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金融取引税の予備的考察

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金融取引税の予備的考察

渡  邉  宏  美

1.はじめに 1.1.問題の所在

課税が行動に影響を与えることから,大きく 2 つの方向にわかれる。1 つ は,なるべく行動に歪みを与えない課税,いま一つは,社会的に望ましくな い行動を減退させるための課税,である。後者の考え方に基づく税の 1 つと して,金融取引税(FTT;Financial Transaction Tax)が挙げられる。

本稿は,FTTの議論を整理し,日本への示唆を分析するための準備作業を 行うことを目的とする。FTTが正当化されるためには,少なくとも次の 3 つ の議論が必要であると考える。つまり,①何が「社会的に望ましくない行動」

かについての説明と合意,②①で特定された対象に課税することによって,

実際に減退させる効果があるのか,及びそういった効果が生じるような制度 設計のあり方,③課税によって生じるその他の影響(デメリット)がある場 合に,減退効果(メリット)がその他の影響を上回るか否か,である。この 3 点を念頭におき,これまでの議論の整理を試みる。

FTT

を取り上げる理由は 2 つ存在する。第1に,金融危機以降,銀行課

【研究ノート】

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― 498 ―

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税という文脈において

FTT

の議論が活発になっているからである。2011 年 9 月 28 日に欧州委員会(EC; European Committee)が,金融機関が当事者で あるような一定の取引に対する共通金融取引税を提案した。しかしなが ら,英国,スウェーデン等が強固に反対した。そのため,ドイツ,フラン スを中心とした

EU

加盟 11 か国による

FTT

が,強化された協力(enhanced

cooperation)という形で,2013 年 1 月に EU

経済・財務相理事会(ECOFIN;

Economic and Financial Affairs Council)で承認された

。なお,2011 年 11 月 のカンヌでの

G-20

サミットにおいても FTT が取り上げられていたようで ある。米国でも

FTT

と類似した税が議会で提案されてはいるものの,通 過する見通しは乏しいようである。また,2014 年 1 月 4 日に中国が

FTT

入を検討課題に挙げているとの報道がなされた

第 2 の理由は,FTTの導入には課題が多く,特にその設計の点で明確にす べきことが残されているが,実行可能性は増しつつあるともされるからで

 その目的は,過剰な投機の抑制だけではなく,金融取引に対する間接税の調和と,金融機 関から公平で実質的な貢献が挙げられている(EC(2013, p.2))。

 この決定に対し,英国は,① EU 運営条約(TFEU; Treaty on the Functioning on the European

Union)article327

に反する(非参加国の能力(competences),権利及び義務を尊重していない),

②慣習法上の(customary)国際法において正当化されない,③

TFEU article 332

に反する(FTT の強化された強力の執行は非参加国に不可避的にコストを生じさせる)として異議を申し立 てている(Case C-209/13 UK v Council, http://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf ? docid=1

37910&mode=req&pageIndex=1&dir=&occ=first&part=1&text=enhanced%2Bcooperation&doclang=

EN&cid=27172#ctxl(2014 年 2 月 10 日閲覧)。

 Communique(G-20 Leaders Summit-Cannes-3-4 Nov. 2011)28 項(外務省 HP

より 2014 年 1 月 12 日閲覧:http://www.mofa.go.jp/policy/economy/g20_summit/2011/communique.html)参照。

 例えば,H.R.880 - Wall Street Trading and Speculators Tax Act(2013 年 2 月 28 日)参照。

 日本経済新聞 2014 年 1 月 4 日朝刊 4 頁。同紙 2013 年 6 月 26 日朝刊 7 頁も合わせて参照。

 第 70 回財政学会(2013 年 10 月 5,6 日)にて京都大学の諸富徹先生のご発表より,多通貨 同時決済銀行及び国際銀行間通信協会等によって金融取引税の実行可能性が増している,と 拝聴した。

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ある。社会インフラが変化していることを踏まえれば,過去の取引税の経験 をそのまま当てはめ,FTTを切り捨てるのではなく,その長短を再検討する 必要があるだろう。

構成は以下の通りである。第 2 節は,これまでの

FTT

に関する議論を整 理する。第 3 節は,

FTT

の利点と欠点を整理し,過去の事例を簡単に確認する。

第 4 節は,1 つの疑問を示し,予備的な考察を行う。第 5 節は,まとめである。

1.2.定義と対象の限定

FTT

とは,株式等の持分証券,債券又はデリバティブによる金融取引 を対象として,その売買高(当初発行時は除く)及びデリバティブの想定元 本に課す税,とここでは定義する。したがって,取引から利益が生じたか 否かに関係なく,取引高に対して一定の税率が課される。適用税率は,取引 当事者たる売手と買手の双方に課税されること等を勘案し,1%以下と想定 する。納税義務者は,課税対象となる取引を行った者とし,回避可能性を小 さくするためには,できる限り広く定義することが望ましい。ただし,執行

 FTT

は,証券取引税(STT;Securities transactions tax,又は

STET:Securities Transfer Excise

Tax),Tobin Tax(Tobin tax

は外国為替取引を対象とするものとして,FTTとは区別して本稿で

は用いる)又は

Robin Hood Tax(最近では,金融危機のコストを金融機関に負担させるという

文脈で,FTTと同義の税として用いられているようである)と呼ばれることがある。

 銀行等にとっての株式等の取引は「金融取引」ではなく「事業取引」とも解されるが,こ こでは取引主体の事業に関係なく,これらの取引を「金融取引」と考えることにする。ただし,

事業取引に取引税を課す場合によく指摘されるように,銀行等が垂直統合することによって 課税対象となる取引を減少させるインセンティブをもつ可能性がある。そのため,課税対象 取引を,エンティティ内部・外部で区別しないような設計が求められるだろう(EC提案では,

「一つのグループ内の別のエンティティ間の移転」も課税対象としている(EC(2013,

p.8)))。

 一般に,取引高を課税標準とする取引高税は消費税の一種と分類される。しかし,通常,

金融取引から付加価値は生じないため,消費税と呼ぶには抵抗がある。むしろ,「権利の取得・

移転をはじめ取引に関する各種の事実的ないし法律的行為を対象として課される租税」(金子

(2013, p.16))とされる流通税に

FTT

は近いように思われる。

(4)

