東アジアの魚? : 魚の発酵製品の研究(1)
著者 石毛 直道
雑誌名 国立民族学博物館研究報告
巻 11
号 1
ページ 1‑41
発行年 1986‑08‑25
URL http://doi.org/10.15021/00004375
石毛 東 ア ジアの 魚 醤
東 ア ジ ア の 魚 醤
魚 の 発酵 製 品 の 研 究 (1)
石 毛 直 道 *
GyoshO in Northeast Asia A Study of Fermented Aquatic Products
Naomichi ISHIGE
In the local cuisines of Northeast and Southeast Asia the fermented products of aquatic organisms constitute common side dishes and condiments. Throughout this region the preser- vation of seasonally available aquatic products was based in considerable measure on the application of fermentation tech- niques, as in the making of gyoshO and narezusi.
In making gyosho products salt is mixed with cleaned fresh fish, shellfish, or other aquatic organisms, and fermented for various lengths of time to enable the enzymes present to auto- digest the meat and create products that range from sauces to semi-solids, and in which amino acids predominate. Narezusi is a solid product of aquatic organisms lactic-fermented with boiled or steamed rice or other grains.
The research on fermented aquatic products was conducted jointly with Dr. Kenneth Ruddle. This is the first in a series of papers resulting from this research project, some of which will be co-authored and others written individually.
This paper is a monographic study of gyosho in China, Korea and Japan. It discusses the processing methods, consumption patterns, cuisine and the dietary importance of various types of gyosho, together with their history, based on a study of the litera-
ture and historical documents. Since this paper forms part of an introduction to the subject of fermented aquatic products, ecological discussions, descriptions of the technologies used, geographical relationships and hypotheses about and conclusions on the topic are deferred to later papers.
*国立民族学博物館第 4研究部
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国立民族学博物館研究報告 11巻 1号
は じめ に
1.研 究 の意 義 と研究 対 象
1. 東 ア ジア ・東 南 ア ジア の 食事 文 化 に お け る魚 醤 の 重要 性
2. 研 究 対 象 の種 類 3. 従 来 の 研究 ロ. 日本
1. 塩 辛
1) 青 ケ 島 の塩 辛 2) 日振 島 の塩 辛 3) 塩 辛 の歴 史 2. 魚 醤 油
1) シ ョ ッツ ル 2) イ シ リ 3) イカ ナ ゴ醤 油 4) 魚醤 油 の消 費 の 変遷 5) 魚醤 油 の歴 史 皿 .朝 鮮 半 島
1. 塩 辛 (ジ ョ ッカ ル)
1) 小 エ ビの塩 辛 2) カ タ ク チ イ ワ シの塩 辛 2. 魚 醤 油
3. 消 費 4. 塩 辛 の歴 史 IV. 中国
1. 塩辛 2. 蝦醤 と蝦 油
1) 製 法 2) 消 費 3) 歴 史 3. 魚 醤 油 1) 製 法 2) 消 費 3) 歴 史 4. 〈魚 醤 〉の 変遷
は じ め に
筆 者 を研 究 代 表 者 , 同僚 の K enneth Ruddle 助 教 授 を共 同 研 究者 とす る 「魚 醤 の 総 合 的 研 究 」 が 1982年 以来 続 け られ て い る。 そ れ は, 東 ア ジ ア ・東南 ア ジァ に特 徴 的 な魚 介 類 を原 料 と した 発 酵 食 品一 魚 醤 とナ レズ シ を研 究 対象 と して , これ ら食 品 の原 料 とな る魚 介 類 の 漁業 に は じま り,加 工 , 流 通 過 程 を 経 て消 費 にい た るま で の 全 体 像 を 調 査 しよ う とす る 試 み で あ る。 す なわ ち, 漁業 生 態学 と資 源 の有 効 利 用 を め ぐる経 済 シス テ ム を専 攻 す る Ruddleが原 料 魚 の漁 業 お よび 流通 と消 費 の経 済 的 側 面 を 担 当 し, 食事 文 化 を専 攻 す る石 毛 が加 工 法 と調 理 にか か わ る調査 を お こな い , あわ せ て , これ らの 食 品 の歴 史 的 ,文 化 的 考 察 をお こな う役 割 分担 に も とつ く共 同研 究 で あ る。
の ち にの べ るよ うに , この分 野 に関 す る従来 の 研究 は とぼ し く,研 究 報 告 も断 片 的 で , しか も初 歩 的化 学 分 析 の報 告 に限 定 され て い る。 した が って ,徹 底 した 現 地 調 査 に も とつ く,第 一 次 資 料 の収 集 が必 要 で あ った 。 1985年 末 ま で に , 日本 , 韓 国, 中 国,
香 港 , ベ トナ ム , カ ンボ ジ ア , タ イ , ビル マ ,バ ング ラデ ィ シ ュ, フ ィ リ ッ ピ ン, マ レー シア , イ ン ドネ シァ ,台 湾 で の現 地 調 査 が お こな わ れ た。 魚 醤 や ナ レズ シの 生 産
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石毛 東 ア ジアの魚醤
国で 未 調 査 な の は入 国 が 困難 な北 朝 鮮 と ラオ ス で あ る が , 北 朝鮮 に つ い て は韓 国側 の 資 料 で , ラオ ス に つ い て は ラオ族 が 分 布 す る東 北 タ イで 調 査 した 資 料 で 知 る こ とが で
きた。
この一 連 の 調査 に も とづ き,東 ア ジ ァ に お け る魚 醤 につ いて ま と め, 報 告 す るの が 本 論文 で あ る。 近 い将来 , 「東 南 ア ジ ァの 魚 醤」,「東 ア ジァ と東 南 ア ジ ア の ナ レズ シ」,
「ア ジ ァの 食事 文 化 にお け る魚 の発 酵 食 品 の位 置づ け」, 「魚 の 発 酵 食 品 の 原 料 を め ぐ る漁 業 生 態学 」, 「魚 の発 酵 製 品 の化 学 分 析 」 な ど を テ ー マ とす る論 文 を , そ の主 題 に 応 じて ,石 毛 ,Ruddle の 共 同 執筆 , あ るい は個 人 名で 本 誌 で 発 表 す る予 定 で あ る。
