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サーベイランスならびに下痢症疾患の実態把握

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平成29年度厚生労働科学研究費補助金(食品の安全確保推進研究事業)

「食鳥肉におけるカンピロバクター汚染のリスク管理に関する研究」

平成29年度分担研究報告書

宮城県および全国における積極的食品由来感染症病原体 サーベイランスならびに下痢症疾患の実態把握

(カンピロバクター症をはじめとする食品媒介感染症被害実態の推定)

研究分担者 朝倉  宏    国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部長 研究協力者  窪田邦宏    国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第二室長       桜井芳明    宮城県医師会健康センター所長

小松真由美  宮城県医師会健康センター検査部検査科二科長 玉井清子    株式会社ミロクメディカルラボラトリー 坂上武文    株式会社ミロクメディカルラボラトリー 滝  将太    株式会社ミロクメディカルラボラトリー 霜島正浩    株式会社ビー・エム・エル

渋谷俊介    株式会社LSIメディエンス 熊谷優子    国立感染症研究所国際協力室長 齊藤剛仁    国立感染症研究所感染症疫学センター 春日文子    国立環境研究所特任フェロー

天沼  宏    国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第二室 田村  克    国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第二室

研究要旨:  食中毒として報告されない散発発症患者を含めた胃腸炎疾患の患者 数を推定するため、宮城県の臨床検査機関の協力により、医療機関から検査依頼 された下痢症検便検体からの病原菌検出数に関するアクティブ(積極的)サーベ イランスを2005年から継続して行っている。本年度はまず宮城県における2005

〜2016年の病原菌検出状況の詳細解析および被害実態の推定を行った。臨床検査 機関を対象としたアクティブサーベイランスのデータを用い、検査機関の住民カ バー率、および宮城県で以前に行った夏期および冬期の 2 回の電話住民調査の結 果から求めた検便実施率および医療機関受診率等の因子を推定モデルに導入する ことで、CampylobacterSalmonellaVibrio parahaemolyticus3菌について、

モンテカルロシミュレーション法により宮城県における当該菌による食品由来下 痢症患者数の推定を行なった。これらの推定値から、全国での当該菌による食品 由来下痢症患者の発生率が宮城県での発生率と同じであると仮定した時の全国の

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当該菌による食品由来下痢症患者の数を推定した。2011年からはさらに全国を対 象とした民間検査機関 3 社から全国についての病原菌検出数データを収集してい る。本年度は2016年のデータを収集し、2006〜2016 年の11年間のアクティブ サーベイランスデータから全国における食品由来下痢症患者数の推定を行い、宮 城県データからの全国推定値と比較した。

 

A. 研究目的 

  我が国では食品由来感染症の患者数は食 品衛生法および感染症法にもとづいて報告 されている。散発事例は食中毒事例として 報告されない場合が多く、そのため食中毒 統計等だけでは食品由来感染症・下痢症の 患者数が正確に把握されていないことが示 唆される。特に最近では広域散発事例によ る被害も報告されており、食品衛生行政に おける対策等の検討のためには、それらの 事例も含めた被害実態の全容を把握するこ とが重要と考えられる。

  米国では 1995 年以降、FoodNet(フー ドネット)というアクティブ(積極的)サ ーベイランスシステムが導入され、食品衛 生の各種対策及びその効果を検討するため に食品由来感染症の実患者数の把握を継続 して行なっている。FoodNet は全米10州 の定点検査機関から病原体検出データを集 約して分析している。さらに電話住民調査 や検査機関調査等を継続して行い、各推定 段階に必要なデータを得ることで全体推定 を行なっている。このシステムで得られた 推定結果は患者数の多年度にわたる変動の 把握や各種行政施策の効果を検討する等、

食品衛生行政に活用されている。

  日本においても患者数の全容把握のため に同様のシステムが必要と考えられるが、

これまでに日本にはこうしたシステムが設 置されてこなかった。下痢症の発生動向や

実態把握のための基礎データを蓄積するこ とは、食中毒行政における食中毒対策立案、

その効果の評価および各種リスク評価等に きわめて重要と考えられる。こうしたこと をふまえ、本研究等において2005年より 継続して宮城県においてアクティブサーベ イランスを行い、これにより実患者数推定 を行い、その有効性を実証し、日本におけ るFoodNet様システム構築の基礎とする と同時に、そのようなシステムを日本に導 入する際に検討すべき特徴の把握を行って きた。

本年度は、(1)2005年から継続してい る宮城県におけるアクティブサーベイラン ス、およびそれによる宮城県の被害実態の 推定を引き続き行った。また、(2)2011 年からは民間検査機関3社の協力で全国に ついての病原菌検出データを収集し、それ らをもとに全国における被害実態の推定を 行っているが、本年度もこれを継続し、こ れらの結果を上記の宮城県データからの全 国推定結果と比較することで本研究におけ る推定手法の妥当性の検討を継続して行う こととした。

B. 研究方法  1.データ収集 

下痢症患者の原因病原体のアクティブサ ーベイランスを行うために、宮城県内で医 療機関の医師が便検査を依頼している検査

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53 機関に協力を依頼し、その機関からのデー タ収集を継続して行っている。また 2011 年からは民間検査機関3社より全国の菌検 出数データを収集している。

宮城県の有症者(定義は1−3参照)の医 療機関受診率および受診者の検便実施率は、

同県において以前に行った電話住民調査の 結果より推定された値を用いた。季節変動 を考慮して冬期(2006年)だけでなく夏期

(2007年)にも電話住民調査を行い、冬期 の結果と比較検討の上、統合したデータか ら検便実施率および医療機関受診率を確率 分布に当てはめて推定した。

1−1.宮城県の臨床検査機関からの同県 のデータの収集

○協力検査機関

・宮城県医師会健康センター

・宮城県塩釜医師会臨床検査センター これら2機関での検便結果を集計した。

1−2.民間検査機関からの全国のデータ の収集

○協力検査機関

・株式会社ミロクメディカルラボラトリー

・株式会社ビー・エム・エル

・株式会社LSIメディエンス

これら3社での全国を対象とした検便の 結果を集計した。

1−3.全国および宮城県を対象とした急 性下痢症に関する電話住民調査

  宮城県を対象とした急性下痢症に関する 冬期電話住民調査(2006年11月22日〜

12月4日、約1万人)および夏期電話住民 調査(2007年7月14日〜7月27日、約1

万 2 千人)、全国を対象とした急性下痢症 に関する冬期電話住民調査(2009年12月 5日〜12月24日、全国約1万2000人)

および2回の夏期電話住民調査(2014年7 月11日〜8月3日、全国約1万3千人を 対象、2016年7月22日〜8月23 日、全 国約2万3千人を対象)が行われ(表2)、

