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(1)

シア・バターをめぐる 協働労働と女性の地位

―― 西アフリカ・マリの女性による生産組合の現状と課題 ――

園 部 裕 子

は じ め に

西アフリカ諸国では, 年代までの干ばつや債務超過問題,それに続く 構造調整計画(Structural Ajustement Program)の導入により,国家サービスが 後退し,外部機関による支援や国内外の市民団体の役割が増した。それととも に女性による組織も増加し,経済的・社会的役割は増したものの,女性の社会 的地位が承認されたとはいえない(Bonnassieux )。

西アフリカ半乾燥地帯の中心に 位置するマリ共和国は,旧フラン ス植民地である。周囲を カ国(ア ルジェリア,モーリタニア,セネ ガル,ギニア・ビサウ,コート・

ジボワール,ブルキナ・ファソ,

ニジェール)に囲まれた内陸国 で,欧米列強によるアフリカ分割 に由来する,典型的な多民族国家 である。地理的な位置づけにも起 因する経済条件,開発の遅れ,度 重なる干ばつなどのため,世界最

貧国のひとつになっている。 写真 生産組合の敷地に生えるシアの木(筆者

撮影, 年 月 日)

(2)

年のフランスからの独立以来,マリは 年間の社会主義政策期, 年 間の独裁政権期を経てきた。 年,当時のアフリカでは唯一と言われた市 民運動による政権交代が実現した後は,選挙による政権交代が行われてきた。

年代から 年代にかけては,南アフリカ共和国のアパルトヘイト廃止 をはじめ,アフリカ各地で民主化が著しく進んだアフリカ政治の「グローバル 化期」とされる(西川・阪本 )。この民主化から 年の政変までの約 年のあいだ,マリでは安定した民主主義体制のもと,経済発展が進みつつ あったと言える

!

。 年代には,とりわけ表現の自由も保障されるようになり,

多くの市民団体が誕生した(Perret )。

ここでは,この安定した「グローバル化期」にマリ各地で起こった自発的な 市民活動のなかから,農村女性による協働行動としてのシア・バター生産組合 に注目する。以下に見るように,シア

"

の木は,実から幹に至るまでさまざまに 用いられる,西アフリカの住民生活に根ざした貴重な木である。特にその実 は,収穫から加工まで,すべての作業に女性だけが携わる,いわば「女性の木」

である。西アフリカ社会では,女性と男性の生活空間,担うべき労働が明確に 区別されるが,シアをめぐる作業は,とりわけそれを明示的に示すものである。

伝統的なシア・バター生産は,実の収穫から製造工程までの間のさまざまな 要因のため,農村女性の収入増にはなかなか結びついてこなかった。西アフリ カ社会では,女性には土地の所有権がなく,シアの生える農地の所有権が男性に

( ) 年以降,「アラブの春」の余波も受け,北部トゥアレグ人武装集団およびイスラ ーム過激派武装集団による北部侵攻を受け, 年 月には,それらへの政府の対応に 不満をもつ一部軍人によるクー・デタが起こった。この政変の詳しい展開については,

Perret(

)を参照。

( ) シアには二種あり,一種は東アフリカの一部に生育し,油脂は液体になる。ここでは 西アフリカに広く生育する種(学術名

Vitellaria Paradoxa,旧学術名Butyrospernu, Parkii

Kotschey)を扱う。フランス語名karité,バンバラ語名 ,英語名Shea。フランス語名は,

セネガルで話されるウォロフ語名に由来する。本論では,日本で広く使われている英語 名の訳シアを使用する。旧学術名の由来は

Butyro

バター,Spernum 種,Parkii ムンゴ・

パーク(Mungo Park, 〜 年に西アフリカを横断して初めてこの木についての記 録を残したスコットランド人冒険家)による。シアの生態については

Terpend, M. -N.

( )を参照。

(3)

ある点が,女性のバター生産の諸条件を決定づけることになる。またバター精 製は,伝統的に伝達された方法による家内作業で行われてきたが,質が安定せ ず,市場での価格も低いなどの課題もあった。また,バターを定期市などで売っ た後の流通過程は男性が担っており,女性が携わりにくいという問題もある。

しかし女性だけが関わるという特殊な位置づけにより,シアは「女性関連産 業」として国際支援組織から注目を受けるようになり,女性生産者らのための さまざまな支援が行われつつある(Elias and Carney b)。マリでは,

万人もの女性がシアに関わって働いているとされ,この地域の女性の中心的な 労働のひとつである(Moudio )。シアの生育地では「バターの精製作業を 行わない村はない」と言われるほど,実からのバター精製は農村女性の主要な 労働の一つであり,その現金収入の 割がシア・バターによるとも言われる

!

。 全人口の %が農村に集中していることを鑑みて,政府もシア関連産業の振 興を奨励している(CCI )。シア部門は,おもに「女性・子ども支援省

(Ministère de la Promotion des Femmes et de l’Enfance : PFE)」(以下,PFE 省と 略)の管轄で,生産組合の組織化や技術指導が行われている。シア・バター生 産を政策的に支援することにより,農村女性の収入増と生活改善が期待されて いるのである。

後述のようにマリは,シアの核の生産高においては,ナイジェリアに次いで 世界第二位である

"

。しかしながら,世界のシア市場におけるマリのシェアは

%以下と言われ,周辺国に比してあまり高くない(CCI )。女性による シア・バター生産をめぐる研究も,ブルキナ・ファソ(Elias and Carney ,

Elias and Carney a ; b)やガーナ(Chalfin )を中心に扱い,マリ

の女性生産者の姿は見えてこない。

本論で注目するのは,マリの女性たちがシアをめぐる課題を解決するために 始めた,自発的な協働行動としての生産組合の活動である。以下でみるよう

( ) 女性・子ども支援省シア・プロジェクト責任者

Diahara THOMAS

氏による(筆者によ る聞き取り, 年 月 日)。

( ) 実の収穫量は 万トン。

(4)

