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教育とコンピュータ −算数・数学教育を中心にして−

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

教育とコンピュータ −算数・数学教育を中心にし て−

著者 重松 敬一, 今澤 均

雑誌名 奈良教育大学教育工学センター研究報告

巻 9

ページ 45‑52

発行年 1986‑03‑16

URL http://hdl.handle.net/10105/4584

(2)

教育 と コ ン ピ ュ ー タ ー算数・数学教育を中心にして‑

重 松 敬 一・今 津   均 (数学教育学教室)  (附属小学校)

Abstract

In this paper, we investigate the problems of personal computer in education.

Especally, we discuss the following three aspects.

(1) Analyzing the present states of the personal computer in education, we point out that personal conlputers are not used so much.

(2) Searching for the possibility to use personal computer in education, we re‑

commend its utilization as "exploring mathematics".

(3) We point out some other problems in introducing personal computer to education.

In order to use personal computers for the educational media, we point out the need to verify the usefulness of personal computer in education.

は じ め に

今日、コンピュータ、とりわけパーソナルコンピュータ(以下パソコンと呼ぶ)の普及はめ ざましい.その数も約300万台といわれている(,しかし、利用者の約75%が30歳以下だともい われている。また、その利用内容もワ‑ドプロセッサー的利用、簡易言語による利用、さらに は、パッケージソフトによる利用が全体の約8割を占め、ユーザー独自のソフト開発による利 用は極めて少ない。

このような現状のなかで、教育界のコンピュータに対する期待も高まりつつある。実際、小 学校6年生の約1割がパソコンを保有しているという現実は、好むと好まざるとにかかわらず、

学校教育にとっても看過できなくなってきている。 (ファミコンは、 650万台と言われる。)し かしながら、どのようにパソコンを活用したらよいかといった戸惑いが多いのも事実である。

本稿は、学校教育、とりわけ算数・数学教育でのパソコンの活用の可能性と問題点について

論じようとするものである。

(3)

重松敬一・今津 均

I 今日の算数・数学指導とパソコン

算数・数学教育においては、パソコンに対する期待が大きいとは決していえない。というの も、少なくとも次のような理由からである。

① 専門数学とコンピュータとの関係

数学は、頭脳中心の紙と鉛筆による研究活動と長く考えられてきた。したがって、コンピ ュータに対しては否定的であった。

しかし、最近は少しこの様子が変わってきているo特に、有名な四色問題の解決にコンピ ュータが利用されてから、研究者の意識も変わってきた。最近では、解の予測にコンピュー タを活用したりすることから、.大学においてもコンピュータ教育を重視しようという動きが出 ている。

② 教師のコンピュータに対する意識

教師の教育活動における教育機器・教具には使用頻度、簡便さなどから見て、次のような 段階があるように思える。

レベル1 :最も簡便で、使用頻度が高い

(刺) 紙と鉛筆、定規、コンパス、コピー、リソグラフ、テレビ、黒板、掛図、など。

レベル2 :簡便だが慣れが必要で、使用頻度が高いとはいえない。

(例) 電卓、そろばん、 VTR、スライド、実物投影機、など。

レベル3 :簡便でなく、使用頻度が低い

(例) パソコン、シート式磁気録音機、などQ

このような段階からみても、パソコンに対する恐怖感が高いことが理解できる。

さらに、教育実践は、機械ではできないという思いがある。

しかし、最近の実践のなかで、子どもから、「機械は怒らないからいい。」といった発言が聞 かれるようになり、少し事情が変わってきている。先の使用段階から見た困難性についても、

パソコンが次のような観点で改良されたら少しは和らぐであろう。

簡便さ、価格、保守・菅理性、効果性、参加性

実のところ、これらの事情は、今日だけのものではなく、すでに、昭和37、 8年頃の教育 機器、たとえば、シンクロファックスの研究・実践に対する状況に類似している。効果の高 い教育機器として急速に普及したが、ソフト開発の難しさ、プログラム学習の限界などから 急激に衰退した経緯がある。

ところで、今日の算数・数学指導においてパソコンが利用できないかといえば、決してそ

んなことはない。関連した電子卓上計算器(以下電卓と呼ぶ)も合わせて考えれば、かなり

活用することが可能である。学習指導要領では、小学校、中学校、高等学校において次のよ

うに規定されている。

(4)

