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FASB 基準書第52号に対する二つの評価 −ITT社対デュポン社−

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(1)

FASB 基準書第52号に対する二つの評価

−ITT社対デュポン社−

嶺輝子

I はじめに

FASB は,外貨換算会計について,従来

(l)

の基準書第8号を破棄し,1981年12月に第52

(2)

号を公表した。基準書第8号と第52号の内容

(31

については,すでに別著で詳しく紹介・検討 しているので,ここでは基準書第52号の特徴 についてのみ,簡単に述べておくことにする。

基準書第52号は,第8号と比べて次のような 特徴がある。

1換算方法の決定について,機能通貨ア プローチを採用している。それは,経営 者が各在外事業単位について,機能通貨 が米ドルであるか,それとも外貨である かを決定し,前者である場合にはテンポ ラル法,後者である場合には決算日レー ト法によって換算するというものである

(基準書第52号では,基本的には現地主 義の立場が支持され 決算日レート法が 支持されている)。

2 為替換算差額の会計処理については,

(1)FASBl,Statement of FinancialAccounting StandardsNo.8:AccountingfortheTranslation of Foreign Currency Transaction and Foreign CurrencyFinancialStatements,October1975・

(2)FASB2,Statement of Financial Accounting StandardsNo.52:ForeignCurrencyTranslation,

Decemberl981.

(3)拙著『外貨換算会計の研究−アメリカを中心 として−』多賀出版,1992年。

決算日レート法を採用する場合,当期の 損益計算に含めず,株主持分の部に直接 計上し,繰延処理することを要求してい

る。

上記のような基本的特徴を有する基準書第 52号に対する企業側の評価は,大きく二つに 分かれている。すなわち,基準書第52号を好 意的に高く評価している企業と,基準書第52 号に対して批判的な評価を与えている企業と

に分かれているのである。そこで,本稿では,

前者の代表としてITT 社(International TelephoneandTelegraphCorporation)を,

そして後者の代表としてデュポン社(E.I.

duPontdeNemours&Company)を取り上 げ,それぞれの企業の見解について検討する ことにする。

Ⅱ 基準書第52号を好意的に評価し たITT社の見解と実務

lITT社の事業内容

ITT 社は,1920年に,プエルトリコとキ ューバで営業を行っていた電話会社の持株会 社として設立された。そして,1925年に,J・

P.モルガンの仲介で,AT&T社から海外の 電話機器製造部門を譲り受け,ヨーロッパに おける通信機器メーカーとしての基盤を確立

した。そして,その後の企業買収で,1928年 には,国際通信サービス会社としても成長し た。すべての事業基盤を海外に持つITT社

(2)

が,米国内に最初に進出したのは,第二次大 戦中の国防関係の業務を通じてであった。

ITT

社は,

1 9 5 0

年代末から

6 0

年代にかけて,

積極的な企業買収政策を遂行し,数多くの内 外の企業を買収し,コングロマリヅト企業と して急速に成長していった。基準書第

5 2

号が 公表された

1 9 8 1

年においては,

ITT

社は,

七つの大陸の

8 0

ヵ国以上で事業活動を行って いたが,その活動は,米国と西ヨーロッパに 集中していた。

1 9 8 1

年度の売上高および収益

2 3 0

億ドルであり,その内の

53%

が米国の,

42%

が西ヨーロッパの事業によるものであっ た。また,識別可能な資産は

2 9 0

億ドルで,

その内の

61%

が米国で,

33%

が西ヨーロッパ であった。

ITT

社の主要事業部門は,

( 1 )

通信および 電子,

( 2 )

生産財,

( 3 )

消費財および消費者サー ビス,

( 4 )

天然資源,および(

5 )

保険‑金融の

5

部門に分類され,それぞれの部門の

1 9 8 1

年度 の売上高および収入の割合は,

29%

25%

1 6

% 

5%

および

25%

である。社名は,国際電 話・電信会社であるが,本業であった通信分 野の売上高および収益は,全体の3割にも満 たないのであるo

ITT

社は,典型的なコン グロマリット企業であるということができる。

基準書第

5 2

号採用以前の ITT社の外貨 換算会計実務

基準書第

8

号が

1 9 7 6

年に発効する以前にお いては,

ITT

社は,棚卸資産を流動貨幣項 目とみなし,決算日レートによって換算して いた。決算日レートによって換算する現金,

受取勘定および棚卸資産の合計額は,同じく 決算日レートによって換算する負債額を通常 超えていたので,貸借対照表上,為替リスク にさらされるのは,純資産ポジションであっ

( 4 )   I n t e r n a t i o n a 1  T e 1 e p h o n e   &  T e 1 e g r a p h  C o r p o r a ‑ t i o n  1 9 8 1  An n u a l  R e p o r t ,  p .  4  a n d  p .  3 6 .  

た。したがって,為替レートがドル高・外貨

・安の方向に変動した場合には,為替換算差損 が,逆にドル安・外貨高の方向に変動した場 合には,為替換算差益が発生した。

1 9 7 0

年代 はドル安傾向にあり,為替差益が発生する傾 向にあった。

ITT

社は,発生した為替差益 を損益計算書に貸記せず,

r

在外事業準備金」

勘定を設けて,それに貸記した。そして,こ の準備金を,その後の為替レートの変動によ って生ずる為替差損の一部または全部を相殺 するために用いた。発生した為替差損が準備 金の額を超える場合には,その超過分を直ち に損益計算書に計上した。このような為替換 算差損益の処理法は,為替レートの著しい上 下変動が報告利益に与える影響を緩和し,利 益の平準化に貢献した。

ITT

社は,基準書第

8

号を採用する前年

1 9 7 5

年の年次報告書で,

( 1 )

固定資産および 投資勘定を取引日レートで換算し,その他の すべての資産および負債を決算日レートで換 算したこと,

( 2 )

損益勘定については,取引日 レートで換算した資産に関連のある減価償却 費を,当該資産に用いたのと同ーの取引日

レートで換算したのを除き,すべて当期中の 平均為替レートによって換算したこと,およ び(

3 )

次頁に示すような額の純為替差益(差損) が純利益計算に含められていること,を注記

している。

基準書第

8

号の適用が強制される

1 9 7 5

年ま では,上で述べたような外貨換算会計・開示 を実施していた

ITT

社は,基準書第

8

号の 制定につながる公開草案(基準書第

8

号草案)

(5) 

Raymond H .  A l l e m a n , Why ITT l i k e s  F  AS  5 2 , "   Management A c c o u n t i n g , 

J

u 1 y  1 9 8 2 .  p p . 2 3  

‑24. 

