• 検索結果がありません。

中国における会計不正と内部統制の課題

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "中国における会計不正と内部統制の課題"

Copied!
28
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Abstract

The purpose of this paper is to clarify the issues of internal con­

trol system in Chinese companies. In order to accomplish this pur­

pose, this paper analyses five accounting fraud cases from1990to2017 which accelerated improvement of the internal control standards in Chinese economic development.

Internal control system is one of the components which heighten business ethics in a company. After Accounting Law was revised in 1992, Chinese government has been setting up internal control stan­

dards. Nevertheless, there were still18companies that prepared window­dressing financial statements as of July, in2017. Further, the techniques of financial fraud become diverse. This is the main motivation of this research.

Through case analysis, this paper finds two kinds of accounting fraud in China : the first is“accounting fraud in Chinese financial market”, from1990s to early2000when Chinese market economy was forming; the second is“accounting fraud in global market”, oc­

curring ever after2000when Chinese companies started globaliza­

tion.

This paper also points out five issues of internal control in China.

The first issue is hazardous structure of board of directors in Chi­

nese companies. Secondly, management lacks awareness of risk management. Thirdly, inappropriate corporate culture leads to in­

sufficient employee training for compliance. Fourthly, in China, in­

dustry internal control standards and guides are set but not in a unified way that could be applied to all the industries. Finally, sys­

tematic researches on internal control are mainly copied from COSO and SOX, which may not be perfectly suitable for Chinese economic environment.

Keywords :Accounting Fraud of Chinese Companies, Accounting Fraud in Global Market, Internal control system

中国における会計不正と内部統制の課題

徐 陽

(2)

1 トレッドウェイ委員会(1987)においては,不正とは「他人を欺き,もしくは他 人を誤導することを目的とした一切の行為」である。監査人の責任が「故意による 財務諸表の虚偽記載または省略に関わるもの」と定義している。本稿では,会計上 の虚偽,粉飾や不正な財務報告を,会計不正と総称する。

2 「中国国有企業,9割が財務不正 大手20社の監査公表」日本経済新聞2017年7 月12日電子版。

3 「内部統制」とは,合理的な保障を提供することを意図した取締役会,経営者及 びその他の構成員により整備・運用される企業内部の仕組み,業務に組み込まれた プロセスである。その目的は,業務の有効性と効率性,財務報告の信頼性,関連法 規の遵守,企業財産の保全である。具体的には,各業務で所定の基準や手続きを定 め,それに基づいて管理・監視・保証を行なう,社内のチェック・システムで間違 い(誤謬・不正)を未然に発見できる一連の仕組みを指す。

COSO報告書での勧告の1つは,企業の経営者は自社の内部統制制度の状況を説 明した経営者報告書を,財務諸表に加えて提出すべきというものである。

はじめに

アメリカでは,トレッドウェイ支援組織委員会(The Committee of Spon-

soring Organizations of the Treadway Commission : COSO)フレームワー

クとアメリカの企業改革法(Sarbanes Oxiey : SOX法)の公表により,内 部統制に関する基準が設定されている。近年,中国でも,他の先進諸国の会 計・監査基準を意識しながら,自国の状況に合わせて,企業統治やそれに関 連する内部統制に関する法制度が構築されてきている。

こうした状況であるにも関わらず,中国では,粉飾決算事件などの会計不 が社会問題となっている。2017年7月に至っても,国有企業18社による 会計情報の捏造や帳簿偽造事件などの不正な会計や法律違反が続出してい 。このように中国では,会計不正が相次いで表面化し,不正手段も多様 化し,その金額もますます大きくなっている状況にある。企業統治やそれに 関連する内部統制に関する法制度が整備されてきている背後にはこのよう な状況がある。

(3)

4 「験資」とは,中国公認会計士監査の関連業務の1つである。公認会計士は,関 連法律に基づいて委託を受け,企業の実際に計上されていた資本金およびその関連 資産や負債の真実性,合法性について検証する。験資業務を実施した後に,報告書 を作成し,提出しなければならない。

5 徐(2011a,b)。

本稿では,中国の経済発展段階ごとに区分し,各段階における主な会計粉 飾事件と会計関連法規や内部統制規範等の構築との関連付けを通じて,中国 の内部統制システムの形成,現状およびその課題を取り上げる。

1.中国会計不正の事例

本節では,中国で生じた主な会計不正事件として,原野実業公司事件,

紅光実業事件,銀広夏事件,中国人寿保険の事件,緑諾科技会計操作事件を 取り上げる。

(1)原野実業公司事件

1991年から1995年にかけて,中国では,資産査定(中国語では「験資」 報告書に対する信頼性を失墜させる不正事件が頻発した。この時期,市場で の資金調達目的で重大な虚偽のある資産査定報告書を提出した代表的な事件 として,原野実業公司事件,長城事件,海南事件がある。

このうち,原野実業公司事件は,1992年8月に表面化した深圳原野実業 公司(原野実業公司と略す)の経営者による横領事件である。原野実業公司 は,1987年7月23日に登録資本金150万元をもって創立された会社で,1988 年12月22日に,深圳市人民政府の認可により,「深圳原野紡績有限株式会社」

と社名が変更され,中外合資株式会社となり,登録資本金が2

,

000万元となっ た。その後,1990年2月には深圳市工商管理局の許可を得て,「深圳原野実 業公司」に社名変更して,中国人民銀行の認可により,深圳証券取引所の発 行市場において2

,

450万株を発行し,資本金9

,

000万元の規模を有する会社と

(4)

なった。同年12月10日に,同社の株式は証券取引所に上場され,中外合資株 式会社としては初めての上場会社となった。

当時,原野実業公司は,工業,不動産業,総合貿易,海外事業などを行っ ていた。同社は150万元の資本金から,わずか2年半で9

,

000万元まで60倍に も増加した。しかし,同社は,1989年から1991年にかけて,3年連続で14

,

457

.

5万元の損失が生じていたにも関わらず,売上の水増しや管理費用の隠 蔽,自社株の売買などの方法により,2

.