― 500 ―

(4)

の点から限定せざるをえないかもしれない。

その他,関連するものとして,付加価値(VAT:Value Added Tax)の一種であ る金融活動税(FAT:

Financial Activity Tax),Bank levy,英国の Stamp Duty

がある。本稿では,FTTに焦点を絞る。

また,金融安定化の手段としての各種規制には立ち入らない。例えば,バー ゼルⅢや金融機関のリスクテイク,インセンティブ構造,報酬制度等を改革 する議論があるが,これらは考慮しない。

2.金融取引税の議論

まず,FTTに関するこれまでの議論を簡単に整理する。第 1 項では,金融 危機以前の,第 2 項では,金融危機以後の,金融取引税とそれに関連する議 論を簡単にまとめる。

2.1.金融危機以前の議論

FTT

を扱う多くの論文において,まず引用されるのが,Keynes(1936)の 次の指摘である:「賭博場は公共の利益のためには近づきにくく,高価につく のがいい,とふつうは認められている。おそらく同じことが証券取引所につ いても言えるだろう。・・・ ロンドン証券取引所での取引にともなう場内仲買 人の『利ざや』,高率の売買手数料,それに大蔵省に納付すべき重い移転税(the

heavy transfer tax)―これらは市場の流動性を十分に低下させる ・・・ 合衆国に

おける投機10の企業活動に対する優勢を緩和しようとするなら,政府がすべ ての取引に対して相当額の移転税を導入するのがさしあたり考えられる最善 の策ということになるかもしれない」(下線は引用者によるもの)11

10 本稿では,「投機」とは将来のキャッシュフローとは関係なく,市場参加者の心理を予期 する行為として,「事業」とは区別する。

(5)

(5)

同様によく引用されるものとして,外国為替取引に国際的な税を課すこと を提案した

Tobin

税がある。この発想は,1972 年のプリンストンでの講義 の中で浮かんだものとされる12。Tobin税では,ある通貨から別の通貨への 転換に対して,その取引の規模に応じて,国際的な統一税(税率 1%又は 0.5%)

を課す。その目的は 2 つあり,「第 1 は,短期の期待とリスクに比して,長 期のファンダメンタルズを為替相場により反映させること」13,及び「国の マクロ経済及びマネタリー政策の自治を保持し促進すること」14とされる。

しかし,Tobin税は取引量を減少させ,そのために意図された目的を果た しうるか否かは定かではない。Tobin自身,取引税が課されていない場所に 取引が移ってしまうこと,及び,課税されない取引にかえることで取引税 を回避することに対する懸念を認識していた15。その他にも,Tobin税を実 質的に誰が負担するのかをはじめ,実施には多くの課題が多く残っている。

なお、税収の規模の推計をまとめたものとして、山口(2013)の表が参考 になるので転載する。

11

 Keynes(1936), pp.159-160, 間宮訳 , pp.220-221。

12

 Tobin(1996), p.

ⅳ参照 . この背景には,ブレトンウッズ体制の崩壊があったとされる。

13 前掲注 12, p.

.

14 前掲注 12, p.ⅷ .

15 前掲注 12, p.xiv.

トービン税をめぐる内外の動向

レファレンス 2013.2 37 5 トービン税で見込まれる税収

外国為替取引への課税によって得られる税収 については、これまで様々な推計が行われてい る(表 1)。仮定されている税率は 0.001 〜 1%、

年間税収は 100 億(税率 0.005%)〜 2500 億ドル( 0.1%)と多岐にわたっている。課税による取引 量の減少も、0% から取引の禁止に近いレベル

-99.7%)まである。

外国為替市場の拡大(図 2)に伴って低い税 率でも相当規模の税収が見込めるようになった ため、総じて、新しい推計の方が想定税率は低 い。0.005% の課税で、250 〜 400 億ドルの税収 が得られ、また、想定税率の低下により、取引 量の減少も 20% 以下と市場への影響も小さい ものとなっている。

表 1 通貨取引税による税収の推計(世界全体)

(公表年)推計者 対象年 対象取引 *

〔対象通貨〕

1 日当たりの

(10 億ドル)取引額 課税回避 弾性値 ** 取引量 *** の減少 税率 年間推計税収

(10 億ドル)

H. D Orville and  D. Najman 

 (1995) 1992 直、デ(渡、先、ス、オ) 293  - - -20% 0.1% 56.32

0.25% 140.1

P. B. Spahn (1995) 1995 直、デ 1,000  - - 0% 0.02% 50

D. Felix and R. Sau  (1996)

1992

直、デ(渡、先、ス、オ)

576  25% -0.75 - 0.25% 205.5

1995 1,120  25% -0.3 〜 -1.75 -13% 0.05% 90 〜 97

-49% 0.1% 148

- 0.25% 180

P. Kenen  (1996)

1992 直、デ(渡、先、ス、オ) 880 

- - - 0.05% 100

1995 1,120  0.05%

0.025%(銀行) 90 〜 97

J. Frankel (1996) 1995 直、デ(渡、先、ス) 1,230  20% -0.32 -20% 0.1% 166

J. Tobin (1996) 1995 直 1,120  - - -70% 0.1% 50 〜 94

フランス財務省

 (2000) 1998 直、デ(渡、ス) 1,500  20% -0.5(非金融部門)

-1(その他金融機関)

-1.5(銀行間)

(中央推計値)-67% 0.01 〜 0.2% 500 億ユーロ

(中央推計値)

ベルギ−財務省

 (2001) 1998 直、デ(渡、ス) 1,500  15(税率 0.01%)〜 25%(同 1%)

-0.5(非金融部門)

-1(その他金融機関)

-1.5(銀行間) -4.7 〜 -99.7% 0.01 〜 1% 19 〜 128 フィンランド財務省

 (2001) 1998 直、デ(渡、ス) 1,442  20% -0.5(非金融部門)

-1(その他金融機関)