教育とコンピュータ‑算数・数学教育を中心にして‑

小学校  内容の取扱い;

計算の技能の指導に関連して、そろばんや計算機を第5学年以降において適宜用いさせ ることは差し支えないが、この場合には、概算によって見通しを立てるなどの能力の育成 を妨げないように配慮する必要がある。

中学校  内容の取扱い;

図形の計量、統計などにおいて数値計算を行う場面では、必要に応じて、そろばん、計 算尺又は計算機を使用させて、学習の効果を高めるように配慮するものとする。

高等蝣y':代

数学Ⅱの内容;

電子計算機と流れ図 ア.電子計算機の機能 ィ.アルゴリズムと流れ図 数学汀の内容の取扱い;

使用する計算機の機能に応じてプログラムを作成し、実際に計算機にかけて結果が求 められるようにする。

高校数学の内容の取扱い;

数の計算に当たっては、必要に応じて各種の計算機を使用させて、学習の効果を高め るようにする。

実際、電卓にあっては、小学校5年生以降の指導でその効果が検証されてきている。特に指 導において、計算にとらわれずに問題の数値を現実化したり、考え方に焦点化したりできる点 が注目されている。しかし、パソコンによる指導となると、導入率の低さも手伝って、まだま だ活用されていないのが現実である。

Ⅱ パソコン利用の可能性

戦争直後に生まれた団塊の世代が小学校の時、テレビがようやく普及し始めた頃であったが、

今の小学生にとってはテレビがごく身近な情報メディアとなり、さらには、パソコンが新しく 加わってきている。次代の子どもには、生まれたらパソコンが身近にあるという環境になって いるかもしれない。

このような状況を踏まえ、パソコンの利用の可能性について、本章では考えてみたい。

よくいわれるようにパソコンには、次のような利用が考えられる。

(1) CA I ( Computer Assisted Instruction),CAL (Compater Assisted Learning) ;コンピュータ利用による教育

この目的による利用が最も期待されるものであり、その可能性が強く追求されている.普通、

この目的のなかには次のような利用視点がある。

① ドリル・プラクティス型

(5)

重松敬一;今津 均

(例) アルゴリズムの習熟

③ シミュレーション型 (例) 確率概念の導入

④ 個別学習型 (刺) PLATO

④ 問題解決型

(例   LOGOによる亀の幾何学

それぞれの内容についての説明は、必要ないであろう。

このCAI的利用は、授業の効率化、普遍化、個別化を目指したものであるが、さらに、

子どもにとっては、意外性などが加わり、新しい学習メディアとなる0

実際、パソコンを介して教師、生徒、教材の関係が変わろうとしている。たとえば教師は 常に答(知識)を知っている存在であり、教えられる存在として生徒がいるといった関係の 改善を促すことになる。 LOGO言語による亀の幾何学(タートルジオメトリー)が、この 点で注目されている。

ところで、これらのCAI的利用もパソコンの普及段階の違いによって可能性が違ってく る。

第1段階 教室に1台(一斉学習) :提示が中心になる,, 第2段階 4人に1台(グループ学習)

:対話型となる。

第3段階1人ないし2人に1台(個別学習) :個人的解決が可能となる。

第3段階になれば、それ以前の段階を含み、自由に形態を工夫することができる。

今日においては、パソコンの導入台数が少なく、第1段階の利用が多い。そのなかにあっ ても概念開示と技能習熟の学習効果が検証されている。

さらに可能性の追求がいくつかの観点で行われている。たとえば、

○ 高校文系の数学指導

○ 複式学級の数学指導

○ 障害児教育の数学指導

これらは、パソコンの計算機能だけではなく、グラフィック機能を活用しようとするもの である。

今一つ新しい可能性の追求として、数学の実験的・生成的側面に対するパソコンの利用が 考えられている。たとえば、 「探求的数学」と呼ばれる教材の開発が行われている。これは、

最近のdoing mathematicsの主張と軌を一にするものであり、数学教育の人間化の一方策と

(6)

