Noninvasive estimation of pulmonary capillary wedge pressure and cardiac output by the analysis of pulmonary venous flow velocity patterns in patients

ノ〔〉臓VoL26No _.2(1994)125

臨床

急性 左 心 不全 例 にお ける

平均肺動脈楔入圧および

心係 数 の非侵 襲 的推定

ドプラ肺静脈血流速波形の解析による

Noninvasive estimation of pulmonary capil-lary wedge pressure and cardiac output by the

analysis of pulmonary venous flow velocity patterns in patients with acute congestive heart failure

Jung-Myung Lee, Tohru Masuyama, Kazunori Nariyama, Hiroshi Takahashi, Masatugu Hori, Kouji Nakamura, Takenobu Kamada.

Department of Internal Medicine, Kaizuka Municipal Hospital.

The First Department of Internal Medicine, Osaka University School of Medicine.

(1992.12.24原稿受領;1993.4.20採用) Key words 急 性左 心不 全 肺 動脈楔 入 圧 心 拍 出量 肺静 脈 血流 速波 形 超音 波 パ ル ス ドプ ラ法 § 抄 録 急性 左 心 不全 の血 行 動 態 を把 握 す る こ とは臨 床 上 重要 で あ り,そ の評 価 に は従 来 よ り観 血 的手 法 に よ る左 房 圧 お よび心 係 数 が用 い られ て きた.本 研究 で は,こ れ らの指 標 を ドプ ラ肺 静 脈 血 流速 波 形 の 解 析 に よ り非侵 襲 的 に推 定 し得 るか を明 らか に した .対 象 はNYHA心 機 能 分 類III度 以 上 の 急 性 心 不 全 例 19例.全 例 右 心 カ テー テ ル を肺 動脈 内 に留 置 し,心 不 全 治 療 前 後 の平 均 肺 動 脈楔 入 圧(PCWP)お よ び 心 係 数(CI)を 計 測 した.同 時 に胸 壁 よ り超 音 波パ ル ス ドプ ラ法 を用 い肺 静 脈 ・左 室 流 入血 流 速 波形 を記 録 した.肺 静 脈 血流 速 波 形 か ら収 縮 期,拡 張 期 ピー ク速(S,Dcm/s),お よび そ の時 間 積 分値(TVI-S, TVI-D)を,左 室 流入 血 流 速 波 形 か ら拡 張 早 期,心 房 収 縮期 ピー ク速(E,Acm/s),お よ び その 時 間積 分 値(TVI-E,TVI-A)を 求 め,こ れ らの ドプラ諸 指 標 と血 行 動 態 諸 指 標 を 多 変 量 解 析 を 用 い 比 較 検 討 し た.〔結果〕(1)PCWPはDとの間に最も良好な相関 を認 め た(r=0.79).CIはSと の 間 にの み に有 意 な 正 相 関 を 認 め た ( r = 0 . 7 9 ) . ( 2 ) 多 変 量 解 析 の 結 果 , PCWPは 推 定 式13.8+0.41*D-1.35*TVI-D-4.05*TVI-S/Dに よ り,ま たCIは 推定 式1.63＋ 0.043*S-0.628*S/Dにより推定することがで きた(各 々r=0.89,r=0.87).し か し,左 室流 入 血 流 速 波形 の指標 の みの 組 合 せ で は両 指 標 を正 確 に推 定 し得 なか った.観 血 的 手 法 に よ り計 測 され る平 均 肺 動脈楔 入 圧 お よび心 係 数 は,ド プ ラ肺 静脈 血 流 速 波 形 の解 析 に よ り非 侵 襲 的 に 推定 し得 る こ とが示 唆 さ れ た .   ( 心 臓   2 6 : 1 2 5 1 3 2 , 1 9 9 4 . ) 急 性 左 心 不 全 例 に お け る心 機 能 ・血 行 動 態 の 評 価 は 治 療 方 針 決 定 に際 し極 め て重 要 で あ る.心 不 全 の 基 礎 疾 患 は 多 彩 で あ るが,基 本 的 な 病 態 は左 房 圧 上 昇 に よ る肺 う っ血 と心 拍 出 量 低 下 に よ る末 梢 組 織 の 循 環 不 全 の2つ に大 分 され,両 者 は独 立 した 病 態 と考 え られ る9.か か る病 態 の 評 価 に は 従 来 よ り観 血 的 手 法 に よ る左 房 圧 お よ び 心 係 数 が 最 も良 い指 標 と し て用 い られ て きた2). 近 年,肺 静 脈 血 流 速 波 形 は血 行 動 態 変 化 を鋭 敏 に 反 映 し,ま た 超 音 波 パ ル ス ドプ ラ法 を用 い た肺 静脈 血 流 速 波 形 の 解 析 が 臨 床 的 な心 機 能 評 価 に有 用 で あ る こ とが 報 告 され た3>∼5).本研 究 で は,左 房 圧 お よ び心 係 数 を非 侵 襲 的 に推 定 し う る新 季 法 の 開発 を 目 的 と し て,心 不 全 治療 前 後 に右 心 カ テ ー テル 法 に よ る これ らの 指 標 と ドプ ラ肺 静 脈 血 流 速 波 形 を 同 時 に計 測 した. § 方 法 1)対 象

