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の空気の温度. 温度計の感温部を湿らせずに測るため, 乾球温度ともいう. 気温の単位はセルシウス度 ( ) で表す 湿度 :rh 湿度とは空気の湿り, あるいは乾燥の程度を示す. 湿度の表示および単位には, 湿球温度, 水蒸気圧, 相対湿度, 絶対湿度, 露点温度などがあるが, ある気温

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.はじめに

温熱環境は,人の暑さ寒さの感覚などの温熱感覚や体 温調節に影響を及ぼす空間の特性である.季節により屋 外気候が大きく変化し,また,住宅や建築物の断熱性能 が不十分な我が国では,室内温熱環境や人の着衣は屋外 気候の影響を受ける.室内温熱環境は暖・冷房機器等に よって,快適に過ごすことができるように調整される が,人の生理反応・心理反応も季節順化の影響を受ける. オフィスや労働現場だけでなく,日常生活を営む生活環 境において,高齢者や障がい者,子どもなどが安全で健 康的に生活するためには,温熱環境は重要な空間の特性 となり,生活行動に配慮した評価が必要となる.また, 機器使用にはエネルギーが必要になるため,経済的な要 因も関係する. 温熱環境は気温,湿度,気流,熱放射の状態によって つくられる環境を指すが,本稿では室内の温熱環境を取 り扱う1).温熱感覚とは暑さ寒さや快・不快の感覚やそ の程度を示す.体温調節とは人の体温恒常性を維持する ための身体機能である.血管の収縮や拡張による血流調 節や発汗などの自律性の他に,服の着脱,窓の開閉,エ アコンのオンオフなど,人が暑さ寒さを感じることに よって行う行動性の調節がある.ここでは,温熱環境と の熱授受に関与し計測可能な生理データ2)や行動性体温 調節によって選択された温熱環境データ,ならびに,指 標を扱う. 温熱環境の評価指標には,気温,湿度,気流,熱放 射の環境側4要素と人の代謝量と着衣量によって決定さ れるPMV(Predicted mean vote:予測温冷感申告値)3) PPD(Predicted percentage of dissatisfied:予測不満足者 率)3)やSET(new Standard effective temperature:新標準 有効温度)4)などがあり,室内温熱環境の空調制御や設計 の基準値,評価法などが提案されてきた.しかし,不均 一な温熱環境や定常に達するまでの過渡状態にそれらの 指標は対応していない.また,日本で普及するには,生 活環境や生活習慣が異なることに加え,体格の違いや生 理心理面での季節順化を考慮する必要がある. 東日本大震災以降,エネルギー節約の目的で,室の用 途や目的,使用者の健康状態に関わらず,夏季の28℃設 定など室温緩和が推奨されている.そのため,昨今の室 内温熱環境は,PMVやSET*の基準値から外れて,人々 は我慢を強いられている. 本稿では,温熱環境と人体への影響を測定するための 方法とその測定法を用いた応用例を紹介する.人体への 影響としては,心理反応だけでなく,生理反応を合わせ て測定することは重要である.なぜなら,前述のPMVや SET*には人体の熱平衡式が組み込まれ,生理反応デー タが極めて重要な基準となっているからである.そこで, 心理反応と生理反応との関係,評価指標との関係など, 人間工学分野での応用例を紹介する.

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.室内温熱環境

2-1.気温:ta 気温とは,人体周囲の空気の温度,または,ある空間

< General remarks > Special Issues No.3:Measurement Technique for Ergonomics, Section 2:Measurements of Human Response Effected by the Ambient Environment (1)Thermal Environment, Thermoregulation, and

Thermal Comfort, by Kazuyo TSUZUKI & Hiroko KUBO.

特集③人間工学のための計測手法

第2部:周囲環境と人体影響の計測(1)

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-温熱環境と体温調節反応,温熱的快適性-

都築和代

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,久保博子

3 1 受付:2015年1月6日 受理:2015年2月9日 2 産業技術総合研究所 ヒューマンライフテクノロジー研究部門 Human Technology Research Institute, National Institute of

Advanced Industrial Science and Technology (AIST) 3 奈良女子大学生活環境学部

Faculty of Human Life and Environment, Nara Women’s University

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の空気の温度.温度計の感温部を湿らせずに測るため, 乾球温度ともいう.気温の単位はセルシウス度(℃)で 表す. 2-2.湿度:rh 湿度とは空気の湿り,あるいは乾燥の程度を示す.湿度 の表示および単位には,湿球温度,水蒸気圧,相対湿度, 絶対湿度,露点温度などがあるが,ある気温における飽 和水蒸圧に対する空気の水蒸気分圧の百分率で示す相対 湿度がよく用いられる.単位は,%rhで表す. 2-3.気流:v 気流とは,空気の流れ,または,風のことをいう.空 気の単位時間当たりの移動距離や空気の流れの速度を風 速という.単位は,m/sで表す.平均風速とは,ある観 測時間における風速の平均値であり,室内環境において は,数分間以上の測定値を平均して用いる.風の乱れの 強さ(乱流強度)は風速の瞬時値の時系列データをもと に求める乱流の変動成分の大きさを評価する量であり, 変動成分の標準偏差を平均風速で除して得られる.測定 対象の風速を,ある値から他の値へ瞬間的に変化させた 時に,風速計の指示値が,変化前から変化後の定常状態 における値の90%に達するまでに要する時間を応答時間 という. 2-4.熱放射 熱放射とは熱移動形態の一つであり,全ての物体は, その温度に応じた電磁波を放射している.その放射熱量 は,ステファン・ボルツマンの法則に従い,固体表面絶 対温度の4乗に比例する. 熱放射の測定法には,物体の表面温度を直接測る方 法,あるいは,グローブ温度計により測定されるグロー ブ温度で示す方法,平均放射温度として測定値からの計 算により求める方法などがある. グローブ温度(tg)は,周囲環境から受ける放射と対 流による平衡温度である.