この よ うな シ リーズ の一 環 と して執 筆 さ れ た もので あ る ので , 本 論 文 で は東 ア ジア に お け る魚 醤 の 現状 と歴 史 につ い て記 述 す る に とど め, あ えて 結 論 ら しき もの は記 さな か った 。 ア ジ アの魚 の発 酵製 品 に つ いて 総 括 す る別 論 文 にお いて , 東 ア ジア の 魚 醤 を 位 置 づ け る論 考 を発 表 す る予定 を して い るか らで あ る。
調 査 の 途 中 で の 中 間 報告 と して ,わ れわ れ が発 表 した もの に 「塩 辛 ・魚 醤 油 ・ナ レ ズ シ」 とい う論 文 が あ る [石 毛 ・ラ ドル 1985]。 これ は1984年 4月 段 階 で の 調 査 結 果 の 一応 の 整理 と研 究 の展 望 を試 みた もので あ る。 ア ジ アの 食 事 文 化 にお け る魚 介 類 の発 酵 製 品 の は た して い る役 割 や, その な か で の 本 論 文 の 位 置 づ け に興 味 の あ る読 者
に は, さ しあ た って この 中間 報 告 を参 照 して いた だ きた い。
な お , 本 研 究 は味 の素 株 式 会 社 か ら国立 民 族 学 博 物 館 に寄 付 され た 研 究 助 成 金 に も とつ いて お こな わ れ て い る もの で あ る こ とを記 して ,感 謝 した い。
1. 研 究 の意 義 と研 究 対 象
1. 東 ア ジア ・東 南 ア ジア の 食 事 文 化 に お け る魚 醤 の 重 要 性
塩 辛類 ,魚 醤 油 な ど 魚 や 小 エ ビを 原 料 とす る 一 連 の 発 酵製 品 で あ る魚 醤 は 東 ア ジ ァ ・東南 ア ジ ァ にお け る重 要 な副 食物 お よ び調 味 料 で あ る。 そ の分 布 は ほぼ 水 田稲 作 地 帯 に一 致 す る。
東 ア ジ ア ・東南 ア ジ ァの伝 統 的食 生 活 は主 食 の米 に全 面 的 に依 存 し, エ ネ ル ギ ー の み な らず , 蛋 白質 も大 部 分 を米 か ら摂 取 す る食 事 パ タ ー ンで あ る こ とが 知 られ て い る。
日常 の 食 生 活 にお け る家 畜 ・家 禽 の摂 取 量 は きわ めて す くな く, 乳 お よび 乳 製 品 を利 用 す る伝 統 はな か った [石 毛 1983:408−412]。 動 物 性 蛋 白質 と して 重 要 な の は 魚 で あ り, 米 , 野 菜 ,魚 の組 合 せ で この地 域 の 日常 的 な食 事 は構 成 され て い る。
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国立民族 学博物館研究報告 11巻 1号 漁 獲 期 が 限定 され る魚 の 保 存 法 と して , この地 域 で発 達 した の が 魚 醤 お よび ナ レズ シの発 酵食 品 に加 工 す る こ とで あ る。 魚 に塩 を して ,炊 い た り蒸 した 穀 物一 お お く の 場 合 米 飯一 と漬 け込 み,乳 酸 発 酵 を させ て魚 を保 存 す る ナ レズ シ は,の ち に別 論 文 で の べ る よ う に, お そ ら くは魚 醤 のバ リエ ー シ ョ ンと して発 生 した もの と推 定 され る。
魚 肉 が ア ミノ酸 に分 解 して い る魚 醤 は 「うま 味 」 と塩 味 を兼 ね た食 品 で あ るの で , その ま ま副 食物 と して食 べ られ るほ か, 調 味 料 と して も利 用 され る。 と くに ,微 生 物 を利 用 して 豆 ,穀 類 を発 酵 させ る穀 醤 類 の製 造 技 術 が 発 達 しな か った東 南 ア ジ ァ で は , 魚 醤 が基 本 的 な 調 味料 と して使 用 さ れ, 東 ア ジ ア にお け る味 噌 ,醤 油 類 に 匹敵 す る。
副 食 品 と して は, 東南 ア ジア の お お くの 地 方 で , 他 の 副 食物 が 得 られ な い とき に は , 魚 醤 を その ま ま, あ るい は魚 醤 に野菜 を そ えて 米 飯 を 食 べ るの が , も っ と も貧 しい食 事 と され る こ とか らわ か る よ うに ,欠 かす こ との で きな い 一 番基 本 的 な副 食 物 と して
の地 位 を 占 めて い る。
現 在 で は 中 国 , 日本 に お いて は魚 醤 はあ ま り食 べ られ な くな った が , 朝 鮮 半 島 にお い て は塩 辛 類 は 日常 の 食 事 に欠 か す こ とが で きな い重 要 な副 食 物 で あ る。 か つ て は 東 ア ジ ア に お いて も魚 醤 は重 要 な 副食 品兼 調 味 料 と して 利 用 され て い た もの と考 え られ , 古 代 中 国 に お いて は穀 醤 の 出 現以 前 には , 肉醤 とな らん で 魚 醤 が 調 味 料 と して使 用 さ
れ て い た もの と考 え られ る。
2. 研 究 対 象 の 種 類
こ こで魚 醤 と よ ぶの は, 魚 介 類 ,小 エ ビを原 料 と して , 塩 を加 え る こ とに よ って腐 敗 を 防止 しな が ら保 存 し, 主 と して 原料 に含 ま れ る酵 素 の作 用 に よ って 筋 肉 の 一 部 が
溶 け て構 成 要 素 の ア ミノ酸 類 に分 解 した食 品 を い う。
くわ し くは化 学 分 析 の結 果 を 報 告 す る姉 妹 篇 の論 文 に発 表 す る予 定 で あ るが , 本 論 文 執 筆 時点 に お いて , わ れ わ れ が ア ジア各 地 か ら収 集 した 各 種 の魚 醤 の 代 表 的 な もの 34点 が 味 の素 株 式 会 社 中央 研 究 所 の 君 塚 明 光博 士 らに よ って分 析 され て い る。 そ の 結 果 , 生 産地 ,製 造 法 ,原 料 魚 介 類 の種 類 な どの差 異 を超 え て ,す べ て の 魚 醤 は塩 味 と ア ミノ 酸 類 を基 調 とす る調味 効 果 を もつ 食 品 と して の共 通 性 を もつ こ とが証 明 され て い る。 ほ とん ど の魚 醤 に お いて ア ミノ酸 類 の な か で も 「うま味 」 に関 与 す る グル タ ミ
ン酸 の 含 量 が最 大 で あ り, そ の こと は魚 醤 が鮮 魚 に はな い 「うま味 」 を得 る こと を 目 的 と して 考 案 さ れ た保 存 食 品 で あ る こと を物 語 って い る。
塩 蔵 魚 で も長 期 間保 存 した さ い に は, い くぶ ん 化 学 変 化 を起 こ して ,魚 醤 との ち が い は含 まれ るア ミノ 酸 の程 度 の差 で しか な い よ うな もの もあ る。 そ こで ,塩 蔵 魚 と魚
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石毛 東 アジアの魚醤
醤 の 区 別 点 を 成 分 分 折 によ って 明確 な一 線 を画 す る こ と はで きな い 。 む しろ ,魚 肉 を な るべ く原形 の ま ま保 存 して料 理 材 料 とす る意 図 で塩 漬 け に した もの か , あ るい は天 然 の 魚 肉 に はな い 「う ま味 」 を積 極 的 に つ く りあげ る 目 的 を もって 塩 漬 け にす る もの か と い う製 造 の 意 図 に よ って 区 別 され るで あ ろ う。 そ して ,魚 醤 と して 製 造 され た 製 品 は生 食 され る こ とが お お く, ま た 調 味料 的利 用 法 を と もな う こと に よ って 特 徴 づ け
られ る1)。
