先 行研 究での 知見 を活か し, オ ハイオ 州の 教師, 教職 志望学 生約 800名を 対 象に尺 度開 発に取 り組 んだ結 果,「児童 ・生 徒支 援に関 する 効力感 」「 学級経 営に 関する 効力 感」「 授業 実践に 関す る効力 感」 の 3因 子構 造の 尺度が 開発 された 。2因子構 造の 尺度と は異 なり, 一般 的教育 効力 感を取 り上 げてお らず , 個人的 教授 効力感 を 3領域か ら測 定する 点が 特徴で ある 。以後 ,こ うした 個人 的教授 効力 感 にフォ ーカ スした 3因 子構造 の尺 度での 研究(白 尾・ 今 林,2005; 春原,2007a他-が 進め ら れてい る。

類 似 の 概 念 に つ い て

教師 効力 感に類 似し た概念 も複 数ある ため ,それ につ いて整 理し ,教師 効力 感との 違い を 確認す る。

今林 ・有 馬・川 畑(2008-では「 教育実 習効 力感」 を従 属変数 とし て扱っ てい る。こ れは 坂 田・音 山・ 古屋(1999-が作成 した 「教育 実習 ストレ ッサ ー尺度 」を 逆転項 目的 に利用 して い る。は っき りと定 義が 明言さ れて いない が, 教育実 習と いう場 面の みの限 定的 な効力 感を 測 定して おり ,教員 とし ての職 務一 般を測 定範 囲とす る教 師効力 感と は別の 概念 である と考 え られる 。

また ,貝 川・鈴 木(2006-,松田 ・鈴木(1997-,松尾 ・ 清水(2007-などに 見ら れる「 教師 自己 効力感 」「 教師の 自己 効力感 」に ついて は, 教師効 力感 概念と 同様 なもの とし て扱わ れて いる 研究も ある が,山 本(2010-では「 不登校 支援 効力感 」を 指して 「教 師の自 己効 力感」 とし て おり, 教師 の職務 上, 接する 可能 性があ ると 考えら れる 「不登 校」 という 問題 場面に フォ ー カスし て効 力感を 測定 してい る。 その他 ,渡 邉(2016-で は知的 障害 を持つ 児童 生徒へ の対 応

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につい て効 力感を 測定 してい る。Ashtonの 定義以 外に も,こ うし た学校 教員 の職務 上関 連の 深い効 力感 につい て本 研究で も扱 うもの とす る。

教師 効力 感と似 た属 性を持 つ概 念とし ては ,他に 保育 者効力 感が あげら れる 。三木 ・桜 井 (1998-によ ると, 保育 者効力 感は 教師効 力感 をベー スに した概 念で ある。 用い られて いる 尺 度も, 桜井(1992-で翻 訳され た GD scaleの 個人的 教授 効力感 の項 目を保 育専 攻学生 に合 わせ て改訂 した もので ある 。その 定義 は「保 育場 面にお いて 子ども の発 達に望 まし い変化 をも た らすこ とが できる であ ろう保 育的 行為を とる ことが でき る信念 」と されて いる 。保育 者効 力 感は, 三木 ・桜井(1998-の研究 を 出発点 とし ,現在 に至 るまで 多様 な研究 が進 められ てき て いるが ,こ れらの 研究 を教師 効力 感と同 一視 するの は, 研究の 対象 が行う 教育 活動の 内容 が,「 保育 」と「 教育 」で異 なる ため, 困難 である と考 えられ る。 この概 念に ついて は, 別途 その研 究の 動向を 考察 する場 が必 要だと 考え られる ため ,本研 究で は保育 者効 力感に つい て は扱わ ない ことと する 。

また ,教 師効力 感と 同様に 教師 の職務 上の コンピ テン シーを 扱っ た概念 とし て,中 西 (1998-の「 教師有 能感 」があ る。 複数の 校種 の教員 から の意見 をベ ースに つく られた この 概 念は, 日本 の教員 の考 える職 能上 のコン ピテ ンシー が反 映され てお り,教 員の 熟達研 究で は 有用な 知見 である と考 えられ る。 また, この 研究で つく られた 尺度 は一定 数の 引用が あり , 中には この 概念を 「教 師効力 感」 を同様 のも のと捉 えて 扱って いる 研究(谷 口 ・田中 , 2005,2006他-も散 見 される が, この概 念は Harterのcompetence 概念を ベー スとし てお り,効 力感 とは異 なる 概念で ある 。その ため ,本研 究で は取り 扱わ ないも のと する。

日 本 に お け る 教 師 効 力 感 研 究 の 動 向 翻 訳 の も と と な る 尺 度 の 整 理

まず ,現 在まで に日 本での 研究 で翻訳 され る対象 とな った尺 度を 表 1-1 に 示 す。

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Gibson & Dembo(1984-では現 職 教師を 対象 に教師 効力 感を測 定し ,それ につ いて因 子分 析を 行って 尺度 構成を して いるの に対 して,Woolsolk & Hoy(1990-,Emmer & Hickman(1991- では教 育学 部生を 対象 に行っ てい る。現 職教 員と教 育学 部生で は, 経験に 大き な違い があ る。そ のた め,尺 度の 検討は 対象 毎に行 うべ きであ ると 考えら れる 。因子 構造 につい ては , Gibson & Dembo(1984-,Woolsolk & Hoy(1990-では個 人的教 授効 力感, 一般 的教育 効力 感 の 2因 子が 抽出さ れて いるが ,Woolsolk & Hoy(1990-で は因子 分析 の際, 個人 的教授 効力 感 につい て内 部でさ らに 「生徒 の成 果に対 する ポジテ ィブ な個人 的教 授効力 感」 と「生 徒の 成 果に対 する ネガテ ィブ な個人 的教 授効力 感」 の 2因 子に 弁別さ れる 結果が 示さ れた。

