学位論文
Doctor Thesis
膠芽腫における拡散係数のヒストグラム解析による予後予測
(Apparent Diffusion Coefficient Histogram Analysis
for Prediction of Prognosis in Glioblastoma)
近藤 雅敏
Masatoshi Kondo
熊本大学大学院保健学教育部博士後期課程 医用放射線科学分野 基礎放射線技術学領域
Graduate School of Health Sciences
指導教員
内山 良一 准教授
熊本大学大学院生命科学研究部 先端生命医療科学部門 医療技術科学講座 医用理工学部門
2018
年3
月学位論文
Doctor Thesis
論文題名 : 膠芽腫における拡散係数のヒストグラム解析による予後予測
Apparent Diffusion Coefficient Histogram Analysis for Prediction of Prognosis in Glioblastoma
著者名 : 近藤 雅敏
Masatoshi Kondo
指導教員名: 熊本大学大学院生命科学研究部 先端生命医療科学部門 医療技術科学講座 医用理工学部門 内山 良一 准教授
審査委員名: 主査 医用放射線科学分野担当教授 白石 順二 教授
副査 医用放射線科学分野担当教授
船間 芳憲 教授 副査 医用放射線科学分野担当准教授 内山 良一 准教授
2018
年3
月目次 3
目次
目次
... 3
本論文で用いる主な略語 ... 3
要旨
... 4
第1章 序論
... 6
1.1
背景 ... 61.2
本研究の位置づけ... 8
1.3
本論文の概要... 8
第2章 提案手法
... 9
2.1
腫瘍における充実部の抽出法... 9
2.2 2
重混合正規分布を用いたADC
のヒストグラム解析 ... 92.3 Univariate Cox models
によるハザード比... 10
2.4 Kaplan-Meier
生存曲線のLog-lank
検定... 11
第3章 検証方法 ... 12
3.1
研究試料... 12
3.2
予後予測の候補因子... 13
3.3
散布図を用いた予後予測の候補因子と生存期間との関連性に関する検討... 14
3.4
予測因子の有効性... 15
第4章 結果 ... 17
4.1
試料における予後予測の候補因子... 17
4.2
候補因子におけるハザード比... 22
4.3
候補因子の複合方法 ... 244.4
候補因子を複合させた場合のハザード比... 26
4.5
予後予測因子におけるLog-rank
検定 ... 274.6 Shorter survival
とM-ADC
LおよびD-ADC
Lの関係... 29
第5章 考察
... 32
5.1 B&L-ADC
Lが予後不良の予測因子であると考える理由 ... 32目次 4
5.2 LM-ADC
L& HM-ADC
Hは予後予測因子として評価すべきではないと考える理由... 32
5.3 MGMT status
が有用でなかった原因... 33
5.4
画像情報と分子遺伝子情報による相補的な予後予測の可能性とその発展... 34
第6章 結論
... 35
6.1
本研究の成果とまとめ ... 356.2
今後の課題... 35
参考文献
... 36
謝辞 ... 41
著者研究業績
... 42
学位論文の骨格と成る公表主論文および参考論文
... 44
論文で用いる主な略語 3
本論文で用いる主な略語
略語 正式語
ADC
:apparent diffusion coefficient
ADC
H :higher distribution of apparent diffusion coefficient ADC
L :lower distribution of apparent diffusion coefficient
BD-ADC
L :broader distribution in the lower distribution of apparent diffusion coefficient B&L-ADC
L :broader and lower values in the lower distribution of apparent diffusion coefficient CI
:confidence interval
D-ADC
H :Distribution in higher distribution of apparent diffusion coefficient D-ADC
L :Distribution in lower distribution of apparent diffusion coefficient DKI
:diffusion kurtosis imaging
DNA
:deoxyribonucleic acid DWI
:diffusion weighted image
HM-ADC
H :higher mean of higher distribution of apparent diffusion coefficient KPS
:Karnofsky performance status
LM-ADC
L :lower mean in higher distribution of apparent diffusion coefficient M-ADC
H : mean in the higher distribution of apparent diffusion coefficientM-ADC
L :mean in the lower distribution of apparent diffusion coefficient MGMT
:oxygen 6-methylguanine-DNA-methyltransferase
MRI
:Magnetic Resonance Imaging
ND-ADC
H : narrower distribution in the higher distribution of apparent diffusion coefficientOS
:overall survival
PFS
:progression-free survival
WHO
:World Health Organization
要旨 4
要旨
[目的]
磁気共鳴画像(
Magnetic Resonance Imaging, MRI
)における膠芽腫患者の腫瘍充実部において,みかけの拡散係数(apparent diffusion coefficient, ADC)のヒストグラムを解析する.このヒストグ ラムに
2
重混合正規分布をあてはめ,低側の正規分布が低平均でかつ広分布なもの(broader andlower values in the lower distribution of ADC, B&L-ADC
L)は予後不良を予測する因子であることを明 らかにする.[
方法]
76
名の膠芽腫患者において,手術前に撮影された造影後T1
強調像,および拡散強調像(diffusionweighted image, DWI
)を解析した.造影後T1
強調像から腫瘍の充実部が最大割面となるスライスを選択した.腫瘍の充実部を手動抽出し,
ADC
のヒストグラムを2
重混合正規分布にあてはめた.2
つの正規分布において,低側の正規分布(lower distribution of ADC, ADCL)の平均値と分布を求め た.76
症例の標本平均を低側の正規分布における平均値と分布でそれぞれ求め,平均値が低い群(lower mean in ADCL,LM-ADCL)と分布が広い群(broader distribution in ADCL,BD-ADCL)を定 義した.