-1.5(銀行) -4.7 〜 -99.7%

0.01% 71

0.25% 102

1% 177

D. Cassimon 

 (2001) 1998 直、デ 2,100  - - - 0.01% 47.25

0.02% 94.5

A. Binger (2003) 2001 直、デ(渡、ス) 1,200  - - -50% 0.1% 132

A. Clunies-Ross (2003) 2001 直、デ(渡、ス) 1,210  - - - 0.02% 53

M. Nissanke

 (2004) 2001 直、デ(渡、ス) 1,173  2% -0.12 〜 -0.23 -5% 0.01% 30 〜 35

-15% 0.02% 17 〜 19

S. Kapoor (2004) 2001 直、デ(渡、ス) 1,200  - - 0% 0.005% 10 〜 15

B. Jetin and L. Denys  (2005)

2004 直、デ(渡、ス) 1,900 

15.1(税率 0.01%)

15.2%(同 0.02%) 〜 -0.5-29(税率 0.01%)

-42%(同 0.02%) 0.01 〜 0.02% 27

15.2% -1 -67% 0.02% 25

16% 0.1% 125

(ベルギー財務省と フィンランド財務省 の推計を代替式で再推 計)

15.1(税率 0.01%)

〜 25%(同 1%)

-0.5(非金融部門)

-1(その他金融機関)

-1.5(銀行間) -4.7 〜 -99.7% 0.01 〜 1% 27.8(税率0.01%)〜 210.5(同 1%)

S. Spratt 

 (2006) 2004 直、デ〔ドル、ユーロ、円、ポンド〕 1,880  - - -2.5% 0.005% 23.54

-5% 0.01% 45.78

S. Schulmeister et al

 (2008) 2006 直、デ(市場、店頭) 3,637  - - -15 〜 -35% 0.01% 50.7 〜 67.6

-50 〜 -75% 0.05% 63.4 〜 169 -65 〜 -85% 0.1% 84.5 〜 253.4

R. Schmidt (2008) 2007 直、デ(渡、ス)〔ドル、ユーロ、円、ポンド〕 3,227  - - -14% 0.005% 33.41

リーディング・グルー プ・タスクフォース

 (2010) 2009 直、デ(渡、ス) 3,637  - -0.43 -14.6% 0.005% 25 〜 34.38

レファレンス̲02 745̲トービン税をめぐる内外の動向 念校.indd   37 2013/02/07   19:48:00

表 1 通貨取引税による税収の推計(全世界)

(6)

― 502 ―

(6)

2.2.金融危機以後の議論

金融危機以後も,FTTをテーマにした文献は数多く存在するが,ここでは

EC

提案(2013)の内容と,②

IMF

によるレポートを確認する。

トービン税をめぐる内外の動向

レファレンス 2013.2 37 5 トービン税で見込まれる税収

外国為替取引への課税によって得られる税収 については、これまで様々な推計が行われてい る(表 1)。仮定されている税率は 0.001 〜 1%、

年間税収は 100 億(税率 0.005%)〜 2500 億ドル( 0.1%)と多岐にわたっている。課税による取引 量の減少も、0% から取引の禁止に近いレベル

-99.7%)まである。

外国為替市場の拡大(図 2)に伴って低い税 率でも相当規模の税収が見込めるようになった ため、総じて、新しい推計の方が想定税率は低 い。0.005% の課税で、250 〜 400 億ドルの税収 が得られ、また、想定税率の低下により、取引 量の減少も 20% 以下と市場への影響も小さい ものとなっている。

表 1 通貨取引税による税収の推計(世界全体)

(公表年)推計者 対象年 対象取引 *

〔対象通貨〕

1 日当たりの

(10 億ドル)取引額 課税回避 弾性値 ** 取引量 *** の減少 税率 年間推計税収

(10 億ドル)

H. D Orville and  D. Najman 

 (1995) 1992 直、デ(渡、先、ス、オ) 293  - - -20% 0.1% 56.32

0.25% 140.1

P. B. Spahn (1995) 1995 直、デ 1,000  - - 0% 0.02% 50

D. Felix and R. Sau  (1996)

1992

直、デ(渡、先、ス、オ)

576  25% -0.75 - 0.25% 205.5

1995 1,120  25% -0.3 〜 -1.75 -13% 0.05% 90 〜 97

-49% 0.1% 148

- 0.25% 180

P. Kenen  (1996)

1992 直、デ(渡、先、ス、オ) 880 

- - - 0.05% 100

1995 1,120  0.05%

0.025%(銀行) 90 〜 97

J. Frankel (1996) 1995 直、デ(渡、先、ス) 1,230  20% -0.32 -20% 0.1% 166

J. Tobin (1996) 1995 直 1,120  - - -70% 0.1% 50 〜 94

フランス財務省

 (2000) 1998 直、デ(渡、ス) 1,500  20% -0.5(非金融部門)

-1(その他金融機関)

-1.5(銀行間)

(中央推計値)-67% 0.01 〜 0.2% 500 億ユーロ

(中央推計値)

ベルギ−財務省

 (2001) 1998 直、デ(渡、ス) 1,500  15(税率 0.01%)〜 25%(同 1%)

-0.5(非金融部門)

-1(その他金融機関)

-1.5(銀行間) -4.7 〜 -99.7% 0.01 〜 1% 19 〜 128 フィンランド財務省

 (2001) 1998 直、デ(渡、ス) 1,442  20% -0.5(非金融部門)

-1(その他金融機関)

-1.5(銀行) -4.7 〜 -99.7%

0.01% 71

0.25% 102

1% 177

D. Cassimon 

 (2001) 1998 直、デ 2,100  - - - 0.01% 47.25

0.02% 94.5

A. Binger (2003) 2001 直、デ(渡、ス) 1,200  - - -50% 0.1% 132

A. Clunies-Ross (2003) 2001 直、デ(渡、ス) 1,210  - - - 0.02% 53

M. Nissanke

 (2004) 2001 直、デ(渡、ス) 1,173  2% -0.12 〜 -0.23 -5% 0.01% 30 〜 35

-15% 0.02% 17 〜 19

S. Kapoor (2004) 2001 直、デ(渡、ス) 1,200  - - 0% 0.005% 10 〜 15

B. Jetin and L. Denys  (2005)

2004 直、デ(渡、ス) 1,900 

15.1(税率 0.01%)