Woolsolk & Hoy(1990-では最 終的 に 2因 子構 造を採 用し た。Emmer & Hickman(1991-に つ いては ,上 述の 2因子 に加え ,学 級経営 につ いての 効力 感も含 める べき, との 考えか らそ れ につい て測 定する 項目 を追加 し, 因子分 析の 結果, 従来 の 2因 子に 学級経 営に ついて の効 力 感を加 えた 3因子 解を 抽出し てい る。こ れに 対し,Tschannen-Moran & Hoy(2001-でも 3因 子構造 であ るが, こち らでは それ までの 研究 を概観 した 上で, 個人 的教授 効力 感にフ ォー カ スして 検討 してお り,「児童 ・生 徒支援 に関 する効 力感 」「学 級経 営に関 する 効力感 」「 授業実 践に関 する 効力感 」の 3因子 を抽 出して いる 。Emmer & Hickman(1991-では 個人的 教授 効 力感と 学級 経営に 関す る効力 感が 異なっ たも のであ ると して捉 えら れてい たが ,Tschannen- Moran & Hoy(2001-で は個人 的教 授効力 感の 中の 1因子 として 捉え られて いる 。また , Tschannen-Moran & Hoy(2001-では Bandura(1997-で 扱われ てい る 30項 目 ,7因 子の 教師 効力感 尺度 を一部 用い ている 。

以上 ,4つの尺 度が 現在日 本で の研究 で主 に使用 され ている もの である 。

日 本 に お け る 教 師 効 力 感 尺 度 に 関 す る 研 究

表 1-1 日 本の教 師効 力感研 究で 用いら れて いる海 外で 作成さ れた 尺度

因子構造 項目数 対象 項目の出典

Gibson &

Dembo(1984- 2 30 現職教員208名 現職教員へのインタビュー

Woolsolk & Hoy(1990- 2 20 教育学部生182名 Gibson et al.(1984-と独自項目 Emmer &

Hickman(1991- 3 28 教育学部生161名

Gibson et al.(1984-と学校経営 に関する項目

Tshannen-Moran &

Hoy(2001- 3 24

教育学部生70名 現職教員147名

Tshannen-Moran et al.(1998- とBandura(未刊行)、独自 項目

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日本の 研究 で,海 外で 開発さ れた 尺度を 翻訳 したも のを 表 1-2に 示 す。表 1-2には, 前述 し た 4つ の尺 度の翻 訳し たもの に加 え,日 本で 独自に 作成 された もの も記載 した 。

日本で 最初 に教師 効力 感研究 に着 手した のは 吉井(1988-であり ,Gibson & Dembo(1984-を翻 訳し, 現職 教員を 対象 に調査 を実 施し因 子分 析を試 みた 。その 結果 ,「教 師の 効力期 待」「教 師の結 果期 待」の 2因 子構造 を確 認され た。 一方で ,桜 井(1992-も 同様に Gibson &

Dembo(1984-を翻訳 し て尺度 化し ,2因 子が 抽出さ れた が,こ ちら は対象 が教 育学部 生で あ

ること ,因 子名は 「個 人的教 授効 力感」「一 般的教 育効 力感」 とし ,Woolsolk & Hoy(1990-に ならい ,ど ちらも 効力 期待と して 扱った 点で 異なる 。ま た,前 原(1994-は,Woolsolk &

Hoy(1990-の尺度 を翻 訳し, 現職 教員を 対象 に調査 を行 った。 この 研究で も, 桜井(1992-と同 様に 2因子 構造を 採用 し,い ずれ も効力 期待 として 扱っ た。

一方で ,宮 本(1995-で は,現 職教 員を対 象に ,桜井(1992-で作成 さ れた尺 度に 生徒指 導や 教 育相談 に関 する項 目を 追加し て調 査を行 った 。因子 分析 の結果 ,「 成長促 進効 力感」「受 けと め効力 感」「見守 り効 力感」「無 力感」 の 4因子構 造が 確認さ れた 。「成 長促 進効力 感」「受け とめ効 力感 」につ いて は,桜 井(1992-におけ る個人 的教 授効力 感に 当たり ,「 見守り 効力 感」

「無力 感」 が一般 的教 育感に 当た る。因 子が 細分化 され た理由 につ いて, 深い 言及は なさ れ ていな いが ,新た に項 目を追 加し たこと に加 え,教 育学 部生を 対象 に検討 され た尺度 を現 職 教員に 用い たこと も関 係して いる のでは ない かと考 えら れる。

持留・ 有馬(1999-は, 教育学 部生 を対象 に,Gibson & Dembo(1984-,Woolsolk &

Hoy(1990-,Emmer & Hickman(1991-の尺 度を翻 訳し ,多側 面か ら教師 効力 感を測 定で きる 尺度の 開発 を試み た。 因子分 析の 結果,「個 人的教 授効 力感」「一 般的教 育効 力感」 の 2因子 解が得 られ た。Emmer & Hickman(1991-の 尺度か ら用 いた「 学級 経営に 関す る効力 感」 に 関わる 項目 は「個 人的 教授効 力感 」に含 まれ ,独立 した 因子と して 成り立 たな かった 。こ れ につい ては 明確な 理由 がわか らな かった が, この研 究で ,日本 にお いては ,学 級経営 につ い ての効 力感 は個人 の教 授効力 感に 類され るも のであ ると 捉えら れて いる可 能性 が示唆 され た と言え よう 。

また, 丹藤(2001-は現 職教員 を対 象に,Gibsonら(1984-の海外 の研 究を参 考に しつつ も, 独 自に尺 度を 作成し ,調 査を行 った 。この 研究 でもこ れま での研 究と 同じよ うな 個人的 教授 効 力感と 一般 的教育 効力 感に分 かれ る 2因 子解 が抽出 され ている 。

