人間の弁別学習における過剰訓練の役割
著者 杉村 健
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 15
号 1
ページ 147‑168
発行年 1967‑02‑28
その他のタイトル THE ROLE OF OVERTRAINING IN HUMAN DISCRIMINATION LEARNING
URL http://hdl.handle.net/10105/3347
人間の弁別学習における過剰訓練の役割
杉 村 (心理学教室)
健
弁別学習の機制を調べる手段として、逆転移行または非運転移行を主とした移行学習がしばし ば用いられている。これは、第1弁別学習中の出来事を第2弁別学習によって吟味しようとする もので、いわゆる転移(transfer)の実験計画と同じであるo 図1に例示したように、逆転移行 (reversal shift)とは、たとえば赤が正刺激で黄が負刺激(以下では赤(十)、黄(‑)と書く)と いう弁別問題から、赤(‑)、黄(+)というように、色という同じ次元(dimension)において正 負の刺激が変化するような移行であり、また非運転移fj (nonreversal shift)とは、赤(+)、黄 (‑)の弁別から円(十)、四角(‑)というように、色の次元から形の次元へと正負の刺激が変化す
るような移行である。このような逆転移行と 非運転移行の優劣の比較が、どのような実験 的・理論的意味をもつものであるかを簡単に 考察しておこう。杉村(1962a)が1961年頃 までの諸研究について検討した結果では、 2 つの移行型の優劣と系統発生的叉は個体発生 的な水準との問に交互作用があるということ が示唆された。その後、この問題について最
も貢献したのはKendlerとその共同研究者た ちであった 1962年に Kendler & Kendler が発表した論文は、 Kendler & D'Amato (1955)の研究で芽生え、その後実験を重ねな がら発展させてきた媒介的S‑R説(mediatio‑
nal S‑R theory)を確立したものであったo 彼らは動物(主としてネズミ)および3才頃
までの幼児では非運転移行の方が容易であるが、
④耳
回④
二 幸
図1逆転移行と非逆転移行の例
回⑤
4‑6才頃の幼児では両移行の早さに差がな く、それ以後成人に至るまでは逆転移行の方が有利であるという従来の資料を綜合してみると、
弁別学習の機制が発生または発達の水準によって異なるのではないかと考えた。すなわち、動物 の弁別学習における行動は外的な刺激と外的な反応が直接結合する1単位のS‑R説(single unit S‑R theory)によって説明できるが、成人の行動は外的な刺激と反応の間に媒介過程(mediating process)の存在を仮定する媒介的S‑R説に合致するものであると主張したoそして、 4‑6才頃
を境界にしてそれ以後の発達水準において媒介過程が形成されると考えたのである。図1に示し た逆転移行と非運転移行を、 Kendler & Kendler (1962)の図4に従って、 1単位のS‑R説と媒 介的なS‑R説によって分析すると図2のようになる。 1単位説によれば、逆転移行においては原 学習のときの正刺激に対する反応を消去して、移行学習の正刺激に対する反応が優勢になるため
には、かなりの訓練を必要とするので非逆転移行よりも逆転移行が困難になる。これに対して媒
1単位説(SingLe unit theory)
非逆転移行
S案二く二
媒介説(medio‑ono白heory)
非逆転移行 Id*:.1‑!i
,R: SくrrI
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/R円 S‑\‑ R
図2 1単位S‑R説と媒介的S‑R説による逆転移行と非道転移行の分析
介説によると、逆転移行では同じ媒介反応(色)が利用できるので単に外的反応のみを変化すれ ばよいが、非運転移行では新しい媒介反応(形)を形成し、その上に新しい外的反応(円か四角) を選択しなくてはならないから、非運転移行よりも運転移行が容易になると説明するのである。
媒介説で逆転移行が有利であることを説明する上のようなやり方は、新たに形成される連合の数 (逆転移行では1個、非運転移行では2個)を考慮したものであるが、 Kendlerたちも述べてい るように、もう1つの説明の仕方として媒介反応の方が外的反応よりも消去が困難であると考え ることもできよう。この何れが妥当であるかという問題や媒介反応の形成過程に関する問題など が、過剰訓練の効果と関連して考察されるべきであろうO
なおここで、最近の逆転、非逆転移行に関する研究を列挙しておく。まずKendlerたちのも のとして、年令のちがいを調べたKendler, Kendler, & Learnard (1962)、非強化試行の影響 をみたKendler & Woerner (1964)および言語化の効果を検討したKendler (1964)がある。
Harrow (1964)およびHarrow & Buchwald (1962)はカ‑ド分類における刺激と反応の特性を 分析して、次元に対する選択的注意(selective attention)による説明を試み、 Tighe (1965)は 移行に影響する要因として知覚的な先行訓練の重要性を説いた Youmss (1964)は年令とろう 児について、 Milgram & Furth(1964)は位置弁別と視覚弁別についての比較を試み、 O'Connell (1965)は言語化と部分強化を操作した。年令については、わが国でも渡辺(1963a, 1964)、藤 島(1964)および小橋川(1965)が研究しているが、その結果は必ずしもKendlerたちの考え に‑致せず、また小橋川は媒介説を検証するやり方として年令のみを操作することに批判的であ る。さらに、 Isaacs & Duncan 、1962)とJeffrey (1965)はそれぞれ立場は異なるがKendler
の媒介説に反対する考えを主張し、 Lachman & Sanders (1963)は意味論的な立場から媒介に ついて論じている。なお、逆転、非逆転移行に関する研究を思考の発達という立場から評論した ものとして、渡辺(1963b)と飯島・遠ill (1965)があり、上記の文献のいくつかを詳細に述べ ている。
さて従来は、先行弁別学習がその学習基準に達したときの、叉はそれに達しない段階における 移行学習に関する研究が多く、いわゆる連続・非連続の論争(たとえば、 Blum & Blum, 1949) や上述の逆転、非運転移行の比較に関する実験が行なわれてきた。ところが1953年に、 Reidが 先行弁別問題を過剰訓練してから逆転移行を行なって興味ある結果を発見して以後、今日に至る まで過剰訓練の効果に関する問題が研究者の関心を集めている Reid (1953)は動物にY迷路の 白黒弁別を学習させ、先行学習が10回申9回強化の基準と、それに達してから50回および150回 の強化を与える3群を作ったところ、過剰訓練が多くなされた郡ほど逆転学習が早いことを見出 したO この結果は、 (a)習慣強度は強化数にともない単調に増加すろ、 (b)習慣強度が大きいほど 消去抵抗も大きい、そして(C)逆転学習は古い習慣の消去とその反対の習慣の学習という事がら にすぎない、ということを仮定している従来のS‑R強化説の立場(Lovejoy, 1966)からは、ま ったく予想もできないものであった。そこで、過剰訓練の促進効果を説明するためには、 3つの 仮定のうちのどれかを改めなくてはならないし、また、いかに改めるかということが、後に述べ