126/i'♪ 臓 〉OL26No.2(1994) 対 象 はNewYorkHeartAssociationの 心 機 能 分類m度 以 上 の 心 不 全 症 状 を有 し入 院 した 急性 心 不 全 患 者19例(年 齢50-83歳,平 均66歳,男 性 17例,女 性2例 〉.基 礎疾 患 は拡 張 型 心 筋 症7例, 高 血 圧 性 心 疾 患5例,冠 動 脈 疾 患5例,肥 大 型 心 筋 症1例,大 動 脈 弁 狭 窄 症1例 で あ る.全 例 胸 部 X線 上 に肺 う っ廠 像 と心 胸 郭 比 の 増 大 を 認 め た. 全 例 洞 調 律 で あ り,カ ラ ー ドプ ラ 断 層 法 に て 中等 度 以 上 の 僧 帽 弁 逆 流 を認 め た 例 は対 象 よ り除 外 し た.心 不 全 治 療 とし て は,酸 素 吸 入,利 尿 薬,甑 管 拡 張 薬 を 投 与 し,血 行 動 態 の改 善 を認 め な い例 につ い て は 塩 酸 ドパ ミンの 持 続 的 静 脈 内投 与 を施 行 し た.全 例 の 心 不 全 治 療 開始 か ら心 不 全 改 善 ま で の 日数 は 平 均4日(3-7日)で あ った. 2)血 流 計 測 東 芝 社 製 心 臓 超 音 波 診 断 装 置SSH160Aお よ び発 振 周 波 数2.5MHzの 探 触 子 を使 用 した.肺 静 脈 血 流 速 の計 測 に際 して は,ま ず左 側 臥 位 で 心 尖 部 よ り四 腔 断面 像 を描 出 し,カ ラ ー ドプ ラ モ ー ドで左 房 内 心 房 中 隔 沿 い に肺 静 脈 よ り吹 き 出 る赤 色 血 流 信 号 を モ ニ ター しな が ら右 上 肺 静 脈 開 ロ部 に サ ン プル ボ リ ュー ム を設 定 し た.パ ル ス ドプ ラ モ ー ドにて 安 静 呼 吸 状 態 下 で の 肺 静 脈 血 流 速 波 形 を記 録 した.左 室 流 入 血 流 速 は心 尖 部 よ り左 室 長 軸 像 で の 僧 帽 弁 弁 尖 レベ ル の 左 室 流 入 血 流 速 をパ ル ス ドプ ラ モ ー ドに て心 電 図,心 音 図,お よ び肺 動 脈 圧 と と もに 記 録 した.す べ て の血 流 速 波 形 の 記 録 は 紙 送 り速 度100mm/secで 熱 転 写 記 録 機 LSR100Aに 記 録 し た.こ れ ら血 流 速 波 形 の解 析 に は グ ラ フ テ ッ ク社 製 デ ジ タ イ ザ ーKD4300お よ び 日 本 電 気 社 製 パ ー ソ ナ ル コ ン ピ ュ ー タ PC9801を 用 い 以下 の 諸 指 標 を計 測 した7)8). 肺 静 脈 血 流 速 波 形 か ら は 収 縮 期 ピ ー ク速(S, cm/s),拡 張 期 ピー ク速(D,cm/s),こ れ らの比S/ D,お よび 心 房 収 縮 期 逆 行 性 血 流 ピー ク 速(A-pv, cm/s)を 求 め た.ま た各 波 の 時 間 積 分 値(各 々FVI -S ,cm,FVIつ,cm,FVI-S/FVIつ,FVトA-pv, cm)を 計 測 し た. 左 室 流 入 血 流 速 波 形 か らは 心 音 図 のII音 開 始 時 か ら拡 張 早 期 左 室 流 入 開 始 まで の時 間 と して 左 室 等 容 性 弛 緩 時 間(IVRT),拡 張 早 期 ピ ー ク 速(E, cm/s),心 房 収 縮 期 ピー ク速(A,cm/s),こ れ ら の 比E/A,お よ び 拡 張 早 期 左 室 流 入 の 減 速 時 間 表1血 行 動態 指標 と超 音波 ドプ ラ指 標 との相 関 関係 *p〈0 .01,S:肺 静 脈 収 縮 期 ピー ク 血 流 速,D:肺 静 脈 拡 張 期 ピ ー ク 曲 流 速,Aっv:肺 静 脈 心 房 収 縮 逆 行 性 ピー ク血 流 速,FVI-S:S波 の 時 間 積 分 値,FVI -D:D波 の 時 間 積 分 値_{,FVI-A-pv:A-pv波 の 時} 間 積 分 値,IVRT:左 室 等 容 性 弛 緩 時 間,El左 室 流 入 拡 張 早 期 ピ ー ク血 流 速,A:左 室 流 入 心 房 収 縮 期 ピ ー ク 血 流 速,FVI-E:E波 の 時 間 積 分 値,FVI-A:A波 の 時 間 積 分 値. (Decelerationtime,msec)を 求 め た.ま た 各 波 の 時 間 積 分 値(各 々FVI-E,cm,FVI-A,cm,FVI-E/FVI-A)を 計 測 し た.ま た,各 ド プ ラ 指 標 は 連 続 5心 拍 の 平 均 値 で 表 示 し た. 3)血 行 動 態 指 標 の 計 測 全 例 に お い て 右 内 頸 静 脈 よ りセ ル ジ ン ガ ー 法 を 用 い バ ク ス タ ー 社 製 ス ワ ン ガ ン ツ ・サ ー モ ダ イ リ ュ ウ シ ョ ン カ テ ー テ ル(7F,7.5F)を 肺 動 脈 に 留 置 し,平 均 肺 動 脈 模 入 圧 お よ び 心 係 数 を 計 測 し た. 同 時 に ドプ ラ肺 静 脈 ・左 室 流 入 血 流 速 を 計 測 し, 肺 動 脈 圧 波 形 と共 に 熱 転 写 記 録 機 に 記 録 し た.ま た,心 拍 出 量 は エ ド ワ ー ズ 社 製 心 拍 出 量 計COM-1を 用 い,氷 温 生 理 食 塩 水 の 急 速 注 入 熱 希 釈 法 に よ り計 測 し た.心 係 数 は 心 拍 出 量 を 体 表 面 積 で 除 し て 算 出 し た. 4)統 計 学 的 検 討