に, 年代以降,各地で立ち上げられた生産組合のイニシアティブにより,

「改良バター beurre amélioré 」の製造方法と技術が導入され,作業が効率化さ れた。その結果,女性たちはシア・バターの市場価格を上昇させることに成功 した。また活動への参加により,組合員女性は社会性や自尊心を養うことがで き,村落社会で発言するきっかけをえて女性の地位も向上するなど,たんにバ ター精製の効率化以上の社会的変容がもたらされている。

ここでは,以上のようなシア・バター生産と女性による協働活動,そしてそ れにともなう女性の経済的・社会的地位の変容について,具体例をもとに検討 する。以下ではまず西アフリカにおけるシアの位置づけ,現代的な注目のされ 方について先行研究から俯瞰する。次にマリ中部における現地調査をもとに,

マリのシア・バター生産組合の現状と課題を分析する。そこから,生産組合へ の参加による女性の地位の変容について考察したい。

.西アフリカにおけるシアの位置づけと調査

..生活に根ざす木

シアは世界でも,西アフリカの雨期と乾期をもつ半乾燥地帯,「スーダン気 候」の一部地域にのみ生育する樹木である。以下の地図のように,生育地域は 東西にはマリ西部からチャド,スーダンまで,南北にはコート・ジボワールや ガーナ北部からマリ中部までの範囲に,ベルト状に広がっている。生育には 年間雨量 〜 , mm の土地が適しているとされる(Hall et al. )。マ リ国内では,雨量の少ない北部地域には見られず,中南部,ほぼ主要都市セグ ー以南が生育地にあたる。主要幹線道路沿いでも,セグーから南に行くほどシ アがよく見られる。南東部の主要都市シカソ Sikasso は,マリの公用語である バンバラ語で「シアの家 」

!

を意味し,シアの森に囲まれているとも言 えるほどである。

シアは,実,葉から根,幹に至るまで,食料,医療,呪術などさまざまに活

( ) 以下,アルファベット表記の単語のうち,イタリック体のものは原語がバンバラ語の

単語,それ以外はフランス語の単語である。

(5)

用され(Hall et al. , Diarassouba et al. ),歴史的に住民生活のなかに 根ざしてきた

!

。実の果肉は食用になり,核(または仁,amande, sìkisε)から 精製する油脂(バター )は食用として使われるほか,灯り用の油や石鹸の材料,

"

土壁の下塗りの原料にもなる(Diarassouba et al. )ほか,船の防水にも用 いられる

#

。また,乳幼児のマッサージ,肌荒れ,火傷や皮膚病の治療にも用い

( ) シアのもっとも古い記述は,Park, M. ( )

.Voyage dans l’intérieur de l’Afrique, La Découverte., Caillé, R.

( )

.Voyage à Tombouctou, La Découverte

による。Park は標本 も持ち帰り,これによりシアがヨーロッパに知られるようになった(Hall et al. )。

当時の隊商貿易では南からシア・バターが運ばれ,北から流通する塩などと交換されて いたことも記されている。

( ) シアの油脂は常温で半固形状になるため,「バター」(

:

シア,tùlù 油)と呼ば れる。

( ) 農業省による開発プロジェクト支援団体

PAFA, Cheickna DIANKA

氏による(筆者に よる聞き取り, 年 月 日)。

シアの木の分布(出典:Terpend

(6)

られる(Chalfin )。幹は硬く頑丈なため,器や木彫りの材料になる。マリ の少数民族ドゴン人の伝統では,女性は出産後,シアの葉を湯煎にかけた湯で 体を洗えば,出産にともなう悪運を取り除くと言われる。

このようにシアは,日常生活でさまざまに用いられる,西アフリカの人々に とって貴重な木である。そのため農地の開墾にあたっても,ほかの木は伐採 してもシアだけは残される,いわば「保護樹」と位置づけられてきた(Ftaïta

)。野生に生えながらも,生育には人の保護を受ける,特別な位置づけの 木なのである。

..シア・バターの歴史と現在

シア・バターは近年,「自然」や「エコロジー」といった価値観を好む先進 国消費者の傾向により,THE BODY SHOP や L’OCCITANE をはじめヨーロッ パやアメリカの化粧品会社に用いられ,急速に注目を集めているようにみえる

(Elias and Carney )。しかしながらシアは歴史的に,この地域をふくむ広い 地理的範囲で取引されてきた。上記のように, 世紀初頭に西アフリカ横断 を果たしたムンゴ・パークは,シア・バターがバンバラ人にとって,隊商貿易 との取引の主要商品だったことを記している(Park )。ガーナにおけるシ ア・バター流通過程の研究からは,イギリスによる植民地支配において,土地 利用,労働力の管理から取引市場の確立まで,シアを統制することが,植民地 そのものの統治手段と見なされていたことも指摘されている(Chalfin )。

このような「女性の木」,生活に根ざした木,そして歴史的な商品としての シアの位置づけに,近年,国連女性基金 UNIFEM や国連開発計画 UNDP,開 発支援を行う欧米政府, NGO などが注目し,とくに内陸国で自然資源の少ない ブルキナ・ファソへの開発支援として,シアを通じた女性支援を行うように なっている(Elias and Carney , Greig , Elias and Carney b, François

et al. , Saussey )。こうした開発支援プロジェクトの注目とあいまっ

て,社会学研究においても,シアと女性をめぐる研究は,ブルキナ・ファソを

扱ったものが圧倒的に多い。

(7)

..調査について

以上のように西アフリカでは歴史的にも,現在でも,シアは住民にとって重 要な収入源であり,生活の資源として位置づけられてきた。しかしながら,化 粧品産業でのブームと開発支援という,現代的な方法でのシアへの注目の高ま りと,そこにおけるブルキナ・ファソへの関心の高さに比して,同じ内陸国で ある隣国マリのシアについては,あまり関心が高いとはいえない。マリのシア 産業や女性生産者の現状についての研究も,Biquard( )や Sidibé et al.

