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(1)

1 耐震工学研究会(青葉山) 2014 年 12 月 20 日

米国と日本における建物の耐震性能評価手法

柴田 明徳 1. 米国の耐震基準における非線形応答の評価手法 1.1 近年の経緯と性能型耐震設計法 1994 年のノースリッジ地震は米国の構造技術者にとって衝撃であった。高速道路橋の崩壊、RC 建物の柱せん断破壊などを目の当たりにして、新しい耐震設計・地震工学の方法が必要であることが 痛感された。そして、Performance-Based Seismic Design(PBSD、性能耐震設計法)や Performance Based Seismic Engineering(PBSE、性能地震工学)の思想が、カリフォルニア構造技術者協会 (SEAOC)、カリフォルニア大学バークレイ、スタンフォード大学、緊急事態管理庁(FEMA)などにお いて精力的に検討された。それらの結果は1995 年から 2000 年初めにかけて相次いで発表された。

Performance Based Seismic Design(以下、PBSDと記す)では、地震の様々なレベル(Hazard Level) に対して、建物に予想される損傷レベル-性能レベル-(Performance Level)が規定される。この性 能レベルは、建物の用途、重要性によって異なる。 そして、様々な地震動のレベルに対する建物の挙動を定量的に評価し、適切な応答指標パラメータ ーによってその耐震性能レベルを判断する。従って、建物の弾性域から弾塑性域にわたる応答性状を 求めるための適切な解析・評価手法が必要になる。 この応答評価法については、これまで様々な方法が提示されているが、その中の一つであるCapacity Spectrum Method (CSM)は、日本の限界耐力計算と類似の、等価線形化法に基づく手法であり、PBSD で用いることが出来る単純で有力な近似解析手法である。 CSM では、応答スペクトルを縦軸に加速度、横軸に変位をとった加速度-変位応答スペクトル (Acceleration-Displacement Response Spectra, ADRS)で表し、これに等価 1 自由度系の耐力-変形 曲線を重ねて、耐震性を検討する。(建築基準法の限界耐力計算では必ずしも ADRS を使う必要は無 いので、基準法にはこれに関する直接の言及はない。)

以下、米国のいくつかの文献におけるPBSD と CSM の取り扱いを見てみよう。

1)1995 年の SEAOC Vision 2000 Committee 報告書,“Performance Based Seismic Engineering of Buildings” は、全編が PBSD 志向である1)

Part 1 で様々な耐震設計法がレビューされているが、その中の U.S. Army(Army, Navy, Air Force) の基準(1986)に、CPM の手法が取り上げられている(旧い形式)。

Part 1, Appendix A, Summary of Standard Methodologies

Seismic Design Guidelines for Essential Buildings (Tri-Services) 1986 Analytical Procedures

Response Spectrum Modal Analysis (RSA) Inelastic Demand Ratio Method (IDR)

Capacity Spectrum Method (CSM) (Sa vs. T is plotted instead of Sa vs. Sd.) また、Part 2 の、解析手法の検討の中で取り上げられている。

(2)

2

Part 2, 4. Acceptability Analysis for Performance Based Design 4.4 Capacity Spectrum Method

その中で、disadvantages of procedures として、弾性解析法より面倒で、理論的根拠が明確でない、 と述べている。

基本文献としては、Freeman らの論文5)、Mahaney らの論文6)が挙げられている。

なお、Part 3 では、ノースリッジ地震の被害の詳細な検討が行われている。その記録の応答スペク トルのADRS 表現を参考のために載せておく。(図 1.1)

2)1996 年の Applied Technology Council,“Seismic Evaluation and Retrofit of Concrete Buildings” (ATC 40) は、カリフォルニア州の the State of California Proposition 122 の報告書で、RC 建物の耐 震診断と耐震改修のためのガイドラインである 2)。ここでは、性能評価法として、ADRS を用いた等 価線形化手法のCSM が大きく取り上げられている。

Chapter 8, Nonlinear Static Analysis Procedure に、CSM の詳しい説明がある。これについては、 後でまた触れる(1.2 項)。

なお、この報告の8.4.2 Other Nonlinear Methods of Analysis のなかに、8.4.2.1 Secant Method が 紹介されている。これは、City of Los Angeles Proposed Division 95 document (タイトル: “Earthquake Hazard Reduction in Existing Reinforced Concrete Buildings and Concrete Frame Buildings with Masonry Infill (COLA 1995)”)に示されている設計法である。

この方法はSozen and others (Shibata and Sozen 1976) の substitute structure 法7)に準拠してい る、とのコメンタリーがある。

3)SEAOC の 1999 年”Blue Book (Recommended Lateral Force Requirements and Commentary) “においては、Appendix で、PBSD 及び Displacement-Based Design and Analysis Procedures の説 明が詳しくなされている3)

Appendix G, Conceptual Framework for Performance Based Seismic Design PBSD の概要が述べられていて、全体が把握しやすい。

その中のVerification analysis procedures には次のような種類が示されている。 図1.1

(3)

3 General Elastic Analysis Procedures

Component-Based Elastic Analysis Procedures Capacity Spectrum Procedures

Pushover Analysis Procedures

Dynamic Nonlinear Time History Analysis Procedures Drift Demand Spectrum Procedures

Appendix I, Tentative Guidelines of Performance-Based Seismic Engineering, Part B, Force Displacement Approach

PBSE における設計と解析の手法の説明が述べられている。図 1.2 は、地震動レベルと建物の性能 レベルの関係図である。この形式は、Vision 2000 で示されたものである。

図1.2

(4)

4

建物の性能レベルと、塑性変形の程度との概念的な対応を図1.3 に示す。

地震動はEQ-I~EQ-IV の 4 種で(表 1.1)、それぞれの応答スペクトルが、Sa-T 及び Sa-Sd の形で 定義されている。図 1.4 にEQ-IV(極めて稀な地震に対応)の Sa-Sd スペクトル(ADRS)の例を示す。 SA~SE の 5 種は soil type である。

次に、PBSE の Conceptual Design の所で、骨組に対する変位制限が示されている(表 1.2)。また、 塑性率の要求値と、対応する減衰定数も示されている(表 1.3 及び表 1.4)。いずれも、工学的判断に よるものであろう。この様な数値が与えられていれば、次の設計あるいは評価の段階へ進むことが出 来る。以下にそれらの表を示す。 図1.4 図1.3-2 表1.1

(5)

5 表1.2

(6)

6

また、応答スペクトルの減衰による低減式が示されている。加速度一定域、速度一定域、変位一定 域に対して、それぞれ異なる式が与えられている。図1.5 に、加速度一定及び速度一定域の式を示す。 (日本では1 つのみ。)

