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練りきりの色彩構成が食嗜好性に及ぼす影響

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著者 村上 陽子

雑誌名 静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会・自然科学

巻 61

ページ 205‑221

発行年 2011‑03

出版者 静岡大学教育学部

URL http://doi.org/10.14945/00005671

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Summary

 Nerikiri achieves a harmony of coloring and the beautiful colors have an enormous attraction. The present study aimed to examine the effect of color composition of Nerikiri on food preferences. Color preferences regarding Nerikiri were investigated among 73 university students (22 males and 51 females). The following result was obtained : Red, yellow and green increased the subjects’ appetites, whereas blue and black decreased their appetites. Significant differences were observed in Nerikiri color preferences between males and females. Females liked the same color in a lighter shade, while males did not. Gradiations in color were associated with variation in food preference. In contrast to the males, females preferred the colors of natural pigments to synthetic pigments.

1.はじめに

 食べものの嗜好価値は,形,色,つやを含めた外観特性,味,香り,テクスチャー,温度な どによって構成される。中でも,視覚はおいしさを感じる上で大きな役割を果たしており,色 が食べもののおいしさや食嗜好性に果たす役割は大きい。

 食における色の効果を大切にしてきた我が国には,和菓子という伝統的な菓子がある。和菓 子は「五感の芸術」と称されるように,視覚,味覚,嗅覚,聴覚,触覚のすべてで楽しむこと ができる。特に,練りきりに代表される上生菓子の色の美しさと多様性は,他国の菓子には見 られない特性である。また,季節感を表現する和菓子においては,色の配色,濃淡など色彩に 関して繊細な心遣いがなされており,それが食べる人の食欲に大きな影響を及ぼしていると考 えられる。つまり,食品の色と嗜好,食欲は不可分の関係にあるといえる。

 一方,現代社会においては,食生活の洋風化により,和菓子の喫食頻度は減少傾向にある。

前報1)2)3)において,大学生における和菓子の食嗜好性について調査したところ,洋菓子に比

べて喫食頻度や学習経験が少ないなど,和菓子と触れ合う機会の少なさが明らかとなった。こ うした若年層の和菓子離れが,日本の食文化の伝承に大きな影響を及ぼすことが懸念される。

練りきりの色彩構成が食嗜好性に及ぼす影響

Effects of color composition on food preferences

村 上 陽 子 Yoko MURAKAMI

(平成22年10月6日受理)

  家政教育講座

静岡大学教育学部研究報告(人文・社会・自然科学篇)第61号(2011.3)205~221 205

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 食文化については,食育基本法(平成17年),食育推進基本計画(平成18年),食に関する指 導の手引き(平成19年)において,その重要性が謳われている。平成20年改訂の学習指導要領 においても,学校教育活動全体の食育の推進,文化と伝統に関する学習の充実が掲げられられ ている。食文化の継承という面において,和菓子という我が国の菓子文化を日本文化の一断面 として回顧・理解し,興味・関心を高揚させることは危急的課題といえる。

 前述したように,和菓子の色の多様さやそれによりもたらされる造形の美しさは魅力の一つ に挙げられるが,和菓子の色彩構成が食嗜好性に与える影響については明らかにされていない。

美味しさに及ぼす和菓子の色彩構成のあり方や役割を明らかにすることにより,色彩を大事に してきた我が国の和菓子という食文化を継承するとともに,現在の食育に欠落している食にお ける色の効果やその重要性を伝える一助となると考えられる。食品の色彩嗜好について,

Birren4)が食欲増進と減退の程度を報告しているが,日本では実際の食品を用いた調査はほと

んどなく5)6)7),十分な検討が行なわれているとはいえない。また,食品のトーン(着色濃

度)が食嗜好性に及ぼす影響について詳細に検討した報告がなく,本研究の新規性といえる。

 そこで本報では,和菓子の中でも,色の美しさと多様性が特徴的な練りきりに着目し,その 色彩構成が食嗜好性に及ぼす影響を明らかにする。まず,同一色相についてトーンが食嗜好性 に及ぼす影響について検討し,次に色相と食嗜好性の関係について検討した。

