長崎の 原爆音楽 に関する調査報告
山 野 誠 之
はじめに
長崎に落とされた原爆に関する,文字や映像による証言活動が進展する中で,原爆に由 来する芸術作品に対する関心が高まってきたことは,至極当然のことと言えよう。 原爆 音楽 を発掘し,あるいは創作し,評価を加え,その中の優れた作品を上演する活動は,
核の現在,すなわち人類絶滅の危機を背景として,今や音楽人に課せられた最大の使命の 一つとなった。
長崎の 原爆音楽 に関する総合的な調査や研究は,これまでほとんど行われておらず,
このまま放置すれば,多数の資料は時と共に散逸を免れず,調査や研究を全く不可能にす るおそれがある。それ故,それらの資料の存在を確認し,保存する活動が直ちに開始され なければならない。楽譜の収集,文献の収集,音声資料の確認と収集(ビデオテープを含 む),プログラムの収集などの基礎作業を行い,これらの出典を一つ一つ確認することは,
今後の研究の土台を築く大切な階梯である。本論においては,長崎の 原爆音楽 に関す る調査と研究を行うための基本資料をリストアップし,その内容を明らかにする〔1〕。
さらに,これに基づいて長崎の 原爆音楽 の作品リストと年表を作成する〔H〕。個々 の作品についての詳細にわたる研究は後日を期したい。
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なお,この調査報告において,長崎の原爆音楽を厳密に定義することは不可能であるが,
何らかの意味で長崎に落とされた原爆にかかわる内容を含んでいると考えられる作品を調 査の対象とした。また,ここに発表する調査報告は,1982年10月31日現在における中間報 告である。
1 基本資料とその内容
【楽譜の出典】
資料1)原子野のうた声(原爆をめぐる十二歌曲) 木野普見雄著 長崎国際文化協会発
行1956年8月7日
この資料は長崎の 原爆音楽 を収集する手掛かりとなる重要な資料である。作曲者の 木野普見雄(1907・12・18 大分県杵築市〜1970・9・27 長崎市,本名文男)は,長崎
日日新聞社会部長,長崎日報取材部長を経て長崎市役所に入り,戦後は市議会事務局長を 務めたアマチュア作曲家であった。この資料には,1956年8,月までに作曲された12曲の原 爆歌曲が収められている。
資料2)遠山音楽財団付属図書館所蔵の楽譜
この資料には, 「しろばらの」の自筆楽譜が含まれている (年表を参照)。他にE・ブ ランデンの詩による「ヒロシマ」が収められている。
26 長崎の 原爆音楽 に関する調査報告(山野)
資料3)1960年全九州合唱団会議i創作曲集
この資料は,当時九州各地で「うた声運動」を展開していた合唱団が合同して,濃しく 創作した作品をまとめた曲集である。
資料4)長崎の証言 第10集 P.207〜209「長崎の証言」刊行委員会編著 1978年7月25
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楽譜が掲載されているものとしては,第10集の他に季刊「長崎の証言」6(1980年2月 10日発行),同11(1981年5月15日発行)がある。季刊「長崎の証言」6に掲載された2 曲は,資料5)の中にも含まれている。
資料5)長崎原爆の歌 P207〜224 (楽譜の部) :NHK長崎放送局編 1980年8月1
日
この資料は,1979年8月,詩と曲によって原爆を表現しようという考えのもとに・NH K長崎放送局が県民に応募を呼びかけたものである。この中には多数の詩と共に,16曲の 楽譜が収められている。
資料6)永井記念館所蔵の楽譜
こめ資料には,山田耕搾「南天の花」の自筆楽譜(独唱用)とその編曲(混声4部合唱 用,印刷譜),古関裕而「新しき朝の」 「ああ此の涙をいかにせん」の自筆楽譜が収めら れている。 rああ此の涙をいかにせん」 (サトウ・ハチロー詩)の他は,いずれも永井隆 の詩歌による作品である。
