修士論文要旨(
2008
年度)LES に基づく安定化有限要素法による都市の大気環境流れ解析に関する研究
Studies on an Air Environmental Flow Analysis in Urban Area by Stabilized Finite Element Method Based on Large Eddy Simulation
土木工学専攻
33
号 八田 政知Masatomo HATTA
1. 研究目的
都市域において,良好な大気環境を創出するためには,
都市計画の段階から,ビル風やヒートアイランド現象な どの大気環境の予測・検討を行う必要がある.都市域の 大気環境問題で取り扱われる流れは,一般にレイノルズ 数が非常に大きく,そして,建物周辺では剥離,再付着,
循環などさまざまな流れの性状を含み複雑な乱流場を 形成する.このような現象の検証と評価は模型実験のみ ならず,近年では数値解析手法の進歩により数値解析に よっても行われてきている.また,計算機性能の発展に 伴い
DNS
による乱流解析も行われるようになってきて いるが,計算負荷・容量が膨大なものとなり,実用上は 適用が困難な場合が多い.このため,LES
やRANS
に 代表される乱流モデルが提案され実用的に用いられてい る.その中でもLES
は,RANS
などと比較して,計算 量は多くなるが,非定常解析を行うため時間変動する現 象を把握するには有効な手段である.また,数値解析に より都市の大気環境流れ解析を定量的に行うためには,構造物や地形などを正確に表現することが望まれる.こ れらの任意複雑形状の適合性において,有限要素法は優 れた手法である.
著者らはこれまで,
Smagorinsky
モデル(1) を用いた 安定化有限要素法(2) による平行平板間乱流のLES
を 行ってきた(3).しかし,建物周辺気流などの複雑な流れ 場や非等温場への適用は十分ではなかった.そこで本論 文は,都市の大気環境流れ解析手法の構築を目的とし,複雑乱流場および非等温場における本手法の精度検証を 行った.数値解析例として立方体周辺気流解析および地 表面高温領域周辺気流解析を取り上げ,実験値(4)−(6) および既存の数値解析解(4),(5)と比較を行った.
2. 数値解析手法 2.1
基礎方程式非等温場における非圧縮性粘性流体を考え,
Boussi- nesq
近似を仮定する.そのときフィルタリングおよび 無次元化を施した,Grid Scale
(GS
)の運動方程式,連 続式,エネルギー方程式はそれぞれ式(1)
,(2)
,(3)
で 表される.運動方程式;
∂u
i∂t + u
j∂u
i∂x
j+ ∂p
∂x
i− 1 Re
∂
∂x
j³ ∂u
i∂x
j+ ∂u
j∂x
i´ + ∂τ
ij∂x
j− Arθδ
i2= 0 (1)
連続式;
∂u
i∂x
i= 0 (2)
エネルギー方程式;
∂ θ ¯
∂t + u
j∂ θ ¯
∂x
j− 1 P rRe
∂
2θ ¯
∂x
2j+ ∂h
j∂x
j= 0 (3)
τ
ij= u
iu
j− u
iu
j(4)
h
j= u
jθ − u
jθ (5)
ここで,u
i,p
,θ
はそれぞれフィルタリングを施した流 速,圧力,温度である.Re(= U L/ν)
はレイノルズ数,P r(= ν/α)
はプラントル数,Ar(= − gβ(θ
w− θ
c)L/U )
はアルキメデス数をそれぞれ表している.但し,U
は代 表流速,L
は代表長さ,ν
は動粘性係数,g
は重力加速 度,α
は温度拡散係数,β
は体膨張係数,(θ
w− θ
c)
は代 表温度差をそれぞれ表している.また,τ
ij はSubGrid Scale
(SGS
)応力,h
j はSGS
熱流束を表す.格子で捉 えきれないSGS
の乱れによるGS
の流れ場への影響は,τ
ijを通じてGS
の運動方程式に組み込まれる.h
jはエ ネルギー方程式にフィルタリングを施すことにより,新 たに現れる未知数である.したがって,LES
を用いて非 等温場を解析する場合はτ
ij,h
jの2
つに対してモデル 化を行う.2.2 Smagorinsky
モデルSmagorinsky
モデル(1)は,SGS
応力τ
ijに対するモ デル化の中で最も代表的なものである.乱流エネルギー の収支において生産項と散逸項が釣り合うという局所平 衡状態を仮定すると,SGS
応力は以下のようにモデル化 される.τ
ij= − 2ν
SGSS
ij(6) ν
SGS= (C
