日本小児循環器学会雑誌 14巻4号 582〜584頁(1998年)
第30回北海道小児循環器研究会
時 場長
日会会
平成10年4月18日(土)道民健康教育センター研修室 安倍十三夫
1.小児開心術における同種血輸血回避の可能性:
市中病院での試み
市立旭川病院胸部外科,同 小児科*
大場 淳一・,青木 秀俊,吉田 俊人 金岡 健,大江 公則,小西 貴幸*
小児での術前自己血貯血は患児,医療者ともに負担 が大きく,エリスロポエチンは保険診療の制約があり 使用できない.最近3年間の当科での16歳以下の開心 術50例を検討したところ体重別では15kg以下の症例 では無輸血手術はなかった.そこで手術前週に行う心 臓カテーテル検査の際に8m1/kgの自己血を採取,液 状保存する方法を昨年10月以来試みている.この方法 で術前自己血貯血を行った症例は4例で,体重は11kg から21kg,4例とも無輸血手術が可能であった.現時 点では体重9kg以上,ヘモグロビン10g/dl以上の症例 に限定してこの方法を行っている.今後,術中希釈式 自己血採血,人工心肺回路の低充填量化をはかり,小 児無輸血開心術の拡大をはかりたい.
2.年長児・成人チアノーゼ性心疾患に対する
bidirectional Glenn手術の2例国立函館病院心臓血管外科,小児科*
松浦 弘司,江屋 一洋,佐藤 浩之 太田里美,衣川 佳数*
乳児・幼児期にシャント手術を受けた後,その後の 手術を望まないため長期間が経過し,チアノーゼの進 行した年長児・成人先天性心疾患の2例にbidir−
ectional Glenn(BDG)手術を施行した.症例1:22 歳男性,valvular・infundibuler PS, LSVCを伴った 三尖弁閉鎖症.PAI=99.症例2:16歳男児,完全型心 内膜床欠損症,ファロー四徴症,右室低形成,ダウン 症.PAI=216だが親がlow−riskの手術を希望.かかる
症例に対するBDG手術は手術riskが少なく術後の
回復も早いにも関わらずチアノーゼ改善効果は著しく,手術を躊躇していた患者や家族を十分に満足させ,
かつ機能的根治手術(Fontan,1+1/2など)への可能 別刷請求先:(〒060−8543)札幌市中央区南1条西16丁 目
札幌医科大学医学部二外科 安倍十三夫
性を残す良いoptionの一つと考える.
3.小児,若年者Marfan症候群に伴う僧帽弁,大 動脈弁手術例の検討一文献的考察を含め
北海道大学循環器外科
上久保康弘,村下十志文 宮武 司,安田 慶秀 手稲渓仁会病院心臓血管外科
俣野 順,酒井 圭輔 Marfan症候群における心大血管病変は本疾患の予 後を左右する.本疾患における心大血管の異常とは大 動脈弁輪拡張に伴う大動脈閉鎖不全,解離性大動脈瘤,
僧帽弁閉鎖不全などがある.我々が経験した大動脈弁 もしくは僧帽弁に外科治療を要する小児,若年者Mar−
fan症候群4例中2例に自己弁を温存する術式を施行 した.これらの術式はpatient−valve mismatchの心配 がない,抗凝固療法が不要であるなどの利点を有する が,弁の耐久性が問題である.文献的には短期成績は 問題ないが,遠隔期成績は明らかではない.われわれ の症例も短期成績は問題なかったが,遠隔期のフォ ローアップが重要であると考えられた.
4.小児心内修復術後三尖弁閉鎖不全の外科治療 札幌医科大学第2外科,同 小児科*
印宮 朗,菊地 誠哉,馬場 俊雄 椎久 哉良,安倍十三夫,富田 英*
布施 茂登*
北海道立小児総合保健センター
樫野 隆二,佐藤 真司,東舘 義仁 小児心内修復術後三尖弁閉鎖不全の3例に対し,三 尖弁形成術を施行した.三尖弁逆流に著明な改善を認 めなかったが,右室圧の低下と臨床症状の著しい改善 により,利尿剤を減量することが可能であった.
小児の弁形成術,特に乳児症例に於いては,成長を 考慮せねばならず,術式の工夫が必要であり,将来的
には弁置換術も考慮の下に,注意深い経過観察が必要
である.
5.先天性心疾患を合併したダウン症例の検討一特 に肺高血圧症について一
Presented by Medical*Online
日小循誌 14(4),1998
国立函館病院小児科,同 心臓血管外科*
衣川 佳数,八鍬 聡 斉田 吉伯,松浦 弘司*
過去5年間に当院を受診した先天性心疾患を合併し たダウン症例は30例であった.30例中22例(73%)が 体血圧の50%を越える肺高血圧症を合併していた.肺 高血圧症の認めなかった3例(心房中隔欠損1例,動 脈管開存2例)および肺高血圧症を伴った9例(心室 中隔欠損3例,心内膜床欠損6例)計12例に手術を施 行し,心内膜床欠損の1例を失った.術前肺高血圧症 を合併していた9例中3例(33%)は術後も肺高血圧 症が持続し,体血圧の105%(心エコー),101%,65%
であった.手術時年齢は2カ月,3カ月,1歳11カ月 であった.術後にカテーテル検査を施行した3例は3 例とも肺血管抵抗の上昇を認めた.
