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小集団実験による集団間代理報復の生起メカニズムの解明 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)小集団実験による集団間代理報復の生起メカニズムの解明 キーワード:集団間紛争,集団間代理報復,報復の波及,内集団への伝達,小集団実験. 行動システム専攻 縄田. 健悟. 集団間関係においては,一方の集団の成員が他方の. る(図 1)。具体的な場面としては,あるイスラエル人が. 集団の成員に対して危害を与えたときに,本来当事者. あるパレスチナ人を殺したときに,それを見た別のパ. ではない個人どうしで報復が発生することがある。こ. レスチナ人が,また別のイスラエル人を仕返しのため. れを集団間代理報復と呼ぶ。本研究は,一対一の対戦. に殺すといった場面が考えられる。この特徴として,. ゲーム場面を用いた小集団での実験室実験によって,. 報復の加害者,被害者がともに,当初の危害行動の加. この現象が生起するメカニズムを解明することを目的. 害者でも被害者でもないという点が挙げられる。自ら. としている。. が危害を受けたわけでもない人が,危害を与えた本人. 研究 1 では,初対面の無関係な個人どうしで,実際. でもない人に対して報復をすることは,客観的に考え. に集団間代理報復が生起するかどうか検討を行う。研. ると全く不合理な現象である。つまり,報復が無関係. 究 2 では,内集団成員へと自らの代理報復が伝達する. な個人へと波及しているのである。. ことで,代理報復が強くなるかどうかを明らかにする。. A集団. B集団. 危害行動. 問題と目的 戦争,民族紛争といった集団間紛争は心理学のみな. A1 加害の当事者. らず,広く社会科学が取り組んできた重大な社会問題. B1 被害の当事者 見る. 代 理. である。従来の社会心理学の集団間紛争研究には次の 2. 代 理. 点の問題がある。まず,偏見・差別など集団間関係の ネガティブな側面に関する研究は多々行われてきたが, 紛争で最も問題となる攻撃行動に関する側面は検討が. 報復 A2 加害の当事者 ではない. 十分になされてこなかった。また,現実の民族紛争や 戦争では,過去の歴史での争いが現在の紛争を維持・. B2 被害の当事者 ではない. 図1. 拡大させているという事実があるにもかかわらず,社 会心理学では過去の歴史という視点は看過されてきた。. 代理報復. 代理報復は集団間紛争の拡大場面と密接に関連して. これらの問題点を克服するために,本研究では一方. いることが考えられる。個人間の報復は,当初の危害. の集団の成員が他方の集団の成員へと危害を与えたこ. 行動の加害者と被害者の二者間で行われる閉じた現象. とを引き金とした集団間報復場面を検討する。これに. である。それに対して,集団間代理報復は,非当事者. よって,集団間報復という外集団成員への攻撃行動へ. どうしで生じる開かれた現象である。そのため,集団. とアプローチするとともに,一方の集団成員による他. 間代理報復は連鎖的に生じ,集団間紛争は拡大してい. 方の集団成員への危害行動という過去の歴史がもたら. くことが考えられる(図 2)。その結果,集団間関係は,. す影響の検討を行う。. いわゆる「報復が報復を呼 ぶ」という負のスパイラル へと陥っていく。逆に言う. 集団間代理報復 Lickel et al. (2006) は 代 理 報 復. 危害行動. (vicarious. と,集団間紛争の拡大の根. retribution) という概念を提唱した。代理報復とは,他. 底には集団間代理報復を生. の集団の成員が自分の集団成員へと危害を加えたとき. 起させる心理過程が潜んで. に,それを見た被害者と同じ集団の成員が,加害者と. いるといえる。. 同じ集団の別成員に対して報復を行うという現象であ. 1. 報復 再報復. 図2 代理報復の連鎖による 集団間紛争の拡大.