2.方法

(1)調査対象および調査期間

 静岡大学教育学部の学生73人を調査対象とした(男子22人,女子51人)。調査期間は2007年6 月19日~6月26日である。

(2)実験方法

 調査に用いた練りきりの色相は,「赤」「橙」「黄」「緑」「青」「紫」「黒」の7色である。なお,

和菓子で多く用いられる「ピンク」は,純色の赤に白(または灰色)を混ぜた明清色(または 中間色)であるため,「赤」に分類した。このうち,「赤」「橙」「黄」「緑」「紫」に関しては,

合成着色料によって着色したもの(以下,合成着色料)と,食材(以下,天然色素)で着色し たものの2種類がある。「青」は合成着色料のみ,「黒」は天然色素のみで着色し,着色した種 類は全部で12種類である。

 練りきりは既報8)に従い調整し,丸い形に成形した(各20g)。各検体は1色相1トーンのみ で着色した。色づけに用いた着色料の種類や素材は表1,着色料の濃度は表2のとおりである。

天然色素の食材は,香辛料はハウス食品株式会社,その他は製菓専門店・富澤商店のものを使 用した。合成着色料は三栄源エフ・エフ・アイのものを使用した。

 着色した練りきりの色は色彩色差計CR-400/410(コニカミノルタ センシング株式会社)で 測定した(表3,表4)。色を表現するには様々な方法があり,物体の色を数値や記号で表現 する方法を表色系と呼ぶ。今回測定した色調の表色には,L*a*b*表色系とL*C*h表色系を用い た。L*a*b*表色系は広く使用されている表色系で,国際照明委員会(CIE)で規格化され,日 本でもJISにおいて採用されている。L*a*b*表色系では明度をL*,色相と彩度を表す色度をa*,

b*で表す。a*,b*は色の方向を示しており,a*は赤方向,-a*は緑方向,b*は黄方向,-b*は青 方向を示し,数値が大きくなるに従い色鮮やかとなり,小さくなるに従いくすんだ色となる。

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練りきりの色彩構成が食嗜好性に及ぼす影響 207

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L*C*hはL*a*b*表色系をベースに別座標系に表現し直したもので,L*は明度を,C*は彩度を表 しており,C*の値が大きいほど色鮮やかに,小さいほどくすんだ色となる。hは色相角度を示 し,移動角度により色の位置が分かるようになっている9)

 同一着色料で視覚的にほぼ等間隔になるよう濃度差をつけた練りきりを黒色のお盆に並べ,

濃度の低い方からA,B,C‥と記号をつけ,実験に供した(図1)。合成着色料であれば,Aがp トーン,Hがvトーンに相当する。トーンは異なるが,天然色素もこれと同様の濃度系列をたど る。色相によって濃度差,すなわち明度と彩度で表されるトーンの差異のつけやすさが異なる ため,場合に応じて濃度差の数を増減させた。

 調査対象者に実際に練りきりを見てもらい,質問用紙に自記式・無記名で回答してもらい,

ただちに回収した。調査は実験室(室温20~25℃)で1人ずつ行い,被験者が自分の判断のみ で答えられる環境を整えた。また,他の色と比較して答えることがないように,1種類ずつ見 せた。調査に際しては,食後2時間程度たった空腹でも満腹でもない状態で回答してもらった。

 まず,同じ着色料で着色し,濃度系列の異なる各色相の練りきりについて1番おいしそうだ と思う濃度(食欲増進色)と,1番まずそうだと思う濃度(食欲減退色)をそれぞれ1つずつ 回答してもらった。また,着色料が合成着色料と天然色素の2種類あるもの(赤,橙,黄,緑,

紫)については,どちらの色合いが好きかについても調査した。さらに,全ての色相・濃度の 練りきりを見た後で,最もおいしそうだと思った色相(高嗜好色)と,最もまずそうだと思っ た色相(低嗜好色)を答えてもらった。尚,官能検査の実施時期(季節)については,予備調 査において,練りきりの食嗜好性に影響を与えないことを確認している。

 色の表示方法として,PCCS表色系(Practical Color Co-ordinate System:日本色研配色体 系)を用い,「色相」と「トーン」の2系列により色彩の基本系列を表した10)11)。なお,練り きりの着色濃度を変えることにより,彩度と明度の複合概念であるトーン(色調:色の調子)

