社会科学論集 第
103号
2001.6《 論 文≫
食料品の消費習慣 と店舗密度
並 河
キーワー ド:流通の経済分析,店舗密度,小売店舗
1. は じ め に
日本 の店舗密度 ( 人 口あた り小売店緬数)が主 要先進 国に比べて高か ったことは,広 く知 られて いる。
一方, 日本 の消費者の鮮度志 向 ・品質志向が高 い, という理解 は広 く受 け入れ られているように 思われ る。特 に生鮮食料品については,そのよう な消費者 は近 い店舗を頻繁 に訪れ ることになるの で, それに対応 して店舗密度が高 くな っているの ではないか, とい う見方がある。
著者 もこのような漠然 とした印象を共有す るも のであるが, ただ この指摘を他 の話 し手が語 るの を聞 く限 りでは, イメージされているのは最近の 日本, あるいは最大限潮 って も,その話 し手が直 接体験 した範囲の 日本であるように思われ る。 こ の 「日本的な」消費者 の志 向は,仮 に正 しいとし て, どこまで潮れ るのであろうか。
そ してその志 向は,店舗密度の高 さを どの程度 まで量的に説 明できるのであろうか。
店 舗 密 度 の 高 さ を説 明 す る仮 説 に は 並 河
[2000]で論 じたように様 々な ものが あ るが, こ の研究ではいわゆる 「 鮮度志向」を中心 とす る日 本 の伝統的な消費習慣が店舗密度 に与えた影響 を 中心 に,第二次大戦以前 の 日本 における店舗密度 や家計のデータを交えて,定量的な検討 を行 う。
求
2.家計消費の中の生鮮食料品
労働者 の生活 に関す る各種の社会問題 に取 り組 むための資料 として,労働者 の家計 に関す る調査 が行われ始 めた経緯 については, 中鉢
[1971] お よび総理府統計局編
[1977] に詳 しい。 い くつか の先駆的な研究が発表 され始 めると,国勢院第一 部 ( のちの内閣統計局) は
1921年 か ら全 国規模 の家計調査を行 うべ く予算を要求 し始めた。 よう や く
1925( 大正
15)年か ら
1926(昭和
2)年 に かけて行われた家計調査 は,今 日の家計調査の原 型を成す ものである。 この調査 は社会政策の基礎 資料 とす ることを強 く意識 した ものか,農業従事 者 を除 く調査対象地域が主要都市 ・主要鉱 山周辺 であ り
,「 給料生活者」 と 「労働者」 に分 かれた 調査対象の比率 も窓意的に定 め られ,今 日のよう なサ ンプ リング方法ではない。 また, サ ンプルの じつ に
20%以上が調査拒否 や記入不備 で放棄 されてい る ( 1 ) 。
今 日の家計調査 とは一部のカテゴリーが異なり, 果物 は菓子 と同カテゴ リーにな っていて分離でき ないな どの問題があるが, この数字 と,全都道府 県県庁所在地 のデータが初 めて公表 され るように な った
1963( 昭和
38)年の家計調査 を比較 して みよう。
表
1に示す ように,生鮮食品が消費財バスケ ッ
トに占める比率 は,戦前 において も大 き くなか っ
た。 その一方で,主食 としての米が家計支 出に占
23表 1 消費支出に占める各費目の比率 ( %)
東京都 策豊炭田 東京都区部 . 給料生活者 ‑ 労働者 全世帯
(1925) (1925) (1963)
食料費
31.6 48.6 39.6米麦費
10.0 24.9 7.1肉 .鮮魚 .野菜合計 .
5.9 9.1 10.3荏 :肉 ・鮮魚 ・野菜合計は,生鮮魚介類以外の魚介類を含み,果物を含まない。
比較の便のため
1925年資料の制約に合わせた。
1963
年の米麦費は 「 穀類」であ りパ ンを含む。「 全世帯」は勤労者 と自営業者
める比重 は,戦前 ははるかに高か った。東京都 の 戦後の平均 的家庭 よ りエ ンゲル係数 が低 い大正
15年東京市 の給料生活者 も, 米麦費 が家計 に占 める比率 で は戦後 の家庭 を上 回 って いたので あ る( 2 ) 。 エ ンゲル係数が高 い筑豊炭 田の労働者で も, 食料費の過半が米麦費で 占め られ, それに比べれ ば副食費である生鮮食料品への支出は少なかった。
従 って
,「日本人の鮮度指向」 が戦前 か ら (あ る程度 は今 日まで)存在す ることを認 めた として ら, それが 日本 の飲食料品小売店舗全体, あるい は小売店舗全体 と言 った レベルでの店舗密度 を大 き く引き上 げたか というと,量的な観点か ら疑問 が残 る。
しか し店舗密度 は数を見て規模 を見ない指標で ある。生鮮食料 品を扱 う店舗が著 しく小規模 ・多 数であれば,例えその売上総額が小 さ くて も,店 舗密度 の業種間平均 を大 き く引き上 げる可能性が ないとはいえない。 これを次節で検討 しよう。
3.店舗数の内訳 とその時系列比較
昭和
14年臨時国勢調査 は, 戦 時経済 へ の移行 に伴 い配給制度の基礎資料 とす るために行われた 調査で,国勢調査 という名称はついているが,調 査項 目は現在 の商業統計 に近 い。 この調査 によっ て業種別 の店舗数 を知 ることができるので,昭和
15年国勢調査の人 口デー タ と組 み合 わせ て, 戟 前 の店舗密度 を知 ることができる。
ただ し,卸 と小売の区分が,現在 の商業統計 と 大 き く異 な っている。現在の商業統計 は,各商店
に卸 ・小売の ( 業種分類別)販売額を調査表 に記 入 させ,小売部門の売上が卸吾肝可のそれよ り大 き ければ,その商店を小売店 に分類す る方法を取 っ ている。 ところが昭和
14年臨時国勢調査 は, 卸 と小売 の両方で売上 のある商店を 「 卸小売」 とし て別立てに括 ってお り,数字を接続す ることがで きない。従 って,卸小売を含 めた小売商店数 と含 めない小売商店数 を適宜使 い分 けて,分析の 目的 を達す る必要がある。 まず,飲食料品小売商店数 と,その内訳 について, 表