その結果は適宜報告されているが、ここで は以下に概略を示しておく。

  電話調査は全て共通の質問票および手順 にて行った。全国および宮城県内の一般家 庭をランダムに選択し、バイアスを減少さ せるため家庭内で次に誕生日が来る予定の 人に対して調査を行った。調査時点から過 去1カ月以内に血便、24時間以内に3回以 上の下痢、もしくは嘔吐があったという有 症者条件を満たし、かつ慢性胃腸疾患、飲 酒、投薬、妊娠等の除外条件がなかった人 を有症者とした。

2.データ集計・解析

  検査機関からの病原菌検出データおよび 電話調査からのデータは Microsoft Excel を利用してコンピューターファイルに入力 した。検査機関データの個人情報は提供さ れた時点で既に切り離されており、提供デ ータから個人を特定することはできない。

電話調査データは人数だけのデータであり 個人情報は含まれていない。電話調査デー タは全国または地域の年齢人口分布にもと づき補正し、集計後に確率分布として推定 モデルに導入した。モデルは@RISK ソフ トウェア(Palaside 社)上にて作成し、1 万回の試行を行った。

3.宮城県における食品由来下痢症患者数

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54 の推定

  宮城県における菌種ごとの食品由来下痢 症疾患被害推定のために、上記検査機関の データからCampylobacterSalmonella Vibrio parahaemolyticus3菌の検出数 を抽出した。協力検査機関ではこれら3菌 に関しては、全ての検体で検査を行なって いる。検出数に対し、検査機関の住民カバ ー率による補正を行い、その結果を医療機 関における受診者の検便実施率、および下 痢症患者の医療機関受診率の推定値ととも に推定モデルに導入することで宮城県での 各菌による推定患者数を算出した。検査機 関の住民カバー率は検査機関からの情報に より2機関あわせて52%と推定した。

  検査機関菌検出データは 2016 年1〜12 月の新規データと 2005 年 1 月〜2015 年 12月までの11年分の既集計データを用い た。

  検査機関における陽性検体からの菌検出

率は 100%と仮定した。さらに米国におけ

る研究(P. Mead et al., 1999)で、食品由 来感染の割合をCampylobacter 80%、

Salmonella 95% 、 Vibrio parahaemolyticus 65%であるとそれぞ れ推定していることから、これらの値を用 いて宮城県における各菌の食品由来下痢症 患者数を推定した。

4.宮城県についての推定結果から全国に おける食品由来下痢症患者数の推定   宮城県についての推定値より、全国での 当該菌による食品由来下痢症患者の発生率 が宮城県での発生率と同じであると仮定し た時の全国の当該菌による食品由来下痢症 患者数を推定した。このために総務省統計

局の Web ページに掲載されている人口統 計データ(2010年)を用いた。

5.全国についての検出数データから全国 での食品由来下痢症患者数の推定

  全国での菌種ごとの食品由来下痢症疾患 被害推定のために、全国を対象としている 民間検査機関 3 社の検査データから、

Campylobacter Salmonella Vibrio parahaemolyticus 3 菌の検出数を抽出 し、菌ごとに年間の検出数を求めた。これ に対し、検査機関の住民カバー率による補 正を行い、その結果を医療機関における受 診者の検便実施率および下痢症患者の医療 機関受診率の推定値とともに推定モデルに 導入することで各菌による推定患者数を算 出した。

  2010〜2016年については3社(ミロク メディカルラボラトリー、ビー・エム・エ ル、LSIメディエンス)、2009年について は2社(ビー・エム・エル、LSIメディエ ンス)、2006〜2008年については1社(ビ ー・エム・エル)の検出数データを使用し た。

各検査機関の住民カバー率は、各検査機 関の腸管出血性大腸菌(EHEC)(2009年 および2010年のLSIメディエンス)もし

くはEHEC O157(ミロクメディカルラボ

ラトリー、ビー・エム・エル、2011年以降 のLSIメディエンス)の検出数を厚生労働 省への全国届出数と比較することによりそ れぞれの年度ごとに推定した(表5)。

検便実施率および医療機関受診率として は、全国を対象として夏期に2回実施され た電話住民調査(2014 年 7〜8 月、2016 年 7〜8 月)および冬期に実施された電話

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55 住民調査(2009年12月)のデータを統合 し、その解析により得られた各推定値(図 1、2)を用いた。

  各検査機関における陽性検体からの菌検

出率は 100%と仮定した。さらに宮城県の

場合と同様、Mead らの推定値を用いて全 国における各菌の食品由来下痢症患者数を 推定した。

C. 研究結果   

1.宮城県における 2016 年の病原細菌の 検出状況

1−1.  概要 

2016 年に宮城県医師会健康センターお よび宮城県塩釜医師会臨床検査センターで 実施した便検査件数は 4,920 件であった

(表1)。

O血清型大腸菌(以下 Escherichia coli と記す)を含め何らかの病原性がある細菌

(病原細菌)の検出は2,440件で、下痢症 の原因となる細菌(下痢原性細菌)は、2,335 件であった。

  菌種別では,Escherichia coli 1,952 件と下痢原性細菌の83.6%を占めた。以下、

Campylobacter 282 件 (12.1% )、

Salmonella42件(1.8%)、 Aeromonas が15件(0.6%)、Yersinia13件(0.6%)、 Edwardsiella tarda6件(0.3%)、Vibrio parahaemolyticus2件(0.1%)検出さ れ た 。 菌 種 別 の 順 位 に つ い て 、1 位 Escherichia coli、2位Campylobacter 上位は過去3年間と同じ菌種で、この2菌 種で下痢原性細菌の95%以上を占めた。ベ ロ毒素陽性検体数は21件で、7、9月(各

6件)と8月(5件)に多く検出されてい た。

1 ‑2.Campylobacter Salmonella Vibrio parahaemolyticus検出数

宮城県における食品由来下痢症の被害推 定 の 対 象 菌 種 と し て 選 定 さ れ て い る Campylobacter Salmonella Vibrio parahaemolyticus の検出状況についてま とめた(表1)。

Campylobacter の年間の検出数は 282 件で、月ごとの検出数は7月が36件と最 も多く、次いで9月の33件、6、8月の各 32件、10月の30件、11月の29件の順で あった。

Salmonella の年間の検出数は 42 件で、

9月の10件、4、7、8月の各5件、5、6、

10月の各4件の順に多く検出された。

Vibrio parahaemolyticus の年間の検出 数は2件で8月と10月の各1件であった。

2.食品由来下痢症疾患実患者数推定の試 み

2−1.宮城県でのアクティブサーベイラン スデータからの食品由来下痢症疾患実患者 数の推定

  CampylobacterSalmonellaVibrio parahaemolyticus 3 菌に関して、食品 由来下痢症疾患の実患者数推定の試みを図 3の考え方に沿って実施した。

2−1−1.宮城県における年間検出数の推 定

  宮城県における食品由来下痢症の実患者 数の把握に向けて、宮城県医師会健康セン

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56 ターおよび宮城県塩釜医師会臨床検査セン ターでの菌検出データをもとに推定を行っ た。2005年に陽性であった検便検体数は両 センターを合わせて、Campylobacter 562 件 、Salmonella 78 件 、Vibrio parahaemolyticus36件であった。2006 年はCampylobacter550件、Salmonella が46件、Vibrio parahaemolyticus27 件、2007年はCampylobacter538 件、

