小集団実験による集団間代理報復の生起メカニズムの解明 [ PDF
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(2) 研究 1. 方 法. 当初の危害とは無関係な個人どうしにおける代理報復. 参加者 福岡県内の国立大学生・大学院生 45 名である。. の生起の検討. そのうち,実験手続きに疑いを抱いた者を除いた 38 名 (男性 19 名,女性 19 名)を最終的な分析に用いた。. 本研究では,代理報復が生起する心理メカニズムを. 1 要因 2 水準参加者間計画:危害方向(方向. 明らかにするために,代理報復の最も基礎的な過程の. 要因計画. 検討を行う。すなわち,紛争状態にない一時集団の集. 明示 vs. 方向不明). 団間関係において,一方の集団成員が他方の集団成員. 実験手続き 実験手続きを図4に図示した。. へと危害を加えた後に,無関係な個人どうしで報復が. ①集団形成 初対面の 3 人に実験室に来てもらい,ト. 波及し,実際に集団間代理報復が発生するのかを明ら. ランプゲームを行い,集団を形成してもらった。. かにする。. ②1 対 1 の対戦ゲームのルール説明 別室で同様の実. 従来の研究でも,非当事者間での報復は検討されて. 験を行っている 3 人集団(青チーム; 実際はいない)も一. きた (神, 2001, 2003; 図 3 右上; 熊谷・大渕, 2005,. 緒にゲームに参加してもらうと教示した。ゲームは 2. 2006; 品田・山岸, 2007; 図 3 左下)。だが,これは完全. 人×3 回戦が行われ,6 人からランダムに割り当てられ. に非当事者どうしでの報復とはいえない。そこで,本. て対戦が行われると教示した。実際には参加者は全員. 研究では,完全に当初の危害行動の当事者では無い,. 「2 回戦で外集団成員(青チーム)と対戦」へ割り当てら. 無関係な個人どうしでの報復を検討する(図 3 左上)。. れた。対戦ゲームの勝者は敗者に,実験報酬を減らす. また,Sternstrom et al. (2008)や熊谷・大渕 (印刷中). 罰金(50 円∼500 円)を与えてもらうと教示した。 危害方. も非当事者と関連した報復を検討しているが,ここで. ③第1回戦の対戦ゲームでの罰金結果の提示. は集団全体が他の集団全体へと危害を加え,報復を行. 向明示条件では,1 回戦で負けた罰として,青チーム①. う場合が検討されている(図 3 右下)。それに対し,本研. (外集団)が赤チーム③(内集団)の実験報酬を 500 円中. 究では,集団間紛争生起の端緒となる場面の検討が目. 300 円減らしたという情報が与えられた。危害方向不明. 的であるため,集団全体どうしが紛争状態にある場合. 条件では,勝者が敗者の実験報酬を 500 円中 300 円減. の報復ではなく,あくまでも局所的な集団成員どうし. らしたという情報が与えられた。集団成員性に関する. で危害が発生した場面での報復の波及の検討を行う。. 情報はなく,誰が誰に罰金を与えたのかは分からない。 ④第2回戦の結果としての外集団成員への危害の測定 参加者は第 2 回戦のゲームで勝者となり,対戦相手の 外集団成員(青チーム)へと罰金を与えてもらった。. 本研究. 青チーム. 神 (2001, 2003). 赤チーム. −300円. −300円. 1回戦. 品田・ 山岸 (2007) 熊谷・大渕 (2005,2006). Sternstrom et al. (2008) 熊谷・大渕(印刷中). 1回戦. 2回戦. 2回戦. −?円. −?円. 参加者. 参加者. 危害方向不明条件. 危害方向明示条件. 図 4 実験手続きの図示. 図3 先行研究と本研究の枠組み. 結果と考察. 仮説. 集団間代理報復の生起. 本研究では,最も基礎的な場面を検討するために, 特に実験室の一時集団における報復の波及効果を検討. 図 5 にそれぞれの条件における罰金額の平均値を示. する。たとえ一時集団での利害関係のない個人どうし. した。Mann-Whitney の U 検定を行ったところ,危害. でも,Lickel et al. (2006) の主張のとおり,集団間代. 方向明示条件では危害方向不明条件よりも有意に大き. 理報復は生起すると予測される。. な罰金が与えられていた(Z=2.24, p<.05, 危害方向明示. 仮説.実験室における一時集団においても,集団間代理. 条件 中央値 200 円, 危害方向不明条件 中央値 100 円)。 また,第 1 回戦の結果として提示した罰金と同額の. 報復は生起するだろう。. 2.