が変わるため,文中では「濃度」と「トーン」の2つの表現を同義語として用いることを予め 断っておく。また,色相の同じ系列でも,トーンにおいては「明・暗,強・弱,濃・淡,深・

浅」の違いがある10)11)。濃度の低い場合においては薄いトーン,高い場合は濃いトーンという ような表現を用いた。有意差については独立性の検定を用いた。

3.結果および考察

(1)着色濃度が食嗜好性に及ぼす影響(食欲増進色および食欲減退色)

 合成着色料,または天然色素で着色した12種類の練りきりについて,それぞれどの濃度が最 も美味しそうに見えるか(食欲増進色),また,まずそうに見えるか(食欲減退色)について 検討した。

1)赤の場合

 合成着色料の場合(図2),食欲増進色は男子はC(27%)をピークとして,すべての濃度が 選択されていたのに対し,女子は男子より低濃度のBの嗜好性が高く(37%),男女間で相違が 見られた(p<0.05)。食欲減退色は,男女ともにHであり(男子59%,女子84%),最も濃い トーンの嗜好性が著しく低かったが,その割合に男女間で有意な差があった(p<0.05)。ま た,全体的に好まれる色調は薄いトーンの方に偏る傾向にあったが,最も薄いトーンAの嗜好 性はあまり高くなかった。特に男子では,この濃度を食欲増進色としてよりも食欲減退色とす

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る者の方が多く(p<0.1),女子と有意な相違が見られた。反対に,濃いトーンであるG,Hを 食欲増進色とする者が男子にはいたが,女子には見られず,これら高濃度の色の嗜好性につい て男子は女子より有意に高かった(p<0.001)。これらのことから,男子は女子より濃いトー ンに対する嗜好性が高いといえる。

 天然色素の場合(図3),食欲増進色は男女ともにDが高かったが,色の濃度差に対する嗜好 性については両者で相違が見られた。男子ではD(41%)が顕著に高かったが,女子はA~Dま での薄いトーンを呈する濃度域が好まれていた(A:20%,B:24%,C:20%,D:25%)。食欲減 退色は,男女ともF(男子32%,女子41%)であった。食欲減退色においては,合成着色料同 様,一番濃いトーンは敬遠される傾向にあったが,合成着色料に比べると,好みに著しい偏り は少なかった。また,男子はある特定の濃度だけではなく,他の濃度に対する嗜好性も低く,

食欲増進色と異なる傾向を示した。女子は,濃いトーンのE,Fを食欲減退色とする者が多く,

食欲増進色と比較した場合,有意に敬遠されていることが明らかとなった(p<0.001)。

2)橙の場合

 合成着色料の場合(図4),男子では濃度の増加に伴い嗜好性も高くなり,反対に女子では 濃度が増加すると嗜好性が低下する傾向を示した。男子ではG(27%)をピークとして濃い トーン,女子ではBとD(22%)をピークとして薄いトーンの嗜好性が高かった(男女間でp<

0.05)。食欲減退色は,男女ともに最も高濃度のHであり,女子は高い値を示した(男子55%,

女子73%,男女で有意差なし)。男女ともに,中間の濃度であるD,E,Fを食欲減退色と答えた 人はおらず,食欲増進色の結果もあわせて考えると,これらの濃度は嗜好性が高いといえる。

 天然色素の場合,男女ともにCの嗜好性が高かったが(図5),男子ではC~E,女子ではB~D というように,女子は低い濃度を好む傾向にあった。食欲減退色は最も薄いAと最も濃いFの2 つに偏在していた。食欲減退色として男子はA,F(A:46%,F:36%),女子はF,Aの順で選 んでいた(F:41%,A:35%)。2番目に濃いEについてみると,男子は食欲減退色としてより 食欲増進色として選ぶ者が多かったのに対し(p<0.05),女子では両者に有意差がなく評価 が二分されていたことからも,男子は女子に比べて濃いトーンの嗜好性が高いといえる。