15.2%(同 0.02%) 〜 -0.5-29(税率 0.01%)

-42%(同 0.02%) 0.01 〜 0.02% 27

15.2% -1 -67% 0.02% 25

16% 0.1% 125

(ベルギー財務省と フィンランド財務省 の推計を代替式で再推 計)

15.1(税率 0.01%)

〜 25%(同 1%)

-0.5(非金融部門)

-1(その他金融機関)

-1.5(銀行間) -4.7 〜 -99.7% 0.01 〜 1% 27.8(税率0.01%)〜 210.5(同 1%)

S. Spratt 

 (2006) 2004 直、デ〔ドル、ユーロ、円、ポンド〕 1,880  - - -2.5% 0.005% 23.54

-5% 0.01% 45.78

S. Schulmeister et al

 (2008) 2006 直、デ(市場、店頭) 3,637  - - -15 〜 -35% 0.01% 50.7 〜 67.6

-50 〜 -75% 0.05% 63.4 〜 169 -65 〜 -85% 0.1% 84.5 〜 253.4

R. Schmidt (2008) 2007 直、デ(渡、ス)〔ドル、ユーロ、円、ポンド〕 3,227  - - -14% 0.005% 33.41

リーディング・グルー プ・タスクフォース

 (2010) 2009 直、デ(渡、ス) 3,637  - -0.43 -14.6% 0.005% 25 〜 34.38

レファレンス̲02 745̲トービン税をめぐる内外の動向 念校.indd   37 2013/02/07   19:48:00

レファレンス 2013.2

38

(公表年)推計者 対象年 対象取引 *

〔対象通貨〕

1 日当たりの

(10 億ドル)取引額 課税回避 弾性値 ** 取引量 *** の減少 税率 年間推計税収

(10 億ドル)

UN Secretary- General's High-level  Advisory Group  on Climate Change  Financing (2010)

2020 CLS 銀行を経由する取引 3,000 - -0.5 〜 -1

-21 〜 -37%

(税率 0.01%)

-3 〜 -6%

(同 0.001%)

0.01 〜 0.001% 7 〜 60 N. McCulloch and G. 

Pacillo

 (2011) (2010)直、デ(渡、ス) 2,914  20% -0.606 - 0.002% 13 

0.005% 25 

0.012% 55 

R. Schmidt and 

A. Bhushan (2011) 2010 直、デ(渡、ス、オ) 3,981  - -0.5 -19% 0.005% 40 

(注)* 直 = 直物取引(spot) デ = デリバティブ取引(derivatives) 渡 = 先渡取引(outright forward) 先 = 先物取引(future)

ス = スワップ取引(swaps) オ = オプション取引(option)。

先渡、先物、スワップ、オプションは、デリバティブの一種。

** 取引コストの変化率に対する取引量の変化率。

*** 課税回避等を除いた課税ベースの取引量。

(出典)B. Jetin and L. Denys, Ready for Implementation: Technical and Legal Aspects of a Currency Transaction Tax and Its  Implementation in the EU, World Economy, Ecology and Development e.V. (WEED), 2011, p.131. <http://www2.weed-online.org/

uploads/CTT̲Ready̲for̲Implementation.pdf>;Globalizing solidarity: The Case for Financial Levies: Report of the Committee  of Experts to the Taskforce on International Financial Transactions and Development, Leading Group on Innovative Financing  for Development, 2010, pp.22-23. <http://www.leadinggroup.org/IMG/pdf̲Financement̲innovants̲web̲def.pdf>;N. McCulloch  and G. Pacillo,  The Tobin Tax: A Review of the Evidence,  IDS Research Report, 68, 2011.5, pp.44-46, 54-57. <http://www.ids.

ac.uk/fi les/dmfi le/rr68.pdf>;S. Spratt, A Euro Solution: Implementing a Levy on Euro Transactions to Finance International  Development, Intelligence Capital Limited/Stamp Out Poverty, 2006, p.55. <http://www.stampoutpoverty.org/wp-content/

uploads/2012/10/euro̲solution.pdf>;R. Schmidt and A. Bhushan,  The Currency Transactions Tax: Feasibility, revenue  estimates, and potential use of revenues,  Human Development Research Paper, 2011/09, 2011, pp.19-22. <http://hdr.undp.

org/en/reports/global/hdr2011/papers/HDRP̲2011̲09.pdf>;S. Schulmeister et al., A General Financial Transaction Tax: 

Motives, Revenues, Feasibility and Eff ects, WIFO (Austrian Institute of Economic Research), 2008, p.71. <http://www.wifo.ac.at/

wwa/servlet/wwa.upload.DownloadServlet/bdoc/S̲2008̲FINANCIAL̲TRANSACTION̲TAX̲31819$.PDF>;Report of the  Secretary-General s High-level Advisory Group on Climate Change Financing, New York: United Nations, 2010.11, pp.25, 49-50. 

<http://www.un.org/wcm/webdav/site/climatechange/shared/Documents/AGF̲reports/AGF%20Report.pdf> を基に筆者作成。

図 2 全世界の通貨取引量と GDP の推移

( 出 典 )Bank for International Settlements, Triennial Central Bank Survey of Foreign Exchange and Derivatives Market  Activity in 1995, 1998, 2001, 2004, 2007, 2010. <http://www.bis.org/publ/rpfxf10t.htm>; Mahbub ul Haq et al., eds., The Tobin  Tax: Coping with Financial Volatility, New York: Oxford University Press, 1996, p.291; World Databank: World development  Indicators & Global development fi nance, World Bank. <http://databank.worldbank.org/ddp/home.do?Step=1&id=4> を基に筆

者作成。

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000

1977 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010 実質GDP

(10億ドル)

1日の通貨取引量 (10億ドル)

直物+先渡+為替スワップ 直物取引

先渡 為替スワップ

通貨スワップ オプション

オプション他 実質GDP

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000

1977 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010 実質GDP

(10億ドル)

