平成25年度 スーパーサイエンスハイスクール
S uper S cience H igh school
福岡県立香住丘高等学校
生徒課題研究論文集
平成
25年度
スーパーサイエンスハイスクール 生徒課題研究論文集福岡県立香住丘高等学校
困難な課題ほど克服する価値がある
本校は、平成23年度から文部科学省よりSSH(スーパーサイエンスハイス クール)の指定を受け、理数系教育の充実を図っています。
SSH事業の大きな柱の一つが生徒課題研究です。本校では、数理コミュニケ ーションコースに学校設定教科『SS科学探究』を設定し、科学系部活動と併せ て生徒課題研究を実施しています。平成25年度はSSH・1期生が3年生にな り、これまでに培ってきた「探究する力」・「伝え合う力」を発揮して課題研究の 成果を発表するときが来ました。7月のサマーサイエンスフェスタ(小倉高校コ アSSH事業)では15テーマのポスター発表を実施、4テーマで表彰を受け、
10月には「日本学生科学賞」に13点の科学研究論文を出品し、3テーマで表 彰を受けました。また、11月に実施された福岡県高等学校総合文化祭自然科学 部門研究発表大会では優秀賞を受賞し、2月に実施された九州高等学校生徒 理科 研究発表大会に出場しました。更に、12月には福岡女子大学地域連携センター のご協力により、本校生徒のみならず、中学生3名のポスター発表を含めた地域 連携型の科学研究発表会を開催することができました。
今年度の「生徒課題研究論文集」は、本校のSSH事業の開始から今日までに 蓄積してきた成果を凝縮した論文集であり、いずれも各研究チームが心を込めた 珠玉の論文の数々です。16部の論文をまとめたチームの中には、非常に困難な 課題に挑戦した諸君もいます。どれほど苦闘してここまで辿りついたのか察する に余りある作品もあり、研究に取組んだ生徒諸君や休日を返上して指導・助言を していただいた諸先生方の努力に敬意を表さずにはおられません。
真理の探究や人類の幸福を目指して積み重ねられてきた科学的な営みは、新た な真理を発見するとともに、克服することが困難と思われる課題であっても、そ の英知を結集して解決の糸口を見つけ出してき ました。課題は困難であるほど解 決に向けた価値が大きいものです。これから、自然、環境、技術、社会など、様 々な分野の困難な課題の克服や真理の探究に挑戦する勇気ある諸君の健闘の先に は、明るい未来と将来が見えてくることでしょう。
最後になりましたが、本校のSSH事業や生徒課題研究発表会に、御支援・御 協力をいただきました福岡女子大学、九州大学、九州工業大学、山口大学、北九 州市立大学はじめとする諸大学、研究機関、運営指導委員の先生方、文部科学省、
科学技術振興機構並びに関係機関の皆様に、心より感謝申し上げます。
平成26年2月21日 福岡県立香住丘高等学校 SSH推進課長 辻 和宏
平成25年度 生徒課題研究論文テーマ一覧
課題研究発表テーマ 発表生徒 (所属・学年) 担当教員 頁 物 クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元 中 村 浩 太 (数理・3年) 辻 和宏 1
理 河 北 侑 也 (数理・3年)
① ☆ 第57回 日本学生科学賞福岡県審査 優秀賞受賞 池 田 俊 介 (数理・3年)
物 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究 谷 本 諒 太 (物理部・3年) 辻 和宏 7
理 北 村 啓 伍 (物理部・3年)
② ☆ サマー・サイエンス・フェスタ2012 最優秀賞(藤田記念賞)受賞 花 田 泰 智 (物理部・3年)
物 「逆立ち独楽」等の運動に関する研究 井 上 正 悟 (物理部・2年) 辻 和宏 10
理 梅 﨑 大 介 (物理部・2年)
③ ☆ サマー・サイエンス・フェスタ2013 最優秀賞(藤田記念賞)受賞
物 免震装置に関する実験 川 崎 友 也 (数理・3年) 谷口 和也 15
理 齊 藤 裕 也 (数理・3年)
④ ☆ サマー・サイエンス・フェスタ2013 優秀賞受賞
物 ブーメランの飛行原理と実験的検証 西 田 拓 人 (数理・3年) 野田 正志 19
理 江 川 稜 馬 (数理・3年)
⑤ 竹 野 翔太郎 (数理・3年)
靍 貴 博 (数理・3年)
物 視覚特性に基づく照明に関する 木 村 龍太郎 (数理・3年) 中村 勇佑 25
理 髙 田 彬 人 (数理・3年)
⑥ 西 田 亮 太 (数理・3年)
化 高濃度溶液の凝固点降下現象 元 村 晴 香 (数理・3年) 髙尾 正樹 31 学 ☆ サマー・サイエンス・フェスタ2013 優秀賞受賞 大 坪 朋 矢 (数理・3年)
① ☆ 第57回 日本学生科学賞福岡県審査 努力賞受賞
化 マグネシウム燃料電池の研究 浦 山 卓 也 (数理・3年) 青木 俊一 40
学 江 口 大 貴 (数理・3年)
②
化 地球温暖化モデル実験 太 田 望 (数理・3年) 室井 真人 46 学 ~将来の地球における気温の推測~ 野 口 竜 成 (数理・3年)
③ 橋 口 尚 史 (数理・3年)
山 口 晃 志 (数理・3年)
化 かんすいがグルテンに与える弾性について 多 田 早 織 (数理・3年) 古川 千恵 51
学 工 藤 賢 之 (数理・3年)
④
生 ワサビの辛味成分の実用化 庵 原 佑 介 (数理・3年) 尾辻 亜季 55
物 岡 部 隆 司 (数理・3年)
① ☆ 第57回 日本学生科学賞福岡県審査 努力賞受賞 竹 村 瑞 稀 (数理・3年)
生 ヒドラとプラナリアの再生に関する研究 重 松 大 輝 (数理・3年) 吉松 晶子 61
物 斉 藤 誠 (数理・3年)
② ☆ サマー・サイエンス・フェスタ2013 優秀賞受賞 森 新之介 (数理・3年)
平 山 芙 香 (数理・3年)
生 アサリの水質浄化能力と環境条件 金 洪 恩 (数理・3年) 満永佳菜恵 68
物 田 畑 諒 馬 (数理・3年)
③ 宮 崎 周 (数理・3年)
花 田 知枝美 (数理・3年)
生 食品の殺菌作用 鬼 束 由 梨 (数理・3年) 松山 涼子 73 物 ~新しい洗剤を作ろう~ 片 岡 聡 (数理・3年)
④ 木 村 紗 己 (数理・3年)
久地浦 将 (数理・3年)
谷 口 彩 (数理・3年)
吉 村 恵 理 (数理・3年)
熊 谷 茜 (数理・3年)
研究
1
物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元
1 要旨、概要
本研究においては静電気力に注目し、電子天秤 を用いて逆2乗法則が成立することを実験によっ て検証した。また、クーロンが測定に用いたとさ れる「ねじり秤」に関する資料を収集し、測定装 置として復元した。クーロンが行った実験をこの 装置で再現することが可能となり、クーロンの法 則が発見されたときの状況を理解することができ た。
