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(1)

期に、どういう職種に対して問われたものであるのか、

誰に向けられているかによって、その答えは大きく異 なるだろう。つまり、学生が理想像として描く「看護 師像」が、あるいは臨床の看護師の専門職意識が、患 者や家族にとって「理想の看護師像」であるとは言え ないだろうし、また、患者・家族の望む看護師像が、

臨床の看護師が抱くそれと一致するかどうかはわから ない。

多くの場合、患者のことをよく知り、回復を願い、

患者の死によって最も大きな悲しみを背負うのは身近 な家族である。家族は患者以上に、医療者の医療・看 護行為を冷静に観察し、医療者の質を評価する存在で もある。しかし、「よい看護師」に関する先行研究は看 護師、看護学生、あるいは、患者の視点から論じられ たものは存在する1,2,3,4が、「患者家族」また「遺族」に 焦点を当てたものは見当たらなかった。看護の対象は 1.  緒言

「よい看護師とは?」という問いは、教育過程で、

臨床現場で、また、一般論として議論されることも多 い。看護教育過程における「よい看護師」に関する議 論は、学生が、自分が思い描く理想の看護師像をもつ ことで、彼らが自己研鑽に向かうことを目的としてい る。臨床の看護師は、専門職としての経験のなかで常 にそれを目標としながら日常のケアを行っている。そ して、患者や家族は闘病という非日常的な生活を強い られる中で、看護師に「こうあってほしい」という希 望をもっており、それが「よい」という表現に結び付 いている。しかし、「よい」という概念は単純ではない。

日本語の「よい」が、「善」「良」「好」「吉」などの漢字 を用い多様な語義をあわせもつこともその複雑さを示 している。また、「よい」という問いが、どのような時

A study on the concept of good : good nurses viewed by those who have lost their family member

倉林しのぶ

Shinobu Kurabayashi

キーワード:よい看護師、徳、家族、死別ケア

Key words: good nurse, virtue, family members, bereavement care

「よい看護師とは?」という問いは、看護教育過程や臨床、一般論としても議論され、それぞれが「よい看 護師」に関するイメージをもっている。しかし、「よい」という概念は非常に複雑であり、また、この問い が、どのような状況で、誰に、どんな職種に問われたのかにより、その答えは異なるだろう。本研究では、

患者にもっとも身近な存在である「家族(遺族)」に焦点を当て「よい看護師」について尋ねた。その結果、

家族は「よい看護師」に「やさしさ」「コミュニケーション能力」「笑顔」などを求めており、それは日本語 の「良い」という意味に近かった。

The theme ‘What makes a good nurse?’is often discussed by nursing students, clinical nurses, and the general public. However, because each person has their view of a good nurse, the concept ’good‘ is complex. The answer to this question may vary depending on the situation, the respondent, and his/her occupation. Focusing on patients families, i.e., persons with the closest relationship to the patients, we asked the question to those who had recently lost a family member.’Good nurses’, as viewed by the family members, were kind, smiley, and had excellent communication skills.

高崎健康福祉大学看護学部 School of Nursing, Takasaki University of Health and Welfare

■研究論文

(2)

患者のみでなくその家族も含むのであり、家族あるい は遺族からみた「よい看護師」を探究することの意味 は大きいと思われる。本研究では、患者のもっとも身 近にいて医療者を評価しうる存在である「患者家族」

に視点を当て、死別体験をした患者家族から「よい看 護師」また「看護師のよくない言動」についての回答 を得たので報告する。

2.  方法

1.研究の背景および研究デザイン

「よい」という言葉を遡っていくと、倫理学における

「徳」という概念にたどりつく。

「徳は、ひとが周囲から求められるような人物である か を 見 極 め る 際 に 、我 々 が 言 及 す る 諸 性 質 で あ る

p.1785」としたとき、その諸性質は、それを求める周

囲によって決定される。つまり、「誰が」求めているか ということに影響を受ける。本研究では、「死別を体験 した家族」を対象者とした。「愛する家族との死別」と いうストレスフルな体験をした対象者が「看護師」に 何を求めているかを知ることで、医療の受け手からみ た「看護師のもつべき資質」の一端を明らかにしたい と考える。研究デザインは、質的帰納的研究デザイン を用いた。

