竹林に見る地域景観の変容
仙波拓也,吉川 眞,田中一成
Change of Landscape with Bamboo Grove
Takuya SENBA,Shin YOSHIKAWA and Kazunari TANAKA
Abstract: Recently, well-groomed bamboo groves have been changed to neglected and desolated groves. They are spreading toward hillsides disorderly. This phenomenon has caused the destruction of landscape in hillsides. Therefore, it is required to coexist with bamboo groves to maintain and create the beautiful landscape in hillsides. The authors are analyzing the distribution of bamboo groves historically and classifying the present bamboo groves by using the geo-information technology.
They also demonstrate the relationship between the bamboo groves and the landscape by landscape analysis.
Keywords: 竹林(bamboo grove),里山景観(landscape in hillsides),空間情 報技術(geo-information technology)
1.はじめに
近年,西日本各地の里山地域でモウソウチク をはじめとする竹林が,山地の斜面を這い上が り,放置された雑木林や造林地,畑地に侵入す るといった現象が見られている.
元来,竹林は,里山を構成する要素として重 要な位置づけにあり,人々の生活に直結した価 値を発揮し暮らしに貢献してきた.そのため,
里山や造成地に竹が侵入してきた場合には,直 ちに処理され,里山は守られてきた.しかし近 年,プラスチックを原料材とした製品が大量に 出回り,また,タケノコや竹製品が安価で輸入
されるようになった.その結果,竹の需要は時 代の流れとともに減少し,今日では,日常生活 の場面での竹と人との関係も希薄になっている.
また,高度経済成長期に都市化が進んだことで,
森林の減少にともない竹林も都市部から次第に 姿を消している.さらに,適正に管理されてき た竹林も荒れ果てた放置竹林や荒廃竹林へと変 貌し,次第に里山へその分布を広げている.こ のように無作為に分布を広げた竹林は生態系を 乱すだけではなく,不法投棄,さらには里山景 観や地域景観の破壊といった大きな問題を引き 起こしている.
そこで本研究では,空間情報技術を活用し,
竹林の変容と現状を把握することで,健全な竹 林景観と地域景観のあり方を探ることとした.
仙波:〒535-8585 大阪市旭区大宮 5-16-1
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2.研究の目的と方法
日本特有の景観として親しまれてきた竹林は,
景観破壊などの社会問題を引き起こしたため,
人々にマイナスイメージを与えることが多い.
しかし,手入れされた竹林は,美しく,清々し い場所であり,人々を魅了する.美しい地域景 観を創出するためにも,竹林と都市や里山との 共存を実現させ,魅力ある景観づくりを行う必 要がある.本研究では,竹林分布の変遷と現況 を把握することで,地域景観における竹林の位 置づけを明確にするとともに,景観特性といっ た観点からも,緑環境のなかのひとつである竹 林を把握することを目的としている.
具体的には,旧版地形図をもとに時系列に沿 った分析が 可能な地理情報シス テム(GIS : Geographic Information System ) と CAD
(Computer Aided Design)システムを用いて,
平面と断面の両面から竹林分布の変遷を把握す る.さらに,現在の竹林分布状況の把握につい て は , リ モ ー ト セ ン シ ン グ ( RS : Remote
Sensing )データ解析を行っている.平面と断
面の両面から得られた分析結果をもとに,竹林 分布の歴史的変遷(long span)と高度経済成長 期以降の変遷(short span)といった2つの観 点から,実空間に存在する竹林を分類すること で,時系列に沿った竹林の分布特性を把握する とともに,地域景観との関わりも把握すること ができる.
3.対象地域
本研究では,広範囲に竹林を見ることができ る京都・西 山地域を対象地域とす る(図 − 1).この地域は,大阪・京都両大都市の衛星 都市であるため,林野率は全国平均を下回って いる.しかし,林野面積に対する竹林面積の割 合は全国平均値を大きく上回っている.さらに,
竹林の生育条件が整っていることから,古くか ら竹やタケノコが栽培されており,観光地とし て人々を惹きつけている所もある.しかしこの ような地域であっても,一部で放置竹林や荒廃
竹林の問題が見られ,かつ深刻化している.そ のため景観計画や竹林整備構想を策定し,保 全・整備計画など,行政と市民が一体となった 積極的な取り組みが行われている.
4.竹林分布の分析・把握
4.1.旧版地形図からの竹林抽出
平面における竹林分布の変遷把握には,幾何 補正を行い,明治中期(1/2万仮製図),明治 後期(1/2万正式図),昭和初期,戦後復興期
(旧 1/1 万地形図),高度経済成長期(1/2.5 万地形図)の5期分の旧版地形図を同位置に定 位し,数値地図 2500 (空間データ基盤)の座 標を持たせた.竹林の判読は,地形図の竹林の 地図記号を もとにエリアを作成し た(図 − 2).