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このよ うに ,主に 2因 子構造 を持 つ尺度 が多 く開発 され てきた が, この2因子 構造の 1つ で ある,「一 般的教 育効 力感」 が本 当に効 力期 待に類 され るもの なの かは教 師効 力感概 念を 考え る上で の大 きな論 点に なり得 る話 題であ る。 これに つい て,春 原(2007a-は,「 一般的 教育 効 力感」 は結 果期待 であ る,と いう 立場を 取っ た上で ,こ れまで の「 個人的 教授 効力感 」で 扱 われて きた 内容が ,教 科指導 領域 に限定 され ている とし て,取 り扱 う領域 の拡 大を試 みた 。 Emmer & Hickman(1991-等を参 考に尺 度を 構成し ,教 育実習 生を 対象と した 調査を 行っ た

表 1-2 日 本語尺 度が 作成さ れた 研究

因子 構造

項目

対象 尺度の出典 併用した尺度 結果

吉井(1988- 2 61

現職教員 181名

Gibson &

Dembo(1984- なし

・効力期待と結果期待の2因子解を抽出した

・2因子のどちらも高いと、子どもに対して 親和行動、統制行動を有意に取りやすい

桜井(1992- 2 15

教育学部生 144名 学年間比較

Gibson &

Dembo(1984-

・学習理由尺度

・教師効力感に関連する質問

・学年間の比較(1年>3年)で個人的教師 効力感に有意差があった

・教員志望度と教師効力感に正の相関が あった

前原

(1994) 2 20

現職教員 277名

Woolsolk &

Hoy(1990-

・教師ストレス尺度

・教師モラール尺度

・小中学校に比べ高校が有意に効力感が低 かった

・中学、高校で教師モラールと個人的効力 感に強い相関があった

宮本

(1995) 4 24

現職教員 222名

桜井(1992)に 加え、生徒指導や 教育相談に関する 独自項目 なし

個人的教師効力感が「成長促進効力感」

「受けとめ効力感」、一般的教育効力感が

「見守り効力感」「学校教育無力感」にそ れぞれ分かれた

持留・

有馬

(1999) 2 30

教育学部生 112名 実習前後比較

Gibson &

Dembo(1984-, Woolsolk &

Hoy(1990-, Emmer &

Hickman (1991-

・指導経験の有無

・教職志望度

・学生では、学級経営について因子が独立 しなかった

・個人的教師効力感は実習後に有意に上昇 した。群分けすると、教師になりたい群、

まだ迷っている群で有意な上昇が見られた

丹藤

(2001) 2 12

現職教員 156名

独自に作成

(教科指導場面に 限定)

・教師の属性(経験年数等)

・教職への満足度、能力感、

指導観、無力感

・教師効力感が教職への満足度・適応感へ 強く影響する

・個人的教授効力感は経験年数と共に上昇 していく

・校種による差は教師効力感については見 られなかった

白尾・

今林

(2005) 3 14

教育学部生 145名

Tshannen-Moran

& Hoy(2001-

・教職志望度

・教職適正

教師としての適性を高く感じている者は高 い教師効力感をもっているが、学級経営に 関しては、特に適性を低く感じている者が 効力感を低下させていた

丹藤

(2005) 3 24

現職教員 431名

Tshannen-Moran

& Hoy(2001-を参 考に独自に作成

・教師の性格行動的特性

・達成経験

・自己成長感尺度

・疑惑・不確実性の感覚

・3つの因子に中程度の相関が見られた

・効力感、教職傾倒、自己成長、知の探 究、達成経験、効力感の順で循環するモデ ルが提示され、達成経験を必ず経由して循 環することが示された

春原

(2007a) 3 26

教育学部生 及び大学院生 130名 実習前後比較

Emmer & Hickman

(1991)の他、

桜井(1990)等 から

志望度、実習先などを聞く質

・志望度の高い学生ほど教師効力感が上昇 する、という結果にはならなかった

・中学校実習では教授・指導効力感しか向 上しなかった

松尾・

清水

(2007) 3 19

現職教員 367名

清水・高宮

(2002)

個人の属性(性別・年齢・経 験年数等)

・「生徒指導」「教師理解」は経験根数に よる有意差が見られた

・校種によって因子構造が異なることが示 唆された

三島・

安立・森

(2010) 3 24

教育実習生 134名 実習前後比較

Tshannen-Moran

& Hoy(2001-

・学習の継続意志尺度

・実習の自己評価尺度

・実習での経験が理論的内容の学習の継続 意志に有意に影響する

・教師効力感の向上は学習の継続意志に対 してマイナスに働くことはない

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結果,3因 子解が 抽出 され, それ ぞれ「 教授 ・指導 効力 感」「 学級 経営・ 管理 効力感 」「 子ど も理解 ・関 係形成 効力 感」と 命名 された 。こ の研究 で作 成され た教 育学部 生向 け尺度 は TESPT(Teacher Essicacy Scale sor Prospective Teacher-という 名前 が付け られ ている 。 また, 前述 のとお り, 春原(2007a-で は一 般 的教育 効力 感を問 う項 目はな い。 一方で ,自 己効 力感理 論か ら考え ると ,効力 期待 が高ま って も,結 果期 待が低 いの であれ ば, 行動は 生起 し ないと 考え られる 。こ れは, 教師 効力感 にお いても 同様 だと考 えら れる。 教師 や教育 の影 響 力,つ まり 一般的 教育 効力感 が低 く見積 もら れたと き, 個人的 教授 効力感 がた とえ高 かっ た として も, 適切な 教育 活動が 実施 されな いと 考えら れる 。一方 で, 一般的 教育 効力感 は, 教 師の経 験年 数の増 加や 実習の 前後 によっ て上 昇が見 られ ないと する 研究も 報告 されて おり(持 留・有 馬,1999;丹 藤 ,2001; 西 松,2008-,比較 研究 の観測 変数 として のぞ ましい もの で はない と考 えられ る。 他方, 貝川 ・鈴木(2006-では, 一 般的教 育効 力感で ある と解釈 され る