Salmonella 46 件 、 Vibrio parahaemolyticus 24 件、2008 年は Campylobacter468件、Salmonella 56件、Vibrio parahaemolyticus8件、

2009 年は Campylobacter 339 件、

Salmonella 33 件 、 Vibrio parahaemolyticus 6 件 、2010 年 は Campylobacter354件、Salmonella 51件、Vibrio parahaemolyticus15件、

2011 年 は Campylobacter 324 件 、 Salmonella 23 件 、 Vibrio parahaemolyticus 7 件 、2012 年 は Campylobacter262件、Salmonella 30件、Vibrio parahaemolyticus3件、

2013 年は Campylobacter 226 件、

Salmonella 33 件 、 Vibrio parahaemolyticus 5 件 、2014 年 は Campylobacter252件、Salmonella 43件、Vibrio parahaemolyticus4件、

2015 年は Campylobacter 271 件、

Salmonella 41 件 、 Vibrio parahaemolyticus 4 件 、2016 年 は Campylobacter282件、Salmonella 42件、Vibrio parahaemolyticus2件で あった(表3)。協力検査機関はあわせて宮 城県の人口の約 52%をカバーしていると の検査機関からの情報により、宮城県全体

で の 各 菌 の 検 出 数 を 、 2005 年 は Campylobacter 1,081 件、Salmonella が150件、Vibrio parahaemolyticus69 件、2006年はそれぞれ1,058件、88件、

52件、2007年はそれぞれ1,035件、88件、

46件、2008年はそれぞれ900件、108件、

15件、2009年はそれぞれ652件、63件、

12件、2010年はそれぞれ681件、98件、

29件、2011年はそれぞれ623件、44件、

13件、2012年はそれぞれ504件、58件、

6件、2013年はそれぞれ435件、63件、

10件、2014年はそれぞれ485件、83件、

8件、2015年はそれぞれ521件、79件、8 件、2016 年はそれぞれ542 件、81 件、4 件と推定した。

2−1−2.宮城県での有症者の医療機関受 診率の推定

  今回用いた推定値は、2006年と2007年 の2回の電話住民調査の結果にもとづいて 既に得られているものである。以下に当該 電話住民調査の結果について説明する。

  宮城県における電話住民調査では 2006 年冬期2,126件、2007年夏期2,121件の有 効回答が得られた(有効回答率はそれぞれ 21.2%、17.7%)。下痢症疾患の有病率は冬 期が3.3%(70/2,126人)、夏期が3.5%(74

/2,121人)であった(表2)。

  冬期調査では有症者数は 70 人、医療機 関受診者数は 27 人であり、夏期調査では 有症者数は74人、医療機関受診者数は23 人であった(表2)。これらのデータを宮城 県の人口年齢分布で補正した後に統合し、

ベータ分布を仮定してモデルに導入した結 果、医療機関受診率の平均値は32.0%であ った。

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57 2−1−3.宮城県での医療機関受診者の検 便実施率の推定

  今回用いた推定値は、2006、2007年の2 回の電話住民調査の結果にもとづいて既に 得られているものである。

  上記電話住民調査において、冬期調査で は下痢症による医療機関受診者数は27人、

検便実施者数は4人、夏期調査では医療機 関受診者数は23人、検便実施者数は2人 であった(表2)。これらのデータを人口年 齢分布で補正した後に統合し、ベータ分布 を仮定してモデルに導入したところ、検便 実施率の平均値は10.9%であった。

2−1−4.宮城県における下痢症疾患によ る実患者数の推定

  上記で検討した種々の係数を用いて推定 した宮城県における下痢症疾患による実患 者数の平均値は、Campylobacterが年別に 37,019(2005)、36,238(2006)、35,437

(2007)、30,786(2008)、26,272(2009)、 23,291(2010)、21,331(2011)、17,256

(2012)、14,878(2013)、16,600(2014)、 17,835(2015)、18,548(2016)人であっ た。Salmonella 5,134(2005)、3,028

(2006)、3,028(2007)、3,690(2008)、

2,169(2009)、3,358(2010)、1,515(2011)、 1,973(2012)、2,174(2013)、2,831(2014)、 2,698(2015)、2,765(2016)人であった。

Vibrio parahaemolyticus2,369(2005)、 1,778(2006)、1,582(2007)、527(2008)、 395(2009)、988(2010)、460(2011)、

197(2012)、329(2013)、263(2014)、

263(2015)、132(2016)人と推定された

(表 3)。宮城県(人口 236 万人)の人口

10 万人あたりの下痢症疾患実患者数とし て表すと、Campylobacter1,569(2005)、 1,536(2006)、1,502(2007)、1,305(2008)、

1,113(2009)、987(2010)、904(2011)、 731(2012)、630(2013)、703(2014)、

755(2015)、786(2016)人と推定された。

Salmonella10万人あたり218(2005)、 128(2006)、128(2007)、156(2008)、

92(2009)、142(2010)、64(2011)、84

(2012)、92(2013)、120(2014)、114

( 2015 )、117( 2016) 人 、 Vibrio parahaemolyticus 10 万人あたり 100

(2005)、75(2006)、67(2007)、22(2008)、

17(2009)、42(2010)、20(2011)、8(2012)、

14(2013)、11(2014)、11(2015)、6(2016)

人とそれぞれ推定された(表3)。

2−1−5.宮城県における食品由来下痢症 実患者数の推定とその食中毒患者報告数と の比較

  上記で推定された下痢症患者数にはヒト

—ヒト感染、動物との接触感染等、食品由来 でないものを原因とする被害が多く含まれ ており、食品由来感染の患者数の把握には 更なる推定が必要である。米国のMeadら の研究では菌種ごとに食品由来感染の割合 をCampylobacter80%、Salmonella 95%、Vibrio parahaemolyticus65%と 推定しており、ここではこれらの値を用い て食品由来下痢症患者数の推定を行った。

その結果、食品由来下痢症患者数は年別に、

Campylobacter29,615(2005)、28,990

(2006)、28,350(2007)、24,629(2008)、 21,018(2009)、18,633(2010)、17,065

(2011)、13,805(2012)、11,902(2013)、 13,280(2014)、14,268(2015)、14,838

(8)

58

(2016)人、Salmonella4,877(2005)、 2,877(2006)、2,877(2007)、3,506(2008)、 2,061(2009)、3,190(2010)、1,439(2011)、 1,874(2012)、2,065(2013)、2,689(2014)、 2,563(2015)、2,627(2016)人、Vibrio parahaemolyticus1,540(2005)、1,156