( )をのぞいてほとんど見られない。

筆者はこれまで,おもにフランスをフィールドに移住女性の相互扶助活動に ついて調査を続けるなかで(園部 ),マリ出身の移住女性が市民団体活動 の手本とする,出身国マリの女性たちが村々で組織する小グループ tòn にも注 目してきた。ここで検討したいのは,こうした小グループや生産組合のもたら す「無 形 の intangible 効 果」(Hirschman = )で あ る。Hirschman に よ

調査地

(8)

れば,協同組合の結成は,それ自体が大きな象徴的価値を生じさせる。とくに 自己主張の行動をつうじて人々に誇りを与えるだけではなく,長いあいだ苦し められ,虐げられてきた人々にとっては,解放の始まりとさえ感じられる行動 と言える(Hirschman = )。上記のようにシアは,マリの農村女性に とって欠かせない収入源でもある。このシア・バター生産組合の活動は,農村 女性が長いあいだ受け継いできたバター生産の経済的意義が認められただけで はなく,女性たち自身にとって「無形の効果」をもたらす例として,検討に値 する。

調査は, 年 月 日〜 月 日にかけて,マリ中部で実施した。対 象地域は,首都 Bamako を含む Koulikoro 州の Siby,および Sikasso 州 の 市

(Dioìla, Koutiala, Sikasso, Zantiébougou, Zégoua),計 市である

!

。各市の生産 者団体を訪問し,組合の結成経緯,これまでの実績,政治危機前と危機後の状 況,またメンバー女性の生活状況とその変化,女性の地位の変容を問題設定と して聞き取りを行った。

訪問先団体は,①女性子ども支援省による生産者支援プロジェクト「Projet Karité」により結成された生産者組合 団体(Koulikoro 州 Dioìla,Sikasso 州

Sikasso),②開発支援 NGO・A とその支援を受ける生産者組合 団体(Koulikoro

州 Siby の生産組合 I および Sikasso 州 Zégoua の生産組合 L),③もっとも規模 が大きく,セネガルを含めマリ国内市場などで広く商品が流通している生産組 合 N(Zantiébougou),④ Sikasso 州で調査中に知己を得た Koutiala 市議会長か ら紹介された,同市の女性による生産組合連合 M,の計 団体である。

各団体では責任者に対する半構造化インタビューを行ったほか,生産組合で は,責任者の協力を得て可能であれば,組合員の女性へのグループ・インタ

( ) 調査にはマリ人の助手が同行した。また対象の 州は,民族分布が異なる。調査対象

となったのは,Koulikoro 州はマンダング系民族のバンバラ人(バンバラ語),Sikasso 州

ではセヌフォ系民族のセヌフォ語およびミニアンカ語を話す女性たちである。筆者はフ

ランス語と基礎的なバンバラ語会話を介すため,組合責任者など,フランス語を話すイ

ンフォーマントとは直接フランス語でやりとりし,必要に応じて助手がバンバラ語会話

を通訳した。Sikasso 州の組合員らとの集団面接など,それ以外の言語は,調査先団体で

フランス語を話す責任者,職員などに現地語との通訳を依頼した。

(9)

ビューを行った。また,調査は雨期に行ったため,一般的には,バター精製は あまり行われない時期にあたる。それでも作業所が稼働していた 団体(I お

よび N)では,実際の作業での参与観察と組合員への聞き取りを行った。その

ほか,②の開発支援 NGO,PFE 省のプロジェクト責任者,シアの植林プロ ジェクトを行っている政府系組織など,関係者への聞き取りを行った。

.シア・バター生産と女性労働

..シアの木の特性と収穫をめぐる課題

シアは,ゆっくりと生育する木である。 年ほどかけて初めて実を成すよ うになり, 年ほどで成熟期をむかえる(Terpend , Ftaïta )。木は硬 い表皮に覆われ, 〜 メートルの中・高木になる。成長が遅く,歴史的に 農村の女性が関わってきた木であるため植林は行われず,現在みられるシアの 木は,ほとんどが野生に生えたものである。

熟して地面に落ちた実(fruit, )は,まず果肉が取り除かれ,殻付

けん か

きの堅果(noix, )が取り出される。バター精製には,この堅果から殻を 取り除いた核(または仁,amande, sìkisε)が用いられる。 キロの改良バタ ーを精製するには,約 キロ分の核が必要になる。取引されるのは,おもに核 とバターである。

またシアは,実の収穫も安定しない,特殊な性質の木である。生育には十分 な雨量のある,しかし適度に乾燥した土地が必要となる。そのため,年間雨量 が , mm を超える熱帯地域には見られず,生育範囲は,西アフリカでも限 られた一帯に限られる。またシアは,乾期の終わりから雨期にかけて,つまり 月から 月頃に実の収穫期を迎える。雨量が十分にあれば多くの実を成す が,豊作は 年以上は続かない。一般的に,一本の木が成す実の量は年により 変化し,約 年のサイクルで収穫量が大きく増減する

!

。このように生育に非常 に時間がかかり,定期的に一定量の収穫が見込めないという特徴のため,これ

( ) 収穫量のサイクルには規則もない(Terpend )。聞き取りによると,マリでは,

, 年は不作, 年は豊作であった。

(10)

までシアの大規模な植林は行われてこなかった。

収穫量に増減があれば,精製できるバターの量も大きく増減する

!