22億元の利益を計上した。このよう な粉飾が可能となったのは,会計士事務所や会計士が会計不正行為に加担 し,虚偽の資産査定報告書を提出し,さらにはその助言を行ったためである。

中国公認会計士業界に多くの教訓を与えた中国最初の上場会社の事件であ る。

原野実業公司事件に代表されるこの時期の一連の事件は,公認会計士に対 する投資者の信頼を揺るがし,会計不信の危機が引き起こしはじめた。公認 会計士の職務に対する慎重な態度と独立性,会計士事務所の監査品質に対す る監督,それぞれの法的責任などの問題に対する注目を集めた。

このため,「中華人民共和国会計法」(「会計法」と略す)の改正,「中華人 民共和国公司法」(「公司法」と略す)(計280条)の公布が行われた。1993年 10月に「注冊会計師法」(中国語は『中人民共和国注册会计师法』,公認会 計士法に相当)(計42条)が施行され,これらの事件を契機に,中国注冊会 計師協会は「注冊会計師法」に従い監査基準である「独立审计准则」(独立 監査準則)等を制定した。

(2)紅光実業事件

1996年から1999年にかけて,民源事件,紅光実業事件,東方鍋炉事件な どが起きた。この時期は,国有企業の民営化の改革の進展にともなって,証 券取引所への上場目的や株価の引上げを目的として,虚偽の財務情報を作り 出して資金調達を行い,上場後の業績悪化によりそれが表面化した「偽装上

(5)

6 徐(2006)。

7 指定募集とは,中国の企業内部の資金調達方法である。つまり,企業は従業員か らお金を借りて,銀行利息より高めの利息で資金を募集する方式である。

8 現代企業制度とは,市場経済に基づいて,企業法人制度を主体として,企業制度 を中核とする,財産所有権の明確,権限と責任の所在の明確,政府と企業の分離,

科学的な管理を基本とする企業制度である。

9 総株式資本の30.43%を占めている。

場」(中国語「包装上市」)がよく見られた。

特に,紅光実業事件は刑事事件に発展し,成都紅光実業株式有限会社(「紅 光実業会社」と略す)は,中国で最初に検察機関が提訴した上場会社となっ た。

紅光実業会社の前身は,国営紅光電子管工場であった。1958年設立の全民 所有の工業企業であった。主に,電子部品と電子機器,放送通信設備,電子 工業専用設備・材料を製造している。1993年5月に,成都市体制改革委員会 の許可([1992]62号文)を得て,国営紅光電子管工場は,旧国営企業の純 資産の投入とともに,四川省信託投資公司と連合して,中国銀行四川省支店 と交通銀行成都支店を発起人とした指定募集方式により,紅光実業株式会 社に改組された。設立当初は,全国「現代企業制度」の模範企業であった。

1997年5月23日,中国証券監督管理委員会(China Securities Regulatory

Commission : CSRC)の許可([1997]246号文・247号文)を得て,同社は,

国内投資者向けの大衆株を発行し,6月6日に上海証券取引所に上場し,1 株あたり6

.

05元の株価で7

,

000万株を発行し,調達した資金総額は4

.

1億元で あった。その後,発行株式数は23

,

000万株となった。しかし,紅光実業が1998 年4月末に公表した上場初年度の決算報告書において,1

.

98億元の巨大な欠 損が明らかになった。この損失には,上場前の損失と上場後の損失が混在し ていることが判明した。これによって,1株あたりの損失が0

.

86元に及んだ。

紅光実業事件は,中国株式市場において上場初年度の決算報告書において欠 損が明らかになった最初の事件とされる。

(6)

10 徐(2011c)。

紅光実業事件では,成都蜀都会計士事務所が30万元の監査費用を受け取 り,紅光実業会社が上場前に提出した虚偽の資料を通過させた。紅光実業事 件では,重大な虚偽のある財務報告書および予測報告書に対して,成都蜀都 会計士事務所および会計士の関与は否定できない。事件発覚により,CSRC は調査を行った結果,紅光実業は収益の水増し,損失と重大注意事項の隠蔽,

資金流用などの違法行為があったことを明らかにした。成都蜀都会計士事務 所および会計士に対する処罰は,30万元の不法所得の没収と60万元の罰金で あった。また,当該事務所は3年間の事業停止となり,署名した会計士は証 券市場から永久的に除名された。

この事件を受けて,「会計法」の2回目の改正,「公司法」の改正が行われ た。中国注冊会計師協会は,「注冊会計師法」及び「独立監査準則」の基本 準則に従い,「具体準則第9号−企業内部統制と監査リスク」(中国語は,『独 立審計具体准則第9号−企業内部控制与审计风险』)等を公表した。これに より,企業資産の安全・完備を保証し,財務会計の信頼性及び業務活動の適 法性を保証するため,内部統制の「3要素」(組織機構,手続方法,内部監 督)の基本概念が明示された。

(3)銀広夏事件

2000年から2001年にかけて,大手企業の資金調達は,財政支援から証券市 場へ移行し,公募増資のための株価維持と金融融資のために,株価操作また は株価の高騰維持の目的で,財務諸表の粉飾が起きるようになった。この時 期の社会的に大きな影響を与えた代表的な事件が,鄭百文事件,銀広夏実業 株式会社事件である。

銀広夏事件10を起こした会社の前身は,1992年に創立された広夏(銀川)

磁気技術有限公司である。1993年5月に株式会社への組織変更が始まり,広 夏(銀川)磁気技術有限公司は,他の8社の発起人と共同して,4

,

400万株

(7)

11 上場の銘柄コード:000557である。1株当り3.98人民元である。

12 広夏(銀川)実業股份有限公司(1993)。

13 廖(2002)p.5。

14 中国情報局 2005.10.8閲覧。

15 凌・王(2001)。この記事によると,中国工商銀行本店の海外支店を通じた独自 の調査の結果,ドイツのハンブルグ商会で登記した記録では,Fidelity Trading GMBH社は1990年に登記され,登記資本金が51,129.19ユーロ(約10万マルク),責 任者はKiaus Landry,営業範囲は機械製品と技術コンサルティング」となってい たことがわかった。同社の規模と歴史からみて,「天津広夏」との年間契約額20億 元,総額60億元(約231億マルク)の契約を結んでいたとは到底考えられないと指 の発起人株式を引き受け,法人株を発行し,1993年12月21日に,新会社であ る広夏(銀川)実業股份有限公司(以下,銀広夏)の成立が発表された。当 時の同社の主な営業内容は,3

.

