修士論文要旨(
2006
年度)大変形固体解析のための非構造格子に基づく Eulerian 有限要素法の構築研究
Studies on Development of Eulerian Finite Element Method for Large Deformation Solid Analysis based on Unstructured Mesh
土木工学専攻
39
号 山田 豊Yutaka YAMADA
1. 研究目的
固体力学における塑性加工や衝撃問題の解析におい ては,極めて大きな変形を取り扱うことが可能な数値 解析手法が必要となる.固体力学の定式化では,従来,
物質の変形に追従した観測点において変形を記述する
Lagrangian
解法(図-1
)により解析されることが一般的 であった.しかし,Lagrangian
解法は,大変形問題に おいて,材料の変形に伴い解析格子が潰れ,解析が破綻 とするといったことが度々生じる.上記の問題点を回避 する方法として,空間に固定された観測点において変形 を記述するEulerian
解法(図-2
)が注目されている1).この
Eulerian
解法では,固体の物体形状を流体計算における自由表面と同様に取り扱うことで,任意の大変形 の取扱いが可能となる.既往の研究において,四角形要 素を用いた構造格子に基づく
Eulerian
解法が提案され ており,大変形問題への有効性が示されている2),3).し かし,構造格子では複雑な解析形状を有する問題に対し て適用性に難点がある.そこで本研究は,複雑な解析形状を有する固体の大変 形問題に対して高精度かつ安定な
Eulerian
解法に基づ く数値解析手法の構築を目的として,三角形要素を用い た非構造格子に基づくEulerian
解法の構築を行う.な お,体積ロッキングの回避にB-bar
法4)を,移流方程式 の解法にはCIVA
法5)を採用する.数値解析例として,棒の衝突解析および鋼材の鍛造解析を取り上げ,本手法 の有効性を検討する.
図
– 1 Lagrangian
解法図
– 2 Eulerian
解法2. Eulerian 解法の支配方程式 2.1 operator split
法Lagrangian
記述による支配方程式は,物質時間導関数により次式で示される.
φ ˙ = f (1)
ここで,上付き·は物質時間導関数であり,
φ
は任意の 関数,f
は外力項を表す.また,物質時間導関数と空間 時間導関数の関係は以下のように定義される.φ ˙ = ∂Φ
∂t + u · ∂Φ
∂x (2)
ここで,
u
,x
はそれぞれ速度ベクトル,位置ベクトル である.式(1
),(2
)よりEulerian
解法における支配方 程式は,次式のように表される.∂Φ
∂t + u · ∂Φ
∂x = f (3)
ここで,式
(3)
に対して,次式のようにoperator split
法を用いて2
つに分割する.∂Φ
∂t = f (4)
∂Φ
∗∂t + u · ∂Φ
∗∂x = 0 (5)
式
(4)
は,外力項を含んだ非移流ステップ,
式(5)
は,移 流項を含んだ移流ステップにおける方程式である.この とき式(5)
における∗
印は,非移流ステップ後の値を意 味し,式(5)
において,応力,ひずみ等の非移流ステッ プ後の解を固定の計算要素に投影させている.2.2
非移流ステップ2.2.1
動的陽解法Operator split
法における非移流ステップにおいて は,通常の動的陽解法をそのまま用いる.M ˙u
n+ F
nint= F
next(6)
ここでM
は,対角化された集中質量行列,F
intは内力 ベクトル,F
extは外力ベクトルを表わす.また,上添字n
は,現時刻ステップであることを意味する.式(6)
に 対して,中央差分法を適用させると時刻t
n+1 の位置ベ クトルx
n+1 および,時刻t
n+12 の速度ベクトルu
n+12 は,次式のように求めることができる.x
n+1= x
n+ u
n+12∆t (7)
u
n+12= u
n−12+ ˙u
n∆t (8)
このとき加速度ベクトル˙u
nは,式(6)
より求まる.2.2.2
材料構成式材料構成方程式として
von Mises
