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日本透析医会雑誌

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目  次

巻  頭  言

ポスト「医療崩壊」の医療提供システム 日本透析医会常務理事 山 川 智 之… 1

透析医療における

Consensus Conference 2009]

日本における維持透析の現状と課題

  藤田保健衛生大学短期大学・専攻科臨床工学技術専攻 中 井   滋… 3 透析導入の実態と課題

有病でも息災の透析患者の輩出を求めて

  東京女子医科大学東医療センター 佐 中   孜… 11 在宅血液透析の形態:現況と課題 新生会第一病院 小 川 洋 史… 17

合併症

1:骨・関節障害

新潟大学医歯学総合病院高次救命災害治療センター 風 間 順一郎… 24

合併症

2:心疾患

三井記念病院腎臓内科 杉 本 徳一郎… 29

医療経済から見た透析療法 増子クリニック昴 山 㟢 親 雄… 33 透析医の育成 東京女子医科大学第四内科 新 田 孝 作… 39

医 療 制 度

臓器移植法改正後の問題点

腎移植は増えるか!

  奈良県立医科大学泌尿器科透析部 吉 田 克 法   

大阪大学大学院医学系研究科先端移植基盤医療学講座 高 原 史 郎… 42

実 態 調 査

末期腎不全患者の終末期を透析医はどう捉えているか  

北海道のアンケート調査結果とその分析

  北海道高齢者透析研究会WG 札幌北クリニック 大 平 整 爾   

同 日鋼記念病院 伊 丹 儀 友   

同 札幌北楡病院 久木田 和 丘   

同 クリニック1・9・8 戸 澤 修 平   

同 石川泌尿器科医院 上 田 峻 弘… 47

13

回透析医療費実態調査報告 日本透析医会適正医療経済部会/同常任理事会 杉 崎 弘 章    太 田 圭 洋  山 川 智 之  篠 田 俊 雄    戸 澤 修 平  鈴 木 正 司  隈   博 政   

同適正医療経済部会 吉 田 豊 彦  鈴 木   満  村 上 秀 一   

同常任理事会 山 㟢 親 雄… 56 平成

20

年度 千葉県における透析医療機関の感染性廃棄物の現状に関する

 アンケート調査(第

7

報) 千葉県透析医会感染症委員会 浦安駅前クリニック 佐 藤 孝 彦   

同 市川クリニック 田 島 知 行   

同 三愛記念病院 入 江 康 文   

同 東葛クリニック病院 鈴 木   満… 87

臨 床 と 研 究

6

時間透析における生存率

― 20

年間の経験から

医療法人幸善会前田病院 前 田 利 朗… 95

THE JOURNAL OF JAPANESE ASSOCIATION OF DIALYSIS PHYSICIANS

日本透析医会雑誌

Vol. 25 No. 1   2010

(2)

  仙台社会保険病院腎センター 鈴 木 一 之…101 慢性腎臓病診療におけるクリニカルパスの実際

  寿楽会大野記念病院内科 稲荷場ひろみ  岡 村 幹 夫…106 透析合併末梢動脈疾患患者の予後とその治療戦略

  名古屋大学医学部循環器内科 石 井 秀 樹   

名古屋共立病院循環器センター 熊 田 佳 孝…114

ESA

投与中止後にもオーバーシュートして上昇する

Hb/Ht

  ふれあい町田ホスピタル血液浄化センター 阿 岸 鉄 三  金 田 恵 子…120 高齢維持透析患者人口は一般人口より長生きする?

  ふれあい町田ホスピタル血液浄化センター 阿 岸 鉄 三   

桐蔭横浜大学医用工学部臨床工学科 佐 藤 敏 夫  本 橋 由 香…123

各支部での特別講演

講演抄録

qqq20年度

《大 阪》 透析患者における運動 医療法人才全会西新クリニック 松 嶋 哲 哉…127

qqq21年度

《宮 城》 末梢動脈疾患の診断および治療

循環器内科からのアプローチ

       仙台厚生病院 鈴 木 健 之…129      重症下肢虚血に対する外科的血行再建術と保存的療法

       仙台社会保険病院外科 半 田 和 義…131      フットケアーでよく見る爪疾患の治療 東北大学病院皮膚科 渡 部 晶 子…133

公募助成論文

qqq21年度

療養生活における透析患者と家族間の意見の対立と調整

  桜美林大学老年学研究科 杉 澤 秀 博  清 水 由美子   

順天堂大学医療看護学部 熊 谷 たまき   

札幌北クリニック 大 平 整 爾   

府中腎クリニック 杉 崎 弘 章   

明治学院大学社会学部 浅 川 達 人   

全国腎臓病協議会 岸 上 武 志 鈴 木 孝 尚   

(財)統計研究会 荒 金 由布子   

増子クリニック昴 山 㟢 親 雄   

(財)医療科学研究所 西   三 郎…135

透析医のひとりごと

「透析医療の輝きは?」 福島県支部(福島腎泌尿器クリニック) 熊 谷 郁太郎…148

「未来」について 長崎県透析医会(桜町病院) 船 越   哲…150

た  よ  り

北海道支部だより 北海道透析医会 会長 大 平 整 爾…152 京都府支部だより 京都府透析医会 会長 今 田 直 樹…154 常任理事会だより 日本透析医会常務理事 山 川 智 之…157 投稿規定 164

編集後記 広報委員 杉 崎 弘 章…165

(3)

お知らせ

平成22年度透析療法従事職員研修のお知らせ((財)日本腎臓財団) 160 学会ご案内(H 22. 5月〜8月) 161

(4)
(5)

ポスト「医療崩壊」の医療提供システム 1

『病院が消える〜苦悩する医者の告白〜』という本がある.高岡善人元長崎大学教授(故人)の 著作で,1983年,実に

27

年前に刊行されたものだ.この本には,当時の医療環境への洞察として,

日本の国際的にきわめて安い医療費と,それに伴う日本の医療の貧困が描かれている.それだけで はなく,公立病院の硬直化した人事体系から来る非効率,および自治体からの拠出金依存体質,経 済優先で医療現場への理解に乏しく一貫性のない医療政策,政治家の医療への無関心と無理解,さ らには日本医師会の政党(=自民党)への依存に対する警鐘まで鳴らしている.高岡先生の慧眼に は敬服するほかはないが,一方で四半世紀前にこの書で指摘されたほとんどの問題について,現在 においても解決するどころか,状況がむしろ悪化しているという現実を思うにつけ残念な思いを抱 かざるをえない.

