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精神遅滞児の身体運動模倣の発達 ― 身体像との関 連 ―
著者 田辺 正友, 田村 浩子
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 24
ページ 11‑17
発行年 1988‑03‑01
その他のタイトル Development of Ability to Imitate Others' Movements in Mentally Retarded Children : In Relation to the Body Image
URL http://hdl.handle.net/10105/6656
精神遅滞児の身体運動模倣の発達*
一身体像との関連一
田辺正友・田村浩子**
(障害児学教室)
要旨:本研究は、精神遅滞児の運動機能、運動能力の遅れのメカニズムを明ら かにしようとしてなされた一連の分析的研究の一つであ乱本稿では・身体運 動模倣能力の発達を、人物描画における身体像の形成との関連に着目して検討 することを目的とした。DAM得点と身体模倣得点との間に有意な相関が示さ れ、自己の身体像の形成と他者の身体運動動作を模倣する能力の獲得との間に 一定の関連があることが示唆された。
キーワード:身体運動模倣、人物描画、身体像の形成
本研究は、精神遅滞児の運動機能・能力の遅れのメカニズムを明らかにしようとして計画した 一連の分析的研究の一つであ孔本稿では・精神遅滞児の身体運動模倣能力の発達を・人物描画
における身体像の形成との関連から分析を試みるものである。
筆者らは、これまでに精神遅滞児の運動機能、運動能力の発達を、発達における機能連関の視 点に立って分析した一連の実験的研究を行ってきた(田辺、1985;田辺・田村・小出、1986;田 辺・田村・桑田、1986;田辺・田村・岡本、1986;田辺・田村・中川、1987)。その結果、精神 遅滞児の運動機能・能力の発達には、他の諸機能の発達やさまざまな要因が関連し合っているこ とが示唆された。そして、先の研究(田辺・田村、1988)では、子どもたちが新しい運動動作を つくりあげていく過程においては、他者の身体運動動作の模倣が一つの重要な要因をなしている との視点に立って、身体運動模倣の発達の問題をとり上げた。身体連動模倣能力の獲得時期を、
その時期の他の行動特性と関連させて検討した結果、身体運動模倣における、対称性の2次元の 並列構成→非対称性の2次元の並列構成→対称性の2次元の系列構成→非対称性の2次元の系列 構成といった発達的順序性の仮説的提起がなされた。しかし、身体連動模倣は、視覚的入力から 運動出力の一連の過程であって、そこには、非言語性の入力である身体運動動作を自己の内部で 言語性に変換する処理過程や身体像の形成の問題など関連していることを指摘した。
* Deve1opment of Abi1ity to Imitate Others Movements in Menta11y Retarded Children:In Re1ation七〇七he Body Image
**@Masatomo Tanabe and Hiroko Tamura(Dψαr士肌e枕0ゾD幼eα0ZOgツ,Mαrα」σπωe「8北ツ 0ゾ肋〃Cα亡三0π,Mαrα)
身体像とは、心の中に形づくられる自己の身体の一部または全体に対する主観的な像を意味す る。身体像に関する研究は、精神医学、一神経学、心理学など幅広い領域で研究されてきた。近年 においては、障害児といわれる子どもたちは、その障害からみて何らかの身体像の遅れ、あるい は、ゆがみをもっているといった視点から、障害児教育の分野においても身体像の概念の重要性 が指摘され始めている。Schilder(1964)やFrostig(1970)らも、身体像は運動の開始や 運動発達にとって不可欠なものであると指摘している。さらに、Kephart(1960)は、「われわ れの身体外部にある対象の空間的相互関係のすべての原点となるのは身体像である」と述べてい るように、身体像によって空間の方位あるいは定位がなされ、外界の事像に対して合目的的行動 がなされるのである。したがって、自己の身体に対する認識の分化とともに、子どもは外界に対 する認識を深めていくといえる。Goman(1969)も、「身体像は視覚的プールと経験的プール
との相互作用によって形成される。したがって、身体像は可塑的で力動的な総体である」と指摘 しているように、身体像の形成の問題は、子どもの全体的な発達と深くかかわる問題であるとい え乱筆者らは先の研究(田辺・田村、ユ987)において、こうした身体像の発達を、子どもたち が描く人物描画によってとらえ得ることを明らかにした。
そこで、本研究では、筆者らのこれまでの結果をふまえて精神遅滞児の身体運動模倣の発達を Goodenoughの人物描画(DAM:Draw−A−Man Test)に描出される身体像の形成との関連 についての検討を試みた。
方 法
1.対象児
本研究は、筆者らが参加している障害児体育教室における活動の一環としてなされたものであ るが、本稿での対象児は、課題の性質上とくに四肢に顕著な麻痺のみられる児童・生徒を除いた 14名の精神遅滞児(Down症児・自閉的傾向児を含む)であった。その内訳は・Tab1e玉に示す とおりである。
Tab1e1 対象児の身体運動模倣得点およびDAM得点