5インチフロッピーディスク及びその部品の 生産であった。その後,1993年12月21日から26日にかけて,従業員株300万 株と大衆株2

,

700万株を発行し,総株式は7

,

400万株となった。そして,1994 年6月17日には,深圳証券取引所において「銀広夏

A」

11が上場し,取引が 開始された12。1996年に,同社は,設立時の単一の業務内容から,27社の子 会社を持つ業界横断的な総合会社となった。

銀広夏は,上場後,3回に渡って有償増資を行い,証券市場から合計5

.

74 億元の資金を調達した。2000年には,1年間だけで,株価が13

.

97人民元か ら一時的に75

.

98人民元にまで急上昇し,1年前の平均株価と比べて440%も 高騰した。しかし,銀広夏の驚異的な業績と株価の急激な高騰は,逆に人々 に疑惑を抱かせはじめた13

2001年8月2日,銀広夏の1999年度と2000年度の大部分の業績は偽造され たものであることが報道され14,これを受け翌8月3日,CSRCが,銀広夏 を要訴追事件として提起し,取調べを開始した。8月6日付の雑誌『財経』

は,トップ記事として「銀広夏的陥穽」を掲載し,銀広夏の1999年と2000年 度の業績の大部分が,子会社である「天津広夏」を利用した財務会計報告の 捏造であると指摘した15。8月9日,銀広夏の株式取引が停止された。9月

(8)

摘された。さらに,天津税関による輸出統計証明によれば,「天津広夏」の輸出額は1999 年に480万ドル,2000年に輸出額は3万ドル,2001年6月30日までの輸出額は0で あった。もし銀広夏の公表したとおりであれば,中国の現行税法優遇措置に従い,

税関で輸出税金の還付申請で何千万元の還付収入があるはずであって,財務諸表の 中でも表示されるべきである。しかし,銀広夏の1999年度と2000年度の報告書には 還付税金の項目は見当たらなかった。

16 これはCSRCが,証券会社に対して,内部統制の目標と原則,内部統制の基本的 事項など,主たる内容を定めたものである。当該ガイドラインによりいっそう詳細 な内部統制の構築を証券会社や保険会社等に要求するようになった。

17 これは内部統制評価・審査の内容について規定したもので,例えば,規則に基づ く経営,企業統治,環境牽制,業務牽制,財務牽制,資金牽制,及び電子情報シス テム統治などを含むものとしている。特に,内部統制審査・評価については,リス ク牽制の弱い部分を重視すべきことを強調している。

1日,銀広夏は,遅れていた中間報告を公表し,一株あたりの損失が0

.

039 元であったことを明らかにした。30日間の取引停止後の9月10日に,株式取 引は再開されたが,その後15回も取引停止と再開が繰り返された。株価は37

.

99元から6

.

59元にまで下落し,銀広夏の株式所有の投資者は重大な損失を

被った。

銀広夏事件では,同社を担当していた中天勤会計士事務所は,長年の監査 実務経験にもかかわらず,同社の7

.

45億元(1999年に1.78億元,2000年に

.

67億元)の巨額な利益の粉飾を見抜けず,「無限定適正意見」の監査報告 書を提出していた。会計監査の際に,銀行の残高照合通知書と税関報告書に 対する調査を公認会計士が直接行わず,会社に調査証明を取りに行かせたり するなど,ずさんな監査手続きがみられた。また,価値の分かりにくいハイ テク技術を無形資産に計上し,投資家を騙して資本市場から資金を調達して いた。

CSRC

からは,紅光実業事件の後に,2001年1月,「証券会社内部統制の ガイドライン」(中国語は『券公司内部控制指引』)16,同年10月,「証券会 社の内部統制の評価・審査業務を円滑にするための通知」(中国語は『䎔于 做好券公司内部控制评审工作的通知』)17が公表されていたが,銀広夏事件

(9)

18 この準則では,上場会社の監査委員会は,会社の内部監査制度及びその実施を監 督する役割を有し,また内部統制制度などについては監査する職責を有すべきであ ると規定している。

19 「証券会社の企業統治準則(試行)」では,証券会社の経営者層は,各自の責任 を明確化し,業務遂行のプロセスが明確な組織構造を確立すべきことを要求してい る。すなわち,各種のリスクを見分け,見積もりを実施し,効率的な内部統制制度 と内部牽制規制を確立・整備して,内部統制の過程における欠陥あるいは問題を迅 速的に処理または訂正すること。また,内部統制の不利,内部統制のプロセスにお いて,欠陥または問題を適時に処理・訂正をしていない場合に対しては責任を負う べきであるとしている。

20 西崎(2005)p.89。

21 王(2008年)。

の後に,2002年1月,「上場会社の企業統治準則」(中国語は『上市公司治理 』)18,2003年12月,「証券会社の企業統治準則(試行)」(中国語は『 券公司治理准行)』)が公表された19

同様に,中国財政部も,2001年6月以降,順次,「内部会計統制規範」に 関する基本規範と具体的な7つの規範を公表した。さらに,2002年5月には,

中国注冊会計師協会は「企業内部統制審査・指導の意見書」(中国語は『企 業内部控制審核指導意見』)を公表したが,これは内部統制の審査内容,手 続き及び報告についての意見書である。

(4)中国人寿保険の事件

2003年から2004年になると,新たな形の不正会計事件が出現した。その代 表は,「上海一の富豪」と呼ばれた周正毅の民営企業に対する巨額不正融資 事件であり,中国人寿保険に対する集団訴訟事件である。中国人寿保険への 訴訟事件は海外投資家を巻き込む国際的な問題となった。中国不正会計が,

より巧妙化し,中国国外にも広範化しつつあることが伺われる出来事といえ 20

中国人寿保険の事件21とは,中国最大の生命保険会社による不正疑惑とそ

(10)

