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川崎市における精神障害者スポーツに対する 地域支援機関の対応

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Academic year: 2021

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はじめに

 従来,精神障害者スポーツは,精神科病院に入院し ている方たちの余暇活動の一環や,精神科デイケアで のプログラムの一つとして実施されており,薬物療法 や作業療法と並行したリハビリテーションとしてのス ポーツ ・ レクリエーションという認識であった.1956 年神奈川県において精神科病院間で実施されたソフト バレーボール大会がその嚆矢とされる1).東京都では1990 年代から地域交流会の一つとして「こころの健康フェ スティバル」の実施が始まり,そこでは種目としてバ レーボールや卓球,バトミントンなどが行われた2)  こうした活動の実施は,精神障害がある当事者に目 的行動や成功の機会と喜びの経験等を提供し,ルール

(規則)のなかで集団行動などへも効果がみられた.一 方,医療 ・ 福祉関係従事者や支援者等に対しては,興 味がない人には強制せず「見るスポーツ」から始めて 頂く.自閉傾向がみられる方には,個人体験から集団 体験へ導く機会とする.忍耐力や共感力などが必要課 題であることが浮かび上がってきている.

 こうした経緯から,お花見や小旅行,演芸会,もち つき大会などに加えてスポーツ大会を実施している医 療機関が一般化している.そこでは医師や看護師,作 業療法士,精神保健福祉士らの専門職が連携して支援 が行われることがしばしばである.また,精神障害者 への参加賞や賞品の授与でイベントを盛り上げる配慮 や地域住民 ・ 社会との交流の必要性も指摘されている.

もっとも,当事者の退院後は就労や生活問題等でスポー

ツを行う機会がなくなってしまうのが課題という指摘 もある3)

 さて,精神障害者スポーツが社会的に認知される契 機となったのは「全国障害者スポーツ大会」での精神 障害者バレーボールの正式競技化と考えられる.1999

(平成11)年に公益社団法人日本精神保健福祉連盟

(1953年に前身が設立)に障害者スポーツ推進委員会が 設置され,2001年に宮城県にて,第1回全国精神障害 者バレーボール大会が開催された.その後,2002年の 第2回高知大会からオープン競技と採用され,2008年,

第8回大分大会から正式種目となった.各地で全国大 会に向け,予選大会が開催されており,首都圏では神 奈川県内4),千葉県5),埼玉県6)の状況や取り組みが報告さ れている.さらに,2013年第1回精神障がい者スポー ツ国際シンポジウム開催7)されるまでになった.

 それに伴い,問題点も極めて具体的に指摘されるよ うになった.すなわち,1.精神疾患の多くが再発 ・ 再燃の危険性を有している.2.症状 ・ 障害固定の判 定が難しい.3.病識欠如や精神疾患の病名告知がな されていないことがある.4.長期間の精神科薬物療 法により運動能力に影響が出ている場合がある.5.

精神疾患 ・ 精神障害者に対する社会の根強い誤解 ・ 偏 見が存在する.6.精神科の診断名 ・ 診断分類に若干 の混乱がある.7.運動効果に関する医学的検証が不 足しているなどである8)

 一方,神奈川県では精神障害者スポーツが抱える課 題として大会開催の資金面や実施体制に加え,参加チー ム減少等を挙げている9).川崎市内のチームについても,

神奈川県川崎市役所健康福祉局障害保健福祉部精神保健課

* *立正大学社会福祉学部社会福祉学科

キーワード:精神障害者,障害者スポーツ,リハビリテーション,地域支援機関,川崎

川崎市における精神障害者スポーツに対する 地域支援機関の対応

鈴 木   剛 溝 口   元**

(2)

2010(平成22)年を最後に主だった大会には参加して いない.このような状況を踏まえ,本稿では川崎市内 において,精神障害者スポーツに関して,実際どのよ うな取り組みが地域支援機関で展開されているのか,

また,今後の精神障害者スポーツの展開が見込めるか を明らかにするため調査を実施したので報告したい.

 なお,本稿は次に述べるアンケートを実施した鈴木 と2004年に埼玉県で開催された「彩の国まごころ大会」

と題する第4回全国障害者スポーツ大会を観戦,報告 した一人の溝口10)がともに精神保健福祉士として精神障 害者におけるスポーツの現況を探究することで認識が 一致し,溝口が先行研究を含めた枠組みを構築して,

2名で議論の上,まとめたものである.アンケートの 実施に関しては「立正大学研究倫理ガイドライン」を 順守し,結果を含むアンケートの使用については,関 係者の了承を得ている.