1日の通貨取引量 (10億ドル)

直物+先渡+為替スワップ 直物取引

先渡 為替スワップ

通貨スワップ オプション

オプション他 実質GDP

レファレンス̲02 745̲トービン税をめぐる内外の動向 念校.indd   38 2013/02/18   9:18:38

出所:山口(2013),pp. 37-38 ,表1。

(7)

(7)

① EC 提案

2011 年 9 月 28 日に

EC

は,財政,そして市民等の便益のために金融セクター が公平かつ実質的な貢献を行うことを確保するために,EU共通の

FTT

制度

(a common system of FTT in the Union as a whole)を提案した(以下,EC 16)。これに対し,英国等が強く反発したため,EU加盟 11 カ国17が「強 化された協力」(enhanced cooperation)を用いて

FTT

を導入することが 2013 年 1 月 22 日に承認された。当初,早ければ 2014 年中に

FTT

が施行される 可能性があるとされていたが,EU運営条約に反する等として英国が異議を 申し立てている18こと等から,当初の予定よりも遅くなるかもしれない。

欧州における

FTT

導入にむけた動きの背景には,2008 年の金融危機のた めに銀行に支払われた公的資金を金融機関から回収すること,及び多くの金 融及び保険サービスが

VAT

を免れていることもあるとされる19

このような目的を果たす手段として,FTTは以下のように設計される20 課税対象は,「金融機関」によって行われる金融取引であり,あらゆる種類 の金融商品に関係する取引をカバーするよう意図されている。そのため,ス ポットの通貨取引は除かれるが,譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS:

Undertakings for Collective Investment in Transferable Securities),オルタナティ

ブ投資ファンド(AIF:Altevnative Investment funds),デリバティブ等の金融 取引も対象とされる。また市場での取引に限定せず,店頭取引も含むという。

16 2011 年の提案は改訂されたため,以下,2013 年 2 月に公表されたものを

EC

提案と呼ぶ。

17 11 か国とはベルギー,ドイツ,エストニア,ギリシャ,スペイン,フランス,イタリア,オー ストリア,ポルトガル,スロベニア,スロバキアである。

18 前掲注 3 参照。

19 EC(2013), p.2,脚注 2 参照 .

20 詳細については,EC

HP(2014 年 1 月 12 日閲覧:http://ec.europa.eu/taxation_customs/

taxation/other_taxes/financial_sector/index_en.htm#prop)にある,the proposal itself(本稿で EC

案と呼んでいるもの, pp.7-15)参照。

(8)

― 504 ―

(8)

「金融機関」も広く定義され,投資銀行,信用機関,保険会社,年金基金,

持株会社,金融リース会社,特別目的事業体等も対象となる。ただし,欧州 中央銀行と各国の中央銀行は除かれる。適用領域については,原則として,

“residense principle”を用いており,取引の一当事者が加盟国の領域内に設 立されていれば適用対象となる。

取引が生じた時点に納税義務が生じ,対象とされた取引の価格(price)

又は対価21に対して税率(最低税率を提案し,それを超える部分については,

国の方針に委ねることが示されている(p.12))が課される。

その他,「金融機関」が設立されたとみなされる参加国に対して,金融機 関が税を納める義務を負い,徴税方法は参加国の間で統一するべきとされる。

税収については,市場の反応に依存するものの,年 300 ~ 350 億ユーロ(約 4 ~ 5 兆円,1 ユーロ 140 円で計算した場合)と見込まれている。

② IMF レポート

次に「金融セクターによる公平かつ実質的な貢献」と題する

G-20

にむけ

IMF

スタッフによる最終報告(2010)(以下,IMFレポート)22の内容を 概観する。なお,IMFレポートでは,金融危機のリスクを減らすこと,金 融危機のコストを金融セクターに支払わせること等を目的とし,FTTよりも

FAT

を推奨している23。FATは付加価値に対する税であるのに対し,FTT 取引高に対する税であるという点で異なっている24

21

 但し,市場価格よりも低い場合,又は 1 つのグループ内のエンティティ間で生じた取引の

場合,取引時の

arm’s lengthによって決定される市場価格に引き直される(EC提案(2013,p.11))

22 このレポートは 2009 年のピッツバーグでの

G-20

サミットにおいてリーダーらが

IMF

対して,金融セクターに公正でかつ実質的な拠出をさせうるような選択肢について,2010 年 のトロントサミットまでにレポートを用意しておくようにという要求に応じて準備されたも のである。参照:IMFレポート(2010,p.6)。

(9)

(9)

IMF

レポートによれば,FTTの一般的特徴は,幅広い取引に適用される ことにあると指摘し,例えば,提唱者によると,株式,債券及びデリバティ ブ取引に対してグローバルに 0.01%の税を課せば,年間 2000 億ドルの税収 がみこまれるとされる25

税収以外の

FTT

のメリットとデメリットについて,次の4点から評価 している26。メリットとして,①

FTT

は「無駄な」金融取引を減らす,②

FTT

は金融取引をファンダメンタルズに基づく長期投資に向かわせ,投機バ ブルを減少させる,③

FTT

は市場価格のボラティリティを減らす,④

FTT

は実物投資とヘッジを歪ませない,ことが挙げられる。

しかし,デメリットとして,①何が「無駄」であるのか(GDPに対する金 融取引の望ましい割合)は不明であること,②何が望ましくない短期取引な のかは不明であり,また特定の短期取引を減退する目的ならばより有効な方 法があること,③取引税は価格のボラティリティを減らすとは限らないこと が理論的にも実証でも認識されていること,④

FTT

は資本コストを増加させ,

さらには長期の経済成長に負の影響を与えうる,ことが指摘されている。

3.金融取引税の議論の評価

以上の議論を踏まえ,本節第 1 項では,FTTのメリットとデメリットを整 理する。第 2 項では,過去の金融取引税の経験をもつ国として,スウェーデ

23 FTTが目的を達成するための最善の方法ではないとして,次の点を挙げる(IMFレポート

(2010, pp.19-21))。第 1 に,特定の金融機関にもたらされる便益又は課そうとするコストの 尺度として,取引量は適切ではない。第 2 に,システミックリスクを生じさせるような金融 機関の規模等の重要な属性を

FTT

は対象としていないという意味で,金融の不安定性の源泉 に焦点をあてていない。第 3 に,負担のかなりの部分は金融サービスの利用者に課される。

24 FATについては補足を参照されたい。

25 IMF(2010)

, p.19, par.28.