(2006)、1,028(2007)、343(2008)、257

(2009)、642(2010)、299(2011)、128

(2012)、214(2013)、171(2014)、171

(2015)、86(2016)人と推定された(表 3)。

  宮城県における食中毒患者報告数は年別 に、Campylobacter 143(2005)、109

(2006)、32(2007)、33(2008)、9(2009)、 25(2010)、9(2011)、52(2012)、8(2013)、 32(2014)、5(2015)、7(2016)人、

Salmonella12(2005)、11(2006)、25

(2007)、0(2008)、23(2009)、13(2010)、 0(2011)、12(2012)、0(2013)、0(2014)、 0( 2015 )、0 ( 2016 ) 人 、 Vibrio parahaemolyticus32(2005)、0(2006)、 627(下記参照)(2007)、37(2008)、19

(2009)、16(2010)、0(2011)、1(2012)、 0(2013)、0(2014)、0(2015)、0(2016)

人 で あ っ た ( 表 3 )。2007 年 の Vibrio parahaemolyticus 食中毒患者報告数 627 人のうち620人は1件のアウトブレイクの 患者であり、宮城県を含む東日本1都7県 の患者を、原因食品の製造事業所の所在地 であった宮城県がとりまとめて報告したも のである。2007 年に宮城県内で発生した Vibrio parahaemolyticus患者の報告数は、

当該アウトブレイク患者のうち宮城県外の 610名を除外した10人とそれ以外の7人 の合計17人であった。

2−1−6.全国を対象とした 2016 年夏、

2014年夏および2009年冬の電話住民調査 の結果の概要

  2016 年夏、2014年夏および2009年冬 に全国を対象に行われた電話住民調査の結 果について以下に記載する(表2)。   2016年7月22日〜8月23日、2014年 7月11日〜8月3日、2009年12月5日〜

12月24日のそれぞれ約3週間に全国約2 万3千人、約1万3千人、約1万2千人を 対象として下痢症に関する電話住民調査が 行われた。有効回答率は 2016 年調査が 13.3%(3,020 件)、2014 年調査が 15.2%

(2,039件)、2009年調査が16.9%(2,077 件)であった。

  下痢症有症者数はそれぞれ96人(2016)、 90 人(2014)、77 人(2009)で、従って 下痢症有病率はそれぞれ3.2%、4.4%、3.7%

であった。

2−1−7.宮城県についての推定値を用い た全国の食品由来下痢症患者数の推定およ びその全国の食中毒患者報告数との比較   上述するように、宮城県における2006、

2007 年の電話住民調査と、2009、2014、

2016 年の全国における電話住民調査とで 下痢症有病率が全国の方が宮城県より概ね 高い結果が得られた(表2)ことから、宮 城県の推定値から人口比で全国の推定値を 算出しても過大推定にはならないと考えら れた。そこで、宮城県における推定食品由 来患者数(表3)に、宮城県と全国の人口 比を乗ずることで全国推定を行った(表4)。   全国における下痢症の推定食品由来患者 数は年別に、Campylobacter1,603,178

(2005)、1,569,344(2006)、1,534,698

(9)

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(2007)、1,333,266(2008)1,137,788

(2009)、1,008,678(2010)、923,796

(2011)、747,320(2012)、644,303(2013)、 718,899(2014)、772,384(2015)、803,240

(2016)人、Salmonella264,011(2005)、 155,743(2006)、155,743(2007)、189,794

(2008)、111,570(2009)、172,687(2010)、 77,899(2011)、101,447(2012)、111,787

(2013)、145,566(2014)、138,745(2015)、 142,210 ( 2016 ) 人 、 Vibrio parahaemolyticus 83,366(2005)、

62,579(2006)、55,650(2007)、18,568

(2008)、13,912(2009)、34,754(2010)、

16,186(2011)、6,929(2012)、11,585

(2013)、9,257(2014)、9,257(2015)、

4,656(2016)人とそれぞれ推定された(表 4)。

  全 国 の 食 中 毒 患 者 報 告 数 は 年 別 に 、 Campylobacter 3,439(2005)、2,297

(2006)、2,396(2007)、3,071(2008)、

2,206(2009)、2,092(2010)、2,341(2011)、 1,834(2012)、1,551(2013)、1,893(2014)、 2,089(2015)、3,272(2016)人、Salmonella が 3,700(2005)、2,053(2006)、3,603

(2007)、2,551(2008)、1,518(2009)、

2,476(2010)、3,068(2011)、670(2012)、 861(2013)、440(2014)、1,918(2015)、 704(2016)人、Vibrio parahaemolyticus が 2,301(2005)、1,236(2006)、1,278

(2007)、168(2008)、280(2009)、579

(2010)、87(2011)、124(2012)、164

(2013)、47(2014)、224(2015)、240

(2016)人であった(表4)。

2−2.全国についてのアクティブサーベイ ランスデータからの全国の食品由来下痢症

疾患実患者数の推定

2−2−1.各検査機関の住民カバー率の推 定

  全国の食品由来下痢症の実患者数把握に 向けて、民間検査機関3社の菌検出データ をもとに推定を行った。

  住 民 カ バ ー 率 は 、 可能 な 限 り EHEC O157 検出数を使用して推定した。LSI メ ディエンスの2009年および2010年のデー タについては、EHEC O157の検出数デー タが得られなかったためこれらの年のカバ ー率はEHECの検出数に依った。

  得られたカバー率をまとめると、2016 年 は ミ ロ ク メ デ ィ カ ル ラ ボ ラ ト リ ー が 1.2%、ビー・エム・エルが14.0%、LSIメ ディエンスが4.0%、2015年はミロクメデ ィカルラボラトリーが1.2%、ビー・エム・

エルが14.8%、LSIメディエンスが3.7%、

2014 年はミロクメディカルラボラトリー が1.5%、ビー・エム・エルが15.4%、LSI メディエンスが4.0%、2013年はミロクメ ディカルラボラトリーが 1.4%、ビー・エ ム・エルが 16.7%、LSI メディエンスが

2.9%、2012 年はミロクメディカルラボラ

トリーが1.8%、ビー・エム・エルが15.7%、

LSIメディエンスが2.9%、2011年はミロ クメディカルラボラトリーが1.2%、ビー・

エム・エルが11.4%、LSIメディエンスが

3.1%、2010 年はミロクメディカルラボラ

トリーが1.5%、ビー・エム・エルが12.1%、

LSI メディエンスが 2.2%、2009 年はビ ー・エム・エルが11.7%、LSIメディエン スが 2.7%であった。そこで 2016〜2010 年は 3 社合計のカバー率とし、2016 年は 19.1%、2015年は19.7%、2014年は20.9%、

(10)

60 2013年は21.0%、2012年は20.4%、2011 年は 15.7%、2010 年は15.8%が得られた

(表5)。2009年はビー・エム・エルとLSI メディエンスの2社合計で14.4%であった。

2006〜2008 年についてはビー・エム・エ

ル1社の各年のカバー率(2006年は8.5%、

2007年は7.1%、2008年は10.0%)を使用 した。

2−2−2.全国における年間菌検出数の推 定

  民間検査機関における 2006 年(1 社)