(6) 

I n t e r n a t i o n a l  T e l e p h o n e   &  T e l e g r a p h  C o r p o r a ‑

t i o n  1 9 7 5   An n u a l  R e p o r t ,  p .  2 9 .  

(3)

1 9 7 5 年 1 9 7 4 年 (単位:千ドル) 売 上 原 価 $  ( 4 7 ,  1 0 9 )   $  ( 6   , 1 7 1 2 )  

ハートフォード火災保険および金融子会社 ( 8 , 4 1 0 )   5 , 4 7 0  

$  ( 5 5 , 5 1 9 )   $  ( 5 6 , 2 4 2 )  

に対して,次のような内容のコメントを,

1 9 7 5 年 5 月 1 日付で FASB に 提 出 し た ;

① 外 貨 換 算 に 関 す る 我 々 の 主 要 な 関 心 事 は,比較的単純な手続きにすることがで きるにもかかわらず,草案で示された換 算手続きが複雑であるという点である。

② 草 案 は , I テ ン ポ ラ リ ズ ム J (Tem‑

p o r a l i s m ) という理論の貫徹のために,

棚卸資産,繰延税金および前払費用の諸 勘定について,取引日レートによる換算 を要求しているが,このことによって,

これらの諸勘定の換算手続きは,非常に 複雑なものになる。

①  (手続きの複雑化を避けることによ る)理解の容易さと公正な表示との適切 なバランスは,固定資産と投資勘定を除 き,すべての資産と負債を決算日レート で換算することによって達成される。

④  審議会は,外貨換算手続きを実施する すべての会社のニーズおよび処理能力に ついても,十分な配慮、をしてほしい。「マ ネタリズム J ( M o n e t e r i s m ) とか「テン ポラリズム」という厳格な主義の強制は,

すべての会社のニーズに必ずしも応える ものではない。

し か し 上 記 の よ う な ITT 社の主張は受け 入れられず, FASB は,テンポラル原則を厳 格に貫いた基準書第 8 号の適用を, 1 9 7 6 年 1 月 1 日以降に開始する事業年度から強制した。

(7) 

FASB 

3

,  P u b l i c  R e c o r d  ‑ 1 9 7 6  V o l ,  I I ,  S t a t e ‑ ment N o .  8

, 

pp.781‑782. 

このことから, ITT 社の在外子会社の場合,

貸借対照表の資産の部において決算日レート によって換算されるのは,現金と受取勘定の みであるのに対して,負債は,取引日レートで 換算される資産に関連した繰延税金を除き,

すべてが決算日レートによって換算されるこ とになった。その結果,ほとんど常に,決算日 レートで換算される負債の額が決算日レート で換算される資産の額を超える純負債ポジシ ョンになった。これは正に,基準書第 8 号 を適用する以前の純資産ポジションの状態と は逆であり,為替レート変動も逆に作用し,

ドル高・外貨安方向に変動した場合には換算 差益が, ドル安・外貨高方向に変動した場合 には換算差損が発生することになった。こ

( 8 )   Raymond H. Alleman ,  o p .  c i t . ,  p .  2 4 .   ( 9 )   アルマンは,このことについて,次のように不

満を述べている。「ドイツ・マルクが米ドルに対 して強くなると,その経済的効果は, ドイツの事 業単位またはその純資産の価値が,米ドルで表わ せば増加するということである。しかしながら,

基準書第 8

号の下では,会計上の効果は,換算差 損を損益計算に含めることになってしまう。とい うのは,強くなったドイツ・マルクの決算日レー トの効果が,純負債エクスポージャーに及ぶから である。ドイツ・マルク建債務の返済のためには,

一層多くの米ドルが必要になるので,米ドルによ る純負債額は増加し,そのため,会計の観点から すれば,換算差損を計上することになるのである。

このことは,ある一部の人々にとっては道理にか なっているかもしれないが,私にすれば,このこ

とは私を当惑させるものである……J(Raymond 

H .  A l l e m a n ,  o p .  c i t . ,  p .  2 4 ) と 。

(4)

少数株主持分および法人税等控除前 少数株主持分および法人税等控除後 1 株 当 た り ( 単 位 : ド ル )

(単位:千ドル)

7

3 1 t r 一 ヮ

A U t l

q L q L FO

' ' / L

t

t q δ

Qd

/

L

1

1

S (

1 9 7 5

$  ( 5 5 , 5 1 9 )   ( 5 2

5 1 5 )   ( . 4 3 )  

の換算差損益については,繰延べることも,

準備金を設定することも認められなかったの で,為替レートが不安定で,短期的に大幅に 上下変動する時期においては,四半期利益も 大きな振幅で変動する結果になるのである。

基準書第

8

号の適用第一年度である

1 9 7 6

の年次報告書で,

I T T

社は,ハートフォー ド火災保険会社および金融子会社を含め,外 貨建取引および外貨表示財務諸表を,

1 9 7 6

1

1

日から施行された基準書第

8

号に準拠 して換算したが,いかなる重要な影響も受け なかったと報告している。それでも,上に示 したような額の外貨の転換および貸借対照表 項目の換算から生ずる純為替差益(差損)が,

損益計算に含められていだ10)

また,前年度の換算において適用したのと は異なった平均為替レートによる

1 9 7 6

年度の 損益計算書の換算は,

7 4

2 8 7

0 0 0ドルほど,

l

株当たり

0.60ドルほど利益に不利な影響を

与えた,つまり,平均為替レートが変動した ことによって,

74

287

0 0 0ドルほど減益にな

った, とも報告している;

多くの会社は,貸借対照表の換算の結果と して生ずる為替差損益(または為替レートの 変動が貸借対照表上のエクスポージャーに及 ぼす影響)については識別し,年次報告書に おいて報告しているが,適用する平均為替 レートが前年度と異なることによる損益計算 書の換算上の影響については,報告していな

(10)~1)

I n t e r n a t i o n a l  T e l e p h o n e   &  T e l e g r a p h  C o r ‑ p o r a t i o n  1 9 7 6  Annual R e p o r t

, 

p .   3 1 .  