本 論 文 で は塩 辛 類 お よび 魚 醤 油 の 総 称 と して 魚 醤 とい う名称 を採 用 して い る。 中 国 の古 典 食 経 類 で は魚 に塩 と コ ウ ジを 加 え て発 酵 させ た 製 品 を魚 醤 とよ び , い っぽ う現 代 の 山東 省 で は塩 と魚 だ けを 原 料 と した 塩 辛 を 魚 醤 とい う [福 建 省 水 産 供 鎗 公 司 ・厘 門 水 産 学 院 加 工 系 (編 ) 1976:153]。 い っぽ う, わ が 国 の古 典 に お いて は魚 醤 の 文 字 を使 用 して ウオ ビシオ と読 ませ て 魚 の 塩 辛 を しめ す 場合 もあ れ ば ,現 在 で は魚 醤 の 名 称 で 魚 醤 油 を しめす 場 合 もあ る。
この よ う に用 例 が 一 定 しな い こ とば で あ るに もか か わ らず ,本 論 文 で魚 醤 と い う文 字 を使 用 す る理 由 は, ほか に適 当 な こ とば が な い こ と と,穀 醤 に対 応 す る こと ば と し
てふ さわ しい名 称 で あ る こ と に よ る。 豆 や穀 類 の 醤 , す な わ ち ヒ シオ は と きに は醤 油 の モ ロ ミや 醤 油 をふ くむ 広 い概 念 と して 使 用 され るの に対 応 して ,主 と して魚 を原 料 と した ヒ シオで あ る塩 辛 類 とそ れ か ら派 生 す る魚 醤 油 ま で ふ くめ て総 称 す る こ とば と して 魚 醤 の文 字 を採 用 す るの で あ る。
そ れ で は , この広 義 の魚 醤 に は どの よ うな もの が あ るか 。 表 1に 東 ア ジア ・東 南 ア ジア の各 国語 (地 方 的 名称 や 少 数 民 族 の言 語 は省 略 して ) にお け る魚 醤 類 と ナ レズ シ の 名称 を あ げ て お い た。 これ らの名 称 の 別 に よ って 各 国 にお い て 魚 醤 類 が 区 別 され て い るの で あ るが ,厳 密 に い え ば そ の分 類 概 念 は それ ぞ れ の 言 語 に よ って こ とな るは ず の もの で あ る,, しか し,比 較 研 究 を試 み るた め に は, 名 称 が こ とな り, 製 造 法 ,消 費 に さい して も異 同 の あ る各 国 の魚 醤 類 を なん らか の 規 準 に した が って 分 類 ・整 理 して お く必 要 が あ る。
図 1にナ レズ シを も含 め た魚 の発 酵 製 品 の分 類 法 を しめ して お く。 これ は製造 方 法 とそ の結 果 で きあ が った最 終 製 品 の形 態 を考 慮 に いれ て 作 成 した もの で あ る。 す な わ ち, ま れ な例 を の ぞ く とす べ て の魚 の 発 酵 製 品 は魚 に塩 を 加 え て つ く られ る。 これ に,
1)たとえ ば,ス リランカで シンハ ラ語で jadiとよばれる魚 の塩蔵魚がある。 大形 の魚を切 身 に して ,魚の重量の半 量の塩 と1/10のタマ リン ド,少量の サフランを加えて 3週間程度漬け込 んだ ものであ る。魚 肉の原形を保 って いるが,多少 発酵 も している。 しか し,料理法 と しては 生食することはな く,焼 いた り,揚 げたり,煮てカ レー料理 とされる。すなわち,魚料理の材 料の保 存食品 一塩魚と して の使われかたなので,jadiを魚醤か ら除外 して よいであろ う。
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日 本
朝鮮半 島
塩 辛
塩辛
ジ ョ ッカ ル
表 1 東 ア ジア ・東 南 ア ジ ァ にお け る代 表 的 魚 ・小 エ ビ発 酵 製 品 の名 称
塩 辛 Ae・一 ス 1
中 国 魚夷*
戯 魚 **
魚 醤 ***
戯 鮭 ****
ベ トナ ム
小 エ ビ 塩 辛 ペー ス ト
蝦醤
mam ruoc mam torn
魚 醤 油
シ ョ ツ ツ ル イ シ リ イ カ ナ ゴ醤 油
魚露 鯖油 魚醤油
小 エ ビ醤 油
蝦油
nuoc mam nuoc mam tom-chat
ナ レズ シ 鮮 *
シ ッ へ
酢
mam torn chat*
そ の 他
魚 醤 *****
カ ンボ ジア
prahoc
ラオ ス
pa daek
タ イ
pla deak
pla ra tai pla*
ビル マ
ngapi-goung
バ ン グ ラ デ ィ シ ュ マ レ ー シ ア
イ ン ドネ シア
フ ィ リ ッ ピ ン
bagoong
prahoc pa daek
ngapi-seinza
terasi ikan kapi
kapi
buzun- nagapi (hming-
nagapi)
naapi belacan
terasi udang dinailan ginamos
tuk trey nam pa nam pla bu du
nganbyaye
budu
kecap ikan pates
nam kapi
bazun- nganbyaye
phaak som pa pla ra pla som
ngaching
perkasam ik an masin
burong isda
mam chua'
mam
pla jao**
cincalok*
* 現 在 は,他 の ス シが 発達 したの
で 区 別 の た め に ナ レズ シと い う
* 魚 の 内 臓 の 塩辛 ** 湛 江
の 名 称 *** 山東 半 島 の 名称
**** 台 湾 の 名 称
***** コ ウ ジを 入 れ た古典 的魚 醤
* エ ビの ナ レズ シ
** ナ レズ シ と塩 辛 の 中間 形 態
* 魚 の 内臓 の 塩 辛
** 煎米 と スタ ー タ ー を用 い る
* 小 エ ビ の ナ レズ シに コ ウ ジを入 れ る
石毛 東 アジアの魚醤
図 1 魚 の 発 酵 製 品 の 分 類
さ らに飯 を 加 え る と ナ レズ シ とな る。 魚 と塩 を主 原 料 と して つ く られ る魚 醤 系 列 の製 品 の うち, 魚 体 が 分 解 す る まで 長 期 間 発 酵 させ , そ の 液 体 部 分 の み を と りだ して 調 味 料 と して 利 用 す る もの を魚 醤 油 と よぶ こ と にす る。 魚 肉 の形 状 を 残 して い る製 品 を塩 辛 と して お き, 塩 辛 の 製 造 過 程 で 魚 体 を 突 きつ ぶ した り, す りつ ぶ して発 酵 させ た も の を 塩 辛 ペ ース トと よぶ こ と にす る。 塩 辛 ペ ース トは料 理 の さい に溶 か しや す い た め にた ん な る塩 辛 よ り も調味 料 と して の性 格 が強 く,穀 醤 で いえ ば 味 噌 に対 応 す る もの で あ る。
図 1に は魚 を原 料 と した場 合 を しめ した が ,魚 同様 の製 品 が 小 エ ビで もつ く られ る。
そ の場 合 に は魚 の製 品 に対 応 して 小 エ ビ醤 油 ,小 エ ビ塩 辛 , 小 エ ビ塩 辛 ペ ース トとい う こ とに な る。 た だ し,殻 の舌 ざ わ りの問 題 もあ り小 エ ビの 塩 辛 は 日本 , 朝 鮮 半 島 , フ ィ リ ッ ピ ンな ど で食 べ られ る だ けで , 他 の地 域 で はペ ース ト状 に加工 され るの が ふ つ うで あ る の で ,表 1に は小 エ ビ塩 辛 の 欄 を も うけて は いな い 。
現 実 に は コ ウジ な ど の副 次 的 な材 料 を加 え る こ とが お こな わ れ た り, ナ レズ シ と魚 醤 の 中間 形 の製 品 が存 在 す る こ と もあ り, も っ と細 部 にわ た る分 類 を す る こ と も可 能 で あ る。 そ れ につ いて は本 論 文 の 姉 妹 篇 と な る東 南 ア ジ アの 魚 醤 に関 す る論文 で魚 醤 のバ リエ ー シ ョ ンにつ いて の べ る予 定 を して い る。
こ こで は , さ しあ た って 図 1に しめ した 分 類 に した が って 記 述 す る。 単 純 で は あ る が 製造 法 の基 本 型 と食 用 に さ い して の利 用 法 に影 響 す る最 終 製 品 の 形 態 に も とつ くこ の分 類 法 で ,各 国 の魚 醤 の大 部 分 を整 理 す る こ とが可 能 だか らで あ る。