心 臓VOI,26No。2(1994)127 図1急 性左 心不 全 治療 前後 の肺静 脈 お よび左 室流 入血 流速 波形 61歳 男性 の拡 張型 心筋 症 にお け る急性 左心 不全 時(左),お よび心 不全 改善 時(右)の 肺静 脈血 流速 波形 く上段),左 室流 入血 流速 波形(下 段)の 記録.本 例 の心不 全 時 にお ける平均肺 動脈 模 入圧 は33mmHgと 高 く,左 室 流 入血 流速 波形 にお いて偽正 常化 パ タ ンを,肺 静 脈血 流速 波形 で は スパ イ ク状 で 高 いD波 を認 め る.

CI:心 係 数,ECG:心 電図,DCM:拡 張 型心 筋症,PAP:肺 動脈 圧,

PCG:心 音 図,PCWP:平 均肺 動脈 模 入圧,PVF:肺 静 脈血 流速 波 形, TMF:左 室流 入血 流速 波形. 相 関 関 係 の 解 析 に は1inearsquareregression analysisを 用 い,p〈0.01を 有 意 と し た.ま た,多 変 量 解 析 に はmultiplestepwiselinearregres-sionanalysisを 用 い 解 析 し た. § 結 果 D血 行 動 態 指 標 と超 音 波 ド プ ラ 指 標 と の 相 関 関 係(表1> 血 行 動 態 搬 標 お よ び 各 ド プ ラ 指 標 は 各 症 例 に お い て 心 不 全 期 と治 療 後 の2回 計 測 し,以 下 の 解 析 に 用 い た(図1>.左 室 流 入 血 流 速 波 形 のE,E/A は 平 均 肺 動 脈 襖 入 圧 と の 間 に 正 の 相 関(r=0。72, r=0.73,各 々p〈0.01,n=38)を 認 め た.一 方, 肺 静 脈 血 流 速 波 形 のD,S/Dは 平 均 肺 動 脈 懊 入 圧 と の 間 に 相 関 関 係r=0.79,r=-0.70(各 々p〈 0、01,n=38)の 良 好 な 正 相 関 を 認 め た(図2,3>. ま た,E,E/Aは 心 係 数 と の 間 に 有 意 な 相 関 を 認 め な か っ た(各 々r=-0.11,r=-0.16).肺 静 脈 血 流 速 波 形 のD,S/Dも 心 係 数 と の 間 に 各 々r=0.27, r=0.26と 有 意 な 相 関 を 認 め な か っ た が,Sは 心 係 数 と 有 意 な 正 相 関 を 認 め た(r=0.79,p<0.01, n=38)(図3,4). 2)血 行 動 態 指 標 に 対 す る 各 ド プ ラ 指 標 の 多 変 量 解 析 の 結 果 血 行 動 態 指 標 に 対 し 左 室 流 入 お よ び 肺 静 脈 血 流 速 波 形 の11ド プ ラ 指 標(S,D,S/D,FVI-S,FVI-D,FVI-S/FVI-D,E,A,E/A,DT,IVRT)を 用 い て 多 変 量 解 析 を 施 行 し た.平 均 肺 動 脈 梗 入 圧 は 推

128ノ 亡・月蔵VoL26No.2(1994)

図2平 均 肺 動 脈 懊 入 圧 の 変 動 に伴 う左 室 流 入 お よ び 肺 静 脈 血 流 速 波 形 の 変 化 平 均 肺 動 脈 櫻 入 圧(PCWP>が 各 々7mmHg(左),19mmHg(中),36mmHg

(右)に お け る肺 静 脈 血 流 速 波 形(上 段)お よ び 左 室 流 入1血流 速 波 形(下 段)の 記 録.

CI:心 係 数,ECG:心 電 図,PAP:肺 動 脈 圧,PCG:心 音 図,PCWP:平 均 肺 動 脈 懊 入 圧,PVF:肺 静 脈 血 流 速 波 形,TMF:左 室 流 入 血 流 速 波 形. 図3肺 静 脈血 流速 ドプ ラ指 標 と血行 動態 指標 との相 関関係 平均 肺動 脈襖 入圧 と肺 静脈 血流 速波 形のDと の相関 関係(左),心 係数 と肺 静脈 血流 速 波形 のS との相 関関係(右 〉. D:肺 静 脈拡 張期 ピー ク血 流速(cm/s),MeanPCWP:平 均肺 動脈 懊入 圧(mmHg),S:肺 静 脈収 縮期 ピー ク血 流速(cm/s).