平均放射温度(Mean radiant temperature:tmr)は,人 体や物体が周囲から受ける熱放射の影響を,その全方向 に平均したものと等価な放射熱量をもつ黒体の温度とし て定義され,グローブ温度と気温,風速から計算される. 単位は℃で表す. tmr=tg+2.37v0.5(tg-ta) 物体の表面温度は熱画像測定記憶装置を用いて測るこ とができるが,その際,物体の表面の放射率を適切に設 定する必要がある.また周囲からの反射光などにより放 射率は影響を受けるため,誤差を小さくするために注意 を要する. 等価温度(Equivalent temperature:teq)は,気温,風 速,熱放射など各要素で決まる温熱環境を伝熱工学的に 等価な温度として,風速0.1 m/sで気温と放射温度が等し い環境の温度として定義されている. サーマルマネキンを用いて,同等の熱損失となる温熱 環境の温度はteqと定義されている5) teq=ts-Q/hcal teq:等価温度 ts:評価対象環境でのサーマルマネキン表面温度 Q:サーマルマネキン発熱量 hcal: 標準環境でキャリブレーションされた熱 伝達率 サーマルマネキンとは,人体とほぼ同形で,かつ,温 度や熱流センサ,ヒータがマネキンの表面に配置され, 表面温度や熱流を制御することにより,人体表面の発熱 を模擬することが可能なマネキンである.表面温度を一 定にした場合には,その環境での放熱量を計測すること が可能である. サーマルマネキンは主に衣服の断熱性である着衣量 (clo値)の測定に用いられてきた.表面温度のコントロー ルや放熱量の計測が複数の分割部位において可能なサー マルマネキンが開発されたことにより,身体部位への影 響を測定・評価することが可能になった.人体とほぼ同 じ大きさであることから,人が車室内やオフィスなどの パーソナル空調の環境に暴露されるときと同様の状態に サーマルマネキンを配置することにより,放熱量や熱伝 達率等を測定するツールとして使用できる.

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.生理反応

3-1.深部体温 人間は,産熱と放熱のバランスをとることにより体温 を一定に維持している.視床下部にある体温調節中枢は, 皮膚および体内深部に存在する温度受容器からの刺激に より産熱と放熱の制御を行っている.産熱中枢では,震 え・血管収縮および基礎代謝の亢進などの働きを調整 し,放熱中枢では,発汗・血管拡張および基礎代謝の抑 制などの働きを調節している.この働きにより,人間は 高温環境では手足などにある末梢血管の拡張による血流 量の増加,皮膚温の上昇や発汗作用により放熱を促進す る.また,寒冷環境では末梢血管の収縮により.血流量 の減少や皮膚温を低下して放熱を抑制し,震えを起こし

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て筋による熱を産生することにより,体温を一定に保 ち,脳や心臓などの体内臓器の安定な働きを維持してい る.この体内の温度を深部体温という. 深部体温を測定することは容易でない.そのため,体 表面近くの部位において比較的深部の温度を反映する口 腔温(舌下温)が簡易的な体温指標として測定されてい る.その他に体温の指標として,直腸温,鼓膜温などが 測定されており,「体全体の平均的な温度」や「温熱スト レスを評価するための体温調節中枢を流れる血液温度」 の評価指標として用いられている. 深部体温の測定には,33 ~ 43℃の範囲で±0.1℃の精 度を有する温度センサを使用し,熱容量が小さく,時間 応答性として90%までの所要時間が30秒以内であること が望ましい.測定において,温度プロ-プの消毒が必須, または,使い捨てセンサや使い捨てカバーなどを用いて 衛生面の安全性を確保しなければならない.さらに,使 用する電子機器に関しては,電気絶縁やリーク電流が考 慮されている必要がある. ISO-9886では,熱ストレスに伴う体温の限界値とし て,暑熱環境では,医療従事者がいないときや間欠的な 計測では「体温が38℃に達したとき」や「1℃以上の体温 上昇のとき」を限度とし,また,寒冷環境では,「直腸温 や鼓膜温が36℃」を限度とすることが示されている6) 口腔温は,口腔内の舌下の動脈と近接するように温度 センサを配置し,体温中枢の温度を十分に反映した舌下 の動脈血温を示す.口腔温は,口が開いたことや顔面輻 射による加熱・冷却の影響を受けやすい.測定開始前や 測定中は口を閉じる. 直腸温は,全身の平均温度を示す体温指標として,直 腸に挿入した温度センサによって測定する.体幹部は熱 伝導率が小さく周囲の環境条件の影響を受けにくい部位 である.このため,熱平衡状態や全身運動時の直腸温は 中核温を反映している.一方,局所的な運動時には全身 の平均的な温度とは異なる.また,身体を短時間の急激 な蓄熱量変化に暴露したとき,直腸温は中核温に比べゆ るやかに変化する.このため,環境変化に対する応答に 時間遅れがあり,急激な熱ストレスを迅速に評価する指 標として直腸温は適切ではない.直腸温は測定を通じて 一定の深さに温度センサを挿入することが必要であり, 成人で10 ~ 12 cm挿入することが望ましい. 鼓膜温は,体温調節中枢に影響を与える頚動脈の血液 温度を反映している.鼓膜の熱容量は小さいため,鼓膜 温は代謝や環境により生じる中核部の温度変化に迅速に 対応していると考えられるが,耳周辺の熱交換が測定値 に影響を及ぼすため,寒冷環境における測定には適して いない.非接触赤外線検出器を用いた鼓膜温度計が開発 されており,鼓膜から放出する赤外線を検出することに より約1秒で鼓膜温の測定が可能になっている.このと き,赤外線検出面が正確に鼓膜を向いていることが必須 である. 3-2.皮膚温 人体の深部体温に対して,皮膚温は環境と接している 人体の外表面の温度である.皮膚には温度を感じる温度 受容器があり,温度刺激により温覚または冷覚を起こす 皮膚上の径1 mm以下の小領域に温点と冷点が存在する. この温点・冷点から求心神経線維を経て脳に伝わり,感 覚を生じるので,皮膚の温度は重要である.また,皮膚 温は皮膚血流量の影響を受け,血管の収縮や拡張によっ て血流量の減少や増加に伴って,皮膚温は低下や上昇を 示す. 測定は25 ~ 40℃の範囲で±0.1℃の精度をもつセンサ で測定する.寒冷環境における皮膚温の測定に対しては, この温度精度が保証する範囲の下限を25℃から0℃まで 拡張すべきである.センサの熱容量はできる限り小さい ものが望ましく,その90%値への到達時間はできるだけ 短く,30秒以下の応答性を持つものが良い. 接触法で皮膚温を測定する際は,測定部位にサーミス タ測温体の感温部を接触させ,皮膚からの水分蒸発を遮 らないサージカルテープなど透湿性テープで貼付する. 皮膚温の測定部位としては,頭部,胴体部,末梢部など の身体部位を選ぶことが一般的であるが,温熱環境条件 や実験条件,および,計測の目的により測定部位は異な る.均一な温熱環境において皮膚温を測定する場合,非 利き手側の半身で,以下に述べる平均皮膚温算出のため の代表部位を採用することが一般的であり,それに加え て,実験条件や衣服による被覆状態などを勘案して選定 することが多い. 非接触法にて皮膚温を測定する際は,放射温度計を用 いスポット的に計測する部位の温度を計測するか,熱画 像測定記録装置を用いて多くの点を同時に熱画像として 測定する.非接触による放射温度計による測定は,裸体 時での測定,もしくは,被覆されない部位の測定に有効 である. 平均皮膚温(Tsk)は,全身を代表する皮膚温の一つ として,部位の皮膚温に基づき算出する.部位の代表点 の選び方や重み付けの方法はこれまでに様々提案されて いるが,接触法で測定された皮膚温についてよく使われ ている方法として,Ramanathanの4点法,Hardy&DuBois の7点法および12点法による平均皮膚温の算出式を示し,