22 内訳は,代理違反(「非法代理」や払戻超過(「超額退保」)など不当な競争によ る資金23.8億元,違法な借り入れや投資で運用していた資金25億元,帳簿外の “小 金庫” に保管していた資金0.3179億元,犯罪行為に関与していた資金4.98億元だっ た。

れに対する米国投資家を中心とした集団訴訟事件である。2003年6月,中国 人寿保険会社は,中国人寿保険(集団)会社に再編成し,「中国人寿保険株 式有限会社」を設立した。同社は,2003年12月17日と18日に,株式公開によ り,ニューヨークと香港証券取引所へ上場した。ところが,2004年1月に,

親会社の中国人寿保険(集団)公司に上場時から54億元の違法な資金22があ ることが,中国国家審計署による「2003年の監査業務報告」で明らかとなっ た。この結果,中国人寿保険株式有限会社への信頼性が低下し,上場後高値 を維持していた株価は,ニューヨーク市場と香港市場ともに大幅に下落し,

多数の投資家に損害を与え,上場前の不正会計行為に対する集団訴訟が米国 投資家を中心に行われた。

2004年3月16日,米国の弁護士

Milberg Weiss氏は,「監査情報を適切に

公開せず,1934年の米国証券法に違反した」という理由で,中国人寿保険有 限会社に集団訴訟を起こしたが,その直前の2月3日までに中国人寿保険有 限会社の株式を保有している米国の投資家が対象に集団訴訟の原告団に加わ るようと呼びかけていた。3月25日には,別の米国弁護士事務所のCauley

Geller

氏も同事件のために,投資家に呼びかけて中国人寿保険有限会社に「集

団訴訟」を要求していた。

粉飾決算の発生は,市場経済が発達した国でもしばしば見られる事態であ る。ましてコーポレート・ガバナンスに関連する法規や基準が制定されて間 もない当時の中国にあって,この事件は,さまざまな問題がまだ存在してい た可能性を示すものと考えられる。

こうした状況を受けて,2004年8月に「公司法」と「証券法」が同時に大 改正された。中国注冊会計師協会も「注冊会計師法」及び「独立監査準則」

(11)

23 中国語は『独立審計具体准則第29号−了解被审计単位及其環境并评估重大错误风 险』征求意见稿である。中国注冊会計師協会(2004)。

24 中国注冊会計師協会(2004)。

25 内部統制について次のように規定していた。

内部統制は,被監督企業が財務報告の信頼度,経営の効率・効果,及び法律法規 の従うことを合理的に保証するため,管理当局及び立法担当者により設計・執行し た政策及び手順であることである。第29号はCOSOの内部統制の枠組と内容を取り 入れ,その目標もCOSO内部統制枠組の目標とほぼ一致して,五項目の要素を定め ている。

26 毕(2013),莫(2013)。

に従い,「独立監査具体準則第29条−被監査企業及びその環境を調査ならび に重大な誤報リスクを評価」意見募集23および「独立監査具体準則第30条−

重要な虚偽記載のリスクを査定するための手続」24の意見書が公表された。

これは独立監査具体準則の第9号,第20号及び第21号の部分的な内容を整理 統合し,内部統制について規定されたものである25

(5)「緑諾科技」会計操作事件

大連の緑諾科技(Green Commitment Technology)は,2009年に,既上 場企業を利用する方法で,アメリカのナスダックへの上場を果たした中国最 初の会社である。

「緑諾科技」会計操作事件26とは,海外に既に上場している会社を利用し て自社の株式を証券市場に流通させた事件である。2003年2月に創立された 大連緑諾環境工学科学技術有限会社(以下は「緑諾科技」と略す)は,廃水 処理,ガス脱水,省エネと資源のリサイクルなど新製品の開発・製造と工事 取付のハイテク企業である。事業拡張のため,海外での上場を目指して,

2006年11月にイギリスのヴァージン諸島で「創想集団有限会社」を創立した。

そして,出資の全額は,緑諾科技が負担して,「香港致富資本集団」を財務 顧問として,その操作のもとで,「創想集団有限会社」が,米国のプロテク ションエリア(場外)の店頭取引システムである

OTCBB市場に上場して,

(12)

27 中国概念株とは,外国人投資家に対して海外で発行する中国の株券の呼称であ る。

既に上場している「玉山会社」(Jade Mountain)を買付けた。「玉山会社」

は「大連創想環境工学有限会社」と改名し,「緑諾科技」と株式交換を行なっ た。「緑諾科技」はその全額出資の子会社になった。2007年10月11日,緑諾 科技は正式に

OTCBB市場で取引を開始し,個人投資家から2 ,

500万ドル(約

.

48ドル/株)の資金を募った。2009年,再度資金調達が必要となり,

Rodman

& Renshaw Bankの支援を受けて,同年の7月13日,緑諾科技は店頭市場

から,ナスダックに上場した。2009年12月18日,緑諾科技の1株ごとに30

.

75 ドルの高値で追加発行して,再び1億ドルの増資を行った。しかし,この増 資をきっかけに,緑諾科技に対して人々が疑念を持ちはじめ,2010年の9月,

米国の市場調査会社である

Muddy Waters Researchが調査を開始し,2008

年から2010年の財務報告に関する疑問を,2010年11月10日に発表した。この ことにより,緑諾科技に詐欺の疑いがかかった。

2010年12月3日に,ナスダックは,緑諾科技に対して上場廃止を勧告した。

この問題に対応できなかったことから,12月9日,緑諾科技のナスダック上 場を廃止し,監理・整理ポストに入れた。緑諾科技事件が起きた2009年から 2010年のわずか2年間で,米国に上場している中国会社の財務問題が多数発

生し,その数は約100件にものぼった。

米国管理監督機関の公開会社会計監査委員会(Public Company Account-

ing Oversight Board:PCAOB)の報告では,中国概念株

27の財務問題の主 な原因は,米国の小規模な会計事務所が会計調査者として監査を外注で実施 したことにより,関連の監査基準に準拠せず監査業務を展開したことに原因 があることを認めた。米国の各取引所で上場された約340社の中国企業のほ とんどは,小規模な米国会計事務所を任用している。これらの監査事務所は,