い 。 そ の 開 示 を 基 準 書 第

8

号が強制してい ないのであるから,しかたがないことかもし れないが,

I T T

社は,対前年度との損益計 算書の比較に及ぼす影響も,為替レート変動 の影響の一つの不可欠な側面であるとの考え から,基準書第

8

号の適用第一年度以降,損 益計算書の換算に適用する平均為替レートの 相違が利益に及ぼした影響についても正確に 測定し;報告している。基準書第52号を適 用する前の1

9 8 0

年度までの年次報告書におい

I T T

社が開示していた(

1

)損益計算に含 めた外貨の転換および貸借対照表の換算から 生じた純為替差益(差損)および(

2 )

損益計算 書の換算に適用される期中平均為替レートの 相違が対前年度比較において利益に与えた影 響を示すと,次頁のようである。

為替レートの動きをみると,

1 9 7 8

年は,

7 7  

年と比べるとドル高になっている。上で示し た対前年度比較データは,損益計算書の換算 に適用する期中平均為替レートが前年度と比 べてドル安方向に変動していれば,報告利益 は有利に,逆にドル高方向に変動していれば,

不利に影響を受けることを示している。

I T T

社の年次報告書において開示されて きた以上のようなデータからも明らかなよう

(1~

H e r b e r t   C .   K n o r t z , F o r e i g n   C u r r e n c y  E x ‑ p o s u r e

1 y t h , Method a n d  Mystery , "   i n  D h i a  D .   A lH a s h i m   &  James W. R o b e r t s o n  e d . ,  C o n t e m ‑ p o r a r y   I s s u e s   i n   A c c o u n t i n g ,  B o b b s ‑ M e r r i l l   E d u c a t i o n a l  P u b l i s h i n g ,  1 9 7 9 ,  pp.169‑170. 

(

1 3 )   Raymond H .  A l l e m a n n ,  o p .  c i t . ,  p . 2 4 .  

(5)

損益計算に含められた純為替差益(差損)の額(単位:千ドル)

1 9 8 0

1 9 7 9

1 9 7 8

1 9 7 7

少数株主持分および法人税等控除前

$  1 9 0

2 5 4   $  ( 9 4

8 0 6 )   $ 

(1

6

 1

4 9 5 )   $  ( 7 4

2 4 3 )  

少数株主持分および法人税等控除後

1 4 5

7 7 8   ( 8

 1

8 5 0 )  

(1

3 9

2 8 6 )   ( 7 0

8 2 0 )  

株 当 た り(単位:ドル) 1. 0

0   ( . 5 9 )   ( . 9 8 )   ( . 5 1 )  

平均為替レートの変動が対前年度比較において利益に与えた影響(単位:千ドル)

1 9 8 0 年 1 9 7 9 年 1 9 7 8 年

利 益 へ の 影 響 額

影 響 の 方 向

1

株当たり(単位:ドル)

$  1 5

 1

0 9 2  

不利に

$  1 9 , 8 5 8  

不利に

. 1 4  

$  2 0 6 , 8 6 5  

有利に

に,損益計算に含められた純為替差損益の額 は,年度によって大きく変動している。また,

純利益の対前年度比較においても,為替レー ト(平均為替レート)の変動は,大きな影響 を与えている。

ITT社の副社長でコントロー

ラーであるアルマン(R.

H. A l l e m a n )

基準書第

8

号の適用に起因する短期報告利益 の激しい振幅の一例として,基準書第5

2

号を 適用する直前の

1 9 8 1

年度の第

1

四半期から第

3

四半期までの,

ITT

社の四半期報告利益 について,次のように分析している。すなわ

r 1 9 8 1

年度の第

1

四半期は,前期と比べ て45%の下落を報告したが,基準書第

8

号に 従って測定された外国為替変動の影響(為替 差 損 益 ー 引 用 者 注 ) を 除 外 す れ ば ,

ITT 

の利益は,実際には前期と同じであった。第

2

四半期は,

109%

のアップを報告したが,

外国為替変動の影響を除外すれば,実際には

29%

の下落になる。第

3

四半期では,

ITT 

の報告利益は

119%

下落したが,…

. . . I T T

実際には,営業活動では

2 %

アップの利益が あった。

9ヵ月間で ITTは,前年同期間と

比べて53%の下落を報告したが,外国為替変 動の影響を除外すれば,営業活動では,単に

1. 0

4  

1. 4

6  

8 %

の下落にすぎなかった」)と。このよう

1 9 7 6

年度以降,基準書第

8

号に準拠して 為替レート変動の影響を測定し,為替差損益 を損益計算に含めてきたことから,報告利益 の四半期間比較や年度間比較は,大きく阻害 されたのである。このことから,

ITT

社は,

営業活動の上では成功し,業績は向上してい るにもかかわらず,報告利益は下落する,あ るいはその逆の現象が起こる基準書第

8

号に 不満であったが,外部報告では,それに従わ なければならなかった。そこで,

ITT社は,

経営管理目的の内部報告では,新しい換算方 法を考案し,それを使用した。それは,基準 書第

8

号の適用による歪んだ為替レート変動 の影響を除外し,在外事業単位の業績を評価 するための「現地通貨等価法

J ( L o c a l   C u r ‑ r e n c y  E q u i v a l e n t  Method

,以下

LCE

法と呼 ぶ)という換算方法である。

LCE

法は,為替レート変動による影響に 対して,在外子会社の経営者は責任を負う必 要がないという経営管理上の仮定に基づいた ものである。この換算方法の下では,現地通貨

(l~(l~

Raymond H .  A l l e m a n n ,  o p .  c i   , . t p . 2 5 .  