姿 勢 模 倣
児Nα性別DACA 上肢下肢手指止肢十瑞上肢÷砿合計 上肢 下肢 手指令 計動作模倣 DAM
バ バ バ バ パλ5 /1 /1 /;カ7 /o
1女2:1012=1 8 7 3 3 526(58) 4 5 2n(41) 11(22)
2女2:1111:1 9 8 7 6 636(80) 8 5 417(63) 11(22)
3女3:08:5 8 7 7 6 432(71) 6 6 416(59) 13(26)
4女3:38=O 8 7 4 3 426(58) 6 6 416(59) 10(20)
5女3:48:6 8 8 5 6 431(69) 6 6 517(63) 14(28)
6女3:68=3 9 9 7 6 435(78) 5 6 516(59) 9(18)
7男3:116=6 9 9 5 6 736(80) 8 7 621(78) 17(34)
8女4:78:3 8 7 6 9 636(80) 9 7 521(78) 17(34)
9男5:09:2 9 9 7 7 840(89) 8 8 622(82) 30(60)
1O女5:610:11 9 8 7 6 737(82) 9 8 724(89) 26(52)
11男6:58:11 9 9 8 9 944(98) 9 9 725(93) 20(40)
工2男7:011=7 9 9 9 9 945(1O) 9 9 927(10) 35(70)
13男7:59二2 9 9 8 9 944(98) 9 9 826(96) 20(40)
14女7=612=2 9 9 7 8 942(93) 9 9 725(93) 33(66)
注)()は、達成率%一冬談魎の得点のそれぞれの満点に対する百分率
2.評価課題およびその実施・評価手続
(1)身体運動模倣課題 身体運動模倣課題として、Fig.1に示す姿勢模倣課題(15項目)と、
その姿勢模倣課題での姿勢の組み合わせから成る動作模倣課題(9項目)とを設定した。課 題の実施手続は、田辺・田村・小出(1986)に同じであった。.評価は、各課題・項目ともA,
B,C,Dの4段階とした。4段階の評価基準は以下の通りである。A:模倣の際に、左右 の上肢、下肢、手指などの操作が同時にでき(以下、同時操作という)、また、正確にでき る。B:同時操作はできるが正確さに欠ける、または、正確にはできるが同時操作ではない。
C:正確さに大きく欠ける。D:できない。
12〕DAM 14名の対象児全員にDAMを実施した。描画用紙は、DAM記録用紙が使用され た。DAMの実施・評価手続は、小林・小野(1977)の方法に従った。
なお・身体運動模倣課題およびDAMの評価にあたっては・2名の評価者が別個に評価し たが、評価に際して両者間に大きな差異は認められなかった。不一致の項目については、協 議して再度評価を行なった。発達年齢(DA)は、新版K式発達検査によって算出された。
練習課題 1 3〕
1.上
十
吾 千 界1姿
2.下肢 リ J 通
勢模倣課
3.手指 ↓↓ ↓● 6、 イン
4上肢と手指 紛 ●8
の協応動{
題
5.上肢と下肢
フ協応動作
士
タ 赤 垂■動
1.上肢 6一千 千二番 平ご希 千二洛
作模倣課題
2.下肢 加刃 加φ 』一』 べ
3.手指・.一◆◆ .一 亡 二 ● 6∴二^ 6↓二〃
注)動作模倣諜魍は、1回の往復を1つの動作とみなす。
Fig.1 身体運動模倣課題
結果と考察
対象児の発達年齢(DA)、生活年齢(CA)およびDAM得点、身体運動模倣課題における 律点をTab1e1に示した。なお、身体運動模倣課題についてはA,B,C,Dの評価をそれぞ れ3,2,1,O点と得点化して処理した。したがって、各課題における満点は、姿勢模倣課題 では45点、動作模倣課題では27点となる。また、DAMの満点は50点である。
まず、全対象児のDAM得点と姿勢模倣および動作模倣課題との相関係数(Pearsonの係数)
を求めたところ、それぞれr=.739,r=、817と有意な相関が認められた。全体的傾向として、
DAM得点が高くなるにつれて姿勢模倣・動作模倣両課題での得点の増大がみられ、身体運動模 倣能力とDAMとの間に一定の関連があることが示唆される。
次に、描出された身体像と身体運動模倣能力との関連性について検討を試みたい。先の筆者ら の人物描画における身体像の発達について分析した研究(田辺・田村・1987)において・「眼・
口・鼻」、「頭部」、「胸部」、「脚部」、「胴部」といったいずれの身体部位においても、全体的にみ て2次元形成期および2次元可逆操作期では人物の部分に関する項目の描出であって、3次元形 成期からその部分の明細化、各部分と部分の比率・位置関係が描出され、3次元可逆操作期に至っ てそれらの巧緻性が増大していくといった傾向が示された。そして、そこには、部分的人間像か
ら全体的にまとまった人間像へと発達していく過程が示された。Fig.2にその一例を示したよ うに、本研究でのDAM得点の低い児Nα1〜児Nα6の人物画においては、全身像は描かれている ものの、その身体像は眼、口、鼻、頭、腕、卿といった基本的な人物の部分の組み合わせから成 るもので、それも顔を中心とした頭部描写が主となっている。それらの人物の各部分と部分の位 置関係は不明確で、各部分間の比率に関する項目の描出はまだみられていない。
児Nα2 児Nα3 児Nα4
ぴ 、R10 仁
ρ σI α
児Nα5 児Nα6
一 .