3. 従 来 の 研 究
ア ジア の食 生 活 に と って重 要 な食 品 で あ るに もか か わ らず , 魚 醤 の 研 究 はす くな い 。 魚 醤 を利 用 す る諸 国 の な か で ,研 究 活 動 が一 番 活 発 なわ が 国 で も, 他 の 食 品 加工 の 分
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国立民族学博物館研究報告 11巻 1号
野 に く ら べ る と , 研 究 に 従 事 す る 者 の 数 も業 積 の 数 も す く な い 。 わ が 国 の 魚 醤 は 塩 辛 と魚 醤 油 の 二 種 類 で あ る が , 塩 辛 は 各 地 で 製 造 さ れ る が 製 法 は き わ め て 単 純 で あ る し,
魚 醤 油 は き わ め て 限 定 さ れ た 地 域 で 生 産 さ れ る に す ぎ な く, 両 者 と も に 将 来 性 を 期 待 さ れ る食 品 で は な い こ と が , 研 究 者 の 関 心 を 引 か な い 理 由 で も あ る 。 従 来 の 研 究 は 塩 辛 , 魚 醤 油 の 成 分 分 析 と 製 造 法 の 記 載 , 製 造 過 程 に お け る変 化 の 解 明 に 主 力 が そ そ が れ , ほ と ん ど が 水 産 製 造 学 の 研 究 者 に よ る も の で あ る2)。
わ が 国 以 外 で 比 較 的 よ く研 究 が な さ れ た の は , ベ トナ ム の 魚 醤 油 で あ る ニ ョ ク ・マ ム で あ り , 旧 仏 領 イ ン ド シ ナ の パ ス ト ゥ ー ル 研 究 所 を 中 心 と す る研 究 者 た ち の 成 分 分 析 と 製 造 法 の 記 述 を 中 心 と す る一 連 の 業 積 が あ る 3)。 これ は , フ ラ ン ス の 植 民 地 体 制 の な か で , ニ ョ ク ・マ ム が 重 要 な 商 品 と し て 政 府 の 品 質 管 理 下 に あ っ た こ と に よ る も の で , ニ ョ ク ・マ ム 以 外 の 魚 醤 に つ い て は , ほ と ん ど 研 究 さ れ て い な い し, 植 民 地 体 制 の 崩 壊 で フ ラ ン ス 人 に よ る研 究 は 中 絶 さ れ た ま ま に な っ て い る 。
そ の 他 の 諸 国 に お い て は , 製 品 の 化 学 分 析 を 主 と す る 断 片 的 な 報 告 が な さ れ て い る に と ど ま る 。
比 較 研 究 資 料 と して は FA O の 下 部 機 関 で あ る Indo−Pacific Fisheries Councilの タ イ プ 印 刷 の 報 告 書 『Fish Processing in the Indo−Paczfic Area』 [IPFC l967] と Steinkraus編 集 の 『H andbook of lndigenous 」Farmented Foods』 [STEINKRAUS l 983:
487−530] に , ア ジ ァ 各 地 で 商 業 的 に つ く ら れ る魚 醤 類 の 製 法 と い くつ か の 製 品 に つ い て の 化 学 分 析 の 結 果 が 記 載 さ れ て い る 。 こ の 二 つ の 著 作 以 外 に 魚 醤 を 通 覧 す る 資 料 は な い が , 両 書 と も に 各 国 で の 断 片 的 な 報 告 例 を 引 用 して 再 編 集 し た も の で あ り , 事 例 集 で は あ る が 論 考 は ほ とん ど 含 ま れ て い な い 。 ま た , そ こ に 記 述 さ れ て い る製 品 や 製 法 が 各 地 に お け る典 型 的 な 事 例 で あ る か ど う か に は う た が わ しい 点 の あ る も の も含 ま れ て お り , 本 論 文 に 記 し た 現 地 調 査 の 結 果 と は 矛 盾 す る 箇 所 も あ る。
製 造 法 の 記 述 と化 学 的 手 法 に よ る 研 究 分 野 以 外 の 魚 醤 に 加 工 さ れ る原 料 魚 の 研 究 , 魚 醤 の 料 理 法 や 消 費 の 実 態 , 魚 醤 の 歴 史 に 関 す る 研 究 は 皆 無 に ひ と しい の が , 研 究 の 現 状 で あ る。
2) 最近 の水 産 製 造 学 関係 の概 説 書 か ら研 究 の傾 向 を ひ ろ って みよ う。 須 山三 千三 ・三 輪 勝 利 著 『水 産 加 工 』 [須 山 ・三 輪 1981:244−253]の 「塩辛 , 魚 醤 油 」 の章 で は熟成 過 程 にお け る変 化 と製 造法 の 具 体 例 の 記 述 が な され て い る 。 三 輪 勝 利 監 修 『水 産加 工 品 総 覧 』 [三輪 1983:
263−282,391−396] に は 「塩 辛 」 と 「魚 醤 油 」 の 章 が あ り, 主 と して 各 地 で の さま ざ ま な製 品 の製 造 法 の記 述 が され て い る 。佐 藤 信 監 修 『食 品 の熟 成 』 [佐 藤 1984:631−653] に森 勝 美 が 「塩 辛 」 の章 を 担 当 し, 主 と して 各 種 塩 辛 の製 造 過 程 に お け る成 分 変 化 と微 生 物 の 関係 につ い て 記 述 して い る 。塩 辛 研 究 で 学位 を 取 得 した の は森 勝 美 唯 一人 で あ る こ とに , こ の分 野 へ の 学 界 の関 心 度 が象 徴 され よ う。 ほ か に論 文 を い くつ か あ げ る と [大 野 ・浅野 1968,1969・1970],
[大 野 1971},[浅 野 1973],[阿 部 ・露木 1968,1969],[中 野 1973] な ど があ る。
3) 具 体 的 論 文 名 につ いて は東 南 ア ジ アの 魚 醤 につ いて の べ る 別論 文 で 紹 介 す る 予定 で あ る。
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石毛 東 アジアの魚醤
皿 . 日 本
わ が 国 に お け る 魚 醤 は い う ま で も な く塩 辛 と魚 醤 油 (シ ョ ッ ッ ル , イ シ リ, イ カ ナ ゴ 醤 油 な ど ) で あ る 。 塩 辛 に つ い て は 周 知 の こ と も お お い の で , 古 い 習 俗 を 残 して い る と 考 え られ る 青 ケ 島 と 日 振 島 の 例 を 主 に と り あ げ る に と ど め る 。
1. 塩 辛
1981年 の統 計 に よれ ば,わ が 国 の塩 辛 の生 産 量 は約 23,800tで あ り, そ の うち の80
% 強 が イ カ の塩 辛 で 占 め られ , つ いで ウニ の 塩 辛 の 順 で あ る。 イ カ の塩 辛 の 1世 帯 あ た りの 地 区 別購 入 量 は北 海 道 が もっ と もお お く年 間 約 1.1 kg で あ る [藤 井 1983b:
263]。 単 純 計 算 を した 場 合 , 国 民 1人 あ た りの 消 費 量 は年 間 2009 に な る が, 実 際 に は成 人 男 性 に よ る酒 の サ カ ナ と して の 消 費 が お お く, 家 庭外 の 飲食 店 で の消 費 量 が た か い こと が考 え られ る。
嗜 好食 品化 した現 在 で は業 者 の製 造 した もの を購 入 す るの が 普 通 とな った が , か つ て は漁 村 に お い て の 自家 製 造 も盛 んで あ り, 日本 人 か ら塩 を入 手 す る よ う にな る以 前 に は製 塩 技 術 を もた な か った ア イ ヌ の伝 統 的食 生 活 に塩 辛 が 欠 落 して いた こ とを の ぞ くと, 沖 縄 を ふ くめ た全 土 の海 辺 で塩 辛 が製 造 さ れた もの と考 え られ る。