2に示 す。 なお
1940年 における日本 ( 現在 の国土) の人 口は約
7311万人であ り,商店数以上 に店舗密度 は現代 よ り相 対的に高 い。
先 に見たように,戦前 において,食料品への支 出に占める生鮮食品 ( 青果 ・鮮魚 ・食肉) の比率 は
20%程度であった と思われ る。表
2による と, 小売商店数で見た生鮮 食 品小売店 の シェアは
30%程度であるか ら,生鮮食品小売店 は売上の割 に 多数,言 い換えれば零細多数であ った と言 って も 良い
。 1939年 の数字 には, 飲 食料 品小売商店全 体で
96080軒の露天商 ・行商を含む ことも付記す べ きであろう。
図 1に,平均売上規模の業種間比較 を示 す( 3 ) 。 やは り,生鮮食料品 ( 肉 ・魚 ・青果)小売店 は相 対的に小規模である。 ( 縦軸 は年 間売上高, 単位
は円)
ただ飲食料品小売商店数全体か らすれば,生鮮
食品小売店 は
30%に過 ぎない( 4 ) 。 ある程度の影響
はあるが,他の要因で説明 しなければな らない部
分 も大 きいとい うべきであろう。
食料品の消費習慣と店舗密度 表 2 飲食料品小売商店数とその変化
昭和
14(1939)年
「 卸小売」を含む 「 卸小売」を含まない 昭和
̲14(1939)年 昭和
57(1982)年 飲食料品小売商店数
1059798 962419 725585米穀 .雑穀小売店
104021 81418 42467青果 .鮮魚 .食肉小売店
310792 288811 153289資料 :昭和
14年臨時国勢調査,昭和
57年商業統計表
図 1 平均売上規模の業種間比較 ( 卸小売含まない,年商は円単位)
00
0
000005r:
小売含まない,年商は円単位)
各 種 飲 食 料 品 飲 食 料 品
そ の 他 の
菓 子 ・ パ ン 類
清 涼 飲 料 酒 類 ・ 調 味 料 ・
乾 物 類
鳥 獣 肉 類
鮮 魚 介 類
野 菜 果 物 類
豆 腐
雑 穀
米 穀
飲 食 料 品 全 体
小 売 全 体
む しろ量的にそれに匹敵す るか,以後の急減の 影響 も含めればそれを上回るほど日本の店舗密度 に大 きな影響を与えた と言えるのが,菓子 ・パ ン 小売業である。生鮮三 品の小売店合計 に匹敵す る ほど多数であ り, 図 1に示すように平均売上規模 も小 さい。 そ して並河
[2000]で述べたように,
1960年代以降 この業種 は大 き く店舗数 を減 らし て行 く。
1916
年 か ら
1918年 にかけて東京都の月 島地 区 で行われ
, 1919年 に結 果 が刊行 された 「月 島調 査」 は,関谷
[1970] として復刊 されたが, これ によると調査者 たちは労働者の町である月島地 区 に駄菓子屋が多いことに強 い印象を受 けている。
この人 口
30788人の地 区には,米屋か ら豆腐屋 ま で菓子屋以外 の飲食物小売店が合計
173軒 あるの
に対 し,駄菓子屋だけで じつに
131軒を数えるの である ( 関谷
[1970]
,67頁および
159頁)( 5 ) 。 そ して多 くの回顧談 に現 れ るよ うに
, 1950年代 ま で駄菓子屋 は子供の生活 にとって大 きな位置を占 める場所であって, まさに生活習慣 に密着 した店 種であった。 この ことには もっと大 きな関心が払 われて良いように思われ る。
さて,生鮮食料品小売店が店舗密度 に与え る影 響 は, その後 どのように推移 したであろうか。表 には示 していないが,昭和
57年 にお け る各種食 料品小売業 の商店数 は
90604軒である。 これ らを ( 生鮮食品売場を持つ)食品 スーパ ー とみなす な ら,青果 ・鮮魚 ・食 肉小売店 との合計 は
243893軒 となる
。 1939年 の卸小売 を含 む青果 ・鮮 魚 ・ 食 肉小売店 は
310792軒 で あ ったのだか ら
, 21.525
%減少 したことになる。実際には食品スーパーに は青果 ・鮮魚 ・食肉それぞれの売 り場があるのか 普通である し,飲食料品小売業 とはみなされない 寵合 スーパ ーに も生鮮食品売場 のあるものが多 い か ら,第
2次大戦直前か ら
1982年前後 までを取 れば,生鮮食品売場 の数 は減少 していないどころ か,む しろ増加 したのではないか と思われる。
これに対 し,生鮮食料 品が家計消費支 出に占め る比率 は低下す る傾 向にある。家計調査のデータ ( 勤労者世帯) を用 いると,魚介類 ・肉類 ・野菜 ・ 海草 ・果物への支 出が消費支 出に占める比率 は, 昭和
35 (1960)年 には13.3%であ ったが,平成9年 には
9.0%まで低下 してい る。 これ は外食 や調理済食品が食生活 に占める比重 を高めたためであ ろう。単身者世帯 は家計調査の対象 とならないが, 平成
6 (1994)年全国消費実態調査報告 のデ ー タ( 勤労者世帯)で単身者世帯 につ いて 同様 の数字 を求めると
,4.0%とさ らに低 い数字 にな る。 こ れは単身者が外食な どに頼 りがちであることを反 映 した もの と思われ る。
仮 に今 日の外食内容 に関す る完全な献立データ があった として も,そ こか らその献立の鮮度志 向 を測 ることは困難である。月島調査 にはい くつか の家庭の詳細な献立表が記 されているが, よ く登 場す る煮 しめ ・煮物では今 日のサラダな どと違 っ て,多少古 い材料 も使 える し,焼 き魚 に して も干 物な らば多少 の保存 は利 く( 6 ) 。刺身 な どは ほ とん ど登場 しないのである。月島調査 の献立 を見て直 ちに鮮度志向の強 さを感 じ取 ることはできない。