2.対象者および調査方法

GM市 の 母 子 会 と 遺 族 セ ル フ ヘ ル プ グ ル ー プ

SHG)から紹介された、家族との死別を体験した23 を対象者とし、郵送法にて自記式質問紙調査を実施し た。その後、この23名の対象者の中で了解の得られた 15名を対象に半構成的面接を実施した。質問紙では

「対象者の現在および死別時の年齢」「家族構成」「患者 との関係性」「患者の死因と死亡年齢」「入院期間」「在 宅療養期間」の他、「患者との死別を通して思う『よい 看護師』とはどのような人か、また『よくないと感じ た看護師の言動や対応』はどのようなことか、思いつ くままをお書きください」とする自由記載欄を設けた。

面接では、あえて「よい」「よくない」という文言は使 用せず、質問紙の回答内容について思いつくまま自由 に語ってもらった。面接は、プライバシーの保護でき る対象者自宅やレンタルした会議室等で60分〜90 で行い、対象者の許可を得てICレコーダーに録音し、

逐語録に起こしたものから「よい看護師」「看護師のよ くない言動」に関わる内容を闘病期間と死別時に分け て抽出し、さらに意味内容に従って分類した。面接に 承諾の得られなかった7名については、質問紙に表現 された内容を逐語録と同様に分類し、両者を合わせた ものを結果として示した。調査実施期間は、平成19 10月〜平成217月であった。

対象者23名の年齢分布は36才〜52才、平均年齢は 41.7歳であった。死別した患者との関係性は全員が配 偶者であった。死因は「がん」が最も多く11名、「脳血 管疾患」3名、「心疾患」、「難病」、「白血病」「交通事故」

がそれぞれ1名で、「病死(疾患名の回答なし)」が5 であった。死別時の対象者(患者家族)の平均年齢は 35.7歳、患者の平均死亡年齢は41.1歳であった。闘病

(入院、在宅療養)期間は1日から8年、平均闘病期間 13か月であり、闘病場所は入院のみが20名、入院お よび在宅療養が3名、であった。

3.倫理的配慮

平成199月に、高崎健康福祉大学倫理委員会の承 認を得た。その後、対象者個別に、研究目的および内 容、研究参加についての利益と不利益、自由意志によ る参加、同意撤回の自由、プライバシー保護と研究成 果の発表等、倫理的配慮に関しての説明を口頭または 文書にて行い、研究参加の同意を得た者のみを研究対 象者とした。

3.  結果

死別を契機にし、「患者家族」は「遺族」という立場 に変化をする。愛する家族を失った者に対して看護師 側からは「死別ケア」の視点が必要になると同時に、

死別時の家族にとっては、患者の闘病時とは異なる

「看護師の望ましい関わり方」を求めているのではない かと考え、闘病時と死別時をわけて考察した。

1.患者家族が考える「よい看護師」(闘病時、表 1)

1)人柄や態度:「笑顔」「やさしさ」「おだやか」「元 気」など、専門職としての能力ではなく、その人個人 のもつ雰囲気があがった。

2)コミュニケーション能力:「思いやりのある言葉が け」「家族への声かけ」「丁寧な対応」など、患者だけで なく家族への配慮ある言葉がけがあがった。また、「き さく」「話しかけやすい」「上から目線でない」「事務的 でない」など、家族が気兼ねなく話しかけられ、看護 師自身の質問しやすい雰囲気を重視している傾向があ った。

3)技術や知識・判断力:「看護技術が的確で効率的 に行われること」「苦痛を感じさせない処置やケア」「冷 静な判断」「医療に関する知識」など、看護専門職とし てもつべき知識や技術能力があがった。

4)患者への真摯な対応:「意識のない患者」への対応 の仕方や接し方があがった。どんな状況の患者にも人 として同じように関わってほしいという家族の思いと 捉えられる。

5)家族への配慮:「患者の様子を伝えてくれる」「付 添の環境の配慮」「家族関係への配慮」など、患者だけ

(3)

