45 住友化学 2014
技 術 紹 介
無機素材を主原料とした
新規機能材「タフクレースト
Ⓡ」
はじめに
近年、情報通信機器の小型化、多機能化、高機能化 に伴い、これらに用いるフィルムにも高機能化が求め られている。これらフィルムは、柔軟性はもちろん、高 耐熱性、高水蒸気バリア性、低熱収縮性、高絶縁性、
耐候性などが求められる。個々の性能を持つ材料は既 にたくさんあるが、これら性能を併せ持つものは非常 に少ない。ポリイミドフィルムは有機高分子フィルム の中で最も高い耐熱性、絶縁性、機械的強度を持つが、
用途によっては十分では無く、さらなる耐熱性や低い 熱膨張性、水蒸気バリア性などが求められている。
当社では高機能材料への展開を目指し、2004年8月 に(独)産業技術総合研究所によりプレス発表された、粘 土を主原料とするフィルム材料「クレースト®」1)− 5)の 技術に注目し、2010年8月に共同研究を開始した。
多くの粘土と樹脂を組み合わせて検討を行った結果、
主原料として、粘土鉱物の一種であるタルクを60wt%
以上使用し、バインダとしてポリイミドを組み合わせて 得られたフィルムが、粘土の優れた特性とポリイミドの 取り扱い性の良さを併せ持つことが分かった(Fig. 1)。
我々はこのフィルムを、「タフクレースト®」と名付 け、現在、放熱・伝熱材、プリンテッドエレクトロニ
クス(PED)基材、被覆材、シール材、コンポジット材 等への応用展開を進めている。今回は、「タフクレース ト®」の特性、応用展開について紹介する。
タフクレースト®の特性
タフクレースト®は、例えば、タルクを60wt%用いて 作製したフィルムのXRD測定を行った結果、タルクの 001ピークがシフトしていないため、ポリイミド中にタ ルクの微粉結晶が、層剥離までは進行せず均一分散し た、ポリイミド−タルクハイブリッド材料であると考 えられる。この分散状態に関しては、Fig. 2に示した ようにフィルム断面の電子顕微鏡観察結果からも明ら かである6)− 8)。
単独フィルムとしては実質、機械的強度などの関係 上、タルクの平均粒子径より薄くはできないが、30〜
100 µm程度のものが作成可能である。また、タフク レースト®の積層品、二種類以上の粘土混合品も作成 可能である。
現在、タフクレースト®の膜厚は、50〜100 µmを標 準としている。
タフクレースト®は、様々な特徴的物性を有している
(Table 1)。特に耐候性は高く、85℃、85%RH条件下 住 友 精 化 株 式 会 社 精 密 化 学 品 研 究 所
川 﨑 加 瑞 範
Fig. 1 Toughclaist® (Film containing 60wt% of Talc)
Fig. 2 Cross-sectional SEM images of Toughclaist®
×1.0k 100 μm
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で9300時間経過後でも、外観や柔軟性、水蒸気バリア 性に目立った変化は見られなかった。IRスペクトルを 取得したところ、変化は見られず、分子結合レベルに おいても劣化は確認されなかった。
また、難燃性が、UL94のV-0相当(60µm厚)であり、
不燃フィルムである。更に、耐熱性は450℃程度、10
〜20ppm/℃の低い線膨張率、収縮率は室温から350℃
まで加熱した後の最小で0.04%と非常に小さく、ポリ イミドよりも優れた水蒸気バリア性、熱伝導性などの 特性を持つことが確認された。これら個々の特性を持 つ材料は多く存在するが、これらを兼ね備えているの がタフクレースト®の大きな特徴である。
用途
1. 放熱・伝熱材
近年、電気、電子機器分野では軽量化、薄型化、静 音化が進む一方で、高機能・高密度化に伴う、熱対策 が、重要になっている。現在放熱材として代表的なも のは、アルミヒートシンクや、シリコンゴム、ヒート
パイプなどがあるが、ファンや、金属筐体の併用など、
軽量化や薄型化を進めるには問題がある。
一方、タフクレースト®は、主原料として使用してい る無機フィラーのアンカー効果により、各種金属と接 着層無しで、積層することが可能である。さらに、タ フクレースト®の放射率は0.90と、熱を遠赤外線に変換 し、放熱する能力が高い。
そのため、タフクレースト®金属複合品は、輻射放熱 材として有効であり、ヒートシンクに対し、同等の放 熱性能で比較した場合、放熱材としては、薄型化、軽 量化が可能となる。
現在、電子機器においては薄型化、筐体のプラス チックによる軽量化が進行している。家電製品の制御 回路冷却、タブレットなどのモバイル端末の制御回路 冷却に有効な、新規放熱材として、商品化を目指して いる(Fig. 3)。
2. プリンテッドエレクトロニクス(PED)基材 プリンテッドエレクトロニクスは印刷技術による回 Table 1 Characteristics comparison of Toughclaist® and other films