3)黄の場合

 合成着色料の場合,食欲増進色は男女ともに,一番低い濃度A(男子23%,女子33%)の嗜 好性が最も高かった(図6)。ただし,橙(合成着色料)で見られたように,女子は濃度の増 加に伴い嗜好性が低下したのに対し,男子はその逆の傾向が見られ,両者で色の嗜好性に大き な相違が見られた(p<0.01)。

 食欲減退色は男女ともにH(男子41%,女子84%)であり,一番高い濃度の嗜好性が低かっ たが,女子はその割合が顕著に高く,男女間で有意差が見られた(p<0.001)。男子では食欲 減退食として一番濃いHの次に一番薄いAを選んでいた。男子では,Aは食欲増進色と食欲増進 色,いずれにも選ばれていたが,両者に有意な差が見られなかったことより,この濃度の嗜好 性について評価が分かれているといえる。一方,女子はAを食欲減退色として選んだ者は非常 に少なく,食欲増進色として選ぶ者が有意に高かった(p<0.001)。このことから,黄(合 成)において色嗜好性に男女間で有意差があり(p<0.005),男子は濃いトーン,女子は薄い トーンに対する嗜好性が高いといえる。また,男女で共通して中間の濃度であるDとEを食欲減

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練りきりの色彩構成が食嗜好性に及ぼす影響 213

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退色とする人がいなかったことから,これらの色調は性別に関係なく嗜好性が高いことが示唆 された。

 天然色素の場合(図7),食欲増進色は男子ではDをピークとして,それ以外の濃度も偏りな く好まれていたが,女子ではA~Cの薄いトーンに嗜好が偏っていた(男女間でp<0.001)。食 欲減退色は,男女ともに最も濃いG(男子50%,女子53%)であった。次いで男子では,最も 薄いA(男子32%,女子16%),女子では濃いトーンのFが選ばれており(男子9%,女子22%), 両者で差が見られた。天然色素(橙)においても女子は濃いトーンに対する嗜好性が低かった。

 合成色素と天然着色料で嗜好される濃度に相違があった理由として,黄はすべての色相にお いて明度・彩度ともに最も高い色相である。合成着色料で薄い色調が選ばれたのは,我々が食 品として見慣れている天然色素に近い色調になるためと考えられる。天然色素と異なり,合成 着色料の濃度が高くなると,明度・彩度ともに高くなり,天然の食材には見られない,人工的 な色調になる。また,天然色素は合成着色料に比べて明度が低く,落ちついた色調を呈する

(表3,4)。そのため,多少濃度が高くても好ましい色として受容されると思われる。

4)緑の場合

 合成着色料の場合,食欲増進色としては,薄い色調のAとBが多く,G,Hのような濃い色調を 好む者はいなかった(図8)。女子はAとBで大半を占めていたのに対し(76%),男子はA,Bの 合計が54%で両者に有意差がみられた(p<0.1)。食欲減退色は男女ともにHであり,最も高 濃度の嗜好性が著しく低かった(男子73%,女子84%)。

 天然色素の場合,食欲増進色は低い濃度より中間の濃度が多く選ばれていた(図9)。女子 はE(26%)をピークにC~Fの薄いトーンを選び,男子はF(32%)をピークとして,D~Fの濃 いトーンにほぼ集中していた。食欲減退色は,男女ともJ(男子82%,女子78%)で,合成着 色料同様,最も高い濃度に偏っていた。

 緑について,合成着色料では薄いトーンに対する嗜好性が高かったのに対し,天然色素にお いては薄いトーンよりも少し濃い目のトーンの嗜好性が高く,黄と同様の傾向を示した。天然 色素(抹茶)によって得られる色は,普段から見慣れている色である。また,高濃度の合成着 色料は極めて高彩度の色調(bまたはvトーン)を呈するが,天然色素では低明度の落ち着いた dpトーンを呈する。こうした理由から,天然色素(緑)においては濃度が高くても嗜好性が低 下しないと考えられる。

5)青の場合

 食欲増進色は薄いトーンに偏っていたが,特に女子でその傾向が強く,男子は女子に比べる と好みの濃度域は広かった。男子では各濃度間でばらつきが見られ,やや薄いトーンのB・C