口に入 るときにどのような状態であるにせよ, 生鮮食品が鮮度 を要求 され るのは消費者 の手 に渡 るまでであ って,流通段階 においてである。従 っ て店舗密度への影響 に関 して言えば, 日本人が実 際に口にす る料理の内容が変化 したか どうかよ り
ち, 日本の消費者が小売店を通 じて買 う生鮮食料 品の額が,消費 に占める比率 を落 としつつあるこ とが重要であ り,先 に挙 げた数字で この低下 は確 認できる。
これに対 して,先 ほど述べたように,少 な くと も昭和
57年前後( 7 )までは生鮮 食料 品の売場数 は それほど減少 していないか, あるいは増加す る傾
向にあったと考え られる。並河
[2000]で見たよ うにその後急速な店舗の減少 ・店舗密度 の低下が 全国的に起 こっている。 これは外食 ・半製品 ・既 製品‑ とシフ トす る日本人の食習慣 の変化 と関係 す るとも考え られ るが,商業統計表 ・業態別統計 編 によれば
,1991(平成
3)年か ら1997(平成
9)年 にかけて も食品スーパーは全都道府県 において 店舗増加が続 いてお り,消費者 にとって生鮮食料 品の購入場所が減少 して しまったか どうかは,な お簡単 には論 じられない。 この時期 には周知 のよ うに大規模小売店舗法が運用緩和か ら廃止 に至 る プロセスが進んでお り,こうした制度的要因でスー パ ーの出店 ラ ッシュがあ った とも言われ るが,大 規模店間の競争 とその後 の減少 による影響 は,統 計上 まだ明白ではない。
4.地 域 差
商業統計 において小売商店数が最大 にな った昭 和
57年前後 には,飲食料 品店舗密度 にかな りの 都道府県間格差があった ことは,並河
[2000]で 確認 した通 りである。 この時期 まで飲食料品店舗 密度 は人 口急増地域で低 く, それ以外の地域で高 水準 にとどまる傾 向があ り, それを過 ぎると全国 的な低下が始 まった。生鮮食料品を多 く消費す る ことが 「日本的な消費生活」 のひとつの側面であ り, そ うした消費生活が地方 において色濃 く残 っ ていた とすれば,店舗密度の推移 ( 変化 しないこ とも含めて)のい くらかはそれによって説明でき よう。 しか し結論か ら言 うと
,5節で示 す都道 府 県 クロスセクシ ョンデータによる回帰分析 によれ ば, この地域差 は 日本的な消費習慣以外の要因, 特 に地域間の所得格差でかな り説明す ることがで きる一方,食習慣 に直接関係す ると思われ る変数 にはあま り説 明力がない。 この節では,なぜ消費 生活の地域差か ら店舗密度の差を説明できないか
について検討す る。
1964
( 昭和
39)年 と1994( 平成
6)年 の全 国
消費実態基本調査か ら,大都市 と町村部の家計支
出に占める魚介 ・食肉 ・青果の比率 を求めた もの
が表
3である。
食料 品の消費習慣 と店舗密度 表
3大都市 圏 と町村部 の生鮮食 品支 出比率
( 勤労者世帯)
1964
( 昭和
39)年
1994( 平成
6)年 大都市
ll.8% 9.4%町村部
ll.2% 9.6%注 :
2人以上 の一般世帯。大都市 はそれぞれの調 査年度 で人 口 1 00万人以上 の都市。
生鮮食品は魚介,肉,野菜 ・海藻,果物。
昭和
39年の生鮮食品には乾物 が含 まれ るが, 平 成
6年 の数字 には含 まれない。
資料 :全国消費実態調査報告
勤労者世帯 に自営業者等を加えた全世帯では, 例えば
1964年 には大 都市
13.8%, 町村11.7%と 差が広が るが,表の縦横 の数字で見 た大小関係 は 変わ らない。戦後の早 い段階では,む しろ大都市 部のほうが所得のよ り大 きな割合を生鮮食料品に 費や していたと思われ る。
この ことの解釈 はふたつ考え られ る。表 には示 していないが同調査 によ ると
, 1964年 には大都 市 と町村部の家計 あた り消費支 出の比率 は
100:65.7
であ り,大 きな地域間格差があった。 これが
1994年 には
100:95.4と小 さ くな っている。所得格差がいわゆる消費財バ スケ ッ トの構成 に与える 影響が薄れた結果,単身者の多 さ ・年齢構成の違 いな ど他の要因が地域差 に大 き く影響す るように な った というのがひとつの解釈である。 しか し表
2で先 に見たように,所得が高い都市住 民 の家計 で生鮮食料品への支 出比率が高 まるか とい うと, それは考えづ らい。
もうひとつの解釈 は, この種の調査で捉えきれ ない農産物な ど現物収入の影響が大 き く出た, と いうものである( 8 ) 0
とも卒れ表 3 を見 る限 り,生鮮食料品の 「日本 的な」消費パ ター ンが第
2次大戦前後の店舗密度 の地域差 に影響す るとすれば, その影響 は大 き く ないであろうし, あるとすればむ しろ大都市部で 店舗密度 は高 くなるであろう。
大都市部 と地方 の差の背後 に隠れているか もし れない要因 として,地域の年齢構成の差,特 に高 齢化の問題がある。次 にこれを取 り上 げよう。
もし高齢者が伝統的な食習慣をよ り色濃 く残 し ているとすれば,高齢者世帯 は他の世帯 よ りも支
表
4 65歳以上人 口の比率
1960
( 昭和 35 )年
1980( 昭和 5 5)年
全 国平均
5,7% 9.1%北東北
3県
4.5‑5.3% 8.8‑10.5%四国
4県
7.2‑8.5%ll
.6‑13.1%資 料 : 国勢調査報 告
北東 北 3県 は 青 森 ・秋 田 ・岩手 ,南
九州 3
県は宮
崎 ・熊本 ・鹿児島
出のよ り大 きな割合 を生鮮食料品に当てるはずで ある。実際, 1
994( 平成
6)年全国消費実態調 査報告 のデータによると,魚介類 ・肉類 ・野菜 ・海 草 ・果物への支 出が消費支 出に占める比率 は高齢 者夫婦世帯( 9 )では
11.7%であ り,世帯員2人以上 の勤労者世帯が平均
9. 4%なのに比べ ると大 きい.
