1. はじめに
科学技術予測センターでは、科学技術基本計画など 科学技術イノベーション政策の検討に資する基礎的 な情報を提供することを目的として、「科学技術予測 調査」をおよそ 5 年ごとに実施1)している。2017 年 には 11 回目となる調査を開始した。
前回調査(第 10 回)では、「ビジョン」「将来科学 技術」「シナリオ」の 3 部構成で検討を行った。一連 の検討を通じて、科学技術や社会の急速な変化をいち 早く捉え対応することが今後の課題として挙げられ た。そこで、第 11 回科学技術予測調査(以下、「本 調査」という)では、前回調査の構成を踏まえつつ も、変化の兆しを把握する工程を取り入れ、併せて科 学技術と社会との関係性により留意した設計とした。
2019 年秋に調査報告を取りまとめる予定であるが、
これに先立ち 7 月に速報版2)を公表した。図表 1 に その概要を示す。
本調査の特徴は、ICT の積極的な活用と多様なス
【 概 要 】
科学技術予測センターでは、科学技術基本計画など科学技術イノベーション政策の検討に資することを目的 に第 11 回科学技術予測調査を実施しており、2019 年秋に最終結果報告を予定している。本稿では、これに先 立ち 7 月に公表した速報版について概要を示す。
本調査は、2040 年をターゲットイヤーに見据え、社会の未来像と科学技術の未来像を検討し、それらを統 合して科学技術発展による社会の未来像を描くものである。社会の未来像検討では、専門家による分野融合的 なワークショップにより 50 の未来像と 4 つの価値を抽出した。科学技術の未来像検討では、702 の科学技術 トピックを設定し、約 5,300 名の専門家の見解を収集した。また、これらの科学技術トピックを自然言語処理 によりクラスタリングした結果を基に分野の枠を超えた専門家の議論を経て、推進すべき 16 領域を抽出・選 定した。これらを踏まえ、社会の未来像と科学技術の未来像を統合して目指す社会の姿を描き、「人間性の再興・
再考による柔軟な社会」としてまとめた。
キーワード:科学技術予測,ワークショップ,デルファイ,分野横断,シナリオ
テークホルダーの参画である。具体的には、ICT を活 用して、変化の兆しに関する情報収集を行うととも に、既存の分野の枠にとらわれない調査・分析を試み た。また、様々なバックグラウンドの参加者によるグ ループ討論を行い、複雑な科学技術と社会の関係性を 捉えることを試みた。
2. 調査の枠組み
2-1 基本方針
本調査は、科学技術の発展による社会の未来像を検 討するものである。社会の未来像検討の視点には、国家 レベルでは産業、労働、社会保障、教育、医療、交通、
食料、エネルギー、安全保障など様々な視点が考えら れ、また、国際的には SDGs や地球環境などの視点が あり得る。科学技術はそれぞれの未来像実現に様々な レベルで関与するが、いずれも科学技術以外の要素の 議論が不可欠である。本調査は、社会の未来像の中で 科学技術が貢献する部分に焦点を当てたものであり、
ほらいずん
ST Foresight 2019(速報版)の概要
-人間性の再興・再考による柔軟な社会を目指して-
科学技術予測センター センター長 横尾 淑子、上席フェロー 赤池 伸一
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ST Foresight 2019(速報版)の概要 -人間性の再興・再考による柔軟な社会を目指して-
産学官の様々な場で行われている未来像を描く取組3)
の中で各々の目的に応じデータが活用されることで補 完的な役割を果たすことを意図したものである。
2-2 調査の構成
本調査は、図表1に示すように、科学技術や社会の トレンド把握(ホライズン・スキャニング)、社会の 未来像検討(ビジョニング)、科学技術の未来像検討
(デルファイ調査)、科学技術の発展による社会の未来 像検討(シナリオ)から構成される。
「科学技術や社会のトレンド把握」では、科学技術 や社会のトレンドや変化の兆しを収集し、「社会の未 来像検討」及び「科学技術の未来像検討」に提供し た。「社会の未来像検討」では、ワークショップ形式 で 2040 年に目指す社会の姿を検討した。「科学技術 の未来像検討」では、実現が期待される 702 の科学 技術トピック(以下、「トピック」という)について 多数の専門家の見解を収集した。あわせて、類似する トピックをグループ化し、分野の枠を超えて推進すべ き領域である「未来につなぐクローズアップ科学技術 領域」を選定した。「科学技術の発展による社会の未 来像検討」では、「社会の未来像検討」で得られた 50 の未来像と「科学技術の未来像検討」で得られた 702 のトピックを統合して社会変化の基本的な方向性(以 下、「基本シナリオ」という)についてまとめた。
2-3 調査の時間軸