150 VTM-0 ~
VTM-2
— 0.6 (150 °C, 30min)
0.3 ~ 1.8 0.2 1017 PET film (Commercial) 400
VTM-0 V-1 (Standard film)
20 ~ 50 0.6 (350 °C, 30min)
21 0.2 1017 Polyimide film (Commercial) 450
VTM-0 V-0 (Thickness : 60um)
10 ~ 20 0.04 ~ 0.1 (350 °C, 30min)
< 1 0.6 ~ 2 1016~ 1018 Toughclaist® Heat resistant temperature (°C)
Flammability test (UL94)
Coefficient of linear expansiona) (ppm/ °C) Thermal shrinkage (%)
Water vapor permeability (g/m2 • day) Thermal conductivity (W/m • K) Volume resistivity (Ω • cm)
a) Measuring room temperature to 350 °C
Fig. 3 Aluminum heat sink (Left side)
Toughclaist®/Aluminum Composite (Right side) Weight saving
Thinning
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無機素材を主原料とした新規機能材「タフクレーストⓇ」
おわりに
タフクレースト®の応用用途範囲は、多種多様であ る。2013年12月に、当社別府工場内にパイロット設備 が完成し、500 mm幅のロールフィルムの作製が可能に なった。
今後も、研究開発を加速させ、商品化を進めていく 予定である。
タフクレースト®は(独)産業技術総合研究所コンパクト 化学システム研究センター 蛯名 武雄首席研究員をはじ めとする先進機能材料チームの皆様、(独)産業技術総合 研究所フレキシブルエレクトロニクス研究センター 印 刷エレクトロニクスデバイスチーム 吉田 学チーム長、
東京工科大学 山下 俊教授、静岡理工科大学 石田 隆弘 教授、服部 知美講師をはじめとする関係者の方々の多 大なご指導、ご協力により実現したものであります。感 謝申し上げます。
引用文献
1)蛯名 武雄, FC Report, 23, 109 (2005).
2)蛯名 武雄, 未来材料, 6, 22 (2006).
3)(独)産業技術総合研究所, 日本特許3855003 (2006).
4)(独)産業技術総合研究所, 日本特許3855004 (2006).
5)(独)産業技術総合研究所, 日本特許4162049 (2008).
6)川﨑 加瑞範, 蛯名 武雄, 林 拓道, 吉田 学, 坂東 誠二, 林坂 徳之, 梅田 雄紀, 第55回粘土科学討論 会講演要旨集, 2011, 96.
7)坂東 誠二, 見正 大祐, 林坂 徳之, 梅田 雄紀, 川﨑 加瑞範, 蛯名 武雄, 中村 考志, 吉田 学, 山下 俊, 日本セラミックス協会年会講演予稿集, 2012, 181.
8)坂東 誠二, 技術解説書 2012 –粘土利用材料の新展 開– , 産総研コンソーシアム Clayteam (2013), p.39.
路形成により、大面積化、低コスト化、廃棄物低減が 容易である。
また、回路を形成するインクとして、Agインクより も安価なCuインクでは、抵抗値を下げ十分な導電性を 持たせるために、350〜400℃の熱処理が必要であり、
タフクレースト®の耐熱性、繰り返し加熱冷却による寸 法安定性、低い熱線膨張率が、フレキシブル回路基板 として有用である。
現在、(独)産業技術総合研究所と共同で、タフク レースト®を基板とした、各種回路の試作検討を進めて いる(Fig. 4)。
3. シール材
高温から極低温に耐えられるアスベスト代替ガスケッ トは、良いものが無かったが、ステンレス板、膨張黒 鉛シートとタフクレースト®を組み合わせることにより、
350℃から−190℃までの広範囲において満足のいくガス シール性能を確認し、現在、商品化に向けて精力的に 研究が進められている。
また、使用後の、配管への焼きつき、固着なども無 く、メンテナンス性も大幅な改善が期待される。高温下 および液化天然ガス(LNG)などの極低温下で優れた シール性を有するガスケットとして期待される(Fig. 5)。
4. その他
タフクレースト®の放熱性、不燃性・絶縁性などを活 かし、電線の被覆材、各種繊維材、他種フィルム材と の複合による、コンポジット材への応用検討などを進 めている。
Fig. 4 Toughclaist® based PED
Fig. 5 Toughclaist®/Graphite/SUS composite gasket