逆 に, 同データの単身者世帯 で は平均
4.0%で あることはすでに述べた。
ところが表
4に示す ように,高度成長期以前 に おいて,大都市のない県の年齢構成が高か ったか とい うと,概ねそのような傾向はある
(10)のだが, 一様 にそ うともいえない。
一般的に言えば戦後の長期間にわた って,地方 か ら大都市部への人 口移動が続 いたわけだが, そ の進行 は地方 によって一様ではな く,北東北のよ うに高度成長期直前 まで全国平均 よ り若 い年齢構 成を持 っていた地方 もある。高齢者 との消費構成 の差異 は もともと大 きな ものではないだけに, そ れを うま くとらえる説明変数を用意す ることの困 難 さも増すのである。
店舗密度,エ ンゲル係数,高齢化の関係を調べ るため, これ らの数値 についてそれぞれ様 々な組 み合わせで単相関を取 り,結果を表
5にまとめた。
高齢化の尺度 としては,表
4と同様,各都道府県の
65歳以上人 口比率 を取 った。 なお n
‑46の とき,標本相関係数 の両側
5%有意水準 は,およそ 0.29である。
1963
( 昭和
38)年 は各県庁所在地 のデー タが初めて家計調査で公表 された年 だが, この年のエ ンゲル係数だけがその直前年次だけでな く
, 1982( 昭和
57)年 の飲食料品店舗密度 ともあ る程度 の27
表
5店舗密度 ・エンゲル係数 ・高齢化の相関表
̲DENSS35 DENSS57 ENGELS38ENGELS47ENGELS57 ENGELH9
DENSS5ENGELS3ENGELS4778 000...631220 00..2073 0.48 0.63 0.73 ‑0.12 ENGELS57 0.10 ‑0.02 0.44
ENGELH9 0.02 ‑0.21 0.47 0.52
症 :各変数名 は次の規則 によ りつ け られている。
DENS
‑飲食料品店舗密度 ( 商業統計表, 国勢調査 ・人 口推計年報)
ENGEL‑県庁所在地エンゲル係数 ( 家計調査,全世帯)
AGE‑65
歳以上人 口比率 ( 国勢調査)
S35‑S57,H9調査年次
時系列的な比較のため,沖縄県のデータは除いている。
相関を持 っている。 エ ンゲル係数 どうLは年度が 違 って も有意な相関関係を持 ってお り,何 らかの 地域性 に関す る情報が含 まれていると思われるが, 店舗密度 を単独で説 明す る力 は小 さい。
先 に見たように
, 1960( 昭和
35)年 時点 で も 地方 の人 口構成 は都市部 よ りも高めであ り, その ため人 口構成が老齢寄 りの県 は平均的には,並河
[2000] で確認 したように店舗密度が高めになる。
ところが
65歳以上人 口比率 とエ ンゲル係数 は, 有意 なほど大 き くはないがマイナスの相関を持つ。
これは直観 に反す る結果である。
周知のように,家計調査 の 「 都道府県別データ」
は県庁所在地 に住む家計 に限 られ る。地方 の高齢 化の影響 は,比較的壮年 の働 き手が多 い県庁所在 地では明確 にデータに現れづ らいのかもしれない。
また,高齢者世帯が他の都道府県 よ り少 し多いと 言 って も,全家計を平均 したエ ンゲル係数 にそれ が影響 を与え るには, まだ少なすぎるのか もしれ ない。年齢構成 ( の変化) とエ ンゲル係数 の関係 については,なお分析 を要す る。
ところで
,「日本的食生活」 が生鮮 食 品を近 隣 で頻繁 に購入す ることを意味 しているとした ら, 人 口あた り店舗密度だけでな く面積 あた り店舗密 度 も高いはずである。 そこで,飲食料品小売店舗 数を各都道府県 の面積 ( 平方キ ロ)で割 った数値 を求めた。 これを面積店舗密度 ( 表
6)と呼ぶ こ とにす る。
表 には示 して いないが, 最低 は北海道 の
0.33表
6面積店舗密度 ( 飲食料品
,1960年) 上位 1 0県
iiZ 京 阪 奈 知 岡 玉 川 都 葉 崎 東 大 神 愛 福 埼 香 京 千 長 0
73425
22813
36954
84336
19554
3333 22資料 :商業統計表,国勢調査
である。沖縄 を除 く
46都道府県 の うち,2 を越 えているのは上位
15都府県で あ る。 政令指定都 市を持つ都府県 は概ね上位 にある ( 兵庫 は
11位) が,香川 ・長崎は政令指定都市を持たず,隣接県 で もない。 このほか静岡 ・佐賀 ・茨城 ・熊本が面 積店舗密度
2以上で上位
15県 に入 って い るが, これ らの県 に共通項 を求めるのは困難である。
ただ
1960年 の時点で,す で に埼玉 や千葉 の面
積店舗密度がかな り高いことは,人 口急増地域 の
店舗密度が低 いことのひとつの説明 となるように
思われ る。人 口が密集 し,地理的に商圏が重な り
合 うところまで店舗が増え ると,それ以上店舗密
度 は上が らずに店舗規模が大 き くな り始 める, と
い う仮設が考え られ る。 これは店舗密度 の水準そ
の ものよ りも,その変化 に影響す ると考えたほう
が直観的にうなず ける。 この研究 に続 けて,都道
食料品の消費習慣と店舗密度 府県データを時系列的に接続 したパネルデータ分
析 を行 う予定だが, この仮説 の当否 も含 め,面積 店舗密度 と店舗密度 の関係 についての詳 しい分析 はその際に行 うことに したい。
また,概ね大都市を擁す る都道府県の面積店舗 密度が高 いと言 うことは,面積店舗密度 と店舗密 度の間には逆相関があると言 うことである。 そ こ で計算 した ところ, 1
960年 の店舗密度 と面積店 舗密度 の相関係数 は