(3) 250 200 150. 300 円以上の罰金を選択した. 動機づけを高めるのではないか。以上より,内集団へ. 者は,危害方向明示条件では. の伝達に関して,次の仮説を立てた。. 19 人中 5 人(26.3%)であった. 仮説 1.内集団成員へと自らの行った代理報復が伝達さ. が,危害方向不明条件では 19. れるとき,伝達されないときに関わらず,代理報復は. 人中 0 人(0%)であった。. 生起するだろう。(研究 1 の結果より). 100. 以上の結果より,仮説は支. 仮説 2.内集団成員へと自らの行った代理報復が伝達さ. 持された。これより,実験室. れるとき,代理報復は強くなるだろう。. で形成された一時的な集団. 仮説 3.内集団成員からの賞賛認知が,内集団成員への. 方向明示条件 方向不明条件. においても,無関係な個人ど. 伝達と代理報復の関係を媒介するだろう。. ※ エラーバーは標準誤差を表す. うしに報復が波及し,集団間. 50 0. 図5 条件ごとの罰金額. 代理報復が生起することが. 方法. 示された。. 福岡県内の国立大学生・大学院生 66 名. 実験参加者. (男性 33 名,女性 33 名)である。教示を誤解していた 1. 研究 2. 名を除いて,最終的な分析を行った。. 研究2では,代理報復が内集団成員へと伝達するこ. 危害方向(明示 vs.不明)×内集団への伝達. 要因計画. とが,代理報復にもたらす影響を明らかにする。. (あり vs.なし)の 2 要因参加者間計画である。 実験手続きの概略を図 6 に示した。コン. 実験手続き 代理報復の集団内過程. ピュータ上で実験が実施されるなど,変更点はあるが,. 集団間行動は,内集団と外集団との関係のみに基づ. 概ね研究 1 と同様の実験手続きを用いている。参加者. いて行われるのではなく,内集団成員間の集団内過程. には,前回の対戦での罰金の情報が与えられた後に,. が大きな影響を及ぼす(Brown, 1988)。攻撃は,他の目. 自分の対戦相手(外集団成員)に罰金を与えてもらった。. 的を達するための手段として用いられるが(大渕, 1993),. 危害方向の操作. 従来の集団間紛争研究では,この側面はほとんど検討. は 250 円,第 2 回戦では 300 円の罰金が,外集団成員. されていない。本研究では,代理報復が内集団への印. から内集団成員へと与えられたという情報が提示され. 象管理の手段として用いられるという側面から検討を. た。危害方向不明条件では,第 1 回戦では 250 円,第. 行う。では,内集団への印象管理による集団内過程は,. 2 回戦では 300 円の罰金が,勝者から敗者へと与えら. 代理報復にどのような影響を与えるのであろうか。. れたという情報を提示された。集団成員性に関する情. 危害方向明示条件では,第 1 回戦で. 報はなく,誰が誰へ罰金を与えたのかは分からない。 内集団成員への伝達 攻撃は通常ネガティブな行動だと評価されるため,. 危害方向明示 内 集 団 へ の 伝 達 あ り. 他者の存在は評価懸念を生じさせ,攻撃を抑制するこ とが多い(Baron, 1971)。だが,周囲の他者が攻撃を適 切だと考えているときには,他者から見られているこ とで,攻撃が強くなることが指摘されている (Borden,1975; Borden & Taylor, 1973; Luckenbill, 1977)。代理報復に関しても,それを見ている人の評価. 青チーム. 赤チーム. −250円. 危害方向不明 −250円 1回戦. 1回戦. ?−300円. −300円. 2回戦. 2回戦. ?. −?円. −?円. 3回戦. 3回戦. 参加者. 参加者. ※内集団メンバーに自分の罰金額が伝わるが, 前回の対戦の参加者や勝敗は分からない。. が影響すると考えられる。 本研究では特に代理報復が内集団成員へと伝達する. 内 集 団 へ の 伝 達 な し. 場合の検討を行う。代理報復とは,被害者となった内 集団成員の代わりに別の成員が仕返しをするという現 象である。このとき,代理報復の行為者は,外集団へ と報復をして内集団を守ろうとする,いわば英雄と見 なされ,高く評価される可能性が考えられる。この内 集団からの賞賛を求めて,代理報復の行為者は報復の. 青チーム. −250円. 赤チーム −250円 1回戦. 1回戦 −300円. ×. −?円. −300円 2回戦. 2回戦. ×. −?円. 3回戦. 3回戦 参加者. 図7 実験手続きの図示. 3. 参加者.