2 問題提起、研究目的
物理の授業で、万有引力の法則や静電気力と磁 気に関するクーロンの法則を学習した。これらの 力は異なるものであるが、その大きさは距離の2 乗に反比例するという不思議な共通性がある。し かし、これらの法則が成立することを測定実験で 検証する方法は教科書には記載されていない。そ の検証は、非常に困難であることが予測されるが、
測定に取組むことにする。この法則の発見の歴史 には興味深いものがある。教科書によるとクーロ ンは、「ねじり秤」を用いた測定によって静電気力 に関するクーロンの法則を発見した。文献によれ ば、クーロンの「ねじり秤」は非常に敏感な装置 であり、現代に行われた再現実験でも誤差が大き く、距離の-1~-3乗程度になるという結論しか 得られていない。「ねじり秤」は市販されていない ので、文献・資料を基に、「ねじり秤」の復元に取 り組み、測定装置として活用するとともに、科学 史の研究資料とする。
3 研究方法
(1)逆2乗法則の検証
まず初めに、次のような実験を行った。
縦長い長方形の発泡スチロール棒を2つ、塩ビ パイプ、電子天秤、スタンドを各1つずつ用意し、
1つの発泡スチロール棒を電子天秤に固定して、
もう1つの発泡スチロール棒をスタンドで固定す る。それぞれの発泡スチロール棒に塩ビパイプを 1,2回こすって電荷をあたえ、そして、スタン ドに固定してある発泡スチロール棒を電子天秤に 固定してある発泡スチロール棒にゆっくりと近づ
けていき、電子天秤の秤量の変化により、引力や 反発力を調べた。
しかし、この方法では電荷を発泡スチロール棒 の上端に保持することができず、有効なデータは 得られなかった。
これはおそらく、電荷が発泡スチロール棒の表 面に広がり空気中に放電したためだと考えられる。
そこで、鉄球が電荷を保持できることを確かめた 上で、発泡スチロールの上端に鉄球を置き、上か らスタンドに固定したエボナイト棒を近づけてい くという方法をとった。しかしこれも、帯電はし たがデータのブレが大きすぎたために、有効とは いえなかった。これも、鉄球の電荷が鉄球の接触 面から発泡スチロールの表面に広がってしまった と考えられる。
次に、確実に帯電しそうなエボナイト棒を鉄球 の代わりに用いて、この二つの棒を、平行にした り垂直にしたりして近づけていくという方法を用 いた。しかしこれも同様に、データのずれが大き すぎたために、有効なデータであるとは、いえな かった。
最終的に、エボナイト棒を直接電子天秤に近づ ける下記の方法を採用した。
①エボナイト棒を獣皮で摩擦して、負に帯電させ る。
②スタンドで固定したエボナイト棒を電子天秤に 近づける。
③電子天秤の金属板が静電誘導によって静電気力 を受けて秤量が変化する。その様子を確認しな がら天秤とエボナイト棒の距離を読み取る。
④横軸にエボナイト棒と天秤の距離、縦軸に天秤 の値、つまり静電気力の大きさを示すグラフを 作成する。
使用した電子天秤とエボナイト棒
クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元
3年 中村 浩太、 河北 侑也、 池田 俊介
物理① クーロンの法則の検証と 「ねじり秤」 の復元 1
2
物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元
(2)「ねじり秤」の製作と実験方法
教科書や文献によるとクーロンは、「ねじり秤」
を用いた測定によって静電気力の式を発見した。
しかし、ねじり秤は市販されていないので、文献 や資料を基に、「ねじり秤」の復元に取り組み、測 定装置として活用するとともに、科学史の研究資 料とする。
①ねじり秤に関する資料
教科書には、クーロンの「ねじり秤」として、
下記のイラストが記載されている。しかし、復元 するために必要な資料は非常に少ない。
教科書に記載されているクーロンのねじり秤
ねじり秤(新潟大学ホームページ)
ねじり秤に関す情報をインターネットで検索し たところ、新潟大学の博物館に復元されたねじり 秤が保管されていることがわかった。この写真は、
復元するための資料とした。
②ねじり秤の動作原理
A
D B C
金属球Aに電荷を与えると、金属棒でつながれ た金属球Bも帯電する。糸でつるされた金属球C、
Dは金属球Bに引き寄せられ、金属球B、Cが接 触すると金属球Cは金属球Bと同符号に帯電する ため金属球CはBから遠ざかる。
糸のねじれ角から静電気力の大きさを計算する ことができる。
自作した「ねじり秤」
物理① クーロンの法則の検証と 「ねじり秤」 の復元
2
2
物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元
(2)「ねじり秤」の製作と実験方法
教科書や文献によるとクーロンは、「ねじり秤」
を用いた測定によって静電気力の式を発見した。
しかし、ねじり秤は市販されていないので、文献 や資料を基に、「ねじり秤」の復元に取り組み、測 定装置として活用するとともに、科学史の研究資 料とする。
①ねじり秤に関する資料
教科書には、クーロンの「ねじり秤」として、
下記のイラストが記載されている。しかし、復元 するために必要な資料は非常に少ない。
教科書に記載されているクーロンのねじり秤
ねじり秤(新潟大学ホームページ)
ねじり秤に関す情報をインターネットで検索し たところ、新潟大学の博物館に復元されたねじり 秤が保管されていることがわかった。この写真は、
復元するための資料とした。
②ねじり秤の動作原理
A
D B C
金属球Aに電荷を与えると、金属棒でつながれ た金属球Bも帯電する。糸でつるされた金属球C、
Dは金属球Bに引き寄せられ、金属球B、Cが接 触すると金属球Cは金属球Bと同符号に帯電する ため金属球CはBから遠ざかる。
糸のねじれ角から静電気力の大きさを計算する ことができる。
自作した「ねじり秤」
3
物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元
③ねじり秤の材料
器具の構造と文献の内容を考察した結果、以 下の材料を使用することにした。
・容器
容器は二つの金属球どうしが引き寄せあっ たり、反発しあったりする動きが観察できるよ うに、透明のガラスを使用する。
大きさは、用いる金属球の大きさにあわせて適 当な大きさのものを用いる。
・帯電球
帯電球BCは初め、電荷が移りやすそうな鉄 を使用した。二つの鉄球をそれぞれ糸で吊るし、