「教師 の力 量限界 」と バーン アウ トに正 の相 関が見 られ る。児 玉(2012a-は春 原(2007a-と併 用して 独自 項目に よっ て教職 への 結果期 待が 問うて いる が,結 果期 待が教 職へ の興味 や効 力 感の変 化に 有意な 影響 力を持 つこ とが示 され た。こ のよ うに, 一般 的教育 効力 感を個 人の 特 性的な 変数 と捉え ,一 時点に よる 調査で 他の 変数と の関 連を検 討す るには 有用 な視点 であ る と考え られ る。今 後, 一般的 教育 効力感 ,も しくは 教師 効力感 研究 におけ る結 果期待 をど の ように 扱う かは議 論が 持たれ るべ きであ ろう 。

この春 原(2007a-と同 様に,3因 子構造 を取 ったTshannen-Moran & Hoy(2001-の尺度 の 翻訳 を,白 尾・ 今林(2005-と三島 ・安 立・森(2010-が試み て いる。 いず れの研 究も ,調査 の結 果,「 児童 ・生徒 支援 に関す る効 力感」「学 級経営 に関 する効 力感 」「授 業実 践の関 する 効力 感」(因 子 名は三 島ら(2010-に合 わせた-と いう Tshannen-Moran & Hoy(2001-と同様 の3因 子構造 を取 ってい る。

春原(2007a-, 白尾 ・ 今林(2005-,三島 ら(2010-の3つ の研究 はい ずれも 教職 志望学 生を 対象 とした 研究 である 。特 に,春 原(2007a-,三 島ら(2010-は教育 実習 の前後 で教 師効力 感を 測定 してお り, これら の研 究から ,教 職につ いて ある程 度の 学びを 積ん だ学生 が考 える教 員の 職 能領域 は,「子ど もへ の支援 ・理 解」「 学級 経営」「教 科指導 」の 3領域 で構 成され てい ること が示唆 され ている と言 えよう 。

一方で ,現 職の教 員を 対象と して ,3因 子構 造での 尺度 開発を 行っ た研究 は日 本では ,丹 藤 (2005-と松 尾・清 水(2007-が挙げ られる 。丹 藤(2005-で は,Tshannen-Moran & Hoy(2001-に よる尺 度を 参考に 独自 に尺度 項目 を作成 し, 小学校 ・中 学校の 現職 教員を 対象 に調査 を行 っ

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た。そ の結 果,「 生き る力の 指導 力」「 生徒 指導力 」「 教科指 導力 」の 3因子 構造が 見い だされ た。従 来の Tshannen-Moran & Hoy(2001-の 3因子 構造 におけ る,「学級 経営 」「子 ども との 関係」 に当 たる項 目が 「生徒 指導 力」因 子に 統合さ れ,「将来 の夢 を育て る」「思い やり の心 を育て る」 等の項 目に よる「 生き る力の 指導 力」が 独自 の因子 とし て尺度 構成 されて いる 。 この独 自の 因子に つい ては, 教員 の職能 領域 の一部 とい うより ,教 員の職 務上 の理念 や心 構 えに近 い, 教員の 職務 におい て広 く影響 する 縦断的 な因 子だと 考え られ, 他の 研究に は見 ら れない 因子 構造を 持つ 尺度だ と考 えられ える 。

松尾・ 清水(2007-は小 学校教 員に 限定し た尺 度開発 を試 みた。 因子 分析の 結果 ,「生 徒指 導」

「教師 理解 」「生 徒理 解」の 3因 子構造 が確 認され た。 この尺 度は これま で述 べた研 究と 異な

り,Ashtonの 定義 に 依る海 外の 尺度を 翻訳 ・参考 にせ ず,日 本で 自己効 力感 概念を ベー スに

教師の 職能 領域に 当て はめて 開発 された もの である と考 えられ る。

以上が 日本 の教師 効力 感研究 で引 用され てい る教師 効力 感尺度 の開 発研究 であ る。概 観す る と,近 年は 個人的 教授 効力感 にお ける 3因子 構造を 取る 尺度が 多い ことが 目に 留まる 。現 状,現 職教 員と学 生を 同時に 対象 として 尺度 検討を 行っ た研究 はな い。学 生向 けの 3因子 構 造の尺 度は 春原(2007a-, 白尾 ・ 今林(2005-,三島 ・安 立・森(2010-が挙げ ら れるが ,現 職教 員を対 象に して,Ashtonの 定義 に則り つつ ,3因 子構 造を取 る尺 度は丹 藤(2005-のみで あ り,こ の尺 度には 独自 の項目 が追 加され てい ること から ,現状 の尺 度では 現職 教員と 学生 の 教師効 力感 を単純 に比 較でき る尺 度はな いと 考えら れる 。現職 教員 と学生 は, 教師の 職務 に 対する 理解 も異な るた め,そ もそ も比較 され うるも ので はない のか もしれ ない が,

Tshannen-Moran & Hoy(2001-で 開発さ れた 尺度は ,現 職教員 と学 生のい ずれ も測定 する こ とが可 能で あるた め, 今後,Tshannen-Moran & Hoy(2001-の尺度 を翻訳 した 白尾・ 今林

(2005-,三 島ら(2010-の尺度 で, 日本の 現職 教員の 教師 効力感 を測 定でき るか の検討 が行 わ

れるべ きで あろう 。

一方で ,Tshannen-Moran & Hoy(2001-の尺 度は因 子間 相関が 高く ,因子 の弁 別・解 釈に 注 意が必 要で ある。 これ は翻訳 後の 尺度で ある 白尾・ 今林(2005-,三 島ら(2010-でも同 様で あ り,特 に三 島ら(2010-では3つの 因子の 間そ れぞれ r=.80程度 の 強い相 関が 見られ てい る。