の降伏関数による 関連流れ則を用いる.この構成方程式は金属材料で一般 的に用いられるものである.微小変形問題において用い られるCauchy
応力速度テンソルσ ˙
と微小ひずみ速度 テンソルε ˙
を関連付ける4階の弾塑性構成テンソルC
ep を用いた次式を適用する.˙
σ = C
ep: ˙ ε (9)
C
ijklep= 2G[δ
ikδ
jl+ ν
1 − 2ν δ
ijδ
kl− α 9Gσ
ij0σ
kl02¯ σ
2(H
0+ 3G) ] α = 0 (
弾性) α = 1 (
塑性) (10)
ここで,
δ
ijはクロネッカーのデルタ,G
はせん断弾性 係数,ν
はポアソン比を表わす.そして,H
0 は塑性係 数,σ
0 は偏差応力である.またσ ¯
は次式で定義される 相当応力である.¯ σ =
r 3
2 σ
0: σ
0(11)
式(9)
で示される構成関係において,微小ひずみ速度テ ンソルε ˙
は,客観性のあるストレッチングテンソルD
に,Cauchy
応力速度テンソルσ ˙
は,客観応力速度の一 つであるJaumann
速度σ ˙
J に置き換えて新たに以下の ように定義する.˙
σ
J= C
ep: D (12)
式(12)
は,有限変形問題において応力速度,ひずみ速度 を両方とも客観性のあるものに置き換え,どれだけ物質 が歪んだとしても微小変形状態における弾塑性理論が成 立すると考えている.2.2.3
応力積分法式
(9)
と式(12)
におけるCauchy
応力速度テンソル˙
σ
とJaumann
速度σ ˙
Jは,スピンテンソルW
によって 次式のように関係付けられる.˙
σ
J= ˙ σ − W · σ + σ · W (13)
式(13)
の関係を用いてhalf-step rotation
と呼ばれる応 力積分法を行う.詳細は,参考文献2) を参照されたい.2.2.4 B-bar
法一般に,体積ロッキングの影響により,構造の剛性が 堅くなり精度が著しく低下することが知られている.こ の影響を回避するために,
B-bar
法5)を用いる.図-3
の ように,応力速度は偏差成分と体積成分に分け,体積成 分に関しては,大きな三角形要素の値として算出する.4
要素に関してもそれぞれ,σ
(i)˙
0 を算出し,平均σ ¯˙
0を求 め,それらを用いて応力速度の算出をし,以下のように 応力の更新を行う.σ
n+1= σ
n+ ˙ σ∆t (14)
図
– 3
応力速度の取り扱い概要図2.3
移流ステップ2.3.1 CIVA
法本研究では,自由境界面の表現に
VOF
法を用いる.固体であれば
1
,空気であれば0
,固体境界上であれば0.5
となる.また,移流方程式の計算法にはCIVA
法を 適用する.計算方法は,移流方程式の厳密解である式(15)
を用いて,φ
n+1(x, t)
の解を求めるために,t − ∆t
の値であるφ
n(x − u∆t, t − ∆t)
を用いる.なお,上流 点x − u∆t
に位置するφ
n の値は,図-4
のように上流 側の要素内で補間することによって求める.また,上流 側の要素に対する3
次補間曲面は,式(16)
のように表 現できる.図
– 4
上流点の評価方法φ
n+1(x, t) = φ
n(x − u∆t, t − ∆t) (15)
φ(L
1, L
2, L
3) = X
3 i=−1α
iL
i+d X
3 j,k=1j6=kβ
jk(L
2jL
k+cL
1L
2L
3) (16)
ここで,d
は,1
次補間と3
次補間の調節パラメータで,d = 0
のとき1
次,d = 1
のとき3
次補間となる.2.3.2
応力・相当塑性ひずみの更新式(
5
)において解かれる物質内部諸量は節点上のもの である.よってその値を節点で持つ界面関数では式(5
) を解くことが出来るのに対して,応力や相当塑性ひずみ などの要素で定義される物質内部諸量は,そのまま解く ことができない.そこで図-5
のように,要素の重心点 を擬似的な節点として配置し,新たな有限要素を定義す る.この新たな有限要素を用いることによって要素で一 定として与えられる物質内部諸量を節点上の諸量として更新することが可能となる.なお,新たな有限要素の生
成には,
Delaunay
分割法を用いた.また新たに規定した節点での速度は,線形補間で求めている.