‑0.32で あ る。 鮮度志 向を 店舗密度の高 さに関連付 けることは,面積店舗密 度 に結 び付 けるべ き直観を ( 人 口あた りの)店舗 密度 に結 び付 けると言 う誤 りを含んでいるのか も
しれない。
5.日 米 比 較
飲食料品に限 って店舗密度 の変化を考える場合, どの先進国で もスーパ ーマーケ ッ トの影響が重要 であることは諭 を待たない。 アメリカにおいては,
1930年代 にすでにスーパ ーマーケ ッ トが登場 し, 急速 に比重を高めてい った
(l l )ので, スーパーマー ケ ッ トのなか った ころのアメ リカ小売業界を記述 す る公的統計 としては, か ろ う じて
1929年 に行 われた最初の流通 セ ンサスがあるのみである。薄 井
[1998] によると
,1929年か ら
1939年 にか け て,小売業 「食料 品グループ」 の事業所数 も,小 売業全体 の事業所数 もむ しろ増大 している。 この 間のアメ リカの人 口増加 もまた著 しく,小売業全 体 の店舗密度 は
10.9か ら
11.
1に微増 して い る。
丸 山
[1992;21頁] によると, アメ リカの店舗 密度 は
1987年 には
6. 1まで低下 して行 くが,スー パ ーマーケ ッ トの登場 と店舗密度低下 にはタイム ラグがあった ことは, 日本 の経験 と比較す る上で 興味深 い。
なお
1939年 における日本 の店舗密度 は, 1
940年 国勢調査の人 口データを用 いると,卸小売 を含
めなければ
24.0, 含 めれ ば
26.6で あ り, 同時期 のアメ リカの
2倍を超えて い る。 また
1997年商 業統計 に基づ く日本 の店舗密度 は
11.3で あ り,
1930年代 アメ リカとほぼ同 じである。
薄井
[1998] は
1929年,1
935年,1
939年の小
表
7小売店舗数に占める飲食料品小売業 飲食料品 生鮮食料品 小売業の比率 小売業の比率 アメリカ
(1929) 35.9% ‑ 14.0%アメリカ
(1939) 38.3% 17.6%資料 :昭和
14年臨時国勢調査,薄井
[1998;表
5]日本の数字は 「 卸小売」を含まない。含めて計算 した 場合
54.5%である。
売業業種別構成 について細かい内訳を示 してお り, 今回利用 した
1939年の臨時国勢調査 デー タ との 比較が可能である。 これを表
7に示す。
飲食料品小売店が小売店 に占める比率 は, 日本 のほうが明 らかに高 い。飲食料品小売店の多 さが 店舗密度 の 日米差 に大 き く影響 しているのは確か である。 それに比べ,生鮮食料品の影響 ははっき
りしない。
ただ しここではアメ リカについて, 肉と加工食 品の両方を扱 うコンビネーションス トアを生鮮食 料品小売業 に数えてお り, 日本 については野菜果 物類 ・鮮魚介類 ・鳥獣 肉類の各小売業 に限 って合 計 している ( 各種食料品小売業 を含めていない)0
こうした限定の もとでではあるが,消費者 にとっ ての生鮮食料品の販売拠点数を数え ると言 う観点 か らす ると, この数字 を見 る限 り日本 の生鮮食品 販売拠点の多 さが店舗密度 の高 さを説明す る, と は言 いがたい。
表 には示 していないが, ここで も, 日本 におけ る菓子 ・パ ン小売 の多 さを強調 してお喜たい。表
2に掲 げた
1939年 の 日本 にお ける菓子 ・パ ン小 売店の数 は,卸小売を含 まない もので全小売店 の
13.5%に も上 る。 同年のアメリカでキャンディー ・堅果 ・菓子店の占める比率 は
3.3%に過 ぎない。6.都道府県データによる回帰分析
この節では前節 までに検討 してきたデータを用
いて,1
960(昭和
35)年 にお け る各都道府県 の飲食料品店舗密度 をい くつかの変数で回帰 し, さ
らに
1982(昭和
57)年 ・1997( 平成
9)年 の同様の回帰結果 と比較す る。以下, この節のすべて
29の回帰式 において,被説明変数 は飲食料品小売店 に限 った店舗密度
(DENS)である。
並河
[2000]で論 じたように
, 1960年 と
1982年の 飲食料 品店舗密度を都道府県別に見 ると, 産業発 展の著 しかった人 口急増地域で店舗密度 が低 くな る傾 向が見 られた。 そこで説 明変数 としては, 吹 の定義による
PCINCと
POPGを基本的に用いる。
変数名 意味 資料 単位
pcINC
l人当た り県民 県民経済計算 円/人 所得 年報 ( 1 2 )
POPG
前年比人 口増加 国勢調査 ・人 口推 %
率 計年報
ところが昭和
35年 について は, このふ たつ の 変数 は高 い相関 ( 相関係数
0.82)を示す。 これで は多重共線性が生 じ,各変数の有意性 を適切 に判 断できない。 そこで,単回帰でわずかに高 い自由 度修正済決定係数を示す
PCINCを説 明変数 に用 い
,POPGは用 いないことに した( 1 3 ) 0
これに加え る説明変数 としては,次の定義 によ る
ENGEL,PERT
,AGEの
3つを試みる。
変数名 意味 資料 単位
ENGEL
消費支 出に占め 家計調査年 報 の各 % る食料品の比率 県庁所在地データ
( 全世帯)
pERI
消費支 出に占め
ENGELに同 じ % る鮮魚 ・精 肉 ・
青果の比率
AGE 65
歳 以 上 人 口 国勢調査 ・人 口推 %
比率 計年報
回帰結果を表
8に示 す。 な お表 の中でEとあ るのは桁数の大 きい小数 を表す表記法で
, E‑04は
10の
‑4乗を掛 けることを示す.
