愛知川扇状地における
地下水流動と地下水温の形成機構
*梁 熙俊
**・小林正雄
***・三田村宗樹
**Groundwater flow and formation of
groundwater temperature in
the Echi-gawa alluvial fan, Shiga Prefecture, Japan
*Heejun YANG
**, Masao KOBAYASHI
***and Muneki MITAMURA
**Abstract
In the downstream area of the Echi-gawa river, groundwater is dominantly utilized for industrial water and irrigation in the Shiga Prefecture. The Echi-gawa alluvial fan is the main recharge area of the groundwater along the Echi-gawa river. To understand the groundwater flow system in this area, the relation between water temperature and groundwater flow is investigated with shallow and deep wells.
The shallow groundwater temperature of constant temperature layer has a difference of approx.0.8℃ with 15.5℃ in right bank, 16.3℃ in left bank of the river. Vertical direction of groundwater flow was belting in the apex alluvial fan and fluvial terraceⅡ. The deep groundwater temperature indicated that was 15.0~15.5℃ in the entire basin of right bank and rose in temperature along the depth in the left bank as surface layer is 16.0℃, middle layer is 16.5℃, deep layer is 17.5℃ .
The estimated horizontal velocity of groundwater was that right bank is 4×10-3cms-1, left bank is
3×10-3cms-1 in the shallow layer and left bank is 7.4×10-5cms-1 in the deep layer. Furthermore, at
the center of fan in the left bank, calculated vertical velocity of the deep layer is 2.4×10-7cms-1 in April,
8×10-7cms-1 in June.
Key Words: Echi-gawa alluvial fan, Groundwater temperature, Groundwater flow direction, Groundwater velocity
論 文
* 日本地下水学会2008 年秋期講演会において一部発表
** 大阪市立大学大学院理学研究科 Department of Science, Osaka City University *** 大阪教育大学 Osaka Kyoiku University
1 .はじめに 広域の地下水調査において、地下水温は有効な トレーサーとして用いられ、地下水流動系を明ら かにするために多くの研究が行われてきた(佐倉、 1984;谷口ほか、1989;島野ほか、1989;内田ほか、 1993など)。それは地下水温の測定が容易であり、 境界条件の温度を把握することによって理論的な 解析ができることなどに起因する。地下の温度場 は、主に熱伝導と地下水流動による熱移流によっ て形成され、地下水の温度場の歪みから地下水の 流動状況を探ることができるとされている。した がって、井戸内の水温の季節変動を観測すること や理論式を用いた評価により、地下水の水平・鉛 直流動方向、地下水流速と透水係数などを推定す ることが可能である。 研究対象とした愛知川扇状地は、滋賀県東近江 市に位置し、県下で地下水利用率が最も高い地域 である。近年、水道水源周辺地域の砂利採取跡に 様々な土砂、産業廃棄物が埋められ、地下水の水 質汚染や、水需要の増大に伴う地下水の過剰揚水 による地下水位の低下などが懸念されている。し かし、本地域の地下水の賦在状態や流動状況につ いて不明な点が多く、適正な地下水管理を行うた めには地下水流動系の実態把握が必要であると思 われる。 Kobayashi et al.(2010)は、愛知川扇状地を含 む全流域を対象に水質および安定・放射性同位体 により地下水流動系を調べた。その報告によると、 1)愛知川の右岸側と左岸側の浅層地下水は全体 に地形勾配に従い琵琶湖に向かい流動するが、深 井戸の多量揚水が深層地下水の流動に影響を及 ぼしている、2)水質の調査結果から GL- 約80m 付近を境に上層と下層の水質組成や SiO2濃度に 違いが認められ、水質の違う地下水が流動してい ると推定された、3)δ18Oの調査結果から河道周 辺では河川水が地下水に伏流・浸透していること や深層地下水は山麓部あるいは扇頂部で涵養され た水であることが明らかになった、4)トリチウ ム濃度の解析結果から浅層、中層、深層地下水の 滞留時間はそれぞれ3~5年、25~30年、50年 以上と推定した。 しかし、愛知川扇状地の全体的な地下水流動状 況について把握されたものの、各観測井の鉛直方 向の結果の連続性が乏しく、地下水の流速などの 評価がされていない。 以上の観点から、本研究は地下の温度分布より、 愛知川流域の上部に当たる愛知川扇状地(流長約 6km)を対象とし(図1)、浅層・深層地下水の 水平・鉛直流動の推定、解析解の適用による地下 水流速などを評価することを目的とした。 2 .