B&L-ADC
Lは,LM-ADC
LとBD-ADC
Lを同時に満たす症例と定義した.76
名をB&L-ADC
Lを満たす群と満たさない群に分け,無増悪生存期間(progression-free survival, PFS)と全生存期間
(overall survival, OS)におけるハザード比,および
Kaplan-Meier
生存曲線を比較した.[結果]
6
名(7.89%)は,B&L-ADCL群に分類された.PFSにおけるB&L-ADC
Lを満たす群のハザード 比は5.747
(P = 0.002
),OS
におけるB&L-ADC
Lを満たす群のハザード比は3.331
(P = 0.018
)であ った.PSFにおけるKaplan-Meier
生存曲線の中央値は,B&L-ADCLを満たす群が77
日,満たさな い群が302
日であった(P < 0.001
).OS
におけるKaplan-Meier
生存曲線の中央値は,B&L-ADC
Lを 満たす群が119
日,満たさない郡が472
日であった(P = 0.004).要旨 5
[
考察]
B&L-ADC
Lを満たす群は,PSFとOS
で予後不良因子であった.B&L-ADCLは,腫瘍の細胞密度 が高く,組織の不均一性が高い腫瘍と解釈できる.膠芽腫において細胞密度が高い場合,腫瘍の増 殖速度が速い.また,組織の不均一性が大きい場合,腫瘍は治療抵抗性を示す.したがって,B&L- ADC
Lは予後不良の予測因子と考えた.[結論]
B&L-ADC
Lは腫瘍の増殖速度が速く,治療の抵抗性も高い膠芽腫における画像バイオマーカーである.
序論 6
第
1
章 序論1.1
背景神経膠細胞は,神経細胞の保護・栄養,血液脳関門,自己調節機能を司る重要な脳細胞である[1].
神経膠腫は神経膠細胞由来の脳腫瘍であり,その発現頻度は高い
[2]
.世界保健機関 (World Health Organization, WHO)は,神経膠腫をⅠ~Ⅳにグレード分類しており,膠芽腫はグレードⅣに分類さ
れ,増殖が最も速い[3]
.Penfield
らは,1931
年に膠芽腫を命名している[4]
.膠芽腫は,頭蓋内にお ける脳腫瘍の約10
%を占める[5]
.多くは成人に発生し,50
から60
歳に多い[6]
.好発部位は大脳 半球で,前頭葉が最も発生しやすい.脳実質へ強い浸潤性を有し,脳梁を介して反対側への進展も ある[7]
.組織学的には,細胞密度が高く,円形,紡錘形など,さまざまな形態を示す細胞がみられ る [8].大小の壊死像があり,壊死巣周囲の核の偽柵状壊死(pseudopalisading necrosis)は組織学的 な微小血管増殖(microvascular proliferation)と並んで特徴的な構造であるとされている[8].近年,分子遺伝子情報が予後や治療への反応性と相関することが明らかとなっている.これを踏まえて,
WHO
は2016
年に発表したWHO
分類において,膠芽腫を分子遺伝学的にisocitrate dehydrogenase
(
IDH
)遺伝子の変異を伴わないIDH
野生型と遺伝子変異を伴うIDH
変異型に分類することを提 唱した[8].IDH 野生型は膠芽腫の90%以上を占め,IDH
変異型が10%未満で検出させるとの報告
がある[8].IDH 野生型の膠芽腫は高齢者の患者に多く発生し,予後不良である[8].膠芽腫の無増 悪生存期間(progression-free survival, PFS
)は7.4
~13.3
カ月,全生存期間(overall survival, OS
)は15.5~19.8
カ月と非常に短い[9, 10].このため,膠芽腫における高精度な予後予測の確立は,重要な研究テーマである[11].