(6)

による成果と予算の両者を,それぞれ年聞を 通して使用するためにあらかじめ定めていた レート(前年度の第

3

四半期末の為替レート) を用いてドルに換算し,両者を比較して,在 外子会社の経営者の業績評価が行われるので ある。したがって,将来の為替レートの動き を予想して予算を決定する必要はなかった しまた,予算と比較される換算後のドル表 示成果についても,実際の為替レートは変動 しでも,

LCE

法で用いられるレート

(LCE

レート)はその年度中不変であるから,為替 差損益は発生せず,為替レート変動の影響を 除外した純粋の営業上の業績を表わすことが できたのである。換言すれば,

LCE

法の下 では, ドルによる予算と成果の比較による在 外子会社の経営者の業績評価に,為替レート の変動が影響を与えるということは一切ない ということである。また,この

LCE

法は,対 前年度業績比較による在外子会社の経営者の 業績評価にも使用された。前年度との業績比 較は,前年度の現地通貨による成果を当年度

LCE

レートを用いて換算したドル等価額 と,当年度の現地通貨による成果を当年度の

LCE 

レートによって換算したドル等価額を 比較することによって行われる。この比較に よる差額は,いうまでもなく,為替レート変 動による影響を除外した,純粋の営業上の業 績の差である。そして,在外子会社の財務諸 表を基準書第

8

号に準拠して換算した結果か

LCE

法によって換算した結果を差し引 くと,為替レート変動による影響,つまり換算 差損益が算定されることになるのである。

ITT

社は,経営管理上,特に,在外子会 社の経営者の業績評価のために,独自の外貨 換算方法を考案し,使用してきたが,外部報 告上は基準書第

8

号に従わなければならなか ったので,為替レートの変動が報告利益に与 える影響を無視することはできなかった。そ

のため,エクスポージャーの管理が重要とな

ITT

社は,事業の継続にとっての必要性 ということに留意しながら,運転資本を最小 化するという政策の下に,常に基本的資産お よび負債の管理を行ってきたが,換算差損益 を最小化するという目的を優先して,営業上 の考慮、事項を二の次にするようなことはしな かった。また,

ITT

社は,存外子会社の経 営者に対しても,為替レートの動きに対して 経営戦略上配慮することを求めた。それは,

在外子会社の営業活動や市場に影響を与える 為替レートの動きに対して有効に対処する戦 略を工夫することが,明らかに在外子会社の 経営者の責任であるからである o

3  基準書第52号に対する ITT社の評価

ITT

社は,基準書第

8

号の強制適用とい う環境において,経営管理目的(特に,在外子 会社の経営者の業績評価)のために,

LCE 

法を考案し使用する一方,外部報告目的では,

報告利益の平準化ないし安定化を意図して,

為替換算差損益を最小化するためにエクス ポージャー管理に努力し,在外子会社の経営 者に対しても,為替レートの動きに有効に対 応した経営戦略を樹立するよう要請してきた。

そして,機会があるたびに,外貨換算基準の 改訂を求めてきた。例えば,

FASB

1 9 7 8

5

月に,基準書第

1

号から第1

2

号までにつ いてコメントを求めたとき,

ITT

社の副社 長で,かつコントローラーであったクノーツ

( H .  C .  K n o r t z )

は,基準書第

8

号を批判す る次のような内容のコメントを提出した。

①貸借対照表は,単一のレートで換算さ れるべきである。

②為替差損益は,それが実現されるまで 繰延べられるべきである。

(l~

Raymond H. Allemann ,  o p .  c i t . ,  pp.25‑26. 

制 RaymondH. Allemann ,  o p .  c i t . ,  2 6 .  

(7)

① 

為替レート変動の影響については,計 測可能である限り,あらゆる側面が報告 されるべきである。

① 

基準設定当局は,為替レート変動の影 響の本質とその影響を財務諸表で正確に 開示する方法を,明確に示すべきである。

また,

1 9 8 0

8

月に公表された基準書第

5 2

号の第一次草案に対してクノーツは,この草 案が健全性と単純性の要素を有しており,基 準書第

8

号を大きく改善するものであるとの コメントを提出した。そして,この草案に

( a )

報告利益の変動を最少限にする,

( b )

借対照表が単一のレートで換算され,単純性 の要件を満たしている,

( c )

換算後のドル表示 損益計算書が,見込まれる経済的および営業 上の期待と同じ方向の結果を示すように(例 えば, ドイツ・マルクが強くなれば, ドイツ

・マルクの所有者=ドイツの子会社に一層有 利な結果をもたらすように),為替レート変 動問題を会計処理することができる,などの 長所があることを指摘する一方で,いくつか の欠点があることも指摘している。そして,

結論として,最も重要なことは,すべての企 業に決算日レート法を強制するというのでは なく,主としてドル建てで取引を行っている 石油会社の場合とか,換算に先立つて再評価 される高度インフレーション通貨圏で事業を 営んでいる会社の場合には,救済措置(代替 的換算方法)を認めるというのが健全な政策 であると述べている。

以上のことからも明らかなように,

ITT 

社は,すべての資産および負債を単一のレー

トで換算する決算日レート法を原則的な換算

(1~

FASB4 ,  P u b l i c  R e c o r d ,  P o s i t i o n  P a p e r s  s u b ‑ m i t t e d  i n  r e s p e c t  o f  E x p o s u r e  D r a f t  on F o r e i g n   C u r r e n c y  T r a n s l a t i o n

, 

F e b r u a r y  1 9 8 3

, 

P a r t   1

, 

pp . 4 8 6 ‑ 4 9 0 .  