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図1に測定部位を図示する. Ramanathanの4点法 Tsk=0.3×②+0.3×⑬+0.2×⑦+0.2×⑧ Hardy&DuBoisの7点法 Tsk= 0.07× ① +0.14× ④ +0.05× ⑤ +0.35× ③ + 0.19×⑦+0.13×⑧+0.07×⑨ Hardy&DuBoisの12点法 Tsk= 0.07×①+0.14×④+0.05×⑤+0.35×(②+ ③ + ⑥ + ⑩)/4+0.19×(⑦ + ⑪)/2+0.13× (⑧+⑫)/2+0.07×⑨ 非接触法にて皮膚温を測定する際の平均皮膚温は,放 射温度計を用い熱画像として測定した皮膚温をそのまま 平均して用いることが可能である. 3-3.汗 汗は緊張状態などで生じる精神性発汗と,暑さによっ て生じる温熱性発汗があり,前者はアポクリン腺から分 泌され,後者はエクリン腺から分泌される.汗は暑熱環 境においての体温調節で重要な役割を果たす.なぜなら, 暑熱環境は人の皮膚温との温度差が少ない,もしくは逆 転する場合もある.その際,血流調節による人体からの 放熱は小さくなるので,汗の蒸発による潜熱放熱は非常 に効率が良い.汗がどれだけ蒸発したかを知る方法とし ては,蒸発分を体重の減少により算出する方法が一般的 であるが,蒸発しないで体からこぼれ落ちた量や衣服等 にしみこんだ量を測定するのは容易でない. 3-3-1.体重減少量(WL;weight loss) 蒸発した汗の量を測るためには,体重減少量として, 10 gの精度を持ち,1 g単位で表示可能な精密体重計を 使って測定することが望ましい. 体重減少量は実験前後に体重を測定し,その差から算 出する.その値を実験時間で除すことにより時間当たり の体重減少量を算出し,さらに体表面積で除して人の体 格差を排除する. WL=(Wb0-Wb1)/ABS/t〔g・m–2・h–1〕 Wb0:実験開始時の体重〔g〕 Wb1:実験後の体重〔g〕 ABS:体表面積〔m2 t:実験時間〔h〕 3-3-2.無効発汗量 着衣に吸収・吸着された汗量は,実験前後で着衣の重 量を測定し,その差から算出する.滴り落ちた汗は,予 め無効発汗を測定するための捕集パンを実験環境に設置 し,そこに落ちた汗量を測定する.それらを合算して無 効発汗量とする. 3-3-3.局所発汗量 人体局所における発汗量を測定する方法として,濾紙 法,換気カプセル法,勾配法などがある.これらにより, 皮膚表面の特定の部位における発汗の開始,発汗リズ ム,発汗量などを測定することが可能となる. 濾紙法とは,汗を濾紙に集める方法である.重量測定後 の乾燥濾紙を皮膚表面におき,その上から不透湿のフィ ルムなどで軽く抑え,汗を蒸発させないように吸収させ る.実験後に再度,濾紙重量測定を行い,前後の濾紙重 量の増加分を局所発汗量とする.濾紙の重量は大きさに もよるが数百mgなので,測定時間にもよるが,10 mg精 度の電子天秤が必要である.勾配法とは,開放型のカプ セルを有したプローブを身体に接して蒸発量を計測・算 出する.皮膚表面から垂直方向に数ミリ,もう一点をさ らに数ミリ程度離した2点の湿度と温度を同時に測定し, 2点間の絶対湿度勾配から蒸発した汗量を求める.連続 的な測定は困難であるが,ある定常状態に達していると ころで測定する.換気カプセル法は,皮膚表面の一部分 をカプセルで覆い,そこに乾燥ガスを流す.カプセルの 前後に置いた湿度センサから湿度変化を測定し,蒸発し た汗の量を求める.発汗の開始や発汗リズムなどを測定 することに用いられる. 3-4.代謝量 人は呼吸によって生命を維持しており,活動に伴って 呼吸数・量が増える.呼吸により取り込まれた酸素が細 上腕 前腕 大腿 下腿 下腿 大腿 前腕 上腕 背中 臀部 図1 皮膚温の測定部位