設計手法(displacement-based design)としては、direct displacement-based design procedure (DBD)と、equal-displacement-based design procedure (EBD)の2つが示されている。また、評価手 法(verification procedure for preliminary design)としては、verification analysis using nonlinear static pushover procedures(CSM もその一つ)を用いる、としている。

表1.4

(7)

7 DBD の手法は、Priestley、Kowalsky らの提案によるものである8)。しかし、DBD はまだ開発中で あり、他の方法を使う方が良いかもしれないと述べている。しかし、興味深い新しい方法なので、こ こで簡単に紹介しておく。(なお、EBD は従来よく使われている変位一定則の手法。) 図1.6 は、DBD と EBD の概念図である。 図1.7 は、DBD の説明で、多層骨組を 1 自由度系に置き換え(a)、系の塑性率(b)(→等価減衰定数) と目標変形を仮定して(c)、減衰変位応答スペクトルから等価周期を出し(c)、等価剛性と目標変形から 設計せん断力を求める(d)(overstrength factor 考慮)。これには前の表 1.2 から表 1.4 をそのまま利用 する。設計せん断力から(e)、予備設計を行い、断面を決める(f)。 得られた設計骨組は、pushover analysis で検証する必要がある(変形、部分塑性率などの要求条件 の検証。この時、CSM が用いられる。)。修正を繰り返して、最終的に要求条件を満たす適切な骨組と する。 即ち、design と analysis の両方の procedure の繰り返しが必要である。降伏断面の設計では、 強度と共に、必要なじん性が確保される必要がある。また、降伏しない部分の部材は、降伏断面の耐 力上昇を考慮した余剰耐力を持つようにする必要がある。

図1.7-1 図1.6

(8)

8 DBD の手法は、構造物に許容し得る全体塑性率及び変形量(通常は固有周期)を想定して、設計せ ん断力を定める方法である。その中には、塑性率と等価周期の関係、塑性率と等価減衰の関係、及び 応答スペクトルの減衰低減の 3 つの関係式が、等価線形化法の考え方の下に組み込まれている。弾塑 性応答の一般的性質も自動的に考慮されている。 なお、島崎和司は、1999 年の論文で、等価周期と塑性率、等価減衰と塑性率、応答スペクトルの減 衰低減(これが単純な式なのが強み)の 3 つの関係を、Shibata-Sozen の論文を参照して定め、等価 線形化法を適用して、固有周期範囲を考慮した塑性率とDs 値の関係を求めている9)。また、等価減衰 と塑性率の関係式に係数を設定して、その影響も調べている。基準法のDs 値が固有周期に無関係であ るのに対し、この方法は、短周期域でエネルギー一定、中・長周期で変位一定という弾塑性応答の一 般的性質を、統一的な形で反映することが出来る。 建築基準法の限界耐力計算で用いられている諸式を用いれば、同様の誘導が可能であり、構造設計 者の考え方を設計行為に反映するための、有用な手段を得ることが出来よう。 図1.7-3 図1.7-2

(9)

9

4 ) Bozorgnia, Bertero, “Earthquake Engineering: From Engineering Seismology to Performance-Based Engineering”, CRC Press, 2004

ノースリッジ地震の後、米国のPerformance Based Earthquake Engineering の研究は大きく進展 し、地震から10 年後の 2004 年にはこの本が出版された10)。性能地震工学の広範な諸問題に関する論 文19 編から成り、1000 頁の大冊である。監修者のバークレイ Bertero 教授は 1923 年生れで、アルゼ ンチン訛りの英語が魅力的な、地震工学の大家である(Vision2000 に多数の論文)。また、Bozorgnia 教授は、イランのSharif University of Technology から UC Berkeley に進み、現在 PEER (Pacific Earthquake Engineering Center)の executive director、バークレイの adjunct professor でもある。 彼の博士論文のテーマは、等価線形化法である。(Linearization methods in earthquake analysis and design of hysteretic structural systems, UC Berkeley, Ph.D. Dissertation, 1981)

RC 関係はパーデューSozen 教授が担当、機智と逆説と諧謔の文章である。

スタンフォード Krawinkler 教授・Miranda 准教授の性能地震工学に関する概説の論文では、ここ で取り上げたVision2000、ATC40 など多くのガイドラインの総括がなされており、最近の新たな手法 の発展についても触れている11)他

日本からは和田章教授がInnovative strategies の所、中島正愛教授が Steel Brace の所に寄稿して いる。

また、地震工学の発展史が最初の章にあり、参考になる。(Bertero, Bozorgnia)

5) FEMA440, “Improvement of Nonlinear Static Seismic Analysis Procedures”, Applied Technology Council (ATC-55 Project), 2005

この報告では、様々な非線形応答の略算法の詳しい検討と改善への提案がなされている。

5. Improved Procedures for Equivalent Linearization における検討は、ATC-40 の Capacity Spectrum Method と応用上は類似のものである。

6)”SEAOC Blue Book, Seismic Design Commentary, 2009”

この新版は、前の 1999 年 Blue Book 第 7 版とはかなり異なる構成になり、耐震設計の諸問題に関 する31 編のサーベイ論文から成る。

その中で、Seismic Force-Resisting Systems の Analysis Procedures の項に、Nonlinear Static Procedures(プッシュオーバー解析に基づいて、骨組の地震応答を略算する方法)の解説があり、代 表的なものとして、Capacity Spectrum Method と Displacement Coefficient Method を挙げている。 その後の諸手法の発展やガイドラインの変遷についても、概観がなされている。

(10)

10 1.2 Capacity Spectrum Method

Capacity Spectrum Method(CSM)は、フリーマン Sigmund A. Freeman によって提唱された、非 線形地震応答の簡易評価法である。基本的には等価線形化法の考え方を用いている。フリーマンは1955 年にバークレイの土木、37 年に修士を出て、WJE(Wiss, Janney, Wilstner Associates)で現在 senior principal の地位にある。長い間構造技術者として活躍し、多くの耐震関係の委員会の委員を務めてい る。

1975 年の最初の論文は、Puget Sound Naval Shipyard の多数の建物の耐震性を簡略に評価する方 法を提示したものである4)CSM の特徴は、加速度-変位応答スペクトル(SA-SDスペクトル、ADRS) を使うことで、このスペクトルに静的増分解析(プッシュオーバー解析)から求めた建物の非線形復 元力特性(Capacity Curve)を重ねて、非線形応答の推定を行う。塑性化の程度と減衰の関係は、当 初は初期5%、塑性域で 10%程度の仮定であった。