でなく患者に関わる家族の体調や心理を考慮し、その 場に応じた対応ができる内容があがった。

6)医療チームメンバーとしての能力:「医師との連絡 調整」や「ケアチーム内での看護師役割」等、患者や 家族と医師との仲介者としての役割、また、特に緩和 ケアチームのメンバーとして、家族にどう関わってい たかという内容があがった。

3.遺族が考える「よい看護師」(死別時)

1)寄り添う看護・思いの共有:「一緒に泣いてくれた」

「一緒にいてくれた」「家族の気持ちをフォローしてく れた」など、死別時の家族の「悲嘆」に寄り添い、話 を傾聴してくれること、また、妻である配偶者への対 応だけでなく、父親を失った子供への対応の有無や配 慮が「よい看護師」として記述された。

2)「死」を尊厳あるものとして捉えられる:「死を 別な出来事 と捉えられること」は、医療者が日常的 な「死」に鈍感になっていないこと、あるいはひとり

ひとりの患者の死に真摯な態度で向き合うことと捉え られる。また「患者に十分でなかったという気持ちを フォローしてくれる」など、家族へのねぎらいの言葉 がけや死別時の事務的でない対応があがった。

4.家族が看護師に感じた「よくない対応」(表2) 1)態度:「横柄」「つんけんする」「事務的な対応」な ど、看護職としての技術的能力とは関係ない個人の持 つ雰囲気であり、「よい看護師」の条件と相対する内容 があがった。また、「在宅療養のため退院時、 死ぬため の退院 という目で見られた」「多忙のため、必要なこ とがあっても見て見ぬふりをされた」など、事実かど うかは不明であるとしても、家族にそう感じさせる態 度があったことが記述された。

2)コミュニケーション能力:「慰めの仕方に逆に落ち 込んだ」「無遠慮な質問に腹が立った」「いつ亡くなっ てもおかしくない・・・」「死期が近づいたとき何も説 明もないまま、『使わないものは持ち帰ってくれ』と言

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表 1.死別体験をした家族が考える「よい看護師」

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表 2.看護師に感じたよくない対応

(4)

われた」など、「悲嘆」にくれる家族に対する無神経な 言葉がけが多くあがった。

3)患者・家族への説明と対応の不徹底:「死期が迫 っていることがわかっているのに何も教えてくれなか った」「面会時間に関して看護師の対応が違った」な ど、死期の迫った患者家族に対する説明や対応につい てチーム内で徹底されていないことに関わる内容があ がった。

4.  考察

1.家族からみた「看護師がもつべき資質」

1)人柄・態度

家族が求めるのは、意識のなくなった患者に対して も態度を変えることなく「人」として関わることや、

死に直面する患者を見守る家族の「予期悲嘆」に同調 するのではなく、ひとりの人間として共感した上で、

専門職として配慮のできる人柄や態度であった。中川 6、「共感」という感覚を自己と他者の一体性とし「共 感と思いやりがケアの本質である」とする。大西は

p.317「思いやり」「気づかい」などの情緒も「共感」

があってはじめて成り立つものであるとしている。「共 感」は、立場や職種の壁のない人間関係のなかで生ま れるものである。「死期の迫った」状況のなかで、家族 は、専門職としての知識や技術の前に、まず、ひとり の人間として共に感じてほしいという希望をもってい ることがわかる。

小西らは1,2、がん患者を対象者とした研究のなかで

「人間味」と「人と人との関係性」を日本特有の患者の 価値観としている。患者と同様に家族もまた、看護師 に「人間としての感覚と関係性」を求めており、それ は、「癒し」の要素を含むものであると思われる。家族 は、「共感」という感覚を通して、また、患者への真摯 な態度を通して「癒し」を感じることができるのであ る。日本人にとっての「個」は、関係性のなかでの

「個」であるとされる8,9。「人柄・態度」は、その関係性 のなかであらわれる「感性」という資質に近く「原理・

原則」とは相いれない要素があるように思われる。そ の意味では、ケアが単なる技術提供ではなく、人間的 で、気配りや気づかいを伴った実践であるという「ケ アの倫理」10,11,12に通じるものであるといえるだろう。