四半世紀前に国際的に見て安いと指摘された医療費は,90年代以降の国家財政状況の急速な悪 化を背景に,財政均衡を重視する小泉純一郎政権下で厳しい医療費抑制政策によりさらに圧縮され,

医療提供システムの破綻が顕在化することになった.2006年に小松秀樹先生が上梓した著作によ り「医療崩壊」という概念は広く世に知られるようになったが,この「医療崩壊」は,医療提供シ ステムの機能障害として相当昔から進行してきたものが,この数年の医療費抑制政策で顕在化した のに過ぎず,その原因となる構造的問題については,20年来ほとんど手がつけられなかったと考 えるべきであろう.

日本の医療費は,国民の期待する医療を提供する制度を構築するために必要な費用,という観点 においても低すぎるのは明白である.国際的には日本の医療費は

OECD

諸国の平均を大きく下回 り,GDPに占める租税社会保険料の割合も

OECD

諸国の最低レベルである.2008年に福田康夫内 閣の下で設置された社会保障国民会議は,医療・介護サービスの機能を国民のニーズに合わせ強化 したという前提で,医療・介護費用のシミュレーションを行ったが,その中で,医療・介護の費用 は

2007

年の

41

兆円から

2025

年には

91〜94

兆円となり,公費と保険料合わせて消費税にして

5〜

7% 相当の追加財源が必要になるという結果を示した.

昨年の総選挙で大勝し政権与党になった民主党の政策集には,今後総医療費対

GDP 比を OECD

加盟国平均まで引き上げることが謳われている.しかし,これを実現するためには毎年

4〜6

兆円 の恒久的財源が必要になる.与党は徹底的な「無駄の削減」で財源を捻出しようという方針のよう だが,子ども手当や基礎年金の税方式化などマニフェストに明記された多額の財源を要する他の政 策を抱える中で,今の国家の財政状況を考えれば国民への新たな負担なしに医療費を増額すること はきわめて難しい.しかし一方で,医療費増額のために国民の負担を増やすことについて国民の理 解を得ることは簡単ではない.この理由として,日本の経済状況,官僚やマスコミの情報操作など

[巻 頭 言]

ポスト「医療崩壊」の医療提供システム

(社)日本透析医会

常務理事 

山川智之

    

(6)

様々な要素が考えられるが,本質的には,日本の医療提供システムについてアメニティなど周辺の 事柄も含め,国民の多くが必ずしも満足していないことが大きいのではないだろうか.

医療費は医療提供システムの維持の必要条件であるが,十分条件ではない.医療費を増やすこと が医療の質の向上に直結するのであれば国民も新たな負担に応じるだろうが,実際はそうではない.

このことは,アメリカの医療の状況が如実に表している.

ハーバード大学の著名な経営学者であるマイケル・ポーター教授は『医療戦略の本質』という著 作において,アメリカの医療は,膨大な医療費を費やしながら,医療においては他の業界では当た り前のようにある質を争う競争が機能せず,専らコストを転嫁し合い,価値を生み出さないゼロ・

サム競争のみが行われ,その結果として許容しがたい医療の質のばらつきがあることを指摘してい る.アメリカは国民皆保険制度はなく,医療費の多くに民間の医療保険が関わる日本とは大きく異 なる医療制度であるが,医療の質を争う競争が行われていない,という指摘は日本の医療にも共通 する.

ではどうすればいいのか.ポーター教授はこの著作の中で,病態単位の包括的なアウトカムを公 開し評価することで,医療システム全体に診療実績に基づく競争を起こすことを提案している.実 際の医療においては,この著名な経営学者が考えるほど,すべての病態について客観的なリスク調 整後のアウトカムの評価法が存在するわけではなく,またすべての診療行為のアウトカムを評価し,

かつその評価法をエビデンスに基づき常に最新のものにすることは,膨大なコストとエネルギーを 要し,現実的とは言えない部分もある.しかし,患者にとっての診療実績に基づく競争という概念 は,国民の医療に対する理解へのアプローチという意味においても,今後の医療のあり方として考 慮すべきものと個人的には考えている.

興味深いのは,このポーター教授の著作の中で,アウトカム評価の

1

例として,血液透析があげ られていることである.メディケアの保険償還を受ける施設においては,透析量,貧血,死亡率な どの実績の報告が義務付けられ,結果が公開されている.これがアウトカムの改善につながった,

としている.死亡率は治療方法以上に患者固有のリスク因子に大きく影響を受けるものであるし,

透析量その他の診療に関わる因子とアウトカムの関係については厳密な検討が必要であるが,定量 化された治療の質を評価するシステムの構築は,透析医療の質を担保する手段として検討の余地が あるのではないだろうか.

日本透析医会は,1988年の水処理加算,1994年の時間区分の設定など,透析医療の質を担保す る診療報酬体系の実現に身骨を砕いてきた.現行の透析時間区分は

3

段階とシンプルではあるが,

透析医療の質を表すわかりやすい指標の一つである.近年,日本透析医学会(JSDT)は様々なガ イドラインを制定し,標準的な透析医療のメルクマールとして日常診療に活用されている.このガ イドラインの制定において,JSDTの統計調査の分析はきわめて重要な位置を占めるが,この統計 調査は日本の透析患者のほぼ

100% 近くをカバーしている.一方,前述のメディケアのデータ収集

は全患者の

5% に過ぎないという.この世界に誇る JSDT

の統計調査は,医療の質の担保という観 点から言っても,まだまだ未知数の可能性を秘めていると私は考える.

浅学非才の私には,この統計調査の分析を日本透析医会の活動とどのように結びつけるべきなの か,描けない部分も多々あるが,関係者の英知を結集し,新時代の医療提供システムのモデルがわ れわれの業界から生まれることを期待したい.

(7)

日本における維持透析の現状と課題 3

要 旨

2008

年末の日本透析医学会の統計調査報告によれ ば,2008年末のわが国の透析人口は

283,421

人である.