方法としながらも,テンポラル法の採用の余 地を与える機能通貨アプローチを採用しか っ未実現の換算差損益を貸借対照表の株主持 分の部に計上し繰延べるという処理を認めた 第 1次公開草案に,基本的に賛成なのである。

この第 1次公開草案において示された基本原 則は,改訂公開草案(1

9 8 1

6

月)を経て,

基準書第

5 2

( 1 9 8 1

1 2

月)に引き継がれた。

ITT

社は,基準書第

5 2

号を,次のように高 く評価している。すなわち,

i 1 9 8 1

1 2

月に 公表された基準書第

5 2

号は,

ITT

が数年前 から支持してきている主要な諸概念を組み入 れたものであり,基準書第

8

号が原因で生じ ていた多くの歪を是正した。基準書第

5 2

号の 下では,財務諸表のすべての要素の換算が決 算日レートによって行われる。決算日レート

‑アプローチは,

ITT

が自社の経営管理目 的で使用してきた

LCE

法に,非常に類似し ている。

ITT

LCE

アプローチと基準書第

5 2

号との唯一の相違は,

LCE

アプローチが 実現為替差損益を算定しないということ,お よび,

LCE

アプローチが

1

年間を通して,

一貫して一つのレートしか用いないというこ とである。……この新しい基準書の下では,

通貨レート変動の影響を,自社の経営者およ び外部の金融界の両方に説明するのが容易で あるだろう

J

基準書第

5 2

号の採用が

ITT

社の財務報 告に与えた影響

ITT

社は,

1 9 8 1

年度の第

1

四半期から第

3

四半期までは基準書第

8

号に準拠して換算 していたが,

1 2

月に基準書第

5 2

号が公表され ると直ちに新基準書を採用し,第 1四半期に 遡って,

1 9 8 1

年度の財務諸表を基準書第

5 2

に準拠して換算した。

ITT

社が高く評価し た基準書第

5 2

号の採用は,

ITT

社の財務報

(19) 

Raymond H. A l l e m a n ,  o p .  c i t . ,  p .   2 6 .  

(8)

l

基準書第

8

号を適用した場合と第

52

号を適用した場合の純利益の比較

( 単 位 株 当 た り の 利 益 を 除 き , 千 ド ル )

合書 第

FZ 8

号 適 用 の 純 利 益

1 9 8 1

l

株当たり 純 利 益

1 9 8 0

1

株当たり 純 利 益

1 9 7 9

l

株当たり

$ 4 3 5

1 9 9   $  2.93  $ 894

3 2 6   $  6 . 1 2   $ 3 8 3

0 9 3   $  2 . 6 5  

切章ヲ受ロ書第52号適用の~一一

6 7 6

8 0 4  

4 . 5 8  

7 5 5

3 5 3   5 . 1 6   3 0 1 .   5 8 7   1 .   1 9  

出所: ITT  1 9 8 1  Annua1 Report ,  p .  2 4  and p .  3 1 .  

2

基準書第

8

号を適用した場合と第

52

号を適用した場合の修正後純利益の比較

( 単 位 株 当 た り の 利 益 を 除 き , 千 ド ル )

可証竺 純修利正後益

1 9 8 1

1

株当たり 純修利正益

1 9 8 0

1

株当たり 純修利正後

1 9 7 9

1

株当たり

合書 第

8

号 適 用 の

$ 4 5 3

0 4 0   $  3 . 0 5   $ 8 0 4

2 2 6   $  5.50  $ 7 0 3

0 9 3   $  4 . 9 5  

L

聖場合書 第 問 適 用 の

6 9 4

6 4 5  

4 . 7 0  

6 6 8

3 5 3  

4 . 5 7   6 0 6

5 8 7  

‑一一一一一一一一一一一 L一一一一一一一一一‑

出所: ITT  1 9 8 1  Annua1 Report ,  p .  2 4 .  

告に,特に報告利益に,どのような効果ない し影響を与えたのであろうか。この点につい

1981

年の年次報告書で開示されたデータ を用いて,以下,検討してみよう。

表 1の純利益には,異常項目や固定資産の 処分に係る損益が含まれている。したがって,

いずれの基準書の適用によっても,純利益は,

かなり不安定で異常である。企業の収益力あ るいは長期利益性向を判断するためには,営 業活動に関係のないそれら損益を除外した方 が,一層適切である。

ITT

社の

1981

年度の 純利益計算には,

1970

年にハートフォード火 災保険会社を取得した際の税金問題について の訴訟が和解し,米国の連邦政府に支払った

17

841

千ドルの異常項目が含まれている。

1980

年度の純利益計算には,カナダにある固 定資産の処分による利益

87

000

ドルが,そし

1979

年度のそれには,同じくカナダにある 固定資産の処分による損失

305

000

千ドルが 含まれている。これらの異常項目および固定 資産処分損益を除いた修正後の純利益を比較

すると,表

2

のようになる。

修正後

l

株当たりの利益によって対前年度 比較をしてみると,基準書第

52

号適用の場合 には,

1 9 8 1

年度は

80

年度と比べて約

3 %

のア ップ,

80

年度は

79

年度と比べて約

9 %

のアッ プであった。しかし従来の基準書第

8

号適 用の場合には,

1981

年度は

80

年度と比べて約

44.5%

の下落,

80

年度は

79

年度と比べて約

1 1

%のアップになる。基準書第

52

号適用の場 合には順調に業績が伸びているという印象を 受けるが,基準書第

8

号適用の場合には,業

アルマンは,基準書第 8号に準拠していた過去 数年度の年間利益および四半期利益は,異常な,

相当大きい振幅を示していたが,

1 9 8 1

1 2

3 1 日

までに終了する過去

5

年間の

ITT

社の

l

株当た りの利益を,基準書第

5 2

号に準拠して修正・再表 示してみると,その過去

5

年間の累積結果は,基 準書第 8号に準拠して報告されたそれに,非常に 近似していた。これは,長期的にみれば,各年度 間および各四半期間における異常な上下変動が相 殺されるからである,と指摘している

(Raymond

H. A l l e m a n

, 

o p .  c i t .

, 

p . 2 7 ) .  