丹藤(2005-でも中 程度 の相関 が見 られ, その ため下 位尺 度得点 のみ ではな く,3つの 下位 尺度

得点の 総和 が総効 力感 得点と して 研究で 取り 扱われ た。

この因 子間 相関の 高さ は,下 位尺 度それ ぞれ が測定 する 領域が 近接 してお り, 影響し 合っ て いるこ とだ と考え られ る。こ れは ,例え ば学 級経営 に関 する仕 事で の成功 体験(個 人的 達 成-が

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学級経 営に 関する 効力 感を高 め, それが 教科 指導に 関す る効力 感へ 影響を 及ぼ す,と いう こ とであ り, 教員の 職能 領域に おけ る効力 感向 上のプ ロセ スの一 つで あると 考え られる 。一 方 で,Bandura(1997-の 指摘や ,中 西(1998-の 因子構 造, 渡邉(2016-のより 限定 的な効 力感 研究 などか ら考 えると ,教 員の職 能領 域は, 春原(2007a-や Tshannen-Moran & Hoy(2001-で 提示 された 3つ 以外に 多様 なもの で構 成され ると 考えら れる 。それ らが 前述し たよ うに密 接に 関 わり合 って いるか は検 討が必 要で あり, 教員 の効力 感向 上のプ ロセ スの検 討に は,教 員の 職 能領域 をど うとら える か,と いう 議論が 必要 である と考 えられ る。

教 師 効 力 感 研 究 の 整 理 ① 対 象 別 の 検 討

教 職 志 望 学 生 を 対 象 と す る 研 究 教職志 望学 生につ いて の研究 では ,教育 実習 前後で の効 力 感の変 化を 取り扱 うも のが多 い。 教育実 習が 効力感 へ及 ぼす影 響は 強く, 多く の研究 で実 習 後に教 師効 力感が 高ま ること が示 されて いる 。同時 に, 教師効 力感 の上昇 に不 安が低 減さ れ る(西松 ,2008-,実習 での教 師効 力感の 向上 が学習 意欲 に良い 影響 を与え る(三島ら , 2010-,実 習中の 居場 所感の 高ま りが教 師効 力感の 上昇 に有意 な影 響を与 える(三 島・ 林 ・

森,2011-,メン タラ イゼー ショ ン能力 の高 い学生 は実 習前後 での 教師効 力感 の上昇 が大 きい

(増 田,2015-など, 多 様な報 告が なされ てい る。一 方で ,教職 志望 の高さ と教 師効力 感の 向

上につ いて 一貫し た結 果が得 られ ていな い(持留・ 有馬 ,1999; 春 原,2007a:児玉 , 2012a-,下 位尺度 ・実 習校種 によ っては 実習 前後で の効 力感の 上昇 が見ら れな い(春原 , 2007a;西 松,2008; 西尾・ 安達 ,2015-な ど,今 後の 研究の 課題 となり 得る 点も散 見さ れ る。特 に, 効力感 の上 昇につ いて は,Bandura(1977-に よる自 己効 力感の 4つ の情報 源の 観 点から 考え ると, 実習 中には ,「 担当し た単 元の授 業を やりき る(遂行体 験-」,「他 の実 習生や 指導教 員の 授業を 見る(代 理経 験-」,「授 業や 教育的 な行 動につ いて 称賛を 受け る(言語 的 説 得-」,「 子 どもの 一生 懸命な 姿に 感動す る(生理的 情動 的喚起-」 といっ た体 験内容 が起 こり得 ると考 えら れる。 春原(2007b-, 西尾・ 安達(2015-では そうい った 体験内 容に ついて 取り 扱っ ており ,個 人的な 成功 体験の 影響 や実習 生を モデリ ング するこ とが 効力感 の上 昇に影 響す る ことが 示さ れてい る。 一方で ,言 語的説 得, 代理経 験, 生理的 情動 的喚起 は測 定が難 しい(西 尾・安 達,2015-とい う報告 もあ り,こ れら につい ては 今後も 検討 が必要 な研 究領域 であ ると 考えら れる 。

学生 を対 象にし た研 究の中 でも ,特筆 すべ きは春 原(2007a-の引 用数の 多さ であろ う(春 原,2007b, 2008, 2009, 2010; 春 原・坂 西,2010;山 口 ・都丸 ・古 屋,2010; 三島・ 林・

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森,2011; 児玉,2012;高野 ・河 村,2012; 田崎・ 米沢 ,2013; 西 尾・安 達,2015;増 田・田 爪,2015-。春 原(2007a-は尺度 が用 いられ たほ ぼすべ ての 研究で 3因 子構造 が示 され ており ,一 定の安 定性 ・信頼 性が 確認さ れた 尺度で ある 。また ,実 習前後 の教 育学部 生を 対 象とし て尺 度検討 を行 った教 育学 部生向 けの 尺度と なっ ている 。そ のため ,現 職教員 への 転 用につ いて は検討 が必 要であ ろう 。

学生 を対 象にし なが ら実習 前後 での比 較を 行わな い研 究も一 定数 ある。 それ らは主 にボ ラ ンティ ア活 動など 実習 以外の 教育 活動の 機会 の前後 比較 による 研究 と,学 年間 比較に よる 研 究,そ の他 の一時 点に よる調 査で 他の概 念と の関連 を見 る研究 の 3種類に 類別 される 。 実習以 外の 教育活 動の 前後比 較研 究は, 件数 は管見 の限 りで 2件で ある。 その 結果も ,2年 生での み個 人的教 授効 力感が 上昇 する(田 崎 ・米沢 ,2013-,活動 を通し て教 職に必 要な 能力 の認知 が変 化し, それ が効力 感の 低下に つな がる(児 玉 ,2012b-な ど,目 覚ま しい効 果が 報告 されて いな い。一 方で ,実習 以前 の指導 体験 の有無 が個 人的教 授効 力感の 有意 な上昇 に影 響