○ビD 向1
o
Fig.2人 物
ところで、姿勢模倣課題は、検査者の身体および身体活動を視で演示された姿勢と.同じ姿勢を とることが要求される課題であるが、検査者は対象児が動作を遂行している間中演示を続けた。
一方、動作模倣課題では、一連の動作の見本の演示が終了した後に動作を開始することが求めら れた。この動作模倣課題は、姿勢模倣課題での姿勢の連続した動作であって、姿勢模倣課題に比 して時間的・空間的関係の認知が要求される課題であるといえる。児Nα1〜児Nα6の対象児の身 体運動模倣課題をみると、他の対象児に比して姿勢・動作模倣の両課題とも達成率が低いか(児 Nα1,4)あるいは、姿勢模倣の達成率は高くても動作模倣の達成率が低い(児Nα2,3,6)
といった特徴がみられる。こうした動作模倣における弱さは、DeMyerら(DeMyer,M.K.et a1.,1972;DeMyer,M.K.et a1.,1974;DeMyer,M.K.,1975)は、自閉症候群児にも 示されることを明らかにしている。さらに、これらの対象児においては、姿勢模倣課題の上肢お よび下肢の模倣課題はほぼ達成されているが、上肢と下肢、上肢と手指の協応動作課題ではその 達成率が低く、その遂行は、上肢と下肢あるいは手指を同時操作として模倣するのではなく、ま ず上肢(あるいは下肢)を模倣し次に下肢(上肢)を模倣するといった・いわば部分と部分の
「たし算」の結果として達成されるといった傾向が強くみられる。
人物描画において描出される身体像が、基本的な人物の部分の組み合わせであって、それらの 部分間の比率・割合の描出がみられず、全体的なバランスに欠ける対象児にあっては、その姿勢 模倣での協応動作課題や動作模倣課題の達成にみられるように、課題の全過程を見通しながら各 要素動作闇の関係をイメージ化し・それを自己の身体上で一つの運動過程へとまとめあげること が困難なようである。
精神遅滞児の運動機能に遅れあるいは障害がみられることは多くの研究で指摘されている
(Bruininks,1974;笠巻,1972;小林・松瀬、1984;小宮,1970;・Ma1pass,1963)が、各種 運動機能や運動能力の実態を把握するとともに、これらの連動機能・能力の発達にどのように要 因が関与していいるのかが検討されなければならない。その際、脳性麻痺児の身体意識の発達と 移動能力との関連を人物画によって調査し、両者闇に高い相関があることを見い出した七木田・
小林(1985)の研究や運動姿勢描画の発達と自己の身体意識の分化との関連性を示唆した藤本
(1979)の研究とも合わせて考えてみると、身体像の形成といった観点からのアプローチも一つ の重要な手掛かりを与えてくれるものと考えられる。姿勢模倣の上肢・下肢課題のような単純な 反復動作は巧妙に遂行することができるが、姿勢模倣の協応課題や動作模倣課題のようなやや複 雑な動作ではほとんど動けないといった子どもがいた。そのようすをみていると、自己の身体の どの部分をどのように動かせぱよいかがわからないようにみえることがあった。要素動作の連動 能力がそなわっていても、それらを有機的に組み合わせて一つの運動動作にまとめあげるために は、自己の身体のどの部位をどう操作すれぱよいのかといった自己の身体像の形成・確立も一つ の要因として重要な役割を果たしていると考えられる。山崎(1981)は、こうした身体像の障害 が、洗面、洗髪、入浴中の洗身といった日當生活動作にも影響を及ぼすものであることを指摘し ている。
筆者らの先の研究からも運動機能・能力の発達には、視知覚機能の発達(田辺、1985)、身体
活動・運動動作の模倣能力(田辺・田村・小出、1986;田辺・田村・桑田、1986)や身体コン トロール能力(田辺・田村・中川、1987)等の要因が一定の役割を果たしていることが明らかに された。また、個々のケース検討から運動機能や運動能力にはこれらの要因以外にもさまざまな 要因が関与していることが推察された。さらには、これらの要因それぞれが個々のものとしてか かわっているだけでなく、それらの要因が相互に関連し合っていることが示唆された。運動機能 の発達が具体的に他の諸機能とどのように相互関連をもつかについては、さらに検討を要する問 題である。
引 用 文 献
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