先天性心疾患を合併したダウン症例は肺高血圧症の 合併が高く,生理的肺高血圧症の遷延ならびに早期の 肺血管障害がありその評価,手術の時期には注意を要 する.また,術後も肺高血圧症が遷延ときに増悪する こともあり,留意する必要がある.
6.右冠動脈右室痩の1術後例 国立函館病院小児科
斉田 吉伯,衣川 佳数,八鍬 聡 同 心臓血管外科 松浦 弘司 右冠動脈右室痩の1例を経験したのでこれを報告す
る.患児は就学前検診で心雑音を指摘され平成8年2 月に当院を受診した.心エコー検査,心臓カテーテル 検査でseg1, seg2は10mm大に拡張しており,右冠動 脈から右心室への血流が証明され,右冠動脈右室痩と 診断した.当院心臓血管外科にてtransarterial clo−
sureを施行した.この時拡張した右冠動脈の縫縮は行 わなかった.
術後1カ月後の心カテで右冠動脈内に巨大な血栓を 認め,血栓以降の右冠動脈では血流量は低下していた.
2年間の経過観察の後,平成10年に心カテを施行し た.拡張した右冠動脈起始部は縮小し,血栓以降の右 冠動脈での血流は回復していた.
7.心電図検診で発見された大動脈縮窄の2例 札幌医科大学医学部小児科
畠山 欣也,井上 美紀,高山留美子 布施 茂登,富田 英,千葉 峻三 北海道立小児総合保健センター
高室 基樹,東舘 義仁 今回,我々は,心電図検診を契機に発見された2例 の大動脈縮窄を経験した.これまで心電図検診により
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大動脈縮窄を報告されたことはなく,スクリーニング における心電図検診の有用性と限界性を示唆する2症 例と考えられたので報告した.症例1は13歳男児で,
心臓検診により不完全右脚ブロック,軽度の左室肥大,
II音の固定性分裂を認めASDが疑われたが大動脈縮 窄が主病変であった.ASDは小さく,大動脈縮窄をバ ルーン拡大術にて治療した.症例2も13歳男児で,他 院で新生児期に大動脈縮窄の診断のもと手術を受けた がその後フォローアップからドロップアウトし,放置 していた術後再狭窄を左室肥大により発見した.吻合 部狭窄をバルーンにより拡大した.
8.TGA with IvSに合併したPPHNに対する,
NO吸入療法
北海道立小児総合保健センター循環器科,新 生児科*
東舘 義仁,津田 哲哉,高室 基樹 畠山 欣也*,柳内 聖香*
2例のTGA with IVSに合併したPPHNに対し
NO吸入療法を施行し,内1例では, PGEIとTol・azolineは無効であったが, NO吸入(最高40ppm)が 有効で,ASOが施行しえた.無効例には, MASと肺 出血,高度のアシドーシスが存在.5年間で,当院に 入所したll例のTGA with IVS中,この2例以外に1
例のMAS合併例があり通常の呼吸管理でPPHNと
はならずASOで救命している.高度の低酸素血症や MASの場合には, PDAとASDの存在を確認の後,酸 素使用を含め積極的に肺の治療を行い,PPHNへの移 行を防ぐ.PPHNを発症した場合には速やかにNO吸 入療法を行う方針である.9.カラードプラMモード法による左室流入血流
解析を用いたVSDに対するACE阻害剤の効果判定
旭川厚生病院小児科 梶野 真弓 旭川医科大学小児科梶野 浩樹,津田 尚也 田中 聡,林 憲一 large VSD, PHの2名(生後19日,2カ月)にACE 阻害剤cilazapril O.01mg/kg/dayを内服させ,内服前 及び内服5日後に心エコー検査を施行し,同日血漿 ANP・BNPを測定した.心エコー検査での検討項目 は,左室径短縮率FS,パルスドプラ法で左室流入血流 速の心房収縮期と拡張早期流入期の波高比A/E,及び カラードプラーMモード法による左室拡張早期流入血 流の心尖部方向伝播速度であるFPVである. cilaza−
pril内服後, HANP, BNPはともに速やかに低下し,
FS, A/Eは変化せず, FPVは増加した. ACE阻害剤
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内服後,HANP・BNPの速やかな低下とともにFPV
が増加し改善していることから,VSD, PHの患者に おいてFPVは心不全改善の指標になり,ACE阻害剤 の治療効果の判定が可能と考えた.10.一次孔欠損を伴わない心内膜床欠損症の根治手 術経験(プログラムと演題名変更)
北海道大学循環器外科
宮武 司,村下十志文 八田英一郎,安田 慶秀 同 小児科
村上 智明,南雲 敦,間 峡介 信太 知,小田川泰久
症例は,4カ月男性.術前超音波検査でinlet VSD を認めたが,一次孔欠損型のASDはなかった. mild
〜moderateのMRがあり, MV cleftを認めた.