(23%),D(18%),濃いトーンのF(14%)の順で好まれていた(図12)。女子では濃度の増 加とともに嗜好性は直線的に低下し,最も薄いA(41%),次いでB(31%),C(18%)の順で 嗜好性が高く,A~Cで92%を占めた(男子55%,男女間でp<0.001)。食欲減退色は,男女と もにHであり,ここでも一番高い濃度の嗜好性が著しく低かった(男子68%,女子80%)。  一般に,食品以外の色相では,青は男女ともに好まれる色相である(千々岩)12)。しかし,

天然には存在しない色相であるため,食べ物における食嗜好性は低いといわれる。薄いトーン は,青に白を混ぜた明清色であり,色が薄いほど白の割合が高くなる。つまり,青の割合が低

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いために,青の感受性が弱く,嗜好性が高かったと推測される。また,食品の色は果物ではそ の熟度,野菜では鮮度を表す役割もあり13),食欲を増進させる色の条件の一つとして,食品を 連想できるかどうかが重要である。薄い色味は清涼飲料水等の食品を連想できるが,濃い色味 になると連想できなくなる。これらのことから,青の色調に対する嗜好性の相違が生じたと考 えられる。

6)紫の場合

 合成着色料の場合,嗜好性について男女でほぼ同様の傾向が見られた(図10)。食欲増進色 は男女ともF(男子32%,女子28%),食欲減退色は男女ともHであった(男子59%,女子51%)。 最も濃いトーンの嗜好性が最も低く,中間よりやや濃いめのトーンの嗜好性が高かったことが,

男子,女子,全体のすべてにおいて共通してみられた。

 天然色素の場合,食欲増進色は中間の濃度が好まれる傾向が見られた(図11)。男子ではE,

女子ではそれより低い濃度のCであり,女子の方が薄いトーンを好むなど両者に有意な相違が 見られた(男女間でp<0.05)。男子では,Eをピークにしているものの,各濃度間で嗜好性に あまり偏りが見られなかった。食欲減退色は,男女ともHであり(男子73%,女子69%),著し い偏りが見られた。

 紫は嫌悪色といわれているが,近年では紫イモを利用したお菓子などが作られるようになっ ている。しかし,今回,紫イモそのものの色(Hに近い色調)は敬遠されていたことから,紫 を食品に用いる場合には,色合いをうまく調整することが必要であると思われる。また,市販 の和菓子(練りきり)の色彩調査14)において,紫の使用頻度は低く,使用されている場合も薄 いトーンが多かった。これは表現される事物(桔梗や紫陽花等)の色合いが薄いこともあるが,

和菓子職人が人々の色彩嗜好を作品づくりに経験的に反映しているとも考えられる。

7)無彩色(黒)の場合

 ここでは,AからGにかけて明度が段階的に下がるように濃度系列を作成し,無彩色の食嗜好 性を検討した(図13)。Aが高明度の白,B~Fが中明度の灰色,Gが低明度の黒である。食欲増 進色は男女ともA(男子27%,女子37%)であり,次いで男子ではBとF(18%),女子ではF

(16%)であった(図12)。食欲減退色は,男女ともに明度の最も低いGであり(男子46%,女 子43%),次いで最も薄い灰色のB(男子36%,29%)であった。

8)まとめ

 7つの色相について,練りきりの着色濃度(トーン)が食嗜好性に及ぼす影響について検討 した。合成着色料に関して,全体的に高濃度,すなわち,純色のはっきりした色合い(vトー ン)よりも,低濃度のp,lt, bトーンなどのような,彩度がやや低下するものの明度の高い,

やさしい色合いのものが好まれる傾向が見られた。この傾向は天然色素においても同様であっ た。このことから,練りきり(和菓子)では自然のやわらかな色合いのもの,明るい色合いの ものが好まれる傾向があるといえる。また,男子は女子より濃いトーンのものを好む傾向が見 られ,色嗜好性について男女差があることが示唆された。

 色彩嗜好について,食品以外の嗜好色として青系統の色が世界に共通して好まれることを 千々岩12)が報告している。また,一方で,千々岩は色彩嗜好には年齢や性別,時代などによっ