わが国の透析人口は年々増加している.しかし,透析 人口年間増加率(透析人口増加速度)はほぼ直線的に 減少している.透析人口は年々高齢化しているが,高 齢化速度は減速しつつある.糖尿病性腎症患者の実数 は,導入患者においても透析人口においても増大し続 けている.2008年

1

年間の粗死亡率は

9.8% であり,

過去

20

年間での最高値であった.

はじめに

日本透析医学会は,全国の透析患者全体を対象とす る統計調査を毎年末に実施している.この調査は

1968

年に当時の人工透析研究会によって開始された1)

. 1983

年からは全国の全透析患者を対象とする電子的 登録と予後追跡が開始され,わが国のほぼすべての透 析患者を網羅する患者データベースが構築されている.

1990

年頃からは,このデータベース資料を用いて治 療条件に関連する様々な因子との関係が解析され報告 されるようになり,今日に至っている2)

本稿では,日本透析医学会統計調査資料から,わが 国の慢性維持透析患者の現状に関連する課題を七つ取 り上げた.

1 透析人口増加

本稿執筆時点(2010年

1

月)で最新である

2008

年 末調査報告3)によれば,2008年末のわが国の透析人口 は

283,421

人,2008年の新規導入患者は

38,180

人,

死亡患者は

27,266

人である(表 1

,

23)

.1983

年以降 の年末透析人口,年間導入患者数,そして年間死亡患 者数の推移を図 1に示した.いずれも増加しつつある.

図 2には年末透析人口の年間増加率の推移を示し た.透析人口の年間増加率(透析人口が

1

年間に増加 するスピード)は年々減少している.これを単純に直 線延長すると,2015,2016年頃には透析人口年間増 加率がゼロになる(すなわち透析人口の増加が停止す る)と推測される.この推測には批判も多く,これが 実際に現実を言い当てるかどうかはわからない.しか し参考にはなりうると思われる.

さらに参考までに,年間導入患者数と年間死亡患者 数の年間増加率の推移を図 3図 4にそれぞれ示し た.年間導入患者数の年間増加率も年々減少しており,

現在の傾向を直線延長すると,2012,2013年頃に増 加率はゼロになる(年間導入患者数の増加が停止す る)と推測される.一方,年間死亡患者数の年間増加 率では,1983年以降の推移をおしなべて見ると減少 傾向であるが,過去

5

年間(2004〜2008年)に限定 して回帰すると増加傾向にある.これらの推測につい ても批判があり,ここではあくまでも参考として提示 した.

[透析医療における Consensus Conference 2009]

日本における維持透析の現状と課題

中井 滋 

藤田保健衛生大学短期大学・専攻科臨床工学技術専攻

key words:統計調査,人口動態,生命予後,身体活動度,社会復帰

The current status and problems of Japanese dialysis treatment

Division of Clinical Engineering Technology, Fujita Health University College Shigeru Nakai

(8)

2 透析人口高齢化

透析人口は年々高齢化しているが,その速度は減速 しつつある.表 3

1983

年以降の各年末透析人口,

および各年導入患者の平均年齢の推移を示した.

2008

年末透析人口平均年齢は

65.33

歳(±12.66,

SD) ,同年導入患者の平均年齢は 67.24

歳(±13.23,

SD)である

1)

.透析人口と導入患者のどちらにおいて

も患者が最も多いのは

70

歳前後の年齢層である.ま た,2008年末における透析人口の

55.1% は 65

歳以上

図 1 わが国の透析人口の推移         (文献3より)

年末透析人口

’83 ’85 ’90 ’95 ’00 ’05 ’08

30 万

(人)

0 20 万

10 万

年間導入患者数 年間死亡患者数

表 1 わが国の慢性透析療法の要約(2008 年 12 月 31 日現在)

施設数 4,081施設 (29施設増 0.7% 増)

設 備 ベッドサイド

コンソール台数

111,998 (3,415台増 3.1% 増)

能 力 同時透析 110,598 (3,132人増 2.9% 増)

最大収容能力 374,782 (10,496人増 2.9% 増)

治療方法別患者数 昼 間 231,517 (81.7%)

夜 間 42,405 (15.0%)

在宅血液 193 (0.1%)

CAPD 9,300 (3.3%)

慢性透析患者総数 283,421 (8,179人増 2.9% 増)

人口100万対比患者数 2,219.6 (65.4人増 3.0% 増)

年間新規導入患者数 38,180 (1,246人増 3.4% 増)

年間死亡患者数 27,266 (2,013人増 8.0% 増)

(文献3より)

表 2 わが国の慢性透析患者の要約(2008 年 12 月 31 日現在)

透析歴(年) 男性(人) 女性(人) 不詳(人) 合計(人) (%)

0≦<5 86,054 47,773 0 133,827 (49.0)

5≦<10 42,055 26,562 0 68,617 (25.1)

10≦<15 19,777 13,919 0 33,696 (12.3)

15≦<20 9,589 7,676 0 17,265 (6.3)

20≦<25 5,306 4,509 0 9,815 (3.6)

25≦ 5,567 4,450 0 10,017 (3.7)

合 計 168,348 104,889 0 273,237 (100.0)

† 最長透析歴は408カ月.

(文献3より)

(9)

日本における維持透析の現状と課題 5

である.

3 糖尿病性腎症増加

2008

年の

1

年間に導入された患者の

43.3% は糖尿

病性腎症を原疾患としている.この割合は増加し続け てきたが,ここ数年は大きく増加していない.慢性糸 球体腎炎を原疾患とする患者の割合は

23.0% であり,

減少し続けている.腎硬化症を原疾患とする患者の占

める割合は

10.5% であり,徐々に増加している.こ

れを患者実数で示したのが図 5である.1年間に糖尿 病性腎症を原疾患として導入される患者の実数は増加 し続けている.慢性糸球体腎炎を原疾患として導入さ れる患者実数は逆に減少し続けている.腎硬化症も着 実に増加している.

各年末透析人口における導入原疾患構成比では,慢 性糸球体腎炎は減少し続けており,2008年末には

図 2 年末透析人口の年間増加率の推移         (文献3より)

30 20

10 0

−101980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020

(%) 2015〜2016?2015〜2016?

図 3 年間導入患者数の年間増加率の推移         (文献3より)

2012〜2013?

−20

−10 0 10 20 30 40

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020

(%) 2012〜2013?