帯電させて静電気力が働くかどうか確認を行 ったところ、肉眼では実際に力が働いているか 確かめることができなかった。次に発泡スチロ ールを使用した。また、直径が約1センチメー トルの発泡スチロールの球では、鉄球で行った 同じ方法で二つの発泡スチロールの球の間に 静電気力が働いていることを確認できた。そこ で、実際にねじり秤で使用するには1センチメ ートルでは小さすぎるため、直径が約4センチ メートルの発泡スチロールの球で、ねじり秤に 設置してエボナイト棒を摩擦によって帯電さ せるという上に記載したやり方とは異なった 方法で発泡スチロールの球に静電気力が働く か確かめた。しかし、静電気力による糸のねじ りは確認できなかった。原因として、発泡スチ ロールの球を大きくしたことにより、球の表面 積が増加して電荷が空気中に逃げやすくなっ たと考えられる。次に、鉄球をねじり秤に設置 して静電気力を確かめたところ、ねじれが生じ、
2物体間に静電気力が働いていることが確認 できた。これは、ねじり秤が微小な力を測定で きる構造であるため、糸で吊るす実験では静電 気力が観察できなかった鉄球でも、ねじり秤を 使えば力を観察できたと考えられる。発泡スチ ロール、共に2回確認の実験を行ったが、初め の実験で静電気力を確認するには、より大きな 力が必要であったと考えられる。また、静電気 力が働く鉄球が持つ電気量が分かるように、帯 電球ADも鉄球にした。導体には、帯電した導 体同士を接触させると、電気量がそれぞれ半分 ずつになるという性質があり、さらに導体で繋 がれた帯電球AB、CD同士も電気量は同じに なる。そのため、実験中触れることができない
帯電球BCの電気量を、帯電球Aの電気量を測 ることで知ることができる。
・帯電球の接合
帯電球C、Dをつなげるものは、初めは、電 荷の移動をなくすため竹の棒を使用した。帯電 球CからDに電荷が移動しないようにした理 由は、電荷を帯電球AからBへ、次にBからC に移動させることで、BとCの間に静電気力が 働きねじれが生じると仮定したためである。帯 電球Dに電荷が移動していないかクーロンメ ーターで確認したところ、帯電していたため電 荷の移動があったと分かった。電荷の移動を防 ぐため、帯電球と竹の棒を絶縁する必要がある と考えた。次に、竹の棒と帯電球の間にゴムを 挟んだ。そして同じようにクーロンメーターで 帯電球Dの電荷を調べたところ、帯電している ことが分かった。今回も電荷が移動した原因と して電荷は表面も移動するためだと考えた。以 上から、電荷を移動させて、C,Dの電気量を 等しくするため針金を使用した。金属球A,B を取り付ける棒も、電荷を移動させるように金 属棒を使用する。
・容器の蓋
容器の蓋は、初め、加工しやすい木の板を丸 く切って使用した。しかし、木の板を容器にし っかりと合うような形に加工することが難し く、その蓋にガラス管を取り付け、金属球をつ るした時にその重さに耐えられるような強度 もなかったため、強度が高いアクリル板を使用 した。これは、容器の高さを調整するもので使 用したアクリル板と同じ大きさにし、その両方 のアクリル板の四隅に容器を固定できるよう なねじを取り付け、蓋と台座が一体となるよう にした。
・ねじり糸
ねじり秤をつるす糸は初め、ビニール製のテ ープを細く裂いて使用した。このビニール製の テープは刺しゅう糸などとは異なり糸にねじ れがないためねじり秤の条件に合うと考えた。
しかし、帯電球である鉄球をつるして実験を行 うと、徐々にビニールが伸びて、糸が切れてし まい鉄球をつるすには不適だった。鉄球の重さ にも耐えることができ、ねじれに対する反発力 が大きいガラス糸を使用した。
・ねじり糸の保護材
物理① クーロンの法則の検証と 「ねじり秤」 の復元 3
4
物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元
ねじり秤を吊るす糸を覆う管は、秤がよりねじ れやすくなるようにするためと、もし管(糸)
が短いと指で触れる管の上部に電荷がにげや すくなるとかんがえ、これらの理由から管は長 くした。
・ねじれ調整ねじ
ねじれ秤が静止する位置を操作するため、中 央のガラス管の上端ネジに秤を吊るしたニク ロム線を巻き付け、置いた。このネジを捻るこ とで、秤の静止位置を操作できる。
・水平調整ねじ
容器の高さを調節するものは、金属球C、D をつるすガラス糸がガラス管に接触して金属 球A、Bのねじれに影響を与えないようにする 必要がある。ねじり秤の容器の下に透明のアク リル板を敷いて、アクリル板に穴をあけ、アク リル板の四隅にねじを通す。ねじを回し高さを 調節する。
④ねじり秤の使用方法
ア.装置の中を真空にし、鉄球C,Dを静止さ せる。このとき、鉄球Cと鉄球Bの間は数ミ リ開けておき、ねじり秤のねじれは無い。
イ.摩擦によってエボナイト棒を帯電させ、固 定した金属球Aに電荷を与える。そのとき金 属棒でつながれた鉄球Bも帯電し、鉄球Aと 鉄球Bの電気量は等しくなる。
ウ. クーロン力により、固定した鉄球Bと秤の 金属球Cが接触し、両方の鉄球B、Cの電荷 の符号が同じになり反発し、ねじれが始ま る。.鉄球Cが離れているときに鉄球Bに電 荷を与えると、反発力が鉄球Cの運動量の増 加を促し、鉄球Cがねじれて再び戻ってくる ときの運動量も増加するために鉄球Cが鉄 球Bに衝突し、鉄球Cの動きを乱すと考え、
鉄球Cが鉄球Bに近づいているタイミング で帯電させる。
エ.秤が静止するまで鉄球Bに電荷を与える。
静止したら鉄球Bの電荷を量り、ねじれ角か ら、二つの鉄球の距離を計算する。
オ.測定した値を用いて、クーロンの法則比例 定数を計算する。
⑤自作した「ねじリ秤」の動作
・糸がねじれていない状態で、金属球B,C
を接触させる。
・金属球を帯電させると、静電気力によって 属球B、Cは遠ざかる。
4 結果
(1)逆2乗法則の検証
帯電棒を電子天秤に近づけて測定した静電力の 大きさと距離の関係は、以下の通りである。
物理① クーロンの法則の検証と 「ねじり秤」 の復元
4
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物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元
ねじり秤を吊るす糸を覆う管は、秤がよりねじ れやすくなるようにするためと、もし管(糸)
が短いと指で触れる管の上部に電荷がにげや すくなるとかんがえ、これらの理由から管は長 くした。
・ねじれ調整ねじ
ねじれ秤が静止する位置を操作するため、中 央のガラス管の上端ネジに秤を吊るしたニク ロム線を巻き付け、置いた。このネジを捻るこ とで、秤の静止位置を操作できる。
・水平調整ねじ
容器の高さを調節するものは、金属球C、D をつるすガラス糸がガラス管に接触して金属 球A、Bのねじれに影響を与えないようにする 必要がある。ねじり秤の容器の下に透明のアク リル板を敷いて、アクリル板に穴をあけ、アク リル板の四隅にねじを通す。ねじを回し高さを 調節する。