2)コミュニケーション能力

臨床において、患者や家族は未だ「弱者的立場」に ある場合が多い。それは主に、「医療を受ける立場」と

「医療を提供する立場」の違いから、また、「専門的知 識がない者」と「医療専門職」の立場の違いから生じ ていると思われる。患者・家族は、医療を提供し、多 忙を極めているようにみえる専門家たちに、感謝と遠 慮をしながら言いたいこと、訊ねたいことを言えずに、

彼らから話しかけてくれる機会、あるいは、話しかけ られるチャンスをただじっと待っていることもあるだ ろう。だからこそ「話しかけやすく」「きさく」で「声 かけ」してくれる看護師を「よい」とするのだと著者 は考える。重要なことは、そこに気づくことである。

最も必要なのは、患者や家族のニーズを知ろうとする ことであり、家族の望む看護師の「声かけ」や「丁寧 な対応」「配慮」は、それに応えるためのひとつの方法 でもある。

黒河らは13、終末期の患者と家族は看護師に傾聴・

共感・理解・コミュニケーションを望んでいるとして いる。また、森田らの緩和ケアの不満足に関する調査 では、「医師や看護師の患者の心情への配慮の乏しさの 指摘」「家族にも配慮してほしい」という意見があった と報告している14。遺族ケアは、患者の生存中の家族ケ アから継続して捉えることが重要であり15,16,17,18

、家族の 関係性に働きかける家族看護の視点をもつことが重要 であるとされる19。看護の対象が患者だけでなくその家 族も含むものであるなら、患者を見守る家族の不安や

予期悲嘆20,21を察知する能力と、それをサポートする力

と意識が必要と考える。

「よくない」と表現された「無神経な言葉や態度」に ついては、家族側の誤解も含まれると予想されるが、

やはり、家族にそう感じさせる言葉使いや行動があっ たことは事実であろう。単なるコミュニケーション能 力だけではなく、専門職として、その時の状況や家族 の思いを察した上で、適切な言葉を選定し、時期を配 慮しながら、言葉がけができるという「プロとしての コミュニケーション能力」が問われている。ナイチン ゲールは「看護婦の基本は、患者が何を感じているか を患者の表情に現れるあらゆる変化から読み取ること」

とし(p.21822、ヘンダーソンは「看護婦は、患者の言

葉・沈黙・表情・動作、こうしたものの意味するとこ ろを絶えず分析している」としている(p.1923。患者 と同様に、悲嘆する家族の表情や声なき声を聞き分け る能力が求められている。

3)技術・知識

「家族」は直接的にケアを受ける当事者ではないが、

患者と家族が強い愛情で結ばれた存在であるという前 提のもとでは、家族は、当事者である患者以上に、医 療者のケアや態度に敏感であり、看護師の技術能力を 評価し判断しうる存在である。それは、家族が、患者 の痛みや苦しみを自分に引きよせ、かつ、ケアや技術 を客観的に評価できる位置にいるからである。患者の 苦痛を伴う注射や吸引等の技術能力や、的確な判断力 と知識は、患者の命を預けている家族にとっては、「よ い看護師」としての必須要件であるといえる。治癒の 可能性の低い、また、死に直面した時期だからこそ、

「最小限の苦痛」と「緊急時の判断」が、専門職として

(5)

不可欠な能力といえる。

4)死に対する態度

「死別」は、家族に大きなショックであり、日常から 逸脱した出来事である。家族の「悲嘆」にどう関わる かということは、もちろん重要なケアであるが、家族 の視点は「医療者が死をどう受け止めているか」とい うことを強く問うている。本研究の結果は、家族から 見た医療者が「病や死に鈍感になっている人たち」で、

「事務的に淡々と仕事をこなしている」ように映ること がありえることを示している。医療に携わっていない 者にとって「死や病」は非日常であると同時に、非常 に重く深刻な出来事であることを理解し、個々の「死」