する(持 留 ・有馬 ,1999-とする 研究も 存在 する。 教員 養成課 程に おける 実践 的な指 導力 の育

成が叫 ばれ る昨今 にお いて, 教育 実習以 前に も教育 現場 に学生 を参 画させ る機 会を担 保す る 大学も 多く あり, その 価値は 目に 見えた 即時 的な効 果は なくと も価 値はあ ると 考えら れる 。 今後は ,研 究を通 して 学生の 効力 感上昇 につ ながる よう な実習 以外 の教育 活動 の形が 検討 さ れるべ きで あろう 。

学年間 比較 の研究 は, 実習経 験が ある学 年と 実習経 験の ない学 年の 比較を され るケー スが 多 い。1年生 と 3年 生の 比較で は, 教師効 力感 は有意 に3年生が 高い こと(桜 井 ,1992-,1年生 では教 師の サポー ト, 教師へ の信 頼感が 教師 効力感 に有 意な影 響を あたえ てい るが,3年 生 では有 意で はない こと(三 島・ 井 上・森 ,2012-,知的 障害を 持つ 子ども に対 する効 力感 につ いての 1年 生と 4年生 の比較 では 「指導 困難 対応教 師効 力感」 は 4年生が 有意 に高い が,「指 導遂行 教師 効力感 」は 有意な 差が 見られ なか ったこ と(渡邉,2016-, 実習 経 験のあ る 4年生 と実習 経験 のない 1~3年生 の比 較では ,4年生は 教師 効力感 と特 性的自 己効 力感の 間に 関連 があっ たが ,1~3年 生には なか った(増 田 ・田爪 ,2015-などが 明らか にな ってい る。 学年間 の比較 は, 実習の 経験 以外に も教 育課程 の影 響や進 路選 択を迫 られ る時期 によ る影響 など , 複数の 要因 が考え られ るため ,群 間の差 をそ のまま 実習 経験の 差で あると 考え られな い点 で は取り 扱い は難し いが ,年間 の教 育課程 の効 果の検 討な ど,縦 断的 な視点 での 比較の 際に は 有用な 知見 となり 得る と考え られ る。

一時点 によ る調査 で他 の概念 との 関連を 見る 研究で は, 学生個 人が 持つ特 性的 な属性 によ っ

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て群分 けし ,比較 検討 を行っ た研 究が複 数あ る。例 えば ,春原(2008-では, 教 育学部 への 入 学動機 と教 師効力 感の 関連を 検討 してお り, 入学動 機で 「教授 志向 」「子 ども 志向」「経 験活 用志向 」が 高い学 生は 教師効 力感 も高い 傾向 がある こと が示さ れた 。春原(2010-では, 教 職 志望動 機と 親の要 因, 教師効 力感 の関連 を検 討し, モデ ル図の 作成 を行っ たが ,全体 とし て 強い関 連を 見出す こと が出来 なか った。 その 他,自 己評 価・教 師適 正の認 知と の関連 を扱 っ た前原 ・稲 谷・金 城(1996-,自己 概念と の関 連を扱 った 八木(1997-,尺度 翻訳 と同時 に教 職 志望度 と教 職適正 との 関連を 検討 した白 尾・ 今林(2005-など, 多面 的に研 究が 展開さ れて い る。ま た, 教職志 望度 と教師 効力 感の関 連を 検討し てい る研究 では ,因子 によ るが正 の相 関 が見ら れた もの(白 尾 ・今林 ,2005;春原 ,2010-があ る。前 述し た,実 習前 後での 比較 検討 で効力 感の 変化と 教職 志望度 の関 連を扱 って いる研 究(持留・ 有馬 ,1999; 春 原,2007a:児

玉,2012a-は,2時点 間の効 力感 の変化 を扱 ってい るが ,こち らの 研究で は 1時点の 効力 感

を扱っ てい る点で 異な る。一 方で ,実習 前後 での比 較研 究では ,春 原(2010-で 用いら れて い るよう な多 面的に 教職 志望動 機を 測定で きる 尺度は 用い られて いな いため ,今 後検討 の余 地 のある もの であろ う。

また, 学生 を対象 とし た研究 では ,春原 ・坂 西(2010-は 模擬授 業の 前後で 教師 効力感 を比 較 検討し てい る。そ の結 果,学 級経 営に関 する 効力感 のみ 有意な 上昇 が見ら れた 。こう した , 教員養 成課 程上の 授業 におけ る前 後比較 を行 った研 究は 管見の 限り この1件の みとな って い る。教 員養 成課程 の充 実のた めに は,こ うし た形で の検 討もま た必 要であ ると 考えら れる 。 現 職 教 員 を 対 象 と し た 研 究 現 職 教員に 対象 を絞っ た研 究も数 多く ある。 バー ンアウ トや メ ンタル ヘル スを取 り扱 った研 究(平岡,2003;草海 ,2014 他-や , 経験年 数や 子ども の有 無な ど教員 の持 つ属性 で群 を分け ,比 較する 研究(植 木・ 藤 崎,1999; 丹藤,2001-な ど, 多 様な 形で検 討さ れてい る。 メンタ ルヘ ルス系 の研 究につ いて は次項 で詳 しく述 べる ため, ここ で は省略 する 。