膠芽腫における治療法は,手術,化学療法,放射線治療について検討し,組み合わせて用いられ る.手術に関して,Sanaiらは摘出術と標準的放射線化学療法が施行された
500
例の初発膠芽腫を 検討し,手術摘出度と予後との関係を報告した[12]
.この報告のOS
は12.2
カ月であったが,手術 における摘出度を78%以上, 80%以上, 90%以上, 100%と分けて追加検討した結果, OS
は12.5
カ 月,12.8カ月,13.8カ月,16.0カ月と段階的に向上していた.この報告を受け,我が国でも膠芽腫序論 7
は可能な範囲で腫瘍容量をできる限り少なくすることを目的とした摘出術が行われている
[13]
.化 学療法や放射線治療については,従来,術後放射線治療が生存期間を有意に延長させる唯一の治療 方法であると考えられて来た[14]
.しかし,2005
年にStupp
らによりテモゾロミド(temozolomide
) の放射線治療との併用とその後の維持療法が有効であることが報告され,現在ではテモゾロミド化 学療法が広く行われている[15].デオキシリボ核酸(
deoxyribonucleic acid, DNA
)修復酵素のO6-
メチルグアニン-DNA
メチルトラ ンスフェラーゼ(oxygen 6-methylguanine-DNA-methyltransferase, MGMT)は,アルキル化剤から細 胞を保護する[16].MGMT status
がメチル化した場合,プロモータ領域のメチル化によりMGMT
の 発現が低下し,アルキル化剤の化学療法への腫瘍反応性は高くなる[16, 17]
.この場合のPSF
は10.9
カ月,OSは20.5
カ月と報告されている[18].このMGMT status
のメチル化は,どの遺伝子を使っ て,どの遺伝子を使わないという印づけのことであり,エピゲノムと呼ばれている.このような印 づけは,ゲノム上のすべての遺伝子で行われており,疾患との関連を調べる研究が進んでいる.これまでに磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging, MRI)の拡散強調像(diffusion weighted
image, DWI
)から得られるみかけの拡散係数(apparent diffusion coefficient, ADC
)のヒストグラム を用い,膠芽腫の予後を予測した報告が散見される[19-23].Pope らは2
重混合正規分布をあては めたADC
のヒストグラム解析において,低側の正規分布(lower distribution of ADC,ADCL)の平 均値(mean in ADC
L,M-ADC
L)が低い(lower values in M-ADC
L,LM-ADC
L)ことは,予後予測に 有用な因子であると報告している[19-21].2
重混合正規分布をあてはめた解析では,平均値に加え,分布(
distribution in ADC
L, D-ADC
L)が得られる.更に,高側の分布(higher distribution of ADC
,ADC
H)においても,平均値(mean in ADCH, M-ADC
H)と分布(distribution in ADCH, D-ADC
H)を求 めることができる.しかし,これらの解析結果を複合して予後を予測した報告はない.腫瘍の細胞密度が高い場合,
ADC
は低値となり,予後は悪い.また,腫瘍組織の不均一性は,神 経膠腫のグレードが上昇するにつれ増加する[24].Hempelらは,この事を拡散尖度画像(diffusionkurtosis imaging, DKI)の mean kurtosis
で評価している[25].図1.1
は, ADCのヒストグラムにお いて,正規分布の分布が腫瘍組織の不均一性を示すことを概念的に表現している.この概念が成立 することは,Just らも報告している[26].更に,神経膠腫のグレードが上昇するにつれ,予後不良 となることも報告されている[27]
.以上の事から,ADC
のヒストグラムにおいて,分布が広いADC
L(broader values in D-ADCL,BD-ADCL)を
LM-ADC
Lと同時に評価することで,細胞密度が高く,腫瘍組織の不均一性を示す膠芽腫を特定できる可能性がある.このように,2重混合正規分布をあ
序論 8
てはめた解析を複合して予後を予測した場合,予測精度は向上する可能性がある.
図
1.1 ADC
のヒストグラムに分布をあてはめた場合の分布と腫瘍の不均一性との関係.1.2
本研究の位置づけ本研究の課題は,ADCヒストグラムに
2
重混合正規分布をあてはめ,低側および高側の平均値 と分散の解析結果を複合し,予測精度を向上させることである.1.3
本論文の概要以下,第
2
章は提案手法と題し,腫瘍の抽出方法,ヒストグラムの解析法,ハザード比や生存 曲線の比較方法を述べる.第3
章は検証方法と題し,研究に用いた試料,予後予測の候補として 取り上げた因子の説明,因子と生存期間の関連性を調べる方法,予後予測因子の有効性を示す方 法を述べる.第4
章は結果と題し,予後予測の因子,ハザード比,Log-lank検定を用いた生存曲 線の比較結果,生存時間の短い症例とM-ADC
LおよびD-ADC
Lの関係を述べる.第5
章は考察と題し,
B&L-ADC
Lが予後予測に有効である理由,MGMT status
が予後予測に有用でなかった理由を述べる.加えて,画像情報と分子遺伝子情報による相補的な予後予測の可能性も述べる.第
6
章は結論と題し,成果をまとめ,今後の課題を述べる.提案手法 9
第
2
章提案手法
2.1
腫瘍における充実部の抽出法腫瘍は,充実部で増殖する
[28]
.MRI
の造影後のT1
強調像において,腫瘍の充実部は増強効果 を示す[19-23].本研究では,腫瘍の充実部が最大割面となるスライスを選択した.次に,画像編 集ソフトであるPaint
(Microsoft Corp., Redmond, WA
)の赤色を用いて造影後のT1
強調像におけ る信号増強領域を色づけした.更に画像処理ソフトであるImageJ
(NIH Image, Bethesda, MD
)の“adjust-color threshold”