(2) 研究 1. 方 法. 当初の危害とは無関係な個人どうしにおける代理報復. 参加者 福岡県内の国立大学生・大学院生 45 名である。. の生起の検討. そのうち,実験手続きに疑いを抱いた者を除いた 38 名 (男性 19 名,女性 19 名)を最終的な分析に用いた。. 本研究では,代理報復が生起する心理メカニズムを. 1 要因 2 水準参加者間計画:危害方向(方向. 明らかにするために,代理報復の最も基礎的な過程の. 要因計画. 検討を行う。すなわち,紛争状態にない一時集団の集. 明示 vs. 方向不明). 団間関係において,一方の集団成員が他方の集団成員. 実験手続き 実験手続きを図4に図示した。. へと危害を加えた後に,無関係な個人どうしで報復が. ①集団形成 初対面の 3 人に実験室に来てもらい,ト. 波及し,実際に集団間代理報復が発生するのかを明ら. ランプゲームを行い,集団を形成してもらった。. かにする。. ②1 対 1 の対戦ゲームのルール説明 別室で同様の実. 従来の研究でも,非当事者間での報復は検討されて. 験を行っている 3 人集団(青チーム; 実際はいない)も一. きた (神, 2001, 2003; 図 3 右上; 熊谷・大渕, 2005,. 緒にゲームに参加してもらうと教示した。ゲームは 2. 2006; 品田・山岸, 2007; 図 3 左下)。だが,これは完全. 人×3 回戦が行われ,6 人からランダムに割り当てられ. に非当事者どうしでの報復とはいえない。そこで,本. て対戦が行われると教示した。実際には参加者は全員. 研究では,完全に当初の危害行動の当事者では無い,. 「2 回戦で外集団成員(青チーム)と対戦」へ割り当てら. 無関係な個人どうしでの報復を検討する(図 3 左上)。. れた。対戦ゲームの勝者は敗者に,実験報酬を減らす. また,Sternstrom et al. (2008)や熊谷・大渕 (印刷中). 罰金(50 円∼500 円)を与えてもらうと教示した。 危害方. も非当事者と関連した報復を検討しているが,ここで. ③第1回戦の対戦ゲームでの罰金結果の提示. は集団全体が他の集団全体へと危害を加え,報復を行. 向明示条件では,1 回戦で負けた罰として,青チーム①. う場合が検討されている(図 3 右下)。それに対し,本研. (外集団)が赤チーム③(内集団)の実験報酬を 500 円中. 究では,集団間紛争生起の端緒となる場面の検討が目. 300 円減らしたという情報が与えられた。危害方向不明. 的であるため,集団全体どうしが紛争状態にある場合. 条件では,勝者が敗者の実験報酬を 500 円中 300 円減. の報復ではなく,あくまでも局所的な集団成員どうし. らしたという情報が与えられた。集団成員性に関する. で危害が発生した場面での報復の波及の検討を行う。. 情報はなく,誰が誰に罰金を与えたのかは分からない。 ④第2回戦の結果としての外集団成員への危害の測定 参加者は第 2 回戦のゲームで勝者となり,対戦相手の 外集団成員(青チーム)へと罰金を与えてもらった。. 本研究. 青チーム. 神 (2001, 2003). 赤チーム. −300円. −300円. 1回戦. 品田・ 山岸 (2007) 熊谷・大渕 (2005,2006). Sternstrom et al. (2008) 熊谷・大渕(印刷中). 1回戦. 2回戦. 2回戦. −?円. −?円. 参加者. 参加者. 危害方向不明条件. 危害方向明示条件. 図 4 実験手続きの図示. 図3 先行研究と本研究の枠組み. 結果と考察. 仮説. 集団間代理報復の生起. 本研究では,最も基礎的な場面を検討するために, 特に実験室の一時集団における報復の波及効果を検討. 図 5 にそれぞれの条件における罰金額の平均値を示. する。たとえ一時集団での利害関係のない個人どうし. した。Mann-Whitney の U 検定を行ったところ,危害. でも,Lickel et al. (2006) の主張のとおり,集団間代. 方向明示条件では危害方向不明条件よりも有意に大き. 理報復は生起すると予測される。. な罰金が与えられていた(Z=2.24, p<.05, 危害方向明示. 仮説.実験室における一時集団においても,集団間代理. 条件 中央値 200 円, 危害方向不明条件 中央値 100 円)。 また,第 1 回戦の結果として提示した罰金と同額の. 報復は生起するだろう。. 2.