資料7)反核・日本の音楽 P.2〜23(巻末,反核・日本の音楽の楽譜から) 芝田進午,
矢澤 寛,木下そんき編著 1982年7月20日発行
この資料には,大衆的で一般に広く歌われている16曲が収められている。その中の1曲 は,同一曲の英詩による楽譜である。長崎出身のシャンソン歌手,美輪明宏の歌が1曲含 まれている。
資料8)長崎市教育委員会文化課所収の楽譜
長崎市民会館の落成を記念して委嘱された「交響詩ながさき」 (團伊玖磨作曲)のオー ケストラ総譜(自筆楽譜),パート譜,レコード,演奏会のプログラムが保存されている。
江間章子の詩の自筆原本も保存されている。木野普見雄「復興の歌」は長崎市選定となっ ているが,楽譜の所在は不明である。同じく, 「新長崎文化音頭」も長崎市学務課編とな
っているが,楽譜の所在は不明である。
【音声資料の所在】
資料9)長崎市国際文化会館原爆資料係所収の音声資料
この資料には,木野普見雄「原子野のうた声」のうち7曲を,1970年8月,長崎市原爆 被爆対策部が収録したテープが含まれている。
資料10)NHK長崎放送局放送部の音声資料
この資料には,1979年8月,NHKテレビ「ニューススタジオ長崎」で放送された曲の テープが含まれている。
資料11)NBC長崎放送レコード室の音声資料
1955年8月,長崎市国際文化会館講i堂で初演された木野普見雄「腐臭の原」のテープな ど,長崎の 原爆音楽 を調査・研究する上できわめて重要なテープやレコード多数が保 存されている(年表を参照)。
長崎大学教育学部人文科学概究報告 第32号
資料12)永井記念館所蔵のレコード
資料6) 「南天の花」のSPレコード(年表を参照)が保存されている。
資料13)長崎市教育委員会文化課所収のレコード 資料8)を参照。
【解説的資料と手記】
資料14)長崎市政65年史(前編)p.1058 3月31日発行
第九部 文化,第三章 学術と芸術・芸能の発達,第二節
p1058には,木野愚見雄(3曲)寺崎良平(1曲)の原爆音楽に触れて,
れている。
資料15)原子野のうた声 p。1〜33(被爆作曲家の手記) 木野普見雄魂 協会発行 1956年8月7日
資料1)に掲げられた12曲の作曲をめぐる手記が主な内容である。
資料16)長崎市政65年史(後編)
行 1959年3月31日
第五部 原爆,第四章 原爆の記録・芸術,第一節 概説 のうた声」の表紙が他の写真3点と共に掲載されている。第三節 音楽の項に,
「あの子」の楽譜が掲載されている。
:資料17)長崎の歌謡史 p.313〜318(原爆と平和) 長崎新聞社編著 行
この資料には,木野藤見雄「平和は長崎から」 「あの子」
直な解説があるほか,
資料18)反核・日本の音楽 p.1〜168(ノーモア・ヒロシマ音楽読本)
照。
この資料は,日本の原爆音楽に関する最初の,
27
長崎市役所総:務部調査統計課編纂発行 1956年
芸術芸能の発達,2 音楽,
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長崎国際文化
p764〜766(音楽)長崎市役所総務部調査統計課編纂発
p.694と695の間に「原子野 朝鮮動乱以後 2(5)
「原子野のうた声」刊行について,本文からの引用と全12曲のりストおよび
1975年7月1日発
「平和おどり」についての簡 深町一朗「泣くな長崎」が作曲された動機などが述べられている。
(資料7)を参
また最も総合的な解説書である。第一部
「核時代の音楽文化」では,哲学者,社会学者,音楽評論家,詩人,音楽家がそれぞれの立 場から,欺戦後の音楽文化を核を背景としてとらえ直し,価値観の転換を試みている。第 二部「作曲家・演奏家の立場から」では,作曲家や演奏家たちが, 原爆音楽 を己の音 楽活動全体の中にどのように位置付けようとしてきたかを知ることができる。第三部「作 品と記録」には,1980年と1981年にわが国で行われた反原爆のコンサートのプログラム,