1996 年の ATC 40, Seismic Evaluation and Retrofit of Concrete Buildings では、評価法として CSM が全面的に採用されている 4)。そこでは、減衰と塑性率の関係式として3 種類を検討しており、 それまでに比べて理論的にかなり進んでいる。以下は、ATC 40 による。 まず、プッシュオーバー曲線を求め、SA-SD平面上で、等価な1 自由度系の力(加速度)-変形関係 に置き換える。これを性能スペクトルあるいは耐力スペクトル(capacity spectrum)と呼んでいる。 1 自由度置換の方法は、限界耐力計算(後述)と同様なので、ここでは省略する。これをバイリニアー に置き換えるには、図1.8 のようにする。 等価周期は次式で表される。 図1.8 図1.6-1

2

pi pi

d

T

a

(1.1)

(11)

11 等価減衰定数は次の様に表される。 ここに、 よって、 0 0 0

0.05

1

4

eq D S

E

E

2 0

/ 2

S pi pi eff pi

E

a d

k d

4 (

)

4(

)

D y pi y pi

E

shaded area

a d

d a

 

0

4(

)

0.637(

)

1

4

/ 2

y pi y pi y pi y pi pi pi pi pi

a d

d a

a d

d a

a d

a d

図1.9 図1.10

(1.2)

(1.3)

(1.5)

(1.4)

(12)

12 等価減衰定数は、βを%で表せば次の様になる。 さらに、減衰の程度・効果を著す修正係数κ を考慮して、 修正係数は、3 種類を考える。Type A は、履歴減衰が十分に見込める場合で、κ=1.0 とする。Type B 及び Type C は、あまり履歴減衰が多くない場合及びごく少ない場合で、それぞれ κ=2/3 及び κ=1/3 とする。 応答スペクトルの減衰による低減率(SR=S(β)/S(2%))は、加速度一定領域(短周期)及び速度一定 領域(中・長周期)に対して、それぞれ次式で与えられる。(原典を調べたい。) この2 つの式は、いずれもβ(%)が 5 で 1.0 となる。図 1.5 にこれらの式が図示されている。 以上の諸式が与えられれば、SA-SD平面上の減衰応答スペクトル(demand spectrum)と性能スペクト ル(capacity spectrum)の交点から、応答点が推定される。ここに、demand spectrum とは、想定した 最大変形点での減衰に対応する応答スペクトルである。

最大応答点は本来未知量であるから、最初は capacity spectrum 上の仮定点から出発して、それに より求めた減衰値に相当するdemand spectrum と capacity spectrum の交点を求め、それが仮定点と 一致するまで、繰り返し探索を続ける。図1.11 を参照されたい。原報告2)では、図上推定など3 つの 探索方法を示している。プラスマイナス5%位の誤差は許容としている。(後述の限界耐力計算なら、 数回の補間計算を行えば、大体の値は求まる。)

63.7(

)

5

y pi y pi eq pi pi

a d

d a

a d

63.7 (

)

5

y pi y pi eff pi pi

a d

d a

a d

3.21 0.68ln(

)

2.12

eff A

SR

2.31 0.41ln(

)

1.65

eff V

SR

図1.11

(1.6)

(1.7)

(1.9)

(1.8)

(13)

13 なお、FEMA440(2005)の報告12)では、以上の諸式を、塑性率μを用いて書き換えている。この方が分 かり易い。以下にその諸式を示す。αは塑性域剛性/初期剛性である。 フリーマンは、CSM の歴史を振り返った興味深い論文(2004)13)の中で、学者が関与すると、基準 が煩瑣になりすぎると言っている。図1.12 は、その論文の最後の図である。 0

1

eq

T

T

 

2 (

1)(1

)

0.05

(1

)

eff

 

 

3.21 0.68ln(100

)

2.12

eff A

SR

2.31 0.41ln(100

)

1.65

eff V

SR

図1.12

(1.10)

(1.11)

(1.13)

(1.12)

(14)

14 2 日本の建築基準法における限界耐力計算の導入 2.1 阪神淡路大震災以後の経緯 1995 年阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)は建築構造に甚大な被害を与え、耐震構造の分野におけ る様々な変革のきっかけとなった。その一つが、構造設計における性能規定の考え方の採用である。 性能規定型の構造設計体系については、以前から建設省において検討が進められていたが、この地 震の後 1995 年に建設省総合技術開発プロジェクト「新建築構造体系の開発」(3 ヶ年計画)が開始さ れ、1998 年に報告書が刊行された。 米国では、1989 年ロマプリエタ地震や 1994 年ノースリッジ地震の構造被害の経験に基づいて、性 能規定型耐震設計法の開発が進められた。1995 年には SEAOC(カリフォルニア構造技術者協会)の Vision 2000 Committee の報告書が発表され、わが国の法改正にも大きな影響を与えた1) 1995 年に、政府の建築審議会は建設大臣の諮問を受け、成長型から成熟型への経済社会の変化に対 応し、阪神淡路大震災の課題を踏まえた新しい建築行政体系に関する検討を始め、1997 年に建築単体 から都市・住宅分野まで多岐にわたる内容の報告書をまとめた。その中で建築構造に関係する内容は、 建築基準の性能規定化、確認検査における民間機関の活用、工事管理・検査制度の見直し、建築士責 任の明確化などである。また、1996 年の日米首脳会談の結果、日本政府は貿易摩擦の緩和及び非関税 障壁の撤廃のために、住宅分野の規制緩和を行い、建築基準を性能規定化することを約束した。 この様な背景のもとで、1998 年には、性能規定による規制緩和、国際調和、安全性の一層の確保、 土地の合理的利用などの要請に対応した建築基準法の改正が行われた。 1999 年には住宅性能表示制度(耐震等級の導入)や瑕疵担保責任などの内容を含む住宅の品質確保 の促進等に関する法律が定められた。 2000 年には、建築基準法改正・告示等により、性能規定の具体的な内容が示され、ここで限界耐力 計算の実際的な方法が基準法の中に定められた18)。限界耐力計算は、等価線形化法の考え方に基づき、 建物の 1 自由度置換モデルの等価耐力-等価変形の関係を定め、限界変形時に対応する地震力(要求 耐力)が建物の保有する限界耐力を超えないことを確かめる、という手順になっている。 また、2000 年には免震建築物に関する告示が示され、2005 年にはエネルギー法が限界耐力計算と 同等以上の方法として建築基準法に採り入れられた。 日本建築学会は2000 年の建築学会大会の研究協議会で「耐震メニュー」案を提示し、性能設計の視 点から、構造躯体だけでなく非構造部材や設備も含めた建物の総合的な目標耐震性能設定の考え方を 示した17) その後、2005 年に耐震偽装事件が発覚し、大きな社会問題となった。この事件を受けて、2007 年 に建築基準法が改正され、構造計算に関する諸規定が厳格化された。保有水平耐力計算や限界耐力計 算の諸規定についても改訂がなされた 19)。また構造計算適合判定制度が出来て、ある範囲の建築物に ついては構造計算の確認を異なる機関で二重に審査することになった。2008 年には建築士法の改正で、 構造一級建築士と設備一級建築士の制度が出来た。 性能設計法を意図した限界耐力計算は、一般になじみの少ない振動論を直接用いており、また偽装 事件の影響もあって、これまであまり普及していない。今後の研究・検討により、限界耐力計算など の様々な性能設計型手法の活用が進むことが期待される。 2.2 限界耐力計算の考え方 建物の耐震設計では、想定する地震動に対して、建物がどのような程度の被害を受けるかを目標と