る理論的な問題にも関係してくるのである。
ところで、 Reidの研究が発表lされてから現在まで、主として動物を用いた実験が行なわれて 理論的な論争も活発であり、それらを総括したいくつかの評論が発表されてきた。まず、小牧 (1962)は人間を用いた研究をも含めて、逆転移行と非運転移行のそれぞれについて従来の資料 を詳細に吟味した。そして過剰訓練の促進効果に関する諸理論をまとめ、最後に、 Harlow(1959) の誤り因子説(error factor theory)の立場から、彼自身の̀̀反応のしかた" (response set)読 を提唱している。同じ年にMandler (1962)は、弁別学習における過剰訓練の促進効果に関する 動物実験と、対連合学習のA‑B、 A‑C型でA‑Bの過剰訓練がA‑C学習を促進するという資料をっ
き合わせて、連合的なものを過剰学習すると認知的な構造(structure)が形成され、それが後の 学習を促進するのだと主張した。
1965年には3名の研究者がつづいて評論を発表した。まず、 Sperling (1965a)は逆転学習にお いては消去と報酬量とが重要な因子であるという立場から従来の研究をまとめた。これに対して Paul (1965)は、資料を吟味してみると空間弁別よりも視覚弁別において過剰訓練の促進効果が 得られやすいが、いろいろの変数がその効果の有無に関係していて現在のところ決定的な変数は 見出されていないと論じ、結局、逆転学習は(a)もとの正刺激への接近反応の消去と(b)新しい正 刺激‑の接近反応の獲得という2両からなっており、過剰訓練がこれらの面にどのような効果を もつかを分析しなくてはならないと考えている。これにつづいてSperling (1965b)は、消去の 立場から補足的な論文を発表した。同じ年にMackintosh (1965)は、弁別学習においては刺激 次元に対する選択的注意(selective attention)が重要な役割を演じているという立場から、過剰
訓練の問題も含めたぼう大な実験を統合した。彼自身はこれまで過剰訓練の問題をかなり意欲 的に研究してきており、この評論においては、注意理論(attention theory)が他の理論、たと えば観察反応説(observing response theory; Wyckoff, 1952)や媒介反応説(mediating resp‑
onse theory; Kendler & Kendler, 1962)にくらべて、より予言力と説明力があると結論して いる Lovejoy (1966)もMackintosh と同様に弁別学習の理論における1つの変数として注意
の概念を導入した。彼はこれまでの諸研究を調べた結果、明暗弁別のときには過剰訓練の促進効 果があるが、位置弁別のときにはそれがないという点に着目し、 Sutherland (1959)やZeaman
& House (1963)の考え方にもとずいて数学的なモデルを作った。そして、注意という概念を考 慮すると従来の諸研究が数学的なモデルによってうまく統合できるので、その概念が弁別学習の 理論にとって有用であると結論した。
以前に杉村(1962a)も、移行学習に関する文献を紹介し、その中で先行訓練量の効果をみた 人間および動物を用いた実験を考察した。その結果、過剰訓練の促進効果を説明する仮説は、 (a) 学習者が過剰訓練中に新しい反応叉は構えを獲得するという点を重視する獲得説と、 (b)先行学 習における反応の制止叉は消去に重点をおく消去説に一応分けられると結論した。しかし、その 後今日に至るまで過剰訓練の効果に関する実験的・理論的研究が非常に多く、また人間を用いた 実験も多くなされるようになってきた。そこで本研究においては、まず人間を用いた過剰訓練の 実験を詳細に吟味し、そしてそれらの実験結果を説明する理論を述べ、最後に今後の問題点につ いて考察することにした。
資料 と そ の 吟味
弁別学習における過剰訓練の効果を規定する要因はいくつも考えられるが、本研究においては 逆転移行と非運転移行を主とする移行型に関する実験を中心にして、 2つの弁別問題の間の時間 間隔すなわち遅延の問題、そして知能、精神薄弱および年令などの個体の側の変数などについて 検討した。
移行型 先に述べたKendler & Kendler (1962)の理論とも関係して、移行型と過剰訓練の 関係を扱った研究が非常に多い。まず、 Marsh (1964)は3、 4才児48名を用いて次の仮説を検証
した(a) Kendlerたち(1960)の結果から先行学習が基準までのときは非運転移行の方が容易 である(b)過剰訓練の促進効果がReid (1953)の弁別する反応(.response of discriminating) というような一般的な練習効果ではなく、 Mackintosh (1962)がネズミの実験で示したように、
先行学習における適切な次元(relevant dimension)に対する媒介反応の形成に帰せられるなら ば、過剰訓練は逆転移行を促進し非運転移行を妨害する。課題は2つのコップをふせて畳示し、
その一方を正刺激ときめそれに強化としてのおはじきを入れて当てさせるものであり、大きさ弁 別においては大小2個の明緑色のコップが用いられ、白黒弁別においては中ぐらいの大きさの白 と黒の2つのコップが用いられた。そして、大きさ弁別を先にしたときには、それと同じ刺激を 用いての逆転移行と大きさから白黒への非運転移行が作られ、同様に白黒弁別を先にしたときに も運転と非逆転が作られた。学習基準は先行学習、移行学習ともに10回申8回正反応であり、先 行学習の過剰訓練群にはそれにさらに10試行の訓練がつけ加えられた。表1に示した結果の統計
的検定によると、 2つの変数間の交互作用のみが有意であり、それは運転移行における過剰訓練 の促進効果と、基準群における非運転移行の有利なことによるもので、最初の仮説を支持したと いう。この促進効果に関してMarshは、 3、 4才では正刺激の言語化が媒介的役割をもたないと いう証拠があるので(Reese, 1962)、過剰訓練によって形成されたと考えられる媒介物(medi‑
ator)は、内的な言語による名前づけ(labeling)のようなもの(Kendler & Kendler, 1962の立 場に近い)ではなくて、むしろMackintosh (1962)の注意に相当するような、知覚的なもので はないかと考えた。そして、このような知覚的反応は言語的な媒介の前に発達する可能性がある