scoopingはなかった.手術所見では左方への心房中隔 のmalalignmentを認め,共通房室弁の形態をなして いたが,一次孔欠損は認めなかった.完全型心内膜床 欠損の術式に準じ,心室中隔欠損閉鎖,房室弁形成を 行った.術後,房室弁の逆流の悪化を認めず,順調に 経過した.術前診断が困難であった一次孔欠損を伴わ ない心内膜床欠損症の手術経験を報告した.
11.Mini−sternotomyによるVSD症例の検討 北海道大学医学部循環器外科
八田英一郎,村下十志文 宮武 司,安田 慶秀 当科におけるMini−sternotomy(小胸骨切開)によ
るVSD症例につき,従来の胸骨切開による症例と比 較検討し報告する.
対象は1996年7月以降に施行された体重10kg以上 のVSD症例23例で,前半の12例には従来の,後半の11 例には小胸骨切開による手術を施行した.M群の皮切
は剣状突起より第3肋間の高さまで6〜10cmで行い,
胸骨切開は第2肋間の高さで左方に切開する逆L字 型にて行った.
小胸骨切開による手術は,狭視野に対する手技上の 工夫を加えることで従来の手術と比較して遜色なく施 行でき,美容上の優位性等において患者の満足度が高 いことから積極的に施行して良い方法と考えられた.
12.生後57日,TGA・complete AVSD・dextrocar−
dia合併例に対する一期的根治手術の1例
北海道立小児総合保健センター胸部心臓血管 外科,同 小児科*,東京女子医科大学循環器 小児外科**
佐藤 真司,樫野 隆二,高室 基樹*
日本小児循環器学会雑誌 第14巻 第4号
東舘 義仁*,高梨 吉則**
TGAを合併したAVSDに対して根治手術を施行
した.症例は日齢57,体重3.6kgの男児.診断はdex−trocardia, TGA, complete AVSD, mild AVVR,
冠動脈走行はShaher 7cの鏡像であった.手術は大動 脈遮断時間の短縮を図るため大動脈非遮断,心室細動 下にTwo−patch法でAVSDを修復.次いで大動脈遮 断,心停止下にJatene手術を施行した.術後腹膜透析 を要したがその後の経過は良好であった.TGAと AVSDの合併はまれであり,われわれの調べ得た限り では文献上,解剖学的根治手術の報告例はない.
13.術中の極度のPH crisisに対しv・Aバイパス
を施行し救命し得たTAPVCの1例
手稲渓仁会病院心臓血管外科,同 小児循環 器科*
松崎 賢司,俣野 順,酒井 圭輔 武田宏一郎㌔浜田 勇*
症例は日齢2日の男児で生後まもなく全身のチア
ノーゼきたし,心エコーでIa型のTAPVCと垂直静
脈狭窄の診断で当科紹介入院となった.体外循環,心 停止下に肺静脈共通幹と左房の吻合を施行した.体外 循環離脱後,突然PA圧が上昇し,血圧低下徐脈となっ たため心臓マッサージ下に体外循環を再開した.体外 循環離脱不能で右内頸動静脈V−Aバイパス施行し ICUへ搬送した.第2病日にバイパスからの離脱に成 功した.その後全身状態は徐々に改善し約2カ月後に ICU退室した.脳合併症もきたさなかった.14.出生時,右室低形成であった肺動脈閉鎖の経験 旭川医科大学第1外科,小児科*
赤坂 伸之,郷 一知,山本 浩史 内田 恒,羽賀 将衛,川合 重久 真岸 克明,小澤 恵介,小久保 拓 稲葉 雅史,笹嶋 唯博,津田 尚也*
梶野 真弓*,梶野 浩樹*
生直後の右室容積は18%でLtm.B・T Shunt術を施 行.2歳時の心カテでは肺動脈は未発達だが右室容量 は38%に増加したため,心エコー上肺動脈の膜様閉鎖 でもあり流出路再建の方針とした.sinusoidal commu−
nicationがあるため段階的に行なって急速減圧を避け た.2歳5カ月時,体外循環下に肺動脈弁部を切開し,
術後2回のPTPVを施行,流出路は10mmに拡張し,
右室容積は50%に発達した.communicationの増悪は 認めなかった.今後,正常の50%以下である三尖弁の 発達次第ではbiventricular repairが可能になった.
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