上場企業への厳しい会計監査を行うことができず,多数あるいはすべての監 査業務を,中国事務所や監査補佐官に外注していた。SECの首席会計士は

(13)

28 毕(2013)p.3。

29 PCAOB(2011)。

次のように述べている28。距離と言語の問題があるため,中国の会計士が提 供したいくつかの報告書は米国の監査人がまったく理解していない。そこ で,米国の監査人は,中国の会計士に提供された情報について厳密な審査を 疎かにしていた。このことが,一部の会社の不正会計の結果となっている。

この他,PCAOBでは,多国籍の監査の管理監督の二国間の合意が,中国 証券監督管理委員会との間でまだ成立していないこと,現在の

PCAOB検査

あるいは法律の執行の範囲は,中国の監査人の行為まで及ばないことも指摘 されている29。したがって,その他の監査人の身分で,監査過程において中 国国内会計事務所に関与することでの管理監督ができず,会社の会計不正を 見逃す可能性があった。

2.中国の内部統制システムの現状

第1節では5件の会計不正の概要を述べた。このうち,最初の3件は,

1990年代から2000年代初頭にかけてのもので,中国の市場経済化の進展の中 で生じた事件である。主に,国有企業の民営化及び中国国内の証券市場を通 じた不正といえるであろう。これに対して,後の2件は,2000年代に入って からの事件である。中国企業のグローバル化を背景に,海外の証券市場や投 資家にも影響を与えた不正といえるであろう。中国政府は,さまざまな会計 不正事件の対策として,会計関連法規や内部統制規範等の法的インフラへ向 けて急速な対応を図っているが,当初は中国国内を対象にしていたものが,

グローバル化に伴い,次第に国際的な規範に合わせたものに変化して,現在 の制度になっているということができる。2006年に上海証券取引所が公表し た「上場会社の内部統制ガイドライン」は,中国で最初の標準化された内部 統制開示であり,その後2008年6月に,中国財政部,証券監督管理委員会,

(14)

30 「内部統制基本規範」第1条。

31 企業内部統制ガイドラインは,具体的に『企业内部控制应用指引第1号−组织 架构』(「企業内部統制応用ガイドライン」),『企业内部控制评价指引』(「企業内部 統制評価ガイドライン」),『企业内部控制审计指引』(「企業内部統制監査ガイドラ イン」)の三つのガイドラインから構成されている。

32 中国最初の「会計法」は,1985年1月に第6期全国人民代表大会常務委員会第9 回会議において可決公布され,同年5月より施行した。その後,1993年12月に第1 回目の改正,1999年10月に第2回目の改正が行われ,2000年7月1日に施行され,

現在も効力を有している。

33 1993年に「公司法」が成立し,国有企業は現代的な企業形態を採用することがで きるようになった。公司法の成立によって先進資本主義国の企業制度と共通する現 代企業制度の構築を果たした。

34 徐(2003)

審計署(会計検査院に相当),銀行業監督管理委員会および保険監督管理委 員会の各機関が共同して,「内部統制基本規範」(中国語は『企内部控制基 范』)を公表した30。さらに,2010年4月に当該基本規範の実務指針と なる「企業内部統制ガイドライン」(中国語は『企内部控制用指引』)を 公表した31。「内部統制基本規範」と併せて,内部統制システムと呼ばれる。

(1) 制度の現状

中国の内部統制の規制のプロセスを振り返ると,内部統制システムを整備 し,運用するための規範等が制定されたのは,1999年改正の「会計法」32 初めてである。

中国においては,1990年代の初期まで国有企業が国民経済の中心を担って おり,計画経済体制の下で,内部統制制度は必要がなかった。しかし,社会 主義市場経済体制への移行に伴って,「公司法」33や「証券法」等の制定によっ て,証券取引所に上場する会社も多数存在するようになってきた。株式会社 の出現により,規模の拡大や取引の複雑化がもたされた。資本市場や経済規 模の拡大に法制度の整備が追いつかない状況下34で,いち早く内部統制制度 を導入した理由は,「現代企業制度」の構築の一環として,上場会社の質を

(15)

35 会計委派制とは,政府部門が会計職員を会社に派遣して経理活動の監督を委託・

任命する制度である。財務総監委派制とは,所有者である株主が会計職員を会社に 派遣して経営者の監督を委託する制度である。

36 徐(2004)。

37 「内部会計統制−基本規範」は中国の会計法に基づき,内部会計統制の枠組みを 規定したものである。主に貨幣資金,棚卸資産,対外投資,工事項目,商品売買と 収支状況,資金調達,売上原価,担保などの項目の基本規範が公表されたものであ る。これにより内部会計統制のフレームワークの整備が進められた。

38 劉(2002)。

高め,それまで構築が遅れていた会計・監査,企業統治,内部統制制度を国 際的水準に追いつくことを一つの狙いとしていたと考えられる。そして,多 くの制度的な改革が実施された。

中国注冊会計師協会は,「注冊会計師法」および「独立監査準則」に従っ て,1996年12月に「独立監査準則第9号−企業内部統制と監査リスク」を制 定し,1997年1月1日に施行した。本準則第9号は,内部統制の「3要素」

の基本概念(組織機構,手続方法,内部監督)を明示したものである。そこ で示された定義では,本準則の内部統制は,監督される企業が,業務活動の 有効な進展を保証すること,資産の安全と整備を保つこと,誤謬と粉飾を防 止・発見・訂正すること,会計資料の真実・適法・整備を保証することを目 的として,制定及び実施した政策およびプロセスである。内部統制は,環境 管理・会計システムと統制プロセスを含むとしている。これらの定義から,

中国の内部統制の主たる対象は企業内部における会計統制に限定されてい る。

その後,1999年に「公司法」の改正が行われ,2000年9月に会計委派制35 や財務総監督委派制の導入など政府による不正行為の摘発も施行された36

2001年6月には,中国財政部は「内部会計統制規範−基本規範」(中国語 は『内部会控制范−基本范』)を公表し37,具体的な規範も順次公表 された。資金等の内部統制と管理,資金の安全を保障することが強調される 規定を設けた。内部会計統制体系の基本的枠組みが構築されはじめた38