1.5E‑02は
0.015である。
生鮮三品の消費 に占める比率や高齢化の程度 は ほとん ど説明力がないが,前節 までに検討 した内 容 とこの結果は矛盾 しない。エ ンゲル係数 は所得 の影響をコン トロール してなお有意であるか ら,
1960年の時点では, 所得 の割 に食料 品‑ の支 出 が多い地方では飲食料品店舗密度が高いとい う意 味での店舗密度の地域性が見 られた と言える。
ところがエ ンゲル係数 の説明力 は,表
9に見 られるように, それ以後のデータでは小 さ くな って 行 く。
ENGEL
は
1982年 デ ータで は
5%有意 にわず かに及 ばない
(P値 は
5.4%)が, あ る程度 の説 明力を持 っている。 ところが
1997年 のデータに なると, まった く有意性 を失 って しまう。
並河
[2000] で論 じた よ うに
, 1960年 か ら
1982年 にかけての飲 食料 品店舗密度低下 には地 域でば らつ きがあ ったが
, 1982年か ら
1997年 に かけての低下 は全 国的な もので あ った
。 1960年 代 にはまだ消費構造の差が店舗密度 に影響を残 し ていた ものが,近年 は見 られな くな っていると考 え られ る。
表
5で確認 したように,各年 のエ ンゲル係数 は 近年 までそれ以前 ・それ以後のエ ンゲル係数 と有 意な正の相関があ り,その意味である程度地域の 特徴を保 っていると思われ る。 とすれば,均質化 したのは消費構造 よ りもむ しろ店舗密度のほうで 表
8飲食料品店舗密度と家計消費構造 (1 )
定数項
PCINCS35 ENGEL PERI AGE自由度修正済決定係数 式
(1) 4.40‑
1.02E‑05 10.82(‑3.45516)*** (‑2.3565
1 )**
式
(2) 7.57‑
1.17E‑05 (‑3,67382)***式
(3) 7.78 ‑8.31E‑06(‑2.42365)‑
12.05
( ‑
I.60456)0.257279
0.208739
1.14E‑04 0.193008
(
1.30)括弧内はt 値 ・**:
1%有意
*・:5%有意
食料 品の消費習慣 と店舗密度 表
9飲 食料 品店舗密度 と家計 消費構造
(2)データ年次 定数項
POPG PCINC ENGEL自由度修正済決定係数
式(
4) 1982年
6.99式(
5) 1997年
7.37一1
.23 ‑2.06E‑05 0.0926 0.691901 (‑6.20425)* * * (‑6.15372)* * *(‑1
.98053)‑1
.65 ‑7.13E‑07 ‑0.0176 0,657974 (‑5.26177)***
(‑6,49715)*** (‑0.376989)括弧内は t催 事‑ :
1%有意
H:5%有意
ある, と言 ってよいであろう。
7.む す び
この研究は並河
[2000] に始 まる,飲食料品店 舗密度 に関す る研究の一環であ り,主 に 日本の家 計消費構造 の特徴が店舗密度 に与え る影響 につい て検討 した。生鮮食品を好む ことの影響 は量的に は小 さいが,食料品への支 出比率 の高 さに裏打 ち された食料品小売店の零細性 と多数性 は, ある程 度量的に も大 き く,店舗密度 の高 さを説明す る。
ただ し近年, その関係 は見 られな くなりつつある。
日本 における菓子 ・パ ン店 の ( かつての)多 さに ついては従来 ほとん ど注 目されていないように思 われ,研究が待たれ るところである。
今回行 った回帰分析 はいわゆるクロスセクシ ョ ン分析 にとどまってお り,時系列的にクロスセク シ ョンデータをプール した, いわゆるパネルデー タによる分析は行 っていない。例えばスーパーマー ケ ッ トと食料品専門店が交代 して行 く過程な ど, 店舗密度の変化 に関す る分析 にはこうした時系列 的な視点が不可欠である。 この研究 に続 けてパネ ル分析 を行 い,並河
[2000]で取 り上 げ, この研 究で扱わなか った諸仮説 を掘 り下 げて行 きたいと 考えている。
・補論 都市 ・農村 の物価格差
匿名の レフェリーよ り,都市 ・農村 の物価格差 が結論 に影響 している可能性 について示唆を受 け た。確かに
1992年 『 全国物価統計調査報告』 ( 揺 務庁) によると,例えば全国平均を
100とした野
菜 ・海藻の価格 指数 は, 東北地方
87.8に対 し関 東地方 は
104.0であ り,大都市部では実支 出額 は 多 くとも実際の消費量 はそれに比例 しないのは事 実であろう。大 川
[1953;補論 Ⅰ Ⅰ ] は
, 1950年 の東京都 における物価 ・家計データと農林省 『 農 家経済報告』 な どか ら得 られる農家の平均データ を比較 し,農家のひとりあた り消費金額 は東京都 の
79.1%に過 ぎないが,物価水準 もまた東京都 の
81.6%( 指数のウェイ トは東京都家計デー タ) な ので, 同年 における両者 の量的な消費水準 はほぼ 同 じである, と論 じている。
しか し食料 品の 「 量」 に関す る概念 を明確化す ると,品質 の差 に関す る問題を も持 ち出さざるを 得ない。特 にスーパ ーマーケ ッ トが登場 してか ら 顕著 に‑ な った といわれるが,形のそろった もの, 傷のない ものは大都市 に送 られ,比較的高価で取 引 され る傾 向は,様 々な生鮮食料品に見 られる。
生鮮食料品の価格データは多 くの場合重量当た り の もので, 同質性 を認定す る基準 としては魚介類 のサイズが大雑把 に付記 されている程度であるか ら, こうした細かな, しか し価格 に大 きな影響を 与え る側面 は捨象 されて しまう。 ここでの興味. は 家計側の問題 よ りも小売店 の密度 にあるので,価 格 と数量 を別 々に考え るのでな く, それを掛 け合 わせた家計支 出を用 いることに した。ただ説明変 数 にはひとりあた り県民所得が含まれているため, 食料品への家計支 出をそのまま説明変数 に加え る