表1 Marsh (1964)の結果;転移得点 と述べている。
(負の値は移行がのろいことを示す) 先行学習の程度 基準(8/10) +10試行 逆転移行
非逆転移行
‑5.17 +0.67
+0.09
‑0.25
さて、この研究のモデルは逆転移行、非運転移行と過 剰訓練の関係について非常に明確な結果を出したMac‑
kintosh (1962)のネズミによる実験であった。 (もっ ともそれ以前にも、佐々木、 1960; Brookshireら1961;
小牧、 1961、なども移行型と過剰訓練の関係を調べてい る)参考のためにMackintoshの結果をみると、逆転移 行における基準までの試行数は、先行学習が20試行中18回正反応の基準群、 + 75試行群、十150 試行群の順に、 124.75、 89.5、 78.25であり、非逆転移行では同じ順に84.25、 105.0、 140.0とな
り、両移行ともに訓練量の有意な効果が示された。しかしMarshの結果は、逆転移行における 促進効果のみが有意であって非逆転移行での妨害効果はほとんどみられないので、先の仮説(b) は半分しか支持されないことになる。もし、特殊な次元(たとえば大きさ)への注意ないし知覚 的媒介反応が過剰訓練によってますます強固になるならば、それを消去するのにかなりの時間を 必要とするので、異なる準元への移行が要求される非運転移行がおそくなるはずである Marsh 自身は非運転移行における妨害効果が得られなかったことについて何も論じていないが、筆者の 考えでは、それは用いた弁別問題の特質によるものと思える。すなわち、先行学習が大きさであ れ白黒であれ、非運転移行においては先行学習のときに適切であった次元(大きさ又は白黒)が 全く存在しない叉は中性化されているので、その次元に対して形成された媒介物がその強度とは 無関係に移行後直ちに消失してしまうと考えられる。それ故、過剰訓練が非逆転移行を妨害しな かったのであろう。さらに弁別問題についての短所を指摘すれば、逆転移行は2つの弁別問題に おいて全く同じ刺激を使用しているので問題場面叉は強化型の変化が明瞭でなく、被験者が気づ きにくいが、非運転移行では全くちがう刺激を用いているので、両学習の区別がきわめて明瞭で あり、気づかれやすいであろう。このような相異が基準群における両移行の差に関係しているか もしれないO そこでもし、純粋に移行型の効果のみを問題にしようとするならば、このような弁
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̲喜 i一 図3 Youniss & Furth (1965)の弁別問題
別刺激の変化又は新奇性(novelty)を一定 に保たなくてはならないであろうO最後 に、 10試行中8回正反応という学習基準が はたして妥当であるかどうかという点につ いて考えてみる。たとえば、 ○を正反応、
×を誤反応とすれば、一番厳格な場合は×
×〇〇〇〇〇〇〇〇で10回申8回正反応に 達し、これは8回連続正反応ということに なるが、たとえば、 ○○×〇〇〇×〇〇〇 や〇〇〇〇× ×〇〇〇〇のような場合でも 学習基準に達したことになる。特に被験者 が幼児であるだけにこのような基準ではや や不充分ではないかと考えられる。
Youniss & Fun山(1965)は動物実験の 結果(Brookshireら1961; Mackintosh,' 1962)と彼ら自身のもの(後にのべるFurth & Youniss, 1964)から、過剰訓練は逆転移行の
みを促進すると考え、小学1年生94名を用いて実験を行なった。弁別問題は2つの積木のうちの 一方の下に正答の目印を入れてそれを当てさせるものであり、その刺激はたとえば図3に示すよ うなものであった。先行弁別の学習は10回申9匝1正答に達するまでか、それに+15試行叉は+25 試行かの3つであり、移行学習は10回申9回正答までか50試行まで行なった。その結果、移行学 習の基準に達するまでの試行数Wx+0.5変換)は表2のようになり、移行型と訓練量の有意 な交互作用かえられ、十15試行と+25試行のときに逆転移行が有意に早いことがわかった。また 表2 Youniss & Furth (1965)の結果:基準までの
試行数C/x +0.5変換による) 先行学習の程度 10中9回正答 +15試行 +25試行 逆転陣'It
非逆転移行
2.865 1.560 2.190 2.495
1.650 2.430
逆転移行における誤反応は過剰訓練の後で最 初の数試行の間に著しく減少することが示さ れた。そこで彼らは、過剰訓練によって次元に 特殊な媒介物(dimension‑specific mediator) が強く確立され、それが逆転移行における新 しい反応の形成に役立つが、基準まで学習し ただけでは媒介物が弱いのであまり役立た ないと考え、 House& Zeaman (1962)や Kendler & Kendier (1962)の立場に類似している弁別学習の媒介反応モデルを支持した。つま り、適切な次元に対する媒介反応が個々の外的な選択反応の訓練中に形成され、強固になると考 えるのである。また、過剰訓練により誤反応が急激に減少することから、過剰訓練が強化型の変 化に気づかせ、古い反応の消去を早めると考え、過剰訓練の促進効果は上に述べた次元に特殊な 反応と強化の変化に気づきやすいことの2要因によるものと主張した。なお、先のMarsh (19 64)のところで問題になったが、非運転移行に過剰訓練の効果がみられなかったことについて は、次元に特殊な媒介物による妨害効果と強化の変化に気づきやすいことからくる促進効果とが 相殺されたためだと述べているO
次にこの実験について考察してみよう。まず、用いられた弁別問題についてみると、非逆転移 行における部分強化の影響を除くために、先行学習における適切な次元の刺激を移行学習のとき に変化させている。たとえば図3において、赤と青が黄と緑に変わっているO ここで部分強化と いうのは、図3においてもし同じ色を移行学習にも用いたならば、すなわち赤の円と三角および 青の円と三角を用いたならば、円が正刺激になったときに赤が正刺激だと思って反応していて
も、偶発的に50<&の部分強化(赤の円に対する強化)を受けることになる現象を名づけたもので ある。そこで図3のように色をかえたならば、赤そのものについての部分強化は全く生じないで あろう。しかしながら、過剰訓練によってたとえば色という次元に特殊な媒介物が確立されると 考えるならば、移行後にたとえば黄という色に着目して反応すれば、やはり黄の円においても強 化されるので部分強化が生じることになろう。それ故に、このような弁別問題を用い、そして媒 介過程による部分強化を考慮に入れると、いわゆる部分強化の影響を除去することは不可能のよ
うに思える。図3において、非運転移行で色を入れかえたのでそれに応じて逆転移行でも形を入 れかえたことは、先に述べた刺激の変化度を統制したことになって妥当な措置と思えるが、この 場合、以前に適切な次元(色)における刺激が変化した場合(非違転移行)とそうでない場合