教育とコンピューター算数・数学教育を中心にして一

して期待される。

(2) CM I (Computer Managed Instruction)教育情報処理

学校においては、この利用が、最も多いと思われる。そのなかには、次のようなものがあ

・o ,

㊥ データベース型

(例) 保健管埋、図書管理、時間割作成、成績管理

② ワ‑プロ型

(例) 文書作成、問題作成

⑧ アナリシス型

(刺) 成績処理、授業分析

これらの利用に当たって注意すべきことは、新しい道具の利用がかえって教師の仕事を増 やすことになりはしないかということである。この点については、先の教育機器の使用頻度 のレベル1に近づくように‑‑ド、ソフト両面における改良・開発が望まれる。

むしろ、パソコンの利用によって、雑務から解放され、その分、生み出した時間養子ども との接触に充てる可能性が検討されているO たとえば、学校の時間割作成をパソコンで処理 することなどによってである。

(3)コンピュータの指導

この可能性が次の学習指導要領の改訂に当たって重要な課題となっている。メディア教育 の必要性は広く理解されているものの、コンピュータ・リテラシーの指導については、論議 のあるところである。すなわち、コンピュータのできることと、できないことを認識させる ことは重要であるとしても、プログラム作成の指導まで行うかどうかが焦点になっている。

数学教育の大切な目的の一つとして論理性の啓培があり、この点において、プログラム作成、

少なくとも、フローチャ‑トを書くことが有効であると考えられている。ところが、フロー チャートを書くことによって論理性が啓培されるのか、論理的思考が豊かだからフローチャ ートを書くことができるのかは論議のあるところである。

現在、中学校における数学指導においてリテラシーの指導が論議されているが、その可能 性の追求のためには、小学校5,6年からのパソコンの活用が望まれる。したがって、次のよ

うな発達段階による利用の検討が急務である。

第1段階:つかえる(小5‑6) 第2段階:しくみがわかる(中1・2) 第3段階:つくれる(中3・高1)

Ⅲ パソコン利用の問題点

現状のままでは、パソコンが可能性の高い教育メディアであっても、過度な期待に失望を与

(7)

重松敬一・今津 均

えたり、最初から教育価値を認められない危険性がある。この章では、パソコン利用の可能性 を十分追求するために、いくつかの条件を考えてみよう。

1.ハードウェアの改良・開発

現在のパソコンは、教育界向けに開発されてきたものではないoその証拠に現在のユーザー の大半は、ビジネス指向とゲーム指向である。したがって‑. 16ビットパソコンかMSX仕様の パソコンが活用されている。そのために、授業に活用しやすいパソコンの開発は遅れている。

このことは、メーカーが、教育界の実際を把握することをしてこなかったこと、また、教育 界が、一部にはそうでないものの、大勢としてメ‑カー側‑開発要請をしてこなかったことが 考えられる。いずれにしても、教育メディアとして、いかに使いやすくするかが今後の大きな 課題となる。すでに述べたように、教師が、時間的犠牲を払ってまで活用するためには、それ なりの効果を保証しなければならない。

この問題は、コンピュータ言語の問題とも絡んでいる BAS ICのような構造言語では子 どもの思考に十分対応することができないし、 L I S Pのような思考言語が理想ではあるにし ても、すべての教師が利用するまでには平易になっていない。

2.コースウェアの作成

‑ードウェアがどんなに素晴しいものであっても、コースウェア、ソフトウェアが完備され ていなければ、なんの機能も果たさない。このソフトウェアの開発が急務であるが、一人一人 の教師に、この開発を期待することは不可能に近い。ここではむしろ、教材開発センターなど による開発・流通が望まれる。そこでは、ハ‑ドメーカー、システムエンジニア、プログラマ ー、そして何よりも教師の参加が必要である。

次に、このコースウェア作成に当たって注意すべき点について少し考えてみたい。

① 教材の目的について

すでに述べたように、技能習熟に対する効果は検証されているものの、ここで問題とした いのは、むしろ、概念、関係把握、問題解決技能の育成を目指したソフトウェアが開発され ることが急務である。

② 教育内容について

パソコンによる指導を考えるとき、たとえば、亀の幾何学のように、新しく指導内容を導 入するに当たっては、現在の内容のなかの何を捨て、あるいは統合するかの検討が不可欠で ある。たとえば、長除法による筆算のような厳密な計算や三角関数のような複雑な数式処理 が検討の対象となってこよう。むしろ、概算による処理が大切になってくるかもしれない。

④ 指導について

パソコンを利用することによって、子どもにとって新しい思考の世界が登場することにな

る。すなわち、現実の世界、パソコンの世界と数学の世界である。これらの世界を自由に往

来できるための思考の柔軟さの育成が、指導上大切になってくる。

(8)

