日本看護倫理学会誌 VOL.8 NO.1 2016 81
■日本看護倫理学会第8回年次大会 会長講演
看護実践が体現する看護倫理
The nursing practice impersonate nursing ethics
佐藤 禮子
◉関西国際大学保健医療学部看護学科
1.看護倫理の真理認識
「看護における倫理」を明確にするためには、確か な理論構築が必要であるとの考えから、和辻哲郎氏の
「人間の學としての倫理學」が語る 倫理 とは何かを 熟読し、さらに関連文献からイメージを膨らませ自分 なりの解釈に至った。すなわち、人間が人間として、
人間と共に生きていくうえでの確かな秩序を言い表す ものであり、このこと事態が、正しい看護実践の本質 を貫いているものである、という理解である。そし て、高齢者施設での胸部圧迫骨折(ストレスがたまっ て)報道や週刊誌で読んだ点滴注入事件記事によって 気付いたのが、看護倫理の真理認識である。看護倫理 の修得は、単に理論・知識の獲得に止まるものではな い。まず理論・知識の体得に始まり、自らの看護実践 に体現あるいは表現して、初めて真に看護倫理を体得 したといえることになる。
2.看護実践そのものが正に看護倫理を体現してい る実践行動・事実
4つのテーマが含まれる。テーマの1つ目は、看護 倫理の可視化、である。実践の科学である看護学は、
一人一人の看護専門職者(看護師、助産師、保健師)
が日々の看護ケアを遂行する看護実践によって可視化 されている。すなわち、看護実践の可視化⇒看護倫理 の可視化である。2つ目は、看護専門職者の倫理的判 断に関わる事柄、である。看護実践者としての信念・
価値観と態度、そして、倫理に関する包括的知識を基 に判断し意思決定する、ということ。これには倫理的 概念に関する知識、倫理原則に関する知識、倫理的行 動基準に関する知識が含まれる。3つ目は、順守する 6つの倫理原則が看護実践のすべてを語る、というこ と。すなわち、①自律の原則、②善行の原則、③無害 の原則、④正義の原則、⑤誠実の原則、⑥忠誠の原 則、である。4つ目は、看護実践は核となる倫理原則 から始まる、ということ。それはまず、①自律の原
則、に他ならない。人間は自律した存在であり、自ら を支配する能力を持つ。自律している人間は、自分の 選択に基づく行為を決定し実行に移すことができる。
個人が自由意思に基づき自己決定した行動=自己決定 権に重要に関わるのが、インフォームド・コンセント
(Informed Consent)である。「説明されたこと」に対 して「承知しました、認めます」という、自律した個 人の自由意思に基づく自己決定を尊重することは、患 者主体を貫くことである。看護実践における看護倫理 の本質は、看護職者個人と患者個人とが、信頼に基づ く関係を成立させ、この信頼関係の中でなされる②善 行の原則に対して問いをかけるところにある。善行と は、人によって善なるものや益するものを創りだすこ と。善行の原則は、無害の原則と同時に考える必要が ある。看護専門職者が最善を尽くす行為が、相手に とっては害であると考えられることもある。その人の 生活における価値についても考える必要がある。③無 害の原則とは、有害なことをしない、害や害の危険性 を回避すること、ある行為がそのような、どれくらい の害を及ぼすかについても考え、予測できることが重 要になる。そして、患者個人が置かれる状況によって は、患者個人の権利を保護する立場に立って、倫理的 問題に取り組むことが、看護職者の責務となる。
3.最近の新聞報道等で扱われた “倫理” 関係事項 特に注目した報道記事のみ記述する。
○ 点滴誤り乳児の足指壊死:2013年8月22日読売新 聞、抗生物質10倍投与(指示の復唱を怠った看護 師の行為ミス)
○ 出生前検査心のケア課題(カウンセリング不十分):
2015年4月20日読売新聞
○ 移植死亡4人全例に問題(手術に不備、ドナー評
価):2015年4月24日読売新聞、他
厚生労働省ホームページには、医道審議会(保健師 助産師看護師分科会看護倫部会)による審議結果の答