(逆転移行)とで、何らかのちがいが生じないだろうか。そこでこれまでの例にもとずき2次元 (色と形)の弁別問題を用いて、あらゆる可能な移行の仕方を考えたのが図4である。ただし、
移行学習において先行学習にない次元(たとえば数や大きさなど)は用いないことにする。
この園において、 ①から④までは同じ次元内での移行、すなわち次元内移行(intradimensional
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三 ̲̲主̲i
① 十 ②
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A④ Aci)
」 ⑦ 十 ⑧
04 2次元の弁別問題における種々な移行型
shift)であり、 ⑤から⑧までは異な る次元への移行、すなわち次元外移 行(extradimensional shift)と呼ば れるものである。そこで、 Youniss
& Furth の図3における逆転移行 は図4の⑧に相当し、非運転移行は
⑥と同様なものである。しかし、刺 激事態は全く同じであってただ正刺 激叉は適切な次元のみを変化するこ とが、純粋な意味での逆転、非運転 移行と考えるならば、 (カが逆転、 ⑤ が非運転移行ということになろう。
Kendler & D′Amato (1955)以来、
主として媒介説を主張する人たちは 部分強化の影響を除くことに努力し てきたが(たとえば、 Harrow&
Friedman, 1958)、たとえば⑥にし たところで内的な反応に対する部分 強化が残ることは先にも述べたとお りである。しかしそうかといって、
非運転移行において以前とは全く異 なる刺激次元を用いることも、刺激 の変化という点で逆転移行とつり合 わなくなる。結局、移行型のちがいをより完全に吟味するつもりならば、図4のような8個の移 行型についてそれぞれ過剰訓練の効果をみなくてはならないであろう。勿論、逆転、非逆転とい
うものにこだわらず、もっと広い意味での移行あるいは転移というものを研究する場合には、第 2学習の材料として全く次元のちがう弁別問題を用いてもいいし、異なる範ちゅうに属する問題 を用いてもかまわないと思う。さて、表2にもどってみよう。過剰訓練によって次元に特殊な媒 介物が形成され、強められるとすれば、十15試行群よりも+25試行群において逆転移行がより早 くなるはずであるが、標本値ではむしろ逆になっている。その理由の1つは弁別問題がやさしす ぎたためだと考えられるQ すなわち、学習基準までの試行数がノⅩ十0.5変換して1.6前後である ということは、これを開平してみるとほぼ2.0ぐらいになる。偶発的な誤反応も予想されるの で、それ以上の早さ(2.0以下)でもって移行学習が完成するのは困難のように思える。もう1 つは、理論的な問題としてSIR説と認知説を対立的に扱ったときに、表2の結果はむしろ認知説 に一致するようであるO すなわち、 S‑R説の立場をとるならば、媒介過程は外的な刺激と反応の 学習過程と同じような経過をへて形成されると考えられるので、強化試行がますにつれて媒介反 応は強固になり、従って+25試行群の方が当然有利にならなくてはならない.一方、認知説の立 場をとるならば、媒介物の形成にある程度の強化試行は必要であるとしても、いったんそれが形 成されてしまえば、その後の強化試行によってあまり強められないと考えられる。このような区 別が正しいとすれば、表2の結果は後者の立場に一致する。
Furth & Youniss (1964)は3色、 3形がそれぞれ異なる9枚の刺激カードを1枚ずつ呈示 し、それぞれに1、 2、 3の何れかの数で反応させ、 =正しい''、 =まちがい''と言うことにより強
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化した。図5に示したように、先行 学習は青‑1、黄‑2、黒‑3という 連合の学習であり、逆転移行は背一 2、黄‑3、黒‑1 (図4の①に類似)、
次元外移行では外的反応に対する部 分強化を除くために3枚のカードを 除外して四角‑1、円‑2、三角‑3 とし,また次元内移行では先行学習 とは色、形ともに異なるカードが用 いられた(図4の⑧に類似)。被験 者は小学2、 3年生96名で、 6回連続 正反応までの基準群と、それに18回 正反応試行を加えた過剰訓練群が作 られた。その結果、移行学習の基準 (6回連続正答)までの試行数は、
基準群では逆転、次元内、次元外移 行の頃に6.8、 4.3、 6.5であり、過剰 訓練群では同じ順に4.9、 3.8、 6.5と なり、また逆転移行における過剰訓 練群は強化の変化をより早く認知す ることがわかった。これらの解釈に さいしては前と同様に次元に特殊な
3
図5 Furth & Youniss (1964)の弁別問題 媒介物の作用を仮定し、次元内移 行がもっともよいのは先行学習におけるS‑R結合による妨害がないからであり、また次元外移行 で過剰訓練の影響がないのは強化の変化の弁別Lやすさが媒介物による妨害効果を相殺したのだ と説明した。さてこの実験で、次元外移行における刺激の変化があまり目立たない点はよいが、
上述した媒介反応に対する部分強化を認めるならば、やはりそれを除外することはできないとい わざるをえない。先のMarsh (1964)やYouniss & Furth (1965)も含めて、従来使用されて きたほとんどの弁別問題は2つの選択肢をもつ同時弁別であるのに対して、この実験のやり方は いわば継時弁別であるが、このような手続上の問題も検討してみなくてはならない。次に解釈上 の問題点として、基準群において次元内移行がよいのは既に何らかの程度の媒介物が形成されて いたためだと説明されたが、もしそうなら、次元外移行においてはそれを消去しなくてはならな いので、又は逆転移行ではそれ(媒介物)が利用できるので、次元外移行の成績が悪くなるはず である。何れにしても、媒介過程がいつ形成されるかということと、それの利用叉は転移がどう なのかということを問題にしなくてはならないであろう。
鈴木(1961)は4‑6才の幼稚園児と色と大きさの2次元の弁別問題を用い、先行学習を連続 3回、 5回正答、 11回申10匝主正答、およびそれに5試行を加える4水準に変化させたが、逆転、
非逆転の移行型のみが有意であって、訓練量と移行型との交互作用は認められなかったC つま
り、訓練量のいかんにかかわらず逆転移行の方が容易であった.また移行後の第1試行の分析か ら、先行学習における適切な次元の属性(色や大きさ)を抽象する程度が、訓練量の増加にとも なって高くなることが示された。 Tighe & Tighe (1965)は6才児に2次元の弁別問題を与えた ところ、 30回の過剰訓練をしたあとでは逆転移行が次元外移行よりも早いが、基準までの場合に は2つの移行の早さに差がないことを見出した。なお、 Tigheたちは系統発生的な比較を意図 して動物実験もしているので、それらも含めて動物を用いた最近の研究を簡単に紹介しておきた HI