(16)

39 2002年1月,「上場会社の企業統治準則」(中国語は『上市公司治理准』)が公 表された。この準則では,上場会社の監査委員会は,会社の内部監査制度及びその 実施を監督する役割を有し,また内部統制制度などについては監査する職責を有す べきであると規定している。

40 徐(2008)。

41 1997年5月16日に中国人民銀行(中国の中央銀行)が初めて「金融機関の内部統 制の向上に関する指導原則」(中国語は『加强金融机内部控制的指』)を公 表し,1997年12月30日に,中国人民銀行は「金融機関内部統制の改善と強化に関す る若干意見」(中国語は『䎔于一步完善和加强金融机内部控制建的若干意 见』)を公表した。そして,1999年8月5日に,中国保険業監督管理委員会が「保 険会社内部統制制度の建設に関する指導原則」を公表した。2001年1月31日に「証 券会社内部統制のガイドライン」(中国語は『证券公司内部控制指引』)が公表され た。これは証券取引委員会が,証券会社に対して,内部統制の目標と原則,内部統 制の基本的事項など,主たる内容を定めたものである。当該ガイドラインがより詳 細な内部統制の構築を証券会社や保険会社等に要求するようになった。さらに,20 07年7月13日に中国銀行業監督管理委員会が新しい「商業銀行内部統制ガイドライ ン」を公表し,2014年9月12日に,改正「商業銀行内部統制ガイドライン」(中国 語『商业银行内部控制指引』)を公表した。当該ガイドラインには総則,内部統制 の義務,内部統制の措置,内部統制のセキュリティ,内部統制の評価,内部統制の 監督,附則,計7章51条もある。このように,金融監督機関がそれぞれ新しい内部 統制の規定を制定されるに至ったことは,中国においても米国や日本と同様に銀行 を中心に金融機関の内部統制が先行していたことがわかる。

2002年1月に,中国証券監督管理委員会から「上場会社の企業統治準則」39 が公表された。しかし,この時期までの整備は,まだ主に中国国内に限定さ れていたといえる40

2006年6月に,「公司法」,「証券法」等の法律および証券取引所の株式上 場規則に基づいて,上海証券取引所と深圳証券取引所が,それぞれ「上場企 業内部統制ガイドライン」を制定し,上場会社を対象に内部統制の構築を義 務付けた。それまでに銀行業や保険業などの金融業界を中心にいくつかの内 部統制に関する規定41は存在したが,上場会社全体に内部統制の構築を要求 するのは初めてであった。

そこで,全国の会計を主管する行政機関である中国財政部がイニシアティ

(17)

42 内部統制基準委員会は,中国の財務省,中国証券監督管理委員会,審計署,中国 銀行監督管理委員会,中国保険監督管理委員会が2006年7月に設立した中国企業内 部統制基準システムの諮問機関であり,2016年8月に,行政機関の内部統制基準の 構築と実施を推進するため,財務省の指導部の承認を得て「内部統制委員会」に改 称した。

43 「企業内部統制基本規範」第1条。

44 企業内部統制ガイドラインは,具体的に「企業内部統制応用ガイドライン」,「企 業内部統制評価ガイドライン」,「企業内部統制監査ガイドライン」といった三つの ガイドラインで構成されている。

ブをとって,それまで断片的かつ漠然とした規定を纏めることとした。財政 部は,企業の内部統制に関する規定を強化するため,証券監督管理委員会,

審計署,銀行業監督管理委員会および保険監督管理委員会の各機関と共同し て,2006年に中国内部統制基準委員会を設立した。

内部統制基準委員会42は,企業の内部統制を強化し,標準化し,企業の管 理とリスクの予防のレベルを向上するため,企業の持続可能な発展を促進 し,社会主義市場経済の秩序と公益を維持するため,「会計法」,「公司法」

および「証券法」に基づいて,2008年6月には「企業内部統制基本規範」を 公表した43。2010年4月に当該基本規範の実務指針となる「企業内部統制ガ イドライン」を公表した44。これらはまとめて中国版

SOX

法(以下,C-SOX 法と略)と呼ばれるものである。

「企業内部統制ガイドライン」は,基本規範と共に,中国の内部統制シス テムを構成し,企業が内部統制を構築,評価,さらに監査人が内部統制監査 を行う際の指針を示している。現在の法規や基準の体系をまとめたのが,図 表1である。

C-SOX法の通達文によれば,企業経営者は,内部統制組織の有効性を評

価し,その結論を年度の内部統制評価報告書として報告しなければならな い。また企業から内部統制の監査の依頼を受けた会計事務所等は,企業の内 部統制が有効に機能しているかを監査し,内部統制監査報告書を提出する。

企業自ら内部統制を評価し,それを会計士事務所に委託し監査する方式は,

(18)

(出所)筆者作成 図表1:中国の内部統制システムの枠組み

アメリカや日本と同じである。このように

C-SOX法に見られる内部統制は,

企業のグローバル化の進展に伴って生じた2000年以降の不正事件を背景とし て生じていると思われる。

しかし,C-SOX法は,2009年7月1日から施行されたが,施行と同時に 強制的に適用されたのは上場会社のみで,非上場会社の大中規模企業には,

その適用が推奨されただけであった。他方,基本規範では,中国の国内にお いて設立された大中規模企業に適用されると定められている(第2条1項)

ため,その後,徐々に非上場大中規模企業まで内部統制の構築義務は拡大さ れている。一斉適用による混乱を回避するため,上場会社と非上場大中規模 企業との間に適用時期の差を意図的に設けていると考えられる。

2017年6月29日には,「小企業内部統制規範(試行)」(中国語は「小企 内部控制范(行)」)が公表され,2018年1月1日に施行された。この目 的は,中小企業の内部統制の確立と効果的な実施を指導するために,経営管 理レベルとリスク予防能力を向上させ,中小企業の健全で持続可能な発展を 促進することであり,「会計法」,「公司法」等の法律および「企業内部統制