④ねじり秤の使用方法
ア.装置の中を真空にし、鉄球C,Dを静止さ せる。このとき、鉄球Cと鉄球Bの間は数ミ リ開けておき、ねじり秤のねじれは無い。
イ.摩擦によってエボナイト棒を帯電させ、固 定した金属球Aに電荷を与える。そのとき金 属棒でつながれた鉄球Bも帯電し、鉄球Aと 鉄球Bの電気量は等しくなる。
ウ. クーロン力により、固定した鉄球Bと秤の 金属球Cが接触し、両方の鉄球B、Cの電荷 の符号が同じになり反発し、ねじれが始ま る。.鉄球Cが離れているときに鉄球Bに電 荷を与えると、反発力が鉄球Cの運動量の増 加を促し、鉄球Cがねじれて再び戻ってくる ときの運動量も増加するために鉄球Cが鉄 球Bに衝突し、鉄球Cの動きを乱すと考え、
鉄球Cが鉄球Bに近づいているタイミング で帯電させる。
エ.秤が静止するまで鉄球Bに電荷を与える。
静止したら鉄球Bの電荷を量り、ねじれ角か ら、二つの鉄球の距離を計算する。
オ.測定した値を用いて、クーロンの法則比例 定数を計算する。
⑤自作した「ねじリ秤」の動作
・糸がねじれていない状態で、金属球B,C
を接触させる。
・金属球を帯電させると、静電気力によって 属球B、Cは遠ざかる。
4 結果
(1)逆2乗法則の検証
帯電棒を電子天秤に近づけて測定した静電力の 大きさと距離の関係は、以下の通りである。
5
物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元
測定値をエクセルでグラフ化し近似式を求めた。
その結果、静電気力の大きさは、エボナイト棒 では距離の-1.8乗、塩化ビニル棒では距離の
-1.9乗に比例している。
(2)自作した「ねじり秤」による実験結果
「ねじリ秤」の内部を真空にすることはできな かったが、実験“イ”・“ウ”を行った。
実験“イ”を行った結果、鉄球Cは鉄球Bから 離れ、その後折り返してきて、鉄球Cに近づくが、
再び鉄球Cから離れた。その後も、この鉄球Cの 単振動のような動きが続いた。
実験“ウ”では、やがて鉄球Cは静止した。そ してさらに電荷を与えると、再び振動し、鉄球C はさらに鉄球Bから遠い位置に静止した。
これらのことから、自作した「ねじり秤」にお いて2物体間にクーロン力が働き、電気量が増え ればその力の大きさも大きくなるということが分 かった。
5 考察
(1)逆2乗法則の検証
この時の指数の値が-2乗でないのは、時間と 共に帯電体の電荷が空気中に放電したためだと考 えられる。また、クーロンの法則は、二つの電荷 は点電荷であるという前提だが、帯電させたエボ ナイト棒は表面に電荷が広がっており、対象物で ある金属板の静電誘導している部位も広がりを持 つため、この二つは点電荷とみなすことが難しく なり、このようなずれが生じたと考えられる。
そこでまず、エボナイト棒の先端だけを獣皮で こすって帯電させ、エボナイト棒を点電荷とみな
し、エボナイト棒をスタンドに縦向きで固定して、
実験を行った。このとき、金属板は点電荷ではな いが、電気力線を考えると、このときのエボナイ ト棒と金属板は点電荷同士の電気力線に似た電気 力線を形成するため、点電荷同士の状態に近いと いえる。しかし、本当にエボナイト棒の先端だけ に電荷がたまっているのかを確認することができ ず、データも有効であるとはいえなかった。
また、実験後にスタンドの電荷をクーロンメー ターで量ったところ、微量の電荷がスタンドにた まっていたことが分かった。これは、スタンドと エボナイト棒の接点はゴムで絶縁してあるが、大 部分が金属製のスタンドに電荷が引き寄せられ、
移ったためだと考えられる。そのため、静電気力 の大きさと距離の2乗の逆数の関係に誤差が生じ たと考えた。
(2)自作した「ねじり秤」の動作
「ねじり秤」の製作は、試行錯誤を繰り返しな がら多くの時間を費やした。その結果、この装置 の動作原理を理解することができ、完成した装置 が動作原理通りに動くことを確認することができ た。しかし、自作したこの装置で定量的な測定に よるクーロンの法則の検証は、まだできていない。
糸のねじれ角の大きさから静電気力の大きさを計 算する方法を研究し、装置をさらに改良するなど、
今後も継続した研究が必要である。
6 結論と課題
本研究においては、逆2乗法則のうち静電気力 に注目し、その検証を行った。電子天秤を用いた 定量実験では、一定の精度で逆2乗法則が成立す ることを容易に検証することができることを確認 した。
しかし、クーロンがこの法則を発見した18世 紀においては、電子天秤などの精密電子機器は存 在していないことを考えると、「ねじり秤」による 測定が科学の発展に非常に大きな意義を持ってい たと言える。「ねじり秤」を自作したことによって、
この法則の歴史的発見がどのようにして行われた かを、詳細に知ることができた。一方で、現代に 行われた再現実験でも誤差が大きく、距離の-1
~-3乗程度になるという結論しか得られていな いことから、クーロンは論理的考察から逆2乗法 則を信じるようになり、それを検証しようとして 実験を行い、多くの測定データの中から最も信頼
物理① クーロンの法則の検証と 「ねじり秤」 の復元 5
6
物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元
できるデータだけを報告したと考える研究者もあ る。
この議論について結論を出すためには、「ねじリ 秤」による定量測定の信憑性を確認することが必 要であり、復元材料の選択や装置を動作させる方 法について、更に研究を深める必要がある。
7 参考文献
・教科書「物理Ⅱ」数研出版
・霜田光一『歴史をかえた物理実験』
(丸善、1996年)
・新潟大学博物館ホームページ
8 謝辞
今回、「ねじり秤」によるクーロンの法則の検証 実験を行うにあたって多くの方々に協力してもら いました。まず、私たちの研究を指導していただ いた 辻 和宏先生 には、実験のテーマを決め た後から、実験を正確に行える環境を作っていた だきました。また、自分たちではどうしようもな く行き詰ったときに、先生の視点からアドバイス をもらいました。そして、校内の中間発表会では、
大学・高校の先生方からも新しい考え方や視点を 指摘していただき、問題解決の大きな助けになり ました。私たちの研究に協力していただき、あり がとうございました。
物理① クーロンの法則の検証と 「ねじり秤」 の復元
6
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物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元