心 臓Vo【.26No.2(1994)129 図4心 係 数 の 変 動 に 伴 う左 室 流 入 お よ び 肺 静 脈 血 流 速 波 形 の 変 化 心 係 数CIが2.64(左),3.59(中 〉,5.33(右)」/min/m2に お け る 各 々 の 肺 静 脈 血 流 速 波 形(上 段)お よ び 左 室 流 入 血 流 速 波 形(下 段)の 記 録. CI:心 係 数ECG:心 電 図,PCG:心 音 図,PCWP:平 均 肺 動 脈 模 入 圧. 定 式13.8+0.41*D-1.35*TVI-D-4.05* TVI-S/FVI-D(r=0.89)に よ り,ま た,心 係 数 は 推 定 式L63+0.043S-0.628*S/D(r=0。87)に よ り推 定 す る こ とが で きた(図5).し か し,左 室 流 入 血 流 速 波 形 の み の 多 変 量 解 析 で は平 均 腺 動 脈 懊 入 圧 お よ び 心 係 数 を よ り正 確 に推 定 す る こ とは で きな か っ た 。 § 考 按 本 研 究 で は 急 性 左 心 不 全 例 を対 象 と し,そ の治 療 前後 にお け る面 行 動 態 指 標 を経 胸 壁 超 音 波 パ ル ス ドプ ラ血 流 速 波 形 の諸 指 標 と同 時 計 測 し,対 比 し た.平 均 肺 動 脈 梗 入 圧 と心 係 数 は,そ れ ぞれ 肺 静 脈 血 流 速 波 形 のDとSに 最 も良 い 相 関 関 係 を 認 め た.ま た 多 変 量 解 析 の 結 果,平 均 肺 動 脈 懊 入 圧 お よび 心 係 数 は肺 静 脈 血 流 速 波 形 の ドプ ラ指 標 の 組 合 せ に よ り推 定 し得 た が,左 室 流 入 血 流 速 波 形 の指 標 の み の組 合 せ で は両 指標 を正 確 に推 定 し 得 な か った. 1)左 房 圧(平 均 脳 動 脈 模 入 圧)の 推 定 心 不 全 時 の左 房 圧 上 昇 は 左 室 流 入 駆 動 圧 を上 昇 させ,左 室 流 入 血 流 に対 し大 きな影 響 を及 ぼ し偽 正 常 化 を 呈 す る こ とが 明 らか に さ れ て い る6)∼9). また,左 室 流 入 血 流 速 波 形 の 諸 指 標 を用 い て 左 房 圧 を推 定 す る報 告 が な さ れ て い る8)10).しか し一 方 で は,左 室 収 縮 性 が 低 下 した 急 性 左 心 不 全 で は左 室 拡 張 期 最 小 圧 も上 昇 す る こ とか ら,左 室 一左 房 間 圧 較 差 は左 房 圧 上 昇 に比 例 せ ず,か か る 条 件 下 で は左 室 流 入 血 流 速 波 形 か らの 左 房 圧 推 定 が 行 え な い こ とが 報 告 さ れ て い る6)11》.我々 の 検 討 で 平 均 肺 動 脈 模 入 圧 とE,E/Aの 相 関 が 従 来 の報 告8)玉o)ほ ど良 好 で な か っ た の は,本 研 究 の 対 象 症 例 が 急 性 心 不 全 例 で あ り,か か る 状 況 で は 左 室 吸 入 効 果 の 低 下 や 心 膜 ・右 室 の 圧 迫 な どの影 響 で左 室 拡 張 期 圧 の 上 昇 が 大 きい 例 が 多 く含 まれ て い た た め と考 えた.こ れ に 反 し て,左 房 圧 上 昇 は肺 静 脈 血 流 に 対 し左 室 流 入 駆 動 圧 と して の影 響 だ け で な く左 房 ス テ ィ フ ネ ス を も上 昇 させ る.左 室 拡 張 期 圧 の直 接 的 影 響 は小 さい と考 え られ る こ とに加 え,左 房 ス テ ィ フ ネ ス の 影 響 が肺 静 脈 血 流 速 波 形 と左 房 圧