s∆)
2q
2S
ijS
ij(7) S
ij= 1
2
³ ∂u
i∂x
j+ ∂u
j∂x
i´ (8)
∆ = V
e1
3
(9)
h
j= − α
SGS∂θ
∂x
j= − ν
SGSP r
SGS∂θ
∂x
j(10) ν
SGS は渦粘性係数,S
ij はGS
の変形速度テンソル,C
sはSmagorinsky
定数, ∆
はフィルター幅であり4
面 体要素の体積V
eの3
乗根で定義する.また,α
SGSはSGS
温度拡散係数,P r
SGSはSGS
プラントル数であ る.Smagorinsky
モデルの場合,式(10)
のν
SGSは式(7)
から算出し,SGS
プラントル数P r
SGSに対しては0.5
程度の一定値を与える.2.3
境界条件Dirichlet
型,Neumann
型の境界条件は,以下のよう に与えられる.u
i= g
ion Γ
g(11)
½
− pδ
ij+ 2 ³ 1
Re + ν
SGS´ S
ij¾
n
j= h
ion Γ
h(12)
θ = t on Γ
t(13)
³ 1
P rRe + α
SGS´ ∂θ
∂x
j= k on Γ
k(14)
ここで,Γ
g,Γ
tはDirichlet
境界,Γ
h,Γ
kはNeumann
境界を表している.g
i,h
iはそれぞれ流速,トラクショ ンの既知量,t
は壁面既知温度,k
は壁面上の法線方向 温度勾配,n
jは外向き単位法線ベクトルを表す.2.4
安定化有限要素法基礎方程式
(1)
,(2)
にSUPG/PSPG
法,式(3)
にSUPG
法に基づく安定化有限要素法2)を適用すると以 下の弱形式が得られる.なお,w
i,q
は重み関数である.運動方程式,連続式;
Z
Ω
w
i³ ∂u
i∂t + u
j∂u
i∂x
j´ dΩ −
Z
Ω
∂w
i∂x
ipdΩ +
Z
Ω
³ 1
Re + ν
SGS´ ∂w
i∂x
j³ ∂u
i∂x
j+ ∂u
j∂x
i´ dΩ
− Z
Ω
w
iArθδ
i2dΩ Z
Ω
+q ∂u
i∂x
idΩ +
nel
X
e=1
Z
Ωe
n τ
supg1u
k∂w
i∂x
k+ τ
pspg∂q
∂x
io
· n ∂u
i∂t + u
j∂u
i∂x
j+ ∂p
∂x
i− ∂
∂x
j³ 1
Re + ν
SGS´³ ∂u
i∂x
j+ ∂u
j∂x
i´ − Arθδ
i2o dΩ
= Z
Γh
w
ih
idΓ (15)
エネルギー方程式;
Z
Ω
w ³ ∂θ
∂t + u
j∂θ
∂x
j´ dΩ
+ Z
Ω
³ 1
P rRe + α
SGS´ ∂w
∂x
j∂θ
∂x
jdΩ
+
nel
X
e=1
Z
Ωe
τ
supg2u
k∂w
∂x
k³ ∂θ
∂t + u
j∂θ
∂x
j− ( 1
P rRe + α
SGS) ∂
2θ
∂x
2j´ dΩ =
Z
Γk
wkdΓ (16)
式
(15)
の左辺第1
〜4
項と右辺項は式(1)
,(2)
に対す る通常のGalerkin
項,第4
項は移流項の卓越に起因す る数値不安定性を抑制するための安定化項(SUPG
項)および非圧縮条件に起因する圧力振動を回避するための 安定化項(
PSPG
項)である.右辺項は,Galerkin
項の 粘性項を部分積分したことにより生じた境界積分項であ る.式(16)
の左辺第1,2
項と右辺項は式(3)
に対する 通常のGalerkin
項,第4
項はSUPG
項である.τ
supg1,τ
pspg,τ
supg2は安定化パラメータである.Ω
は解析領域,
Ω
eは要素領域を表している.そして,式
(15)
,(16)
に対してP1/P1
(流速・圧力1
次)要素を用いて補間を行うことにより,以下の有限 要素方程式を得る.(M + M
δ) ∂u
i∂t + n
K(u
j) + K
δ(u
j) o
u
i− (G − G
δ)p + 1
Re Su
i− (M + M
δ)Arθδ
i2= 0 (17)
Cu
i+ M
ϵ∂u
i∂t + K
ϵ(u
j)u
i+ G
ϵp − M
ϵArθδ
i2= 0 (18) (M + M
δ) ∂θ
∂t + n
K(u
j) + K
δ(u
j) + 1 P rRe S o
θ = 0 (19)
ここで,M
,K
,G
,S
,C
はそれぞれ時間,移流,圧力,粘性,連続の各項の係数行列であり,添字
δ
,ϵ
はそれぞ れSUPG
項,PSPG
項に起因するものを表す.時間方向の離散化において時間微分項は次式のように表 される.