と多重共線性を起 こす疑 いが強 いので, この研究 ではいわゆるエ ンゲル係数を説明変数 とす ること で これを避 けた。
次 に,露店 ・行商の持つ意味について検討する。
戦前 において行商人,特 に農家な ど生産者 の直接
31社会科学論集 第
103号 販 売 の ウ ェイ トが高 く, これ らの販 売 ル ー トが一
般 小 売 店 に比 べ 低 価 格 で あ った と した ら, 戦前 ・ 戦 後 の物 価 水 準 に は それ に よ って差 が生 じるで あ
ろ う。 本 文 中, 表
2へ の解 説 の 中で ,卸 小 売 を含 まず
962419軒 の飲 食料 品小 売 店
(1939年 ) に は
96080軒 の露天 ・行 商 が含 まれ る と書 い た が , こ の露 店 ・行 商 は も っぱ ら商 業 に従 事 す る業 者 だ け を言 うの で あ って, 店 舗 の有 無 を 問 わず 小 売 も行 う生 産 者 ( 生産 小 売 商 ) は 同 様 に
234792軒 が 含 まれ る。 この 中 に は豆 腐 店 ・菓 子 店 な ど も含 まれ るが, そ の うち
101602軒 は野 菜 ・果 物 類 販 売 業 で あ り, す べ て が農 家 の庭 先 販 売 な い し行 商 と考 え て よ い で あ ろ う。
しか し, 生産 小 売 商 と露 店 ・行 商 は合 計 す る と 野 菜 ・果 物 類 販 売 業 ( 卸 小 売 を含 まな い) 小 売 店 の
61%を 占め る に も関 わ らず , 売 上 シ ェ ア は
14% に も満 た な い。 従 って家 計 の支 出額 に与 え る影 響 は, 売 上 シ ェア に見 合 った小 さな もので あ った
と思 わ れ る。
また石 原
[1989] は
, 1918年 以 降 に 開 設 され た公 設 小 売 市 場 の価格 情 報 が比 較 の対 象 と して広 ま り, 生 鮮 食料 品 を含 め た必 需 品 の市 中価 格 低 下 に著 効 あ った こ と, そ こで は当初 生 産 者 の直 接 販 売 が志 向 され た が結 局 商 人 と して の能 力 不 足 ゆえ に うま くいか な か った こ とを指 摘 して い る。 行 商 に は価 格 比較 の機 会 が な い た め, 生 産 者 直 売 ゆ え 安 価 で あ った とは即 断 で きな い と思 わ れ る。
《注》
(1) この家計調査 は一回限 りの ものであったが,そ の後米穀統制法を施行す るための基礎資料 として,
1931年か らサ ンプル数
2000,全 国の
9県庁所在 地 と八幡市を調査対象 とする家計調査が毎年行わ れ るようにな った
。1942年 にはサ ンプルを
8060家計 に増や し,調査項 目も充実 させて新発足 した が
,1942年調査の結果はようや く
1977年 にな っ て総理府統計局編
[1977] として復刻 され
,1943年及び
1944年の調査結果 は公刊 されないまま亡 失 した
。1942年の家計支 出は戦 時下 で ゆが め ら れてお り,戦前 日本の典型的な消費生活 とは言え ないので, この研究では用いないことに した。
(2)
ここでは東京都 ・給料生活者
(1925)との比較 の便のため東京都区部 の数値 を挙 げた
。1963年
32については,東京都 区部サ ンプルの平均消費支 出 は全国平均をはるかに上回 っていることを付記 し てお く。 ここでの興味の対象である 「肉 ・鮮魚 ・ 野菜」 の消費支出に占める比率 について言えば, 全国平均 について同様 に計算す ると
9.8%である。
また,戦前のエ ンゲル係数の調査結果 は小規模な 調査それぞれに大 き く異な っているが,都市労働 者 については第一次大戦を契機 として一定の改善 ( 低下)が見 られたとされ る。 中鉢
[1971]参照。
(3) 米穀 ・ 雑穀小売業 には売上規模 の大 きな卸小売 が相当数存在 して,卸小売を含めるとこのふたつ のカテゴ リの平均規模 はかな り大 き くな り,比較 上の印象は変わって くる。
(4
) 1939年 における小売商店数 ( 飲食料 品小売業 以外を含む総数)は
,「 卸小売」を含 まず
1758174軒,含んで
1945080軒である。
(5)
この人 口は東京市統計年表 によるもので,警視 庁統計年表の数字 よりも大 き く,やや過大ではな いか とも同書 は記 している。
(6)
月島調査では野菜 に関す る記述が少な く, もっ ぱ ら蛋白質やカロ リーが栄養学的に足 りているか
どうかに酪心を寄せて い る
。1916年 に森本厚吉 が社会政策学会で行 った報告 一 「日米 『 最小生活費』
論」が中鉢
[1971] に収め られているが, これを 読 むと当時 ビタ ミンやカル シウムといった知識が 生化学者 にとって も最新の研究課題であって, ま だ常識 として定着す るに至 っていなか ったことが わかる。
(7) 並河
[2000]で述べたように, 昭和
57年 と言 う年 は商業統計上 日本の小売商店数が ピークを迎 えた年であ り, この研究で もひとつの画期 として
とらえている。
(8)
郡部や地方都市では,家計の数字 に表れない農 産物な どの自家消費の比重が高いことは十分 に考 え られる。家計調査や消費実態基本調査では, こ うした現物収入 ・現物支出を調査票に記載す るこ とを求め, それを粗い区分で集計 した ものを集計 結果に収載 しているが,評価額 は被調査者 による ものであ り,それほど信を置 けるとは思えない。