本調査の時間軸を図表 2 に示す。将来展望の期間 は 2050 年までの約 30 年間、社会の未来像を描く ターゲットイヤーは 2040 年、と設定した。
この時間軸の下で、ありたい社会の実現に向けてど
のような科学技術が必要かを考えること(ここでは
「バックキャスト」という)と科学技術がどのように 発展し、社会に何をもたらすのかを考えること(ここ では「フォーキャスト」という)の双方向からの検討 を行った。
3.検討結果
3-1 科学技術や社会のトレンド把握
文献調査、専門家・有識者からの情報収集、及び クローリングにより、科学技術や社会の最新トレン ド情報を収集・整理し、社会の未来像や科学技術の 未来像の議論に供した。図表 3 に情報の種類と情報 源を示す。
3-2 社会の未来像
社会の未来像の検討においては、図表 4 に示すよ うに、世界の未来像と地域の未来像を参照しつつ、日 本社会の未来像を描出するアプローチを採った。世界 図表 1 速報版の全体概要
図表 2 調査の時間軸
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参加によるワークショップ、地域の未来像については 6 地域のべ約 340 名の参加によるワークショップに おいて議論を行った。続く日本社会の未来像の検討で は、人文・社会科学者や若手研究者など多様な専門 家・有識者約 100 名によるワークショップを開催し て議論を行った。
図表 5 に検討結果を示す。10 グループから 50 の未来像が提案され、その中から未来社会におい て重視すべき事柄として 4 つの価値が抽出された。
Humanity の下では、AI やロボットなど機械と人間 が共存する中で、人間らしさや人間同士の新しいつ ながりに価値を見いだす社会が描かれた。Inclusion の下では、人間も機械も各々の特徴を生かして有機 的につながることにより進化する社会が描かれた。
Sustainability の下では、エネルギー制約、食料需給、
地球規模の環境など、様々な課題への対応が進んだ持 続可能な社会が描かれた。Curiosity の下では、探求 心・好奇心が十分に発揮される社会が描かれた。詳細 は、報告書4)及び本誌記事5)を参照されたい。
3-3 科学技術の未来像
(1)専門家アンケート
科学技術の未来像検討のため、デルファイ法による 専門家アンケート注を実施した。具体的には、計 74 図表 4 社会の未来像の検討方法
図表 5 4 つの価値と 50 の未来像
注 回答を収れんさせるため、同一回答者に同一設問を繰り返すアンケート(本調査では 2 回繰り返し)。2 回目には、1 回目の集計結果を提示し再考を求める。
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ST Foresight 2019(速報版)の概要 -人間性の再興・再考による柔軟な社会を目指して-
名の委員から成る分野別分科会での検討を経て 7 分 野計 702 のトピックを設定し、2019 年 2 月~ 6 月 に、トピックの重要度や実現見通し等に関するウェブ アンケートを実施した。最終回答者は、5,352 名で ある。実施に当たっては、関係機関の協力を得て幅広 い回答者群を設定するとともに、回答しやすさに配慮 してアンケートサイト上でのトピックの一覧性を高 めた。
アンケート結果例として、重要度が高いトピックを 図表 6 に示す。災害関連、人口減・高齢化対応など、
今後深刻化すると見込まれる社会的な課題への対応
を図るトピックが多く挙げられている。
(2)未来につなぐクローズアップ科学技術領域 分野の枠を超えて今後推進すべき研究開発領域を 抽出するため、702 のトピックを基にした新興・融 合領域の検討を行った。具体的には、自然言語処理に より類似トピックをクラスタリングし、専門家の議 論・判断を経て、分野横断・融合のポテンシャルの高 い 8 領域並びに特定分野に軸足を置く 8 領域を選定 した。
図表 7 に分野横断・融合のポテンシャルの高い 8 図表 6 重要度の高いトピック(各分野上位 3 件)
図表 7 分野横断・融合のポテンシャルの高い 8 領域
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領域と基盤的・共通的な領域とに二分され、社会の未 来像の検討で抽出された内容との重複も多く見られ る。図表 8 には、分野横断性は低いが重要性が高い と判断された 8 領域を示す。詳細は、報告書6)及び 本誌記事7)を参照されたい。
3-4 科学技術の発展による社会の未来像
「社会の未来像検討」で得られた 50 の未来像と「科 学技術の未来像検討」で設定した 702 のトピックを 基に、科学技術発展による社会の未来像を描く「基本
社会の姿、関連する科学技術トピック群、並びに望ま しい社会を実現するに当たっての留意点から構成さ れる。
まず、二つの軸(無形・有形、個人・社会)を設 定し、50 の未来像を 4 グループに分類・整理した。