機能を用いて,赤色で色づけした領域を2
値化処理し [29],腫瘍の充実部として抽出した(図
2.1
).図
2.1 62
歳男性の膠芽腫患者における腫瘍充実部の手動抽出結果とADC map
の関係.A.造影後の T1
強調像,B.腫瘍の充実部(白色領域)が抽出された様子,C.ADC map.2.2 2
重混合正規分布を用いたADC
のヒストグラム解析ADC Map
は,b
値が0 s/mm
2と1000 s/mm
2のDWI
から算出した.ADC Map
において2.1
で抽 出した領域の値は,腫瘍の充実部におけるADC
ヒストグラムとして用いた.Popeらは,造影後T1
強調像において高信号域であっても,この領域には次の2
つの構成が考えられると報告していA B C
提案手法 10
る
[19]
.1
つは,高密度な腫瘍細胞と少量の浮腫を示す領域で,ADC
Lを示す.もう1
つは,生存 と壊死が混在した腫瘍細胞に重責した浮腫を示す領域は,ADCHを示す.このような2
峰性ヒス トグラムに対して,2
重混合正規分布をあてはめ,ADC
Lを評価する手法を報告している[19-23]
.2
重混合正規分布の分布は,2
つの正規分布の和で表される.統計解析ソフトであるJMP Pro, version 12.2(SAS Institute, Cary, NC)を用いた場合,1
変量の分布に対する解析において,2重混 合正規分布をあてはめることができる.この結果,M-ADC
L,D-ADC
L,M-ADC
H,D-ADC
Hが求 まる.図2.2
では,図2.1
で得られたADC
ヒストグラムにおいて,2重混合正規分布をあてはめ た結果である.この症例において,M-ADCLは1.038 × 10
−3mm
2/s,D-ADC
Lは0.293 × 10
−3mm
2/s
,M-ADC
Hは2.630 × 10
−3mm
2/s
,D-ADC
Hは0.301 × 10
−3mm
2/s
であった.図
2.2 62
歳男性の膠芽腫患者における2
重混合正規分布をあてはめたADC
のヒストグラム.2.3 Univariate Cox models
によるハザード比予後予測因子が有効であるかは,統計学的に検証する必要がある.Univariate Cox modelsでは,
ハザード比を求めることができる.ハザードとは,ある時点まで生存した条件下で、次の極めて微 小な時間で死亡する確率のことであり,瞬間死亡率ともよばれる
[30]
.Univariate Cox models
では,ハザードの比は,一定と仮定し,1つの因子に着目して生存関数を比較することで,ハザード比が 求まる
[30]
.予後に影響する予後予測因子を
x
と定義する.このとき,時間t
における予後予測因子を満たす生存関数
S(t)
時間t
における予後予測因子を満たさない生存関数S
0(t)
との関係は,ハザード比γ
提案手法 11
を用いて次式で表現され,
𝑆(𝑡, 𝑥) = 𝑆
0(𝑡)
γ(2.1)
ハザード比は部分尤度を用いることで求まる[30].
JMP Pro
を用いてUnivariate Cox models
で解析を行う場合,必要なデータを入力後に解析手法として“比例ハザードのあてはめ”を選択し,打ち切り(追跡者の生存もしくは脱落)として扱うデ ータの値を入力し,ハザード比を求める.ハザード比の有効性を統計学的に検証するため,予後予 測因子を満たす生存関数と満たさない生存関数の違いを尤度比カイ
2
乗検定し,P
値を出力した.これにより,ハザード比は有意水準を満たすかを調べた.なお,本研究では有意水準を
5 %とした.
2.4 Kaplan-Meier
生存曲線のLog-lank
検定Univariate Cox models
では,ハザード比を求めることができる.ハザード比は予後予測因子が死亡にどれほど影響を与えているかを直感的に理解できる指標である.しかし,時間軸に対して常に 一定のハザード比であると仮定しており,ある時間の生存率を算出することはできない.すなわち,
ハザード比は追跡者全員が死亡,もしくは打ち切りとした時点で得られる結果を示したものである.
しかし,医療現場ではある時点での因子が患者の死亡に与える影響を知る必要がある.これを可能 とするのが,Kaplan-Meier生存曲線である.
Kaplan-Meier
生存曲線では,縦軸を累積生存率,横軸を時間とする.累積生存率は,イベント発生直前の累積生存率に,イベント発生直後の生存率(イベント前後の生存者数の比)を乗積して求 められる[32].Kaplan-Meier生存曲線の中央値は中央生存期間と呼ばれ,対象群のおおよその生存 期間と解釈される
[33]
.また,
Kaplan-Meier
生存曲線は群間に統計学的有意差が生じているかを,Log-rank
検定で調べる ことがきる.具体的には,時間をイベント発生毎に区切り,各区間における群間の死亡数と生存数 のクロス表を作成する.このクロス表からχ2
乗値を算出し,全区間のχ2
乗値の和をとる.この和は
Log-rank
検定量となり,自由度1
のχ2
乗分布に従うことが知られている[24].Log-rank検定量が分布表において該当する有意水準から求められる
χ2
乗より大きい場合,有意差ありと判断され る.また,Log-rank
検定量に該当する有意確率を求めることで,P
値を算出することができる.な お,前述の通り,本研究では有意水準を5 %とした.
検証方法 12
第
3
章検証方法
3.1
研究試料本研究では, The Cancer Imaging Archive(http://www.cancerimagingarchive.net/)が公開した画像 データベース,および
The Cancer Genome Atlas
(https://portal.gdc.cancer.gov/
)が公開した臨床情報 を用いた.Henry Ford病院, California San Francisco大学, MD Anderson がんセンター, Emory大学,Thomas Jefferson
大学病院のスタッフらの協力により,これらのデータベースには262
名の膠芽腫患者のデータが保存されている.当該研究は公開データベースを使用した研究であり,倫理審査員 会の承認が免除されている.
