結核菌感染診断用全血インターフェロン γ 測定検査の採血から 培養開始までの時間と測定値の関係についての検討
1)
財団法人田附興風会医学研究所北野病院呼吸器内科,
2)シオノギ バイオメディカル ラボラトリーズ,
3)
株式会社エスアールエル首都圏地域検査部細菌検査課
福井 基成
1)島川 宏一
2)糸谷 涼
1)石床 学
1)鈴木 進子
1)相原 顕作
1)松本 正孝
1)小熊 毅
1)竹村 昌也
1)鍵岡 均
1)速永 淳
3)(平成 19 年 1 月 29 日受付)
(平成 19 年 4 月 20 日受理)
Key words : tuberculosis infection, QuantiFERON, interferon γ , incubation
要 旨
患者の全血を 2 種類の結核菌特異抗原と培養することで産生されるインターフェロン γ 量を測定する QuantiFERON TB-2G(以下 QFT)の導入で,結核感染をより正確に診断できるようになった.しかし,病 院外の検査センターで QFT を実施する場合には,検体輸送に時間がかかる.そこで,QFT の採血から培 養開始までの時間(培養前時間)と測定値の関係について検討を行った.結核感染を強く疑う患者の全血を 病院内で採取し,直ちに検査センターに輸送した.採血して 1,3,6,9 および 12 時間後,分注した全血に 各々刺激抗原 E(ESAT-6)と C(CFP-10),陰性および陽性コントロールを滴下し培養を開始した.培養 後,ELISA で測定した抗原 E,C の培養上清のインターフェロン γ 濃度から陰性コントロール値を引いた ものを測定値 E,C とし,0.35IU! mL 以上を陽性,0.10IU! mL 未満を陰性,その中間を判定保留とした.今 回,培養前時間が 1 時間の場合の測定値 E または C が 0.10IU! mL 以上であった 8 名の患者について検討を 行った.その結果,培養前時間が 6 時間を超えると,1 時間の時と比べて測定値 E,C の減衰は顕著となり,
測定値 E では 2 例で陽性が判定保留に,2 例で判定保留が陰性になった.測定値 C では 2 例で陽性が判定 保留か陰性に,1 例で判定保留が陰性に変わった.測定値 E と C のうち高値の方で判定しても,8 例中 4 例 で培養前時間によって結果が異なった.以上の結果より,QFT においては採血後 6 時間以内に培養を開始 することが望ましいと考えられる.
〔感染症誌 81:421〜425,2007〕
序 文
結核は,日本において医学的にも社会的にも未だ大 きな問題である.2005 年の結核罹患率は人口 10 万人 あたり 22.2 人と依然高く,抜本的な対策が求められ ている.その一つとして,結核感染のより正確な診断 技術の開発が挙げられる.日本においては幼少時に大 半 の 者 が Mycobacterium bovis bacillus Calmette- Guérin(BCG)を接種するため,BCG にも交差反応 するツベルクリン反応の特異性は低く,喀痰などの抗 酸菌塗抹検査や遺伝子検査が陰性である場合の結核感
染の診断や,肺結核患者発生時に行われる定期外接触 者健診における潜在性結核感染の診断にはしばしば困 難が伴った.
最近になり,ヘパリン加採血した全血に結核菌に特 異的な 2 種類の刺激抗原(ESAT-6 および CFP-10)を 加え,血液中の T 細胞が細胞性免疫応答により産生 するインターフェロン γ を定量することで結核感染を 診断する QuantiFERON TB-2G(以下,QFT)
1)が日 本でも保険適応となった.用いる刺激抗原は BCG や 非結核性抗酸菌症で最も多い Mycobacterium avium,
Mycobacterium intracellulare とは交差反応せず,この QFT による結核感染診断の特異度は 98.1% と非常に 高く,また感度も 89.0% と良好なため
2),BCG 接種率
原 著別刷請求先:(〒530―8480)大阪市北区扇町 2 丁目 4 番 20 号 財団法人田附興風会医学研究所北野病院呼吸器
内科 福井 基成
の高い日本における結核診断を一変しうる可能性があ る.特に,肺結核患者に接触した者の定期外健診にお ける潜在性結核感染者の同定や医療従事者の結核感染 者の割り出しに有用な検査法となりうる
3)〜5).
今後,QFT が日本全国で広く結核診断に用いられ るためには,この検査が各地の検査センターで実施さ れることが望まれる.その場合,各地域の病院や診療 所で採血した後,検体を特異抗原とともに培養を開始 するまでの時間(以下,培養前時間)が問題になる.
QFT の添付文章においては,採血後 12 時間以内に開 始するように指示されているが,培養前時間が QFT の測定値にどのように影響するかについては明らかに されていない.そこで,今回,急性期病院において肺 結核あるいは結核性胸膜炎を疑われた患者について,
この培養前時間と QFT の測定値の関係について検討 を行った.