1 .調査概要

 調査は,2017(平成29)年7月1日から7月31日に かけて,川崎市内の精神保健福祉に関係する相談,通 所や訪問,就労支援等を実施している関係機関101か 所,すべてを対象として,郵送法により実施した.市 内精神保健福祉関係機関の内訳は,精神科デイケア実 施医療機関8か所,地域活動支援センター(A型)7 か所,地域活動支援センター(B,C,D型)26か所,

就労継続支援A ・ B型事業所28か所,障害者相談支援 センター28か所,就労援助センター3か所,宿泊型自 立訓練施設1か所である.アンケート調査は以下のも のを用いた.(図1)

精神障害者スポーツに関するアンケート 問1.貴機関において,精神障害者を含む障害者スポーツを実施していますか.

 1.い る(問2へ)  2.いない(問5へ)

問2.貴機関では,どのようなスポーツを実施していますか.

 当てはまる番号すべてに〇をつけて下さい.

 1.陸上  2.水泳  3.卓球  4.ボーリング  5.バレーボール  6.ソフトバレーボール   7.バスケットボール  8.フットサル  9.その他

問3.県内もしくは市内で開催する精神障害者スポーツに関する大会等があれば,参加したいですか.

 ぜひ参加したい  2.参加を検討したい  3.参加は難しい→問4へ

問4.問3で「3.参加は難しい」を選んだ方にお聞きします.参加は難しい理由をお答えください.当てはまる 番号すべてに〇をつけて下さい.

 1.施設内での親睦を図ることが目的のため  2.時間的余裕がないため  3.金銭的余裕がないため   4.スタッフの数が足りないため  5.参加者の数が少ないため 

 6.プログラムとして,スポーツは考えていない  7.その他(     )

問5.問1で「2.いない」を選んだ方にお聞きします. 貴機関において,精神障害者を含む障害者スポーツを 実施していない理由はありますか.当てはまる番号すべてに〇をつけて下さい.

 1.スポーツをできる場所がないため  2.時間的余裕がないため  3.金銭的余裕がないため   4.専門のスタッフがいないため  5.参加者がいないため  6.その他(     )

問6.問5で選んだ課題が解決された場合,実施してみたい精神障害者を含む障害者スポーツはありますか.当て はまる番号すべてに〇をつけて下さい.

 1.陸上  2.水泳  3.卓球  4.ボーリング  5.バレーボール  6.ソフトバレーボール   7.バスケットボール  8.フットサル  9.特にない  10.その他(   )

ご協力ありがとうございました 図 1  アンケート調査

(3)

2 .調査結果

問 1  精神障害者を含む障害者スポーツの実施

問 2  実施しているスポーツの種類

※その他で記載のあった種目

 ソフトテニス,キャッチボール,バトミントン,エ イサー,サーフィン,なわとび,野球,ボッチャ

問 3  精神障害者スポーツに関する大会への参加

問 4  大会への参加が難しい理由

問 5  精神障害者を含む障害者スポーツを実施してい ない理由

いる

37% いない

63%

どのようなスポーツを実施していますか.

ぜひ参加したい 9%

参加は難しい 27%

参加を検討したい 64%

プログラムとして,

スポーツは考えていない 0%

参加者の数が 少ないため

45%

施設内で親睦を 図ることが 目的のため

11%

その他 11%

スタッフの数が 足りないため

11%

金銭的余裕が ないため

11%

時間的な余裕が ないため

11%

その他 12%

金銭的余裕が ないため

16%

参加者が いないため

16%

スポーツをできる 場所がないため

18%

専門のスタッフが いないため

19%

時間的余裕が ないため

19%

発送件数 101か所 / 回収件数 61か所 回収率60.4パーセント 回収内訳 精神科デイケア

地域活動支援センターA型

地域活動支援センターB・C・D型 就労継続支援A・B型事業所 障害者相談支援センター 就労援助センター 宿泊型自立支援訓練施設

2か所4か所 19か所17か所 16か所2か所 1か所

(4)

問 6  課題が解決された場合,実施してみたい精神障 害者を含む障害者スポーツ

まとめ

 以上に示した調査結果をまとめていきたい.精神障 害者スポーツについては,社会参加から競技まで幅広 くとらえている.実際,問1で示したように実施して いるかどうかについては,実施していないが63パーセ ント,実施しているが37パーセントで,約3分の2の 施設では行われていないことが明らかとなった.また,

実施している種目については,卓球が最も多く,次に ボーリング,フットサルとソフトバレーボールの順で あった(問2).

 精神障害者スポーツ大会への参加について問3で示 したように,ぜひ参加したい,参加を検討したいとい う回答を合わせて,約70パーセントあるものの,大会 へ参加が難しい理由として,参加者数が少ない45パー セント,時間的余裕がない,金銭的な余裕がない,ス タッフの数が足りないなどの回答があった(問4).