262
名の患者のうち,造影後のT1
強調像又はDWI
のb
値が0 s/mm
2と1000 s/mm
2が揃っていな い症例(134 名),DWIと造影後のT1
強調像が体動により一致しない症例(48名),DWIが金属 アーチファクトで評価できない症例(2名),臨床データの入力がない症例(1名),生存に関する データが入力されていない症例(1
名)を除外した.最終的には,2008
年12
月から2013
年9
月に 登録された76
名が評価対象であった.無増悪生存期間(
progression-free survival, PFS
)は,初期治療から新たな腫瘍出現までの期間とし た[34].また,全生存期間(overall survival, OS)は,最初の病理診断から死亡までの期間とした.PFS
とOS
において,それぞれの25%タイル値より短い症例を Shorter survival
群と定義した.MGMT
はアルキル化剤の化学療法への腫瘍反応性は高くなるため,予後が良好な予測因子の1
つとされる 遺伝子情報である[16-18].MGMT status
は,Brennan
らの報告にあるTable S7
(patient characteristics)に記載された結果を用いた[35].このため,
MGMT status
は 59%(76 名中45
名)の患者でのみ明 らかであった.76
名の膠芽腫患者の情報を,表3.1
に示す.検証方法 13
表
3.1 76
名の膠芽腫患者情報項目 値
年齢(歳)*
57.5
(50.0, 66.0
) 性別男性†
47
(61.8
) 女性†29
(38.2
)PSF(日)
*195.5
(90.0, 392.0
)OS
(日) *371.0
(210.8, 553.8
)KPS
100
†17(27.4)
90
†2
(3.2
)80
†33
(53.2
)60
†10
(16.2
)不明
15
腫瘍サイズ(cm2) ‡
6.91 ± 4.49 MGMT status
Methylated
†22
(48.9
)Unmethlyated
†23
(51.1
)不明
31
* 値は中央値と四分位範囲.
† 括弧内の値はパーセント値.
‡ 値は平均±標準偏差.
3.2
予後予測の候補因子生体情報に関連する候補因子は,年齢,性別,ならびに全身状態をスコア化した
Karnofsky
performance status
(KPS
)を用いた.表3.2
に示すように,KPS
は,患者が日常生活で,どの程度の活動能力があるかを
0
から100
%の11
段階に分類したものである[36]
.100
%は正常で無症 状,数値が下がるにしたがい全身状態は悪化する[27].画像情報に関連する候補因子は,腫瘍サ イズ,M-ADC
L,D-ADC
L,M-ADC
H,D-ADC
Hとした.なお,腫瘍サイズは,2.1
腫瘍における 充実部の抽出法で述べた手動抽出領域とした.また,遺伝子情報に関連する候補因子は,MGMTstatus
とした.検証方法 14
表
3.2 KPS
のスコアと患者状態の関係スコア 患者状態
100
正常である(疾患への訴えがなく,症状もない).90
軽い症状があるが,正常に活動できる.80
症状はあるが,努力することで正常に活動できる.70
身の回りの事を一人でできるが,正常な活動,お よび労働はできない.60
身の回りの事をできるがが,時には介助が必要で ある.50
病状を考慮し,看護や定期的な医療が必要である.40
場合によって動けず,常に適切な看護や医療が必 要である.30
全く動けずに入院が必要だが,生存の危機に瀕し ているわけではない.20
非常に重症であり,生存のために積極的な治療が 必要である.10
生存の危機に瀕している.0
死亡している.3.3
散布図を用いた予後予測の候補因子と生存期間との関連性に関する検討図
3.1
に示す通り,PSF
とOS
には強い正の相関が存在する(r = 0.842, P < 0.001
).また,OS
に は,打ち切りが12
症例で存在する.したがって,散布図を用いた予後予測の候補因子と生存期間 との関連性に関する検討では,OS
は用いず,PSF
のみで検討した.関連性を求める指標として,連続尺度の候補因子については,
Spearman
の積率相関係数(r
)およびP
値を求めた.また,名義 尺度のものについては,KPS以外の予測因子において両側のt
検定を用いた.KPS
では,PSF
にお ける平均値の大小関係から関連性を推測した.検証方法 15
図
3.1 76
症例におけるPSF
とOS
の関連性.3.4
予測因子の有効性前述の手法から得た各候補因子と生存期間との関連性の結果を参照し,名義尺度である性別と
MGMT status
は,生存期間が短い群を予後予測の不良の候補因子とした.順序尺度であるKPS
は中央値を閾値として
2
群化し,生存期間が短い群を予後予測の不良の候補因子とした.先行研究 でPops
らが用いた手法と同様に[19-21]
,年齢,腫瘍サイズ,M-ADC
L,D-ADC
L,M-ADC
H,D- ADC
Hは,平均値を閾値として2
群化し[19],生存期間が短い群を予後予測の不良の候補因子とし た.ヒストグラム解析の結果を複合させた予後予測には,2群化したM-ADC
L,D-ADCL,M-ADC
H,D-ADC
Hを組み合わせ,予後予測の候補因子とした.後述の通り,統計学的に有意な予後予測の候補因子を単体で見出すことはできなかった.しか し,PSFにおける
L-ADC
L のP
値(P = 0.082)は,他の予後予測の候補因子(P > 0.106)と比較 して最も低くかった.そこでL-ADC
Lに着目し,ヒストグラム解析における他の候補因子と複合 させ,予後予測の可能性を検討した.複合させる因子を選択するため,L-ADCLと D-ADCL,M-ADC
H,およびD-ADC
Hとの相関性を調べ,統計学的に有意な関連性のある指標をL-ADC
Lの複合因子とした.なお,ADCのヒストグラムにおいて,BD-ADCLと
LM-ADC
Lを同時に満たす症例 は,細胞密度が高く,腫瘍組織の不均一性を示す膠芽腫を特定できる可能性が示唆される.したr = 0.842, P < 0.001
検証方法 16
がって,
BD-ADC
LとLM-ADC
Lを同時に満たす予後予測の候補因子を,broader and lower values in ADC
L(B&L-ADCL)と定義した.先行研究と同様に,これらの候補因子は
Univariate Cox models
を用いて,ハザード比が有意差 ありとなる因子を特定した[19-21]
.特定された候補因子は予後不良の予測因子として捉え,Kaplan-Meier
生存曲線を描いた.更に,Log-rank
検定を用いて,群間で累積生存率に有意差を認めるかを明らかにした.