対象と方法
1.対象患者
741 床の急性期病院において肺結核あるいは結核性 胸膜炎を疑われた患者 11 名から同意を得た上で全血 25mL をヘパリン加採血した.
2.検査方法
採取した全血は室温下で病院から検査センターにた だちに輸送し,採血後 1,3,6,9 および 12 時間の時 点で QFT(日本ビーシージーサプライ,東京)の添 付文章に従って 37℃ で培養を開始した.すなわち,ヘ パリン加採血した全血を 1mL ずつ滅菌済 24 ウェル組 織培養プレートに分注し,そこに刺激抗原 E(ESAT- 6)と刺激抗原 C(CFP-10),陰性コントロールおよ び陽性コントロールをそれぞれ滴下し,1 分間混合し た後,37℃ で 18 時間静置培養した.その後,上清(血 漿検体)を採取し,−20℃ で凍結保存した.
抗ヒト IFN-γ 抗体固相化プレートに調整済み HRP 標識抗ヒト IFN- γ 抗体液を分注したのち,さらに保存 してあった血漿検体を分注した.標準曲線作成のため には,血漿検体の代わりに希釈したヒト IFN-γ 標準液 を分注した.室温で 2 時間静置後,各ウェルを調整済 み洗浄用緩衝液で 6 回洗浄し,洗浄液を完全に除去し た上で基質発色液を加えて室温遮光下で 30 分間反応 させた.その後酵素反応停止液を加え,すみやかに吸 光度(測定主波長:450nm,対照:650nm)を測定し た.
標準曲線から得られた検体の IFN- γ 濃度から以下の ように測定値 E,C,M を求めた.
測定値 E(IU! mL)=IFN-γE
*―IFN-γN 測定値 C(IU! mL)=IFN-γC
**―IFN-γN 測定値 M(IU ! mL)=IFN- γ M
#―IFN- γ N
*
刺激抗原 E 添加検体の IFN-γ 濃度(IU! mL)
**
刺激抗原 C 添加検体の IFN-γ 濃度(IU! mL)
#
陽性コントロール添加検体のIFN- γ 濃度 (IU ! mL)
†
陰性コントロール添加検体のIFN-γ濃度 (IU! mL)
求めた測定値 E または測定値 C が 0.35IU! mL 以上 の場合は「陽性」として結核感染を疑う.測定値 E および C が 0.1IU ! mL 未満の場合は「陰性」として結 核非感染とする.0.1IU! mL 以上 0.35IU! mL 未満の場 合は「判定保留」とし,感染のリスクの度合いを考慮 して総合的に判断する.測定値 E と C 共に 0.35IU! mL 未満であっても,測定値 M が 0.5IU! mL 未満の場合 は免疫不全などが考えられるので,「判定不可」とす る.培養前時間による測定値の変化を見るため,採血 後 1 時間で培養を開始した時の測定値を 100% とした 相対測定値(relative values)も検討した.
なお,エリスロシン B による色素排除試験
6)を用い て培養を行う直前の全血中の白血球の生死判別を行っ た.
3.統計
培養前時間が 1 時間を超えた場合に QFT の相対測 定値の平均が 100% より有意に低くなるかどうかを t 検定を用いて解析を行った.p<0.05 を有意とした.
成 績
肺結核あるいは結核性胸膜炎を疑われた患者 11 名 から採取した全血を用いて QFT を行った.そのうち,
陽性コントロールが 0.5IU ! mL 未満,あるいは培養前 時間が 1 時間の検体で測定値 E かつ C が陰性であっ た 3 名を除き,残る 8 名の患者(29 歳〜85 歳)につ いて検討を行った.これらの患者の最終診断は,肺結 核 2 名,結核性胸膜炎 4 名,潜在性結核感染(疑い)2 名であった.すべての症例において喀痰や胸水から結 核菌は証明されなかった.また,核酸増幅法でも陽性 例はなかった.結核性胸膜炎患者においては全例で胸 水中のアデノシンデアミナーゼ(ADA)が 50IU! L 以上であった.これら 8 名の QFT の判定は,培養前 時間が 1 時間の場合,6 名で陽性,2 名で判定保留で あった.
Fig. 1に示すように,相対測定値 E,C,M の平均 値はすべて培養前時間が長くなると有意に減衰した.
相対測定値 M では,培養前時間が 6 時間以上のとき 有意に減少した(t 検定).一方,相対測定値 E と C では,培養前時間がそれぞれ 9 時間以上と 12 時間で 有意な減少を示した.