130/O・ 臓>ol.26NO.2(1994) 図5平 均 肺 動 脈 襖 入 圧 お よ び 心 係 数 の 各 々 の 推 定 値 と の 相 関 関 係 平 均 肺 動 脈 梗 入 圧(MeanPCWP)と そ の 推 定 値(EstimatedmeanPCWP)と の 相 関 関 係(左 上 〉,お よ び 心 係 数(Cardiacindex)と そ の 推 定 値(Estimatedcardiacindex)と の 相 関 関 係 (右上).平 均 肺 動 脈 懊 入 圧 に お け る推 定 値 と実 測 値 と の 差(D縦erenceinMeanPCWP)と そ の 両 者 の 平 均 値 との 関 係(左 下 〉,心 係 数 に お け る推 定 値 と実 澗 値 との 差(D縦erenceinCI) と そ の 両 者 の 平 均 値 との 関 係(右 下 〉,点 線 は各 々 の 平 均 ±2標 準 偏 差. との 間 に よ り良 好 な 相 関 を認 め た こ との 一 因 と考 え た.す な わ ち,左 房 の ス テ ィ フ ネ ス は 左 房 圧 に 依 存 して お り,圧 上 昇 時 に は 指 数 関 数 的 に 上 昇 す る.う っ血 性 心 不 全 時,著 明 な 左 房 圧 上 昇 は左 房 の ス テ ィ フ ネ ス を極 度 に上 昇 させ る.こ の 異 常 に 増 大 した ス テ ィ フ ネ ス の 影 響 で 僧 帽 弁 開 口 と同 時 に左 房 圧 は 急 激 に低 下 し,肺 静 脈 一左 房 問圧 較 差 が 拡 大 す る と考 え られ た.本 研 究 の 心 不 全 期 にみ ら れ た 肺 静 脈 虹 流 速 波 形 上 の ス パ イ ク状 で 高 いD 波 は この よ う な メ カ ニ ズ ム に よ っ て形 成 され た と 考 え られ た.こ れ に反 しKuechererら は 平 均 左 房 圧 推 定 に お い て左 室 流 入 血 流 速 波 形 よ り肺 静 脈 」血 流 速 波 形 の 解 析 が 有 用 で あ る と し なが ら も,Dが 左 房 圧 に対 し強 い相 関 関 係 を認 め な か っ た12).本 研 究 の知 見 と相 反 した 理 由 と して,彼 らの 対 象 の ほ とん どが 急 性 心 不 全 例 を 含 ま な い の に 対 し, 我 々 の対 象 が 全 例 急 性 心 不 全 例 で あ る こ と に よ る こ とが 一 因 で あ る と考 えた. 2)心 係 数 の推 定 心 係 数(心 拍 出量 〉は,う っ血 性 心 不 全 を評 価 す る上 にお い て重 要 な も う1つ の独 立 し た 因 子 で あ り,心 拍 数,前 負 荷,後 負 荷,お よび 左 室 収 縮 能 に よ っ て規 定 され て い る.本 研 究 に お い て心 係 数 はSと の 間 に の み 有 意 な 正 相 関 を認 め た.肺 静 脈 血 流 速 波 形 のS波 は僧 帽 弁 逆 流,左 房 弛緩,左 房 圧,お よ び左 室 収 縮 能(吸 引 効 果)な ど多 数 の 因子