加えて,生存期間と
M-ADC
LおよびD-ADC
Lとの関係を明らかにする必要がある.そこで,ADC
Lの平均値を横軸とし,ADC
Lの分布の分布を縦軸として,Shorter survival群とそうでない群 との関係性を図示した.更に,この図においてB&L-ADC
Lの閾値を用いて4
象限に分け,B&L-
ADC
Lで生存期間が短い症例を多く予測できるか,確認した.結果 17
第
4
章 結果4.1
試料における予後予測の候補因子76
症例におけるM-ADC
Lは1.056 ± 0.253 × 10
−3mm
2/s,D-ADC
Lは0.176 ± 0.100 × 10
−3mm
2/s
で あった.M-ADC
Hは1.656 ± 0.517 × 10
−3mm
2/s
,D-ADC
Hは0.260 ± 0.168 × 10
−3mm
2/s
であった.腫 瘍サイズは6.91 ± 4.49 cm
2であった.これらの指標に加え,患者データとして収集した年齢,性別,KPS
を予後予測の候補因子とした.また,
9
個の予後予測の候補因子(年齢,性別,KPS
,腫瘍サイズ,M-ADC
L,D-ADC
L,M-ADC
H,D-ADC
H,MGMT Status)とPSF
の関係を検討した結果;(1)年齢は,PSFと弱い負の相関があった(
r = -0.227, P = 0.049
,図4.1
),(2)男性のPSF
(270 ± 296
日)は,女性のPSF
(354 ± 366
日)より短かったが,有意ではなかった(P = 0.300,図
4.2),(3)KPS
とPSF
において,KPSが最も 高い100
において,PSFは最も長かった(366 ± 363 days,図4.3),(4)腫瘍サイズは,PSF
とほ ぼ相関がなかった(r = -0.159
,図4.4
),(5)M-ADC
Lは,PSF
とほぼ相関がなかった(r = 0.035
, 図4.5),
(6)D-ADCLは,PSFとほぼ相関がなかった(r = -0.108,図4.6),
(7)M-ADCHは,PSF とほぼ相関がなかった(r = -0.070
,図4.7
),(8)D-ADC
Hは,PSF
とほぼ相関がなかった(r = -
0.192,図 4.8),そして(9)Unmethylated
のPSF(267 ± 243
日)は,MethylatedのPSF(301 ± 272
日)より短かったが,有意ではなかった(P = 0.661,図4.9).