まず、サルを用いたTighe (1964)の研究では先に述べたMackir〕tosh (1962)とは異なっ て、過剰訓練の有無にかかわらず逆転移行が次元外移行よりも困難であるという結果が示され た。両者のちがいについては手続き、特に弁別問題の知覚的特性の要因を重視し、結果を一般化 するためにはそれに関する組織的な研究が必要だと述べている。また彼は、成人では逆転移行が よく幼児(6才児)においても過剰訓練すると運転移行がよくなるが、動物では過剰訓練をして もなお非運転移行の方が有利であることから、弁別移行問題の解決の仕方には人間と動物の問に 根本的なちがいがあると主張した。さらに彼ら(Tighe, Brown, & YoungF, 1965)は、ネズ ミを用いたときにも200試行の過剰訓練を与えたのにもかかわらずその効果がなく、基準群、過 剰訓練群ともに次元外移行の方が早いことを確かめている。次にMackintosh (1964)は移行学 習における2つの問題に全く同一の刺激を用いて、過剰訓練の有無にかかわらず次元内移行が容 易であり、過剰訓練によって次元外移行が著しく妨害されることを見出し、これを適切な次元の 孤立化叉は選択ということで説明した。また、 Mackintosh & Mackintosh (1964)はタコの非 違転移行も過剰訓練によって妨害されることを示し、上と同様に適切な次元の発見を強調したo Uhl (1964)はSkinner箱のoperant行動において過剰訓練の効果を認めず、常に非運転移行 がやさしいことを示し、主として手続きの問題としてMackintosh (1962)とのちがいを論じ た Shepp & Eimas (1964)は先行学習と同じ刺激がない、つまり外的反応の転移が考えられ ない次元内移行(図4の④にあたる)と次元外移行(図4の⑧にあたる)においても、過剰訓練 によって次元内移行が早くなるということを確かめたO そして過剰訓練中に強化された観察反応 (Wyckoff, 1952; Zeaman & House, 1963)が移行弁別に転移するからだと考え、弁別学習に おける媒介的なモデルを支持した。以上のように過剰訓練の効果に関しては一定の結論がでてい ないが、このように異なる結果が発見されるが故に理論的論争がなされ、理論が発展するのだと もいえる。しかしその反面、実験上の細かいちがいを抽象してしまって逆転移行とか非運転移行 とか名付け、その抽象的に名づけられたものによって理論的な問題を論じようとするところに、
事象の抽象化にともなう危険をはらんでいるのではなかろうか。
これまでは幼児や児童を用いた実験を紹介してきたが、次に大学生による研究をみてみよう。
Ludvigson & Caul (1964)は2っの分類カテゴリ‑と4つの分類カテゴリーのカ‑ド分類作業 を用い、逆転、非運転移行におよぼす過剰訓練の効果を検討した。被験者は80名で2枚叉は4枚 の刺激カードに対して反応カードを分類させ、実験者が"正しい''、 "まちがい"の情報を与える
ことによって学習させたO先a分類の基準は連続10回正反応とそれに48試行の過剰訓練を加える 2っであったO その結果、カテゴリーが2のときの非運転移行を除き、カテゴリ‑が2のときの 逆転移行、カテゴリーが4のときの逆転および非運転移行において過剰訓練による有意な促進効 果が認められ、また逆転、非逆転をこみにしたときにはカテゴリ‑2、 4ともに促進効果が有意で
あった。つづいて彼ら(Caul & Ludvigson, 1964)は、人数をふやしてカテゴij‑2における
非道転移行でも過剰訓練による促進が生じることを確かめた。彼らはKendler流の媒介反応説 をいかにして過剰訓練の促進効果の説明に対して拡大するかが問題であると考えた。そして、
(a)過剰訓練が先行学習の正刺激に対する外的反応(R)の消去を促進するのか、 (b)Rのみならず 媒介反応(I)の消去をも早めるのかどうかという点から資料を吟味したが、結局、消去の早さの ちがいということだけではうまく説明できないと論じた。このように、もともと逆転移行と非運 転移行の比較に対して提出された媒介的S‑R説(Kendler & Kendler, 1962)を、かなり慎重な 態度で過剰訓練効果の説明に適用しようと試みているのは好ましいことであろう。また、先に述 べた幼児や児童についての結果がいずれも過剰訓練によって逆転移行のみが促進されるというも のであったのに対して、成人の場合には、カード分類作業ではあるが、非運転移行も促進された という点は興味深いことである。
最後に岩原と杉村が行なった一連の実験を紹介する。まず岩原と杉村(1958)は4、 5才の保育 園児を用い、同じ大きさの赤と白の2つの箱の何れに正答の目印が入っているかを当てさせる弁 別問題により、色に関係なく左右の何れか一方の位置を正答とする位置弁別を、それぞれ連続5 回、 10回、 15回、 20回、 30回正答まで学習させてから、同じ箱で赤か白の一方のみを正刺激とす る色弁別に移行した。移行学習において連続10回正答に逮するまでの試行数は表3に示したとお りであり、連続10回正答のところを頂点にしてそれ以後はやさしくなる傾向があるが有意差はえ られなかった。そこで小学2、 3年生を用いて位置弁別が連続5回正答の基準とそれに達してから 5回、 15回、 35回の過剰訓練をさせたあとで色学習をさせた。その結果は表3の下の行に示した ように、 18.20と31.48および3】.48と23.67の間に有意差があったO つまり、このような非違転移行 においても過剰訓練の促進効果が存在するということである。次の実敬(杉村・岩原, 1959)では 15‑19才の少年を用い、形(正方形と長方形)と色(黄と緑)の2次元からなる弁別問題を使っ た。形弁別を0回、連続3回、 5回、 10回正答、 10回十20回および10回十40回訓練したあとで、
色弁別に移行したところ、その基準までの試行数は表4の4行目に示したように、連続5回正答 群から過剰訓練がすすむにつれてやさしくなった。ここでも非違転移行(この実験は図4の⑤に 相当する)で過剰訓練の促進効果がみとめられた。これと同じ弁別問題を用いて形弁別における
表3 岩原・杉村(1958)の結果:非逆転移行での試行数 先行位置学習の基準 101t‑20
(5+5)I&(5+15)
40 (5+351
4, 5 才 児 7,8 才 児
16.91 22.56 37.32 36.64 30.95
18.20 31.48 27.73
表4 岩原・杉村の結果: 15‑19才の少年、移行(色)学習の試行数 先行形学習の基準
10
28.48
23.67
30 50 (10+20) (10+40)
逆転移行(1960a) 非道転移行(1959)
非逆転移行(a)
// (b) // (C)
1.5 13.5 15.5 21.0 12.0 1.0 1.5 ll.7 ‑ 19.3 24.8 ‑ 23.2 25.2 30.7 24.1 18.4 13.0 6.6 13.6 9.3 ‑ 5.6
0 7
‑ i c o i n o o
f
‑
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c