(9)

績の傾向が不透明になる。アルマンは,

1 9 8 1  

年度の

1

株当たりの利益が基準書第

8

号と第

5 2

号の適用の場合で異なる結果になることに ついて,次のように分析している。

1 9 8 1

年は ドル高になったので,基準書第

8

号を適用す れ ば , 貸 借 対 照 表 の 換 算 で 株 当 た り

8 1

ントの未実現の換算差益が生ずるが,売上原 価および減価償却費を,期中平均レートでは なく取引日レートによって換算するため 株当たり

2 . 4 6

ドルの利益の減少になる。結果

として,基準書第

8

号を適用した場合には,

第5

2

号 を 適 用 し た 場 合 と 比 べ て 株 当 た り 1. 6

5

ドル

($2.46‑$.8

1)の正味減益とな ったのである o

ここで注意すべきことは,基準書第5

2

号(決 算日レート法)に準拠した場合でも,純利益 には,期中平均レートの変動が損益計算書項 目に及ぼした影響と,在外事業単位に対する 投資の売却または清算によって実現した為替 換算差損益が含まれるという点である。した がって,先に説明した

LCE

法とは違って,

年度問の利益比較が,為替レートの変動によ ってある程度の影響を受けるということであ

ITT

社の場合,損益計算書の換算に適 用する期中平均レートが,

1 9 8 0

年の第

3

四半 期以降,年々, ドル高・外貨安方向に変動し たことによって,対前年度利益が,

1 9 8 1

年度 には

7

千万ドル,

1 9 8 2

年度には

3

千万ドル,

そして1

9 8 3

年度には

2

7

百万ドルほど,そ れぞれ不利な(つまり,減益になるという) 影響を受けている。したがって,基準書第5

2

号に準拠して換算されたデータに基づいて,

対前年度利益比較とか,成果と予算の比較な どによって在外子会社の経営者の業績比較を 行う場合には,これらの影響額を考慮に入れ ておかなければならない。

~l)

Raymond H .  A l l e m a n ,  o p .   c i t . .   p .   2 6 .  

最後に,

ITT

社の場合,基準書第5

2

号を 採用した

1 9 8 1

年以降の外貨換算に関する開示 実務が,基準書第

8

号を採用していた時のそ れと,どのように変化したかをみておこう。

基準書第

8

号は,

( 1 )

損益計算に含めた為替差 損益の総額と,

( 2 )

実行可能であれば(

1

)以外の 経営成績に与えた為替レート変動の影響,を 開示することを要求した。

ITT

社は,

1 9 8 0  

年度まで, (1)損益計算に含めた為替差損益の 額と,

( 2 )

前年度において用いた平均為替レー トと異なる平均為替レートによる損益計算書 の換算が純利益に与えた影響額を開示してき た。基準書第5

2

号は,

( 1 )

期間損益計算に含め た為替差損益の総額と,

( 2 )

株主持分の部の一 項目として計上した換算調整勘定の累積額に ついて,当期中の変動の分析を明らかにする a)累積換算調整勘定の期首および期末残高,

b)

財務諸表の換算から生じた換算調整額と,

在外事業単位への純投資額に対する経済的ヘ ッジおよび関係会社取引残高から生じた損益 から成る当期中に発生した換算調整額,

C) 

換算調整勘定に割り当てられた期中の税額,

および d) 在外事業単位に対する投資の売却 または清算によって累積換算調整勘定から振 替え期間損益計算に含めた金額,を開示する ことを要求した。

ITT社は, 1 9 8 1

年度以降,

基準書第5

2

号の要求する開示事項をすべて開 示するのみならず,平均為替レートの変動が 純利益に与えた影響額についても開示してい る。以下,

ITT

社が1

9 8 2

年度の年次報告書 において開示した外貨換算に関する注記を示

しておこう。

「外貨換算:貸借対照表勘定は,各年度末 に有効な為替レートで換算され,損益勘定 は,当年度に通用していた平均為替レート で換算されている。在外会社の圏内通貨が 機能通貨である。そういった通貨のほとん どは,ヨーロッパ諸国の通貨である。高度

(10)

AU

‑ ‑ ‑ A    

1 9 8 2 年 1 9 8 1 年 1 9 8 0 年 期首残高 $ 

(1

2 3 , 8 0 8 )   s  3 7 0 3 9 5  5 6   1 6 5 0  

加算(減算)ー

外貨表示財務諸表の換算 ( 3 3 0 , 2 3 0 )   ( 4 5 6 , 8 6 3 )   ( 2 2 2 , 0 4 6 )  

関係会社間資本取引 ( 2 3 , 4 2 8 )   ( 3 7 , 8 1 3 )   1 5 , 0 1 7  

純在外投資額のヘッジ ( 5 , 8 1

1) 

在外事業単位の売却または清算 2 , 8 7 4   4 9 3   1 5 , 7 7 4  

期末残高 $  ( 4 8 0 , 4 0 3 )   $ 

(1

2 3 , 8 0 8 )   s  3 7 0 3 9 5  

インフレーション諸国のエクスポージャー は重要ではない。

保険および金融子会社を含め,株主持分 の 独 立 項 目 と し て 計 上 し た 換 算 調 整 勘 定 は,上記のようであった(単位:千ドル)。

外貨建取引による為替差損および在外事 業単位に対する投資の実質的な清算または 売却に起因する換算調整勘定の実現による 為替差益は,売上原価に含めて報告してお り,その金額は, 1 9 8 2 年度, 1 9 8 1 年度および

1 9 8 0 年度において,それぞれ, 7 9 , 8 3 0 , 0 0 0  

ドル, 8 0 , 9 2 0 , 0 0 0 ドルおよび 6 2 , 7 4 6 , 0 0 0 ド ルである。また,それらの税引および少数 株主持分控除後の金額は, 3 7 , 4 5 0 , 0 0 0 ドル,

4   , 1 3 8 2 ,  0 0 0 ドルおよび 3 3 , 4 1 5 , 0 0 0 ドルであ っ f こ 。

外国通貨に対する米ドルの価値変動が及 ぼす経済的および営業上の影響を,有効に 計測することはできない。しかしながら,

平均レートが前年度において用いられた平 均レートよりも不利に変動したことによっ て,明らかに,対前年度利益比較では, 1 9 8 2  

年度は 3 0 , 0 0 0 , 0 0 0 ドルほど,そして 1 9 8 1 年 度は 7 0 , 0 0 0 , 0 0 0 ドルほど,不利な影響を受

f こ 。 」

e 今 I n t e r n a t i o n a lT e l e p h o n e   &  T e l e g r a p h  C o r p o r a ‑ t i o n  1 9 8 2  A n n u a l  R e p o r t ,  p .   3 1 .  