以上の結果,Table 1で示すように培養前時間が 6
時間を超えたとき,測定値 E では 2 例で陽性が判定
保留に,2 例で判定保留が陰性になった.測定値 C で
は 2 例で陽性が判定保留か陰性に,1 例で判定保留が
陰性に変わった.なお,症例 8 の測定値 E だけは,培
養前時間が 3 時間から 6 時間になったとき判定が陽性
Fi g. 1 Rel at i ons hi p bet ween means of QFT r el at i ve val ues and t i me t aken f r om c ol l ec t i on of bl ood t o i nc uba t i on ( pr ei nc ubat i on t i me)
QFT r el at i ve val ue: ( QFT val ue at any pr ei nc ubat i on t i me/QFT val ue when pr ei nc ubat i on t i me was 1h) ×100.
Means of r el at i ve val ue E or C wer e c al c ul at ed among pa t i ent s wi t h val ue E or C> 0.
_1 I U/mL at 1h of pr ei nc uba t i on t i me. Er r or bar s i ndi c at e s t andar d er r or s of means .
*
p< 0. 05,
**p< 0. 01 c ompar ed wi t h 100% ( QFT r el at i ve val ue at 1h of pr ei nc ubat i on t i me) .
から判定保留に変わった.QFT 添付文章に従い,測 定値 E と C のうち高値の方を用いて判定した場合で も,培養前時間が 6 時間を超えたとき,8 例中 4 例で QFT の判定が異なった.一方,陽性コントロールで ある測定値 M は培養前時間に関わらずすべての症例 で 0.5IU ! mL 以上であった.
エリスロシン B の色素排除試験では,培養直前の 全血における白血球の生細胞の割合は,培養前時間に 関わらず 98〜100% であった.
考 察
今回,我々は QFT の採血から培養開始までにかか る時間と測定値の関係について検討を行った.その結 果,培養開始までの時間が長くなるにつれて QFT の 測定値が低下し,QFT の判定結果に影響を及ぼしう ることがわかった.
Fig. 1で示すように培養前時間が長くなるにつれて
(相対)測定値が減衰する現象は,特異抗原 E と C だ けでなく,陽性コントロール M でも見られた.この ことより,全血中の活性化 T 細胞の IFN-γ 産生能自 体が,培養前時間が長くなるほど低下すると考えられ た.IFN-γ 産生細胞そのものの生物活性が低下してい る可能性も考えられたが,全血における白血球の生細 胞の割合は培養前時間の長短に関わらず 98〜100% と 変化はなかった.なお,特異抗原 E と C の相対測定 値は培養前時間が 9 時間あるいは 12 時間で有意に低 下したが,陽性コントロールの場合は培養前時間が 6 時間の段階ですでに相対測定値の有意な低下を認め た.特異的な抗原刺激と非特異的なマイトジェンでは 減衰パターンが異なる可能性もあるが,さらに症例を 追加して検討する必要がある.
Table 1で示すように,この培養前時間による測定 値 E と C の減衰は,QFT の判定そのものに大きな影 響を与えた.すなわち,測定値 E では 4 例,測定値 C では 3 例において培養前時間によって判定が異なっ た.通常,QFT は測定値 E と C のうち高値の方で判 定するが,その方法でも培養前時間によって 8 例中 4 例で判定が異なった.これらの大半において,培養前 時間が 6 時間を超えたときに判定の乖離が生じてい る.症例 8 の測定値 E だけは,培養前時間が 3 時間 と 6 時間の間で判定が陽性から判定保留に変わってい る.この症例では,培養前時間が 1 時間のときでも測 定値 E は 0.35IU! mL と低く,陽性と判定保留の境界 であったことが影響している可能性がある.なお,こ の症例において測定値 E と C を合わせて判定した場 合には,培養前時間によって結果は変わらなかった.
半数もの症例において QFT の判定が培養前時間に よって乖離した要因の一つとして,今回検討した症例 では測定値 E と C が最初から比較的低値であるもの
が多かった可能性が挙げられる.実際の測定値がもと もと十分に高ければ,培養前時間が長くなって測定値 が減衰しても QFT の陽性判定が変わることは少なく なるはずである.ただ,測定値が比較的低値の場合で も,今後,臨床上重要になってくる可能性がある.す なわち,肺結核患者に濃厚に接触した者に対する定期 外健診で QFT を用いる場合,潜在性結核感染者の見 落としを減らすために QFT の測定値の cutoff を 0.35 IU! mL から 0.10IU! mL に下げる,すなわち QFT が 判定保留である者も陽性者と同様に扱うことが推奨さ れている
7).実際に大学での結核集団感染において QFT を用いて定期外健診を行った報告では,濃厚接 触群で QFT 陽性判定の者が 31.0% に対して,疑陽性
(判定保留)の者は 16.7% にも達した
8).このように もともと QFT の測定値が比較的低値である場合,も し培養前時間が 6 時間を超えると QFT の判定結果が 変わってくる可能性がある.最近,QFT の感度が低 いことを指摘する報告も見られるが
9),培養前時間と cutoff 値について再検討する必要があるかもしれな い.