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胞において熱エネルギーへの変換に使われ,二酸化炭素 が排出される.このエネルギーを代謝量と呼ぶ.この測 定には間接法や推定法がある. 間接法は,人が吸った酸素量と吐いた二酸化炭素量か ら代謝量を算出する方法であり,ダグラスバッグに呼気 を採取し,測定するためダグラスバッグ法と呼ばれる. マスクに吹き込まれた呼気はフレキシブル管を経由して ダグラスバッグに捕集され,捕集した呼気の量から時間 当たりの換気量を求めるとともに,吸気・呼気ガスの酸 素および二酸化炭素濃度を測定して,酸素摂取量を算出 する.酸素摂取量と二酸化炭素排出量の比である呼吸商 (R)から,エネルギー消費に対する脂肪と炭水化物の燃 焼の比率を推定する.呼吸商からは酸素1リットルと結 合して得られるエネルギーの量を求め,酸素摂取量に乗 じて身体のエネルギー産生量を算出する. M=(0.23R+0.77)×5.86×(60×Vstpd O2)/Ab〔W・m―2〕 ここで,

R=(CO2,1-CO2,0)/(O2,0-O2,1)〔ND〕 O2,0:吸気中の酸素濃度〔%〕 O2,1:呼気中の酸素濃度〔%〕 CO2,0:吸気中の二酸化炭素濃度〔%〕 CO2,1:呼気中の二酸化炭素濃度〔%〕 VstpdO2=(O2,0-O2,1)/100×Vstpd VstpdO2: 標準状態に換算した酸素摂取量 〔ℓ・min–1 Vstpd=Vatps×f Vatps: 気圧PB,気温tasp℃,飽和水蒸気分圧Ptに おける時間当たりの換気量〔ℓ・min–1 f=273.15×(PB-Pt)/[(273.15+tasp)×101.3] ここで, f:0℃,1気圧の標準状態への換算係数〔ND〕 PB:計測された気圧〔kPa〕 Pt:tasp℃における飽和水蒸気分圧〔kPa〕 tasp: ダグラスバッグに採集された呼気量をガス メータで測る時の呼気の温度〔℃〕 Ab:体表面積〔m2〕 ダグラスバッグ法の変法としては,マスクの排気部分 に呼気量カウンタ,酸素濃度,二酸化炭素濃度を測定す るセンサがついており,一呼吸毎にコンピュータで測定 値を記録し,気温や気圧の補正を行って代謝量を算出す るブレスバイブレス方法がある.また,他にもミキシン グチャンバー法やフード法など呼気の採取法の違いによ る測定法がある.マスクにカウンタがついている方法は, 簡便で迅速な測定法であるといえるが,呼気量や呼気の 濃度の変動が激しい時,あるいは,呼吸量が少ない場合 は誤差を生じやすい. 推定法としては,作業名から代謝量を推定する方法, 活動内容から平均的な代謝量を推定する方法,観察から 代謝量を推定する方法,代謝量が心拍数と直線関係にあ ることから,心拍数に基づき被験者の性別,年齢と体重 による補正を行い推定する方法がある. 椅子座安静時の代謝量には従来50 kcal・m–2・h–1とい う欧米人の平均値が用いられ,SI単位に変換されて, 58.1 W・m–2=1 metと定義された.しかし,日本人の椅子 座安静時の代謝量は欧米人の値よりも約2割少ないこと が報告されている.表1に活動内容と代謝量の例を示す. 3-5.心拍数・血圧 心拍数は1分間当たりの心臓の拍動数で,皮膚表面に おいて心電位を計測し,心電位のR-R波の時間間隔から 1分間当たりの拍数に置き換える方法や1分間のR波のパ ルス数を計数する方法がある.測定機器としては,心電 計,テレメトリーやスポーツ用心拍計などを用いる. 安静時には簡便な方法として,単位時間当たりの手首 の脈拍(撓骨動脈)を触診で数える.測定者は被験者の 手首の外側(親指の下方)を人差し指・中指・薬指の3本 の指で触診する. 血圧の測定には,血圧計が用いられ,家庭用などの自 動血圧計とマンシェット(カフ)や圧力計(マノメータ) と加圧ゴム球から成る手動型がある.マンシェットは 上腕動脈にかかるように巻き,マンシェットの下の部 分がひじの2 ~ 3 cm上になるようにするとともに,マ 表1 活動内容と代謝量(ASHRAE4)から一部抜粋)

Tab. 1 Activity and the metabolic rate.

活動内容 W・m–2 met 安静_睡眠 40 0.7 安静_リクライニング 45 0.8 安静_椅子座静 60 1.0 安静_立位 70 1.2 歩行(3.2 km・h–1 115 2.0 歩行(4.3 km・h–1 150 2.6 歩行(6.4 km・h–1 220 3.8 オフィス活動_読書 55 1.0 オフィス活動_執筆 60 1.0 オフィス活動_タイピング 65 1.1 オフィス活動_ファイリング-座位 70 1.2 オフィス活動_ファイリング-立位 80 1.4 オフィス活動_歩き回る 100 1.7 オフィス活動_荷物詰め 120 2.1 車_運転 60 ~ 115 1.0 ~ 2.0 料理 95 ~ 115 1.6 ~ 2.0 掃除 115 ~ 200 2.0 ~ 3.4

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ンシェットと皮膚の間に指が1 ~ 2本入る程度のゆる みをもたせる.手動の場合,聴診器をマンシェットと 皮膚の隙間に挿入し,マンシェットに最高血圧の20 ~ 30 mmHg高い値まで速やかに送気し,上腕動脈の血管音 (コロトコフ音)をモニターしながら一心拍につき2 ~ 3 mmHgの速さで減圧する.減圧の過程で最初にコロト コフ音を聴取できた時点を最高血圧(収縮期血圧),音 の消失した時点を最低血圧(弛緩期血圧)と呼ぶ.平均 血圧は(2×弛緩期血圧+収縮期血圧)/ 3で算出する. 椅子座安静状態における心拍数や血圧の測定はそれほ ど難しくはないが,運動時や睡眠時においては,心臓と の相対的な位置が安静時の腕の位置とは異なるので工夫 が必要である.また,姿勢変化時には動きによる乱れが 生じる場合もある.心拍のR-R間隔測定や血圧の変動か ら自律神経活動を計測する場合には,測定周期を200 Hz 以上にしてデータを収集する必要がある.心拍や血圧は 温熱環境だけではなく,サーカディアンリズムの影響を 受けるので,測定時刻などを記録しておく必要がある.