酒 の サ カ ナ 化 した 現 存 の 塩 辛 は ,生 鮮 食 品 に近 い性 格 を強 め, イ カ の塩 辛 の 場 合 で は発 酵 ・熟 成 期 間 が 10−14日程 度 ,加 え る塩 の量 も少 な く 6−9% に お さ え る低 塩 化 傾 向 が み られ る し, 米 コ ウ ジ, ミ リン,香 辛 料 を加 え食 味 を と と の えた 塩 辛 類 もお お い 。
しか し, か つ て は塩 辛 は,高 濃 度 の塩 分 を ふ くみ 長期 発 酵 ・熟 成 させ た 保 存 食 品 で あ り, 地 方 に よ って は重 要 な 日常 の副 食 物 で あ る と同時 に調 味 料 と して も利 用 され て き た 。 この よ うな 現 在 は忘 れ られ た塩 辛 を残 す の が伊 豆 諸 島最 南 端 の青 ケ島 で あ る4)。 1) 青 ケ 島 の 塩 辛
製 造 法 青 ケ 島 の 方 言 で は 塩 辛 を シ ュ ウ デ と よ ぶ が , そ の 語 源 は 不 明 で あ る 。 ど ん な 魚 で も シ ュ ウ デ の 原 料 と な り 得 る が , も っ と も一 般 的 な シ ュ ウ デ の 原 料 は トビ ウ オ
(ハ マ トビ ウ オ , 漁 期 : 4−5月 ) で あ る。 つ い で カ ッ オ (漁 期 :5−8月 ), ト ミ メ
(ナ メ モ ン ガ ラ , 漁 期 : 7−8.月 ), サ サ ヨ, ア ミサ (と も に イ サ ギ の 種 類 , 漁 期 :10
−6月 ) が よ く利 用 さ れ る。
体 長 10 cm 程 度 の 小 魚 な ら姿 の ま ま 漬 け 込 む と い う が , 実 際 に は小 魚 の シ ュ ウ デ 4)青 ケ 島の 塩 辛 の詳 細 につ い て は [石 毛 1985b]を 参 照 さ れた い。
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国立民族学 博物館研究報告 11巻 1号 は す くな い。 トビウ オ は骨 つ きの 輪 切 り に して 漬 け るが , トビウ オ よ り大 形 の魚 の 場 合 は 中骨 を取 りブ ッ切 りの 切 身 状 に して 漬 け る。 切 身 の大 きさ は そ の ま ま焼 魚 や 煮 つ
け に して 食 卓 に供 す る こ と が可 能 な ほ ど大 き い。
トビウ オ の シュ ウ デ づ く りの例 を記 そ う。 まず , ウ ロ コを と り, 内臓 ,頭 部 を除 去 す る。 骨 つ き の ま ま の胴 部 を輪 切 り に した もの に塩 を まぶ し,塩 が魚 肉 に じ ゅ うぶん 浸 み こむ よ う力 を入 れ て もみ こむ 。 長 期 保 存 す るた め に,塩 は魚 肉 の約 半 分 の 重 量 を 使 う とい う。 塩 もみ して か ら 1晩 置 いた の ち, カ メ に漬 け込 む が , この さ い魚 肉か ら の浸 出液 もカ メ の な か に入 れ る。 シ ュ ウデ カ メ と よば れ る瀬 戸 産 の広 口の カ メ に は 4 斗 , 5斗 , 7斗 入 りの もの が あ る。
カ メ に詰 めた 切 身 の表 面 が 白 く塩 の 層 で お お わ れ るま で塩 を散 布 す る。 ハ エ よ けの た め で あ る。 そ の上 を シバ の 葉 で お お い, さ ら に木 製 の落 し蓋 を し, 重 石 を の せ て , 冷 暗 所 に 置 く。
仕 込 ん で か ら半 年 置 いて か ら食 用 に す るの がふ つ うで あ る。 3月 に漁獲 した トビ ウ オ の シ ュ ウデ は 9月 か ら食 べ 頃 とな り, 仕 込 後半 年 か ら 1年 で 消 費 す る。 「3年 シ ュ ウデ 」 と い う こ とば が あ るが , 3年 物 にな る と臭 気 が強 くな り, う ま くな い とい う。
また , 仕 込 み 後 1カ月 く らいで ほ生 臭 く,味 が 出 て い な い とい う。 大 きな ぶ つ 切 りの 魚 肉 を原 料 とす るた め に, ア ミノ酸 の生 成 に時間 が か か るた め と考 え られ よ う。
食 べ か た シ ュ ウ デ の食 べ か た に は副 食物 と して の利 用 法 〜 調 味 料 兼 料 理 材 料 と し て の利 用 法 , も っぱ ら調 味 料 と して の利 用 法 の 3通 りが あ る。
副 食 物 と して 生 食 す る場 合 は, ぶ つ 切 りの ま ま で は大 きす ぎ るの で 箸 につ ま め る程 度 の大 き さ に切 り, シ ョウガ , ミ ョウガ , トウガ ラ シな ど の薬 味 類 を き ざん だ もの を 和 えて , こ の島 の伝 統 的 な 主 食 で あ った サ トイ モ ・サ ツ マ イ モの お か ず とす る。
調 味 料 兼 料 理 材 料 と して の 利 用 法 で は, サ ッマ イ モ ・野菜 ・魚 ・シ ュ ウデ を雑 煮 風 に煮 た く カ ンモ汁 〉 , サ トイモ と シ ュ ウデ を 一緒 に煮 た くニ シメ イ モ 〉, ム ギ ゾ ゥ ス イ に シ ュ ウ デ を入 れ た く ム ギ ジ ョウ セイ 〉な どの主 食 ・副 食 兼 用 の料 理 と, 島 に 自生 す る タ ケ ノ コ と シ ュ ウデ を煮 た く タ コ ウナ ノ ニ ツケ 〉な ど 野菜 類 と煮 る料 理 が あ る。
いず れ も, シ ュ ウ デ を一 緒 に煮 る こ と に よ って 塩 味 と うま味 を他 の料 理 素 材 につ け る 料 理 技 術 で あ る
調味 料 と して 利 用 す る場 合 は, カ メの な か か ら くみ だ した シ ュ ウデ の液 体 部 分 だ け を 味 つ け用 に使 う。 野菜 類 ・海 草 類 を シ ュ ウデ で 和 え て ,臭 い消 しに薬 味 料 を加 えた く エ ー モ ノ 〉 (和 え 物 ),〈 セ ー 〉 と い うの は シ ュ ウデ の汁 に薬 味 類 を混 ぜ て 刺 身 の つ け醤 油 と した もの の名 称 で あ る。
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石 毛 東ア ジアの魚醤
消 費 の変 遷 シ ュウ デが 調 味 料 と して よ く利 用 され た背 景 に は , この 島 に は醤 油 つ く りの 伝 統 が な く, 離 島 で あ るた め に醤 油 を購 入 す る こ と も困難 で あ った 事 情 が 考 え られ る。
調 味 料 と して の 重 要 性 の ほか ,蛋 白質 食 品 と して はた した 役 割 もお お き い。 蛋 白質 の 含 有 量 の す くな い イモ類 を常 食 と して い た この 島で は魚 を多 量 に摂 取 す る こ と に よ
って 栄 養 の バ ラ ンス が 保 た れ て きた もの と考 え られ る。 青 ケ 島 は黒 潮 のた だ なか の 好 漁 場 に位 置 す るが ,港 が な く,荒 天 が お お く, 1年 に お け る 出漁 可 能 な 日 は い ち じ る し くす くな い 。 この よ うな環 境 の 島 で シュ ウ デ は魚 の保 存 食 と して 利 用 され て きた の で あ る。
第 2次 大 戦 前 の シ ュ ウデ の消 費 量 は 島 で つ くる味 噌 よ りも おお く, 島 民 1人 1カ月 あ た り容 量 に して 1〜 2升 の シ ュ ウデ を消 費 した もの と推 定 され る。 現 在 シ ュ ゥデ の 消 費 量 はい ち じる しく減少 し, シ ュウ デ を製 造 しな い家 庭 もお お くな った 。 そ の原 因 と して は交 通 の 便 が よ くな り醤 油 が入 手 で きる よ うに な った こ と, 白米 が 常 食 化 す る よ う にな った の で イ モ類 とセ ッ トに な った シュ ウ デ の位 置が 下 落 した こ と, また , 島 内発 電 が な さ れ冷 蔵 庫 が普 及 した1972年 頃 か ら, 自給 自足 的 な 食 生 活パ タ ー ンが変 化 し冷 蔵 庫 で 保 存 した 鮮魚 や 島外 か ら もた らさ れ た 肉 な どの 蛋 白質 食 品 を ふ ん だ ん に食 べ られ る よ う にな って ,保 存 食 品 と して シ ュ ウデ を つ くる必 要 が な くな った こ とが あ げ られ る。