(15)

15 して定める必要がある。建築基準法では、次の様に定められている。 ①稀に発生する地震動に対して建築物の地上部分が損傷しないことを確かめること。 ②極めて稀に発生する地震動に対して、建築物の地上部分が倒壊・崩壊しないことを確 かめること。 限界耐力計算では、稀に発生する地震(中地震)及び極めて稀に発生する地震(大地震)に対し、 建物骨組がそれぞれ損傷限界状態及び安全限界状態を越えないことを、耐震性能の目標としている。 ここに、①損傷限界状態は、骨組各部ですべて短期許容応力度を超えない状態、②安全限界状態は、 各部材がすべて許容し得る限界の塑性変形以内にとどまっている状態、である。 建物骨組は既知であり、各部材の剛性・強度特性に基づいて、静的増分解析により、弾性及び弾塑 性域における各層の力-変形関係が算定出来るものとする。 損傷限界状態及び安全限界状態に対する地震力のレベルはほぼ新耐震設計法の 1 次設計地震力及び 保有耐力検討用地震力と同等であり、加速度応答スペクトルの形で示される。 限界耐力計算は、限界状態の確認のために等価線形化法を用いていることが特徴である。即ち、「大 地震に対する構造物の弾塑性応答の最大値は、最大変形に応じて定まる等価剛性と等価減衰を有する 等価線形系の応答にほぼ等しい」と考え、骨組全体を 1 自由度系に置換し、応答スペクトルを用いて 最大応答の推定を行い、耐震安全性を確認する。 以下、限界耐力計算の基礎的な内容を、順を追って説明する。 2.3 想定地震動の加速度スペクトル 限界耐力計算においては、損傷限界検討用の地震力および安全限界検討用の地震力を定めるための 加速度スペクトルは、5%の減衰定数に対して次式のように定められている。これは、ほぼ従来の新耐 震設計法における中地震及び大地震時の地震力に相当するレベルである。T=0 の時の相当加速度を地 動加速度と考えれば、工学基盤では損傷時 64gal、安全時 320gal、表層地盤増幅を考慮した場合(× 1.5)は損傷限界時 96gal、安全限界時時 480gal となる。これは、おおよそ平均再現期間でそれぞれ損 傷時50 年、安全時 500 年程度の地震に相当するだろう。 なお、ここでは、理解の便宜のため、建設地点での地震力を表わす加速度スペクトルSAを、工学基 盤における加速度スペクトル S0と地域係数Z 及び地盤増幅係数 Gsの積の形で表わす。損傷限界及び 安全限界は下付きのd 及びsで表す。 損傷限界検討用加速度スペクトル 安全限界検討用加速度スペクトル 0 0

( )

(2.3)

3.2 30

0.16sec

8

0.16

0.64

(2.4)

5.12 /

0.64

As s s

S

T

S Z Gs

T

T

S

Ts

T

T

0 0

( )

(2.1)

0.64 6

0.16sec

1.6

0.16

0.64

(2.2)

1.024 /

0.64

Ad d d

S

T

S

Z Gs

T

T

S

Ts

T

T

(16)

16 ここに、Ts :固有周期(単位 sec) Z :地震地域係数 Gs :表層地盤による加速度増幅率(表層地盤の種類に応じて算出) S0d, S0s :損傷及び安全限界検討用基盤加速度応答スペクトル(単位 m/sec2) SAd, SAs :損傷及び安全限界検討用表層地盤加速度応答スペクトル(単位 m/sec2) 表層地盤増幅率Gsは、地盤種別に応じて次の様に与えられる。 第1 種地盤 第2 種、第 3 種地盤 Gsを図示すると、次のようになる。 表層地盤倍率を考慮した安全限界加速度応答スペクトルSAsは次のようになる(Z=1)。

1.5

0.576

0.684 /

0.576

0.64

1.35

0.64

s

T

s

G

T

T

T

 

1.5

0.64

1.5( / 0.64)

0.64

s u u

T

s

G

T

T T

gv

T T

 

0.64(

/1.5)

2.025 (

0.864 )

2.7 (

1.152 )

u u u

T

gv

T

s

gv

T

s

 

(2.5)

(2.6)

図2.1

(17)

17 最大応答加速度は地盤種別に関係なく12m/s2である。加速度一定領域に入る周期はどの地盤を同じ で、0.16s である。速度一定領域に入る点の周期は地盤種別により異なり、第 1 種地盤で 0.576s、第 2 種地盤で0.864s、第 3 種地盤で 1.152s である。地動加速度(T=0)はいずれの地盤も 4.8m/s2である。 これを式で表すと、次のようになる。 なお、損傷限界応答スペクトルは上式の1/5 の値となる。 また、工学基盤上の等価な1層表層地盤によるGs の算定法が施行令に示されている。地盤の剛性、 減衰のひずみ依存性が考慮される。告示の中に、砂、粘土地盤に対するせん断剛性の低減係数及び減 衰定数がひずみの関数として数表で示されている。増幅率の下限値は損傷限界時で第1 種 1.35、第 2・ 3 種 1.5、安全限界時で第 1 種 1.0、第 2・3 種は 1.2 である。また、建物と地盤の相互作用を考慮して 地震力を低減できる。 また、弾性波速度の実測に基づいてGs を精算する場合は、それに依ってもよい。 2.4 加速度分布係数 損傷及び安全限界状態において、建物の各階に作用する水平力を定める加速度の分布係数Biは、そ れぞれの限界状態時の変形分布に基づき、限界固有周期に応じた刺激関数によって計算し、これに後 述のp 及び q を乗じた値を用いる、としている。 外力分布を定めるための加速度分布は、次の 2 つの段階で必要とされる。即ち、①設計された骨組 2

4.8 45

0.16

( /

)

12

0.16

/

As B B

T

T

s

S

m s

T T

B T

T T

 

1 2 3

0.576

( )

0.864

1.152

B

T s

 

(第 種) (第 種) (第 種) 1 2 3

1.35 5.12 6.912

2.025 5.12 10.368

2.7 5.12 13.824

B

(第 種) (第 種) (第 種)

(2.7)

図2.2

(18)