図 4 年間死亡患者数の年間増加率の推移         (文献3より)

(%)

−20

−10 0 10 20 30 40

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020

表 3 透析人口平均年齢の推移

’83 ’84 ’85 ’86 ’87 ’88 ’89 ’90 ’91 ’92 ’93 ’94 ’95

年末透析人口全体 48.3 49.2 50.3 51.1 52.1 52.9 53.8 54.5 55.3 56.0 56.6 57.3 58.0

±SD 13.8 13.8 13.7 13.6 13.7 13.6 13.5 13.5 13.5 13.5 13.5 13.5 13.4 各年新規導入患者 51.9 53.2 54.4 55.1 55.9 56.9 57.4 58.1 58.1 59.5 59.8 60.4 61.0

±SD 15.5 15.3 15.4 15.2 14.9 14.9 14.7 14.6 14.6 14.5 14.4 14.3 14.2

’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08

年末透析人口全体 58.6 59.2 59.9 60.6 61.2 61.6 62.2 62.8 63.3 63.9 64.4 64.9 65.3

±SD 13.4 13.4 13.3 13.3 13.2 13.1 13.0 12.9 12.9 12.8 12.8 12.7 12.7 各年新規導入患者 61.5 62.2 62.7 63.4 63.8 64.2 64.7 65.4 65.8 66.2 66.4 66.8 67.2

±SD 14.2 14.0 13.9 13.9 13.9 13.7 13.6 13.5 13.4 13.4 13.4 13.3 13.2

(文献3より)

(10)

39.0% となった.一方,糖尿病性腎症を原疾患とする

患者は増加し続けており,2008年末には

34.2% に達

している.腎硬化症を原疾患とする患者も着実に増加 し,2008年末には

6.8% を占めている.

図 6には主 な原疾患について各年末透析人口実数の推移を示した.

慢性糸球体腎炎を原疾患とする透析人口はここ

10

年 ほどほぼ横ばいで推移している.これに対して糖尿病 性腎症や腎硬化症を原疾患とする透析人口は着実に増 加している.

4 高齢者の透析導入率

若井らは,1985年に標準人口百万人あたりに発生

する透析導入患者数を透析導入率として,これを男女 別,各原疾患毎に求めて,1983年から

2000

年までの 年次推移を比較している(図 74)

透析導入率では,暦年毎の年齢構成変化は標準化

(均一化)される.透析導入率は年々増加しつつある が,男女ともその増加速度は減速しており,女性では

2000

年時点ですでにプラトーに達している.年齢で は男女ともに

60

歳以上の透析導入率増加が著しい.

5 生命予後

2008

年における死亡患者の中で最も多い死因は心 不全死であり,死亡患者全体の

23.7% を占めている.

図 7 導入時年齢と透析導入率の推移        (文献4より)

率︵ 率︵

男性 80〜84 歳 女性

70〜74 歳 60〜64 歳

50〜54 歳 40〜44 歳 0

200 400 600 800 1000 1200 1400

83〜8487〜8891〜9295〜9699〜00

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

83〜8487〜8891〜9295〜9699〜00 30〜34 歳

30〜34 歳

80〜84 歳 80〜84 歳 70〜74 歳 70〜74 歳 60〜64 歳 60〜64 歳 50〜54 歳 50〜54 歳 40〜44 歳 40〜44 歳 30〜34 歳 30〜34 歳 図 5 各年導入患者の主な導入原疾患毎実数の推移

      (文献3より)

(人)

’84’86’88’90’92’94’96’98’00’02’04’06’08 慢性糸球体腎炎

腎硬化症 糖尿病性腎症

0 5000 10000 15000 20000

図 6 各年末透析人口の主な導入原疾患毎実数の推移      (文献3より)

(人)

’84’86’88’90’92’94’96’98’00’02’04’06’08 糖尿病性腎症

腎硬化症 慢性糸球体腎炎

0 20000 40000 60000 80000 100000 120000

(11)

日本における維持透析の現状と課題 7

これに次いで感染症死が

19.9%,脳血管障害死が 8.6

% である.心不全死の占める割合は

1990

年代に大き く減少した.感染症死は次第に増加しつつあるが,脳 血管障害死は減少しつつある3)

年間粗死亡率はこの

10

年間は

9.5% 前後でほぼ横

ばいであったが,2008年

1

年間の粗死亡率は

9.8% で

あり,1983年以降では最大値を示した(図 83)

.今後

年間粗死亡率がこのまま増大していくのか否かが注目 される.

2008

年末報告3)によると,導入時年齢

60〜74

歳の

図 9 導入時年齢と主な導入原疾患毎の生存率        (文献5より)

■ 導入時年齢:45〜59 歳 ■ 導入時年齢:60〜74 歳

■ 導入時年齢:75〜89 歳 ■ 導入時年齢:90 歳以上

導入後経過年数

0 5 10 15 20

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

導入後経過年数

0 5 10 15 20

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

導入後経過年数

0 5 10 15 20

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

導入後経過年数

0 5 10 15 20

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

慢性糸球体腎炎

慢性糸球体腎炎

慢性糸球体腎炎 腎硬化症

腎硬化症

腎硬化症

慢性糸球体腎炎 腎硬化症

腎硬化症 糖尿病性腎症

糖尿病性腎症

糖尿病性腎症

尿

図 8 年間粗死亡率の推移        (文献3より)

(%)

9.8

’84 ’86 ’88 ’90 ’92 ’94 ’96 ’98 ’00 ’02 ’04 ’06 ’08 5

56 7 8 9 10

(12)

患者の導入後

10

年生存率は

0.235

である.同年齢層 の慢性糸球体腎炎患者生存率は

0.302

であるのに対し て,糖尿病性腎症患者生存率は

0.173

にすぎない.

図 9には主な導入時年齢層毎に,主な導入原疾患 毎の導入後生存率を示した5)

.ここに示すように,導

入時年齢

75

歳以上の患者群では,導入原疾患毎の生 存率の違いはほぼ消失する.