図
– 5
初期の解析格子および新たに構築した移流計算格子3. 数値解析例 3.1
棒の衝突解析数値解析例として,大変形解析のベンチマーク問題で ある金属材料の棒の衝突解析を行った.数値解析モデル は,図
-6
に示すように鋼材に対して鉛直下向きに初期 速度300(m/sec)
与える.構成方程式は先に述べたvon
Mises
の降伏関数による関連流れ則である.また,材料特性は,バイリニア硬化型の
J
2流れ則を使用し,初期降 伏応力は0.02(GPa)
,ヤング率は21.8(GPa)
,ポアソン 比は0.28
,密度は1710(kg/m
3)
を仮定する.また,解 析要素には,構造格子および非構造格子を用いた.本手 法の妥当性および有効性を検討するため,従来の手法で あるLagrangian
記述による解析および安定化有限要素 法を適用したEulerian
解析3)(以下,SUPG
法)との 比較を行った.1.5 cm
6.0cm
/
7.5cm
5QNKF 8QKF
図
– 6
数値解析モデル図
-7-10
はそれぞれLagrangian
解析,Eulerian
解析(
SUPG
法),本手法(構造格子),本手法(非構造格子)における変形形状および相当塑性ひずみの等値面図を示 したものである.また,図
-11
は棒下端部での自由境界 面の先端変位を時刻歴で表したものである.これより,三角形要素を用いた本手法は,構造格子,非構造格子と もに
Lagrangian
解析とほぼ同等の挙動を捉え,安定に 解析を行えていることが確認できる.ただし,本手法はೋᦼᒻ⁁ ǴUGE ⋧ᒰ႟ᕈ߭ߕߺ
図
– 7 Lagrangian
解法ೋᦼᒻ⁁ ǴUGE ⋧ᒰ႟ᕈ߭ߕߺ
図
– 8 Eulerian
解法(四角形要素)ೋᦼᒻ⁁ ǴUGE ⋧ᒰ႟ᕈ߭ߕߺ
図
– 9
本手法(三角形要素-
構造格子)ೋᦼᒻ⁁ ǴUGE ⋧ᒰ႟ᕈ߭ߕߺ
図
– 10
本手法(三角形要素-
非構造格子)0 20 40 60 80
0 1 2 3
VKOGǴUGE
FKURNCEGOGPVEO
.CITCPIKCP
'WNGTKCP྾ⷺᒻⷐ⚛
ᧄᚻᴺ㕖᭴ㅧᩰሶ ᧄᚻᴺ᭴ㅧᩰሶ
図
– 11
先端変位の時刻歴Lagrangian
解析や四角形要素を用いたEulerian
解法と 比較して,相当塑性ひずみの分布に差異が見られた.ま た,先端変位の時刻歴に関して,本手法はLagrangian
解析や四角形要素を用いたEulerian
解法に比べ若干進 行に遅れが生じているが,定性的に挙動を捉えているこ とが確認できる.3.2
鍛造解析応用例として,材料の流動方向が急変する部位が多く,
ひずみの局所化が発生しやすいといった特徴を有する鋼 材の鍛造解析を行った.数値解析モデルは,図
-12
に示 すように鋼材の上端部に鉛直下向きに速度300(m/sec)
を与え,空隙領域に押し込む.鍛造成形においては異方 性が問題となることは稀なため,本解析でも等方性材料 を仮定している.材料特性は,棒の衝突解析と同様のも のを用いた.また,解析要素には非構造格子を用いて,参照解として文献6) の解析結果と比較を行い,本手法 の有効性を検討する.
E O E O
E O E O E O
図
– 12
数値解析モデル図
-13
はBenson
らによる四角形要素に基づくEu- lerian
解法による解析結果を,図-14
は本手法による30,60,90,120µsec
における変形形状を示したものであ る.これより,本解析例のような材料の流動方向が急 変する部位を伴う問題に対しても,鋼材の挙動を捉え,安定に解析を行えていることがわかる.また,本手法 による解析結果は
Benson
らによる四角形要素に基づくEulerian
解法による解析結果と良い一致を示していることから,本手法の妥当性が確認された.
4. 結論と今後の課題
本研究は,複雑な解析形状を有する固体の大変形問題 に対しても安定かつ高精度な数値解析手法の構築を目的 として,非構造格子に基づく
Eulerian
有限要素法の構 築を行った.数値解析例を通じて,以下の結論を得た.•
本手法は,四角形要素のEulerian
解法に比べ,精 度の面では若干劣るものの,定性的に変形や相当 塑性ひずみの挙動を捉え,安定に解析を行えてい ることが確認された.•
本手法は,鍛造成形のような流動方向が急変する 部位を伴う問題に対しても,安定に解析を行えて いることが確認された.また,本手法による解析 結果は参照解と良い一致を示し,本手法の妥当性 が示せた.-5.00 -4.00 -3.00 -2.00 -1.00 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 -6.00
-5.00 -4.00 -3.00 -2.00 -1.00 0.00 1.00 2.00 3.00
Material
1.00 1.20 1.40 1.60 1.80 2.00 2.20 2.40 2.60 2.80 3.00
図
– 13 Benson
らによる解析結果(参照解)ǴUGE ǴUGE
ǴUGE ǴUGE
図
– 14
変形形状今後の課題として,本手法の複雑な解析形状を有する 問題への適用,および三次元化が挙げられる.
参考文献
1) Benson,D.J. : Computatinal Methods in Lagrange and Eulerian Hydrocodes, Comput. Methods Appl.
Mech. Engrg.,99,pp.235-394,1992.
2)
岡澤重信,河口篤志,藤久保昌彦:各種メッシュ制御に おける動的陽解法,応用力学論文集,土木学会,Vol.6
,pp151-158
,2003.
3)
金子恭久,樫山和男,岡澤重信:安定化有限要素法を用いた
Eulerian
解法による固体の大変形解析,応用力学論文集,土木学会,