できるデータだけを報告したと考える研究者もあ る。
この議論について結論を出すためには、「ねじリ 秤」による定量測定の信憑性を確認することが必 要であり、復元材料の選択や装置を動作させる方 法について、更に研究を深める必要がある。
7 参考文献
・教科書「物理Ⅱ」数研出版
・霜田光一『歴史をかえた物理実験』
(丸善、1996年)
・新潟大学博物館ホームページ
8 謝辞
今回、「ねじり秤」によるクーロンの法則の検証 実験を行うにあたって多くの方々に協力してもら いました。まず、私たちの研究を指導していただ いた 辻 和宏先生 には、実験のテーマを決め た後から、実験を正確に行える環境を作っていた だきました。また、自分たちではどうしようもな く行き詰ったときに、先生の視点からアドバイス をもらいました。そして、校内の中間発表会では、
大学・高校の先生方からも新しい考え方や視点を 指摘していただき、問題解決の大きな助けになり ました。私たちの研究に協力していただき、あり がとうございました。
1
物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究
1 動機及び目的
ミルクの雫が液面に落下すると、ミルククラウ ンが形成される。この現象を調べてみると、落体 によって形成されるクレーターの形成過程と類似 点があることがわかった。ミルククラウンと惑星 クレーターのスケール比は107 程度であり、類似 した現象であったとしても、スケール比を超えた 共通法則が成立するのか疑問である。
本研究では、流体や固形物によって形成される 衝突クレーターについて測定実験を行うことによ り、共通する物理法則が存在するかを解明する。
2 原理
落体が液面や地面に衝突すると、クラウンやク レーターが形成される。これらのクラウンやクレ ーターの形成には、その大きさに関係なく共通の 法則性(スケール変換不変則)があると仮説を立 て、落体の運動エネルギー・密度とミルク(ヨー グルト)クラウンやクレーターの大きさを測定・
比較し、関係式を検証する。
〈スケーリング則について〉
円の面積の公式πr 2 は、円の大きさに関係なく 成立する。自然現象において、大きさに関係なく 成立する関係式が見つかれば、モデル実験によっ
て得られた結果から、スケールの異なる現象を予 測することができる。
物理の分野でこのスケーリング則が重要なのは、
同じ現象を考えるときに指数n(円の公式では2)
が多くの状況で普遍的な値をとり、定数部分(円 の公式ではπ)が個別の状況を反映しているから である。
クレーターの場合は次元解析より、クレーター の面積Sを落体の運動エネルギーK・密度ρ及び 重力加速度gを用いて表すと、
S=α
g K
ρ
(αは定数)となる。この関係式を実験によって検証する。
3 方法
<砂団子のクレーター形成実験>
岩石を使用しても衝突時に壊れない。そのため この実験では衝突時に壊れやすく、クレーターを 形成する砂団子を用いた。
~手順~
① グラウンドで土を含んだ砂を採取し、荒い「ふ るい」で小石を取り除く。
② 水を含ませてボール状にして乾燥させる。
③ 落下面にも同じ砂で均等な深さの層を作る。
④ 砂団子の質量と落下させる高さを測定する。
⑤ 砂団子を落下させ、形成されたクレーターの 直径をものさしで測定する。
衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究
物理部・3年 谷本 諒太、 北村 啓伍、 花田 泰智
物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究 1
2
物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究
同様の方法で、乾燥していない砂団子について も、測定を行う。
砂団子のクレーター形成実験
<流体のクレーター形成実験>
固体の落体だけでなく、流体の場合でも関係式 が成り立つか調べるために、形成されたクレータ ーを測定しやすいヨーグルトとマヨネーズを使用 した。
~手順~
① 落下面には落下と同じ物質の深さを決めてシ ャーレに入れる。
② スタンドに固定したピペットを用いて物質を 滴下し、形成されたクレーターの直径をノギ スで測定する。
③ マヨネーズについては、食酢を混ぜることに よって粘性を変化させて測定を行う。
4 結果と考察
クレーター面積S、衝突する物体の運動エネル ギーK、密度ρ、重力加速度g の関係を次元解
析によって求めると、クレーター面積Sは、
𝐾𝐾
𝜌𝜌𝜌𝜌 の平方根に比例することがわかる。
この関係を対数グラフで示す。
このグラフから、乾燥砂団子によるクレーター の面積Sは
S = 1.0 �
𝐾𝐾𝜌𝜌𝜌𝜌
�
0.50となり、次元解析による式が成り立っている。
流体(ヨーグルトやマヨネーズ)や湿った砂団 子については、関係式からの誤差があると考える と、その理由についての考察は以下の通りである。
物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究
2
2
物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究
同様の方法で、乾燥していない砂団子について も、測定を行う。
砂団子のクレーター形成実験
<流体のクレーター形成実験>
固体の落体だけでなく、流体の場合でも関係式 が成り立つか調べるために、形成されたクレータ ーを測定しやすいヨーグルトとマヨネーズを使用 した。
~手順~
① 落下面には落下と同じ物質の深さを決めてシ ャーレに入れる。
② スタンドに固定したピペットを用いて物質を 滴下し、形成されたクレーターの直径をノギ スで測定する。
③ マヨネーズについては、食酢を混ぜることに よって粘性を変化させて測定を行う。
4 結果と考察
クレーター面積S、衝突する物体の運動エネル ギーK、密度ρ、重力加速度g の関係を次元解
析によって求めると、クレーター面積Sは、
𝐾𝐾
𝜌𝜌𝜌𝜌 の平方根に比例することがわかる。
この関係を対数グラフで示す。
このグラフから、乾燥砂団子によるクレーター の面積Sは
S = 1.0 �
𝐾𝐾𝜌𝜌𝜌𝜌
�
0.50となり、次元解析による式が成り立っている。
流体(ヨーグルトやマヨネーズ)や湿った砂団 子については、関係式からの誤差があると考える と、その理由についての考察は以下の通りである。
3
物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究
<クレーターの形成に関する定性的考察> 乾燥砂団子は特性が安定しており、分布幅が少 ない測定値を得ることができた。流動物(ヨーグ ルト、マヨネーズ)は、クレーター形成直後から、