性別や 経験 年数, 校種 など, デモ グラフ ィッ クデー タで の群分 けに よる効 力感 の検討 は, 最 も明解 な検 討方法 だと 考えら れる 。経験 年数 が長い ほど 高い効 力感 を持ち やす いが, 生徒 理 解につ いて の効力 感は その傾 向は 見られ なか ったこ と(松尾・ 清水 ,2007-, 中学校 のみ 勤務 経験者 は小 学校の み勤 務経験 者よ り有意 に効 力感が 低い こと(松 田 ・鈴木 ,1997-,小中 学校 の教員 より 高校教 員の 方が, 有意 に個人 的教 授効力 感が 低いこ と(前原,1994-な ど, 多 様な 知見が 示さ れてい るが ,一方 で性 差など ,一 貫した 知見 が得ら れて いない もの あり, デモ ク ラフィ ック データ によ る群分 けは 十分に 効力 感の変 化を 説明で きな い点も ある ことが 示さ れ

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20 ている 。

また, 丹藤(2005-は, 教師の 成長 におけ る循 環モデ ルを 検討し た。 効力感 ,教 職傾倒 ,自 己 成長, 知の 探究, 達成 経験, 効力 感の順 で正 のパス が循 環する モデ ルが作 成さ れ,途 中で 達 成経験 を必 ず経由 して 循環す るこ とが示 され た。達 成経 験を得 るこ とは教 師効 力感の みな ら ず,自 己効 力感の 向上 に大き な影 響を与 える 情報源 であ る。こ の研 究で, 教師 効力感 の向 上 を軸に した モデル にお いても 達成 経験が 重要 な位置 にあ ること が示 された 形と なった 。

教 師 効 力 感 研 究 の 整 理 ② 変 数 別 の 検 討

教師効 力感 と同時 に検 討され てい る変数 で行 ってい く。 教師効 力感 研究全 体を 概観し た際 , 目に留 まる のは前 述し たよう なメ ンタル ヘル スの 1要因 として 教師 効力感 を検 討して いる 研 究と, 学生 ・教員 の「 教師と して の成長 」の 要素と して 教師効 力感 を捉え てい る研究 の 2種 類であ る。

メン タル ヘルス を取 り扱っ た研 究では ,教 師のバ ーン アウト と教 師効力 感の 関連を 見た 研 究(平岡 ・ 乾原,2001;平岡 ,2001;2003; 貝川・ 鈴木 ,2006; 松 井・野 口,2006;高 田 ・ 中岡・ 黄,2011;草 海 ,2014-が 多い。 こう した研 究の 約半分 で植 木・藤 崎(1999-の尺度 が用 いられ てい る。植 木・ 藤崎(1999-は宮本(1995-をベー ス にした 4因 子構造 の尺 度であ り, 生 徒指導 や教 育相談 に関 連する 項目 が備え られ ている こと が特徴 であ る。こ れは ,生徒 指導 が 教員の スト レッサ ーに なり得 るこ とから ,他 の尺度 以上 にメン タル ヘルス に関 連が深 いと 考 えられ るた めだと 推察 される 。

バーン アウ トを取 り扱 った研 究で はすべ てで バーン アウ トと効 力感 には負 の関 係にあ るこ と が指摘 され ている 。特 に平岡(2003-では, ス トレッ サー からバ ーン アウト へ正 のパス ,バ ー ンアウ トか ら生徒 認知 ,効力 感に 負のパ スが 出たモ デル が示さ れた 。その ため ,バー ンア ウ トとス トレ ッサー の低 減が教 師効 力感の 向上 につな がる と考え られ る。ま た, 貝川・ 鈴木 (2006-では 学校組 織特 性が教 師自 己効力 感を 媒介し て教 師バー ンア ウトへ 影響 するモ デル が 示され ,学 校組織 特性 の 2つ の下 位尺度 どち らから も学 習支援 効力 感へ正 のパ スが見 られ , さらに そこ から教 師バ ーンア ウト の下位 尺度 「達成 感の 交代」 へ負 のパス が見 られた 。こ ち らのモ デル では, 教師 効力感 の向 上がバ ーン アウト の低 減につ なが ること が示 されて いる 。 こうし た知 見から ,教 師効力 感と バーン アウ トの密 接な かかわ りが 推察で きる 。教師 のメ ン タルヘ ルス を考え る上 で,バ ーン アウト は教 師の退 職・ 休職に つな がり(草 海 ,2014-最 も避 けなけ れば いけな いこ とであ るこ とから ,教 師効力 感の 向上を 考え ること は教 師の精 神的 健

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康を守 るた めにも 非常 に重要 なこ とであ ると 考えら れる 。

教師 とし ての成 長の 視点か ら教 師効力 感を 扱った 研究(松 田・ 鈴 木,1997; 植木・ 藤崎 , 1999;丹 藤 ,2004; 三 島ら,2010;児玉 ,2012a,2012b 他-は , 対象を 学生 から現 職教 員 まで広 くと ってい る。 前述し た実 習前後 での 比較研 究や ,経験 年数 や校種 など で効力 感を 比 較する 研究 もこう した 視点を 持つ 研究と 言え るだろ う。 教員養 成課 程のス ター トから ,ベ テ ランの 教員 となる まで の教員 とし て熟達 して いくプ ロセ スを検 討し ていく こと は,教 員の 資 質能力 向上 のため に重 要であ ると 考えら れる 。一方 で, 教師効 力感 は教師 とし ての「 能力 」 そのも ので はない ,と いう点 には 注意が 必要 である と考 えられ る。 増田・ 田爪(2015-では , 実習経 験の ない学 生の 教師効 力感 と特性 的自 己効力 感が 一致し てお らず, 仮想 的な教 師効 力 感を抱 いて いる可 能性 を指摘 して いる。 自分 の能力 を正 しく認 知し ,適切 な効 力感を 持つ こ とを望 まし いと考 えら れるが ,そ れを検 証す ること は, 教師と して の「能 力」 を適切 に測 定 する方 法が ないた め非 常に難 しい だろう 。

お わ り に

ここま での 整理を 通じ て,多 様な 先行研 究の 成果と それ らから 見ら れる今 後の 課題を 考察 し てきた 。最 後に教 師効 力感研 究に おける 大き な論点 を 2つ提示 した い。