18 の損傷及び安全限界時における耐力(保有耐力)と限界変形を定めるための静的増分解析を行う段階、 及び②損傷及び安全限界状態において骨組に作用する地震力(要求耐力)を想定地震加速度応答スペ クトルに基づいて求める段階、である。 各限界状態の変形分布を求めるには外力分布を想定する必要があり、また刺激関数の算定には等価 な線形振動系を設定する必要がある。従って、外力分布を定めるための加速度分布Bi の設定には、状 況に応じた工学的判断に基づく適切な仮定がしばしば必要となる。 Bi 分布の初期値として、弾性 1 次モードの刺激関数を用いるのは、適切な仮定の一つであろう。非 線形化が骨組全体にわたってほぼ一様に進行する場合は、弾塑性域における等価線形系の刺激関数は 弾性時とあまり相違がないと考えられる。 また、階数が 5 階以下の場合は、加速度分布 Bi の算定式が施行令に示されている。まず(2.8)式で biの値を求め、次に有効質量比Mu / ∑miを考慮して(2.9)式により Biを定める。biは、従来の層せん断 力分布Aiを各階の加速度分布に書き換えたものである。 ここに、 加速度の分布係数Biは、上記のbiに係数を掛けた形で次のように表される。 ここに、p は階数及び限界固有周期に応じて定まる係数、q は有効質量比に応じて定まる係数。Mu は有効質量、M は全質量であり、次式で与えられる(7.参照)。 (10)式の算定には、限界状態に対応する変位分布が必要であるが、変位の計算にはまず外力分布 が与えられねばならない。弾性1 次モード或は施行令の bi 式を静的増分解析の加速度分布として用い てもよいであろう。 なお、(9)式の中の有効質量比による補正は、Bi に次の様な刺激関数と類似の性質を持たせるため である。

2 2 2 1 1

1

1

i i i N i i i i i i i

m

c

m

b

m

c

m

 

 

 

 

 



最上階 最上階以外

2

(0.02 0.01 ) :

1 3

I I I i

T

c

T

h

T

i

階以上の重量 全重量 木造又は鉄骨造の階の高さの合計の全高さにh対する比 初期周期

i

Mu

i

B

pq

b

M

(2.8)

(2.9)

2 1 2 1 N j j j N j j j

m

Mu

m

 

(2.10)

1 1 1 N j j N N j j j j j j j

m b

Mu

m B

m

b

Mu Mu

M

M

 

(2.11)

1 N j j

M

m

(2.10 )

(19)

19 なお、基準式のbi、Bi は厳密な意味での固有モード、刺激関数ではない。しかし、主要な 1 次振動状 態における加速度分布の様相を適切に表現している。 係数p は階数による調整係数で(5 階まで)、表 2.1 による。これは、新耐震の C0との整合のため の係数である。 階数 限界状態周期(s) T≤0.16 0.16<T 1 1.00-(0.2/0.16)T 0.80 2 1.00-(0.15/0.16)T 0.85 3 1.00-(0.15/0.16)T 0.90 4 1.00-(0.15/0.16)T 0.95 5 以上 1.00 1.00 係数q は有効質量比による係数で、次式による。有効質量比による低減の限度を設定している。 なお、係数p, q は、加速度の分布係数に等価線形系刺激関数を用いる場合においても、同様に考慮 することとしている。 2.5 静的増分解析による骨組の復元力特性 限界耐力計算では、建物骨組の静的増分解析を行い、損傷限界状態及び安全限界状態における建物 各層の力-変形関係を定める必要がある。静的増分解析を行う際、外力分布を定める加速度分布形は、 その変形状態での固有振動に応じた刺激関数によることを基本としている。これは、限界耐力計算が、 基本的にはその変形状態での1 次固有振動を前提としているからである*。しかし、初期弾性状態では 骨組の 1 次モードの刺激関数を求めることが可能であるが、変形が進むにつれて骨組は非線形域に入 り、各変形状態での等価な固有振動状態の刺激関数は刻々に変化する。従って、実際の増分解析に当 たっては工学的判断により適切な加速度分布を仮定して行う必要がある。 (*:真の固有振動状態では、外力分布は加速度分布(変位分布に比例)と質量分布の積で表される。

0.75

0.75

1.0

0.75

M

Mu

Mu

M

q

Mu

M



 



(2.12)

表2.1 図2.3

(20)

20 1 次モード型の外力分布から得られる変位分布は、1 次モード形になる。) 限界耐力計算では、外力分布を定める加速度分布をBiの記号で表し、外力分布はこれを用いて次の 様に表わされる。 ここに、QBはベースシアー。 弾性時1 次モードに対応する刺激関数を加速度分布 Bi として外力分布を定め、その分布形を保持し ながらベースシアーを徐々に増大させて静的増分解析を行うのは、有用な方法の一つである。骨組各 部にきれつ、降伏などが生じても、それが骨組全体にほぼ一様に生ずる場合は、各変形段階の等価な 線形系の固有振動形はあまり変わらない。外力分布Piから静的増分解析により得られた変形分布をδi で表わす。基準法では、損傷限界及び安全限界状態の各々に応じて、記号に添え字にd 及び s を付け て区別している。 非線形化による外力分布の変動を考慮するため、前のステップの変形状態から次のステップの外 力分布を定める方法がある22)。弾性1 次モード型分布外力とすれば、弾性域では求められた変形分布 も 1 次モード形になるが、非線形域に入るとこの関係が崩れるので、外力分布を前ステップの変形分 布に基づいて、近似的に次の様に定める。 静的増分解析により、適切な漸増外力分布Piに対して求められた骨組各層の基礎からの変位分布δi は、骨組の耐震性能を表わす重要なデータである。各層の力-変位関係のデータから、各層のせん断 力 Qiと層間変位di(=δi-δi-1)の関係を画くことが出来る。外力 Pi-変位δi 関係及び層せん断力 Qi -層間変位di 関係の概念図を図 2.4 と図 2.5 に示す。 基準法では、損傷限界時及び安全限界時の 2 つの状態について変位分布を求めるとしているが、連 続的な復元力-変形曲線は耐震性能を判断する最も重要なデータであり、これを必ず検討する必要が ある。特に、層せん断力-層間変位関係は、骨組の塑性化の状況を確認するために最も必要であり、 必ず作成して十分に検討しなければならない。 2.6 損傷限界と安全限界 静的増分解析の結果から、損傷限界状態、安全限界状態、保有水平耐力状態の 3 つの限界状態を定

, 1 , , 1 , 1 i i k i k B k B j j k j

m

P

Q

dQ

m

  

(2.13)

j i i i B j j

m B

P

Q

m B

(2.14)

図2.4 図2.5 i=N i=1 i=N i=1

(21)