この点を補正す ることは,生鮮食料品消費に関連 す る研究 に共通 した課題 として残 されている。
(9)
夫
65歳以上 妻
60歳以上の夫婦のみか ら成 る 世帯。
(10) 1960
( 昭和
35)年国勢調査 における
65歳以上
人 口比率 を市部 と郡部 に分 けて算 出す ると,全国
平均
5.7%に対 し郡部の平均は
6.9%である。全体
としては郡部 ( 町村部)の年齢構成は高 くなる傾
向があったと言 ってよいであろう。
食料品の消費習慣 と店舗密度
(ll) 1920
年代
・1930年代のアメ リカ小売業 に関す る僻轍については,パ ラマウンテ ン
[1993]およ び薄井
[1998]参照。
(12)
県民経済計算 については当初各都道府県 に推計 が任 され,推計方法の細部 にまちまちな点があっ た。 のちに経済企画庁が昭和
30年以 降 につ いて 遡及統計を発表 してお り, この研究では経済企画 庁
[1968] によって昭和
35年の数字を補 った。
(13)
後 に見 る
1982年 と
1997年のデータでは,両者 の相関は
0.26と
0.65である
。1997年 の相 関係数 は有意水準を越えているが,ふたつの変数の t 値 がいずれ も高 く,一方 を落 とす と自由度修正済決 定係数が少な くとも
0.06低下 す ることか ら総合 的に判断 して,両方の変数を加えることに した。
参考文献
石原武政
[1989]『公設小売市場の生成 と展 開』 千倉 書房
薄井和夫
[1998]「 両大戦間期 アメ リカの流通構造 と チ ャネル選択論の展開」,埼玉大学経済学会 『社 会科学論集』第
93号
,23‑60真
大川‑司
[1953]『 生活水準の測定』岩波書店 経済企画庁経済研究所国民所得部編
[1968] 『県民所
得統計 昭和
30‑40年』至誠堂 関谷耕一 ( 解説)
[1970]『 月島調査』文生館 総理府統計局編
[1977]『 家計調査結 果 の概要 昭和
16
年
10月
‑17年
9月』
中鉢正美 ( 解説)
[1971]『 家計調査 と生活研究』文生 館
内閣統計局編
[1995]『昭和
14年臨時国勢調査結果表』
東洋書林 ・原書房
並河 永
[2000]「日本の飲食料品小売業 の零細性 と その地域間格差」,埼玉大学経済学会 『社会科学 論集』,第 99
・100合併号
,113‑130貢
∫.C.
パ ラマウンテ ン
[1993],『 流通のポ リテ ィクス』 , 白桃書房
丸 山雅祥
[1992]『日本市場の競争構造』創文社
33
Traditional Food Consumption and the Density of Food Stores
NAMIKAWA Hisashi
In this article we examine how traditions in Japanese food consumption can (or cannot) ex- plain the high density of food stores (the number of food shops per capita in a region) in Japan referring to various statistical sources from 1925 to 1997.
Contrary to a stereotyped view on Japanese household consumption, it is difficult to attribute the high density of food stores to the large number of perishable food stores and high require- ments to freshness. Even in 1930s the portion of perishable foods in the number of stores and in the household consumption was not very large. Shops in various categories, especially sweets shops and bakeries, are as important to realize the high density of food stores in pre-war and post- war Japan, which is unquestionable in itself. Density of retailers as a whole has long been also high, though recently declining sh<;trply, and it has been related to high density of food stores.
Lastly we tried some cross-section OLS estimations, to explain the regional difference in den- sity of food stores. On early post-war data, Engel's coefficients are related to the regional differ- ence of density of food stores in Japan, but in 1990s we observe no more correlations, suggesting every region in Japan nowadays has similar retailing structure with large supermarkets as typical food suppliers.
Keywords: Distribution System, Retailing, Density of Food Stores