の菌検出数は、Campylobacter 10,144 件 、Salmonella 1,888 件 、Vibrio parahaemolyticus523件、2007年(1 社 ) は Campylobacter 10,962 件 、 Salmonella 1,886 件 、 Vibrio parahaemolyticus421件、2008年(1 社 ) は Campylobacter 12,934 件 、 Salmonella 1,894 件 、 Vibrio parahaemolyticus216件、2009年(2 社 ) は Campylobacter 14,057 件 、 Salmonella 2,059 件 、 Vibrio parahaemolyticus227件、2010年(3 社 ) は Campylobacter 15,401 件 、 Salmonella 2,434 件 、 Vibrio parahaemolyticus563 件、2011 年(3 社 ) は Campylobacter 14,950 件 、 Salmonella 2,705 件 、 Vibrio parahaemolyticus351件、2012年(3 社 ) は Campylobacter 12,794 件 、 Salmonella 2,258 件 、 Vibrio parahaemolyticus312件、2013年(3 社 ) は Campylobacter 13,947 件 、 Salmonella 2,324 件 、 Vibrio parahaemolyticus287件、2014年(3

社 ) は Campylobacter 16,762 件 、 Salmonella 2,726 件 、 Vibrio parahaemolyticus 209件、2015 年(3 社 ) は Campylobacter 18,164 件 、 Salmonella 2,728 件 、 Vibrio parahaemolyticus 138件、2016 年(3 社 ) は Campylobacter 18,547 件 、 Salmonella 2,689 件 、 Vibrio parahaemolyticus 232件であった(表 6)。これらの検出数と各社の推定カバー率 の合計を用いて、全国における年間菌検出 数を推定した。その結果、全国での各菌の 検出数は、2006 年は Campylobacter 119,341 件、Salmonella 22,212 件、

Vibrio parahaemolyticus6,153件、2007 年はそれぞれ154,423件、26,563件、5,930 件、2008年はそれぞれ129,340件、18,940 件、2,160 件、2009 年はそれぞれ 97,618 件、14,299 件、1,576 件、2010 年はそれ ぞれ97,475件、15,405件、3,563件、2011 年はそれぞれ95,223件、17,229件、2,236 件、2012年はそれぞれ62,716件、11,069 件、1,529 件、2013 年はそれぞれ 66,414 件、11,067件、1,367件、2014年はそれぞ れ80,201件、13,043件、1,000件、2015 年はそれぞれ 92,203 件、13,848 件、701 件、2016年はそれぞれ96,876件、14,045 件、1,212件であると推定された。

2−2−3.全国における食品由来下痢症疾 患の実患者数の推定

  全国を対象とした下痢症に関する電話住 民調査は 2009 年冬、2014 年夏、および 2016 年夏の計 3 回行われている(表2)。 そこでこれらのデータを全国の人口年齢分 布で補正後、統合し、ベータ分布を仮定し

(11)

61 てモデルに導入し、全国の医療機関受診率 および検便実施率を推定した。その結果、

全国の医療機関受診率は25.5%、全国の検 便実施率は4.8%とそれぞれ推定された(図 1、2)。これらを用いて、全国における下 痢症疾患の実患者数を推定した(表6)。   推 定 さ れ た 実 患 者 数 の 平 均 値 は 、 Campylobacter で は 年 別 に 13,084,001

(2006)、16,939,998(2007)、14,198,429

(2008)、10,707,971(2009)、10,687,320

(2010)、10,443,399(2011)、6,880,816

(2012)、7,286,661(2013)、8,796,321

(2014)、10,108,930(2015)、10,641,732

(2016)人であ った。Salmonella では 2,435,193(2006)、2,914,508(2007)、

2,079,158(2008)、1,568,451(2009)、

1,689,042(2010)、1,889,592(2011)、

1,212,503(2012)、1,213,198(2013)、

1,430,543(2014)、1,518,232(2015)、

1,542,870(2016) 人 で あ っ た 。Vibrio parahaemolyticus では 674,579(2006)、 650,587(2007)、237,116(2008)、172,918

(2009)、390,686(2010)、245,193(2011)、 167,799(2012)、149,944(2013)、109,678

(2014)、76,802(2015)、133,115(2016)

人と推定された。

  日本全国(人口1億2777万人)の人口 10 万人あたりの下痢症疾患実患者数は、

Campylobacter10,262(2006)、13,286

(2007)、11,136(2008)、8,398(2009)、 8,382(2010)、8,191(2011)、5,397(2012)、 5,715(2013)、6,899(2014)、7,929(2015)、 8,347(2016)人、Salmonella 1,910

(2006)、2,286(2007)、1,631(2008)、

1,230(2009)、1,325(2010)、1,482(2011)、 951(2012)、952(2013)、1,122(2014)、

1,191(2015)、1,210(2016)人、Vibrio parahaemolyticus 529(2006)、510

(2007)、186(2008)、136(2009)、306

(2010)、192(2011)、132(2012)、118

(2013)、86(2014)、60(2015)、104(2016)

人とそれぞれ推定された。

  宮城県についての推定の場合(2−1−5 参照)と同様にMeadらの結果を適用する ことにより、全国における下痢症の食品由 来実患者数が年別に、Campylobacter 10,467,201(2006)、13,551,998(2007)、

11,358,743(2008)、8,566,377(2009)、

8,549,856(2010)、8,354,719(2011)、

5,504,652(2012)、5,829,329(2013)、

7,037,057(2014)、8,087,144(2015)、

8,513,386(2016) 人 、Salmonella 2,313,433(2006)、2,768,783(2007)、

1,975,200(2008)、1,490,028(2009)、

1,604,590(2010)、1,795,112(2011)、

1,151,878(2012)、1,152,538(2013)、

1,359,046(2014)、1,442,320(2015)、

1,465,727 ( 2016 ) 人 、 Vibrio parahaemolyticus 438,477(2006)、

422,882(2007)、154,126(2008)、112,397

(2009)、253,946(2010)、159,375(2011)、 109,069(2012)、97,464(2013)、71,291

(2014)、49,921(2015)、86,525(2016)

人とそれぞれ推定された(表6)。

  日本全国における人口 10 万人あたりの 下 痢 症 の 食 品 由 来 実 患 者 数 は 、 Campylobacter 8,210(2006)、10,629

(2007)、8,909(2008)、6,719(2009)、

6,706(2010)、6,553(2011)、4,317(2012)、 4,572(2013)、5,519(2014)、6,343(2015)、 6,677(2016)人、Salmonella 1,815

(2006)、2,172(2007)、1,549(2008)、

(12)