中央の窪みに向かってクレーター壁が流動するた め、クレーター面積Sの測定値は実際より大きく 測定された。その変化は濃度や気温による影響が ある。また、水分を含んだ砂団子は砂粒が散乱し にくいので、クレーター面積Sの測定値は小さく なる。
しかし、この関係式に含まれていない別の要因 が存在する可能性もある。
5 反省と課題
今回の研究では、300 個以上の落体によるクレ ーターを計測し、関係式を検証することができた。
落下物の衝突によって形成されるクレーターの 面積は、スケール変換が可能な共通法則が一定の 範囲内で存在しており、スケール比103 程度の範 囲内で法則性が確認できた。乾燥砂団子のクレー ターについては、次元解析によって得られた関係 式の係数と指数を決定することができた。
流体や湿気を含んだ砂団子によるクレーターの 形成には、考慮すべき要因が他にもあり、正確な 検証はできていない。今後の課題は、流体や湿気 を含んだ固形物を使って検証すること、落下面の 密度がクレーターの形成にどのように影響するか を調べる必要がある。
参考文献
『スケーリング理論とは何か? 有限系から無限 系を見る方法』 福島孝治 (2006)
『氷天体の衝突破壊とクレーター形成過程』
荒川政彦 (2008)
物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究 3
1
物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究
1 要旨、概要
「逆立ち独楽」が回転によって逆立ちする現象 を考察し、高校生でも理解できる説明方法を考案 した。研究は基本的な回転現象から考察を行い、
逆立ち独楽の回転原理の考察に応用することを試 みた。研究対象は「普通の独楽」、「はまき型の物 体」、「ゆで卵」、「逆立ち独楽」の四つを用いた。
これらの物体の回転原理を比較・検討して共通点 と相違点を整理することにより回転する物体の運 動を総合的に分析する。さらに、未知の物体の回 転にも応用できる可能性を示唆する。
2 問題提起、研究目的
「逆立ち独楽」がどのような過程を経て逆立ち という運動が起きるのか疑問に思った。「独楽」の 運動については、大学のテキストではオイラー方 程式を用いて解説されており、一般の高校生は理 解することが困難な高等数学が用いられている。
このため、高校で学ぶ物理の内容で理解できるよ うに説明できないかと考え、研究を行った。「逆 立ち独楽」の回転のように複雑な回転運動であっ ても、基本的な回転運動と比較・考察することに より、現象を細分化しながら分析することができ れば、その運動原理を解明し他の回転運動の考察 にも応用できる。
【説明のための座標軸等の定義】
x,y→ 水平面内の座標軸 z → 鉛直な軸
G → 重心
O → 中心
P → 独楽と床との接地点 Q → 取手と床の接地点
N → 垂直抗力
Fx → Pでの摩擦 物体の質量 → m 重力加速度 → g
逆立ち独楽
3 研究方法
「逆立ち独楽」の運動は複雑であり、単純なモ デルから考察を深めていく必要がある。比較対照 するものとして「普通の独楽」・「はまき型の物 体」・「ゆで卵」を選定した。各物体の回転原理を 論理的に考察し、「逆立ち独楽」との共通点・相違 点を見つけて、回転現象を解明する。
( 1 )
「普通の独楽」についてP
普通の独楽は回転軸に対して対称性があるの で、床との接点Pは、必ず回転軸上にある。重力 と垂直抗力の「不安定なつり合い」が成立する。
( 2 )
「はまき型の物体」について「はまき型の物体」とは、重心に対して左右の 質量がつり合っておらず、水平な面に静止させた とき傾いている物体のことを指す。
実験
「はまき型の物体」に印をつけ、z軸回転とは 別の方向に回転が起こるか市販のカメラを用いて 高速連写(30枚/秒)し、観察する。
「逆立ち独楽」等の運動に関する研究
物理部・2年 井上 正悟、 梅﨑 大介
OG mg
物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究
1
1
物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究
1 要旨、概要
「逆立ち独楽」が回転によって逆立ちする現象 を考察し、高校生でも理解できる説明方法を考案 した。研究は基本的な回転現象から考察を行い、
逆立ち独楽の回転原理の考察に応用することを試 みた。研究対象は「普通の独楽」、「はまき型の物 体」、「ゆで卵」、「逆立ち独楽」の四つを用いた。
これらの物体の回転原理を比較・検討して共通点 と相違点を整理することにより回転する物体の運 動を総合的に分析する。さらに、未知の物体の回 転にも応用できる可能性を示唆する。
2 問題提起、研究目的
「逆立ち独楽」がどのような過程を経て逆立ち という運動が起きるのか疑問に思った。「独楽」の 運動については、大学のテキストではオイラー方 程式を用いて解説されており、一般の高校生は理 解することが困難な高等数学が用いられている。
このため、高校で学ぶ物理の内容で理解できるよ うに説明できないかと考え、研究を行った。「逆 立ち独楽」の回転のように複雑な回転運動であっ ても、基本的な回転運動と比較・考察することに より、現象を細分化しながら分析することができ れば、その運動原理を解明し他の回転運動の考察 にも応用できる。
【説明のための座標軸等の定義】
x,y→ 水平面内の座標軸 z → 鉛直な軸
G → 重心
O → 中心
P → 独楽と床との接地点 Q → 取手と床の接地点
N → 垂直抗力
Fx → Pでの摩擦 物体の質量 → m 重力加速度 → g
逆立ち独楽
3 研究方法
「逆立ち独楽」の運動は複雑であり、単純なモ デルから考察を深めていく必要がある。比較対照 するものとして「普通の独楽」・「はまき型の物 体」・「ゆで卵」を選定した。各物体の回転原理を 論理的に考察し、「逆立ち独楽」との共通点・相違 点を見つけて、回転現象を解明する。
( 1 )
「普通の独楽」についてP
普通の独楽は回転軸に対して対称性があるの で、床との接点Pは、必ず回転軸上にある。重力 と垂直抗力の「不安定なつり合い」が成立する。
( 2 )
「はまき型の物体」について「はまき型の物体」とは、重心に対して左右の 質量がつり合っておらず、水平な面に静止させた とき傾いている物体のことを指す。
実験
「はまき型の物体」に印をつけ、z軸回転とは 別の方向に回転が起こるか市販のカメラを用いて 高速連写(30枚/秒)し、観察する。
「逆立ち独楽」等の運動に関する研究
物理部・2年 井上 正悟、 梅﨑 大介