「社会の未来像検討」あるいは「科学技術の未来像検 討」に参加した専門家・有識者 22 名によるワーク ショップを開催し、科学技術起点の発想と社会起点の 発想を統合させる試みを行った。図表 9 に目指す社 会の姿を示す。
図表 8 特定分野に軸足を置く 8 領域
図表 9 目指す社会の姿
ST Foresight 2019(速報版)の概要 -人間性の再興・再考による柔軟な社会を目指して-
一連の議論の結果、2040 年に目指す社会は、人間 を中心に据え、様々な変化に対応できる「人間性の再 興・再考による柔軟な社会」とまとめられた。これ は、「人間はより良い在り方を模索して自分らしく生 きる、社会は多様な人間が緩やかにつながり共生する 環境を提供する、そして科学技術は、人間や社会の営 みに優しく寄り添い支える」社会である。詳細は、本 誌記事8)を参照されたい。
4.今後に向けて
科学技術の急速な発展、政治・経済情勢の不透明 性の増大など、将来の不確実性の高まりを受け、社会 の未来について様々な議論が行われている。また科 学技術・イノベーション政策においては、将来的に 主流となる可能性のある新領域探索への期待も大き い。本調査では、科学技術に視点を置き、専門家の想
定による平均的な未来像について検討を行った。本 調査の結果を基に、関係者により発展的な議論がな されることが期待される。
当センターでは、アンケート結果の詳細分析や専 門家の見解等を加え、2019 年秋に報告書を取りまと める予定である。また、公表済みのビジョンワーク ショップ報告4)、クローズアップ科学技術領域方法 論6)に続き、デルファイ調査、クローズアップ科学 技術領域の内容分析、基本シナリオについて取りまと めることとしている。あわせて、関連する詳細分析や 方法論も適宜取りまとめる予定である。
また今後の調査として、「基本シナリオ」と「未来 につなぐクローズアップ科学技術領域」の関係性を 踏まえ各論に関するテーマを設定し、科学技術発展 による社会の未来像について深掘りすることを検討 していく。
1) 科学技術・学術政策研究所の研究領域「科学技術予測・科学技術動向」ページ;
https://www.nistep.go.jp/research/science-and-technology-foresight-and-science-and-technology-trends 2) 科学技術予測センター、「第 11 回科学技術予測調査 ST Foresight 2019(速報版)」(2019 年 7 月);
http://doi.org/10.15108/stfc.foresight11.101
3) 例えば、経済団体連合会「Society 5.0 -ともに創造する未来-」、経済同友会「Japan 2.0」、日立製作所(シリーズ
-未来を創る- 日立京大ラボの描く未来、 STI Horizon Vol.5 No.2 (2019 年 6 月): http://doi.org/10.15108/
stih.00174)、理化学研究所(シリーズ-未来を創る- 理化学研究所 未来戦略室のイノベーションデザイン、STI Horizon Vol.5 No.1 (2019 年 3 月): http://doi.org/10.15108/stih.00165)、総務省「未来をつかむ TECH 戦略」、
経済産業省「新産業構造ビジョン」など。
4) 科学技術予測センター、「第 11 回科学技術予測調査 2040 年に目指す社会の検討(ワークショップ報告)」、調査資料 No.276(2018 年 9 月);http://doi.org/10.15108/rm276
5) 矢野幸子、「2040 年の科学技術と社会について考える~ビジョンワークショップ開催報告~」、STI Horizon Vol.4 No.2
(2018 年 5 月);http://doi.org/10.15108/stih.00125
6) 重茂浩美・蒲生秀典・小柴等、「第 11 回科学技術予測調査[3-1] 未来につなぐクローズアップ科学技術領域-AI 関連 技術とエキスパートジャッジの組み合わせによる抽出の試み」、DISCUSSION PAPER No.172(2019 年 7 月);
http://doi.org/10.15108/dp172
7) 蒲生秀典・小柴等・重茂浩美、「未来につなぐクローズアップ科学技術領域-AI 関連技術とエキスパートジャッジを組み 合わせた抽出-」、STI Horizon Vol.5 No.3(2019 年 9 月);https://doi.org/10.15108/stih.00179
8) 黒木優太郎・河岡将行、「基本シナリオ-科学技術の発展により目指す社会の姿-」、STI Horizon Vol.5 No.3(2019 年 9 月);https://doi.org/10.15108/stih.00186
参考文献・資料