62 1,169(2009)、1,259(2010)、1,408(2011)、 903(2012)、904(2013)、1,066(2014)、

1,131(2015)、1,150(2016)人、Vibrio parahaemolyticus 344(2006)、332

(2007)、121(2008)、88(2009)、199

(2010)、125(2011)、86(2012)、76(2013)、 56(2014)、39(2015)、68(2016)人と それぞれ推定された(表6)。

  な お 表 6 に は 2006〜2016 年 の Campylobacter Salmonella 、 Vibrio parahaemolyticus の全国食中毒患者報告 数も示してある。

D. 考察 

  宮城県の臨床検査機関のデータからの食 品由来下痢症疾患実患者数の推定では、

2005〜2016年の12年間を通じて、推定食 品由来下痢症患者数は食中毒統計や病原微 生物検出情報での報告数より大幅に多いこ とが確認された。また推定食品由来下痢症 患者数と食中毒患者報告数の経年変化が Vibrio parahaemolyticus の場合を除いて 互いに連動しているとは言えないことから、

現行の食中毒および病原微生物に関する報 告システムによって食品由来下痢症の実患 者数を正確に把握し、経年変動等を評価す ることは困難であることが示唆された。よ り正確な患者数を把握するための補完シス テムとしてアクティブサーベイランスシス テムの構築およびその活用が必要であり、

そのアクティブサーベイランスシステムに おいて最も重要なことは継続性であると考 えられた。

  2011 年からは全国を対象としている民 間検査機関3社(年によって社数は異なる)

から 2006 年以降の全国の菌検出データを 収集し、これをもとに全国の食品由来下痢 症疾患実患者数の推定も行っている。宮城 県の場合と同様、2006〜2016 年の調査期 間を通じて推定食品由来下痢症患者数は食 中毒統計や病原微生物検出情報での報告数 より大幅に多いことが確認された。また11 年間の推定結果を検討した結果、宮城県の 場合と同様、推定食品由来下痢症患者数と 食中毒患者報告数の経年変化は互いに連動 しているとは言えないことが確認された。

  全国データからの全国の食品由来下痢症 推定患者数は、宮城県データからの人口比 に よ る 全 国 推 定 結 果 と 比 較 し て 、 Campylobacter で は 6.7〜10.6 倍 、 Salmonella で は 9.3〜23.0 倍 、Vibrio parahaemolyticusでは5.4〜18.6倍の違い があった(表7)。宮城県と全国とで下痢症 疾患有病率に大きな差は認められない(表 2)ことから、この違いはそれぞれの推定 に用いた検査機関住民カバー率、医療機関 受診率、検便実施率などにより生じたと考 えられる。住民カバー率の推定の方法は、

宮城県の検査機関と全国を対象とする民間 検査機関とで異なっている(前者は専門家 の意見、後者はEHEC O157やEHECの 検出数)。また受診率、検便率の推定は、宮 城県の場合、2006年と2007年に行われた 電話住民調査の結果にもとづいており、こ れに対し全国の場合は 2009年、2014年、

2016年に行われた調査にもとづいている。

2006〜7年と2009〜2014年さらには2016 年との間に有症者の医療機関受診行動や医 師の検便実施行動に変化が起きている可能 性も考えられる。以上のような種々の推定 値の全国と宮城県における違いが、推定結

(13)

63 果の違いをもたらしている可能性がある。

  今回の食品由来下痢症患者数推定におい て、宮城県の検査機関については専門家か らの情報で住民カバー率を推定した。しか し専門家の情報には不確定な要素が含まれ ている可能性がある。宮城県の検査機関の 住民カバー率の推定に EHEC 検出数によ る手法を試みたが検出数が少ないためにカ バー率の年ごとのばらつきが大きくなり、

推定に用いるのは現実的ではないと考えら れた。全国を対象とした検査機関の場合は EHEC O157(またはEHEC)の検出数が 宮城県の場合より大幅に多いため、推定結 果のばらつきは宮城県の場合より小さいと 考 え ら れ る 。 し か し 特 定 地 域 に お い て EHEC O157(またはEHEC)による大規 模アウトブレイクが発生した場合はカバー 率の推定に影響が出ることが予想されるこ とに注意が必要である。複数年にわたるア クティブサーベイランスによりカバー率を 把握することでその影響を少なくすること が可能であると考えられ、今後も継続した アクティブサーベイランスが必要であると 考えられる。

  本研究では食品由来下痢症の患者数は米 国における研究成果を適用し、各菌の食品 由来感染の割合を 65%〜95%と仮定して 推定したが、米国と日本の食習慣の違い等 から、今回適用した値が妥当であるかは今 後の検討課題である。日本においては米国 と比較して生食が多いことから、日本にお ける上記3菌の食品由来感染の割合は米国 よりも高い可能性がある。

  食中毒に対する各種対策等の検討および その効果の評価を行なうためには継続した

定量的な実患者数の把握が必要であり、本 研究での推定値は不確実性が大きい要素等 が含まれた推定値ではあるものの、実患者 数の幅を科学的に推定することができ、そ の推定結果から、実患者数が報告数より大 幅に多い可能性が定量的、かつ多年度につ いて示すことができた点が重要であると考 える。

E. 結論   

  宮城県および全国におけるアクティブサ ーベイランスを複数年について行うことで、

下痢症患者の菌検出データを継続して収集 し、下痢症発生実態の概略およびその動向 の把握が可能となった。

  宮 城 県 の 臨 床 検 査 機 関 で の Campylobacter Salmonella Vibrio parahaemolyticus の年間検出数、検査機 関の住民カバー率、医療機関における検便 実施率、医療機関受診率等の各種データを 組み合わせることで、宮城県内での上記 3 菌に起因する食品由来下痢症患者数の推定 を行い、さらにこれより全国の食品由来下 痢症の患者数を全国と宮城県の人口比を用 いて推定し、それらの結果を宮城県および 全国の食中毒患者報告数とそれぞれ比較し た(表 3、4)。その結果、食中毒患者報告 数よりも大幅に多くの患者が存在している 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 全 国 レ ベ ル で 、 Campylobacter で は 約 250〜680 倍 、 Salmonella では約 25〜330 倍、Vibrio parahaemolyticus では約20〜200 倍の患 者が存在している可能性が考えられた。

  2016年は2015年に比べSalmonella 全国食中毒患者報告数が急減しているにも

(14)

64 かかわらず、推定食品由来患者数(および 菌検出数)は宮城県からの推定および全国 からの推定のどちらも大きく変化していな かった(表7)。これは2015年のSalmonella の報告事例の急増はアウトブレイク等の地 域的な偏りがあるものに由来することを示 唆し、全体の変動を検討する上で、そのよ うな事例から大きな影響を受けることの少 ない本研究のような全国的な長期的アクテ ィブサーベイランスの重要性が示されたと 考えられる。また、11年間の各菌の推定患 者数と報告患者数の経年変化は互いに連動 しているとは言えず、食中毒統計の報告数 だけで実患者数の変動を把握することは難 しいことが示唆された。