21 めることが出来る。その定義は次のようである。 ① 「損傷限界状態」:いずれかの部材が短期許容応力度に達した状態 ② 「安全限界状態」:いずれかの部材が安全限界の変形角に達した状態 (保有水平耐力時の変形の1/1.5 以下の状態) ③ 「保有水平耐力時」:いずれかの部材がその限界変形角に達した状態 これらの限界状態変形は、適切な外力分布の下での静的増分解析から求まる。損傷限界状態時の各 層変位をδdi、安全限界状態時の各層変位をδsi、保有水平耐力状態時の各層変位をδuiで表す。 「損傷限界状態」については、その定義から容易に定まる。これは従来の短期許容応力度計算と同 等のレベルと考えられる。 「安全限界状態」については、次のように考える。まず、骨組部材が塑性域に入り、その一つが塑 性変形を許容しうる限界変形角に達した状態を考え、この時の各階水平力を「保有水平耐力」とし、 この保有水平耐力時の変形状態δuiに基づいて、次の7.項で定義する代表変位Δu を計算する。安全 限界状態は、その変位状態δsiから計算される代表変位Δs が、保有水平耐力時の代表変位Δu の 1.5 分の1 以下であるような状態、と定義する(基準法の表現では、Δs の 1.5 倍以上の変形状態に対して、 塑性ヒンジ部材の変形角が限界変形角を超えない、としている。)。この扱い方は、平成 19 年(2007 年)の告示改正により新たに定められたものであり、安全限界状態の安全性判定に際して、ある程度 の安全余裕度を確保するための意味合いを持つと考えられる。 基準法では、保有水平耐力を定めるための曲げ部材の限界変形角について、次式が示されている。 ここに、 上図はラーメン曲げ部材の地震時応力に対応した曲率分布である。A 点が部材端、B 点が部材中央 の反曲点に相当し、部材の変形角は、AB を単純梁と考えた時の A 点での回転角となる。A 点の回転

(

)

1

3

2

y p u y p

a

l

Rb

l

a

 

φy:損傷限界時における部材端の曲率 φu:部材の最大耐力時のヒンジ領域での曲率 lp:ヒンジ領域の長さ a:部材のせん断スパン長さ(内法長さ×0.5) 図2.6

(2.15)

(22)

22 角は、モールの定理から、曲率分布を仮想分布荷重と考えた時の、A 点でのせん断力(支点反力)に 等しい。図で、高さφy の三角分布荷重と、高さ(φu-φy)の矩形分布荷重の、A での反力を求めると、 Rb の公式になる。 基本となるのは安全限界における骨組の塑性化の程度の判断であり、各部材の曲げ塑性率の限界値 の設定が重要になる。また、せん断変形や接合部変形に対する安全度の検討も必要であり、構造設計 者の高度な判断が要求される。しかし、個々の部材レベルの塑性変形能力に基づいて、安全限界変位 を計算することは、高度な解析技術と工学的判断を必要とする。部材の塑性化程度は、層せん断力- 層間変位関係に集約して表現されるので、実際の設計段階では、層レベルや全体レベルでの限界塑性 率に基づく検討も有用であろう。 また、実務的には、静的増分解析において層間部材角(或いは等価 1 自由度系の等価部材角)がこ れまでの慣用的な限界値に達した時をもって安全限界とする考え方が、しばしばとられる。安全限界 状態における層間部材角の上限値として、1/75 が告示の解説書に示されている。この様な場合でも、 層塑性率や部材塑性率の検討を同時に十分に行い、終局安全状態の骨組損傷の状態を確認することが 必須であろう。 2,7 等価 1 自由度系置換と代表変位 次に、多自由度系の骨組全体の挙動を、等価な1 自由度系で表現することを考えよう。 骨組の代表変位を次式で定める。 代表変位は、各階の変位をmiδi(変位モードで振動していると仮定した時の慣性力分布)で重み平 均したもので、損傷限界、安全限界、保有推定耐力の各状態に対して定義される。 この代表変位は、建物全体の 1 次モード的な変形状態を集約的に表したもので、限界耐力計算にお ける重要な基本量である。(米国のNonlinear Static Procedure でも同様の値を用いている。)

1

2

(

)

(

/ 2) /

(

)

1

2

3

3

2

y p y u y p p u y p

a

l

R

a

l

a l

a

l

a

 

 

 

 

2 i i i i i i

m

m

 

(2.16)

図2.7

(23)

23 図 2.8 は、代表変位-ベースシアーの関係を示したもので、骨組全体の総合的な復元力特性を表わ し、特性曲線とも呼ばれる(基準法) 骨組が変形状態δiで振動数ωの調和的な振動をしていると仮定すれば、ベースシアーは一般に次の 様に表わせる。 ここに、 Muは有効質量と呼ばれ、変位の分布形に依存し、普通全質量M の 8 割程度の値になる。 また、SBはベースシアーを有効質量で割って加速度単位で表わした代表加速度である。 上式から、ある変形状態における等価周期は次の様に表わせる。 上式において、QBをそれぞれQu, Qs, Qd、Δ をそれぞれΔu, Δs, Δd と置くことにより、代表 変位-代表加速度の関係が図2.9 の様に得られる。これは図 2.8 の縦軸を加速度で表現したもので、性 能曲線とも呼ばれる。

2 2 1 1 2 2 1 2 1 1 2 N N j j j j j N j B j j j N N j j j j j j u u B

m

m

Q

m

m

m

M

M S

 

    

  

2 B B u

Q

S

M

 

2 2

2

B B u

Q

S

T

M

2

u B

2

B

T

M

Q

S

図2.8

2 2 i i u i i

m

M

m

図2.9

(2.17)

(2.18)

(2.17 )



(2.17 )

(24)

24 以上より、静的増分解析の結果を用いることにより、図 2.7 の多層建物は、有効質量 Mu と性能曲 線で示される包絡復元力特性をもつ等価な1 質点系として取り扱うことが出来る。 なお、ここで用いた諸関係は、外力を定める加速度分布Bi がモードの刺激関数なら全て厳密に成り 立つ(外力分布がモード形なら変位分布もモード形)。そうでない場合にも、良い近似で成り立つ。最 後の2.12 項を参照。 2.8 限界状態の等価周期と減衰 損傷限界及び安全限界状態における代表変位とベースシアーの値から、それぞれの状態における等 価周期が次の様に求められる。 ここに、Qd、Qs は損傷及び安全限界状態時のベースシアー、Δd、Δs は損傷及び安全限界状態時の 代表変位。 限界耐力計算では、これらをそれぞれ損傷限界固有周期、安全限界固有周期と呼んでいる。なお、 スウェイ-ロッキング振動の影響がある時は、簡略な形でこれを評価する。 弾塑性応答の等価線形解析では、等価周期と共に、塑性変形履歴による等価的な減衰の増大を考慮 する必要がある。 通常は、代表変位-ベースシアー曲線に基づいて安全限界時の骨組全体の塑性率μを評価し、等価 減衰定数を定める。ここにμは基準法の記号Df と同一の意味である。 ここに、 塑性率μは、次の様な評価式が示されている。 また、次の様な評価法も示されている。 ここに、Δy は、図 2.10 に示される値で、台形 XBAO の面積と点 B,A,O 及び特性曲線 L で囲まれる 面積は等しいとして、降伏変形Δy を定める。これは、等価な弾塑性復元力特性の降伏点を X 点とし ていることになる。なお、(2.22)式の塑性率の定義ではこれが Y 点になる。