26 IMF(2010)

, p.20(Box5)参照。

(10)

― 506 ―

(10)

ンと日本の例を簡単に確認する。

3.1.FTT の利点と欠点

以下,FTTの基本的な利点と欠点をまとめる。なお,FTTの帰着が誰に あたるかについては,取引当事者が個人か法人か,取引対象となる資産(又 は負債),FTTの設計,取引関連者間の交渉力等に依存するという指摘だけ に留めておきたい。

① FTT の利点

FTT

の利点は,主に 3 つ挙げられる:⑴ 過剰な投機を抑制し,証券価格 を本源的価値により近づけること(ひいては,金融危機までのサイクルを引 き延ばすかもしれないこと),⑵ 一定の税収が確保できること,⑶ 所得課 27を,不正確にではあるが,補完することである。

⑴まず,取引高に税を課すことで短期の投機取引を減退させることができ るとされる28。投機取引は「社会的に生産的でないだけでなく,実際に経済 の効率的機能を阻害している」29と指摘される。なお,

FTT

による死荷重は,

税率を 0.005 又は 0.01 とすればかなり小さく抑えられると指摘30されるが,

それが大きいか小さいかの判断は立場によって異なるだろう。Stiglitz(1989)

の発想をもとに,簡単にまとめると次のように説明できる。

まず,証券の本源的価値とは関係なく,短期的な価格の動きによって利

27

 EC

提案では,VAT非課税の埋め合せという目的がほのめかされていたが,この目的のた めに

FTT

は適切ではないと考えるため,ここでは取り上げない。

28 例えば,Stiglitz(1989)

, p.102

参照。そこでは

FTT

という言葉ではなく,「証券取引に対 する税」,「売上高税(turnover tax)」とされている。

29 前掲注 28, p.102。

30 前掲注 28, p.104。

(11)

(11)

益を得ることを目的とする投資家がいるとし,彼らを

“noise traders”

と呼ぶ。

“noise traders”

が短期的な価格変動に影響する情報を獲得するために時間を

使い,実際に利益を得たとする。この利益は,社会全体のパイの分割線を変 化させただけであって,パイ自体を大きくすることで得られたものではない。

そこで,FTTを課した場合,次のような変化が生じうる。まず,FTTによ り取引コストが上昇し,“noise traders”の一部が情報収集をやめ,付加価値 を生じさせる活動に従事するようになる。この分だけ,社会全体のパイは増 加する。

これに対し,そもそも

“noise traders”

は効率的な資金の流通に貢献してい る(情報収集活動にも価値がある)という見方,また仮に

“noise traders”

存在を認めたとしても,FTTが投機取引だけを捕捉するとは限らず,社会の パイを大きくしうる取引をも減退させてしまう,という批判があるだろう。

⑵ 次に,FTTによる税収である。FTTは他の税目に比べ課税ベースが大 きいため,税率を低く設定しても一定の税収を得ることができる。特に,欧 州の議論では,金融機関を含む投資家による過剰な金融取引が,金融危機を 誘発しているという前提の下,金融危機によるコストを金融機関に負担させ ること,又は将来の金融危機のために一定の資金を積み立てることが主張さ れる31

これに対し,FTTを全世界的に同時に導入しない限り,取引が他に移るた め,予想された税収の確保は難しいことも指摘される。

⑶ 最後に,金融取引に一律に税を課すために,(包括的所得概念を前提と して)所得課税に服すべきだがそれを免れる取引にも一定の負担を負わせる

31 この議論に対して,

FTT

の負担は,金融機関ではなく利用者が負うため妥当ではないこと,

及び金融機関に負担を求める目的のためには,FTTよりも

FAT

の方が適切であるという批判 がある。

(12)

― 508 ―

(12)

ことが出来る。(取消)キャピタルゲイン(又はロス)を(負の)所得と捉 える場合に,金融取引を用いて所得課税を回避することができる。本来,所 得課税の文脈で対策すべきではあるだろうが,それが著しく困難な場合には,

補完的に

FTT

を用いることも一つの選択肢かもしれない。

これに対し,本来所得税を支払うべき納税者と,FTTの負担者が一致する とは限らないという問題,所得課税の補完という目的にもかかわらず,十分 所得課税がなされている取引又は租税回避を目的としない取引も

FTT

の対 象となりうるという問題,及び,利益が生じていない取引で,かつ損失の利 用が制限されている場合に,さらに

FTT

を課すことは納税者に酷であると いう問題も考えられる。

② FTT の欠点

FTT

の欠点は,主に 3 つ挙げられる:⑴ ボラティリティを増加させうる こと,⑵ 取引コストの増加による取引量への影響,⑶ 租税回避の問題,で ある。なお,EC提案の場合にはさらに,EU法と両立しうるかという問題 も生じうるが,ここでは取り上げない。

⑴ まず,FTTがボラティリティを増加させ,価格が不安定になることが 指摘される。これは,流動性の不十分さが,価格のボラティリティを増加さ せ,不安定にするという仮定と,FTTは流動性を減少させる,という考え方 に基づくのだろう。

これに対し,そもそも価格は,流動性が十分でない時だけではなく,過剰 な流動性がある時にも不安定になるという指摘もある32。また,実証研究では,

FTT

がボラティリティを増加させることを支持するもの,ボラティリティを 減少させることを支持するもの,及びボラティリティに影響を与えないとす

32 Spahn(1995, p.14)参照。

(13)

(13)

るもの,のいずれもが存在し,決定的な結論はでていないようである。

⑵ 次に,取引コストの増加による取引量への影響である。FTTによって 取引コストが上昇するため,取引量が減少し,投資に利用できる資金供給を 減少させる可能性がある。つまり,ハードルレートとなる資本コストが増加 することによって生産的な投資に流れる資金が減少しうる。そのため,経済 成長にマイナスの影響があるという指摘もある。さらに,FTTを回避するた めに,垂直統合等によって取引が内部化される虞も存在する。

