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農業科教育の現状と課題

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Academic year: 2021

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農業科教育の現状と課題

技術科研究室 中 坪  義 夫

ま え が き

明治5年の学制領布によって,日本の教育制度の樹立を見たが,農業に関する教育制度の確立 は明治16年農学通則の公布以来と見るべきである。従而今日に至る90年間にわたる農業教育の変 遷,其の歴史的過程を分析考究し,問題点を提起することによって,現在置かれている農業教育

の位置ずけが更に明確に理解されると思うが,紙数の制限上戦後における高校,義務教育の段階 における農業教育の現状,それ等に内在する問題点を指摘し,今後の農業教育はどうあるべきか を考察して見たい。

農業教育の現状と問題点

戦後6,3,3,4の学制が実施された。新しい教育制度では,専門科目としての農業科は,

9ケ年の義務教育終了者に3ケ年の農高の教育を履修をさせるか,12年の普通教育終了者に,4 ケ年又は2ケ年の大学教育を届修せしめるかである。実業学校令の公布は明治32年,それに基づ いて農業学校規定が制定され,大正10年農学校規程の改正,展修科目の改訂は,農業に関する知 識・技能の習得だけでなく,農村における中堅人物の養成が主目的とされた。即ち農村社会開発

に必要な人物の養成,而も商業的農業の意昧する農業経営者養成に着目し,其の目的実現のため の学習農場の整備拡充・所謂労作教育・生産教育を通して,当時の社会要請に応じたものである。

更には昭和5年実業学校諸規程の改訂は実業学校と社会との連絡を緊密にし,研究設備の一般開 放など農村教育様相を深めた。昭和18年に至って食糧生産の必要性・軍事作戦協力の必要性から 集団勤労作業を通しての青少年学徒の練成・報国農場をもって食糧増産運動に協力・所謂練成教 育がなされたものである。戦後における農業教育の教科課程の基準であるところの学習指導要領 は,昭和24年制定以来幾度か改訂が加えられ,更に昭和45年改訂告示,新指導要領による実施は 昭和48年度からと規定されている。

斯くの如く学習指導要領に安定性を欠く所以のものは,社会状勢の変化,農業構造の変化,農       一

コ人の農業観の変化などが,引いては農業教育の変貌を強く要求していたのである。即ち農業教

育が農村社会をリードするのでなく,逆に国民感情又は国際経済,国民経済の動向によって農村

社会の構造に変化を来し,農業教育がそれに追縦していると見るべきである。戦後改訂の特色と

しては総合性高校の設置が推進され,其の課程の中に農業コースをおくよう行政指導がなされた

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46       教育研究所紀要第三号

が昭和5年作業科設置と同様幾多の弊害があらわれ,其の反省から遂次単独制の農業高校に変 更,又科目の増設,プロジェクトと学校農業クラブの設置等々の行政的措置がとられている。

特に新しい制度としては,自営者農業高校,全寮制による農業後継者養成高校が日本の農村 地帯に設立されたことである。

即ち「高校における農業自営者の養成,及び確保のための農業教育の改善方策について」とい う文部省の諮問に対して,昭和39年4月中央産業教育審議会から答申がなされ,文部省は其の答 申の線にそって昭和39年自営者養成農業高校の拡充整備策が講ぜられ39年度からすでに30校が整 備されたのである。自立経営農家の育成は,教育行政面だけでなく農林行政の大きな課題であっ て,地域農業の振興と集団活動,農業の企業化,他産業との格差是正解消等に努力がなされてい るが,其の経営の根幹とも見るべき農業後継者難iは,如何に農業構造改善事業を推進せんとして も至難の事とされている。

又労働力の減少だけでなく,新規補充の主体であるところの学卒者(中・高・大)の就農率が 年々減少し,農業労働力の構成が老令化することによる質的低下を見逃すことは出来ない。

第1表42年3月中学校卒業者状況(42.5.1現在)

実   数  (人) 比   率  (%)

計 男 女 計 男 女

総   数 1,947,237 994,045 953,192 100.0 100.0 100.0 進 学 者 1,386,733 712,900 673,833 71.2 71.7 70.7

就職進学者 64」34 35,377 28,757 3.3 3.6 3.0 就職者総数 445,681 229,144 216,537 100.0 100.0 100.0 農   業 24,219 15,544 8,675 5.4 6.8 4.0