心 臓>ol.26No.2(1994)131 が 相 互 作 用 し形 成 され る こ とが 従 来 の 報 告 で 明 ら か に され て い る。最 近,Nishimuraら はS波 の変 化 が 心 拍 出 量 の変 化 に よ く対 応 し有 意 な 正 梱 関 を 認 め た と報 告 して お り,今 回 の結 果 は それ と軌 を 一 にす る もの と考 え た13)_. 3)他 の手 法 に つ い て 急 性 左 心 不 全 例 は急 激 に病 態 が 変 化 す る こ とが あ り,速 や か に血 行 動 態 を評 価 す る こ とは臨 床 上 極 め て 重 要 で あ る.そ れ ゆ え,そ の 評 価 法 は簡 便 で 繰 り返 し施 行 で き る非 侵 襲 的 方 法 が 望 ま しい 。 従 来 よ り血 行 動 態 の 諸 指 標 を非 観 血 的 な方 法 で評 価 し よ う とす る報 告 が い くつ か あ る.そ の 中 で も 超 音 波 ドプ ラ法 を用 い た 手 法 は,そ の 非 侵 襲 性 お よ び簡 便 さ か ら種 々 の報 告 が 散 見 され る.中 で も ① 左 室 流 入 血 流 速 波 形 の 諸 指 標 か ら左 室 拡 張 末 期 圧,平 均 肢 動 脈 梗 入 圧 を推 定 し得 た とす る も の8),② 経 食 道 ア プ ロー チ か ら肺 静 脈 血 流 速 の 速 度 時 間 積 分 収 縮 期 分 画 に よ り左 房 圧 を推 定 し得 た とす る もの12),③ 平 均 肺 動 脈 梗 入 圧 の変 化 が 肺 静 脈 血 流 速 波 形 の 心 房 収 縮 期 逆 行 性 血 流 速 の 変 化 に 良 好 な 相 関 を認 め た とい う報 告14),④ 連 続 波 ドプ ラ を 用 い て肺 動 脈 弁 逆 流 速 か ら肺 動 脈 拡 張 末 期 圧 を推 定 し た報 告 な どが あ る15). 4)本 研 究 の 限 界 本 研 究 に は い くつ か の 問題 点 が あ る.① 経 胸 壁 か ら は技 術 的 に良 好 な 心 房 収 縮 期 逆 行 性 血 流 波 形 を捉 え る こ とが 困 難 で あ る た め,本 研 究 で は本 血 流 成 分 の詳 細 な解 析 は行 わ な か っ た.し か し,超 音 波 診 断装 置 の 技 術 的 進 歩 は め ざ ま しい もの が あ り,ま た コ ン トラ ス ト増 強 剤 を経 静 脈 的 に投 与 し, 左 心 系 ドプ ラ信 号 が 増 強 され る こ とが 報 告 さ れ て い る16>17).今後 さ ら に心 房 収 縮 期 逆 流 成 分 の 計 測 が 可 能 とな れ ぼ,さ らに正 確 な推 定 の 可 能 性 が あ る.② 心 不 全 期 に軽 度 の僧 帽 弁 逆 流 を認 め た6例 の ほ とん どは 心 不 全 治 療 後 に消 失 して い た.肪 静 脈 血 流 速 波 形 に及 ぼ す 僧 帽 弁 逆 流 の 影 響 は,重 症 例 で の みS波 の 消 失 ま た は 陰 性 化 が 明 らか に さ れ て い る.