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て嗜好性の高い色は異なるという可変的な側面もみられるとしている15)。しかし,食品の色の 濃度(トーン)と食嗜好性の関係についてはこれまで詳細な報告はなく,男女間の相違につい ても検討されていない。加えて,合成着色料と天然色素の色嗜好性についても報告はない。本 研究で一知見が得られたことは意義深いといえる。

 川染6)は,色見本を使って食欲と色彩の関係を調べているが,色見本を使った場合,赤,橙,

黄色の3色について,彩度が高く濃い色が食欲を増進する色として選ばれているとしている。

しかし,これは色見本(紙媒体)による調査であり,実際の食品を想定したものではない。金 子16)は,色彩嗜好は対象により異なるため,色彩嗜好を測定する際には,具体的な対象を特定 し,対象ごとに調査する必要があると指摘している。

 今回,実際に食品である練りきりを用いて検討した結果,濃い色はむしろ食欲を減退する色 調であることが明らかとなった。今後は,小・中・高校生など他の年代に対して調査を行なう ことで,各色相のトーンに対する食嗜好性をより明らかにできる。さらに,こうした被験者を 加えることで,発達段階に伴う食品の色彩嗜好の変容をより詳しく検討していく必要がある。

(2)合成着色料と天然色素の嗜好性の相違

 一般的に,合成着色料は天然色素に比べて同明度のときには彩度が,同彩度のときには明度 が高い(表3,4)。そこで,着色料が合成着色料と天然色素の2種類ある「赤」「橙」「黄」

「緑」「紫」について,合成着色料と天然色素のどちらの色合いの嗜好性が高いのかについて 検討した(図14)。

 「赤」の場合,男女ともに合成着色料が顕著に高く(男子95%,女子96%,男女間で有意差 なし),天然色素と比べて有意に高かった(男女ともp<0.001)。このことから,赤に関して は,天然色素の呈するくすんだ赤(ltg,sf,d,dpトーン)よりも,合成着色料の発色の高い 赤,すなわち明度の高いトーン(p,lt,bトーン)に対する嗜好性が高いといえる。

 「橙」の場合,合成着色料は男子86%,女子76%,天然色素は男子14%,女子24%で,男女 とも合成着色料の嗜好性が高かった(男女ともp<0.001)。有意差はなかったものの,男子に 比べて女子の方が天然色素の色合いを好む者の割合が高かった。

 「黄」の場合,男子は合成着色料68%,天然色素32%であり,合成着色料の嗜好性が高かっ た(p<0.05)。一方,女子は合成着色料41%,天然色素59%で,天然色素を好む者の割合が 高かった(p<0.1)。また,男女間でこれらの割合に有意差が見られ(p<0.05),男子は合成 着色料のもつ高明度・高彩度の色合いに対する嗜好性が高いという結果が得られた。

 「緑」の場合,男子では合成着色料に対する嗜好性が顕著に高く(71%),天然色素(29%)

よ り 有 意 に 高 か っ た(p<0.01)。こ れ に 対 し て,女 子 で は 合 成 着 色 料(45%),天 然 色 素

(55%)と,黄色同様,天然色素の嗜好性の方がやや高かった(有意差なし)。また,男女間 でこれらの割合に有意差が見られ(p<0.1),男子が合成着色料の色合いを好むことが明らか となった。緑について,女子は天然色素の呈する深みのある色合いを好んでいたのに,男子は 明度と彩度の高い合成着色料の色合いを好んでおり,食品選択の際にはこうした色の好みが反 映されると考えられる。

 「紫」の場合,男子では天然色素59%,合成着色料41%であった(有意差なし)。女子におい ても天然色素を好む者が多く(76%),合成着色料は24%であり,両者で有意な差が見られた

(p<0.001)。女子は男子に比べて天然色素に対する嗜好性が著しく高いといえる。紫に関し

練りきりの色彩構成が食嗜好性に及ぼす影響 217

(15)

ては,天然色素に対する嗜好性が顕著に高かった。我々は紫イモのような自然の紫色について は見慣れているが,合成の紫にはあまり見慣れていないため,このような結果になったと考え られる。

 以上のように,赤,橙は男女とも合成着色料の嗜好性が高かった。男子は,紫以外のすべて の色相について,合成着色料の色合いに対する嗜好性が有意に高かった。女子は,黄,緑にお いては天然色素に対する嗜好性が高いという傾向を示しており,両者で色嗜好性に相違がある ことが明らかとなった。