2005

年末調査報告では透析人口の平均余命を算定

している(図 10

.残念ながら,どの年齢層において

も,透析人口平均余命は一般人口平均余命の約半分で しかない6)

6 身体活動度

1998

年末の身体活動度調査結果7)による年齢と身体 活動度との関係を図 11に示した.「日中の

50% 以上

を就床している」と回答した患者は透析人口全体の

図 10 透析人口平均余命(2003 年時点)

      (文献6より)

一般人口 女性 一般人口 男性

透析人口 女性 透析人口 男性

年齢(歳)

(年)

0 10 20 30 30 40 50 60

30 40 50 60 70 80 90

55.97

49.23

30.35 27.36

20.54

14.55

9.87

6.24 3.82

2.33 23.19

16.74

11.31

7.11

4.43 39.67

30.47

21.98

4.35

8.26 4.26 2.57 46.22

36.68

27.49

18.75

11.04

5.57

図 11 年齢と身体活動度         (文献7より)

(%)

年齢(歳)

0

0 15 30 45 60 75 90〜

20 40 60 80 100

無症状で社会活動可 歩行,軽作業可

終日就床

50%

50%

(13)

日本における維持透析の現状と課題 9

9.8% を占めていたが,高齢患者ほど身体活動度の低

い患者が多くなる傾向が認められた.

7 社会復帰

図 12図 13には,2002年末調査結果に基づいて,

年齢と社会復帰状況との関係を男女それぞれについて 示した.就労年齢である

15〜59

歳男性の就労率は

61.8% にすぎない

8)

.また就労年齢にある男性透析患

者の就労率は年を追う毎に低下しつつある (結果未提 示)9)

.一方,15〜59

歳女性の就労率は

18.9% にとど

まっている8)

おわりに

わが国の透析人口平均年齢は

70

歳に近づいている.

そして高齢透析患者は身体活動度の低い患者が多く,

医療や福祉サービスへの依存度が高い.一方で医療費 削減圧力は増大しつつある.このような厳しい環境下 で透析患者をどのように診療していくのかは非常に重 く難しい課題である.

文  献

1) 小高通夫:我が国における人工腎臓装置設備の現況.人工 図 12 年齢と社会復帰状況(男性)

        (文献9より)

(歳)

0 (%)

75〜

60〜74 45〜59 30〜44 15〜29

0〜14 家事従事家事従事 仕事せず

20 40 60 80 100

常勤職 常勤職

36.0

10.4 0.5

0.5 0.1 0.1

8.6 25.4

2.25.2 88.5

5.9 6.4 71.8

7.5 5.0 35.5

25.0 学生

学生56.0

56.0 4.04.04.04.0 11.2

11.2 51.451.4

非常勤職 非常勤職

62.5 62.5 52.0 52.0

3.0 3.0 2.0 2.0

15.8 15.8 4.1 4.1 2.2

図 13 年齢と社会復帰状況(女性)

        (文献9より)

(歳)

(%)

0〜14 仕事せず

23.5

15〜29 30〜44 45〜59 60〜74

75〜

0 20 40 60 80 100

5.9 5.9 5.9 64.7

64.7 11.2

11.2 24.6

16.7 13.9 31.5 68.0

30.0

9.1 52.5

15.1 18.7

4.4 70.8

63.9

0.4 0.4

学生 学生 常勤職

常勤職 非常勤職非常勤職 家事従事家事従事

1.5 1.5 3.3 3.31.31.3 0.3 0.3 21.421.4

10.9 10.9

30.4 30.4

(14)

透析研究会会誌,2(1)73-78,1969.

2) 中井 滋:日本透析医学会統計調査の歴史.透析会誌(印 刷中)

3) 日本透析医学会統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の 現況(20081231日現在)CD-ROM版.日本透析医学 会,2009.

4) Wakai K, Naikai S, Kikuchi K, et al. : Trends in incidence of end-stage renal disease in Japan, 1983-2000 : age-adjusted and age-specific rates by gender and case. Nephrol Dial Trans- plant, 19; 2044-2052, 2004.

5) 日本透析医学会統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の

現況(20061231日現在)CD-ROM版.日本透析医学 会,2007.

6) 日本透析医学会統計調査委員会:図説 わが国の慢性透析療 法の現況(20051231日現在).日本透析医学会,2006.

7) 日本透析医学会統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の 現況(19981231日現在).日本透析医学会,名古屋,

1999.

8)日本透析医学会統計調査委員会:図説 わが国の慢性透析療 法の現況(20021231日現在).日本透析医学会,2003.

9) 中井 滋:腎臓機能障害の社会復帰.日本職業災害医学会 会誌,53(4)195-200,2005.

(15)

透析導入の実態と課題 11

要 旨

1992

年に提案された慢性透析導入基準も改定が必 要であるが,基準の最後の箇所に書かれている「小 児・高齢者あるいは高度な全身性血管障害を……」の 条項が意外にも見落とされているように思われるので,

注意を喚起しておきたい.また,透析療法導入期には インフォームドコンセントが重要であるが,今後の流 れとして,厚生(労働)省の『インフォームドコンセ ントの在り方に関する検討会報告書』には,患者・家 族・国民に望まれることとして,国民の心得が列挙さ れていることに注目したい.

はじめに

腎代替療法を必要とする末期慢性腎臓病患者は確か に高齢化し,基礎病態には糖代謝異常を有しているな ど,様変わりしている.なかでも透析患者の高齢化は 臨床の現場に様々な問題を投げかけている.とりわけ,

慢性腎不全として保存期治療の段階を経ずに救急医療 として透析療法への導入が実施される患者では,抱え る可能性のある合併症は計りしれない.幸いに維持透 析への段階に至った患者でさえも,折角の退院という 本来であればこの上なく喜ばしい状況にありながら,

介護の担い手の確保が困難となる例がある.

腹膜透析療法が,高齢者には有用であると言われて も,いざとなれば,相当高いハードルがあり,透析療 法の近未来像には暗さを感じざるをえない.それだけ

に医療連携は欠かせない.このため,筆者らのような 専門施設との連携を行い,コメディカルの介在と相互 の意思疎通が適切であれば,高齢透析患者といえども 多病息災は可能であり,確かなインフォームドコンセ ントのもとでの透析療法の選択と開始がこれを保証す るとの印象を持っている.これを確かなものとするに は,かかりつけ医・専門医との診療連携の仕組みと,

これを支える診療報酬の面での新たな枠組みが必要で はないかと考える.同時に,時代の流れは患者自身に 対しては『終末期医療での事前指示』のように,医療 への意志,自己責任を積極的,かつ明確に示すことを 求めているように思われる.