OG mg
2
物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究
( 3 )
「ゆで卵」について「ゆで卵」は「はまき型の物体」と同様に、重 心に対して左右の質量がつり合っておらず、水平 な面に静止させたとき傾いている。「ゆで卵」は尖 っている部分を水平にし、回転させると90度回 転して立ち上がる。
実験
段ボールを円形に加工し、それを積み重ねるこ とで「ゆで卵」に近い模型を作製した。作成した 模型を用いて「ゆで卵」の回転をより大きなスケ ールで行い、運動を簡単に説明できないか考察を 行った。また、どのような条件が立ち上がること に必要なのか、製作の過程から考察を行った。
( 4 )
「逆立ち独楽」について「逆立ち独楽」は、扁平な楕円体の上部を切断 した部分に回転させるための取手がついていて、
楕円体の中心と重心は一致していない。取手を上 にしたとき、重心が最も低い状態になって静止す る。
実験
・「逆立ち独楽」を回転させ、市販のカメラを用い て高速連写(30枚/秒)し、逆立ちする過程を撮 影した。
・ガラス板に洗剤を塗り、摩擦力を小さくした状 態を作る。その上で「逆立ち独楽」を回し、逆立 ちするかどうかを観察した。
・スポンジゴムを用いることで、反発係数が床よ りも小さい状態にした。その上で「逆立ち独楽」
を回し、逆立ちするかどうかを確認した。
・電子天秤の上で独楽を回し、逆立ちする瞬間に、
静止した状態よりも電子天秤の値が変化するかど うかを観察した。
・取手にマジックペンのキャップをつけ、回転し た時の質量が重心に対して左右で釣り合うように して「逆立ち独楽」を回し、どのように回転する かを観察した。
今回は、「逆立ち独楽」の運動をカメラやビデ オで撮影し、通常の独楽の回転と比較することに より、相違点を整理した。また、逆立ちする原因 を特定するため、摩擦係数や反発係数が異なる条 件で回転の様子を比較・確認した。これらの情報 を総合して逆立ち独楽の回転原理を説明するため の考察を行った。
4 結果
( 1 )
「普通の独楽」について「普通の独楽」は、回転速度が低下すると、回 転軸が徐々に傾いて、独楽の重心は低い位置に移 動する。
( 2 )
「はまき型」の物体について「はまき型」の物体は力を加えたz軸方向の回 転だけでなく、同時にx軸方向の回転も起こる。
( 3 )
「ゆで卵」について模型の卵が回転して立ち上がるためには、模型 の形状を卵に近づけることで立ち上がりやすく なった。
( 4 )
「逆立ち独楽」について・Z軸回転に対してx軸回転は非常に緩やかに進 んでいた。また逆立ちが完成する直前に「逆立ち 独楽」の取手部分と床との間で反発が起こってい た。
・床の反発係数が小さいと、x軸回転は起こった が、逆立ちまでは至らなかった。
・x軸回転が起こっている間だけ電子天秤に表示 される値が、静止している状態よりも大きく表示 された。
・「逆立ち独楽」を加工して重心Gを中心Oに近 づけると、取手が床と平行になるまでx軸回転が 起こるが、その後x軸回転は維持されず、z軸回 転のみ維持される。
静止
O G mg N
物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究 2
3
物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究
5 考察
( 1 )
「普通の独楽」について独楽の重心と接地点は一直線上に並んでいる。
つまり、独楽に働いている重力と垂直抗力は向か い合って働いている。独楽をz軸方向に回転させ たとき、異なる方向の外力が少し加わっただけで 独楽のz軸回転軸が鉛直に保たれなくなり、独楽 は傾き始める。そして、最終的に回転を続けるこ とができなくなる。これは「普通の独楽」のz軸 回転軸が傾いたとき、接地点が移動することがで きないため、z 軸回転軸を鉛直に保つことができ ないからである。
( 2 )
「はまき型の物体」について「はまき型の物体」は自然な状態で静止させた 場合は、図のように長軸が傾いた状態で静止する。
「はまき型」の物体をz軸方向に回転させると、
鉛直回転軸は重心Gを通る。このとき接地点Pと はGは同一円直線上にないため接地点Pに動摩擦 力Fxがはたらく。このため動摩擦力Fxによって 水平軸回転が生じる。鉛直軸回転は動摩擦力 Fx によって減速し、水平軸回転は徐々に加速する。
( 3 )
「ゆで卵」について「ゆで卵」を静止させた場合は「はまき型」物 体と同様に、長軸が傾いた状態で静止する。
そのため、「ゆで卵」を真上から見た状態で反 時計まわりに回転させると「はまき型の物体」と 同様に、動摩擦力 Fx がはたらき水平軸回転が生 じる。このとき、水平軸回転は徐々に加速し、鉛 直軸回転は減速する。また、接地点Pに接してい る部分は、鉛直軸回転によるx軸の正の向きにす べると同時に、水平軸回転によってx軸の負の向 きにすべっている。
その結果、接地点Pにおいて鉛直軸回転と水平 軸回転の速さが等しくなる瞬間が訪れる。この瞬 間、接地点Pは床に対して静止し、接地点Pに静 止摩擦力がはたらく。そのため、静止していた重 心Gと接地点Pが床に対して同時に静止する必要 が生じる。この条件が満たされるのは、静止した
静止 P
G
x
y z
P G N
ω
zω
y 物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究3
3
物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究
5 考察
( 1 )
「普通の独楽」について独楽の重心と接地点は一直線上に並んでいる。
つまり、独楽に働いている重力と垂直抗力は向か い合って働いている。独楽をz軸方向に回転させ たとき、異なる方向の外力が少し加わっただけで 独楽のz軸回転軸が鉛直に保たれなくなり、独楽 は傾き始める。そして、最終的に回転を続けるこ とができなくなる。これは「普通の独楽」のz軸 回転軸が傾いたとき、接地点が移動することがで きないため、z 軸回転軸を鉛直に保つことができ ないからである。
( 2 )
「はまき型の物体」について「はまき型の物体」は自然な状態で静止させた 場合は、図のように長軸が傾いた状態で静止する。
「はまき型」の物体をz軸方向に回転させると、
鉛直回転軸は重心Gを通る。このとき接地点Pと はGは同一円直線上にないため接地点Pに動摩擦 力Fxがはたらく。このため動摩擦力Fxによって 水平軸回転が生じる。鉛直軸回転は動摩擦力 Fx によって減速し、水平軸回転は徐々に加速する。
( 3 )
「ゆで卵」について「ゆで卵」を静止させた場合は「はまき型」物 体と同様に、長軸が傾いた状態で静止する。