結果 18
図
4.1 年齢と PSF
の関係.図
4.2 性別と PSF
の関係.r = -0.227, P = 0.049
354±366 days 270±296 days
結果 19
図
4.3 KPS
とPSF
の関係.図
4.4
腫瘍サイズとPSF
の関係.268±217 days
294±336 days
125±109 days
366±363 days
腫瘍サイズ(cm2)
r = -0.159, P = 0.171
結果 20
図
4.5 M-ADC
LとPSF
の関係.図
4.6 D-ADC
LとPSF
の関係.M-ADC
L(10
−3mm
2/s)
r = 0.035, P = 0.767
D-ADC
L(10
−3mm
2/s)
r = -0.108, P = 0.352
結果 21
図
4.7 M-ADC
HとPSF
の関係.図
4.8 D-ADC
HとPSF
の関係.M-ADC
H(10
−3mm
2/s)
r = -0.070, P = 0.549
D-ADC
H(10
−3mm
2/s)
r = -0.192, P = 0.096
結果 22
図
4.9 MGMT status
とPSF
の関係.これらの予後予測の候補因子と
PSF
の関係性を考慮し,表4.1
に示す通り予後予測因子の候補因 子を決定した.なお,表4.1
の条件を満たすM-ADC
LをLM-ADC
L,D-ADC
LをBD-ADC
L,M-ADC
Hを平均値が高い
M-ADC
H(higher values in M-ADCL,HM-ADCL),D-ADC
Hを分布が狭いD-ADC
H(
narrower values in D-ADC
L,ND-ADC
L)と定義した.表
4.1 予後予測の候補因子
項目 値
年齢(歳)
> 57.4
性別 男性
KPS < 80
腫瘍サイズ(
cm
2)> 6.91 M-ADC
L(10
−3mm
2/s
)< 1.056 D-ADC
L(10
−3mm
2/s
)> 0.176 M-ADC
H(10−3mm
2/s) > 1.656 D-ADC
H(10
−3mm
2/s
)< 0.260
MGMT status Unmethlyated
4.2
候補因子におけるハザード比表
4.2
に示すように,PFSにおける候補因子のハザード比を求めた結果,統計学的に有意な予後 予測の候補因子を特定することはできなかった(P > 0.082
).301±272 days 267±243 days
結果 23
表
4.2 PFS
における候補因子のハザード比Variable
Univariate Analysis
Hazard Risk (95% CI) P value
年齢
> 57.4
歳1.227 (0.773–1.955) 0.384
性別 女性
0.721 (0.445–1.148) 0.170
KPS < 80 1.088 (0.523–2.032) 0.808
腫瘍サイズ
> 6.91 cm
21.468 (0.921–2.338) 0.106
LM-ADC
L1.505 (0.950–2.384) 0.082
BD-ADC
L1.215 (0.757–1.923) 0.414
HM-ADC
H1.351 (0.837–2.153) 0.214
ND-ADC
H1.327 (0.822–2.113) 0.244
MGMT stats Unmethylated 1.074 (0.584–1.977) 0.818
また,表
4.3
に示すように,OS
においても,統計学的に有意にハザード比を予後予測するため の候補因子を特定することはできなかった(P > 0.180).表
4.3 OS
における候補因子のハザード比Variable
Univariate Analysis
Hazard Risk (95% CI) P value
年齢> 57.4
歳1.236(0.750–2.045) 0.405
性別 女性1.100 (0.647–1.828) 0.719
KPS < 80 1.353 (0.619–2.629) 0.423
腫瘍サイズ
> 6.91 cm
21.408 (0.854–2.343) 0.180 L-ADC
L1.336 (0.813–2.216) 0.254 B-ADC
L1.014 (0.593–1.689) 0.957 H-ADC
H1.026 (0.604–1.701) 0.923 B-ADC
H1.070 (0.636–1.769) 0.794 MGMT stats Unmethylated
1.082 (0.567–2.079) 0.811
結果 24
4.3
候補因子の複合法M-ADC
Lは,D-ADCLと正の相関があった(r = 0.655, P < 0.001,図4.10). M-ADC
Lは,M-ADC
Hと強い正の相関があった(r = 0.737, P < 0.001
,図4.11
).M-ADC
Lは,D-ADC
Hとほぼ相関 がなかった(r = -0.159
,図4.12
).この結果から,複合した予後予測の候補因子は,①M-ADC
LとD-ADC
L,および②M-ADCLとM-ADC
Hで検討することとした.なお,①はB&L-ADC
Lで評価し,②は
LM-ADC
LとHM-ADC
Hで評価した.図
4.10 M-ADC
LとD-ADC
Lの関係.M-ADC
L(10
−3mm
2/s)
D -AD C
L( 10
−3mm
2/s )
r = 0.655, P < 0.001
結果 25
図
4.11 M-ADC
LとM-ADC
Hの関係.図
4.12 M-ADC
LとM-ADC
Hの関係.なお,D-ADCLは
M-ADC
Hと強い正の相関があった(r = 0.802, P < 0.001,図4.13).
M-ADC
L(10
−3mm
2/s)
M -AD C
H( 10
−3mm
2/s )
r = 0.737, P < 0.001
M-ADC
L(10
−3mm
2/s)
D -AD C
H( 10
−3mm
2/s )
r = 0.134, P = 0.247
結果 26
図
4.13 D-ADC
LとM-ADC
Hの関係.4.4
候補因子を複合させた場合のハザード比この結果,76 名の膠芽腫患者において,6 名(7.89%)は
B&L-ADC
Lと評価された.また,こ のうち5
名はLM-ADC
L& HM-ADC
Hとも評価された.76
名において,7
名(9.21%
)はLM- ADC
L& HM-ADC
Hと評価された.表
4.4
において,PFS
において候補因子を複合させた場合のハザード比を示す.B&L-ADC
Lの ハザード比は5.747
であり(P = 0.002),LM-ADCL& HM-ADC
Hのハザード比は4.437
であった(
P = 0.003
).表
4.4 PFS
において候補因子を複合させた場合のハザード比Variable
Univariate Analysis
Hazard Risk (95% CI) P value
B&L-ADC
L5.747 (2.128–13.148) 0.002
LM-ADC
L& HM-ADC
H4.437 (1.757–9.830) 0.003
D-ADC
L(10
−3mm
2/s)
M -AD C
H( 10
−3mm
2/s )
r = 0.802, P < 0.001
結果 27
表
4.5
では,OS
において候補因子を複合させた場合のハザード比を示す.B&L-ADC
Lのハザー ド比は3.311
であり(P = 0.018
),LM-ADCL& HM-ADC
Hのハザード比は4.437
であった(P = 0.023
).表
4.5 OS
において候補因子を複合させた場合のハザード比Variable
Univariate Analysis
Hazard Risk (95% CI) P value B&L-ADC
L3.311 (1.251–7.321) 0.018 LM-ADC
L& HM-ADC
H2.935 (1.184–6.294) 0.023
4.5
予後予測因子におけるLog-rank
検定図
4.14
では,PFS
においてB&L-ADC
Lを満たす群(実線)と満たさない群(破線)を比較した.