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.心理反応

4-1.温冷感 温冷感は,人が温熱環境から受ける暑さ寒さの感覚 で,その程度を示す.区分された次の言葉からその時の 感覚に一番近いものを選ぶ. 温冷感申告値とは,温冷感の強度を数値に置き換えた ものであり,ISOでは,以下のうちの-3 ~+3が割り振 られているが,ここでは,空調学会の例を示す. +4 非常に暑い +3 暑い +2 暖かい +1 やや暖かい 0 暑くも寒くもない -1 やや涼しい -2 涼しい -3 寒い -4 非常に寒い 4-2.快適感 人が“快適”か,“不快”かの感覚,及び,その感覚の 程度を示す.温熱環境に対する快適感に限定するために, 熱的快適感ともいう.区分された次の言葉からその時の 感覚に一番近いものを選ぶ. 快適感申告値とは,快適感の強度を数値に置き換えた ものである. +3 非常に快適 +2 快適 +1 やや快適 0 快適でも不快でもない -1 やや不快 -2 不快 -3 非常に不快 4-3.許容度 対象とする温熱環境を受け入れられるか,受け入れら れないかを温冷感や熱的快適感の観点から評価させる. 受け入れられる 受け入れられない 4-4.閾値の測定 人の暑さ寒さの感覚は,皮膚の温度を感じる温度受容 器,求心神経線維を経て脳に伝わり,感覚を生じる.身 体各部位の温覚・冷覚の閾値を調べるには,接触で調べ る場合,プローブを測定対象の部位に当て,中性(温か さも冷たさも感じない)状態になってから,プローブの 温度を上昇または,下降させていき,温かさを感じる, もしくは,冷たさを感じたらスイッチを押すという作業 をさせ,その温度を閾値として求める.

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.着衣量(着衣の断熱性)

ちゃくいりょう 衣量とは着衣している衣服の熱抵抗値を指し,単位 はclo(クロ)が使われる.1 cloとは気温21℃,相対湿度 50%,気流0.1 m/sの室内において椅子座で安静状態に している人が快適である着衣している衣服の熱抵抗であ る7).1 clo=0.155 m2・K・W–1.なおこの際の皮膚の表面 温度は,約33℃である.着衣量はサーマルマネキンを 用いて測る.その場合,裸体状態のサーマルマネキンで 空気の熱抵抗値を測り,衣服を全部着せた時の熱抵抗値 から減じて,着衣の熱抵抗値である着衣量とする.ある いは,個々の衣服の着衣量を表から選び,合計して着衣 全体の着衣量として示す方法もある.また,マネキンで 測った着衣量と衣服の重量との関係式から,着衣量を算 出する方法も用いられる.

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.温熱環境と温熱的快適性の計測

「温熱環境の人への影響」を検討する最終目的は,滞在 者の「温熱的な快適環境」あるいは影響の少ない「中庸

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な温熱環境」を目指すと考えられる.温熱的に快適な状 態とは,生理的には,体温調節のための身体負荷が最も 少なくてすむ状態と考えられ,心理的には熱くも寒くも ない状況のことである.これらを検討するために,3つ のアプローチがあると示唆されている. ①行動的体温調節反応の計測による温熱的快適性の評価 (被験者による快適環境の直接決定) ②実験室実験での生理心理反応の計測による快適環境範 囲の推定 ③実際の生活環境における滞在者の環境評価による快適 環境範囲の推定 これらの手法は,最新機器を使用した計測方法ではな いが,周囲温熱環境と滞在者の温熱的快適性の関連を検 討することができる. 6-1.行動性体温調節反応の計測による温熱的快 適性評価例8) 被験者による快適性の直接決定による解析手法につい て,最近の研究例で解説する.ある温熱環境に被験者を 滞在させ,その生理心理反応を計測して,温熱的に快適 な環境を検討する実験が主ではあるが,我々は日常生活 では,行動的体温調節反応とも言うべき環境調節を行っ ている.行動的調節で調節決定した環境を計測し,生理 的心理的に適切かどうか生理心理反応を計測して検討 する. 図2は高齢者男女(男性31名・平均年齢71.8±SD5.5 歳,女性61名・70.4±3.8歳)が「ちょうどよい」室温に なるように,選択させた気温の値である.決められた着 衣(夏服:0.3 clo)を着用し,28℃に設定された人工気 候室に入室し,実験準備後,30分間椅子座安静状態を保 ち,その後120分間被験者が好きなときに自由に手元の ボタン操作により室温を変更させた120分目の値を累積 で表示したものである.ボタンは室温を上げるボタンと 下げるボタンがあり一度押すと0.5℃ずつ温度変化をさ せることが出来る.被験者には,実験室が入室時に何℃ であるか,ボタンで何℃変化するか,今何℃になってい るかなど,一切の情報は与えられていない.ちょうどよ いと選択された高齢者の選択気温は24.3 ~ 29.3℃の範 囲であり,約5割の高齢者の選択気温は,既往の基準値9) より高い側であった.同様の実験を行った場合の若齢者 の選択気温(男性31名・平均年齢21.7±SD2.0歳,女性 32名・22.1±1.1歳)10 ~ 12)は21.1 ~ 30.1℃の範囲であり, 高齢者の範囲よりも広かった.この結果は高齢者の温熱 感覚が鈍く,気温調節回数が少ない傾向にあるためと判 断された.年代別の平均値は,高齢者は26.9±1.1℃,若 齢者は26.5±1.6℃であり,平均選択気温は高齢者の方が 高く,有意差が認められた. 好む気温別の特徴を検討する為に,選択気温を1℃範 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 累積相対度数 (%) 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 選択気温(℃) ×高齢者 ○若齢者 日本建築学会高齢者熱環境研究会による 住宅熱環境評価基準値'91改定 図2 高齢者と若齢者の選択気温の分布8)

Fig. 2  The distribution of the preferred air temperatures of the elderly and young subjects.