基準書第

5 2

号に批判的な デュポン社の見解と実務

i  テ、ュポン社の経営方針および事業内容 デュポン社は,フランスの高名な政治哲学 者であるピエール・サミュエル・デュポン・

ド・ヌムールの次男であるエルテール・イレ ネー・デュポン・ド・ヌムールによって,

1 8 0 2 年に設立された会社であり,火薬工場か ら出発した会社であった

o

1 9 0 3 年に株式を公 開したが,長期にわたってデュポン一族によ って支配された。デュポン社は,同族経営の もとで,独特の経営方針を追求し,今日の大 きな成功をおさめてきたのではあるが,その 経営方針の重要なものには,次のようなもの がある。

① 

自己資本調達を重視し,長期負債に対 しては消極的な態度に終始するという慎 重な金融政策の採用。

日本貿易振興会『多国籍企業の事例研究(デュ ポン社 H 1 9 7 9 年 , 3 頁 。

帥 この点について若干の補足説明をすれば,デュ ポン社の自己資本比率は,近年低下する傾向にあ

, 1 9 6 0 年は85.8% , 1 9 6 5 年は76.9% , 1 9 7 0 年は 75.7% , 1 9 7 5 年は59.7% , 1 9 8 0 年は59.5% ,そして 1 9 8 1 年は43.9% ,1 9 8 2 年は4 4 . 6 % 1 こまで低下して いる。一方,長期負債は, 1 9 8 0 年までは低い水準で 推移していたが, 1 9 8 1 年 8 月にコノコを買収した ことにより, 1 9 8 1 年末の長期負債は,前年に比べ て6

( 6 , 4 0 3 百万ドル)に膨れ上がった。しかし,

1 9 8 3 年末には, 4 , 5 7 6 百万ドルの水準にまで減少

している(デュポン社の各年の年次報告書参照)。

(11)

②  高度に中央集権的な経営管理システム の採用。

①  研究開発重視政策の採用

i

①  高付加価値・技術集約製品に力点を置 く政策の採用。

次に,デュポン社の事業内容をみておこう。

デュポン社は,数百種類に及ぶ製品を生産・

販売しているが,これらは四つの製品群に大 分類される。

1 9 7 5

年の売上高をみると,繊維 は2

5 5 7

百万ドル

(36%)

,プラスチック原料 および合成製品は

1

3 9 7

百万ドル(1

9%)

,工 業用化学製品は1,

3 8 1

百万ドル(1

9%)

,そし て特殊製品は

1

887

百万ドル

(26%)

であっ た。デュポン社の多国籍化が本格化にスター トしたのは,

1 9 5 6

年に,ヨーロッパに最初の

的 この点について若干の補足説明をすれば,デュ ポン社は,その総合的な経営方針を貫く上で,高 度に集権化された経営体制を採用している。同社 の主要な決定は,厳しく管理された機関を通じて 行われ,そのすべては,経営委員会と財務委員会 によってチェックされる。経営委員会は,最高幹 部によって構成され,同社のあらゆる業務に対す る意思決定・監督機関である。財務委員会は,伝 統的にデュポン一族で占められ,会長および社長 が加わったメンバーによって構成され,財務に全 般的な責任を持ち,財務面から,重要な投資の審 査を行う。この二つの委員会が,デュポン社が必 要とする重要な戦略および投資決定を,集権的に 担当しているのである(日本貿易振興会『前掲書』

21 頁および37~38頁)。

的 この点について若干の補足説明をすれば,デュ

iJ~ ン社の研究開発費は,絶対額では増大してきて

いるが,売上高に占める比率は年々低下しており,

1 9 7 0 年には対売上比率が 6.6% であったのが,

1 9 8 0 年には 3.5%( 4 8 4 百万ドル)と,約半分にま で低下している。そして,コノコ買収後の 1 9 8 2 年 においては,金額は 8 7 9 百万ドルと飛躍的に増大 したが,対売上比率は 3.1% にすぎないのである

(デュポン社の各々の年次報告書参照)。

生産拠点を築いた時であり,

1 9 5 8

年には国際 事業部が設置されている。

1 9 6 0

年代のはじめ には,輸出と海外生産高を合計した国外売上 高は400百万ドル弱にすぎなかったが,

1975 

年には1

950

百万ドル(輸出高792百万ドル,

海外生産高1,

1 5 8

百万ドル)にまで増大し,

全売上高の

27%

を占めるようになった。

デュポン社は,

1 9 8 1

8

月に,全米第

9

の石油会社であるコノコ(米国内および海外 で石油の生産‑精製・販売・輸送活動を行う

とともに,全米第

2

位の膨大な石炭資源を保 有している会社)を買収した。同社がコノコ を買収したのは,原料の安定確保のためであ る。換言すれば,デュポン社の製品の大半は,

石油そのもの,または石油生成物および天然 ガスを原料としているということと,二度に わたって石油危機を経験したということが,

コノコ買収の最大の動機であったので、ある。

もちろん,これだけの理由ではなく,エネ

l

ギー産業の成長性を期待し,エネルギー部門 へ本格的に参入したいということも,大きな 動機であった。それはともあれ,

1 9 8 0

年の国 外売上高は

4

6 4 6

百万ドル(輸出高2

1 7 5

百万 ドル,海外生産高

2

4 7 1

百万ドル)であった

1 9 8 1

年以降はコノコの分も加わり,

1 9 8 2  

年のデュポン社の産業部門別および地域別の 売上高,税引営業利益,および識別可能資産 は,次頁のようであった。

次頁のセグメント情報からも明らかなよう に,コノコの買収によって,デュポン社の事 業部門は,

1 9 7 5

年の製品別四事業部門分類と は大きく変わり,ますます多様化している。

そして,

1 9 8 2

年の地域間振替を除く国外売上 高11

057

百万ドルの内,米国からの輸出は

2

5 5 9

百万ドルで,海外生産高は8

498

百万ド ルである。全売上高に占める国外売上高は,

3 3 .  