このような医療背景の下で,透析療法導入という

CKD

の分岐点での適正な対応を求めて,その課題と 解決策について,筆者が日頃感じていることを中心に 述べることにする.

1 慢性透析導入基準

慢性透析導入基準(表 1)は,1992年に厚生科学研 究腎不全医療研究事業報告としてまとめられ1)

,1995

年には追跡調査によってその妥当性が実証された2)

しかしながら,透析導入患者の病態は最近

10

年間 で様変わりしている.このことは

1991

年,2006年の それぞれで,透析導入患者の平均年齢が

56.9±14.4

歳,

66.4±13.4

歳と次第に高齢化し,原疾患における糖尿

病性腎症の割合が

29.30%,42.90% と増加しているこ

とからも容易に推察できる.すなわち,表 2に示すよ

[透析医療における Consensus Conference 2009]

透析導入の実態と課題

――

 

有病でも息災の透析患者の輩出を求めて

 

――

佐中 孜 

東京女子医科大学東医療センター

key words:透析導入,腎代替療法,インフォームドコンセント

Current status of dialysis commencement

Medical Center East, Tokyo Women’s Medical University Tsutomu Sanaka

(16)

うに,血清尿素窒素,クレアチニン値は,最近ではこ れまでより低いところで導入されている3)

.これは,

これらの腎不全数値より実際の病態を重要視して透析 療法に導入されていると考えるべきで,必要もないの に実施されていると考えるべきではないことは,現場 を知る者には容易に理解できる事実である.

2006

年の透析医学会の統計を

eGFR

に置き換えて,

透析療法導入時

eGFR

と生命予後の関係で見ると,低 い

eGFR

値で導入された患者ほど生命予後が良好であ ったと言う通常の予想であれば,高い

eGFR

値で導入 した患者のほうが生命予後が良いはずであるという予 想とは逆の結果が出ている.合併症があったために,

高い

eGFR

であっても透析療法導入せざるをえなかっ

たと解釈すべきだし,eGFRが低くても透析療法によ って患者生命を守ってきたことの現れと理解するほう が適切である.

1) 生命予後

導入時尿量と生命予後でみてみると,1日尿量が

1,000 ml

以上,

1,200 ml

未満を対象とした場合,

600 ml

未満で導入された患者では尿量が少ないほど,つまり 残存腎機能が低い患者ほど死亡のリスクが高く,残存 腎機能がある患者のほうが死亡のリスクが低い.すな わち,残存腎機能が生命予後にとって非常に重要な因 子であることを示唆している.このことは,包括的な 腎不全医療を考えていく上で重要な要素になってくる.

表1 慢性透析導入基準

下記のⅠ.Ⅱ.Ⅲの合計点数が,60点以上になったとき透析導入適応となる

Ⅰ. 腎機能

  血清クレアチニン(mg/dL)及びCcr(ml/min)

 1. 血清クレアチニン8以上で,Ccr 10未満 30点   2. 血清クレアチニン5〜8未満で,Ccr 10〜20未満 20点   3. 血清クレアチニン3〜5未満で,Ccr 20〜30未満 10点 

Ⅱ. 臨床症状

 1. 体液貯留(全身性浮腫,高度の低蛋白血症,肺水腫)

 2. 体液異常(管理不能の電解質,酸・塩基平衡異常)

 3. 消化器症状(悪心,嘔吐,食欲不振,下痢)

 4. 循環器症状(重篤な高血圧,心不全,心包炎)

 5. 神経症状(中枢・末梢神経障害,神経障害)

 6. 血液異常(高度の貧血症状,出血傾向)

 7. 視力障害(尿毒症性網膜症,糖尿病性網膜症)

*1.〜7.の小項目で一個を10点とする(三項目以上は,30点)

Ⅲ. 日常生活障害度

 1. 尿毒症症状の為,起床できない場合 30点   2. 日常生活が著しく制限される場合(中程度) 20点   3. 通勤,通学あるいは,家庭内労働が困難になった場合 10点 

ただし,小児・高齢者あるいは高度な全身性血管障害を合併する場合,全 身状態が著しく障害された場合などはそれぞれ10点加算する

透析導入ガイドラインの作成に関する研究.平成3年度厚生科学研究:腎不全医療研究 事業報告,1992.

導入基準と追跡調査による妥当性の検討.平成6年度厚生科学研究:腎不全医療研究事 業報告,1995.

表 2 1991 年度厚生科学研究,腎不全医療研究班による       慢性腎不全導入基準の妥当性

1991年の調査 2006年の調査

導入年齢(歳) 56.9±14.4 66.4±13.4 原疾患(糖尿病) 29.30% 42.90%

BUN(mg/dl) 106.0±33.0 87.1±31.0

Cr(mg/dl) 10.6±3.7 8.4±3.6

基準満足症例 96.90% 22.40%

Cr8.0 mg/dl未満導入 20.80% 48.80%

Cr5.0 mg/dl未満導入 3.40% 12.30%

(17)

透析導入の実態と課題 13

BUN/Cr

比と生命予後をみると,BUN/Cr比が

10

以上で導入された患者では有意に死亡率が高い.これ だけでは当然と思われるが,eGFRでみると,eGFR の高い透析療法導入患者ほど

BUN/Cr

比が高かった という成績もあり,予後に悪影響を及ぼすのが背景に 潜む病態の重要度であることをうかがい知ることがで きる.すなわち,このような患者は糖尿病,心不全,

低栄養などの合併症を有していることも明らかにされ ており,BUN/Cr比が高い患者では,合併症の精査と 同時に,eGFRや尿量に囚われることのない適切な透 析療法への導入が推奨される.

さらに,体液貯留(全身性浮腫,肺水腫)

,体液異

常(電解質異常,酸塩基平衡異常)

消化器症状などの,

約半数の透析導入患者に認められる臨床病態は特に重 要であり,心不全や肺水腫,難治性浮腫などは,死亡 リスクを有意に高めることが明らかになっている.

したがって,すでに述べたが,糖尿病や心不全,低 栄養などの患者では,体液管理不良になる以前の適切 な時期での透析導入が必要である.