30 31 32 33 34 35 36 24℃ 25℃ 26℃ 27℃ 28℃ 以上 選択気温 皮膚温 手背 足背 (2)手背および足背注)有意差検定*p<0.05 30 31 32 33 34 35 36 24℃ 25℃ 26℃ 27℃ 28℃ 以上 選択気温 皮膚温 前額 (平均値±標準偏差) (1)前額および胸の皮膚温 図3 選択気温時の躯幹部及び末梢部皮膚温8)

Fig. 3  Head and chest skin temperature at the preferred temperature (upper panel). Peripheral skin temperature at the preferred temperature (lower panel).

(8)

囲毎に分け皮膚温や温冷感,血圧,放熱量などの検討を 行った.図3に躯幹部の代表として前額および胸を,末 梢部の代表として手背および足背の皮膚温を選択気温群 別の平均値および標準偏差にて示す.選択気温群により 皮膚温は異なり,前額および胸は気温が低いほど皮膚温 も低くなり,低い選択気温群と高い選択気温群では有意 な差が認められた.末梢部では,手背は選択気温群によ る差は小さかったが,足背は24℃と27℃および28℃以上 と,28℃以上と24 ~ 26℃までの間に有意差が認められ た.これらの結果は青年での被験者にくらべ,躯幹部で は選択気温による皮膚温の低下度が大きく,末梢部では 小さい傾向が認められた.なお,皮膚温や体重減少量か ら放熱量計算を行うと,低い室温の方が放熱量は多くな ると推定された.また,各部位の温冷感は,選択気温に 関わらずほぼ「やや涼しい」~「どちらでもない」の範囲 であったが,24℃において他群より涼しい側が多く,顔 および胸・腹では有意差が認められた. 以上より,低い気温に調節した高齢者被験者の推定放 熱量の多さから,この気温での長期の曝露は放熱過多に よって冷える恐れがあることが考えられた.好ましい温 度としては,25℃以下に調節することは望ましくない事 が示された. 6-2.睡眠時の温熱環境の影響に関する解析例13) 温湿度を調節することが出来る人工気候室で被験者を 設定した温湿度条件に曝露してその生理心理反応を測定 した実験の結果として,冷房環境と暑熱環境での睡眠中 の生理反応の比較による研究例を示す. 睡眠時の温熱的快適性の評価には,皮膚温や体温だけ でなく,温熱環境により睡眠が阻害されていないか,眠 れているかどうかが重要であり,そのため,睡眠を計測 する必要がある.睡眠を計測する方法としては,脳波は 睡眠の深さによって特徴的なパターンを示すので,その 脳波パターンから睡眠深度を分析する.典型的には,脳 波,呼吸,眼球運動(レム睡眠とノンレム睡眠),心電 図などを記録する.睡眠中の寝返りを含む体動は,脳波 測定上は大きなアーチファクトとなる.実際に横になっ ていた時間のうち,寝つくまでの時間や寝ている間の覚 醒時間を除いた実際の睡眠と判定された時間の割合を睡 眠効率(%)という.睡眠効率を算出する際には,体動 は睡眠時間からは除外されるので,体動が多くなると睡 眠効率は低下する. 実験条件は,冷房環境として気温26℃,相対湿度50% (以下,26/50),風速は0.2 m/s以下,暑熱環境として気 温32℃,相対湿度80%(以下,32/80),風速は0.2 m/s 以下で,半袖半ズボンの綿パジャマ(0.2 clo)着用時の 青年男性を被験者とした13).冷房環境では平均皮膚温は 34.5℃であり,直腸温は顕著に低下し,起床前は若干上 昇を示した.一方,暑熱環境では皮膚温が上昇し,平均 皮膚温は36℃を超えた.その結果,直腸温は高いまま 安定し,睡眠中もほとんど低下しない.暑熱環境での 発汗量は冷房時の2倍であった.心拍数は冷房環境では 表2 脳波による睡眠段階の分析 Tab. 2 Sleep stage by EEG analysis.

睡眠段階 国際分類判定基準 StageW ・α波,低振幅速波 覚醒 ・急速眼球運動,高振幅筋電図 StageⅠ ・α波は50%以下,低振幅の種々の 周波数の波が混在,瘤波 ノンレム睡眠 ・遅い眼球運動,筋緊張やや低下 StageⅡ ・低振幅不規則θ ~ δ波,高振幅徐 波なし ・瘤波,紡錘波,K複合 StageⅢ ・2 Hz以下,75 μV以上の徐波20 ~ 50% ・紡錘波は周波数が遅くなり,よ り広範囲に出現 StageⅣ ・2 Hz以下,75 μV以上の徐波50% 以上 ・紡錘波(±) StageREM ・StageⅠと同様だが瘤波はない レム睡眠 ・急速眼球運動と明らかな筋緊張低下 37 36 35 34 33‒1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 Time(h) 平均皮膚温(℃) 26/50 32/80 (1)皮膚温 38 37.5 37 36.5 35.5 36 ‒1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 Time(h) 直腸温(℃) 26/50 32/80 (2)直腸温 80 70 60 50 40 ‒1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 Time(h) 心拍数(拍・分‒1 26/50 32/80 (3)心拍数 80 70 60 50 40 30 20 10 0 26/50 32/80 発汗量(g・m‒2・h‒1 (4)発汗量 図4 睡眠時の生理反応13)

Fig. 4  The effects of thermal environment on the physiological responses during sleep period:(1) mean skin temperature, (2) rectal temperature, (3) heart rate, and (4) sweating rate.