  11年間(2006〜2016年)の全国レベル のアクティブサーベイランスデータから同 様に上記3菌に起因する全国の食品由来下 痢症実患者数を推定し全国の食中毒患者報 告数と比較したところ、Campylobacter は約2,600〜5,600倍、Salmonellaでは約 580〜3,000倍、Vibrio parahaemolyticus では約 220〜1,800倍の患者が存在してい る可能性が示された。宮城県データからの 全国推定と比較した場合は5.4〜23倍程度 の違いであった(表7)。宮城県データから の推定の場合と同様、2016年は全国データ から推定した Salmonella の推定食品由来 患者数は 2015 年に比べて大きく変化して おらず、全国の食中毒患者報告数の動向と 連動していなかった。

  今後も異なる規模や地域のデータからの 推定結果を比較することで、年ごとの推定 値の検証等に活用することが可能であると 考えられる。さらに宮城県以外の地域でも アクティブサーベイランスを行い、宮城県

推定や全国推定と比較することによって地 域性等の検討がより詳細に可能になると考 えられる。また全国データについての住民 カバー率のより詳細な推定、全国でのより 大規模な電話住民調査による医療機関受診 率および検便実施率の推定等により精度を 向上させることも考えられる。

  これらの結果から平常時から散発事例等 を含めたデータ収集を継続して行うアクテ ィブサーベイランスシステムの有効性およ びその必要性が強調された。このようなサ ーベイランスシステムでは、菌の検出のみ ならず、下痢症発生率(有病率)、医療機関 受診率および検便実施率等の情報も継続し て調査を行なうことでアウトブレイク等の 特殊事例の影響を最小限にすることができ、

より現実に即した実態把握が可能となるこ とが示唆される。また継続調査により各項 目の動向把握が可能となり、緊急事例の早 期発見につながる可能性がある。菌検出件 数を把握する検査機関データは、報告率等 の不確定要素が少なく、推定を行う上でよ り直接的なデータであると考えられる。全 国の食品由来下痢症実患者数のより正確な 把握と地域性等の把握のために、より拡大 したアクティブサーベイランスを行なうこ と、および各不確定要素の推定の精度向上 を図っていくことが今後の検討課題である。

引用文献:

Mead, P. S., L. Slutsker, V. Dietz, L. F.

McCaig, J. S. Bresee, C. Shapiro, P. M.

Griffin, and R. V. Tauxe.

Food-related illness and death in the United States.

(15)

65 Emerging Infectious Diseases, 5:607–625.

1999.

F.  研究発表 1.論文発表 2.学会発表

①窪田邦宏、天沼 宏、桜井芳明、小松真由 美、玉井清子、坂上武文、滝 将太、霜島正 浩、山下知成、熊谷優子、春日文子  全国を対象として新たに実施した下痢症に 関する電話住民調査と、その結果を利用し たカンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビ ブリオに起因する食中毒被害実態の推定

(2006〜2015年) 

第 38回日本食品微生物学会(2017 年 10 月)、徳島市

②窪田邦宏、田村 克、天沼 宏、今川正紀、

中地佐知江、溝口嘉範、熊谷優子 

全国における食品への異物混入被害実態の 把握

第113回日本食品衛生学会学術講演会

(2017年11月)、東京都

G.  知的財産権の出願・登録状況 特になし

(16)

66

表1.宮城県における病原細菌の検出状況( 2016 年)

 

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 合計

検査件数 296 365 404 294 357 442 464 520 494 384 442 458 4,920

Escherichia coli 104 142 176 118 142 159 192 206 209 147 159 198 1,952

Campylobacter sp 12 14 17 11 23 32 36 32 33 30 29 13 282

Staphylococcus aureus 1 1 4 2 2 2 2 2 3 4 23

Yersinia sp 1 5 1 1 3 1 1 13

Salmonella sp 1 2 5 4 4 5 5 10 4 1 1 42

Aeromonas sp 1 2 1 1 2 5 3 15

Vibrio parahaemolyticus 1 1 2

Vibrio fluvialis 0

Vibrio cholerae 0

Vibrio mimicus 0

Plesiomonas shigelloides 0

Shigella sonnei 0

Shigella flexneri 0

Shigella boydii 0

Edwardsiella tarda 1 1 1 1 1 1 6

小計 119 159 199 135 179 200 237 251 261 190 193 212 2,335

Clostridium difficile 2 1 1 1 2 3 1 3 14

Candida sp 1 1

Klebsiella oxytoca 1 7 6 4 7 10 11 10 7 9 7 4 83

Pseudomonas aerginosa 1 1 2 1 1 6

Streptococcus group A   1 1

合計 120 169 205 140 188 211 248 265 273 199 201 221 2,440

vero toxin陽性検体数 1 1 6 5 6 2 21

                                       

(17)

67

表2.全国における電話住民調査の結果( 2009 年冬、 2014 年夏、 2016 年夏)

      と宮城県における電話住民調査の結果( 2006 年冬および 2007 年夏)

      (全て人口年齢分布補正前のデータ)

2009年冬(全国) 2014年夏(全国) 2016年夏(全国)

合計コール数 12,265件 13,396件 22,682件

有効コール数

(有効回答 ) 2,077件(16.9%) 2,039件(15.2%) 3,020件(13.3%)

者数(有 ) 77人(3.7%) 90人(4.4%) 96人(3.2%)

医療機関受診者数

(受診 ) 23人(29.9%) 17人(18.9%) 17人(17.7%)

検便実施者数

(検便実施 ) 2人(8.7%) 0人(−) 2人(11.8%)

2006年冬(宮城県) 2007年夏(宮城県)

合計コール数 10,021件 11,965件

有効コール数

(有効回答 ) 2,126件(21.2%) 2,121件(17.7%)

者数(有 ) 70人(3.3%) 74人(3.5%)

医療機関受診者数

(受診 ) 27人(38.6%) 23人(31.1%)

検便実施者数

(検便実施 ) 4人(14.8%) 2人(8.0%)

(18)

68

表3.宮城県における食品由来下痢症疾患の患者数推定結果とその食中毒患者報告数との 比較(2005〜2016年、シミュレーション試行回数:1万回、宮城県人口:236万人)

検出菌

1 検出数

推定患者数(宮城県)

【平均値】

推定患者数(宮城県)

【10万人あたり】

2推定食品 患者数(宮城県)

3食中毒患者 報告数(宮城県)

カンピロバクター 2005 562 37,019 1,569 29,615 143

2006 550 36,238 1,536 28,990 109

2007 538 35,437 1,502 28,350 32

2008 468 30,786 1,305 24,629 33

2009 339 26,272 1,113 21,018 9

2010 354 23,291 987 18,633 25

2011 324 21,331 904 17,065 9

2012 262 17,256 731 13,805 52

2013 226 14,878 630 11,902 8

2014 252 16,600 703 13,280 32

2015 271 17,835 755 14,268 5

2016 282 18,548 786 14,838 7

サルモネラ 2005 78 5,134 218 4,877 12

2006 46 3,028 128 2,877 11

2007 46 3,028 128 2,877 25

2008 56 3,690 156 3,506 0

2009 33 2,169 92 2,061 23

2010 51 3,358 142 3,190 13

2011 23 1,515 64 1,439 0

2012 30 1,973 84 1,874 12

2013 33 2,174 92 2,065 0

2014 43 2,831 120 2,689 0

2015 41 2,698 114 2,563 0

2016 42 2,765 117 2,627 0

腸炎ビブリオ 2005 36 2,369 100 1,540 32

2006 27 1,778 75 1,156 0

2007 24 1,582 67 1,028 ※4627(17)