。したがっ て生産組合が毎年のバター生産量を安定させるには,十分な量の核を確保して 保管しなければならない。加えて,シアが生育する西アフリカにおける土地の 位置づけのため,実(核)をどこで,どのように,誰が収穫するか,また収穫 された実(核)をどこで,どのように,誰が加工するかをめぐり,多重の競争 関係が生じている。

以下の表は,シアの堅果およびバターの生産・輸出統計である。マリはガー ナに次ぐ輸出総量第二位の国である。複数の関係者によれば,ガーナ,ブルキ ナ・ファソ等からの商人がマリまで買い付けに来るため,シアの核の買い付け をめぐる競争がある。マリ産の堅果は隣国に持ち出されることになり,「マリ 産のシアで作られたバターが,ブルキナ・ファソやガーナ産として輸出されて いる」と言う。

聞き取り先のうち,もっとも大規模な精製作業を行っている組合 N には作

( ) 後述のようにバター精製や取引の対象になるのは「堅果」の状態である。

国 潜在量 実際の堅果 収穫量

現地での 消費

堅果・バタ

ー輸出総量 堅果輸出 シアバター 輸出

ベニン , , , , ,

ブルキナ・

ファソ , , , , , ,

コート・ジ

ボワール , , , , , ,

ガーナ , , , , , ,

マリ , , , , , ,

ナイジェリア , , , , ,

トーゴ , , , , , ,

合 計 , , , , , , ,

表 シア堅果・バター生産・輸出統計

出典:Bocoum, K. B.,

, Filière Karité au Mali

(ec.europa.eu/agriculture/.../konte-binta-

bocoum_fr.pdf)

(11)

業所があり,年間を通してバター精製を行っている。そのため,組合員女性ら による持ち込み以外にも,収穫期にできるだけ多くの核を買い付け,保管して いる。創設者の一人で元代表者の女性が中心になり,取引市場での買い付けに 当たっている。

シアは堅果による取引の方が多い。それには収穫した女性が自らバターに精 製せず,堅果のまま商人に売って現金に換えているという現実がある。実の収 穫期である乾期の終わりから雨期にかけては,農村住民にとって,一年でもっ とも農作業の多い時期でもある。それと同時に,もっとも厳しい季節,「お金 のいる,つなぎの時期 période de soudure」(Biquard )でもある。なぜな ら前年に蓄えた穀物の備蓄も,農産物を売って得た金も使い果たし,雨期の終 わりの収穫期までの間,なんとかして食いつながなければならない期間だから である。

生産組合に参加している女性は,組合が買い取り価格を保証してくれるた め,収穫した核を組合に持ち込んで現金化できる。しかしながら,組合のある 地域であっても,すべての女性が参加しているわけではない。非組合員の女性 たちは,バター精製の時期まで待たず堅果のままで売ることで,早く現金を手 にして,厳しい雨期を乗り越えようとする。その日の「トー 」と一緒に食 べるソースの材料を買う

!

など,日銭を稼ぐためには,バターにして売る方が収 入は増えると分かっていても,堅果のままで売らざるをえないのである。

また,シアが生育している場所は大きく三種類に分けられ,所有者のいる農 地,村の共同管理地や休閑地 jachère,村の外の野生林である。西アフリカ社会 では,女性には土地の所有権がなく,農地の所有権は男性にある。家族の男性 が農地を所有するかどうかが,女性の実の収穫量を左右する要因となる。

野生林以外に生えるシアの木はすべて,所有者が決まっている。所有者のい る農地に生えるシアは土地の所有者のもので,その男性の妻らが収穫する

"

。休

( )「トー」は,粟やトウモロコシの粉を錬って蒸した固粥で,マリのほとんどの民族の

主食である。バオバブの葉の粉,植物の種などから作った調味料などを混ぜて煮込んだ

ソースを付けて食べる。

(12)

閑地や共同管理地,野生林は,誰でも収穫できる。女性自身の親が土地を所有 する場合は,収穫時期に実家に戻って実を収穫する人もいる

!

。夫の所有地があ り,シアの木が生えている場合,そこからある程度の収穫を見込めるが,共妻

"

も収穫する場合,自分が収穫できる量は少なくなる。所有する土地からの収穫 以外にも収穫量を増やしたい場合や,夫や親族に所有地がない女性の場合,共 同管理地や野生林にでかけなければならない。

所有地があっても共妻や親族女性が多い場合,収穫は競争になる。聞き取り では,収穫期になると朝 時に起床し,懐中電灯を持って出かけるという女性 もいる。早朝の野生林はヘビや野犬などの動物が出没するため,危険をともな う作業である。また,どの女性も一人で,または子どもを連れて収穫に出かけ ると言う。実の収穫量は最終的なバターの分量,すなわちその人の収入を決め る。そのため,収穫作業は競争的な要素が強くなり,他の女性と連れだって出 かける人はいない。

収穫した実を持ち帰る手段も,収穫量を決める要素になる。頭上に載せて帰 るには限界がある。子どもなどの助けが得られるか,家族が荷車や自転車を所 有しているかなどが,持ち帰ることのできる実の量を決定することになる。

このように,一人の女性の収穫量は,その人をとりまくさまざまな要因に よって,決まってくる。例えば Sikasso 州のある組合のメンバー 名の例では,

夫の所有地で実を収穫する女性は,一年に キロ以上の改良バターを精製し ている。他方で,夫が農地を所有していない女性は,野生林や共有地で実を探 すしかなく,一年のバター精製量は約 キロにすぎない

#

( ) 一部の文献では,周辺国と異なり,マリでは,所有者の家族ではなくても畑の中で実 を収穫できる,とするものもある(Hall et al. )。また,関係者への聞き取りでも,

同様に,収穫の場所には土地の所有者か否かは関係ないと述べる人もいた。しかし複数 の調査地での組合員女性への聞き取りからは,他人の所有する土地の実を拾うことは窃 盗に値し,たとえ友人同士であっても行わない,というコンセンサスがあることが分 かった。