製 造 業 259,541 126,801 132,740 58.2 55.3 61.3

サービス業 61,965 18,291 43,674 13.9 8.0 20.2

文部省:学校基本調査による。

第1表に見る如く昭和42年度にお』ける進学率は男女平均74,5%,就職率22.9%,43年度進学率 76.7%,就職率20.9%,45年度進学率は更に増加し80%以上,就職率特に就農率は減少している。

第H表 43年3月高校卒業者産業別就職状況(43.5.1現在)

総   数  (人) 構 成 比  (%)

計 男 女 計 男 女

就職者総数 942,953 466,471 476,682 100.0 100.0 100.0 農   業 37,026 29,542 7,484 3.9 6.3 1.6

林 ・ 狩 1,061 745 316 0.1 0.2 0.1

漁 ・ 水 2,769 2,135 634 0.3 0.5 0.1

卸・小売業 263,243 92,537 170,706 27.9 19.8 35.8

製 造 業 334,842 195,812 139,030 35.5 42.0 29.2

サービス業 74,968 22,475 52,493 8.0 4.8 11.0

文部省:学校基本調査による。

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第皿表 44年3月大学卒業者農業就職状況(44.5.1現在)

四 年 制 大 学 短    大

総   数 構成比(%) うち農水関係 総   数 構成比(%) うち農水関係 就職者総数 172,125 100.0 6,697 75,579 100.0 996 農   業 755 6.4 620 494 0.6 376

林 ・ 狩 148 0.1 75 53 0.1 3

漁 ・ 水 221 0.1 102 81 0.1

文部省:学校基本調査による。

第IV表 全国新規学校卒業者の農業就職状況

農 業 就職 者  (入)

就職者総数

中 学校 高   校 大学・短大

35.3 1,373,822 86,183 43,676 799

36.3 1,238,017 44,583 33,827 500

37.3 1,435,595 56,305 27,491 616

38.3 1,535,782 66,005 27,082 651

39.3 1,415,502 51,054 18,731 592

40.3 1,495,942 39,033 23,420 663

41.3 L601,606 32,718 34,637 762

42.3 1,537,918 24,631 38,668 1,390

43.3 1,551,015 21,652 38,087 1,276

44.3 1,454,314 15,744 37,438 1,450

文部省:学校基本調査による

大学院・高専卒業者は含まず

第]V表に示されるように就農率の減少は,其の原因として,農業構造の変化にあることを認め ねばならない。即ち(1)農業生産の担当層が農業粗生額から見て,其の46%が1h亀30%が1.5ha の耕地層であること,(2)既存の兼業農家の中から之迄の農外就業に専念するため,又は後継者世 帯主の老齢化等の労働力事1青から,昭和35〜40年間54万戸(新設農家16万戸)という大量の脱農 家を生じ,(脱農は第二種兼業農家60%占有)地域的に見て都市近郊と挙家離村の多い山村に其の 傾向が著しい。自営者養成農業高校設置に引き続き,昭和45年4月から定時制的専攻科の併設を 見ている。即ち自営即学習,技術と経営の能力を高め,定着率・就農率を高めようとの措置がと

られたことである。

農林省は昭和45年12月農業生産の地域分担指標(いわゆる農業新地図)の内容を公表した。之 等は米穀過剰生産・農業生産物流通機構の改善対策としてである。

」  之によると,全国を(1)遠隔農業地帯(生産の中核的担い手)②中間農業地帯(輸送条件の改善       7

ナ伸長)(3汰都市近郊農業地帯(園芸・畜産の比重高)の3地区に分類している。

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48      教育研究所紀要第三号

之等地域分担指標に基づく行政指導によって,どの程度適地適作の実と,市場価格の安定が期 待されるか。其の成否は別として,これら農林行政指導が,文部行政による農業教育の指導理念

を更に困難にさせはしないか。

少くとも学科制・履修科目,教科内容の選択,その指導性が問題として生ずるのは当然である。

次に中学校の農業教育について触れて見たい。学校教育法第35条は其の教育目的として「中学 校は小学校における教育の基礎の上に心身の発達に応じて中等普通教育を施すことを目的とす る」,更に目標として第36条第2項には「社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能・勤労 を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと」と規定している。即ち 内容的には