反核・日本の音楽の作品解説,反核・日本の音楽の作品リストなどが収められている。作 品解説のうち,長崎の原爆音楽については,クラシック部門とポピュラー部門を合わせて
5曲について解説がなされている。
【曲目リストと作品年表】
資料19)原爆被災資料総目録 第二集 p.223〜231(音楽) 原爆被災資料広島研究会発 行 1970年8月6日
この資料には,原爆被災25周年の8月,広島の民間研究会が編集したものである。官公 庁文書,中国放送(RCC),広島テレビ(HTV),演劇・バレー一,映画,音楽に関する 資料が収められている。そのほとんどは広島の原爆に関する資料であるが,音楽の項には
28 長崎のヒ原爆音楽 に関する調査報告(山野)
長崎の原爆音楽も多数リストアップされている。総数128曲に,作詞惣名,作曲者名,作 曲年月あるいは発表年月日,発表会場名などの簡単な資料が加えられている。このうち長 崎のリストは36曲あり,当時のものとしては豊富で正確な資料であると認められる。次に,
明らかに誤りと判明した部分のみ指摘しておく。
「独り息づく」 「鬼の易く」は順序が逆である。作詞者は桑名茗革とあるが桑名茗璽が 正しい。作品が生まれた当時,桑名氏を寄宿させていた深潟久氏の証言により判明した。
「交響曲ミ長崎.」 (島内八郎作詞,伊藤英一作曲)とあるが, 「交声曲ミ長崎。」が正 しい。これは,作曲者の自筆楽譜により判明した。「いのちをいとしむ」は楽譜,テープ 共に存在を確認することができない。
資料20)平和教育とマスメディアの活動のための特別資料
この資料は,NGOの「被爆の実相とその後遺についての国際シンポジウム」に提出さ れた作業文書IV(1977年)の中に含まれており,原爆音楽に関するリストは,資料19)を もとに作成されたものと思われる。
資料21)反核・日本の音楽 p.170〜208(反核・日本の音楽の作品リスト)
この資料は,資料18)の第三部に収められている。現時点における最も詳しいリストと 年表であるが,長崎の原爆音楽に関してはいくつかの誤りや重複,脱落がある。それらを 訂正し,今回の調査で新たに確認された資料を補充する。 「独り息づく」 「鬼の実く」に ついては,資料19)で述べた通りである。交声曲「長崎」の発表年月日は,1953年5月5
日と記されているが,長崎新聞によれば,1953年4月6日,長崎の三菱会館において演奏 されたことが確認できる。なお,この年表では1952年5月に入っているが,当然1953年4 月に入れるべきである。 「平和の蔭に」は「原爆乙女の歌」の副題であり,同一の曲であ る。この年表では,異なる作品として扱われているが,明らかに誤りである。資料15)P.
18を参照。交響曲「長崎」については資料19)を参照。
1958年2月に「母を恋うる歌」を補う。
1967年7,月に「泣くな長崎」を補う。
1974年1月に交響詩「ながさき」を補う。
1980年「折鶴よ世界に」の作曲者名,園田鉄平は誤りで,園田鉄美が正しい。
H 曲目リストと作品年表(N…楽譜,T…録音テープ, R…レコード, V…ビデオテ ープ。西暦と月は作曲された年月を示す。)
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次頁の作品年表に見る通り,長崎の 原爆音楽 90曲に及ぶ曲目リストを作成すること ができた。作曲や演奏などに関するデータについても,できる限りの調査を行ったが,資 料の散逸などのために不明な部分が残った。その部分は空欄となっている。今後の調査・
研究のために,各方面からの資料の提供をお願いしたい。
(昭和57年10月31日受理)
長崎大学教育学部人文科学蘇究報告 第32号129
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