∂u
i∂t = u
n+1i− u
ni∆t (20)
時間方向の離散化には
2
次精度を有するCrank − Nikolson
法 を 用 い た .な お ,連 続 式 ,圧 力 は 陰 的 に 取 り 扱 っ て い る .移 流 項 に お け る 移 流 速 度u
i は2
次 精 度Adams − Bashforth
法により次式のように近似した.u
i= 3
2 u
in− 1
2 u
in−1(21)
連立一次方程式の解法には,Element-by-Element Bi-
CGSTAB2
法を用いた.
15.7L 5.2L
10.0L 9.7L 4.35L
Outlet Inlet
y
z x
図
– 1
解析領域
LineB
x y
z 0 Central axis
1.0L 1.0L
1.0L
(z = 0.0L) LineA
図
– 2
立方体周辺拡大図2.5
壁関数建物周辺気流のようなレイノルズ数の大きい流れ場で は,壁面境界条件に
No-slip
条件を適用すると計算負荷 が増大する.そのため,壁面第1
節点を全領域にわたっ て粘性底層内に位置させるのではなく,乱流域に位置す ることを前提として,壁関数を用いることが多い.瞬時 値に対して壁関数を適用する場合として,Werner
らに より提案されたLinear-1/7 power law
型2
層モデル7) を以下に示す.V
pτ
w1/2= y
+(y
+≤ 11.81) (22) V
pτ
w1/2= 8.3(y
+)
1/7(y
+>11.81) (23) V
pは壁面第1
節点の接線方向速度成分の絶対値(
底面 の場合はV
p= p
u
2+ w
2)
である.Linear-1/7 power law
型2
層モデルは,壁面第1
節点の瞬時速度の値のみ で瞬時の壁面せん断応力を求めることができ,またこれ に関する計算負荷をほとんど必要としないという利点が ある.3. 数値解析例 3.1
立方体周辺気流解析図−
1
に解析領域,図−2
に立方体周辺拡大図,表−1
に解析ケースを示す.境界条件は,Case1
,Case2
に共 通して,流入境界はu = y
(1/4) ,v = w = 0.0.