これに対し,税率を低く抑えれば,取引量を大きく減少させることはない こと,また

FTT

の設計時に,例えば支店間取引,本支店間取引を課税対象 に含めることで,内部化による回避を防ぐことができるとも考えられる。

⑶ 最後に,全世界的に

FTT

を実施するのでなければ,取引が

FTT

の課さ れていない場所へ移ってしまうことが挙げられる。よく指摘されるのが,ス ウェーデンで取引税を課した結果,取引の多くが英国に移動したことである

(後述)。仮に,EU域内で

FTT

が課された場合に,FTTがなければ

EU

で行 われていたであろう取引が,ニューヨーク,香港等に移ることが予想される。

又は

FTT

のかからない形態で金融取引が行われるようになるかもしれない。

このような事態になれば,先に挙げた利点,例えば投機の抑制は十分に達成 できないかもしれない。

これに対し,FTT回避の程度はその設計等に依存すること,また「FTT 回避するためのコスト」よりも「FTT」が小さければ,回避は生じないとい う見解もある。

3.2.取引税の経験

取引税の歴史は古く,FTT を含む取引税は多くの国で導入されてきた33 取引税の過去の経験について,Summers and Summers(1989)34,Campbell

and Froot(1994)

35,Spahn(1995)36,アジア市場につき

Hu(1998)

37,FTT

(14)

― 510 ―

(14)

につき

Masiukiewicz and Dec(2012)

38等の研究がある。

一般に,課税対象とした取引が他国に移動するという経験と,金融市場の 発展を阻害するという懸念が,1980 年代後半からの取引税廃止又は軽減の 動きにつながったとされる39。取引税の税率の引下げ,又は廃止の例として,

スペイン(1988 年),オランダ(1990 年),ドイツ(1991),米国40(1966 年),

日本(1999 年)等があげられる41。このような取引税の縮小・廃止への流れが,

金融危機以後に変化した42ことは前述の通りである。

以下では,スウェーデンと日本の例を取り上げる。ただし,この 2 つから,

FTT

導入による一般的な影響を引き出すことはできない。なぜなら,第1に,

サンプル数が十分ではないし,第2に,FTT導入時の経済状況や,国によっ てその他の規制等の条件が異なるため,FTT導入後に生じた一定の結果が,

真に

FTT

導入によるものか否かを明らかにすることはできないからである。

過去の金融取引税の例が,今後の導入にそのままあてはまるわけではないこ

33 ドイツ,フランス,イタリア,オランダ,スウェーデン,スイス,オーストリア,ベルギー,

フィンランド,英国,米国,日本等。なお,文献を相互参照すると,「取引税」を導入してい たとして挙げられている国が異なる場合がある。これは「取引税」の定義が異なる(移転税,

手数料,印紙税,売上税,登録税等も「取引税」に含む場合がある)からと考えられる。

34 Summers and Summers(1989)p.177, Table2参照。

35 Campbell and Froot(1994)

, Table6.1

参照。

36 Spahn(1995)

, Appendix

, pp.51-54

参照。

37 Hu(1998)

, pp.350-352

参照。

38 Masiukiewicz and Dec(2012)

, Table1. pp.66-67

参照。

39 Spahn(1995, p.10)参照。

40 連邦レベルで一定の証券の移転に対する印紙税(a federal stamp tax on the transfer of certain

securities)が課せられていたようである。参照,Summers&Summers(1989) , p.179.

41 Schulmeiste.et al(2008)

, Annex. TableA1,Wrobel(1996)参照。

42 「2008 年の金融危機にこれほどまで世界が驚かなければ,銀行又は金融機関にどう課税 するかについての議論はほとんどなかったであろう」という指摘もある(Masiukiewicz&Dec

(2012)

, p. 62).

(15)

(15)

とに留意しつつ,過去の事例とその評価を概観する。

①スウェーデンの場合43

スウェーデンは 1983 年に株式等の購入と売却の双方に税を課すことを公 表し,1984 年 1 月に証券の売買に対して 0.5%の証券取引税を導入した。導 入が公表された日にインデックスが 2.2%下落したとされる44。この証券取 引税は,登録されているスウェーデンの仲介サービスに直接的に課され,ブ ローカーが存在しない取引には課されなかった。その後,税率が引き上げら れ,課税範囲も拡大したが,政治状況の変化や批判から,1991 年末には完 全に廃止された。なお,導入されていた間の,GDPに占める証券取引税の 税収割合は1%にも満たなかったとされる45

スウェーデンの株式等の取引に対する課税の影響を分析した

Umlauf

(1993) によれば,理論的な基礎が欠如しているため不正確であると留保し つつも,スウェーデンの経験に基づけば,このような税はボラティリティを 増加させること,及び取引が移ることを指摘している。後者について,1986 年に 2%に税率が引き上げられたとき,スウェーデンの最も活発に取引され る株式 11 銘柄の取引量の 60%がロンドンに移ったという46。さらに,キャ ピタルゲイン税収が減少したため,その減少分によって証券取引税の税収は 完全に相殺されたという47

43 2009 年に実施された銀行課税は取り上げていない。

44 Schulmeister et.al.,(2008)

, p.21

参照。

45 前掲注

44, p.22

table4

参照。

46 Umlauf(1993)

, p.228.

スウェーデンのように近隣に大規模な金融市場があり,かつ海外の 仲介サービスを課税対象としなければ,課税対象とされた取引が移ってしまうことは明らか であろう。当時のロンドンでは

Stamp duty

として知られる証券取引税(金融商品の移転には

公的な

stamp

(印紙)によって有効となる)があったが,非居住者による取引及び外国証券取引

には適用されなかった。なお,1984年のStamp dutyの税率は1%,その2年後には0.5%であった。

47 前掲注 46, p.229.