1つ はす でに述 べた 概念的 な問 題であ る。 現在の 教師 効力感 尺度 は 3因 子構 造のも のが 多 く使わ れて いるこ とは 前述の とお りであ る。 一方で ,Bandura(1997-の指摘 の ように ,教 師 の職能 領域 は本来 多岐 に渡る 。現 在の尺 度で は「子 ども への支 援・ 理解」「学 級経営 」「 教科 指導」 の 3つの領 域が 測定の 対象 となっ てい るが, これ は今後 さら に拡大 され るべき なの か。例 えば ,中西(1998-ではこ の3つの 領域 に関連 する もの以 外に 「対人 関係 」「研 究運 営」

「事務 処理 」など の因 子が抽 出さ れてい る。 昨今の 教育 現場で は, 事務処 理の 肥大化 や, 研 修の増 加な どが問 題と して挙 がっ ている 。検 討する 領域 の拡大 は, こうし た問 題への 対応 策 を考え るこ とにつ なが るので はな いか。 その 他,渡 邉(2016-や山本(2010-のよ うに, さら に 場面が 限定 された 効力 感を取 り扱 った研 究も あり, これ らは教 師が その職 務上 直面す る問 題 に即し た効 力感を 測定 してい ると 考えら れる 。教師 効力 感概念 が取 り扱う とす る教師 の職 能 領域は ,今 後より 広く 深いも のを 目指す のか ,現状 の 3領域を 基本 として 研究 を展開 して い くのか ,昨 今の教 員を 取り巻 く問 題をも う一 度捉え 直し ,議論 する 必要が ある だろう 。 もう 一つ は教師 効力 感の向 上は 本当に 良い ことな のか ,とい う疑 問であ る。 教師効 力感 研 究を併 用し て扱わ れる 変数で 整理 した際 ,メ ンタル ヘル スにつ いて の研究 と教 師とし ての 成

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長につ いて の研究 があ るのは 前述 のとお りで ある。 メン タルヘ ルス に関す る研 究では ,教 師 効力感 の向 上がバ ーン アウト を低 減する とい う事が 示さ れてい るが ,教師 とし ての成 長を 考 える際 には ,教師 効力 感の向 上の みにフ ォー カスし て研 究が展 開さ れてい くこ とには 疑問 を 覚える 。教 師効力 感を 必要以 上に 向上さ せる ことは ,実 際に個 々人 が持つ 教師 として の能 力 と効力 感と の乖離 が生 み,増 田・ 田爪(2015-で指摘 され たよう な仮 想的な 効力 感を持 って し まうこ とに つなが るの ではな いか 。

また, 例え ば,三 島ら(2010-では ,実習 前後 での教 師効 力感の 向上 が学習 の継 続意欲 に良 い 影響を 与え ている こと が明ら かに された が, 実習前 後で 教師効 力感 が低下 した 際には ,本 当 に学習 意欲 につな がら ないの であ ろうか 。教 師効力 感の 低下は ,実 習中の 失敗 体験な どに 基 づくと 考え られる 。教 育実習 は自 身の教 職適 正を見 極め る機会 でも あるが ,そ こでの 失敗 経 験を経 ても なお教 職志 望度が 高い 場合, 教員 になる ため に自身 の経 験を振 り返 り,失 敗し た 部分が うま くでき るよ うにな るた めに, 更に 学習意 欲を 高めて 学習 に取り 組む のでは ない か,と 考え られる 。平 成 24年 中 央教育 審議 会答申(2012-でも, こ れから の教 員に求 めら れる 資質能 力と して,「学 び続け る教 員像の 確立 」を掲 げて いる。 多様 な問題 に直 面する こと が予 想され る教 員とい う仕 事にお いて ,常に 成功 体験を 感じ ,教師 効力 感を高 め続 けるこ とが で きる人 は非 常に稀 であ ると考 えら れる。 その ため, 失敗 経験に よっ て教師 効力 感が低 下し て も,自 己省 察や同 僚と の協働 を通 して, 解決 策を模 索す る教員 の姿 が今後 求め られる のだ ろ う。「 失敗 から学 び成 長する 」教 員像の 心理 的変化 プロ セスモ デル を,教 師効 力感の 変化 を軸 に検討 して いくべ きで あると 考え る。教 員養 成段階 にお いても ,教 育実習 を通 して効 力感 が 上昇し なか った実 習生 へのフ ォロ ーを考 える(増 田・ 田 爪,2015-という 点か ら考え ,実 習で の経験 をど う反省 ・省 察し, 次へ の学び へと つなげ るの か,効 力感 低下群 の学 びへの プロ セ スの検 討し ていく こと が求め られ ると考 えら れる。

よって ,教 師とし ての 成長に つい ての研 究と メンタ ルヘ ルスに つい ての研 究で は,同 じ教 師 効力感 を取 り扱う 研究 であっ ても 異なっ た性 格を持 つと 考えて ,研 究が進 めら れてい くべ き であろ う。

以上 ,2つの論 点を 挙げた 。次 章から は, 教師と して の成長 に焦 点を当 て, 教員養 成課 程 で最も 教師 効力感 の変 化が起 こる と考え られ ている 教育 実習の 前後 による 比較 検討を 行う 。

引 用 文 献

表 1-2  日 本語尺 度が 作成さ れた 研究 因子 構造 項目数 対象 尺度の出典 併用した尺度 結果 吉井(1988- 2 61 現職教員181名 Gibson & Dembo(1984- なし ・効力期待と結果期待の2因子解を抽出した・2因子のどちらも高いと、子どもに対して親和行動、統制行動を有意に取りやすい 桜井(1992- 2 15 教育学部生144名学年間比較 Gibson &  Dembo(1984-・学習理由尺度 ・教師効力感に関連する質問 ・学年間の比較(1年>3年)で

参照

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