流出 境界は自由流出境界.側面および上端面はSlip
条件と した.なお,立方体の高さ及び立方体の高さでの流入 風速で無次元化している.数値解析に用いたメッシュ表
– 1
解析ケース底面および立方体壁面の境界条件
Case1 Linear-1/7 power law
型2
層モデルCase2 No-slip
0 1
1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5
ታ㛎୯
䉌䋨LES) Case1 Case2
䋼u䋾
y
(
a
)LineA
0 1
0 0.5 1 1.5
ታ㛎୯
䉌䋨LES) Case1 Case2
䋼u䋾
y
(
b
)LineB
図– 3
流速u
の時間平均分布表
– 2
再付着距離は,
x
,y
,z
方向にそれぞれ63
×34
×48
分割し,節 点数は104,630
,要素数は582,696
,最小メッシュ幅は4.16
×10
−2L
の不等分割メッシュを用いた.そして,レイノルズ数は
84,000
,微小時間増分量は1.0
×10
−3,Smagorinsky
定数は村上らの数値解析(4),(5) を参考に0.12
とした.図−2
より,流速u
の測定地点は立方体中 心の底面を原点として,LineA
はx = 0.2L
,y = 1.0L
〜1.5L
,z = 0.0L
,LineB
はx = 1.0L
,y = 0.0L
〜1.5L
,
z = 0.0L
とした.解析結果として,図−
3
(a
),(b
)にそれぞれLineA
,LineB
での流速u
の時間平均,表−2
に屋上面および立 方体後方の再付着距離の比較を示す.図−
3
(a
)より,Case1
は実験値および村上らの数値 解析解より屋上面付近で流速を過大に評価しているが,定性的に一致していることが確認できる.一方,
Case2
では屋上面での逆流域を広く評価しているために,屋 上面付近の流速が負となっている.図−3
(b
)より,Case1
,2
ともに,立方体の高さ(y = 1.0L
)付近まで は,実験値および村上らの数値解析解と良い一致を示 している.y = 1.0L
より上部においては,Case1
は良 い一致を示し,Case2
は流速を小さく評価している.次 に,屋上面および立方体後方の再付着距離の比較を行
8.0L 1.25L
2.0L 2.0L
x y
z
A B C D
0.875L 0.875L
1.3L θ = 1.0
L
図
– 4
解析領域う.表−
2
より,X
R,X
F はそれぞれ屋上面における 逆流による再付着距離と立方体後方における循環流によ る再付着距離である.Case1
は,X
R,X
Fともに村上ら の数値解析とほぼ同等の値を示している.Case2
では,X
R,X
F ともに実験値に対して再付着距離を大きく評 価している.3.2
地表面高温領域周辺気流解析図−
4
に解析領域を示す.境界条件は,流入境界はu = y
(1/2),v = w = θ = 0.0.
流出境界は自由流出境 界.側面,上端面は流速はSlip
条件,温度は断熱.底面 は流速はLinear-1/7 power law
型2
層モデル,温度はθ = 1.0
の領域(Hot Panel
)以外は断熱とした.数値解 析に用いたメッシュは,x
,y
,z
方向にそれぞれ65
×43
×
31
分割し,節点数は86,645
,要素数は483,840
,最 小メッシュ幅は4.44
×10
−1L
の不等分割メッシュを用 いた.レイノルズ数は29, 000
,アルキメデス数は1.21
, プラントル数は0.71
,SGS
プラントル数は0.5
,微小 時間増分量は1.0
×10
−3,Smagorinsky
定数は0.10
と した.解析結果として,図−
5
にz
軸方向に平均をとったx − y
断面平均温度分布を示す.Hot Panel
によって浮 力を生じた流体が解析領域後方に移流・拡散している様 子が確認できる.また,高温域は底面付近に存在してお り,上部は流入温度に近い低温域が存在している.これ は,浮力による鉛直流よりも流入流速による水平流が卓 越しているため,温度の移流が水平方向に多く行われた ためであると考えられる.図−6
に断面A
〜断面D
で の平均温度分布を示す.Hot Panel
直後の断面A
の底 面付近において実験値よりも過小に評価しているが,各 断面において実験値と概ね良い一致を示している.4. 結論と今後の課題
本論文は,都市の大気環境流れ解析手法の構築を目的 とし,複雑乱流場および非等温場における
Smagorinsky
モデルを用いた安定化有限要素法の精度検証を行った.数値解析例として立方体周辺気流解析および地表面高温 領域周辺気流解析を取り上げ,以下の結論を得た.
図
– 5 x − y
断面平均温度分布0 0.1 0.2
0 0.2 0.4 0.6 0.8
1 ᢿ㕙B ᢿ㕙C ᢿ㕙D
0 0.1 0 0.1 0 0.1
y
ᐔဋ᷷ᐲ ታ㛎୯
ᧄ⸃ᨆ ᢿ㕙A
図
– 6
各断面における平均温度分布•
立方体周辺気流解析において,壁関数を用いた解 析結果は,流速分布および再付着距離において,実験値および既存の数値解析解と概ね良い一致を 示し本手法の有効性が確認できた.
•
地表面高温領域周辺気流解析において,解析結果 は平均温度分布において,実験値と地表面付近で 差異はみられるが,概ね良い一致を示し本手法の 有効性が確認できた.今後の課題としては,地表面の熱収支を考慮した解 析,流入境界に関する境界条件の検討等が挙げられる.
参考文献