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i
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t
‑
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蝣
*
#
l 1
8.2
逆転移行を調べた研究(Iwahara & Sugimura, 1960a)の結果は、表4の3行目の如く連続3 回正答の基準以後急激にやさしくなっている。さらに杉村(1960)は、上述の形と色の2次元から なる弁別問題で形学習をそれぞれの水準まで学習させてから色弁別に移行した。そのさい、形弁別 のときとは(a)形が同じで色がちがう場合(図4とは適切な次元が異なっているが⑦と同じこと になる)、 (b)色が同じで形がちがう場合(図4の⑥)、および(C)色も形もちがう場合(図4の
⑧)の3つの条件を作った。その結果は表4に非運転移行(a)、 (b)、 (C)として示してある。
(a)では5回連続のところが一番むずかしくその後過剰訓練の促進効果があるが、 (b)と(C)では 先行訓練量によるちがいがあまりなく、ともに(a)よりははるかにやさしかった。さて、表4を 全体としてみるとき、まず気づくことは同じ次元外(叉は非逆転)移行といわれるものであって も刺激条件で全くちがった結果が生じることであり、次に次元外移行においても刺激条件により 明白な過剰訓練の促進効果が生じることである。後者の証拠は先に述べたLudvigsonたちの成 人の結果(Ludvigson & Caul, 1964;Caul & Ludvigson, 1964)と一致するものである。こ れに対して逆転移行では、 3回から7回にかけて急激にやさしくなりその後ほとんど変化してい ない。もし、いわゆる学習基準としてたまたま7回正反応を採用し、それ以前の資料がなくてそ れ以後のみを過剰訓練としたならば、逆転移行においては促進効果が全く認められないことにな ろう。小牧(1962)も指摘しているように、過剰訓練量や学習基準のきめ方が問題であり、それ によって結果が左右されることも考えられる。たとえば、 10回連続正答とか10回申9回正答とか あるいは20回申18回正答とか便宜的にきめているし、過剰訓練量にしても十10回とか48回とかあ るいは150回とか適当につけ加えているにすぎない。この点についてもっと組織的に研究する必 要がある。なお、岩原と杉村は過剰訓練の促進効果を説明するのに弁別する構えという概念を用 いたが、外的なSIR結合の形成以外に何らかの媒介的な過程を考えるという点では、他の多くの 研究者たちと一致するものであった0
時間間隔(遅延) ここでは移行学習に及ぼす過剰訓練と2つの弁別学習の間の時間間宿(遅 延)の交互作用を扱った実験を吟味し、過剰訓練の役割がいかなるものであるかを考察する。
Stevenson & Weir (1959)は赤、青、黄の3色と左、庫、右の位置との組合わせを学習させる 弁別問題において、先行学習が連続6回正答までとそれに達してから36試行および72試行の過剰 訓練を加える計3群を作り、それぞれについて直後と24時間後とに位置の次元での移行を行なっ た。その結果、訓練室の効果およびそれと遅延との交互作用は認められず、ただ訓練量とは無関 係に24時間後の移行が容易であることが示された。最後の結果は従来の研究(たとえば、Bunch, 1939; Murofushi, 1957)と一致するが、直後移行においてさえも過剰訓練による促進効果がな かったことは、彼ら自身の結果(Stevenson & Moushegian, 1956; Capaldi & Stevenson, 1957)と矛盾する。これについて彼らは、被験者が過剰訓練中もずっと高い動機づけの状態にあっ たことによるのではないかと考えた。そこで杉村(1965)は各試行で与える報酬量を操作するこ とによってその考えを検証した。それによると、円と四角からなる1次元の弁別問題を10回過剰 訓練したときは報酬の多い幼児はど逆転学習が遅く、これはStevensonたちの考えに一致する ものであったが、 30回の過剰訓練のときは報酬量と逆転学習の早さの問には一定の関係が見出せ なかった。
Youniss & Furth (1964a)は従来の動物実験においては視覚弁別では過剰訓練と遅延の効果 があるが(D′Amato & Jagoda, 1961)、位置弁別ではそれらが見出されないこと(D′Amato &
Jagoda, 1962)、および上述のStevenson & Weir (1959)の位置弁別では過剰訓練の効果がな
かったことなどから、位置反応のかわりに数字で反応させたならば、過剰訓練の効果が発見でき るのではないかと考えたO 彼らは小学2、 3年生(7‑9才児) 96名を用い、青、黄、黒のカード を1枚ずつ見せ、それに対して1、 2、あるいは3の数字が書いてある積木を取上げることによっ て答えさせた。 "はい"とりいいえ''でもって強化することにより、青‑1、真一2、黒‑3の組 合わせを連続6回正反応までとそれに18試行の過剰訓練を行ない、それぞれについて直後と24時 間後に、青‑2、黄‑3、黒‑1とする逆転移行と、赤‑1、銀‑2、線‑3の組合わせによる移行 (これを統制群とよんでいる)を学習させた。その結果、最初の36試行中の誤答は表5のように なり、逆転移行においてのみ時間間隔の効果と2つの変数間の交互作用が認められた。すなわ ち、直後の逆転においては過剰訓練の促進効果があるが, 24時間後では訓練室による差がなかっ た.この結果は弁別仮説(Capaldi & Stevenson, 1957)と忘却(反応強度の減少)とによって 次のように説明された。まず、直後移行において過剰訓練によって誤答が急激にへるのは強化 の変化がより明瞭に弁別されたからであり、また、 24時間後の基準群で特に誤答が少ないこと 表5 Youniss & Furth(1964a)の結果;移行学習中の誤答
直 後
2 4 時 間 後
(3.6)から、遅延中に忘却が生じて移行学 習のときに反応の干渉が減少したのだと 先行学習!逆転!統 制 主張した。最後に彼らはMandJer(1962) 8・6 の立場から、位置反応はあまり弁別的で 6.8 ないので視覚又は言語の次元よりも媒介 4.7 的な構造の形成に不利であるために、位 置弁別での過剰訓練効果が見出せないの ではないかと考えた。
この研究では過剰訓練の効果を説明するのに、弁別仮説が適用されていることに注目しよう。
これは元来、消去の早さが訓練期と消去期における強化型の弁別Lやすさに依存しているという Bittermanたち(1953)の仮説を、 Stevensonたち(SLevenson & Moushegian, 1956; Capaldi