PFS
において,B&L-ADC
Lを満たす群の中央生存期間は77
日であり,満たさない群では302
日であった(P < 0.001).図
4.14 B&L-ADC
Lの有無で比較したPFS
のKaplan–Meier
生存曲線図
4.15
では,PFS
においてLM-ADC
L& HM-ADC
Hを満たす群(実線)と満たさない群(破 線)を比較した.LM-ADCL& HM-ADC
Hを満たす群の中央生存期間は97
日であり,満たさない 群では213
日であった(P < 0.001).結果 28
図
4.15 LM-ADC
L& HM-ADC
H の有無で比較したPFS
のKaplan–Meier
生存曲線.図
4.16
では,OS
においてB&L-ADC
Lを満たす群(実線)と満たさない群(破線)を比較した.OSにおいて,B&L-ADCLを満たす群の中央生存期間は
199
日であり,満たさない群では472
日であった(P = 0.004).図
4.16 B&L-ADC
Lの有無で比較したOS
のKaplan–Meier
生存曲線結果 29
図
4.17
では,OS
においてLM-ADC
L& HM-ADC
Hを満たす群(実線)と満たさない群(破線)を比較した.OSにおいて,LM-ADCL
& HM-ADC
Hを満たす群の中央生存期間は268
日であり,満たさない群では
394
日であった(P = 0.007
).図
4.17 L-ADC
L& H-ADC
Hの有無で比較したOS
のKaplan–Meier
生存曲線4.6 Shorter survival
とM-ADC
LおよびD-ADC
Lの関係図
4.18
に示すように,PFSにおいて,第1
象限(LM-ADCLかつBD-ADC
Lの領域,すなわちB&L-ADC
Lの領域)における67%
の患者はShorter survival
群であった.この割合は他の象限にお ける最大値である32%と比較しても,明らかに高い割合であった.
結果 30
図
4.18 PFS
におけるShorter survival
とM-ADC
LおよびD-ADC
Lの関係図
4.19
に示すように,OSにおいて,第1
象限における67%の患者は,Shorter survival
群であ った.この割合は他の象限における最大値である32%
と比較しても,明らかに高い割合であっ た.0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0.4 0.9 1.4 1.9
PSF < 90 days PSF ≥ 90 days
D -A D C
L(1 0
-3mm
2/s )
M-ADC
L(10
-3mm
2/s)
67% 20%
32% 8%
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0.4 0.9 1.4 1.9
結果 31
図
4.19 OS
におけるShorter survival
とM-ADC
LおよびD-ADC
Lの関係0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0.4 0.9 1.4 1.9
D -A D C
L(1 0
-3mm
2/s )
M-ADC
L(10
-3mm
2/s)
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0.4 0.9 1.4 1.9
18%
10%
67%
27%
OS < 220 days
OS ≥ 220 days
考察 32
第
5
章 考察5.1 B&L-ADC
Lが予後不良の予測因子であると考える理由本研究の結果から,B&L-ADCLは膠芽腫患者において予後不良の予測因子であることが明らか となった.
B&L-ADC
Lを示した膠芽腫患者は,PSF
が2.5
ヶ月(77
日),OS
が6.6
ヶ月(199
日)であった.細胞密度の高い膠芽腫の腫瘍組織は,細胞密度の低いものに比べて成長速度が速いことがモデ ルマウスで証明されている
[37]
.Schmainda
は,神経膠腫の腫瘍細胞において密度が高い場合,ADC
が低値を示すと報告している[38].これらより,本研究で仮説を立てたB&L-ADC
Lは,細胞 密度の高い膠芽腫の腫瘍組織を検出する指標であったと解釈でき,当該患者において腫瘍の成長 速度が速いことを予測したと考えられる.加えて,腫瘍の不均一性は治療において抵抗性を示す 指標の1
つとされ[39],膠芽腫患者においてもその事は報告されている[40].Ryuらは,膠芽腫の 腫瘍組織におけるADC Map
のエントロピー(信号の強度と不均一性の指標)から組織の不均一 性を評価できると報告している[41].以上の事から,B&L-ADCLは膠芽腫において増殖速度が速 く,治療抵抗性の高い腫瘍組織を検出する指標であると解釈できる.また,PFSや
OS
において,25%タイル値より短いと定義したShorter survival
群は,B&L-ADCLと評価した第
1
象限で67%と高頻度に確認された.この割合は,他の象限の最大値 32%と比較し
て明らかに高かった.この結果は,B&L-ADC
Lを予後不良における予測因子としてみなすことの 妥当性を示すものと考えた.5.2 LM-ADC
L& HM-ADC
Hは予後予測因子として評価すべきではないと考える理由ハザード比,Log-rank検定を用いた生存曲線の比較結果では,LM-ADCL