 中山17)は,「合成色素の利用により華やかな色使いも一部には見られるが,和菓子の色合い は,他国の菓子にくらべるとそれほど強くはなく,全体的にやわらかみのある色が重んじられ ているように思われる。素材が主に植物性であることも理由にあげられるが,加えてそうした 色を好む国民性も関連しているようである」と述べている。合成着色料においても天然色素に おいても,中山のいうやわらかみのある色が好まれていたが,両者を並べて比較した場合,明 度の高い前者をより好む傾向にあるといえる。特に男子ではその傾向が強かった。食卓におけ る色彩構成を考える際や商品開発の際などにこれらの性差を考慮に入れることにより,食に対 する意識を変容・高揚させることが期待できる。

(16)

(3)最も食嗜好性の高い色相(高嗜好色)と最も食嗜好性の低い色(低嗜好色)

 「赤」「橙」「黄」「緑」「青」「紫」「黒」の7色のうち,最もおいしそうと思う色(高嗜好色)

と最もまずそうと思う色(低嗜好色)を答えてもらった(図15)。

 まず,高嗜好色であるが,全体では赤が最も多く,続いて黄,緑,橙であった。男女別でみ ると,男子は赤と橙が最も多く,続いて黄,緑,青の順であり,紫,黒と答えた人はいなかっ た。女子は赤が最も多く,黄,緑,橙,紫と続いた。

 次に,低嗜好色であるが,全体では青が最も多く,次いで黒,紫,緑,橙,赤であり,黄は 0人であった。男女別でみると,男子は青が最も多く,黒,紫と緑,赤と続いた。黄,橙と答 えた人はいなかった。女子は青が最も多く,続いて黒,紫,緑,橙であり,赤,黄と答えた人 はいなかった。

 赤,橙,黄色といった暖色系は食欲を増進する色,寒色系の青や黒などは食欲を減退させる 色と言われている4)。今回の結果からも,おいしそうと思う色は赤や黄などの暖色系が多く,

まずそうと思う色は青や黒などが多いことが明らかとなった。

 市販の和菓子の色彩調査14)から,和菓子の主色として最も多く使われているのは赤であった が,今回の実験でも,最も多くの人が1番おいしそうと答えたのは赤であった。赤色の和菓子 が多いのには,赤が昔から大切にされてきた色18)というだけでなく,多くの人に好まれる色で

練りきりの色彩構成が食嗜好性に及ぼす影響 219

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あるということが関係していると考えられる。

 また,暖色系は食嗜好性が高いと言われているが,練りきりに関しては,赤や黄などの他の 暖色系の色に比べ,橙の嗜好性はあまり高くなかった。市販の和菓子の色彩調査14)においても,

橙の使用頻度は低かった。著者が行なった和菓子職人への聞き取り調査では,和菓子の購買層 は女性が主であった。橙の和菓子が少ないのは,主たる購買層の女性があまり橙を好まないこ ととも関係があると考えられる。

 反対に,最も多くの人が食欲減退色としたのは青であった。最近では,清涼飲料水など青色 の食品もでてきており,それらに対する嫌悪感は減少してきているように思われる。和菓子に おいても青色を使ったモダンなデザインのものも作られるようになったが,その数は極めて少 なかった14)。一般に,食欲は見慣れている食品の色のときに高くなるといわれる。さらに,今 回の結果からも青が最も敬遠される色であったことから,大学生は本能的に食べものとして青 を嫌うことが推察される。

 黒についても,嗜好性が低かった。黒は食欲を減退させる色と考えられているが,一方でゴ マや海苔など,日本人としてなじみの深い食材の色である。最近では黒い食材が注目されるな ど,人々の黒い食品に対する意識は変化してきているといわれるが,青や黒の食品に対する嫌 悪感や拒否感は強いといえる。