2) 慢性透析導入基準の見直し

いつの場合にも常に過去と現状の解析と改定は重要 である.したがって,慢性透析導入基準の見直しを全 面的に否定する者ではない.就中,表

1

の「I腎機能」

の箇所は問題で,「血清クレアチニン(mg/dL)及び

Ccr(ml/min)」というように,

「及び」と言う表現で,

決して

and

でなくてはいけないという表記は誤りで あり,直ちに訂正する必要がある.その後に続く血清 クレアチニン,Ccrに関する文言も同様に

and/or(あ

るいは)に訂正するべきである.「10未満 30点」の

「で」もやはり両方という意味で実態に合わない.直 ちに訂正すべきである.

緊急性があるのはここまでで,それ以外までも必要 か否かについては必ずしも緊急を要すると言うほどで もなく,表

1

の最後の箇所に書かれている「ただし,

小児・高齢者あるいは高度な全身性血管障害を合併す る場合,全身状態が著しく障害された場合などはそれ ぞれ

10

点加算する.」の条項を加味すると,導入に必 要な基準点数である

60

点をクリアすることになる.

2

には,基準点数の満足症例が,91年はほぼ

100

% の人が

60

点以上の基準を満たして導入されたのに 対し,2006年では

80% の人が基準を満たしていない

という統計的な事実などももとになって,われわれが 不必要症例にも透析療法を開始したかのような印象を もつことこそ不適切である.「ただし,小児・高齢者 あるいは高度な全身性血管障害を合併する場合,全身 状態が著しく障害された場合などはそれぞれ

10

点加 算する.」の条項を適用すると,10点プラス

10

点の

20

点の加算がされることになるのである.筆者は,

この部分が見逃されて統計がとられていたのではない かと危惧している.このことからすると,Cr値

5

未 満で導入されている人が

91

年には

3% に対し,06

には

12% と 4

倍に増えているが,これは決してそう

言う意味の数字ではなく,大部分は,60点の基準を 満たしており,われわれの日常臨床が健全に行われて いるということではないかと思われる.

3) 筆者らの経験から

筆者自身の透析療法導入患者の臨床実感は,表 3に まとめたように多彩である.確かに計画導入の患者が 圧倒的に増えている.これは,CKD診療の成果でも あり,早期から紹介され,インフォームドコンセント を経て計画的に導入されて行く患者が少しずつ増えて いった実態を表しているように思われる.

しかし一方で,心血管系疾患,閉塞性動脈硬化症,

悪性腫瘍,栄養障害など非常に多様化している.最近 においては認知症を合併した患者も増加しており,原 疾患としての腎硬化症が次第に増えていることを反映 していると思われ,従来,やや取り組みの遅れた領域 と考えている.

① 症例

1

63

歳の

CAPD

導入希望の糖尿病性腎症患者である.

BUN 58.6 mg/dl,Cr 4.8 mg/dl

と,数値はそんなに 高くはないが,BUN/Cr比は

10

以上である.CAPD の導入希望により

SMAP

を目的として入院した.通 常なら,1泊

2

日の入院であるが,入院期間を

1

週間 に延ばし,内視鏡検査,心血管系検査など様々な検査 を行った.その結果は,非常に大きな有茎性のポリー プを見つけることができた.たまたま代表例として述 べるが,かなりの確率で早期の胃癌や直腸癌が見つか ることは特筆に値すると考える.

② 症例

2

67

歳の無症候性虚血性心疾患合併の糖尿病性腎症 患者の場合は以下であった.

(18)

BUN 93.8 mg/dl ,Cr 5.2 mg/dl

と,BUN/Cr比 は

10

以上であるが,さしたる自覚症状もないまま,計 画導入を進めて,全身チェックをしていた.心電図は ほぼ正常であったが,心拡大の傾向が見られていた.

頸動脈エコーではプラークも発見できた.冠動脈の異 常も想定されたが,造影剤を使うということが放射線

科からの拒否にあうため,透析導入を念頭において検 査することとした.その結果は,冠動脈狭窄・石灰化 病変の早期発見につながり,早期治療を可能にした.

高齢

CKD

患者では,心血管合併症に限らず,様々な 合併症を持ち込んだ状態で透析を導入する必要がある 症例が高頻度に存在すると思われる.

表 3 当院での新規透析導入のきっかけ(65 歳以上)

平成10 平成21 平成10 平成21

21 35

44 58

溶血性貧血 偽膜性腸炎 腹部皮下血腫 消化管出血 結腸穿孔 痔 瘻 難治性腹水 難治性腹膜炎 黄疸精査 乏尿/浮腫 腎梗塞

副甲状腺機能亢進症 肋骨骨折

右大腿骨頚部骨折 左大腿部血腫 下肢潰瘍 糖尿病壊疽 熱 傷

シャントトラブル 造影剤除去目的 感染症 不明熱

2 1 1 2 1 0 0 0 1 30 1 0 1 2 0 1 0 1 0 3 5 1

0 0 0 4 0 2 2 1 0 4 0 4 0 0 1 0 1 0 17 0 7 1 計画導入

栄養障害 食欲低下 悪性腫瘍 眼科的合併症 意識障害 不随意運動 痙攣発作 頭 痛 悪性症候群 脊髄電極植え込み術 脊柱管狭窄症 僧帽弁置換術 動脈弁狭窄症 動静脈瘻 心機能評価 大動脈瘤

ヴァルサルヴァ洞動脈瘤 急性心筋梗塞

不安定狭心症 慢性心不全 閉塞性動脈硬化症

8 1 1 7 1 1 0 0 1 2 1 1 1 0 1 3 3 1 5 5 10 1

21 4 2 20 4 4 1 2 0 0 0 4 0 1 0 7 1 0 8 10 2 5

合 計 107 142

図 1 症例 3 の患者の血清クレアチニン,尿素窒素値,アルブミンの経過  不適切なたんぱく制限はたんぱく質プールの減少を招き,生命予後の悪化を招く.高齢 者の血清Cr 6未満はeGFR 5未満.