2

d d ud d

T

M

Q

2

s s us s

T

M

Q

1

1

1

0.05

h

1

0.25

0.20

 

隣接する部材と緊結されている部材

その他の部材及び座屈を生ずる圧縮筋かい

2 2

( 1)

s d d d s s

Q

Q

s y

(2.19)

(2.20)

(2.21)

(2.22)

(2.23)

(25)

25 なお、基準法には建物各部材の減衰特性から建物全体の減衰特性を求める以下の方法も示されてい る。しかし、実際への適用には課題も多い。 ここに、h は建物全体の減衰定数、mheiは安全限界変形時の各部材の塑性による減衰定数、mWiは各部 材の安全限界変形時の等価ポテンシャルエネルギーである。また、mμiは安全限界変形時の部材の塑 性率(部材が弾性の場合は1)、mFiは部材の耐力、mdiは部材の変形である。 減衰による応答スペクトル値の低減には、古くから使われている次式を、限界耐力計算においても 用いる。 2.9 要求耐力の算定(要求曲線) まず、1 自由度系弾塑性系の地震応答の最大値を等価線形化法で推算する方法について、簡単な例題 で考えておこう。以下では、塑性率をμ で表す(基準法の Df と同義)。 図2.11 の様な完全弾塑性型復元力特性を持つ 1 自由度系を考える。この図では、横軸に変形、縦軸 に加速度をとり、降伏耐力は質量で除して加速度単位Syで示している。弾性応答はOA の直線上の A 点で表わされる。SLは弾性応答加速度である。

( )

1.5

(

0.05) 1 10

h

S h

F

S h

h

1 1

0.05

N m i m i i N m i i

he

W

h

W

 

1

1 1/

m

he

i

m i

m i

W

m i m i

F

d

/ 2

図2.10

(2.24)

(2.25)

(26)

26 塑性率μの場合の等価線形系の応答は、等価周期√μT、等価減衰定数 h(μ)の応答として応答スペ クトルから定まる。塑性率を順次変化させて等価線形応答を求め、これらを繋いだ曲線ABC を要求曲 線と言う。ここではh(μ)の算定に(2.21)式、減衰効果の評価に(2.25)式を用いている。この要求 曲線は、実際の 1 自由度弾塑性系の降伏加速度-最大変形関係と極めて類似した性質を示すことが既 往の研究から知られている。この場合の加速度応答S(μ)は、塑性率μを与えるような弾塑性系の降伏 加速度に相当する。 特定の復元力特性(性能曲線)が与えられた場合は、図2.11 で要求曲線との交点 R が応答点となり、 弾塑性最大変形DR及び塑性率μRの推定値が定まる。基準法ではこの応答点を求めることは要求され ていないが、建物の耐震性能を把握・判断するためには非常に有効であり、検討することが望ましい。 構造特性から定まる安全限界点と応答点の比較により、耐震性の検討が容易に行われる。 いま、地震動の加速度スペクトルを第2 種地盤の安全限界検討用スペクトルとし、地域係数 Z は 1 とする。弾性周期T が 0.3 秒、0.6 秒及び 1.2 秒の場合の要求曲線を図 12(a)~(c)に示す。要求曲線の 形状は応答スペクトルの形に依存し、短周期の加速度一定領域ではエネルギー一定則の傾向、長周期 の速度一定領域では変位一定の傾向(この領域では要求曲線の形状は周期にかかわらず同形になる) が、図の形状に反映されている。 弾性周期0.3 秒、0.6 秒、1.2 秒に対して、それぞれ降伏加速度 6m/s2、4m/s2、3m/s2の復元力特 性(性能曲線)を想定し、応答点 R の塑性率と変形をμに関する補間計算により求めた結果を図 12 に示す。図12 をみると、短周期域では耐力の低下に伴い塑性化の進展が著しく、耐震性を確保するた めには高い降伏震度が要求されることが判る。また、長周期域では耐力の低下による変形の増加が緩 やかで、変位一定の傾向を示すが、ある程度以下の小さい耐力(弾性応答せん断力の0.25 倍以下程度) になると変形が急増する性質が見られる。 また、種々の減衰定数に対する応答スペクトルを縦軸に加速度、横軸に変形をとって書き表したも のを加速度―変位応答スペクトル(acceleration-displacement response spectrum, ADRS)と呼ぶ。 (7)式の安全限界スペクトル(第 2 種地盤)を加速度-変位応答スペクトルの形で表すと、図 2.13 のよ うになる。この表現は、前の1.でも見たように、米国の Capacity Spectrum Method で用いられ始 めたものである。 図2.11 2

(2 / )

T

2

2

/

(2 /

T

)

2

 

L

S

/

y y

S

Q

m

D

y

D

D

R

R

D

y

O

A

B

C

S( )

R

要求曲線 性能曲線

(27)

27 T=0.3sec T=1.2sec T=0.6sec S(m/s2) D(m) SL=12m/s2 Sy=6m/s2 μR=6.25 DR=0.0855m Sy/SL=0.5 D(m) D(m) S(m/s2) S(m/s2) SL=8.64m/s2 Sy=3m/s2 μR=2.91 DR=0..318m Sy/SL=0.347 SL=12m/s2 Sy=4m/s2 μR=5.04 DR=0.184m Sy/SL=0.333 μ=8 μ=6 μ=4 μ=2 μ=1 μ=1 μ=2 μ=4 μ=6 μ=1 μ=2 μ=4 μ=6 図2.12 (c) (b) (a) (R:推定応答点) R R R

(28)