( ) 組合員女性による証言(筆者による聞き取り, 年 月 日)。

( ) 夫が一夫多妻婚で妻が複数いる場合,妻同士は「共妻

co-épouse」という関係になる。

( ) それぞれ核の収穫量は,およそ キロ, キロということになる。

(13)

以上のように,誰が収穫し,誰がバターを精製するか,シアの核をめぐって 多重の競争関係が存在することが分かる。シアの木は自然に生えた場所に点在 し,収穫は農村の女性たち,そしてしばしばその女性を手伝う子どもたちの労 働に,完全に依存している。一人の女性の収穫量は,家族の男性の土地所有や 運搬道具の有無など,個人にとっては外的な要因に大きく依存する。また,こ のようにして収穫された堅果/核は,マリ国内のみで流通するのではなく,近 隣諸国からの商人により,国外にも流出する。生育地や木の数が限られるこ と,そして 年のサイクルで豊作と不作を繰り返すシアの性質にもより,その 希少性は高まるのである。

しかしながら,核のままで売却してしまうと,価格は高くはない。一般的に 核の取引価格は,収穫シーズンの間に変動し,シーズン初期から終盤にかけて,

少しずつ上昇する。Sikasso 州のある生産組合が組合員から核を買い取る価格 は,時期により, 〜 CFA/kg

!

である。Koulikoro 州の生産組合では,豊作

の年は CFA/kg,不作の年は CFA/kg である

"

。しかし同じ量の核をバタ

ーに精製すれば, 倍以上の価格で売れ,その分,収入も増える。核のままで 売却せず,バターを精製して売ることでいかにして収入を上げるかが,女性た ちの課題なのである。

..バター精製の方法と社会的評価

以上のようにして女性や子どもの手により収穫された堅果/核は,さらに女 性や子ども,特に娘たちの手によって加工される。先述のように,バター精製 の方法は女性の間で伝承されてきた。女性たちは各自で,自分の収穫物をバタ ーに精製する。しかしその作業は重労働である。そのため,精製作業の工程は,

共妻など家族内の女性同士で助け合い,とりわけ娘たちが作業を手伝うことに なる

#

。娘たちは母親や親族女性のバター精製に労働力を提供するが,少しの分

( ) セーファー・フラン

CFA

は ユーロあたり約

CFA

の固定相場制である。

CFA

は約 円,

CFA

は約 円。

( ) この生産組合では,組合員女性が核を持ち込む度に,運搬料が追加される。

(14)

け前をもらって自分の分を精製する機会も与えられる(Chalfin )。このよ うにして農村の女性は結婚前からシア・バターの精製方法を学び,収入を得る 手段を身に付けていく。

こうして受け継がれてきた「伝統的製造法」に加え,近年,「改良バター」製 造法が導入されている。改良バターの製造方法は, 〜 年頃に生産組合 N の女性らが組合を結成した際,オランダ政府系開発支援組織の援助でブルキ ナ・ファソを訪問し,導入したのがマリに持ち込まれた先駆と考えられる

(Sidibé et al. )。現在マリでは,カナダ政府系開発支援組織の支援により,

農業省による開発プロジェクト支援団体 PAFA,PFE 省のプロジェクト関係者 らが作成した『マリの改良バター製造のための最適方法ガイド Guide de bonnes pratiques de fabrication de beurre de karité』とポスターが作成され,各生産組合 に配布されている。以下では,このガイドおよび聞き取りから,バター精製の 具体的な方法について検討する。

まず伝統的製造法では,シアの実は 〜 月の雨期の間に収穫され,乾期ま で堅果として保管される。雨期には穀物や野菜栽培などの重要な農作業が集中 しており,女性も畑仕事に出るため,バター生産に割く時間がないためであ る。保管方法は,土に穴を掘って堅果を埋めるのが一般的である。しかし保管 中に堅果の鮮度や質が落ちるため,その堅果から製造された伝統的シアバター には,特有の匂い,強い酸味,色が安定せず褐色度が高くなるなどの特徴があ る。品質の安定しない伝統バターは,市場での価格も安くなってしまう。

こうした伝統的製造法のもつ課題を改善するために編み出されたのが,「改 良バター」製造法である。この製法では,まず,収穫すべき実/堅果の基準が 定められている。収穫とはいえ,熟して地面に落ちた実や堅果を拾うのだが,

その際,殻が割れているものや傷んでいるもの,すでに発芽したものは収穫対

( ) 以下のように精製作業を一人で行うのは難しいので,一人の女性の作業に他の女性が

手を貸す。しかし収穫した核はあくまで個人の所有物であり,精製したバターもその女

性のものである。各自の核を持ち寄って協働でバターを精製し生産物を分け合う,とい

うわけではないことに注意。

(15)

象とならない。できるだけ新鮮で,清潔な状態の実や堅果を選ぶ必要がある。

次に,収穫後 日以内に熱湯で堅果を茹で,日光で完全に乾燥させてから,保 管する。つまり原料の質をいかに高めるかが,最終的な製品としてのバターの 質の決め手になるのである。この製造法により,伝統的バターの課題を克服 し,安定して質の高いバターを生産できるようになる。

バター精製の手順は,以下のとおりである。まず,収穫した実の下処理を行 う。実(fruit, )から果肉を取り除き,殻付きの堅果(noix, ) を取り出す。この堅果を 時間以上熱湯で茹でて天日干ししたものを,バター 精製に使う。核は 日以上,天日で干すことで,数ヵ月〜 年近く保管できる ようになる。

つぎにバター精製では,堅果をすり鉢に入れて殻を取り除いた核(仁, amende, sìkisε)を用いる。一般的に, キロの核から, キロの改良バターができる。

核はさらに選別にかけられ,腐敗したものや発芽したものが除かれ,さらによ く天日干しにしてから専用の粉砕機で粉砕 concassage する。すり鉢で粉砕する こともできるが,重労働になる。訪問した各生産組合では,バター精製をメン バーが自宅で行う場合も,組合が粉砕機を購入し,メンバーは料金を払って使 用していた

!