本 研 究 で は 中等 症 以 上 の僧 帽 弁 逆 流 は その 影 響 を排 除 す るた め対 象 よ り除 外 し た.軽 度 な らぼ 有 意 な 影 響 を及 ぼ さ な い との 報 告 が あ る が18),心 不 全 例 で は 僧 帽 弁 逆 流 の合 併 は重 要 で あ り,今 後 か か る例 を含 め た検 討 が 必 要 と考 え られ る.③ 多 変 量 解 析 は 本 来 互 い に独 立 した 変 数 で 行 わ れ るべ きで あ り,か か る場 合 に は式 自体 に意 味 を有 す る と され る.し か し,本 研 究 で 用 い た変 数 は明 らか に互 い に独 立 し て お ら ず,か か る場 合 の 解 析 は,最 も精 度 よ く推 定 し う る式 を求 め る とい う意 味 に お い て の み 正 当化 され る と考 え られ た. ④ 本 研 究 で は予 測 値 と実 測 値 との 差,お よ び この 両 者 の平 均 値 との 関 係 を 図5に 示 した.多 変 量 解 析 に よ る推 定 式 を確 立 す る に は,対 象 症 例 以 外 の 症 例 で予 想 式 の有 用 性 を検 討 す る必 要 が あ る と考 え られ,こ の 点 に つ い て は 今 後 検 討 を要 す る と考 え た.⑤ 心 不 全 時 お よ び 治 療 後 の 心 拍 数 は 各 々 73±14,67±11bpmで 有 意 な減 少 を認 め た が,心 拍 数 が70前 後 で は,左 室 流 入 お よび 肺 静 脈 血 流 速 波 形 の 各 成 分 は 融 合 す る こ とは な く,心 拍 数 の 影 響 は 波形 解 析 に 際 し何 ら問 題 は な か っ た.⑥ 経 食 道 ドプ ラ法 を用 い た 方 が よ り良 質 な 肺 静 脈 血 流 速 波 形 が得 られ る.し か し,本 研 究 は重 症 心 不 全 患 者 が 対 象 で あ る た め経 食 道 ア プ ロー チ の施 行 が 困 難 で あ り,経 食 道 法 を用 い な か った.経 食 道 と経 胸 壁 で 測 定 値 に差 が み られ な い こ と19)20)が既 に指 摘 され て お り,計 測 精 度 に関 して は 問題 な い と考 え られ た. § 結 語 肺 静 脈 血 流 速 波 形 の ドプ ラ 指 標D,Sは 血 行 動 態 指標 の 平 均 肺 動 脈 模 入 圧,心 係 数 と各 々 良 好 な 正 相 関 を認 め た.ま た,こ れ らD,Sを 含 ん だ 式 か ら平 均 肺 動 脈 模 入 圧 お よ び心 係 数 を推 定 す る こ と が 可 能 で あ った.以 上,観 血 的 手 法 に よ り計 測 さ れ る心 不 全 血 行 動 態 諸 指 標 で あ る平 均肺 動 脈 模 入 圧 お よ び心 係 数 は,超 音 波 パ ル ス ドプ ラ法 に よ り 得 られ た肺 静 脈血 流 速 波 形 の 解 析 に よ り非 侵 襲 的 に推 定 し得 る こ とが 示 唆 さ れ た. § 文献

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