を、「死にゆく人」「死にゆく人の家族」の立場で考える ことができ、「死」を神聖かつ崇高なものと捉えた配慮 ができる専門職が求められている。

5)対象者の「価値観」からみた「よい看護師」

対象者が「よい看護師」と表現した「人柄」「態度」

「コミュニケーション能力」「配慮」「共有」などは、「人 としての振る舞い」であるとともに、看護師としての

「あるべき態度」に関わる内容である。その求めは死別 までの期間に関わらず共通しており、患者に対する態 度であると同時に、家族に対する配慮や接し方に関わ るものでもあった。しかし、たとえば、インタビューの 中では、誰かに話すことで不安を解消できたとする対 象者は「コミュニケーション」「人柄」などを上位にあ げ、予期悲嘆の時期の思いを語った対象者らは「患者 への真摯な対応」「家族への配慮」を上位にあげた。つ まり、「よい」という概念の捉え方、あるいは優先順位 は、個人的な性格や時期などさまざまな因子に影響を 受けていると考えられる。そのため、それを、ただ一 つの意味として捉えるのは無意味であり、正確とはい えない。

それに対し、死別時における「よい」という概念は、

「寄り添いと思いの共有」「尊厳」に集約されている。

「死別」という状況下での家族の「価値」は、何ものに も代えがたい愛する患者の命であり、SOLSanctity of life)(p.13524といえる。また、亡くなった者への尊 厳・畏敬の念を態度として示してくれることが高い価 値をもち「よい」ことと一致すると考えられる。

2.「よい」という概念

「徳」と訳される古代ギリシャ語「arete」とは、一般 的に「よさ」「優れていること」をあらわす(p.117325

「よい看護師とは?」という問いにおける「よい」が

「人としての生き方や振る舞い」を重視するものである なら、「看護師のあるべき態度や質」への問いは「看護 職者としての徳」の探索であるといえる。

日本語の「よい」は、「善」「良」「好」「吉」などの漢 字を用い多様な語義をあわせもっている。「好」は「好

む」「好く」「愛する」などの意味を含む。「吉」は「めで たさ」を表す。「善」は「善行」「善悪」など「悪」に相 対し「正しさ」という意味合いが強い。そして、「良」

の語意は「質やわざが優れているさま」「人格的に優れ ている人」とあり「優れる」という意味をもっている

p.143626。対象者が「よい」と表現した「人柄」「態 度」「コミュニケーション能力」「配慮」「共有」などは、

看護師の質や人格をあらわしており、「技術」「知識」な どは専門職としての「わざ」の優劣に関わっている。

その意味で、家族が求める「よい看護師」は、「良い看 護師」と表記される内容に近いといえる。

一方、医療の倫理原則における「善行(beneficence)」 は「他人に善をなすこと」であり、同情心をもち他人 を援助するというキリスト教的な「徳」と結びついて いる(p.3327。哲学辞典によれば(p. 94925、「善(ぜ ん)」とは、日常世界の物事だけでなく精神や倫理世界 において語られる概念であるとされ、西洋、インド・

仏教、中国において宗教的な影響を受けながら、さま ざまな角度から語られている。西洋では、「よいもの」

つまり肯定的評価の対象となる価値をもつものすべて が、広義には「善」であるとされ、本来の意味では「存 在論的善」と「実践的善」を「善」であるとしている。

行為および意志の規定根拠となるものを「実践的善」

であるとするならば、医療における「善行」の根拠は

「実践的善」であるといえる。

3.看護師の資質・あるべき態度(徳)を決める人 今回の調査では、家族の求める「よい看護師像」に は、「行為者のなすべき態度と資質」に関する内容が中 心にあがった。しかし、前述のように「よい」という認 識は個人の「価値観」にかかわり、また、個人の「価値 観」はその個人の立場や職業、置かれている状況によ って異なる。James Rachelsは、我々は異なる目的で人 を求め、このことが、それに関連する徳についての違 いを作りだすことになるという(p.1785。その意味で、

今回の結果は「死別を予期している患者家族が」とい う前提のもとで求められる「看護師の資質のひとつ」

を示したものといえるだろう。患者・家族は医療の受 け手であり、医療を行う側である医療者とは「価値観」

と「価値のための方法論」に差があることは否めない。

教育過程の中で、あるいは倫理綱領のなかで謳われ る「あるべき看護師像」には、「善行とは?」「最善の利 益とは?」という問いが常に存在しており、看護師は プロフェッショナルであるからこそ、倫理的な価値を 職業意識のなかにもつことが求められている。「善行 は、医療者にとって原理でもあり同時に徳でもある

p.3327」とされる根拠がここにある。「善行」における

「よい」は「善い」であり、そのことが、専門職として の看護師の価値観に何らかの影響を与える可能性は高

(6)