今後,QFT は結核診断において極めて重要な役割
を果たすと考えられる.当然,様々な地域の医療機関
から検査センターへの検査委託が増えるものと思われ
る.遠方の医療機関の場合,検査センターへの検体の
輸送に時間がかかる.しかしながら,今回の我々の結
果からは,各医療機関で採血された後,6 時間以内に
Tabl e 1 Rel at i ons hi p bet ween QFT val ues and t i me t aken f r om c ol l ec t i on of bl ood t o i nc ubat i on ( pr ei nc ubat i on t i me)
Pr ei nc ubat i on t i me ( h) QFT val ues
Cas e
12 9
6 3
1
0. 16 0. 08
0. 23 0. 12
0. 13 E
1 C 0. 03 - 0. 02 0. 02 0. 03 - 0. 01 0. 93 2. 98
1. 46 2. 61
2. 65 M
0. 08 0. 08
0. 18 0. 12
0. 12 E
2 C 0. 73 0. 63 0. 84 0. 29 0. 25 0. 58 1. 88
1. 54 1. 48
2. 72 M
0. 43 0. 59
1. 96 2. 84
3. 26 E
3 C 0. 52 0. 57 0. 36 0. 11 0. 05 5. 80 4. 51
4. 98 10. 2
10. 2 M
0. 00 0. 00
0. 00 0. 00
0. 00 E
4 C 0. 21 0. 12 0. 17 0. 03 0. 03 1. 44 1. 36
2. 16 2. 72
2. 91 M
0. 37 0. 48
0. 83 0. 78
0. 72 E
5 C 3. 15 2. 52 2. 83 1. 58 1. 08 8. 29 10. 26
10. 30 10. 30
10. 30 M
1. 43 1. 75
1. 61 1. 56
1. 80 E
6 C 0. 85 0. 92 1. 39 1. 50 0. 79 2. 78 5. 61
3. 68 8. 26
8. 83 M
0. 26 1. 07
1. 13 1. 62
1. 15 E
7 C 0. 78 1. 60 0. 80 1. 06 0. 08 13. 02 17. 61
13. 73 16. 25
13. 91 M
0. 20 0. 23
0. 26 0. 36
0. 35 E
8 C 0. 80 0. 80 0. 45 0. 50 0. 47 2. 93 1. 82
3. 49 3. 89
4. 63 M
Val ues E and C:> 0.
_35 I U/mL, pos i t i ve ( c el l s c ol or ed dar k gr ey) ;> 0.
_1 I U/mL and
< 0. 35 I U/mL, equi voc al ( l i ght gr ey) ;< 0. 1 I U/mL, negat i ve ( whi t e) . Val ue M:> 0.
_5 I U/mL, pos i t i ve ( dar k gr ey) ;< 0. 5 I U/mL, negat i ve ( whi t e) .
検査センターまで検体が搬入されて培養が開始される ことが望ましく,一つの検査センターで QFT を受託 できる地域は限られる.今後,日本全国の医療機関で QFT を結核診断に利用するためには,各医療機関で 独自に QFT を行うか,全国各地に QFT の培養を行 うことのできる検査センターを設置する必要がある.
あるいは採血した試験管内で刺激抗原とともに直ちに 培 養 を 始 め る こ と の で き る 新 し い 世 代 の QFT
(QuantiFERON-TB Gold IT)
10)の早期導入を考えるべ きである.これらの対策が行われるまでの当面は,
QFT の結果に培養前時間を付記しておくべきである と考える.
今回の結論として,現在行われている QFT におい ては,採血から 6 時間以内に培養を開始することが望 ましいと考えられる.培養開始までにこれより長い時 間がかかる場合は,判定結果が異なってくる可能性が あることを考慮すべきである.
謝辞:統計解析においてご指導を賜わりました久留米大 学バイオ統計センター所長角間辰之先生に深謝いたしま す.
文 献
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Relationship between Time Taken from Collection of Blood to Incubation and Measurement in Whole-blood Interferon γ Assay for Diagnosis of Mycobacterium Tuberculosis Infection
Motonari FUKUI
1), Koichi SHIMAKAWA
2), Ryo ITOTANI
1), Manabu ISHITOKO
1), Shinko SUZUKI
1), Kensaku AIHARA
1), Masataka MATSUMOTO
1), Tsuyoshi OGUMA
1), Masaya TAKEMURA
1),
Hitoshi KAGIOKA
1)& Jun SOKUNAGA
3)1)
Department of Respiratory Medicine, Kitano Hospital, The Tazuke Kofukai Medical Research Institute,
2)
Infection Disease Center, Shionogi Biomedical Laboratories Inc.,
3)