(19)

45 「小企業内部統制規範(試行)」第1条。

46 「行政事業の内部統制規範(試行)」第1条。

47 法令等の遵守とは,企業活動に関連する法令その他の規範等を遵守することであ る。

48 資産の保全とは,資産の取得,使用および処分が正当な手続きおよび承認の下に 行なわれるよう,資産の保全を図ることである。その資産には,有形の資産のみな らず,知的財産などの無形資産も含まれる。

49 財務報告の信頼性とは,財務諸表に重要な影響をおよぼす可能性のある情報の信 頼性を確保することである。

50 業務の有効性・効率性とは,事業活動の目的達成のため,業務の有効性・効率性 を高めることである。

の基本規範」に従って制定された45

なお,2012年11月29日,財政部が「行政事業の内部統制規範(試行)」を 公表し,2014年1月1日に施行された。本規範は,行政機関の内部管理レベ ルをさらに向上させるために,内部統制の標準化,政府の腐敗防止メカニズ ムを強化するため,「会計法」,「予算法」およびその他の法律の規定に従い,

制定されたものである46。内部統制の適用範囲は,行政にまで拡張されてい ることがわかる。

(2)内部統制の目的

C-SOX法によれば,内部統制とは,企業の董事会(取締役会),監事会(監

査役会),経理(経営管理者,執行役)だけではなく,全従業員が実施する もので,統制の目標を達成するためのプロセスであるとしている(第3条1 項)。そして,内部統制は,企業の経営管理の合法・合法規性47(すなわち 法令等の遵守),企業資産の保全48,財務報告および関連情報の真実・完全 性(信頼性)を合理的に保証する49ことで,業務の有効性・効率性50を高め,

企業の発展戦略の実現を促進するために構築すると規定している(同条2 項)。このように

C-SOX法においては,①法令等の遵守,②資産の保全,③

財務報告の信頼性,④業務の有効性・効率性,という順番に4つ目標を挙げ

(20)

51 中国には「上に政策があれば,下に対策がある。」(「上有政策,下有対策」)とい う言葉がある。元々は国に政策があれば,国の下にいる国民にはその政策に対応す る策があるという意味だが,現在は「決定事項について人々が抜け道を考え出す」

という意味で多く使われている。

ている。米国のCOSOレポートが提示している順番と並び替えているが,

これは中国の経済的環境要因にあわせて,コンプライアンスの水準の低さ51 から経営管理の合法・合法規性を強調し,債権者保護の弱さから企業資産の 保全を強調する意図が背景にあったと考えられる。

COSO

レポートとは,COSOが公表した「内部統制-統合的枠組み」報告 書のことである。上述したように4つの目標の順番が異なっているが,他方,

主に次の点で,COSOレポートの内容が,中国が構築した内部統制フレー ムワークに影響を及ぼしていると考えられる。具体的には,第一に,企業の 内部統制の構築と改善を促進すること,第二に,リスク意識を高め,全体的 なリスクアセスメントメカニズムを構築することとなり,第三に,内部コミュ ニケーションを促進し,取引間のギャップを取り除くことである。この基準 の上で,企業およびグループ会社に対し,自らの機関の内部統制システムを 改善するよう促し,内部統制の構築と改善のための枠組みを提供することが できる。

2005年に上海証券取引所が公表した「上海証券取引所の上場会社の内部統 制ガイドライン」や,その後,深圳証券取引所が公表した「深圳証券取引所 の上場会社の内部統制ガイドライン」にもCOSOレポートの影響がみられ る。

このような規定から,中国の内部統制は,基本的には米国の

COSOレポー

トの枠組みを基礎において制定されたものでありながら,自国の状況にあわ せて多少アレンジしていると言える。特色のある中国の企業内部統制規範シ ステムが,国際基準に近づきつつあることを示している 。

(21)

52 閻・楊(2000)。

53 李(2007)。

54 李・杜(2015)。

(3)中国の内部統制システムの現状

中国の内部統制システムの整備とともに,学術研究も増加している。閻他

(2000)は,COSO報告の内部統制五要素に基づき,コンプライアンス経 営と効率的経営により内部統制の枠組みを構築することが現状に合わせるこ とを,管理者の重要な役割として指摘した52。李(2007)は,内部統制は一 種の管理手段であり,内部統制の目標が最終的に企業価値の創造であると述 べている53。しかし,有効な企業内部統制が会計上の財務実績をもたらすこ ととなるが,内部統制の有効性と上場企業の市場における財務実績との関連 性が薄い54。中国では,内部統制に関する研究は,広範囲でかつ多様な方法 で研究されているが,研究成果はまとまりがなく,体系的な研究はされてい ないようにも見える。

現段階における中国企業の内部統制システムは,次の3類型にまとめるこ とができる。

第1は,内部統制要素を構造に取り入れた,内部統制の全体的な枠組み型 である。これはCOSOの内部統制の枠組みに類似する。

第2は,全体的な枠組を構築することがなく,実践的に展開する実務型で ある。

第3は,枠組み型と実務型の総合型である。すなわち,内部統制の枠組み を描きながら,実務運用も説明するという結合的な形態である。

振り返ると,内部統制の立法化の時期は早かったといえるが,中国におけ る内部統制規範とそのガイドラインの制定は,中国企業のグローバル化に伴 い,会計・監査・内部統制システムを欧米の制度にキャッチ・アップさせる ことを1つのねらいとしていたように考えられる。COSOに代表される欧 米の内部統制制度の導入によって,中国企業の健全性と中国の資本市場の先

(22)

55 徐(2008)。

進性を国際社会に示すことが可能になったといえるであろう。そして,この ような内部統制システムの中国での構築によって,内部統制自己評価報告と 内部統制監査報告といった報告書レベルでは,質的・量的変化が生じること となる。

3.中国の内部統制システムの問題点

本稿では,中国の内部統制システム構築と関わる主な会計不正と内部統 制に関わる法規や基準を概観した。内部統制システムにおいて建設の初期段 階では,内部統制の開示システムの形成が遅れており,政府と研究者は明確 な指導や開示制度を探し求めながら進めていた。2008年内部統制システムが 公表されて以降,中国企業の内部統制システムは,かなり整備されていると 考えられるが,まだ次のような問題がある55