& Stevenson, 1957)が移行学習における過剰訓練の促進効果を説明するさいに用いたものであ るO これに対して岩原(1961)は、先行学習の程度をこまかく変えていくとその豊が増加するに つれて直線的に逆転学習が早くなること(弁別仮説からの予言)はないという結果を得て、弁別 仮説を批判したが、他方小牧(1962)は、少くとも人間に関する限りは、多数の連続した強化試 行が移行に関する弁別性を高めるために移行学習が容易になるという Stevenson & Moushegト an (1956)やErlebacher & Archer (1961)の解釈の方が有力であると主張したo 次に、 Man‑
dler (1962)の構造に関連する問題として、位置(空間)弁別と視覚(又は言語)弁別における 過剰訓練効果のちがいについて、動物ではかなり豊富な資料があるが(たとえば、Lovejoy, 1966;
Paul, 1965)、人間については僅かしかないのでその問題を直接検証するような実験が必要で あろうO 著者の知るところでは、人間を用いた研究はMilgram & Furth (1964)だけであるO
次にGollin (1964)はこれまでの研究からみて、逆転学習の遅延が先行学習からの負の転移を 減少させるのではないかと考えた。 3M‑4才の幼児を用い学習基準に達してから10回の過剰訓練 をしたあとで、直後、 15分後、 30分後、および60分後に逆転学習を与えた。弁別問題は黒地に書 かれた白色の円と正三角形の弁別と、しま地に書かれた白色の円と正三角形の弁別からなり、背 景は黒からしまへ又はその逆にかえられ、正刺激は円から三角形に又はその逆に変えられた。そ の結果、直後逆転が他の3群に比して有意にむずかしいことがわかり、かなり短かい遅延によっ てもStevenson & Weir (1959)やYouniss & Furth (1964a)と同様に促進効果のあることが
発見された。この実験では1つの学習基準しか用いられていないが、遅延が長くなるにつれて得 点の標準偏差が小さくなること、および遅延は逆転を早めるがいわゆる1試行逆転(one‑trial reversal,たとえばNorth, 1950)、 Gollinの用語に従えば1回の誤りのあとでの正反応(once‑
wr。ng‑then‑right pattern)ができた者はそう増加しなかったという点がおもしろいO後者につ いては、彼の実験Iの4ケi‑5才児は過剰訓練によって逆転学習が早くなり、同時に1試行逆転者 も増加している点が、過剰訓練と遅延の効果のちがいおよびそれらと年令との複雑な関係を暗示 している。
杉村(1962b)は15‑19才の少年を用い先に述べた2次元の弁別問題を、連続3回、 5回、お よび10回+20回正答まで学習させてから、直後か30分後に同じ刺激を用いた非違転移行を与えた (図4の⑤に相当する)。また次の実験(杉札1964)では全く同様なやり方でただ移行型のみ を逆転移行にかえた(図4の①に相当)。これら2つの実験結果をまとめたのが表6であるO こ の表から明らかなように、両移行とも直後移行においては先行訓練量の効果が認められ(表4と
よく似ている)、 30分後移行では訓練量によるちがいがほとんどない。これは先に述べたYoumss
& Furth (1964a)とほぼ一致している。なお統計的には、逆転移行では3回正答のとき非運転 移行では5回正答のときにのみ遅延の効果が有意であった。次に、移行後の第1試行において先
行学習のときの正刺激に対してなされた反応 表6 杉村(1962b,1964)の結果:移行学習の試行数
先行学習の基準 0 3回 5回10+20回 逆転移行 ;0分芸l 55:: 1;:: ::; :::
非逆転移行 直 後 30 ‑VHモ
6.4 14.7 21.1 11.6 6.4 11.3 10. 9.0
を、先行学習の反応強度の測度とみなすなら ば、両移行とも遅延によってそれが減少し、
訓練量が増すにつれて増加することが見出さ れた。このことから、過剰訓練と遅延はとも に移行学習を促進するという点では同じ効果 をもっているが、その機制が異なるのではな いかということが暗示されるO たとえば、逆 転移行において直後過剰訓練(10+20回)群 の1.1と遅延5回群の0.7とはよく似ており、同様に非違転移行でも同じ群の順に11.6と10.3 でほぼ同じ値を示しているのだが、それらについての先行学習の反応強度(先行学習の正刺激に 反応した者の割合)は、逆転移行では100%'と60%であり、非運転移行でも100^と50%で両者 の関係がよく似ている。つまり、遅延は外的な選択反応の強さを弱めるが故に移行学習を促進す るが、過剰訓練の場合は外的選択反応の強度は大であるのにもかかわらず、その消去が早くなさ れるという特徴をもっている。後者については外的反応を早く消去して移行学習を促進するよう
な要因(媒介過程にせよ弁別性にせよ)がどうしても必要であると考えられる。
知能.精神薄弱 岩原と杉村(1962)は先に述べた弁別問題を用い、 15‑19才の少年をIQが 105以上(平均115.8)、 75から99まで(平均 3.2)、および70以T (平均60.3)の3群に分け、そ れぞれに先行学習を連続3回、 7回、 10+20回正答まで訓練したあとで、非運転移行を行なっ た。その結果は表7に示したように、知能と訓練室の間に有意な交互作用が認められた。すなわ ち、先行学習が連続3回正答のときには知能差はあまりないが、訓練量が増加するにつれて高知 能群では移行学習が早くなるが低知能群では逆に遅くなることがわかった。そしてこの結果につ いては、発達の初期の学習と成熟期の学習を区別するHebb (1949)の考えとの対応が考察され ている。さて、このように知能を変数とした研究はほとんどないようであるが、過剰訓練すると 知能差がでてくるという結果は、過剰訓練によって形成されるものが、あるいはもっと一般的に
表7 岩魚・杉村(1962)の結果:非道転移行の試行数 いえば弁別学習の過程が、知能水準によって 先行学習の基準 異なるのではないかということを示唆してお 3回 5回 10+20回 り、移行型やその他の要因と知能との関係が
研究されなくてはならない。
28.5(3‑60) 20.0(1 60) 12.0(3‑60) 次に精神薄弱を使った研究を紹介しよう0 40.5(4‑60) 34.5(1‑60) 39.5(2‑60) 以前から精神薄弱の弁別学習を研究してきた 46.5(3‑60) 60.0(4‑60) 60.0(1ト60) House & Zeaman (1962)は、移行学習の