2) 日 振 島 の 塩 辛
愛 媛 県 宇 和 島市 の 日振 島 は豊 後 水 道 の た だ な か に位 置 す る漁 村 で あ る。 昭和 20年 代 中 頃 ま で は , 和 船 を使 用 した イ ワ シ の大 敷 網 漁 業 が盛 ん で あ った。 無 動 力 の和 船 で の 漁業 で あ った の で ,荒 天 の続 く11月 か ら 3月 まで は 「冬 ご も り」 とい って休 漁 期 で 鮮 魚 が入 手 しづ ら く,干 魚 , 煮 干 し, 塩 辛 が この 期 間 の 副 食物 で あ った。 こ こで は, 塩 辛 は シ オ カ ラ と い う名 称 で よば れ て い た。
ホ ウ タ レと よ ば れ るカ タ クチ イ ワ シが 塩 辛 の原 料 とさ れ,体 長 15−18cm 程 度 の も の で つ くる の が美 味 で あ る と いわ れ る。 魚 に混 ぜ る塩 の 量 は重 量 比 に換算 す る と 25− 40% まで の 例 が あ り, 家 庭 に よ って こ とな って い た。 1斗 樽 あ る い は 4斗 入 りの 酒 樽 に漬 け込 み , 重 石 を して お く。秋 に塩 辛 を漬 け込 み , 1カ月 以 上 熟 成 して か ら食 べ は
じめ る。
人 々の 記 憶 に残 って い る昭和 20年 代 前 半 の時 期 にお いて は, 1戸 あ た り 2斗 の塩 辛 を 漬 け込 む の が ふ つ うで あ り,人 々に食 事 を ふ るま う ことの お お い 網 元 の 家 庭 で は16
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国立民族学博物館研究報告 11巻 1号 斗 漬 け込 ん だ とい う。 昭和 24年 にお け る 日振 島 の 1戸 あた りの 平 均 家 族 数 が 約 5人 で あ るの で , 1戸 あ た り 2斗 の塩 辛 を つ くり, そ れ を冬 期 の 4カ月 で 消 費 す る と仮 定 す る と, 1人 1カ月 あ た りの消 費 量 は 1升 と い う こ と にな る (塩 辛 は冬 の保 存 食 で あ り,
鮮 魚 の 得 られ る季 節 に は食 べ な か った と い う)。
生 食 が 主 で ,生 大根 の輪 切 りの う え に塩 辛 を の せ て ,飯 の副 食 物 お よび 酒 の サ カ ナ に用 いた 。 塩 辛 に水 を 加 え て煮 て食 べ る こ と もあ った が , そ の さい 野菜 な ど他 の 食 物 を混 ぜ て 煮 る こ と はな か った。
昭和 20年 代 後 半 か ら動 力 船 が導 入 さ れ ,冬 に も鮮 魚 が 得 られ る よ うに な り, また 網 漁 業 の対 象 が イ ワ シか らア ジ に切 り替 え られ た の で塩 辛 の製 造 は しな い よ う にな り,
現 在 で は塩 辛 つ くりを す る家 庭 は な い。
3) 塩 辛 の 歴 史
青 ケ 島 や 日振 島で の例 を考 え る と, わ が 国 各地 で か つ て塩 辛 は重 要 な 保 存 食 品 と し て の 役 割 を に な って いた もの と推 定 され るが , 民 衆 の食 生 活 は記 録 に と どめ られ る こ
とが す くな く, ま して 歴 史 的 文 献 に は断 片 的 な 資 料 しか あ らわ れ な い。
わ が 国 にお け る塩 辛 類 の文 献 的 初 出 と して は藤 原京 (A.D.694−710) 跡 出 土 の木 簡 に卿 醗 の文 字 が読 み とれ る。 『和 名類 聚 紗 』 (A.D.931−938)で は醸 を音 で カ イ,
訓 で シ シ ヒ シホ と し, これ を 「肉醤 也 」 と説 明 す る。 した が って鱒 醗 は大 和 こ とば で は フ ナ ノ シ シ ビ シオ あ るい はフ ナ ノ ヒ シオ と読 む もの と解 され る。 つ い で 『令 義解 』
(A.D.833)職 員 令 大 膳 職 に酩薙 の文 字 が あ らわ れ , そ の注 に 「肉醤 日・酷 。 酷 菜 日 ・ 萢 也 。」 と説 明 して い る。 『延 喜 式 』 (A.D.927)に は鹿 醜 ,免酩 ,宍 臨 ,魚醸 ,醸 醜 5》 の 名 称 が あ らわ れ る。 古 代 にお いて は魚 ばか りで な く獣 肉 を原 料 と した塩 辛 様 の製 品
が存 在 した の で あ る。
で は ,醜 と は なん で あ るか 。 後代 にな ξ と塩 辛 あ る い は鰯 夷 (ナ シモ ノ) とい う名 称 が一 般 的 に な り,醜 の 文 字 を 書 くの は漢 字 に通 じた ペ ダ ン トリーの 筆 者 にか ぎ られ ,
そ の場 合 も醗 の文 字 をふ つ うの 塩 辛 を さす もの と して 使 用 して い る6)しか し, の ち に 中 国 の魚 醤 の説 明 で の べ る よ う に,酷 の 文 字 の 中 国 に お け る も と も との意 味 は単 な る 塩 辛 で は な く,本 来 は 肉 を材 料 と し, 転 じて魚 を も材 料 とす る が , これ らの 材 料 に塩
ば か りで は な くコ ゥ ジ を加 えて 発 酵 させ た 製 品 の こ とで あ る。
『延 喜式 』 で は ,太 宰 府 の年 料 に宍臨 が 出現 す る ほか は,臨 の文 字 を付 した 製 品 が 5) 宍臨 は獣 肉を原 料 と した 臨 ,醸 醸 の実 態 は 不 明 。
6) た と え ば 『和 漢三 才 図会 』 (A・D・1712)で は , カ ツ オ の タタ キ を鰹 醗 と書 き, ア ミの 塩 辛 の 製造 法 の 記 述 に 「醗 二作 ル 」 と表 現 して い る 。
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石毛 東 アジアの魚醤
で て くる の は大 学 寮 の 釈 莫 , 大膳 上 の 釈莫 祭 料 の項 に か ぎ られて い る。 釈 莫 と い う孔 子 とそ の十 哲 を祭 る儒 教 の 儀 式 に供 え られ た 食 品 で あ る臨 は , 当 時 の宮 廷 に お け る 中 国文 明 に関 す る知 識 の高 さか ら推 論 す れ ば , コ ウ ジを 加 え た 中 国式 の製 法 の もので あ った 可 能 性 が 高 い。
た だ し 『延 喜 式 』 の時 代 に コ ウ ジを 加 え な いで 製 造 す るふ つ うの塩 辛 食 品 の記 載 が な か った わ けで は な い。 鮭 背 腸 , 腸 漬 鰻 が 『延 喜 式 』に あ らわ れ る。 鮭 背 腸 (サ ケ ノ セ ワタ)は現 在 北 海 道 ・東 北 で 製造 さ れ るメ フ ン,腸 漬 鰻 (ワ タヅ ケ ノア ワ ビ)は 『本 朝 食 鑑 』 (A.D.1699)の鰻 の 項 に 「肉 を 切 り, 腸 を 割 き, 塩 に和 して ,醤 に作 る」 と 記 され た ア ワ ビの 肉 とワ タ を一 緒 に漬 けた 塩 辛 とお な じもの で あ ろ う。
つ い で な が ら, 『延 喜 式 』 に あ らわ れ る鯛 醤 , 鯖 醤 , 醤 鮒 ,醤 鰻 , 醤 小 鰯 は従来 魚 醤 と考 え られ て い た が , そ の うち ,鯛 醤 ,鯖 醤 は そ れぞ れ タ イ ノ ヒシオ , サバ ノ ヒ シ オ と読 み ,塩 辛状 の食 品 と考 え る こ と も可 能 で あ ろ う。 しか し, 大 膳 下 の 醤鰻 料 に原 料 と して ア ワ ビ,塩 , 津醤 の分 量 が記 さ れて い る ことか ら判 断 す る と, 醤 鰻 は現 代 風 に いえ ば 塩 を した ア ワ ビの ヒ シオ漬 け に あ た る もので あ り, 醤 鮒 , 醤 小 鰯 も同 類 の 製 品 で 塩 辛 類 か ら除 外 され るべ き もの で あ る7)。