(3) 250 200 150. 300 円以上の罰金を選択した. 動機づけを高めるのではないか。以上より,内集団へ. 者は,危害方向明示条件では. の伝達に関して,次の仮説を立てた。. 19 人中 5 人(26.3%)であった. 仮説 1.内集団成員へと自らの行った代理報復が伝達さ. が,危害方向不明条件では 19. れるとき,伝達されないときに関わらず,代理報復は. 人中 0 人(0%)であった。. 生起するだろう。(研究 1 の結果より). 100. 以上の結果より,仮説は支. 仮説 2.内集団成員へと自らの行った代理報復が伝達さ. 持された。これより,実験室. れるとき,代理報復は強くなるだろう。. で形成された一時的な集団. 仮説 3.内集団成員からの賞賛認知が,内集団成員への. 方向明示条件 方向不明条件. においても,無関係な個人ど. 伝達と代理報復の関係を媒介するだろう。. ※ エラーバーは標準誤差を表す. うしに報復が波及し,集団間. 50 0. 図5 条件ごとの罰金額. 代理報復が生起することが. 方法. 示された。. 福岡県内の国立大学生・大学院生 66 名. 実験参加者. (男性 33 名,女性 33 名)である。教示を誤解していた 1. 研究 2. 名を除いて,最終的な分析を行った。. 研究2では,代理報復が内集団成員へと伝達するこ. 危害方向(明示 vs.不明)×内集団への伝達. 要因計画. とが,代理報復にもたらす影響を明らかにする。. (あり vs.なし)の 2 要因参加者間計画である。 実験手続きの概略を図 6 に示した。コン. 実験手続き 代理報復の集団内過程. ピュータ上で実験が実施されるなど,変更点はあるが,. 集団間行動は,内集団と外集団との関係のみに基づ. 概ね研究 1 と同様の実験手続きを用いている。参加者. いて行われるのではなく,内集団成員間の集団内過程. には,前回の対戦での罰金の情報が与えられた後に,. が大きな影響を及ぼす(Brown, 1988)。攻撃は,他の目. 自分の対戦相手(外集団成員)に罰金を与えてもらった。. 的を達するための手段として用いられるが(大渕, 1993),. 危害方向の操作. 従来の集団間紛争研究では,この側面はほとんど検討. は 250 円,第 2 回戦では 300 円の罰金が,外集団成員. されていない。本研究では,代理報復が内集団への印. から内集団成員へと与えられたという情報が提示され. 象管理の手段として用いられるという側面から検討を. た。危害方向不明条件では,第 1 回戦では 250 円,第. 行う。では,内集団への印象管理による集団内過程は,. 2 回戦では 300 円の罰金が,勝者から敗者へと与えら. 代理報復にどのような影響を与えるのであろうか。. れたという情報を提示された。集団成員性に関する情. 危害方向明示条件では,第 1 回戦で. 報はなく,誰が誰へ罰金を与えたのかは分からない。 内集団成員への伝達 攻撃は通常ネガティブな行動だと評価されるため,. 危害方向明示 内 集 団 へ の 伝 達 あ り. 他者の存在は評価懸念を生じさせ,攻撃を抑制するこ とが多い(Baron, 1971)。だが,周囲の他者が攻撃を適 切だと考えているときには,他者から見られているこ とで,攻撃が強くなることが指摘されている (Borden,1975; Borden & Taylor, 1973; Luckenbill, 1977)。代理報復に関しても,それを見ている人の評価. 青チーム. 赤チーム. −250円. 危害方向不明 −250円 1回戦. 1回戦. ?−300円. −300円. 2回戦. 2回戦. ?. −?円. −?円. 3回戦. 3回戦. 参加者. 参加者. ※内集団メンバーに自分の罰金額が伝わるが, 前回の対戦の参加者や勝敗は分からない。. が影響すると考えられる。 本研究では特に代理報復が内集団成員へと伝達する. 内 集 団 へ の 伝 達 な し. 場合の検討を行う。代理報復とは,被害者となった内 集団成員の代わりに別の成員が仕返しをするという現 象である。このとき,代理報復の行為者は,外集団へ と報復をして内集団を守ろうとする,いわば英雄と見 なされ,高く評価される可能性が考えられる。この内 集団からの賞賛を求めて,代理報復の行為者は報復の. 青チーム. −250円. 赤チーム −250円 1回戦. 1回戦 −300円. ×. −?円. −300円 2回戦. 2回戦. ×. −?円. 3回戦. 3回戦 参加者. 図7 実験手続きの図示. 3. 参加者.