(1)社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能を養うこと。

(2)勤労を重んずる態度を養うこと。

(3)個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと,の3目標が掲げられている。

小学校に於ては,教育目的として第17条に「小学校は心身の発達に応じて初等普通教育を施す ことを目的とする」,目標として第18条第3項に「日常生活に必要な衣・食・住・産業について基 礎的な理解と技能を養うこと」としてあり,中学校の指導目標は小学校に比較して更に展開され 所謂事物の教育から,人間の教育へと発展しているのである。

昭和34年中学校指導要領の改訂によって従来の職業科は技術科と改称,設計製図,木工,金工,

電気,機械,栽培が教科内容である。更に昭和44年改訂による指導要領によると,従来第1学年 履修であった栽培が第3学年の履修に移行され,配当時間20hの椎をとりはずした点,而も其の 指導内容として環境調節の栽培,化学薬品調節の栽培が大きくとりあげられ,技術科の教科内容

が全体として工的教材に偏していることである。

中学校が義務教育であり,其の教育目標,中学校卒業者の進路状況を考慮するならば,中学校 の技術科は一般教育の教科目であって,専門教科目ではなく,職業高校の教科目の取扱いとは厳 に区別されねばならない。

近代技術の中心が機械,電気であるとの産業界の認識が,工的教材偏重即技術科であるかのよ うな判断をくだしたものと思われる。

中学校における技術科が一般教育のための教科である限り,改訂前の農業・工業・商業・水産 と平均した教科内容であってこそ始めて中学校教育の目的が達せられ,技術科設置の意義が理解 されるのである。

また昭和47年度以降実施される指導要領の栽培単元では,(1>作物の環境調節や化学調節を加味 した栽培計画の立て方について指導がなされ,之等調節法を加味した栽培法が理解されること,

(2>作物自体の生育調節法が理解されること。それ等の目的を達する手段として,ガラス室,ビニ 一ルハウスその他の施設,用具の使用を掲げている。従来の栽培法に比較して高度な栽培管理の技術 習得が求められているが,之等栽培の基礎的技術面の指導は中学校のどの段階に於てなされるのか。

生活の高度化,産業の発達等社会的変化に即応した栽培品目,栽培型式が要求されるものとし

(5)

ても・基礎的技術の習得・理解なくしては,其の教育目標を実現することは,至難の事と言わな ければならない。

小学校にありては,技術科・農業科という特定の教科目はない。然し社会科・理科の教科目の 中に数多くの農業的教材が組入れられている。

第V表 小学校の農業教材(昭和39年2月調査)

   学年教科

1 2 3 4 5 6 計

社  会

 単元一

 単元

Q  単元

U  単元 P1  単元

P4 単元

R  単元 R7

理  科 7 7 8 4 5 1 32

小学校の教育が生活教育という立場に立たなければならない点から見るならば当然の事であ る。昭和46年度実施の新指導要領では,理科の目標・内容の取扱い方として「自然の事物現象に 直接触れさ辻観測・観察・実験の分析的比較考察定量的取扱いによる自然科学の理解と論理 的思考の発展技能の習熟・が必要であるとされている力惚等の諸目標が達成されるためには,

小学校の現況に於いてその実現が可能であるかどうか。

学級園なり学校園なりの施設をもたない小学校は極めて多く,又有っても其の活用度は至って 不充分である。指導内容としては,穀作・野菜・花卉・果樹・小家畜・養魚等が 1年から6年 までに取りあげられて有硫女吐の学級園・学校園をもたない学校において1よ,之等の目的.

目標をどのようにして期するのか・教育課程改訂の趣旨が実現されるためには,獺猷.現 職教育・教員組織・施設・設備等について今後一層の改善充実に努めなければならないと言われ

るが当然のことである・小学校類は4・学校教員養成言果程において養成されているが必修教科 には技術科濃業科の科目は含まれていない・このような履修制度下において卒業した都懐 業科・技術科と特に関連性の深い社会・理科の教科内容を充分把握しての適切な指導がなされ得 るかどうか。

本学にお』いて昭和46年度から小学校教員養成課程に技術科選修コース(製図加工コース.機械 コース 電気コース 栽培飼育コースー般ま支術コース)を設置することの談もそこ1・あり,