2008 8 527 22 343 37

2009 6 395 17 257 19

2010 15 988 42 642 16

2011 7 460 20 299 0

2012 3 197 8 128 1

2013 5 329 14 214 0

2014 4 263 11 171 0

2015 4 263 11 171 0

2016 2 132 6 86 0

1宮城県医師会健康センターおよび塩釜医師会臨床検査センターにおける検出数

2 米国での胃腸炎疾患における食品由来感染の割合(カンピロバクター80%、サルモネ ラ95%、腸炎ビブリオ65%)を用いて算出(Mead et al. 1999)

3食中毒患者報告数(宮城県)(厚生労働省食中毒統計、平成17〜28年食中毒発生状況)

4 620人は1件のアウトブレイクにおける東日本1都7県での患者を宮城県がとりまと めて報告したもので、2007年の宮城県の実際の腸炎ビブリオ患者報告数は17人である。

(19)

69

表4.宮城県データからの全国の食品由来下痢症患者数の推定とその食中毒患者報告数と の比較(2005〜2016年、日本全国人口1億2777万人)

検出菌 年 推定食品

来患者数(全国) ※食中毒患者報告数(全国)

カンピロバクター 2005 1,603,178 3,439

2006 1,569,344 2,297

2007 1,534,698 2,396

2008 1,333,266 3,071

2009 1,137,788 2,206

2010 1,008,678 2,092

2011 923,796 2,341

2012 747,320 1,834

2013 644,303 1,551

2014 718,899 1,893

2015 772,384 2,089

2016 803,240 3,272

サルモネラ 2005 264,011 3,700

2006 155,743 2,053

2007 155,743 3,603

2008 189,794 2,551

2009 111,570 1,518

2010 172,687 2,476

2011 77,899 3,068

2012 101,447 670

2013 111,787 861

2014 145,566 440

2015 138,745 1,918

2016 142,210 704

腸炎ビブリオ 2005 83,366 2,301

2006 62,579 1,236

2007 55,650 1,278

2008 18,568 168

2009 13,912 280

2010 34,754 579

2011 16,186 87

2012 6,929 124

2013 11,585 164

2014 9,257 47

2015 9,257 224

2016 4,656 240

(宮城県データ:宮城県医師会健康センターおよび塩釜医師会臨床検査センター    における検出数)

※  食中毒患者報告数(全国)

(厚生労働省食中毒統計資料、平成17〜28年食中毒発生状況)

(20)

70

表5.全国を対象とした民間検査機関の住民カバー率の推定(2006〜2016年)

年 検査機関住民カバー

(合計)

2006 8.5%(1社)

2007 7.1%(1社)

2008 10.0%(1社)

2009 14.4%(2社)

2010 15.8%(3社)

2011 15.7%(3社)

2012 20.4%(3社)

2013 21.0%(3社)

2014 20.9%(3社)

2015 19.7%(3社)

2016 19.1%(3社)

※2010年以降は3社

(21)

71

表6.全国についてのアクティブサーベイランスデータからの全国の食品由来下痢症疾患 の実患者数推定とその食中毒患者報告数との比較(2006〜2016 年、シミュレーション試 行回数:1万回、日本全国人口1億2777万人)

検出菌 1

検出数 推定患者数(全国)

【平均値】 推定患者数

(10万人あたり) 2推定食品

来患者数(全国) 推定食品 来患者

数(10万人あたり) 3食中毒患者 報告数(全国)

カンピロバクター 2006 10,144 13,084,001 10,262 10,467,201 8,210 2,297

2007 10,962 16,939,998 13,286 13,551,998 10,629 2,396

2008 12,934 14,198,429 11,136 11,358,743 8,909 3,071

2009 14,057 10,707,971 8,398 8,566,377 6,719 2,206

2010 15,401 10,687,320 8,382 8,549,856 6,706 2,092

2011 14,950 10,443,399 8,191 8,354,719 6,553 2,341

2012 12,794 6,880,816 5,397 5,504,652 4,317 1,834

2013 13,947 7,286,661 5,715 5,829,329 4,572 1,551

2014 16,762 8,796,321 6,899 7,037,057 5,519 1,893

2015 18,164 10,108,930 7,929 8,087,144 6,343 2,089

2016 18,547 10,641,732 8,347 8,513,386 6,677 3,272

サルモネラ 2006 1,888 2,435,193 1,910 2,313,433 1,815 2,053

2007 1,886 2,914,508 2,286 2,768,783 2,172 3,603

2008 1,894 2,079,158 1,631 1,975,200 1,549 2,551

2009 2,059 1,568,451 1,230 1,490,028 1,169 1,518

2010 2,434 1,689,042 1,325 1,604,590 1,259 2,476

2011 2,705 1,889,592 1,482 1,795,112 1,408 3,068

2012 2,258 1,212,503 951 1,151,878 903 670

2013 2,324 1,213,198 952 1,152,538 904 861

2014 2,726 1,430,543 1,122 1,359,046 1,066 440

2015 2,728 1,518,232 1,191 1,442,320 1,131 1,918

2016 2,689 1,542,870 1,210 1,465,727 1,150 704

腸炎ビブリオ 2006 523 674,579 529 438,477 344 1,236

2007 421 650,587 510 422,882 332 1,278

2008 216 237,116 186 154,126 121 168

2009 227 172,918 136 112,397 88 280

2010 563 390,686 306 253,946 199 579

2011 351 245,193 192 159,375 125 87

2012 312 167,799 132 109,069 86 124

2013 287 149,944 118 97,464 76 164

2014 209 109,678 86 71,291 56 47

2015 138 76,802 60 49,921 39 224

2016 232 133,115 104 86,525 68 240

1 菌検出数:下記の民間検査機関の検出データを合計した。

2010〜2016年:3社(株式会社ミロクメディカルラボラトリー、株式会社ビー・エム・エル、株式会社

LSIメディエンス)

2009年:2社(株式会社ビー・エム・エル、株式会社LSIメディエンス)

2006〜2008年:1社(株式会社ビー・エム・エル)

2 米国の胃腸炎疾患における食品由来感染の割合(カンピロバクター80%、サルモネラ95%、腸炎ビブ リオ65%)を用いて算出(Mead et al. 1999

3食中毒患者報告数(全国)(厚生労働省食中毒統計、平成18〜28年食中毒発生状況)

参照

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