(4) 内集団への伝達の操作. 内集団への伝達あり条件では,. 自分の名前と外集団成員に与えた罰金額が,赤チーム の成員に伝わることが,罰金選択の際に教示された。. .20. 内集団 への伝達. 罰金額 .34*. 内集団への伝達なし条件では,外集団成員に与える罰. .57***. ** 内集団からの .43 賞賛認知. 金額も自分の名前も,対戦相手以外の誰にも伝わらな. 報復動機. R2=.11. いことが,罰金選択の際に教示された。. R2=.40. R2=.19. Χ2(2)=.52, n.s., GFI=.99, AGFI=.96, RMSEA=.00 *p<.05; ** p<.01; ***p<.001 内集団成員への伝達はダミー変数(伝達あり条件=1,伝達なし=0). 結果と考察. 図8 危害方向明示条件における 内集団からの賞賛認知の媒介過程. 条件ごとの外集団成員への罰金 危害方向と内集団への伝達を独立変数とし,罰金額. 明条件では得られなかった。. を従属変数とした 2 要因分散分析を行ったところ,危 害方向の主効果 (F(1, 61)=5.19, p<.05)と,内集団への. この結果は,本研究の予測どおり,内集団成員から. 伝達の主効果(F(1, 61)=4.48, p<.05)が見られた(図 7)。. 賞賛されると認知していることが,代理報復を高める. 交互作用は見られなかった(F(1, 61)=.35, n.s.)。危害方. ことを示唆している。そのため,内集団への伝達があ. 向明示条件では,危害方向不明条件よりも,有意に高. ることで代理報復が強くなるという仮説 2 は支持され. い罰金が与えられたという研究 1 と同様の結果から,. た。また,報復動機を経由した間接的な効果ではある. 仮説1は支持された。また,内集団成員へと自分の罰. ものの,内集団からの賞賛を得るために代理報復が強. 金選択が伝達される条件では,伝達されない条件より. くなるという仮説 3 も支持された。 つまり,内集団成. も有意に高い罰金が与えられた。だが,危害方向の条. 員から賞賛されたいという集団内での印象管理によっ. 件に関わらず,内集団への伝達の主効果が見られたた. て,内集団成員から代理報復を見られているときには,. めに,単純に内集団の伝達があることで代理報復が強. 集団間代理報復が強くなりうることが明らかになった. くなったと結論付けることはできない。この点に関し. といえよう。. ては次項でより詳細な検討を行う。 総合考察 本研究は研究 1,2 を通じて,実験室に形成された初. 内集団からの賞賛認知の媒介過程 危害方向の条件ごとに,内集団からの賞賛認知の媒. 対面の一時集団でさえも,無関係な非当事者どうしで. 介効果を検討するパス解析を行った(図 8)。その結果,. 集団間代理報復が生起することを示した。このような. 危害方向明示条件のみで,有意な関係が見られた。す. 限定的な条件でさえも生起するということは,代理報. なわち,内集団への伝達があることで,内集団からの. 復は,集団間関係という構造に内在化された,強固で. 賞賛認知が高くなる。その結果,報復しようとする動. 頑健な現象であるといえる。. 機づけが高まり,大きな罰金を与えるようになるとい. また,研究 2 では,内集団へ伝達されることで,代. う因果過程が見られた。これらの関係は,危害方向不. 理報復が強くなることを示した。このことは,集団間. 代理報復は,単純に内集団と外集団の集団間関係を. 350 300. 内集団への伝達あり. 検討するだけでは解明できないことを示している。. 内集団への伝達なし. 内集団からの賞賛という集団内の力学が,集団間代. 250. 理報復を強め,紛争が拡大していくであろうことが. 200. 予測される。今後は,代理報復の行為者は実際に内 集団成員から賞賛されるのかなど,更なる検討によ. 150. る理論的精緻化を行う必要があるだろう。. 100. 代理報復は紛争の維持・拡大と関連した現象である。 本研究で得られた知見は集団間代理報復の生起メカニ. 50. ズムの解明に寄与するものである。今後さらなる研究. 0 危害方向明示. によって知見を積み重ねていくことで,集団間代理報. 危害方向不明. 復を断ち切り,紛争を維持・拡大させない方略の解明. ※ エラーバーは標準誤差を表す. が期待される。. 図7 条件ごとの罰金額 4.

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