此の傾向は全国国立大学教員養成学部において見ることが出来る。

む  す  び

現下教育制度下における農業教育についての一端と,其の問題点のいくっかを指摘して見た。

一体農業とは何であるか。農学との関連性において其の定義ずけが難かしいと同様に,農業教育 の本質についても同然である。

然し農業教育は農業生産の基盤であるところの栽培・飼育・加工に関して,生産や経営に関す

る知識と,生産技術を習得させるのであるが其の教育過程において,農業の社会的経済的意義

の理解,農村地域社会の向上と発展,勤労精神の洒養に役立て,引いては教育の究極的目標であ

る人間形成にあることには異論はない。

(6)

50       教育研究所紀要第三号

然し乍膿難営の形態力個際繍国民経済の動鳳産難造の変革によって・経営繊

と運営法の指標の変動を余髄くされた過去の歴史的事実から見て農業教育の主目標1よなんで あるか.其の位置ずけ,目標達成の方法等々を考察するたびに其の困難さを知らされるのである・

前述の如く沖学楓融大学樋して新規卒業者就農割合の減少・搬就農人゜の減少と 老令化濃業と他産業との生離の格差旧本緻斉の高度厳其の問題は更に深刻とならざる

を得ない。

農学栄えて農業衰えるの様相を深めているのが現況である。

第W表 高等学校数(43.5.1現在)

制  度  別 校   数 農業科設置高校数 農業単独校数

全   日  制 2,866 390 154

定  時   制 699 253 107

併置(全日・定) 1,252 90 42

4,817 733 303

文部省:学校基本調査による 第W表 全国高校(農業学科)生徒数(人)

年 月 日 男 女 計

40.5.1 197,331 66,538 263,869 43.5.1 175,028 65,653 240,663 44.5.1 166,572 64,693 231,265

文部省:学校基本調査による 第㎜表 大学数及び学生数(44.5.1現在)

学  校  数 学   生   数 農・水関係学生 総  数 うち農水

ヨ係数

計 175 33 39,423 35,943 3,480 2,678 2,596 82

大田

国立 58 26 22,897 21,225 1,712 2,373 2,302 71

字 公立 17 1 2,419 223 132 125 125 7

院 私立 100 6 14,107 12,522 1,585 173 169 4

計 379 50 1,295,771 1,059,705 236,066 48,361 45,747 2,614

国立 75 35 269,403 217,123 50,280 24,090 22,710 1,380

、、

公立 34 3 45,577 34,113 11,464 1,366 1,304 62

字 私立 270 12 980,791 808,469 172,322 22,905 21,733 1,172

計 473 12 263,362 46,761 216,601 3,432 2,959 463

短 国立 22 9,768 8,620 1,148 一 一

公立 43 4 16,274 4,751 11,523 927 816 111

大 私立 408 8 237,320 33,390 203,930 2,475 2,143 352

文部省大学課:全国大学一覧による

(7)

戦後における農業政策の根幹は,食糧増産就中稲作の品種改良とその生産技術の改良にあった ことは衆知の事実である。前述の如く国際経済,国民経済の動向と農業政策との関連性にもとず く地域分担指標政策が推進されるならば,日本の農業に関する教育が日本農業の変貌の中でとら えなければならない宿命的性格から,其の位置ずけは更に複雑である。

然しながら農業教育の目標が一応農業経営に関する知識技能の習得,農村社会の向上発展に寄 与する理解者・技術者を養成するにあるとするならば,今後の農業教育は

(1)専業農家後継者教育,(2)兼業農家後継者教育,(3農業理解の一般教育,

の3構想が考えられる。(1)は農業の専門教育であって,農業高校,大学が之にあてられる。然し 農業高校の現況はどうであろうか。農業高校における一般教育課目の重視と履修,中学校教師,

一般父兄の普通高校優先の観念による職業高校の敬遠(特に農業高校),農高校新規卒業者の就農 率の低下,農業教員の勤務時間と農場管理運営等,幾多の問題を抱えているのが現状であって,

大学の農業教育の体質改善と併せて,論究される所以である。(2)(3)は一般教育としての農業教育 であって,これ等教育は小中学校の義務教育段階・普通高等学校において扱われ,社会科・理科 等の関連ある教科,その他課外活動を通して,産業経済構造の中に占める農業の位置・性格を的 確に理解させ,引いては地域社会の向上発展に寄与するよう配慮が払われるべきである。

参考文献

1.日本農業年鑑,昭和37・38・39・40年度版 2.小中学校学習指導要領,昭和44年度版 3.高等学校学習指導要領,昭和45年度版 4.長田田新:教育学

5.阿部重孝:教育改革論

6.野尻重雄:作業科教育の指導原理

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