。この工程でえられた粉は,さらに粉挽き機にかけて粉砕 broyage する。よく天日干しにした核からは,チョコレートを溶かしたような容体と匂 いの,なめらかな生地ができあがる。

この生地からバターを精製する工程は,機械による方法と,人手による方法 がある。機械式では生地を専用の機械で焙煎した後,釜で蒸し,さらに専用の 機械で圧縮して油脂を抽出する

"

。人手による方法では,上記の生地に熱湯と水 を交互に加えながら,両腕で攪拌 Barattage を続ける作業になる。この人手に

( ) 以下のように生産組合には,本部の作業場でメンバーが労働者としてバター精製を行 う仕組みと,メンバーが自宅で精製したバターを組合が買い上げる仕組みをとっている ところがある。いずれの場合も,粉砕工程にかかる労力を軽減するため,組合が粉砕機 を所有している。

( ) 専用の圧縮機は 万

CFA(約

万 , 円)と高額なため,組合でも容易には購入

できない。調査先で所有していたのは,PFE 省系の生産組合のみ。

(16)

よる攪拌は,伝統的な製法をそのまま受け継いでいると言える。できあがった 油脂は濾過して冷まし,固形の状態でストックされる。そして必要に応じてま た熱を加えて少し溶かしてから小売り容器に分け,販売される。

生産組合 N で,バター精製工程でもっとも厳しい作業のひとつ,バターの 攪拌に当たっていた組合員女性 D さんに話を聞いた

!

。D さんは 歳前後くら い,高齢の夫の第二夫人である。夫が年をとってあまり畑を耕せなくなったの で「夫を助けるため」,つまり主食の穀物を買う足しにするために,働きに出 るようになった。 年前から組合員で,共妻である第一夫人も組合員である。

D さんは 年は,堅果の持ち込みと作業場での労働に参加している。収 穫は夫の農地と休閑地で行い,今シーズンは合計で kg の堅果を組合に持 ち込んで売った。人により, シーズンで kg から , kg も持ち込む人 もいると言う。

作業場での労働も 年前からの経験である。毎月,連続した 日間ずつ作業 に入る。作業中は組合本部に泊まり込む。共妻とは作業に入る期間を調整し,

どちらかが自宅に残るようにしている。組合からの日当は,経験により ,

〜 , CFA である

"

。経験 年目の D さんの場合, , CFA である。 日

間の合計は , CFA になる。しかしこの日当すべてが収入になるわけでは ない。交通費が支払われないからである。初日の早朝 時に,本部から キ ロ離れた村から,息子が運転するバイクで出勤してきた。バイクは親族に無料 で借り,その日の往復のために燃料代を , CFA 払った。息子はその日は そのままバイクで帰宅し,最終日に再び迎えに来る。つまり 往復分の燃料代 は , CFA になり, 日間の日当から燃料代を引いた収入は, , CFA になる。泊まり込み中,作業班のメンバー 人で共同で炊事をしており,材料 を買うために小銭を払っているので,実質的な収入はこれよりも少なくなる。

これでも D さんは親族からバイクを無料で借りられるので,その分,節約で

( ) 筆者による聞き取り( 年 月 日)

( ) 組合本部関係者らとの聞き取り( 年 月 日)では ,

CFA

との答えだった

が,作業場の女性たちによると最初は ,

CFA

(約 円)で始まり,経験と共に ,

CFA

になるという。

(17)

きていると言う。

バターの攪拌は,砕いて 蒸した核に水とお湯を少し ずつ加えながら,手で練り 上げる作業である。合計 時 間 半 の 作 業 中,最 初 の

分は両腕を使った攪拌,

次の 分が片腕で混ぜる 作業,最後の 分ほどは,

浮いてきたムース状のバタ ーをかき集め,別の容器に

移す作業である。この攪拌作業を,班のメンバー 人が交代で,午前中は一人 回ずつ行う。D さんに話を聞いたのは午前の作業の終盤で,暑く,湿度の高 いなかで 分間,バターを攪拌する作業は,重労働である。 分もすると D さんは息が切れ,暑い,苦しい,と何度も言いながら攪拌を続けた。

攪拌作業の方法は,母親から習った。苦しい作業にもかかわらず,「祖母ら の時代には,この仕事は評価されていなかった」,と D さんは言う。つまり今,

自分が同じ作業をして賃金を得ていることを,「評価されている」と考えてい るのである。組合員として稼いだお金は,「夫を助ける」,つまり穀物を買うた めに使うほか,自分と子どもの衣服を買うために使う。あなた自身のためには 使わないのかと尋ねると,自分の親族の結婚費用にも使う,と言う。 D さん自 身のためにどう使うかと繰り返し尋ねてようやく,自分の靴やアクセサリーも 買うと答えた。 D さんにとって「自分のため」とは,まず子どもや親族のため であり,ただちに自分自身のみを指示しないということが分かる。

伝統的に女性から女性へと代々受け継がれ,家内生産で行われてきたバター 精製の作業は,組合により行われ,女性たちは収入を得られるようになった。

このことについて女性たちは,自らの役割が社会的評価を得るようになったと 考えている。PFE 省の支援で結成された組合では,全組合に共通の販売ブラン 写真 バターになる生地を攪拌するDさん(筆者撮

影, 年 月 日)

(18)

ドとして,「月の光 Kalojé」という名を付けている。ある組合員女性が考えた もので,二つの意味を持っていると言う。一つは,かつては褐色だったバター の色が明るくなったこと,そして二つめには,かつて女性たちは影のような存 在だったが,現在ではその存在が明るみに出てきた,ということを示している。