 緑については,嗜好性は中程度といわれ4),緑に対する食嗜好性は,食習慣の違い,すなわ ち,食文化によって異なるともいわれている。和菓子において,緑は抹茶やよもぎという食材 を連想させる色合いである18)19)。また,四季折々の自然,たとえば春の萌黄色や新緑などを抽 象的に,ウグイスなど季節の風物を具象的に表現するのに利用しやすく,日本人にとって受け 入れやすい色と考えられる。和菓子においては,緑は好まれる色相であることが明らかとなっ た。

4.要約

 近年,食文化が軽視される傾向にある。日本の菓子は季節感を尊び,風味を基本とし,味,

形状の美しさ,食感,香りなどを重要視する。練りきり,こなし,求肥などの和菓子は,季節 の移り変わりを花や山水で具象的に表現し,それに模して技巧をこらして作られる18)。これら の表現の際に,色は非常に重要な役割を果たす。

 より豊かな食生活を送る上で,食における色彩の効果を学ぶことは不可欠である。食におけ る色の多様性を理解することは食を見直すことにつながり,さらには食文化の伝承へと繋がる。

 本研究では,和菓子の色彩構成が食嗜好性に及ぼす影響について検討した。練りきりの濃度 と食嗜好性の関係について,男子よりも女子の方が薄い色を好む傾向があった。また,合成着 色料と天然色素で比較した結果,男子は合成着色料の色合いを,女子は天然色素の色合いを好 む傾向にあることが明らかとなった。今後は年代を変えた場合に,こうした性差がどのように 変化するのかについて検討していく。

 本研究成果は角屋育(当時,静岡大学教育学部4年生)の尽力による。また,調査にご協力 くださった静岡大学教育学部の方々に深謝いたします。

 本研究は,平成19年度科学研究費補助金(課題番号:18700604)により行なった。

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【参考文献】

1)村上陽子:和菓子の嗜好性および喫食状況に関する研究,静岡大学教育学部研究報告(自 然科学篇),第59号,pp.21-36(2009)

2)村上陽子:大学生における和菓子の食嗜好性について,静岡大学教育実践センター紀要,

No.17,pp.65-74(2009)

3)村上陽子:大学生における和菓子の学習状況および調理経験,静岡大学教育学部研究報告 

(教科教育学篇),第41号,pp.177-192(2010)

4)F.Birren:Color & Human Appetite, Food Technol., 17, pp.553-555(1963)

5)川染節江:食品の色彩嗜好に関する年齢および男女間の変動,日本家政学会誌,38(1), pp.23-31(1987)

6)奥田弘枝,田坂美央,由井明子,川染節江:食品の色彩と味覚の関係— 日本の20歳代の場 合―,日本調理科学会誌,vol.35,No.1, pp.2-9(2002)

7)森重敏子,青山よしの,堀洋子,金子小千枝:食品の色彩的嗜好に関する研究(第1報)

— 着色あめ玉について— ,調理科学,14(4),pp.247-252(1981)

8)村上陽子,角屋育:幼児における和菓子の食(色)嗜好性について— 食育実践の試み— , 静岡大学教育実践センター紀要,No.15,63-72(2008)

9)齋藤進 編著:『食品色彩の科学』,幸書房(1997)

10)中山司,濱田信義,大森裕二:『色彩デザイン見本帳』,エムディエヌコーポレーション

(2005)

11)財団法人日本色彩研究所:『カラー&ライフ』,日本色研事業株式会社(2004)

12)千々岩英彰:『図解・世界の色彩感情事典』,河出書房新書(1999)

13)D.B.MacDougall : Sensory Analysis of Foods (J.R.Piggott,ed.), Elsevier Applied Science, London, 99(1984)

14)村上陽子:和菓子の色彩構成と色彩嗜好,静岡大学教育学部研究報告 (自然科学篇),第 60号,pp.185-200(2010)

15)千々岩英彰:『色彩学概説』,東京大学出版会(2001)

16)金子隆芳:『色彩の心理学』,岩波新書(1990)

17)中山圭子:和菓子の色と日本人の美意識,食文化雑誌ヴェスタ,No.53,p.17(2004)

18)長崎巌:『日本の伝統色 配色とかさねの事典』,ナツメ社(2008)

19)青木暘:『和菓子を楽しむ』,主婦の友社(1983)

練りきりの色彩構成が食嗜好性に及ぼす影響 221

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参照

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