(4) 内集団への伝達の操作. 内集団への伝達あり条件では,. 自分の名前と外集団成員に与えた罰金額が,赤チーム の成員に伝わることが,罰金選択の際に教示された。. .20. 内集団 への伝達. 罰金額 .34*. 内集団への伝達なし条件では,外集団成員に与える罰. .57***. ** 内集団からの .43 賞賛認知. 金額も自分の名前も,対戦相手以外の誰にも伝わらな. 報復動機. R2=.11. いことが,罰金選択の際に教示された。. R2=.40. R2=.19. Χ2(2)=.52, n.s., GFI=.99, AGFI=.96, RMSEA=.00 *p<.05; ** p<.01; ***p<.001 内集団成員への伝達はダミー変数(伝達あり条件=1,伝達なし=0). 結果と考察. 図8 危害方向明示条件における 内集団からの賞賛認知の媒介過程. 条件ごとの外集団成員への罰金 危害方向と内集団への伝達を独立変数とし,罰金額. 明条件では得られなかった。. を従属変数とした 2 要因分散分析を行ったところ,危 害方向の主効果 (F(1, 61)=5.19, p<.05)と,内集団への. この結果は,本研究の予測どおり,内集団成員から. 伝達の主効果(F(1, 61)=4.48, p<.05)が見られた(図 7)。. 賞賛されると認知していることが,代理報復を高める. 交互作用は見られなかった(F(1, 61)=.35, n.s.)。危害方. ことを示唆している。そのため,内集団への伝達があ. 向明示条件では,危害方向不明条件よりも,有意に高. ることで代理報復が強くなるという仮説 2 は支持され. い罰金が与えられたという研究 1 と同様の結果から,. た。また,報復動機を経由した間接的な効果ではある. 仮説1は支持された。また,内集団成員へと自分の罰. ものの,内集団からの賞賛を得るために代理報復が強. 金選択が伝達される条件では,伝達されない条件より. くなるという仮説 3 も支持された。 つまり,内集団成. も有意に高い罰金が与えられた。だが,危害方向の条. 員から賞賛されたいという集団内での印象管理によっ. 件に関わらず,内集団への伝達の主効果が見られたた. て,内集団成員から代理報復を見られているときには,. めに,単純に内集団の伝達があることで代理報復が強. 集団間代理報復が強くなりうることが明らかになった. くなったと結論付けることはできない。この点に関し. といえよう。. ては次項でより詳細な検討を行う。 総合考察 本研究は研究 1,2 を通じて,実験室に形成された初. 内集団からの賞賛認知の媒介過程 危害方向の条件ごとに,内集団からの賞賛認知の媒. 対面の一時集団でさえも,無関係な非当事者どうしで. 介効果を検討するパス解析を行った(図 8)。その結果,. 集団間代理報復が生起することを示した。このような. 危害方向明示条件のみで,有意な関係が見られた。す. 限定的な条件でさえも生起するということは,代理報. なわち,内集団への伝達があることで,内集団からの. 復は,集団間関係という構造に内在化された,強固で. 賞賛認知が高くなる。その結果,報復しようとする動. 頑健な現象であるといえる。. 機づけが高まり,大きな罰金を与えるようになるとい. また,研究 2 では,内集団へ伝達されることで,代. う因果過程が見られた。これらの関係は,危害方向不. 理報復が強くなることを示した。このことは,集団間. 代理報復は,単純に内集団と外集団の集団間関係を. 350 300. 内集団への伝達あり. 検討するだけでは解明できないことを示している。. 内集団への伝達なし. 内集団からの賞賛という集団内の力学が,集団間代. 250. 理報復を強め,紛争が拡大していくであろうことが. 200. 予測される。今後は,代理報復の行為者は実際に内 集団成員から賞賛されるのかなど,更なる検討によ. 150. る理論的精緻化を行う必要があるだろう。. 100. 代理報復は紛争の維持・拡大と関連した現象である。 本研究で得られた知見は集団間代理報復の生起メカニ. 50. ズムの解明に寄与するものである。今後さらなる研究. 0 危害方向明示. によって知見を積み重ねていくことで,集団間代理報. 危害方向不明. 復を断ち切り,紛争を維持・拡大させない方略の解明. ※ エラーバーは標準誤差を表す. が期待される。. 図7 条件ごとの罰金額 4.
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