Cr(mg/dl) 尿素窒素(×10mg/dl) Alb(g/dl)

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0

0 0.5 1 1.5 2 2.5 HD 開始を他院に依頼 3

肺炎合併として転院,HD 開始  尿素窒素

(×10mg/dl) Alb(g/dl)

Cr(mg/dl)

2003/7/262007/9/282007/11/12007/11/142008/3/222008/3/242008/3/262008/3/282008/3/292008/3/312008/4/22008/4/7

Cr(mg/dl) Alb(g/dl)

(19)

透析導入の実態と課題 15

③ 症例

3

低栄養状態のまま長期に保存的治療が実施されたリ ウマチ性腎臓病患者である.

血清アルブミン値は非常に低く,腹膜透析を希望し て来院した.腹膜透析の本質的ともいえる欠点として 低たんぱく血症がある.すなわち,低栄養状態から腹 膜透析を開始してしまうと低栄養状態からなかなか脱 却できないという問題がある.そのため,保存期から の食事療法のあり方も,包括的な腎代替療法,包括的 な生命予後という立場から考え直す必要があると痛切 に考えている.

この患者は,図 1にみられるように,BUN/Cr比は

10

以下である.尿素窒素,クレアチニンも低い.同 時に低アルブミン血症も著しい.この時点で記述の視 点を加えると,導入基準の

60

点を超えており,他院 に導入依頼した.しかし,表

1

の腎機能基準から血液 透析療法への導入基準を満たしていないと判断され,

透析療法に導入されず,低アルブミン血症の悪化と肺 炎合併のために逆に転送されてきた.肺炎は粟粒結核 であった.

これ以上は言及しないが,透析導入にあたっては腎 機能もさることながら,臨床病態を把握することの重 要性が示唆されている旨を重ねて理解してほしい.

2 透析導入前後の患者教育と療法選択における課題

1) 患者教育とインフォームドコンセント

透析療法導入前から腎専門医によるコンサルテーシ ョンを開始することによって,その後の生命予後は有 意に改善することが知られている.

ここには必然的にインフォームドコンセントが必要 になる.そもそも,インフォームドコンセントという 言葉は,厚生省が平成

7

6

22

日付で,『インフォ ームドコンセントの在り方に関する検討会報告書〜元 気の出るインフォームドコンセントを目指して〜』と いう報告書(座長柳田邦男)が,厚生省健康政策局長 に提出され,公表されたことに端を発する4)

.米国の

医療界で使われていたインフォームドコンセントとい う言葉の内容を表す訳語が,文字通り「情報(に基づ いた)」から「説明」という訳語に置き換えられてし まったのである.「情報(にもとづいた)」ということ は,医療側からの情報も当然のことながら,患者や家 族自身が集めた情報も含まれる.

2009

年の夏に,全国腎臓病協議会の努力で,「イン フォームドコンセントに基づいた慢性腎不全治療法選 択」というテーマでのアンケ-ト調査が実施された.

その結果,血液透析患者を対象にすると,その腎代替 療法の選択にあたって,医師,看護師から得た情報に もとづいたと答えた患者が

66.1% で,自分で調べた

情報にもとづいたと回答した患者は

17.4% であった.

設問を「医師,看護師から得た情報だけでなく,さら に自分で調べた」とすべきだったと思われるが,この

17.4% という数字を非常に少ないと感じている.患者

自身がもっともっと自分の病気に関して医学的な知識 を持つべきだと考えている.

ここに紹介した『インフォームドコンセントの在り 方に関する検討会報告書』には,患者・家族,国民に 望まれることとして,「日頃の健康管理や病気になっ たときの医療の受け方は,本人の生き方に直結する問 題である.治療や療養における様々な選択が可能とな っている中で,どの様な選択をするかは,あくまで本 人の希望と意思なのだという自覚が必要であろう.国 民が心得ておいて欲しいこととして,次のような呼び かけをしたい.」との前置とともに,下記のことが述 べられている.ここでは箇条書きにして紹介する.

① 日頃から心身両面の健康や医療について関心を 持ち,知識を豊かにしておく.

② 病気になった時どのような医療を受け,どのよ うな生き方を選ぶかについて,日頃から自分の意 思を持つとともに,家族と話し合っておく.

③ 特に,がんの告知,末期における延命措置,植 物状態・脳死になったときに受ける医療,臓器提 供等については,事前の意思を明確にしておくこ とが望まれる.これからの時代は,文書によるリ ビング・ウイル(事前の意思表明)が重視される ようになろう.

④ 自らの病状や予後,検査の目的・内容・結果,

治療の目的・内容・展開・期待される効果・副作 用等について,遠慮なく医療従事者へ尋ねる態度 を身につける. (ただし,筆者注釈; 日常臨床で の医師は,時間的な制約の中で多くの患者に対応 することが求められている.しかも同時的である ことも希ではない.したがって,短時間では理解 しがたいときは,患者は担当医師に別途,時間を 作って貰ったり,医師の予定に患者自身の都合を

表 4 長時間 HD,短時間頻回 HD の生存率 HD 時間 (時間/回) HD 回数 (回/週) 10 年生存率(%) 15 年生存率(%) 20 年生存率(%) Charra 6) 8 3 75.0 55.0 43.0 Mastorangelo 9) 3 5 60.0 48.0 ― 日本透析医学会統計調査 2) (2008 年 12 月) ― ― 37.1 23.6 17.4
表 1 第 1 回〜第 13 回調査までの集計結果 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 平成9年 平成10年 平成11年 平成12年 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 平成21年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 施設数(施設) 34 99 125 128 132 149 182 179 190 185
表 3 病院・診療所別集計結果―請求合計に対する割合― (表 1-3) 年 齢 透析歴 再診計 13:指導 栄養指導(130) 集団栄養(80) 特定疾患(225) 標 本 数 10,405 10,399 10,447 10,447 2,650 223 2,841 比  率(%) 2.19% 6.33% 0.08% 0.00% 0.30% 合 計 654,301 96,998 9,175,460 26,489,525 344,730 17,840 1,268,400 請求合計 418,448,194 418
表 15 各地域による請求合計 01 北海道 02 青森 03 岩手 04 宮城 05 秋田 06 山形 07 福島 08 茨城 09 栃木 10 群馬 標 本 数 262 300 302 268 32 156 81 79 168 62 平  均 39919  41046  40312  40500  40423  37517  37651  40923  41297  37278  標準偏差 4544  4096  4312  4383  5267  2622  2477  3486  4734  217
+3

参照

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