2%~こも達しているのである。

(12)

12 

製・送

石版輸石油の 探査・

生 産

工学品

br

u

業用

農業製 ポリマー 製 品

‑ 用 品

用者 業費 工消製 医療用

製 品 石炭 連 結 額

1 9 8 2

$  3 3 . 3 3 1   3 2   1 5   7 4   6 9 6   3 . 0 2 3   8 5 4   4 

$  1 .  0 3 2   $ 2 . 5 3 1   $ 4 . 1 0 0   $ 3 . 1 2 5   $ 4 . 4 6 4   $ 5 . 0 7 6   $ 1 6 . 0 3 1   $  1 .  6 7 0   $  3 3 .  3 3 1  

$130  $129  $136  $78  $170  $454  $215  $179  $ 1 . 4 9 1  

$ 1 .   4 8 1  

$  1 .  6 6 6  

$ 1 5 . 1 7 7  

$ 2 . 0 5 3  

$ 3 . 7 6 8  

$ 3 . 0 5 1  

$ 4 . 0 8 5  

$ 2 . 4 9 9  

$  1 .  0 3 2  

税 引 後 営 業 利 益

セグメント聞の振替

τ三~

メ為

$  2

 ,1

1 4 8  

$  2 . 4 3 3  

$  3 . 8 5 3  

$  5 . 3 4 8  

$2 , 7 3 4  

$ 1 .   9 6 9  

$  3 .  0 4 2  

$589 

識 別 可 能 資 産

その他の海外

$  4 , 041 

出所:

E .  1 .   du P o n t  d e  Nemours  &  C o .  1 9 8 2  A n n u a 1  R e p o r t .  p .   6 0 .  

ヨーロッパ

米 一

S 33 , 331 

33 331 

 1

4 9 1  

2

 1

148 

535 

4

576 

$  188 

2 073 

7 , 0 1 6  

1 ,  181  202 

23

455  7

218 

税 引 後 営 業 利 益

 1

003  $  300 

識 別 可 能 資 産

$  15

533  $  3

838 

出所: E .   1 .   du Pont de Nemours  &  C o .  1 9 8 2  Annual Report ,  p .  6 2 .  

算し, ドル原価を保持する)。繰延税金 は,それが借方項目である場合には,実 質的に費用の前払いを意味するので,非 貨幣項目である。しかし貸方項目であ る場合には,将来,負債になり,清算し なければならない金額を意味するので,

貨幣項目である。優先株は,事業体の資 産に対する請求権を意味し,一般に,債 務と同じように固定した貨幣額を表わし ているので,貨幣的性質を有していると 考えられる。

①換算差損益は,その発生した期に,直 ちに損益として認識されるべきである。

但し,為替レートが短期間に上下変動す る不安定な状況下においては, しばしば 発生した換算差損益は,ある期間にわた って相殺されるので,繰延処理が適切で ある。繰延べによって生ずる借方項目ま たは貸方項目を,適切な期間にわたって 償却するための引当金を設定する必要が

デュポン社の外貨換算会計に関する見

解と実務

デュポン社は,基準書第

8

号が公表される 以前においては,外貨表示財務諸表の換算に ついて,次のような見解を有していた。

①本国主義,すなわち米ドルの見地から 換算されるべきである。

②貨幣・非貨幣法によって換算されるべ きである。貨幣項目とは,資産および負 債項目のうち,現金形態をとっているも の,将来,現金に転換されるものまたは 現金支出を必要とするものである。この 定義から,棚卸資産は,最終的には現金 に転換されるので,貨幣項目とみなされ るべきである(但し,米国から輸出した 棚卸資産については,取引日レートで換

e 方 FASB 

5. 

P u b l i c  Record ‑ 1 9 7 4  Vo l .  ¥ i .   P a r t  1  :  D i s c u s s i o n   Memorandum ‑ F o r e i g n   Currency  T r a n s l a t i o n ,  p p .  671‑680. 

一上振

9 一 E

'l

HV

表 2 基準書第 8 号を適用した場合と第 52 号を適用した場合の修正後純利益の比較
表 3 結果の要約 第 期 第 2 期 第 1 0 期 1 0 年間の合計 (LC 1  =  $  1 .  0 0 )  (LC 1  =  $ . 9 0 )  HR  HR  HR  CR  HR  HR  LC  $  $  LC  $  $  LC  $  $  三 7三 E二ご 上 I口 司 1 0 0  1 0 0  1 0 0  9 0 0  8 1 0  8 1 0  1 , 0 0 0  9 1 0  9 1 0  原価(減価償却費) 1 0 0  1 0 0  1 0 0  9 0

参照

関連したドキュメント

1.基本理念

また、2020 年度第 3 次補正予算に係るものの一部が 2022 年度に出来高として実現すると想定したほ

前年度または前年同期の為替レートを適用した場合の売上高の状況は、当年度または当四半期の現地通貨建て月別売上高に対し前年度または前年同期の月次平均レートを適用して算出してい

( 同様に、行為者には、一つの生命侵害の認識しか認められないため、一つの故意犯しか認められないことになると思われる。

AMS (代替管理システム): AMS を搭載した船舶は規則に適合しているため延長は 認められない。 AMS は船舶の適合期日から 5 年間使用することができる。

① 新株予約権行使時にお いて、当社または当社 子会社の取締役または 従業員その他これに準 ずる地位にあることを

システムであって、当該管理監督のための資源配分がなされ、適切に運用されるものをいう。ただ し、第 82 条において読み替えて準用する第 2 章から第

新設される危険物の規制に関する規則第 39 条の 3 の 2 には「ガソリンを販売するために容器に詰め 替えること」が規定されています。しかし、令和元年