28 図2.13 上で、初期周期 0.6s、降伏加速度 5m/s2の完全弾塑性復元力を持つ系を考えてみる。この系 の許容しうる限界塑性率をμ=5、限界変形 0.228m と想定すると、限界変形点は B 点で表され、等価 周期は1.34s、等価減衰定数は 0.188 となる。この等価周期と等価減衰に対する応答は直線 OB 上の C 点(加速度 4.02m/s2、変形 0.183m)となり、要求加速度は降伏加速度より低いことが分る。C 点は また減衰定数0.188 に対する加速度-変位応答スペクトル(点線)上にある。実際の応答点 R は、探 索により塑性率3.69、応答変形 0.168m と定まり、応答変形が限界変形より小さいことが示される。 2.10 耐震性能の検討 先に、損傷限界及び安全限界状態の変形を定め、これに基づいて損傷及び安全限界時の等価 1 自由 度系の周期Td、Ts を計算した。また、安全限界状態における減衰定数 hsは、塑性化の状況に基づい て定めることが出来る。 限界状態時の周期及び減衰を用いて、損傷限界及び安全限界加速度応答スペクトルから、損傷限界 応答加速度SAd及び安全限界応答加速度SAsが図2.14 の白丸印のように定まる。図の黒丸印は損傷限 界耐力 Qd及び保有水平耐力 Quの加速度表現であり、これらは静的増分解析の結果からそれぞれのク ライテリアにより定まる。安全限界応答加速度SAsは、安全限界と同じ塑性率の応答を生じさせる様な 降伏加速度に相当し、これが実際の保有耐力加速度Suより大きければ安全とする。 (安全限界判定の場合、B 点の SsではなくC 点の Suと比較。) 基準法による安全性の確認は,加速度表現では次式の様になる。 As

S

As

S

SAd As S / d d ud SQ M 図14 図2.13

(29)

29 ベースシアーによる表現では、上式に有効質量を乗じて、 なお、安全限界状態を生じさせるような地震動は、安全限界スペクトルを Ss/SAs倍したものと考え ることができる。ここにSsはΔs に対応する点 B の加速度である。 また、性能曲線と要求曲線の交点から性能曲線上の応答点を求め、これが安全限界点を超えないこ とで安全性の確認を行うこともできる。 2.11 限界耐力計算の性能確認 基準法の限界耐力計算では、上記の比較を各階の地震層せん断力(各階に作用する地震力)で行う こととしている。ここでは、応答スペクトルから定まる損傷限界及び安全限界時の地震力(要求耐力) は、添え字n を付けて表わすこととする。 各階の水平地震力(各階に生ずる地震力)は、次式で求められる。 なお、Z 及び Gs は SAd、SAsの中に含まれている。 一方、静的増分解析から、限界耐力時の水平力(保有耐力)は次式で求められる。 ここに、Qd、Qs は損傷及び安全限界状態時のベースシアー(どこかが限界値に達した時のベースシア -)である。応答力(要求耐力)、限界時耐力(保有耐力)とも加速度分布はBi 分布として考える。 最終的な層レベルでの安全確認(保有耐力Qd ≥ 要求耐力 Qdn)は、次の様になる。 限界耐力計算では、安全限界状態における骨組の塑性化の程度を構造設計者の主体的な判断で定め ることにより、安全限界時の地震力(=要求耐力、新耐震での必要降伏耐力に相当)が塑性化の程度 に対する連続的な量として求められる。 ここで、限界耐力計算における弾性応答せん断力と降伏耐力の関係をモデル的に考えてみると、応 答スペクトルの加速度一定領域では、 また、速度一定領域(加速度が周期に逆比例)では、 d ud Ad u us As

Q

M S

Q

M S

d Ad u As

S

S

S

S

( ,

)

( , )

dni Ad d d i di sni As s s si

P

S

T h m B

P

S

T h mB

1 1

(

/

)

(

/

)

N di di i j dj j d N si si i j sj j s

P

B m

B m Q

P

B m

B m Q

 

N N di j i di dni j i dni N N si j i si sni j i sni

Q

P

Q

P

Q

P

Q

P

   

( )

1.5

0.3

( ) 1 10 ( )

0.8 0.5 /

As s Y L As d e

S

T

Q

Q

S

T

h

(2.26)

(2.27)

(2.28)

(2.29)

(2.30)

(2.31)

(2.32)

(2.33)

(2.34)

(2.35)

(2.36)

(30)

30 塑性率と耐力低下率の関係を、図2.15 に示す。図中の点線がエネルギー一定則及び変位一定則の場 合のQY/QL、実線が限界耐力計算で求められた加速度一定域及び速度一定域の場合の QY//QL(Fs 及 びFs/√μ)である。限界耐力計算の場合、速度一定領域では、ほぼ変位一定則と同じ低減傾向を示す ことがわかる。 限界耐力計算を用いる場合は、安全限界状態における限界塑性率の設定に当たって、適切な工学的 判断に基づく十分な安全度を考慮し、過小な耐力による不測の被害が生じないようにしなければなら ない。また、新耐震の固有周期式 T=(0.02~0.03)h が微動周期に相当する経験式であり、損傷限界周 期より概して短めに評価(従って地震力は大きめに評価)されることにも留意する必要がある。 また、新耐震においてFe として考慮されている平面方向の剛性・耐力の偏在の影響を限界耐力計算 へ取り入れる方法については、今後十分の検討が必要である。 2.12 1 次モードで振動している質点系の特性(参考) 限界耐力計算で用いられる諸式は、固有モードの振動状態における動的なつり合い式が基礎になっ ている。ここでは、1 次モードで振動している多自由度弾性系の基本的な性質について復習して見よう。 地動を受ける多質点系の振動は次の様に表わされる。

 

 

0 1 2 0 0 0 0

( )

( ) 2

( )

( )

( )

N s s s s s s s s s s

y

u q t

q t

h

q t

q t

y t

 





(2.38)

(2.39)

( )

0.3

( )

0.8

0.5

As s Y L As d

S

T

Q

Q

S

T

図 2.15 図 2.16

(2.37)

式2.37 式2.36 1 i

y

(31)

31 ここに、 いま、振幅が1 次モード成分 のみで、円振動数が1ωの定常的な調和振動をしている状態を考 える。(2.図 16(b))(地震応答の最大値付近の数波は、大体この様な振動に近いと思われる。) は ここでは一定の振幅をもつ変位ベクトル(有次元)として扱う。 各階の最大振幅成分は、刺激関数と変位振幅から次の様に表わされる。(図2.16(d)) ここに、 :1 次モード形の振幅(比率のみ) :地動に対する1 自由度系の応答振幅 :1 次の刺激係数、 :刺激関数(確定値、無次元) 刺激関数 は振幅量に依らない確定値で振幅の分布を表わし(図 2.16(b))、振幅量の大小は 1 次の応答振幅 に依る。 ここで、次の様な仮想の代表点の変位Δを考える。 代表点の変位を定義に従って導いてみると 2 i s i i s i s i i

m u

m u

1 D

S

1 1 2 1 i i i i i i

m u

m u

1

y

i

1 1

u S

i1 D 2 1 1 i i i i i i

m y

m y

 

2 2 2 2 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1

(

)

i i i i D i i i i i D D i i i i D i i i i i

m y

m

u

S

m u

S

S

m y

m

u S

m u

 

1

1 i

u

 

1

1

u

1 D

S

(2.42)

(2.43)

(2.44)

(2.45)

   

y

1

y

cos

1

t

(2.41)

 

1

u

 

1

y

1 1 i

u

(2.40)

図2.17

図 1.7-1 図 1.6

参照

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