教育とコンピューター算数・数学教育を中心にして‑

たとえば、確率の指導において、サイコロを使い、確からしさを指導しようと思って、計 算だけをパソコンに実行させても、何かパソコンがかってにやっている‑として学習が成 立しないことになりかねない。

これらの一連の問題については、最近、アメリカの数学教師協会の「数学教師」誌上で論じ られている

3.そ の 他

パソコンを現実の教育メディアとして活用するためには、さらに次のような問題を考慮しな ければならない。

① 教師の意識の問題

この問題は、すでに述べたように、機械で教育するということに対する不信感に代表され る。しかし、今後問題としたいことは、機械に教師の教育力をいかに代替するかということ ではない。むしろ、教育力のなかでパソコンに代替できるものを識別し人間固有の教育力 を明らかにする必要性を問題としたい。いいかえるならば、パソコンに、教師に共通する最 低の教育力を移入することを検討したい。

また、パソコンに対する問題として、計算力・数学力の低下に対する不安がある。この問 題に対しては、従来、学校の枠内だけで考えられている計算力・数学力の観点変更が必要で あろう。

⑧ 社会的サポートの問題

この問題には、二つの観点が考えられる。一つは、父兄のサポートと、今一つは、行政の サポートである。

前者についていえば、パソコンの社会的必要性は理解しているものの、文字文化の報い社 会において通用する学力が、子どもに身につくかどうかの不安がある。たとえば、上級学校

‑の入学試験は紙と鉛筆による学力検査が中心であり、パソコンによる学力が有効かどうか といった問題である。さらに子どもの精神的・身体的不安がある。たとえば、視力低下、パ ソコン恐怖症、パソコン自閉症などである。

行政の問題からすれば、予算に対する教育効果の問題が何よりも焦点である。また教育メ ディアとしての教育の機会均等や学校間の格差も見過E:すことができない問題であろう。

おわ り に

本稿では、 21世紀における高度情報化社会を意識してのメディア教育・情報教育などの観点 から、特に、算数・数学教育の問題に焦点を置きながら、パソコン利用の可能性と問題を論じ てきた。現実問題として、すべての算数・数学教育をパソコンで行なえ‑と、主張したもの ではない。むしろ、新しい教育メディアとしてのパソコンの実践的研究の必要性を強く訴えて

きたものである。

(9)

重松敬一・今樺 均

人間を、教育を通して機械に近づけるのではなく、機械を人間に近づけるためにも教育界の 特に、算数・数学教育における諸問題を整理し、可能性を追求する必要があると考えるもので

m*

本稿では論じなかったが、教員養成の問題あるいは、現職教育の問題も重要であると考えて いる。とりあえず、パソコンに触れてみる機会を持つことが必要であろう。少し観点がずれる かもしれないが、パソコン実習をしていた学生が、次のようにいったこともパソコンの有用性 の一つと考えてもよいのではなかろうか。

「パソコンにプログラムを打ち込もう(教育しよう)としてエラーメッセージが表示され たら、それはすべて私の間違いです。でも、教壇で不十分な指導をしても、生徒からエラ ーメッセージが表示されずに進めるのは、いかに生徒に助けられて教育しているかという ことですね。」

最後に、パソコンが目前にあることを中心に論じてきたが、パソコンがなくてもすぐにでき ることは多々ある。現在の実践をパソコンが入るという仮定のもとに情報化し、整理すること も必要であろう。

参考文献

1)竹之内傾編;コンピュータと数学教育、別冊数学セミナー「コンピュータと数学」 6、日本評論社、

1985年.

2) NCTM ; The Impact of Computing Technology on School Mathematics:Report of an NCTM Conference, Mathematics Teacher, 78‑ 4 (243‑250) 1985.

3)重松敬一、今津 均;マイクロコンピュータ利用による計算技能の研究、奈良教育大学教育工学セ ンター研究報告、 No.7 (63‑75) 1984.

4)重松敬一;マイクロティーチングにおける教授スキル評価法の研究、奈良教育大学教育研究所紀要、

第19号(33‑44) 1983.

5)坂口晃一、菅原民生、重松敬一;計算機教育システムの開発、昭和56‑57年度 教育方法等改善経

費研究成果報告書、昭和58年.

参照

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