(9)

50拍/分であるが,暑熱環境では60拍/分と約10拍/分 も高かった(図4).睡眠段階は,冷房環境に比べ暑熱環 境において睡眠段階2と4,レム睡眠が有意に短くなり, 覚醒が有意に増加した. その結果,睡眠効率は冷房環境で97%,暑熱環境で 79%となった.これらのことは,暑熱環境は冷房環境に 比べ,発汗量を増やし,直腸温の低下を妨げ,心拍数の低 下を抑制するなど生理負担が大きく,また,深い睡眠や レム睡眠を減少させて睡眠効率を低下させ,睡眠と体温 調節の両方に負担を与えていることを示していた(図5). 6-3.実際の生活環境における生理心理反応14) 実際の家屋や建築物,半屋外などの環境における温的 快適性の検討においては,その環境の温熱環境の把握が 重要である.気温,湿度,気流,放射熱の温熱環境4要 素と人間側の着衣,代謝量を把握する必要があり,総合 的に温熱的快適性を評価する場合は,総合評価指標によ り検討する場合がある. 環境共生型の実験住宅で,青年女性を被験者とし,滞 在者の生理心理反応を検討した研究例を示す.季節変化 の大きい日本で,環境適応能力や温熱履歴の観点から季 節による差を考慮する必要があり,年間を通して計測し たものである.当然,周囲環境は大きく異なる為,室温 を上下分布も計測できるように,0.1 ~ 1.6 mまで0.5 m 間隔で,湿度,気流速度,グローブ温度を座位でのほぼ 中央となる0.6 mで計測した.また,サーモカメラを用い て床や天井,壁などの周囲の温度環境も計測している. 各月における気温の垂直分布の平均値と部位別皮膚温 の平均値を図6に示す.気温の垂直分布は,11 ~ 3月な ど外気温が15℃以下に低下する月は0.6 mと0.1 mの差が 2℃程度あり,足部周辺の気温が低かった.一方,皮膚 温においては,腹など躯幹部皮膚温は季節による差は小 さかったが,手背や足背等末梢部皮膚温は室温が20℃を 下回る冬期の11,1月は他月よりも低く,皮膚温の部位 差が顕著であった. 代謝量を1 Metとし,計測した温熱4要素と着衣量か ら求めたSET*と平均皮膚温の関係で検討する(図7) と,概ね平均皮膚温33 ~ 36℃の範囲内に収まっており, SET*が高いと皮膚温も高い傾向にあり,強い相関関係 が認められた.しかし,SET*が低いほど実験月の違い による平均皮膚温の差が大きくなり,特に,冬期が低く なった.これは末梢部皮膚温の冷えの影響によるもので, 60 50 40 30 20 10 0 ■ 26/50 □ 32/80 Stage

W* StageⅠ StageⅡ* StageⅢ StageⅣ* REM*Stage 睡眠深度の割合(%)

図5 睡眠深度割合による評価13)

Fig. 5  The effects of thermal environment on the percentage of sleep stage. 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 10 14 18 22 26 30 気温(℃) 床高(m) 07年9月 07年10月 07年11月 08年1月 08年3月 08年5月 08年8月 (1)室温 07年8月 07年9月 07年10月 07年11月 08年1月 08年3月 08年5月 08年8月 24 26 28 30 32 34 36 38 皮膚温(℃) 前額 前腕 手背 大腿 下腿 足背 (2)部位皮膚温 図6 室温の垂直分布と部位別皮膚温14)

Fig. 6  (1) Vertical distributions of air temperature and (2) variations of skin temperature at the local sites when the field measurements were done in order to investigate seasonal variations in a year round experiment.

07年8月 08年1月 07年8月 (y=0.02x+34.83)R=0.10 07年10月 (y=0.29x+26.53)R=0.81*** 08年1月 (y=0.32x+24.72)R=0.73*** 08年5月 (y=0.23x+28.54)R=0.44*** 07年9月 08年3月 07年10月08年5月 07年9月 (y=0.28x+27.04)R=0.84*** 07年11月 (y=0.38x+23.45)R=0.74*** 08年3月 (y=0.31x+25.62)R=0.62*** 08年8月 (y=0.17x+29.96)R=0.81*** 07年11月 08年8月 37 35 33 31 29 18 22 26 30 34 38 SET*(℃) 平均皮膚温 図7 SET*と平均皮膚温の関係14)

Fig. 7  The relationship between SET* and men skin

(10)

平均皮膚温に影響し,季節差が認められた. 図8に温冷感と快適感の関係を季節別に示している. 円の面積は人数とし,温冷感と快適感の関係(季節比 較)の散布図から得られた回帰曲線を併せて示した.夏 期は「涼しい」ほど,冬期は「暖かい」ほど,快適側に 評価された.中間期は冬期と同様の傾向にあったが冬期 より相関が弱かった.最も快適側評価が得られたのは, 夏期は「涼しい」時,「冬期」「中間期」は「暖かい」時で あった.このように,温熱的な快適さと「暖かさ」「寒さ」 に相当する温冷感との関係は,季節により異なることが 示された.