いのではないだろうか。

「良い看護師」は、患者や家族、あるいは一般の人々 が思い描く理想的なイメージ像に近い。「技術や人格が 優れている」というときには、「客観的」あるいは「相 対的」に評価ができる。それに対し、「善い看護師と ?」は、個々の看護職者が専門職者として個人の内面 にもつ問いであるといえ、専門職が個人の内に求める 内省的な感覚が強く、他者からの評価は難しい。「患者 の心地よさ」「QOLの向上」だけでなく、それを判断す るために専門職としての感覚を働かせ、患者と家族に とっての最善の利益とその方法を考えられる能力を含 む問いであるといえるだろう。

4.看護における「徳」

BeauchampChildressは (p.46028、看 護 師 の 美 徳 は、専門職の概念とその役割責任に依存するとしてい る。たとえば、伝統的モデルのなかでは「医師の補助 者」として「柔順と服従」が、いっぽう現代のモデル では「患者を支える者」として「人間の尊重」「正義」

「忍耐」「勇気」が強調されているとする。この考えに従 えば、「徳」は時代の流れの中で変化していく。また、

看護師の役割をどうみるか、つまり、その役割を判断 する人間によっても徳は異なり、医師、患者、家族、

看護師本人、あるいはまた、現場で働く看護師と看護 学生とでも異なることが予想される。さらに、それを 問う時期や状況、問う人間の意識によっても差が出る だろう。

医療領域における倫理的アプローチには主に、「原則 の倫理」「徳の倫理」がある。「原則の倫理」はその行為 の判断基準の吟味であり、「徳の倫理」は行為者の態度 や資質の探究である。Penceは(p.1727、徳の倫理を医 療倫理の諸問題に応用するにはいくつかの限界がある とし、そのひとつに、徳の倫理は「よいもの」を模倣す るようにと命じるだけで、現実場面での倫理的決定を どのように行うかについてほとんど示唆を与えてくれ ないとしている。たしかに、「よい」という定義は曖昧 であり、模倣すべき「徳」は普遍的なものとはいえな い。ではそうであるなら、生じている倫理的問題に対 して徳の探究はいらないのであろうか。小西らは29、組 織の中で多重の関係性のなかで働く看護師には、人と して、また専門職としてのよい資質(徳)の探求が看 護の文化と実践に有用であると述べている。たとえ

「よい」という評価が曖昧であったとしても、個々の看 護職者が個人の内面に発する「善い」という問いと、

患者や家族が求める、また看護師という経験以前に思 い描いた「良い」という理想を、専門職者の自身の内 に常に問い続けることが、原則の倫理と相い補い合っ て機能しうる徳の探究となるのではないかと考える。

5 結語

「死別を体験した家族」からみた「よい看護師」につ いて調査し、そこから、「よい」という言葉の意味を検 討した。その結果、「よい看護師」に使われる「よい」

は多義的であり、家族の置かれた状況や時期にも影響 を受け、ひとつの意味で捉えることは困難であること がわかった。学生は「よい看護師」になることを目指 し、臨床看護師は常に「よい看護」を求められている。

われわれは、独自の価値観だけを信じることなく、患 者、家族、そして、専門職としての立場での「よい看 護師」を目指し、「よい看護」を実践することが必要で あり、それが、質の高い看護師の育成につながってい くと信じたい。

6.  本研究の限界と今後の課題

本研究では、対象者を母子会とセルフヘルプグルー プから選定したため、対象者、および、死別家族の平 均年齢、および家族との関係性にバイアスが存在した ことは否定できず、結果の一般化には限界がある。「よ い看護師」の探究には、今後、患者本人、看護師、看 護学生等、さまざまな立場を対象者とした調査が必要 であり、本研究をその糸口にし、さらに検討を進めて いきたいと考える。

本研究は、日本学術振興会科学研究費(萌芽研究

課題番号19659614)の助成を受けた。

文献

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参照

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