そのため、「ゆで卵」を真上から見た状態で反 時計まわりに回転させると「はまき型の物体」と 同様に、動摩擦力 Fx がはたらき水平軸回転が生 じる。このとき、水平軸回転は徐々に加速し、鉛 直軸回転は減速する。また、接地点Pに接してい る部分は、鉛直軸回転によるx軸の正の向きにす べると同時に、水平軸回転によってx軸の負の向 きにすべっている。
その結果、接地点Pにおいて鉛直軸回転と水平 軸回転の速さが等しくなる瞬間が訪れる。この瞬 間、接地点Pは床に対して静止し、接地点Pに静 止摩擦力がはたらく。そのため、静止していた重 心Gと接地点Pが床に対して同時に静止する必要 が生じる。この条件が満たされるのは、静止した
静止 P
G
x
y z
P G N
ω
zω
y4
物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究
接地点Pと重心Gが鉛直回転軸上に位置する場合 のみである。この結果、「ゆで卵」には、x 軸, y 軸, z軸の3方向の回転が同時に生じて、螺旋を描 くようにして安定な位置まで、90°立ち上がる。
ここで、静止摩擦力が重心Gを移動させる回転を 引き起こしたと考えると違和感があるが、「ゆで卵」
が回転するとき、接地点Pがすべらないように大 きな静止摩擦力が作用したため、物体の回転に変 化が生じている。
(4)「逆立ち独楽」について
・独楽が傾いても倒れない理由
独楽を上から見て反時計回りに回転させたと すると独楽の中心軸の傾きが起こる前、独楽の中 心Oと重心Gは同一円直線上に並んでいる。
摩擦や床の凹凸により独楽が傾く。このとき接 地点Pが回転軸からずれる。普通の独楽であれば 回転軸が傾き、重心Gが下がって倒れてしまうが、
逆立ち独楽の場合、接地点Pがずれたとしても、
接地点が移動することにより、垂直抗力Nが鉛直 回転軸zを鉛直に保つので、鉛直回転軸zは傾か
ない。
・重心Gが上昇する理由
「ゆで卵」の場合と同様に、接地点Pに働く動 摩擦力Fxがx軸回転を引き起こすモーメント(以 下Fxモーメント)となる。OPを腕とするFxモ ーメントとOGを腕とするmgモーメントを比較 すると、OGに比べてOPの方が長いため反時計 回りにx軸回転をする。また、接地点Pは常に独 楽の中心Oの真下にあるため、水平回転軸xは独 楽の中心Oを通る。そして独楽がx軸回転をする ことにより重心Gが上昇する。このとき独楽の取 手は、独楽がz軸回転とx軸回転することにより 螺旋を描いきながら下降していく。
・逆立ちが完成する理由
取手は床に衝突しても螺旋回転を続けようと する。そのため、鉛直回転軸z上を重心Gが上昇 し、中心Oが重心Gの下に移動を続ける。
さらに取手は螺旋を描きながら独楽の下部に 入り込み、逆立ちが完成する。
静止摩擦力 G
O G OG
mg N P
OG N P
O G
P 静止摩擦力
P
物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究 4
5
物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究
逆立ちが完成した後もz軸回転は起こるが、接 地点が移動することはなく、「普通の独楽」と同様 の運動となり、回転が鈍ると倒れる。
6 結論と課題
「逆立ち独楽」を回転させると、接地点に作用 する動摩擦力によって水平方向回転軸の回転が発 生し、その後、静止摩擦力の作用によって逆立ち が起こることを解明した。この説明は高校の物理 を用いて行い、研究目的を達成することができた。
また、比較対照した物体として「はまき型の物 体」や「ゆで卵」の回転について考察し、類似し た理論で説明できることを明らかにし、剛体の回 転の変化を総合的に考察することができた。
これらの物体の回転について、共通点や相違点 を整理する。
① 形状の非対称性
・「はまき型の物体」、「ゆで卵」は床の上に静止さ せておいたときに、物体が水平に保たれていな い。また、回転させたとき接地点と重心が同一 鉛直線上にない。
・「逆立ち独楽」は接地点がずれやすい形状の面を 持っている。
② x軸(水平軸)回転の発生
・「はまき型の物体」、「ゆで卵」、「逆立ち独楽」に ついては動摩擦力によりx軸回転が起こる。
③立ち上りや逆立ちの原因(重心の上昇)
・「ゆで卵」、「逆立ち独楽」は、接地点に作用する 静止摩擦力によって物体の回転状態が変化し、
立ち上りや逆立ちが起こる。
・「はまき型」の物体は回転によって立ち上がらな い。
④立ち上りの角度
・「ゆで卵」は90度、「逆立ち独楽」は180度回 転して立ち上がるが、「はまき型の物体」は立 ち上がらない。
以上の考察から、「逆立ち独楽」の運動をいく つかの段階として見たときに、今回、比較した物 体の運動と一致している部分があることが確認で きた。
「ゆで卵」や「逆立ち独楽」のように水平面上 で回転する剛体の回転状態を変化させるのは、最 初は動摩擦力であり、二つの回転軸で回転が起こ る。次に、この二つの回転状態が徐々に変化して 静止摩擦力が作用する状態に達すると、最終的な 立ち上りや逆立ちの状態へ進行する。
今回の研究で得た結論は、回転する剛体の運動 の変化を説明するとき、更に多くの現象に応用で きるものと考えられる。独特の回転・振動を行う
「ラトルバック」などに研究対象を拡大して考察 を深めれば、多くの剛体の回転に共通する法則性 を見つけることができる。また、引き続き「逆立 ち独楽」の実験を行い、理論的な考察だけでなく 数値として結果を得ることで、より正確な検証を 行うことも必要である。
7 参考文献
・「逆立ちゴマの力学」
静岡大学次世代ものづくり人材育成センター 藤間信久 永田照三 太田信二郎
8 謝辞
今回、「逆立ち独楽」を中心とした回転する剛 体の研究を行うにあたって多くの方々に協力して いただきました。まず、私たちの研究を指導して いただいた 辻 和宏先生には、実験のテーマを 決めた後から、考察に関するアドバイスをいただ きました。そして、校内で実施された中間発表会 では、大学・高校の先生方からも新しい考え方や 視点を指摘していただき、課題解決の大きな助け になりました。私たちの研究に協力していただき、
ありがとうございました。
はまき 型物体
ゆで 卵
独楽 逆立ち 通常 回転時の
接地点
重心を通る鉛直 線からずれる
ずれ やすい
ずれ ない 水平軸回
転の発生
動摩擦力の作用で発生する 発生 しな 立ち上り い
の有無
形状と して不 可能
静止摩擦力の作 用で発生する 立ち上り
角度
90° 180° O
G
物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究
5