今 日な じみ の あ る塩 辛 の文 字 の 初 出 は 『今 昔物 語 集』 (A.D.12世 紀 初 頭 ) 巻 28,
越 前 守 為 盛 付 六衛 官 人語 第 五 に あ らわ れ る 「鰺 ノ塩 辛 」 に もと め られ る。
くだ って , 16世 紀 後 半 に 日本 に滞 在 した ポ ル トガ ル人 宣 教 師 ル イ ス ・フ ロ イス はポ ル トガ ル の 習 俗 と比 較 して , 「わ れ らにお いて は, 魚 の 腐 敗 した 臓 物 は嫌 悪 す べ き も
サカナ
の と さ れ る 。 日 本 人 は そ れ を 肴 と し て 用 い , 非 常 に 喜 ぶ 。」 [松 田 ・ヨ リ ッ セ ン 1983:
42] と , 室 町 時 代 に は 魚 の 内 臓 製 の 塩 辛 が 好 ま れ た こ と を 記 録 し て い る。
江 戸 時 代 の 文 献 に は現 在 も愛 好 さ れ て い る イ カ , カ ッ オ , ア ミ, ウ ニ の 塩 辛 , コ ノ ワ タ , ウ ル カ 等 が 記 さ れ , こ れ ら の 有 名 な 塩 辛 類 は 都 市 の 生 活 に お い て は 保 存 食 品 と い う よ り は す で に珍 味 化 し て い た こ と が わ か る 8》。 い っ ぽ う , 獣 肉 食 の 忌 避 の 徹 底 し た 江 戸 時 代 に は 獣 肉 を 原 料 と し た 塩 辛 類 は 忘 れ ら れ た 食 品 と な っ た 。
r料 理 山 海 郷 』 (A ,D .1749) の 鍛 塩 辛 の 項 で ア ミ に塩 と コ ウ ジ を 加 え て 塩 辛 を 作 成 す る 方 法 が 記 さ れ て い る よ う に , コ ゥ ジ を 加 え た 製 品 も江 戸 時 代 に は 塩 辛 の レパ ー 7) 『延 喜式 』 の醤 とは大 豆 , 塩 , 米 酒 , モ チ米 な どを原 料 と して 発酵 させ た 植 物性 の ヒシオ で あ り, 津 醤 は カ スの 多少 混 じった 醤 , あ るい は醤 を つ くる さい 酒 の かわ りに 酒 粕 を使 用 した も ので あ る と考 え られ て い る [関根 1969:197ユ。
8) た とえ ば 幕 末 に記 され た 『机 苑 日渉 』 [村 瀬 1927] に は 「魚 醤」 の項 に備 前 の ア ミの塩 辛 , 越 前 , 対 馬 の ウニ の塩 辛 ,小 田原 の ア ワ ビの塩 辛 , 阿波 の カ ツオ の塩 辛 , 越 前 の イカ の黒 造 り,
産 地 記 載 の な い ナ マ コの腸 の塩 辛 (コノ ワタ) が 記 さ れ てお り,地 方 名産 品 と して珍 味化 して いた こ とが うかが え る。
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国立民族学博物館研究報告 11巻 1号 トリー に入 れ られ て い る。
しか しな が ら, 民 衆 の 日常 の食 事 に塩 辛 の 占 めた 位 置 や , 消 費 量 な どに つ い て 明 ら か にす る こ との で き る歴 史 的文 献 資 料 は な い。
2. 魚 醤 油
1894年 に完 成 した 『日本 水 産 製 品誌 』 に は , この 時 代 にお け る全 国 の水 産 加 工 食 品
イカナゴ
が 網 羅 され て い る。 この 文 献 に記 録 さ れ た魚 醤 油 に は讃 岐 国 ・下 総 国の玉 筋 魚 醤 油 ,
イワシ ヒシコノ
能 登 国 ・石 見 国の 鯉 醤 油 , 生 産地 の記 載 の な い鰻 醤 油 , 山陰 ・北 陸 の漁 村 で 製 造 す る
サバワタ
と い う鯖 腸 醤 油 , 能 登 国を 発 生 地 と して佐 渡 ・渡 島 で も製 造 す る よ う にな った とい う
イ カ ワ タ
鳥 賊 腹 醤 油 で あ り, な ぜ か 秋 田 の シ ョッ ツル につ い て の記 述 は な い [農 商務 省水 産 局 1913:403−410]◎
これ らの お お くは消 滅 して しま い, 現 在 も製 造 を続 け て い るの は秋 田 の シ ョ ッツ ル と奥 能 登 の イ シ リだ けで あ る。 この 2例 に比 較 的 あ た ら しい 時代 ま で製 造 が続 いて い た香 川 の イ カ ナ ゴ醤 油 の例 を加 えて 報 告 す る9)。
1) シ ョ ッ ツ ル
約 50年 ほ ど前 は秋 田市 周辺 の海 岸 部 のお お くの 家 庭 で シ ョ ッツ ル を 自家 製 造 して い た と い うが , 現 在 で は 自家製 の シ ョ ッツ ルつ くりを す る家 庭 は きわ め てす くな く, ほ か に家 内工 業 的 な小 規 模 の加 工 業 者 が数 軒 あ るだ けで , シ ョ ッツル の 年 間 生 産 量 は 2,000 kl程 度 と推 定 さ れ て い る [中 野 1973:23]。 シ ョ ッツ ル の原 料 魚 と して はハ
タハ タが 有 名 で あ るが , 古 くは マ イ ワ シを利 用 して いた と い う説 もあ る。
自家 製 シ ョッ ツ ル 男 鹿 市 北 浦 の漁 家 に お け る 自家 製 シ ョ ッツル の 製 造 過 程 を記 し て み よ う (図 2参 照 )。 12月 に漁 獲 さ れ るハ タハ タを 原 料 と し, 頭 , 内臓 ,尾 を除 去
図 2 男 鹿 半 島 北 浦 で の 自家 製 ハ タハ タの シ ョ ッツ ル製 造 過程
9) 本 論文 の脱稿 後, 函 館 の あ る塩 辛 業 者 が イカ の肝 臓 を 原料 とす る魚 醤 油 を製 造 して い る と の 情 報 を得 た が , 詳細 は不 明 で あ る 。
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石毛 東 ア ジアの魚醤
し, 洗 浄 後 1昼 夜 放 置 して水 切 りをす る。 魚 体 処 理 を す る以 前 の ハ タ ハ タ の トロ箱 1 杯 (10−11 kg) にた い して , コウ ジ 1斤 強 ,塩 1斤 を混 合 し, ズ ン ドウオ ケ とよ ばれ る木 製 の 桶 に入 れ , 落 し蓋 を した うえ に重 石 を のせ , 冷 暗 所 に 3年 間 置 いて発 酵 ・熟 成 させ る。 熟 成 後 , 布 を 用 い て濾 過 した液 体 を煮 沸 し, グ ル タ ミ ン酸 ソ ーダ を 混合 し て か ら, ビ ール ・ビ ンに つ め て保 存 す る。
この 家 で は コ ウナ ゴを 原料 魚 と して シ ョ ッッ ル を製 造 す る こ と も あ るが , その さい に は頭 , 内臓 ,尾 を除 去 す る こ とな く,全 魚体 を漬 け こみ ,発 酵 ・熟 成 期 間 は 1年 間 で あ る。 コウ ジ を加 え るの は風 味 を よ くす るた め と説 明 さ れ る が , コ ウ ジ を加 えず に 製 造 す る家 庭 もあ る。
業 者製 造 の シ ョッツ ル 工 場 で 業 者 が 生 産 す る場 合 は漁獲 量 が す くな くな ったハ タ ハ タ の ほか に , オ オバ イ ワ シ, セ グ ロ イ ワ シ, 小 ア ジな ど も原 料 魚 と して混 合 さ れ る。
ま た ,色 を よ くす るた め に ア ミを 原 料 魚 の 20% 程 度 加 え る業 者 もあ る。
業 者 の お お く は製 法 を非 公 開 に して い るた め に, こ こで は [藤 井 ・小 沢 1980] の 報 告 に よ るあ る業 者 の例 を参 考 に しな が ら (筆 者 は 同 じ業 者 の工 場 を 見 学 して い る)