解釈にさいしてWyckoff (1952)の観察反 応説を適用した。 Wyckoffの考えは、弁別学習がすすむに従って適切な手がかりを観察(又は 知覚)する確率がまし、不適切な手がかりを観察する可能性が減少するので、もし2つの弁別問 題において手がかりが同じならば、第2弁別問題の適切な手がかりがより多く観察されるから有 効な試行が多くなり、そして学習が促進されるというものであった Hou:'eらはこの観察反応を 色とか大きさというような次元に対する観察として特殊化し、同じ適切な次元内での移行すなわ ち逆転移行が有利になることを予言した。彼らはMA6‑8才の精薄に形(四角と円)と色(赤と 緑)の次元からなる弁別問題を、 25試行中20回正答プラス125試行学習させてから、次の3つの うちの何れか1つの移行問題を与えた(a)同じ刺激における逆転移行(図4の①にあたる)、 (b) 以前の適切な次元をかえた問題による逆転移行(図4の⑧)、 (c) (b)と同じ刺激による非運転移 行(図4の⑥)。その結果、移行学習lの基準までの誤反応は少ない順に(b)、 (a)、 (C)となり、各 2群問の差はすべて有意であった。このような結果は、学習曲線を分析した結果とともに、観察 反応説によって最もよく予言できると主張した。その後彼ら(Zeaman & House, 1963)は精 薄の弁別学習について注意説(attentional theory)を発達させている。
Sander, Ross, & Heal (1965)はMAとIQの平均がそれぞれ124.4ケ月と70.7の精薄に、
2色と2形からなる弁別問題を連続10回正答まで学習させ次の3つの刺激条件で移行学習をさせ た(a)適切な次元の刺激はそのままで不適切な次元の刺激をかえたときの逆転移行(図4の⑧ にあたる)、 (b)適切な次元の刺激をかえ不適切な次元の刺激はかえないときの次元外移行(図4 の⑥)、 (C)適切な次元、不適切な次元ともに新しい刺激にかえたときの次元外移行(図4の⑧)0 結果は予想に反して移行型にもとずく差はほとんど認められなかった。しかし、ほぼ同じMA
(平均115.5ケ月)の正常児では逆転移行が他の2つの次元外移行にくらべて有意に早く、これ はKendler & Kendler (1959)の6才をすぎると逆転移行が容易になるという予想と一致して いる。それ故に、同じMAの者であっても正常児と精薄児ではその学習機制が異なるのではな いかと考えられる House & Zeaman (1962)では逆転移行が有利であったが、 Sanderら(19 65)では移行型に差がなかったのは、前者が125試行の過剰訓練をしているためだと考えて、
Ohlich & Ross (1966)は上の2つの実験を1つの実験計画にくみ入れてその予想を確かめよう としたC 被験者は平均MAが118ケ月でIQが69の者64名であり、逆転移行と非運転移行はそれ ぞれSander ら(1965)の(a)と(b)に相当するものであった。それぞれについて基準群と125 試行の過剰訓練群が作られたが、後者の125試行は2日にわたって行なわれ、第1日目は80試行 で翌日が45試行であった。移行学習は80試行までか連続15回正反応に達するまで続けられたO そ の結果を要約して示したのが表8である。予想どおりに、基準までのときは2つの移行に差がな いが、過剰訓練のもとでは逆転移行の方が有意に早かったO そこで彼らは、このような過剰訓練 効果がFurth & Youniss (1964)やTighe & Tighe (1965)の正常児で得られたものと同じ
であることは興味深いと考え、逆転移行を容易にするとみなせる媒介的な言語叉は注意の過程は 年令の要因と過剰訓練の両方から生じるものであり、精薄は正常にくらべてこの過程に欠陥があ
るとはいうものの、それは決定的で取りかえしのつかないほどのものではないと主張した。
さて、 Kendler & Kendler (1962)流の媒介過程を、適切な又は不適切な次元(刺激)の内
衷8 Ohlich & Ross(1966)の結果:誤反応
'1」I‑".'・' '一・. '"':
基 準
迫川Ul│純
ぜ転け(]'‑
非道転移行 逆転移行 非逆転移行
17.60 15.61 16.94 14.81 16.61 9.25 18.01 18.82
的、外的な名前づけ(labeling)とみなすならば、
精薄は一般に言語的な欠陥があると考えられるので 媒介の障害が予想されよう。この場合、言語そのも のの欠陥というよりも、言語は正常であっても言語 的(媒介的)なものによって行動が統制できないと いう意味(たとえばReese, 1962)に考えた方がよ いO ところが過剰訓練によって逆転移行がよくなっ たことは媒介過程が形成されたことを物語ってお り、それ故このような課題状況に関する限りは、正常児と同様な行動をする可能性があることを 示している Ohlrich らの結果では逆転同士、非逆転同士の比較がなされていないのでその有意 性はわからないが、標本値の上では過剰訓練によって逆転移行は容易になり非逆転移行は妨害さ れる傾向がある。これは正常児を用いた諸結果にほぼ対応するものであるが、先の岩原と杉村
(1962)からも暗示されたように、過剰訓練によって形成されるもの又はその形成過程が知能に よって異なるとすれば、 1つの実験計画の中に移行型、過剰訓練および正常と精薄児の3要因香 くみ入れた実験をしなくてはならないo 次に、 House & Zeaman (1962)でもそうであったが、
2日又はそれ以上も連続してこのような単純な問題を与えるのはどんなものであろうかoまた125 試行という過剰訓練も多すぎはしないだろうか。このようなことは動物実験では全く普通に行 なわれているが、たとえ精薄であっても飽きるとか動機づけが変化するとかあるいは他の要因が 入ってくる可能性が多分にあると思うO筆者の経験によれば、 4、 5才児を用いたときには50回く
らいの過剰訓練をすれば、ほとんどの者がまだ続けるのかというような表情をしていた。移行の 仕方についてみると、表4に示したようにひと口に非逆転(次元外)移行といってもかなりの相 異があるので、それぞれについて確実な資料を作ることが大切であろう。最後に理論的な問題に ついて簡単に考察しておく Ohlrich & Ross (1966)は=媒介的な言語又は注意の過程(me‑
diating verbal and/or attentional processes)という表現を用いており、いわゆる言語的な媒介 と知覚的な媒介をどの程度区別して考えているかは不明であるが、 Mackintosh (1965)はKen‑
iler流の媒介説と自己の注意説とをかなり異なるものと考えている。またHouse & Zeaman (1962)も観察反応説(Wyckoff, 1952)と言語媒介又は言語ラベル説(verbal label theory, Kendler & Kendler, 1962)は、ともに媒介反応が学習されることを仮定する点では似ている が、次のような差異があるという。言語ラベル説では外的な手がかりに対して言語ラベルがつけ られると考えるのに対して、観察反応説では適切な手がかりが生体によって知覚される確率とい うものを考える。
年令 先に述べたように逆転‑非逆転の比較については年令を変数とした研究が多いが、過剰 訓練と関連づけて年令を扱った実験はほとんどないようである Gollin (1964)は3H‑4才と4 M‑5才の保育園児72名を用いて、先に述べた単純な弁別問題を連続10回正答と、それに10回お よび20回の過剰訓練を行なう計3つの群を作った。表9に示したように、逆転移行の基準までの 試行数も誤反応も、年少児においては2つの過剰訓練群により多くみられるが、年長児では3群