82 日本看護倫理学会誌 VOL.8 NO.1 2016
申内容が毎年公開されている。2015年1月22日看護 師等行政処分関係審議の会議要旨から一部抜粋して以 下に示す。処分対象者に対する都道府県の聴取が終了 した案件24件について審議がなされ、保健師及び看
護師15名に対する行政処分を行い、他9名について
は行政指導(厳重注意)に止める旨の答申がなされた。
【答申の概要】免許取消2件(強制わいせつ未遂・住居 侵入1件、有印私文書偽造・同行使・詐欺1件)、業 務停止1年、(窃盗1件)、他略。同ホームページの保 健師助産師看護師行政処分の考え方から抜粋。1.行 政処分の考え方(以下、重要点のみ抜粋)保健師助産 師看護師法第14条に規定する行政処分については、
看護師等が、罰金以上の刑に処せられた場合に際し、
看護倫理の観点からその適性等を問い、厚生労働大臣 がその免許を取り消し、又は期間を定めてその業務の 停止を命ずるものである。処分内容の量刑を参考にし つつ、その事案の重大性、看護師等に求められる倫 理、国民に与える影響等の観点から、個別に判断され るべきものであり、かつ、公正に行われなければなら ないと考える。このため、当部会における行政処分に 関する意見の決定に当たっては、生命の尊重に関する 視点、身体及び精神の不可侵性を保証する視点、看護 師等が有する知識や技術を適正に用いること及び患者 への情報提供に対する責任性の視点、専門職としての 道徳と品位の視点を重視して審議していくこととす る。(以下、略)2.事案別の考え方 (1)身分法(保 健師助産師看護師法、医師法等)違反―前文略。行政 処分に当たっては、司法処分の量刑の程度に関わら ず、他者の心身の安全を守り国民の健康な生活を支援 する任務を負う看護師等が、自らに課せられた基本的 倫理を遵守せず、国民の健康を危険にさらすような法 令違反を犯したことを重く見るべきである。
4.看護専門職者としての国家資格が意味するもの 国際看護婦協会による「看護婦の規律―看護に適用 される倫理的概念」は、看護への要求は世界普遍であ
り、看護には、人の生命の尊厳と権利の尊重が固有の 特性として備わっている、とある。日本看護協会によ る「看護者の倫理綱領」(2003年)では、前文に、人々 は、人間としての尊厳を維持し、健康で幸福であるこ とを願っている。看護は、このような人間の普遍的な ニーズに応え、人々の健康な生活の実現に貢献するこ とを使命としている。看護は、……。条文1〜15、省 略。
看護師等の国家資格の意味するものは、日本国憲法 に定められた基本的人権「人としての権利を有し、個 人として尊重され、自由であり、健康にして文化的な 最低限度の生活を営む権利を有する」を真に擁護する 立場にあり使命であるといえる。看護実践における看 護専門職者の行動は、単に道徳的であるかどうかが問 われるのではなく、人間の行為の善さとしてどのよう であるか、あるいは、正しさとしてどのようになされ るかが問われる。そこで、日々の看護実践は、自ら行 うリフレクションによって、常に正す必要がある。す なわち、・私の実施した看護ケアはこの人(患者・家 族)にとって適したものであったか、・この人にとっ て最善のケアであったか、・ケアの実施に先立ってケ ア能力(知識・技術・態度)に確信があったか(ケア 能力とは、自分の看護技術力ともいえるもの)、・自分 の看護技術によるケアの実施効果を予測できていた か、など自分が実施する行為への確かな責務としての 振り返りである。重要であるのは、倫理的視点で、意 識的に行う、ケア活動とその成果に対する評価であ る。 自分の行為に確信があった としても、人間は 完璧ではない=人間の特性として間違いや誤りは人の 常となり得る。だからこそ、自己の行為を振り返り・
内省すること、が重要となる。そして、内省の結果と して、自己の気付きに対する意思決定(間違いを正 す;合理化する;自己受容する)を自己の倫理観に即 するものとして自覚し、自己成長の糧とすることであ る。