つまり,家内生産という私的空間でバター生産が行われていた時代,誰がどの ようにしてバターを作っているのかは社会的には見えず,女性たちは「影」の ような位置づけにあった。今,その作業は組合という公的空間の「光」のもと で行われ,女性たちの役割が認められるようになったということである。

.協同組合がもたらした女性の地位の変容

..生産組合による収入の増加

生産組合のおもな目的は,メンバー女性らの収穫を一定以上の値段で買い上 げること,また,バター精製を奨励して,収入を安定させ,増加させることで ある。そのために生産者組合が担う作業は,おもに以下の三つに分けられる。

① 組合員女性からの堅果/核の買い上げ

② 組合員が自宅で精製した改良バターの買い上げ

③ 組合員女性が作業員として,バター精製または関連商品(石鹸,クリーム など)の製造作業に参加し,賃金を支払う。

本部にバター精製の作業場がない組合では,②のみを行っている。その場合,

組合の役割は,必要な道具を共同で購入したり,改良バターを組合のブランド 名で小売りしたりすることである。 Koutiala の組合連合 M がその例である。

作業場がある組合は,雨期に①,乾期または一年を通じて③を行っている。雨 期に①および②を行い,年間を通して③を行う組合もあった。

組合を通じた女性たちのイニシアティブが女性の地位の向上につながった例

をみよう。 Siby 市の生産組合 I は,市内の女性たちのイニシアティブで結成

された。組合がなかった 年以前,女性たちが作ったシア・バターの定期

(19)

市での買い取り価格は 〜 CFA/kg,高くても CFA/kg ほどでしかな かった。女性たちはバターの価格を上げたいと話し合い, 年ごろ,共同 で行動を起こすことを決意,生産組合を結成して団体登録を行い,村長に陳情 に行った。村長から市長に取り次がれ,市長が首都 Bamako で支援者を探した 結果,開発支援 NGO の A と連携することになった。

A の責任者によると,連携開始当初,女性たちが家内産業で作っていたバタ ーの生産量は少なく,実の収穫や組合の仕組みなどをめぐり,さまざまな問題 を抱えていたと言う

!

。そこで .組織化と改良バター精製の訓練, .シアの 木の保護,という二つの課題に取り組んだ。 については,カナダ政府と UNDP の支援を受け,組合組織の運営方法について訓練を行った。 について は,市周辺でシアを始め木材を利用する関係者に呼びかけて会議を開き,シア の保護を呼びかけた。

生産組合は,Siby 市近郊の村の女性たちにより構成されている。女性たち は自分の村のほかのメンバーと「グループ groupement, tòn」を形成する。

年に初めて集まったときは,Siby 市内の グループで活動を開始した。その 後, 年 月に組合組織の登録を行った時には, グループが加わった。

調査時点では, の村から のグループが参加している

"

Siby 市は首都 Bamako から約 km と近い。拡大する首都人口を支える燃料 にするため,大量の木が伐採され,炭に加工されていて,シアの木も例外では なくなっていたと言う。他の調査地でも,木材でカヌーを作る漁民,狩りのた めに森に火を放つ狩人など,さまざまな生業の人々がシアの木を伐採してい る。そのため啓蒙活動を行うことが,各組合の重要な活動になっている。

また上記の支援により,女性たちは改良バターの作り方を学ぶとともに,各 村でグループを作って運営を組織化した。村長が村の幹線道路沿いに提供した 土地に,カナダ政府の開発支援金で少しずつ作業場を建てた。現在では作業用 の建物が ,売店,事務所などがある。

( ) 筆者による聞き取り, 年 月 日。

( ) 各村には,組合員の人数により, 〜 のグループがある。

(20)

生産組合 I では,上記の作業のうちおもに②と③を行っている。とくに力を 入れているのが,バターを使った関連商品の石鹸,クリームの生産である。バ ターそのものよりも関連商品の評判と売り上げがよいと言い,Bamako 市内の レバノン資本系大型スーパー・マーケットでも販売されていた。

バターは,おもに組合員からの買い上げで調達する。女性たちが持ち込んだ バターを,経験を積んだ鑑定係らが厳選し,色,味,匂いなどの条件から合格 したものは改良バターとして,それ以外は二等品として買い取りを行ってい る

!

。組合は,Siby の幹線道路沿いに立つ週一回の定期市の価格に対して,割 増しした価格でバターを女性から買い取る。改良バターには CFA/kg,二等 バターには CFA/kg を定期市の価格に上乗せする。例えば定期市での価格

が CFA/kg であれば,組合による改良バターの買い取り価格は , CFA/

kg,二等バターは CFA/kg になる。

女性たちによれば, 年には,定期市におけるバターの販売価格は,

CFA/kg だった。しかし,「組合の存在により,伝統的製法によるものも含め,

バター全体の価格が値上がりした」と言う。実際に,同じ定期市における調査 時の販売価格は CFA/kg

"

だったので, 倍以上に値上がりしたことになる。

女性たちは,このように自分たちの協働行動により,バターの価値が上がった ことを誇りに思っている。

..女性の社会的・政治的地位の変容

以上のような組合活動をつうじて,女性たちは収入を安定させ,増加させる ことができた。こうした経済的な意義とともに,女性の社会的な地位の向上も,

組合によりもたらされている。

( ) 改良バターの製造法を用いても,核を厳選しなかったり,保管状態が悪かったりなど,

精製工程のさまざまな条件により,良い品質のバターができない場合がある。その場合 は二等品扱いとなり,関連商品の原料になる。

( ) 調査は

Siby

の週一回の市の日に行ったため,聞き取り後に市場で確認した。マリ人向 けの実際の価格を知るため,筆者から離れて,助手が単独で二人の売人に価格を尋ねた。

いずれも同じ価格であった。

(21)