(16)

― 512 ―

(16)

②日本の場合

日本の有価証券取引税は 1953 年から 1999 年まで導入されていた48。以下,

資産税研究会(1988)49に依拠し,有価証券取引税の概要を確認する。

有価証券取引税の納税義務者は「自己の名において有価証券を譲渡した者」

とされていた。この自己の名において,とは契約の当事者であることを意味 したとされる。課税対象となる有価証券には,国債,地方債,社債,株券,

外国法人の発行する有価証券も含まれた。「譲渡」には,売買,交換,現物 出資が含まれるが,贈与,遺贈,無償譲渡及び合併による移転は含まれない ものとされた。

課税標準は有価証券の譲渡価額とされ,課税の時期は有価証券の引き渡し の時とされた。昭和 62 年度の有価証券取引税の税率は,証券会社が行う売 買と,その他の譲渡によって異なる。証券会社が出資証券,株券等を譲渡し た場合は 0.18%,国債を譲渡した場合は 0.01%とされた。またその他の譲渡 の場合は,株式等が 0.55%,国債が 0.03%とされた。納付については,証券 会社が所有する有価証券を譲渡した場合には 1 ヶ月ごとに申告納付し,顧客

48 その他,印紙税,取引所税,有価証券移転税,取引高税も存在した。1873(明示 6 年)に 印紙税,1877 年(明治 10 年)に株式取引所税が採用され,1897 年(明治 30 年)頃に取引所 税に変わったとされる(金子(2013), pp. 41, 45 参照。)。

有価証券移転税は 1937 年(昭和 12 年)から 1950 年まで,取引高税は 1948 年(昭和 23 年)

から 1949 年まで実施された。取引高税の廃止はシャウプ勧告によって勧告された。この点,

金子(2013, p.55)は次のように指摘されている。「昭和 23 年に,国税として取引高税 ・・・ は,

各種の営業取引を対象とし,対価として領収する金額を課税標準として,1%の税率で課され る租税であり,納税は原則として印紙納付の方法によるものとされた。その性質は,累積的 多段階一般消費税であり,非課税取引を除く全取引に対し,各段階ごとに課税ずるものであ るため,税率が低くても大きな税収をあげうるものであった。しかし,この租税は,事業経 営者の間で,手続きがわずらわしいとの理由で評判が悪く,昭和 24 年の末日をもって廃止さ れた。」。なお,シャウプ博士は,この取引高税を廃止する代わりに加算型の付加価値税を考 えていたようである(石(2008), p.160 参照)。

49 資産税研究会(1988), p.429 以降参照。

(17)

(17)

が証券会社に売委託している場合には,証券会社等が顧客から徴収して納付 する。

日本での有価証券取引税の導入について,神野(1996)によれば,キャピ タルゲイン税の「代替」として導入された経緯があるとされる50。1937 年 に有価証券移転税が創設されるが,シャウプ勧告を受け,1950 年の税制改 革で廃止された。しかし,1953 年のキャピタルゲイン課税が資本蓄積を阻 害するという観点から廃止され,その代替として,有価証券取引税が創設さ れたとされる。有価証券移転税では,有価証券の買手が納税者となっていた が,有価証券取引税では譲渡人に変更された。その後,キャピタルゲインが 原則として課税されることとなり,有価証券取引税は 1999 年に廃止された。

このような「キャピタルゲイン税か,有価証券取引税か」という代替とし てみる考え方は,合理的なものではなく,そもそもキャピタルゲイン税が,

売却収入から取得原価を控除した残額の所得に課される税であるのに対し,

有価証券取引税は取引高全体に課される流通税である,と神野(1996)は指 摘する51

そうであれば,不正確ではあるが,現在の所得課税の「補完」として,

FTT

が検討される余地もありえるかもしれない。

4.金融取引税の予備的考察

これまでの議論をふまえ,ここでは 1 つの疑問を示し,予備的な考察を試 みる。その疑問は,FTTを所得課税の補完として捉えることはできないか52 というものである。

所得課税は「原則として,実現した利益のみが所得であるという考え方(実

50 神野(1996), p.7。

51 前掲注 50, p.8。

(18)

― 514 ―

(18)

現原則)を採用し」53ているため,取引があっても実現した利益がなければ(又 は適正な所得算出のために利益があるとみなすことができなければ(法人税 の場合)課税されないことになる。そのため,ある取引がなければ本来課税 されていたであろう所得について,実質的に税負担の軽減をはかることが可 能となる。このような取引の多くに,金融取引が用いられているといえる。

税負担を軽減させる方法として,利益の帰属主体の付け替え(適用税率の 変更,損失との通算等),利益の実現時期の操作,所得分類の変更が挙げら れる。例えば,適用税率の高いエンティティに損失を,適用税率の低いエン ティティに利益を帰属させる取引や,キャピタルゲインに対する課税を回避 するためにキャピタルロスを創りだす取引がある。所得税を回避する取引に 対して様々な対策がなされているが,限界がある。この点,金融取引に課税 を行う

FTT

が,こういった取引を捕捉し,また当該取引を減退する手段と して機能するかもしれない54

筆者の知る限り,FTTを所得課税の補完としてみるものは多くないが,ゼ ロであるわけでもない。例えば,Spahn(1995)では

FTT

の目的として,第 1 に,資本所得の代理(Surrogate taxation of capital income)として課税する こと,第 2 に,タックスヘイブンに流入出する資本に重い負担を課すこと,

第 3 に,金融セクターの効率を高めること(多くの資源が金融投機に徒に費

52 中里(1998)によれば,次のように指摘される。「…所得課税,消費課税,資産課税が必 ずしも十分に機能しない可能性のある取引が拡大の一途をたどっているときに,そのような 取引に対して一定程度有効に機能する(可能性のある)課税方式を,流通税という形式で補 充的に設けておくことには,たとえそのような課税が経済理論の観点からは少し問題がある としても,十分に意味があるといえよう。この点において,私は,流通税に一定程度の期待 をもっているのである。」(p.565)。

53 金子(2013 p.286)より引用。なお,「最近,未実現の利益に対する課税の範囲が拡大しつ つある」(p.286)とされている。

54 金融取引税を上回る利益がなければ,租税負担を回避する取引を行わないために,租税回 避を目的とした取引数が減少するかもしれない。

参照

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