第1は,企業の内部統制システムが弱いことである。中国の企業は発展し 続けており,上場企業が続々と増えているが,企業の内部統制の欠如やコー ポレート・ガバナンス機関の抜け穴のため,取締役会,株主総会など会社組 織の通常の役割が果たされていない。多くの上場企業は,代表取締役は一人 であり,このような点にガバナンス体制や内部統制の欠陥があると考える。

第2は,多くの企業のリスク管理が弱く,内部統制とリスク管理を補完す ることが難しいことである。世界的に急速にすすむ経済統合の下では,企業 が発展過程において遭遇するリスクは,一面だけでなく,いくつかの側面に 現れる。企業の内部統制とリスク管理との関係をいかに改善するかは,経営 管理における重要な課題の1つとなっている。しかし,中国企業の内部統制 システムが整備されておらず,企業経営におけるリスク意識が不十分であ り,その結果,高層管理者の多くはリスクのコントロールが難しく,リスク

(23)

回避メカニズムもなく,効果的なリスク評価メカニズムもない。企業の発展 過程において,リスク意識が欠如しているため,リスク管理作業が経営効率 の低下につながることはなく,リスク回避能力は不十分であり,企業を窮地 に陥らせる。

第3は,企業文化の構築の弱さと従業員の質の訓練の欠如である。企業文 化は企業の成長と発展の原動力である。従業員の個人的な道徳的素養は,企 業文化の中で重要な部分を占めている。現在の中国企業では,企業の文化的 構築が弱く,積極的な企業文化を形成することができず,従業員の専門的な 質は一般的に低いため,従業員の専門的な質の向上が必要である。

第4は,現段階における中国では,内部統制システムの構築にあたり,内 部統制の適用範囲が広く,かつ業種別に規定されており,行政色が強いこと があげられる。中国企業の内部統制システムは,試行錯誤を繰り返しながら,

分散から統一(収斂)に向かう過程にあるといえる。このため,統一的な内 部統制の枠組みおよび手引きが具体的に形成されていないので,内部統制の 位置付け,構造・目標及び評価・報告のシステム面において整備する必要が ある。

第5は,内部統制システム構築の視点から見ると,中国の企業は,内部統 制の創設および内部統制報告書を開示する際に混乱に直面する。内部統制に 対する重要性があまり認識されておらず,政府監督管理規則の遵守と理解し ている企業が多い。また,内部統制の理解および視点の差異によって位置付 けが異なっている。したがって,内部統制システムの導入が企業の経営効率 を高め,会計の不正行為の防止,会計情報の信頼性の向上に果たす役割とそ の重要性について認識すべく方策を講じ,利害関係者と投資家の期待にそえ るようにする必要がある。

第6は,内部統制システムに関する総合的な研究がいまだに確立していな い現状があげられる。理論研究に基づく内部統制の共通の土台がないため,

効率的な研究面での交流ができないことは,中国の内部統制の理論研究の進

(24)

展に不利益をもたらす。すなわち,内部統制の主眼を会計統制におく研究,

あるいは,会計情報,不正会計,経営目標の実現,戦略の実現,管理統制の 研究など,その目標,範囲,体系および内容などに統一性がなく,そのレベ ルも会計管理統制を主としたものが多い。このため,企業の本質,企業全体 の効率性の視点から内部統制の理論体系と枠組を統一的に研究する必要があ る。また,財務報告に関する内部統制の評価の範囲は,企業単体ではなく「連 結ベース」で行なうことが求められ,連結ベースでの財務報告全体に重要な 影響を及ぼす内部統制の評価を行う必要があるであろう。

おわりに

本稿では,中国における内部統制に関する規制の展開の過程を5つの大 きな粉飾事件と関連付けて示すとともに,現時点で考えられる問題点を指摘 した。中国では,市場経済の進展を背景として,現在まで徐々に内部統制の 基準は改善されてきている。しかしながら,本稿で示したように,中国では 粉飾事件は後をたたない。

このような中国における状況を解明するためには,中国における会計や監 査の実務の特徴,それらを取り巻く中国での経済体制の変化(計画経済から 社会主義市場経済への移行過程)とそれに伴う会計や監査の位置づけ,さら には経営者や会計担当者の考え方の変化などの様々な要因を検討する必要が あるであろう。

実際,中国で粉飾が続くのは,旧来の体制の中での会計や監査に関する旧 来の考えが残り,新たな内部統制の規制に追いついていないように思われ る。これを改善し,内部統制システムが安定した仕組みとして役割を果たす ことを可能とするためには,次のようなことが考えられる。

まず,企業経営者などの意識を変革することである。このためには,独立 取締役と監査役会の独立性の強化,内部統制自己評価報告における評価など

参照

関連したドキュメント

This paper aims to clarify the features of the descriptions of Japan in Chinese geography textbooks. Japan and China share a long-term relationship. The descriptions of Japan in

In the present paper, the methods of independent component analysis ICA and principal component analysis PCA are integrated into BP neural network for forecasting financial time

mathematical modelling, viscous flow, Czochralski method, single crystal growth, weak solution, operator equation, existence theorem, weighted So- bolev spaces, Rothe method..

We have described the classical loss network model similar to that of Kelly [9]. It also arises in variety of different contexts. Appropriate choices of A and C for the

Kraaikamp [7] (see also [9]), was introduced to improve some dio- phantine approximation properties of the regular one-dimensional contin- ued fraction algorithm in the following

In Section 3 the extended Rapcs´ ak system with curvature condition is considered in the n-dimensional generic case, when the eigenvalues of the Jacobi curvature tensor Φ are

In this work, we have applied Feng’s first-integral method to the two-component generalization of the reduced Ostrovsky equation, and found some new traveling wave solutions,

We shall see below how such Lyapunov functions are related to certain convex cones and how to exploit this relationship to derive results on common diagonal Lyapunov function (CDLF)