紹 介 す る (図 3)。 この 場 合 は原 料 魚 を姿 の ま ま20% 程 度 の塩 (一 番 塩 )を して , 1週 間 タ ンクか桶 に入 れ て お く。 この さ い生 じる赤 つ ゆ と称 す る浸 出 液 が 生 臭 く, 製 品 の 食 味 低 下 の 原 因 とな る とさ れ ,赤 つ ゆ を と りわ けて 煮 沸 , 濾 過 す る こ と に よ って臭 気 と熱 凝 固性 の物 質 を と りの ぞ い て か ら,二 番 塩 を した魚 体 に もど し, 落 し蓋 , 重 石 を
図 3 業 者 に よ る シ ョ ッツル製 造 過 程 ([藤 井 ・小 沢 1980] か ら)
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国立民族学博物館研究報告 11巻 1号 し 1年 以 上 , 3年 程度 発 酵 ・熟 成 させ る。 つ いで ,液 体 と魚 体 を大 釜 で 煮 沸 し, 浮 き あが った 油 分 を 除 去 して か ら,海 砂 を通 して 濾 過 し, 2合 〜 1升 ビ ンにボ トリ ング し て 出 荷 す る。
2) イ シ リ
現在 ,能 登 半 島で 魚 醤 油 の 製 造 と消 費 が お こな わ れ るの は能 都 町 と門 前 町以 北 の い わ ゆ る奥能 登 地 方 にか ぎ られ る。 名称 は場 所 に よ って ことな り, イ シ リ, イ シル , エ シル , エ シ リ, ヨシル , ヨ シ リと よば れ る。
1955年 頃 まで は奥能 登 地 方 の漁 家 で は 自家 消 費 用 の イ シ リを製 造 した が ,現 在 で は 10数 軒 の 業 者 が 生 産 す るの み で あ り, これ らの 業 者 も網 元 や魚 問屋 の副 業 や他 の水 産 加 工 品 製 造業 者 が片 手 間 に イ シ リ製 造 に した が う もの で ,産 額 は す くな く,年 間 20 kl 程 度 と いわ れ る。
原 料 魚 はス ル メ イ カ の肝 臓 , マ イ ワ シ, ウル メ イ ワ シ, ビ ンサバ , ア ジ な どで あ る が ,他 の水 産 加 工 品 の副 産 物 と して イ シ リつ く りが お こな わ れて い るの で , 頭 部 や 内 臓 の み を原 料 とす る こと がお お い。 か つ て , 自 家 消費 用 に生 産 して いた 頃 は原 料 と し て魚 体 全 体 を利 用 した イ シ リが お お か った よ うで あ る。
魚 の頭 ・内臓 の イ シ リ 輪 島 市 で イ ワ シ, サバ の糠 漬 け を製 造 す る加 工 業 者 が 副業 と して イ シ リを つ くる方 法 で あ る。 糠 漬 け の副 産 物 と して 生 じた頭 , 内臓 を原 料 とす る。 マ イ ワ シが 原 料 に最適 で , ウル メ イ ワ シで イ シ リを 製 造 す る とで きあ が った 液 体 が 黒 ず む とい う。 切 り落 した頭 , 内臓 に重 量 比 で 25−30% の塩 を もみ こむ 。 以 前 は35
% の 塩 を 使 用 して い た が ,塩 分 を減 らす と最 終 製 品 の苦 味 が減 じ る こ とがわ か り, 現 在 の塩 の 量 に 落 ちつ い た と い う。 25% 以 下 で は腐 敗 す る危 険 が あ る と い う。
塩 を して 1週 間 仮 漬 け を した の ち, 1石 入 りの 味噌 樽 に うつ し, 翌 日撹 梓 して か ら1 落 し蓋 ・重 石 はせ ず 上 に ビ ニ ー ル をか けて お く。 ビニ ー ル ・シー トは雨 水 な どが 樽 に 入 り こむ の を 防 ぐた めで あ り, 水 が 入 る と腐 敗 す る とい う。 イ ワ シを 原 料 と した 場合
は夏 期 を は さ む場 合 5カ月 で 出荷 可 能 とな るが ,風 味 の よ い もの を 生 産 す る に は12カ 月 熟 成 させ る こ とが 望 ま しい。 2年 物 に な る と魚 肉 ・内臓 は溶 け て骨 だ け が残 った状 態 に な る。
熟 成 後 , 樽 の下 部 の栓 を ぬ き液 体 を した た らせ て 集 め る。 これ を煮 沸 し,表 面 に浮 き あが った オ リを す く って捨 て る。 つ いで , 海 砂 を 底 に入 れ た樽 に うつ して濾 過 を し た の ち, ボ トリング を して 出荷 す る。 か つ て は, 仕 込 み樽 お よ び濾 過 用 の樽 に残 った 魚 粕 は天 日 で乾 燥 して , カ マ ス につ めて 魚 肥 と して 農 家 の米 と交 換 して いた 。 イ ワ シの イ シ リ 門 前 町 の水 産 加 工 業 者 が イ ワ シの魚 体全 部 を利 用 して つ くる方 法
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石毛 東 アジアの魚 醤
図 4 輪 島市 の 業者 に よ る魚 の 頭 ・内臓 製 の イ シ リの製 造 過 程
で あ り, 基 本 的 に は頭 ・内臓 利 用 の イ シ リ製 造 法 とお な じで あ る。 マ イ ワ シ, ウル メ イ ワ シ を数 セ ンチの 長 さの ぶ つ 切 り に し,塩 を 混ぜ る。 塩 の量 は カ ンで きめ るが , 漬 け込 ん で か ら比 重 計 で 計 り, 塩 分 濃度 が 24。B6以 上 に な る よ う調 節 す る。 そ れ 以 下 で は最 後 製 品 の 色 が に ご り,悪 臭 が す る よ うに な る とい う。 仕 込 み に さ い して 風 味 を 増 す た め に, ご く少 量 の コ ゥ ジ と酒 粕 を加 え る。
桶 に入 れ て 約 8−9カ月 発 酵 ・熟 成 させ た の ち,織 り目 の サ イズ の こ とな る布 を 用 い て 3度 濾 過 を して か ら, 品 質 の よい もの はそ の ま ま ,傷 ん だ もの は火 入 れ を し, ボ ト
リ ング を して 出 荷 す る。
一 番 しぼ りを と った の ちの魚 粕 の残 る仕 込 み桶 に塩 水 ,塩 サバ , 煮 干 しを 加 え て 二 番 しぼ りを つ く る。 と き ど き撹 拝 して ,夏 は 2カ月 , そ の他 の 季 節 に は 3カ 月 で 二番 しぼ りが で きあ が る。 二 番 しぼ りは火 入 れ を お こなわ な い。 調 味 料 と して 出 荷 せ ず , この工 場 の 名物 で あ る魚 の イ シ リ漬 け原 料 とす る。 す なわ ち, 二 番 しぽ り に醤 油 を 加 えて , ア ジ, カ マ ス , ハ タ ハ タ , イ カ な ど を浸 け た の ち一 夜 干 しに加 工 す るの で あ る。
イ カの肝 臓 の イ シ リ 内 浦 町 はス ル メ の加 工 地 で あ り, ス ル メ製 造 の さ いの 副 産物 で あ る イカ の 内臓 で イ シ リを つ く って い た場 所 で あ る。 この町 の 業 者 は, 現 在 で は富 山 で イ カ の 黒作 り塩 辛 製 造 の さ い の廃 棄 物 と して 生 じた スル メィ カ の 肝臓 部分 を冷 凍
して 運 ん で きて原 料 と して い る。
製 造 方 法 は 図 4に しめ した もの と ま った く同 じで あ るが ,容 器 と して 400e入 りの プ ラス チ ッ ク ・タ ン クを使 用 して い る。 この タ ンク に 330 eの半 解 凍 の イ カ の肝 臓 を 入 れ , そ れ に 80kg の塩 を混 合 す る。 11月 後 半 か ら 3月 にか けて の 冬 季 に 仕 込 み , 月 1−2度 撹 拝 し, 17−18カ月 間 発 酵 ・熟 成 させ て か ら出荷 す る。 イ カ 独特 の 甘 味 と匂 い が あ る製 品 で あ る。
3) イ カ ナ ゴ 醤 油
現 在 , イ カナ ゴ醤 油 の製 造 はな され な いが , 香 川 大 学 農 学 部 の真 部 正 敏 博 士 が筆 者 の た め にか つ て イ カ ナ ゴ醤 油 を製 造 して いた 香 川 県 庵 治 町 の業 者 か ら聞 き と って くれ
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