7

.温熱環境に関する計測と研究の展望

温熱環境と人体への影響として温熱生理・心理反応を 測定するための方法とその測定法を用いた人間工学分野 の応用例を紹介した. 今後の人間工学分野における温熱環境に関する研究と しては,以下のような課題が考えられる. (1)人間の行動に相応しい温熱環境の探求 人間の行動・知的生産性に着目し,オフィスや学校等 での知的生産性や知識創造性の向上を目的として,作業 パフォーマンスの計測15)や,脳血流量などを計測する研 究16)など,疲労感や自覚症調べ,疲労等の計測によっ て,人間の行動にとって適切な温熱環境を探求すべきで ある.一方的なエネルギー節約ではなく,知的生産性や 労働の質と経済性を合理的に機能させる温熱環境の解明 を目指す必要があろう. (2)不均一,非定常環境の計測 日常生活において温熱環境は常に変化している.その ため,人体への影響についても,それ以前の温熱環境や 生活行動などの履歴の影響を無視できない.その時の影 響だけを計測し評価するのではなく,そういった温熱環 境や生活行動のヒステリシスや時間遅れの影響などを考 慮し,経時的な計測をおこない検討する必要がある. (3)屋外・半屋外温熱環境の検討 屋外環境では,気流速度の変化が大きく,日射による 熱放射の影響が大きいため,環境計測に注意を要する. また,夏の日射熱は人体にあたると,大きな熱負荷とな る.室内環境は屋外気候の影響を受け,また,人の生活 の連続性を考えると屋外や半屋外環境の影響を無視でき ないので,今後さらにデータ収集等が必要であろう. (4)気候風土・季節適応や社会情勢の考慮 地球環境やエネルギー問題を考えると,エネルギーを 使って室内温熱環境を常にある一定条件に維持すること を目指すのは得策ではない.気候風土にあった建築物や 人の季節適応への考慮が必要となり,積極的に季節に順 化する方策を探り,一日のうちでもサーカディアンリズ ムを考慮することが望ましい.これらの計測にはかなり 長期の計測や広範な要因の検討が求められる. エネルギーを節約する意識が高まるあまりに,我慢を 強いられる生活はストレスがかかる.しかし,快適な環 境下で長期にわたり生活し続けると,暑熱環境下での発 汗の減弱や寒冷環境下での耐寒性の低下などの体温調節 反応を伴う生理機能を損なうという懸念もある.快適性 を追求するだけでなく,健康やエネルギー消費とのバラ ンスなど,検討すべき課題が残されている. 参考文献 1) 室内温熱環境測定規準・同解説AIJES-H002-2008, 日 本建築学会, 東京, 2008 2) 温熱心理・生理測定法規準・同解説AIJES-H0004- 2014, 日本建築学会, 東京, 2014

3) ISO 7730:2005 Ergonomics of the thermal environment - Analytical determination and interpretation of thermal comfort using calculation of the PMV and PPD indices and local thermal comfort, Geneva, 2005

4) ASHRAE Handbook of Fundamentals, 9.14, US, 2013 5) ISO 14505-2:2006 Ergonomics of the thermal environment

- Evaluation of thermal environments in vehicles - Part 2: Determination of Equivalent Temperature, Geneva, 2006 6) ISO 9886:2004 Ergonomics of the thermal environment

- Evaluation of thermal strain by physiological measurements,

夏 期:(y=-0.10x2+0.57x+1.26)R=0.80*** 中間期:(y=-0.02x2+0.53x-1.30)R=0.65*** 冬 期:(y=0.74x+0.18) R=0.84*** 全 月:(y=-0.26x2+0.13x+1.12)R=0.64*** 夏期 冬期 中間期 温冷感 快適感 ‒4 ‒3 ‒2 ‒1非常に寒い 寒い 涼しい やや涼しい 0中性 1やや暖かい 2暖かい 3暑い 4非常に暑い 非常に不快 不快 やや不快 どちらでもない やや快適 快適 非常に快適 ‒3 ‒2 ‒1 0 1 2 3 図8 温冷感と快適感の関係14)

Fig. 8  Relationship between thermal sensation and comfort sensation.

(11)

Geneva, 2004

7) ISO 9920:2007 Ergonomics of the thermal environment - Estimation of the thermal insulation and evaporative resistance of a clothing ensemble, Geneva, 2007

8) 佐々尚美, 久保博子, 他:高齢者の選択気温からみた 心理生理反応特性, 日本建築学会環境系論文集, 75(655), 815-820, 2012 9) 川島美勝, 編著:高齢者の住宅熱環境, p.239, 理工学 社, 1994 10) 佐々尚美, 久保博子, 他:夏期に好まれる気温の個人 差に関する研究, 日本建築学会計画系論文集, 第531号, 31-35, 2000 11) 佐々尚美, 久保博子, 他:高齢者の選択気温からみた 心理生理反応特性, 日本建築学会環境系論文集, No.655, 815-820, 2010 12) 水田祐美子, 久保博子, 他:夏期における至適温熱環 境に関する研究, 空気調和・衛生工学会, 平成19年(2), 1271-1274, 2007

13) Tsuzuki K, Okamoto-Mizuno K, et al: Effects of humid heat exposure on human sleep stage, melatonin secretion and thermoregulation during nocturnal sleep, Journal of Thermal Biology, 29, 31-36, 2004 14) 安岡絢子, 久保博子, 他:住空間における生理心理反 応からみた温熱的快適範囲の季節差に関する研究, 日本 建築学会環境系論文集, 77(663), 479-484, 2011 15) 金子隆昌, 伊香賀俊治, 他:学習環境におけるプロダ クティビティ向上に関する研究, 日本建築学会環境系論 文集, 611, 45-52, 2007 16) 西原直枝, 田辺新一:中等度の高温環境下における知 的生産性に関する被験者実験, 日本建築学会環境系論文 集, 568, 33-39, 2003 著者情報 都築和代(つづきかずよ) 1990年奈良女子大学大学院人間文化研究科生活環境学専攻修 了,学術博士.日本学術振興会特別研究員(PD),工業技術 院 製品科学研究所研究員,カリフォルニア大学バークレー校 リサーチスペシャリスト等をへて,2005年より産業技術総合 研究所研究グループ長.専門領域:環境人間工学,建築環境 工学ほか.日本建築学会,日本家政学会,人間-生活環境系 学会など会員. 連絡先:k.tsuzuki@aist.go.jp 久保博子(くぼひろこ,正会員,連絡著者) 奈良女子大学大学院家政学研究科修了,博士(学術),奈良 女子大学家政学部住居学科助手,生活環境学部准教授をへて, 2014年より奈良女子大学生活環境学部教授.専門領域:住環 境工学,温熱環境の人体影響,環境人間工学.日本人間工学 会,日本建築学会,日本家政学会,人間-生活環境系学会な ど会員 連絡先:h-kubo@cc.nara-wu.ac.jp

Fig. 1 Measurement sites of local skin temperature.
Fig. 2  The distribution of the preferred air temperatures of  the elderly and young subjects.
Fig. 4  The  effects  of  thermal  environment  on  the  physiological responses during sleep period:(1) mean  skin  temperature, (2) rectal  temperature, (3) heart  rate, and (4) sweating rate.
Fig. 6  (1) Vertical distributions of air temperature and (2)  variations of skin temperature at the local sites when  the field measurements were done in order to investigate  seasonal variations in a year round experiment.
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参照

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