 問5でスポーツを実施しない理由を尋ねた.その回 答は,時間的な余裕がない,専門的なスタッフがいな い,場所がない,参加者がいないが多く,それらの課 題が解決したら実施してみたいスポーツとしては,卓 球,ボーリング,フットサル等となっている.概ね,

前向きな回答を得られていると考えられる.

 今回の調査では,競技種目については,個人か団体 競技か,交流目的の大会なのか,全国大会へのステッ プとしての大会等,具体的に絞り込んだ質問項目を設 けていないため,参加の動機も変化する可能性がある.

負担なく参加してもらえるような取り組みが必要か検 討する必要があろう.

 市内においては,東京パラリンピック競技大会に向 けて,「かわさきパラムーブメント」の理念を掲げ,障

害者スポーツであるブラインドサッカー,車いすバス ケ,アンプティサッカーなどの競技を体験するイベン トが展開されている.また,精神障害者を対象にした 支援団体が,今年,精神障害者のスポーツ大会として,

以前から開催されていたソフトボール大会から合わせ て,通算40回目を迎えていた.精神障害者当事者団体 が実施してきた卓球交流会については,一時期当事者 団体活動が,休止したため交流会も休止していたが,

支援者の働きかけにより再開した.しかしながら,ス ポーツを実施しているが交流を目的としており,筆者 からの視点では,「競技スポーツ」としての段階にない と映る.交流活動を否定するわけではないが,精神障 害者へのスティグマの払拭や社会参加の推進が望まれ る昨今,当たり前に本格的な競技スポーツにより活躍 する活動が,全国的に報告されてきていることから,

経過を注視していきたい.

 さて,これまでの精神障害者スポーツに関する論考 は主として精神科病院における実践を中心としたもの であった.最近では,パラリンピックや第19回全国障 害者スポーツ大会(2019年,茨城県開催)に,卓球が 正式種目として新たに加わった.団体競技のソフトバ レーボールに続き,個人競技として初めての種目となっ たのである.また,運営基盤や利用者のニーズを含め た精神障害者を対象としたレクリエーション,リハビ リテーションとしてのスポーツという観点ばかりでな く,「競技スポーツ」という捉え方をした上での考察11)12)13) 通所型福祉施設におけるスポーツの実施状況に関する 報告14)もみられるようになってきた.これらについては 稿を改めて論じていきたい.

文 献

1)大井崇弘・四方田清・松山毅・行實志都子 2014 精神障 害者に期待されるスポーツの必要性と課題―ソフトバレー ボール大会を中心に―,順天堂スポーツ健康科学研究,6 巻1号,34-39頁

2)高畑隆 2015 障害者スポーツ大会と精神障がい者,日本 精神科病院協会雑誌,34巻5号,21-27頁

3)高橋春一 1996 精神障害者とスポーツ,月刊福祉,1996 年12月号,28-30頁

4)伊東 秀幸 2012 神奈川県における精神障害者バレー ボール大会10年,田園調布学園大学紀要,第7号,1-16頁 5)前掲論文1)

6)前掲論文2)

7)大西守 2015 精神障がい者スポーツの歴史と今後の課題,

日本精神科病院協会雑誌,34巻5号,15-20頁

8)大西守 2008 精神障害者スポーツとその必要性,臨床ス ポーツ医学,25巻6号,591-594頁

どのようなスポーツを実施していますか.

(n=回答団体数:34)

卓球 22%

特になし 7%

その他 16%

ソフトバレーボール 4%

バレーボール 5% 水泳

5% 陸上 5%

バスケットボール 5%

ボーリング 16%

フットサル 15%

(5)

9)前掲論文4)

10)溝口元・山口雅功・矢澤圭介 2005 全国障害者スポーツ 大会視察記(プロジェクト研究報告書 障害者スポーツに 関する基礎的研究)立正大学社会福祉研究所年報 7号,

71-74頁

11)内田直・高畑隆・宮崎伸一 2002 精神障害者スポーツと 競技性,精神神経学雑誌,104巻12号,1242-1247頁 12)高谷義信 2009 精神障害者の競技スポーツ―その6年間

を振り返って―,スポーツ精神医学,6巻,22-25頁 13)鎗田英樹 2016 精神障がい者を対象とした競技性スポー

ツの現状と課題,スポーツ精神医学,13巻,9-15頁 14)田引俊和 2016 精神障害者スポーツの実施状況,および

課題・ニーズの把握―通所型福祉施設の実態把握を中心に―

立命館産業社会論集,52巻2号,87-97頁

(2019年1月19日受理)

参照

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