京都市
大阪市
図 − 1 対象地域の位置図
図− 2 RS データ から の竹林抽出
図 − 2 竹林のエリア作成
4.2.RS データからの竹林抽出
過去のデータは地形図からしか把握できない が,現況の竹林は,RS データ解析から抽出す ることもできる(小泉・谷本・朴,2003).そ こで本研究では,竹林独特の反射特性が得られ る 可 能 性 が 高 い , 竹 林 の 黄 葉 期 の Landsat ETM+データを用いた.バンド間演算により植 物 の活 性 度を 示 す正 規化 植 生指 標 ( NDVI : Normalized Difference Vegetation Index)を算出 した後に,他の植生との分類を行い,竹林を算 出した.さらに,1/2500 都市計画図から判読 した竹林との検証を行い,現在の竹林分布状況 を把握している.その後,各年代の分布状況,
年代間の増減面積,さらに竹林と関係する土地 用途の変遷把握といった時系列に沿った分析を 行った(図 − 3).
4.3.地形断面からの把握
断 面 に お け る 竹 林 分 布 の 変 遷 把 握 で は , CAD を用いて,平面と同じ年代の地形図をも とに地形断面の生成を行った.平面的な広がり とは異なり地形断面からの竹林分布の変遷を見 ることで,地形との関係性,さらにはどのよう に変動しているのか,把握することができた.
また宅地の変動も示すことで,竹林と都市化の 関係を,数量的に把握することも可能となった
(図 − 4,図 − 5).結果において,明治中 期から戦後復興期までは大きな変化は見られな いが,高度経済成長期を機に竹林が宅地に変わ り,里山の斜面を竹林が這い上がっていること が把握できた.
5.竹林のタイプ分類
現在,分布している竹林は,かつてのように
「生産竹林」とひとまとまりで示すことができ ないため,多様化した竹林をタイプ別に分類し,
現状を把握することが必要である.そこで,平 面・断面からの分析結果をもとに,量的な観点 から竹林を分類することとした.具体的には,
明治中期以降維持され続けている竹林,高度経 済成長期以降,竹林面積が減少したなかでも現 在残っている竹林,増加している竹林の3項目 で分類した.また,質的な観点からも,観光資
M22 M42 S13
S26 S48 現在
図 − 3 各年代の竹林分布状況
M22 M42 S13 S26 S48 現在
竹林 宅地
図 − 4 竹林分布と宅地の変動
A B C
0 100 200 300 400 500 600 700 800
1889 1909 1918 1938 1973 現在
図 − 5 グラフ化による竹林分布の変動
A B C
(m)
源としていかしている竹林,生産目的である竹 林,放置された荒廃竹林,侵入竹林の4項目で 分類を行った.この2つ観点から,対象地域に おいて,タイプごとの竹林面積の頻度を示し,
頻度が高い5つの地区については考察を行うこ とにした(表 − 1).
6.竹林と周辺土地利用との関係
考察を行った各タイプの竹林とそれぞれ周囲 の景観要素について把握し,地域景観との関係 を明らかにする必要がある.そのためにはまず,
竹林に対してどれだけの距離を周辺土地とする か定めなければならない.本研究では,対象と なる竹林とその近傍の竹林に対する最近隣距離 を求め,対象となる竹林の周辺距離を定めた.
さらに周辺距離のバッファを生成し,バッファ 領域における土地利用を分析した.その結果,
観光・生産の整備されている竹林は宅地など人 口構造物が8割以上を占めている.そのため,
竹林は無作為に分布を広げることはない.一方,
荒廃・侵入の整備されていない竹林は山林など と接しているため,分布を広げやすい環境とな っていることが把握できた(図 − 6).
7.おわりに
GIS と CAD を用いた平面と断面からのアプ ローチによって,竹林分布の変遷を把握しただ けでなく,竹林と関わる地域の変容の特徴も確 認することができた.また,現在の竹林分布状 況は, RS データ解析により抽出することがで きた.分析結果から,現状の竹林をタイプ分類 し,特徴的な地区が見出された.さらに,各タ イプの周辺土地利用を示すこ
とで,竹林と都市や里山との関係を把握するこ とができた.
今回は,3次元空間内での視覚的な分析を行 うことができず,2次元の平面と断面による分 析・把握にとどまった.3次元空間内での視覚 的な分析を行うには,景観分析が重要となる.
今後は,景観は人間が対象を眺めて成立する現 象であることを踏まえて,観光地に分布してい る竹林をどのように活かしていくのかを考えな ければならない.また,拝観人数の実測調査デ ータを用いたネットワーク分析を行い,観光客 が多く利用していると思われるルート上からの 竹林の見方について,分析を行う必要がある.
参考文献
上田弘一郎(1978)『竹と日本人』,日本放送 出版協会
小椋純一(1992)『絵図から読み解く人と景観 の歴史』,雄山閣出版
小泉圭吾・谷本親伯・朴春澤(2003)Landsat5 号 TM データを用いた竹林の抽出手法に関する 研究,「写真測量とリモートセンシング」.42
(6),42 − 51
観光竹林 生産竹林 荒廃竹林 侵入竹林 維持され
続けている竹林 15% 80% 5% − 減少しているなかでも
残っている竹林 − 93% 7% − 増加している竹林 − 3% 35% 59%
量的分類
質的分類
表 − 1 竹林のタイプ分類表
維持・観光 維持・生産 減少・生産
66%
32%
2%
43%
44%
8%
4% 1%
35% 56%
5%2%2%
増加・荒廃
66%
15%
10%
9%
100%
増加・侵入
山林・農地(竹林はぶく) 造成地 宅地 公共公益施設用地 河川・湖沼等