たとえば,組合連合 M の女性たちは,組合メンバーになり,会合などで村 から町に出かけるようになったことをきっかけとして,生活が一変し,「目が 開かれた」と口々に言う。まず,日常着る衣服に変化があった。かつて村に留 まっていた頃は,一式の衣服を着古すまで着て生活していた。しかし,町に出 るようになってからは身なりに気を遣うようになり,「町の女性」が着るよう な衣服,「ブーブー」を仕立てて,着替えるようになった。また, 年代に 普及が進んだ携帯電話も,当初は持っている女性はいなかった。現在では全員 が持つようになり,「会合中もひっきりなしに呼び出し音が鳴り響くように なった」。

このように女性たちは,組合活動への参加により自尊心を高めることができ たのである。また,町へでかけることで行動範囲を広げ,携帯電話という新し いコミュニケーション手段も活用するようになり,社会性を獲得することもで きた。これらの意見は,各組合の代表者 人および組合連合の代表者へのグ ループ・インタビューの場で出された。聞き取りの最後に女性たちは,自分た ちの氏名を記録するよう,私に求めてきた。組合代表としての自負と誇りを感 じているのであろう。

こうした女性自身の変化に加え,家庭や村落社会におけるジェンダー関係も 変わってきたと言う。かつて Koutiala 市では,主要産業の綿花栽培を男性が担 い,家計を支えていた。経済活動やお金の管理はすべて夫が担い,女性たちは

「ネズミが紙幣を食い散らかすにまかせていた」と言い,お金を稼ぐことや使 うことに関心がなく,その必要性や重要性すら感じていなかったと言う。とこ ろが,綿花の価格が不安定になり, 年の暴落をきっかけに生活が貧窮 し,男性の収入だけでは生活が成り立たないようになった。女性たちの組合は 年から少しずつ組織してスイスなど外国支援により研修を受けていたが,

それ以降,女性たちは組合にバターを売って家計を支えるようになる。

今では,女性たちのシア・バターによる収入は,家計にとって不可欠になっ

ている。男性に替わって女性が家族の衣服を買いそろえるようになり,村の病

人のために薬を買うことすらあった。すると次第に,男性たちは女性のことを

(22)

尊重するようになってきたと言う。娘の結婚など,かつては男性がすべて一人 で決めていた家族の問題についても,妻の意見をきくようになった。また,か つては女性が男性とともに座って議論するなどありえなかったのだが,現在で は,夫婦の間でよく議論がされるようになったと言う。子どもの教育について も,女の子も男の子も同じように学校に通わせるようにすらなってきた。

こうしたジェンダー関係の変化とともに,女性たちは政治的空間においても 声をあげるようになっている。組合の用地や植林のための共有地の提供などに ついて,自治体長や慣習上の長と交渉するうちに,自治体の議会に女性を送り 込むことを考えるようになったのである。たとえば生産組合 I では,組合のメ ンバーのうち,売店の販売員を務める女性が立候補し,メンバーたちが彼女に 投票した結果,議会に初めて女性議員が参加している。メンバーの女性だけで はなく,その夫など親族の男性も初の女性候補に投票したという。

シア・バター生産組合のメンバーが議員に選出されるケースはほかにもあ る。Koutiala 市の組合連合 M では組合連合委員長が選挙に立候補し,村落議 会の議員に選出されている。委員長は,かつては人前で自分の意見を述べる自 信などなかったと言うものの,聞き取り時には闊達な発言で女性たちを取りま とめるリーダーとして行動していた。また Sikasso 市でも,PFE 省支援の生産 組合から村落議会の議員が誕生している。このように,生産組合への参加をと おして,女性の政治的地位も変容しつつあると言える。

.今後の課題

ここでは,実の収穫から精製まで,女性の労働なくしてシア・バターが製造 できないことを明らかにしてきた。マリでは 年代以降,生産組合の活動に より「改良バター」製造方法が導入され,バターの質が向上した。また,組合 結成により,女性の歴史的な労働に対する評価が改められ,収入が増加すると ともに,女性の地位も変容しつつあるなど,「無形の効果」が顕著に見られる ことが明らかになった。

このようにバターに精製された状態での取引が中心になれば,マリの農村女

(23)

性の収入はさらに安定していくだろう。しかしながら,ここでは詳しく述べら れなかったが,シアは核の状態で輸出される割合が多く,日本を含む先進工業 国の油脂製造企業が工業的に油脂を大量生産しているのが現状である。それに 対して,女性たちの生産組合による,なかば手工業的な方法のバターに「伝統 工芸品」としての付加価値を与え,先進国の女性向け化粧品の原料として使用 するのが,冒頭で述べた UNIFEM や化粧品会社 L’OCCITANE のプロジェクト である。

こうした国際機関との連携が進み,国際市場への輸出量が多い周辺国に対し て,マリは堅果の収穫量では他国を大幅に上回るが,バターの輸出では伸びて いないのが現状である。聞き取りからは,マリの農村女性たちが,バターの販 売先の大半を占めるという国内市場においても,苦心している様が浮かび上が る。それには農村女性の識字率の低さや,都市部との情報やコミュニケーショ ンの不足など,さまざまな課題があるという。そのうえ近年の政治危機によ り,生産組合の活動の初期を支えた国際支援も撤退し,窮地に立たされている のが現状である。

今後は,ここで取り上げた生産組合についての調査を進め,女性たちによる 協働労働の意義とその地位の変容について,さらに詳細に考察することが課題 となる。

調査にあたり,聞き取りや参与観察を受け入れて頂いた生産組合, NGO ,

女性・子ども支援省関係者の皆さんにお礼を申し上げます。また道中,見知ら

ぬ筆者らに,さまざまにお力添えを頂いた多数の方々にも,感謝を申し上げま

す。マリ社会が一日も早く安定し,平穏な生活が戻ることを心よりお祈りいた

します。

(24)

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図 調査地

参照

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