地形、地質及び水文環境 愛知川は、鈴鹿山脈の御池岳(1241m)付近を 源として3つの支流と合流した後、西に流れ、永 源寺付近の平野部で扇状地を形成しながら北西に 流路を変え、琵琶湖東岸に達する。愛知川周辺に 要 旨 滋賀県の愛知川扇状地において地下水流動系を明らかにするため、地下水位及び水温を調べ、地 下水流動方向及び流速の推定を行った。浅層地下水温は、約13m以深で恒温層が現われ、その水 温は右岸側で15.5℃、左岸側で約16.3℃と右・左岸で約0.8℃の差があり、扇頂部と左岸側の第Ⅱ 河岸段丘面では鉛直方向の地下水流動が卓越した。深層地下水温は、右岸側では、全体的に15.0~ 15.5℃の水温を示し、左岸側では、表層部で16.0℃、中層部で16.5℃、深層部で17.5℃と深度の増す につれ水温は上昇した。理論式から求めた地下水の水平流速は、浅層部は、右岸側で4×10-3cms-1、 左岸側で3×10-3cms-1、深層部は、左岸側で7.4×10-5cms-1と評価された。また左岸側の扇央部 域の地下(深度75~100m)における難透水層の上向き鉛直流速は4月で vz=2.4×10-7cms-1、6 月で vz=8×10-7cms-1と評価された。 キーワード: 愛知川扇状地、地下水温、地下水流動方向、地下水流速
は3面の更新世河岸段丘(第Ⅰ、第Ⅱ、第Ⅲ)と 第Ⅳ、第Ⅴ面の完新世河岸段丘が分布する(大石 ほか、2008)。古琵琶湖層群は、八つの累層に区 分されているが、愛知川扇状地周辺は上部鮮新統 の蒲生累層上部が主として分布する。蒲生累層は 八日市丘陵に広く露出するほか、段丘面下にも広 く分布しており、層厚は数百 m 以上に及んでい る。全般に厚さ数 m ~10数 m のシルト層・砂 層・砂礫層・礫層が互層しており、粘土層と亜炭 層を伴っている。シルト層はシルト - 含礫シルト、 砂層は細粒 - 極粗粒砂である。砂礫層は細礫から 径数 cm の円礫を含み、礫はチャート礫、砂岩礫 が多く、花崗岩類は極めて少ない。古琵琶湖層を 覆う新期の段丘堆積物は、クサレ礫を伴い赤色土 化したものから比較的新鮮な砂礫層までが認めら れ、いずれの礫層もチャートの円礫が最も多く、 これに砂岩、泥岩、溶結凝灰岩、花崗岩類の基盤 岩由来の円礫~亜円礫が含まれている。段丘堆積 物の厚さは大部分が10m以下であり、全般に薄 い。また、河成堆積物である土石流や洪水などに よって形成された礫層は段丘Ⅰ、段丘Ⅲ、段丘Ⅴ にみられ、段丘Ⅱおよび段丘Ⅳには殆ど分布して いない(許・小林、2008)。 本地域の地下水において、灌漑水の深部浸透量 は6.4-8.4mm/日と大きく、灌漑水が地下水の涵 養に大きく寄与している(堀野ほか、1989)。ま た、回復法、注入法および定常法による透水試験 結果から主な帯水層の透水係数は、段丘礫層で 10-1~10-2cms-1、古琵琶湖層の砂礫層で10-2~ 10-4cms-1、 古 琵 琶 湖 層 の 粘 土、 シ ル ト 層 で 10-5cms-1以下のオーダーと見積もられている (大石ほか、2008)。 3 .方法 3 .1 調査方法 本研究では、測定された井戸内部の水温を地下 温度として取り扱っている。しかし、井戸内水温 が周辺の地層の温度を代表するか否かについて検 討する必要がある。これに関して谷口(1987)は 図 1 調査地域の地形区分及び観測井の位置図(図中の数字は Sta. 番号)
Fig. 1 The study area and the observation sites of the shallow and deep wells and the physiographic map of Echi-gawa alluvial fan. (Numbers in Figure 1 are the Sta. number)
臨界勾配の式(1)を元に解析を行い、井戸内の 対流の可能性について報告している。本稿でも同 様の解析を行い、本地域の井戸内の対流の可能性 について検討した。臨界値と井戸の口径について は、以下のように表される。 (1) (Gc:臨界値、g:重力加速度、θ:井戸内水温、 a:液体の体積膨張率、c:液体の比熱、α:液体 の温度拡散率、ν:液体の動粘性率、r:カラム の半径、C:定数で cgs 単位では216) ここで、 g =9 8 0c m s-2、 a =2.1×1 0-4℃-1、 θ=290K、c=4.19×107ergs g-1 ℃-1、C=216、 ν=1.002×102cm2s-1、α=1.4×10-3cm2s-1 で ある。r=10,15,25cmの時の臨界勾配をそれ ぞれ計算すると r=10cmで1.42℃m-1、r=15cm で0.28℃m-1、r=25cmで0.04℃m-1である。図 1に調査地域の地形区分と観測井の位置図を示 す。本研究で水温を測定した観測井の半径は5~ 15cm以下であり、恒温層以深の温度勾配は臨界 勾配より小さいことから井戸内部の温度は地層の 温度と平衡状態であるとみなした。しかし、和南 川付近に位置する Sta. 135は井戸半径が約25cm で、温度勾配は0.04℃m-1を超える時期もあるた め対流の可能性が考えられる。なお、調査は愛知 川流路の左を左岸側、右を右岸側とし、右岸側 の山麓や左岸側の丘陵部と和南川付近を扇頂部、 Sta. 13や Sta. 199付近を扇央部、名神高速道路付 近を扇端部とした。また、浅層地下水は、沖積層 及び河川沿いの扇状地堆積層を取水対象としてい る深さ30m以浅の井戸から揚水されるものとし た。深層地下水は、それ以深の帯水層から揚水さ れるものとした。ただし、深さ30mまでに加圧 層がある場合(被圧帯水層)には深層地下水とし て扱った。調査井戸は、浅井戸18ヶ所、深井戸 15ヶ所、総計33ヶ所で、水位及び水温測定を行っ た。調査期間は2007年4月~2008年3月まで、 ほぼ1ヶ月毎に10回測定した(図1)。 測定方法に関しては、地下水位は各井戸の地表 から水面までの深さを水位計で測り、標高(TPm) に換算した。地下水温は、浅井戸では、深さ50m 用 サ ー ミ ス タ 温 度 計(DENTAN 製 ModelET-5D、精度0.1℃)を用いて水面から井戸底まで0.5m 間隔で測定した。深井戸では100m用サーミスタ 温度計(DENTAN 製 ModelET-50X、精度0.1℃) を用いて水面から井戸底まで1m間隔で測定を 行った。 3 .2 解析方法 温度分布から地下水の流速・帯水層の透水係 数を求めることの可能性を理論的に示したのは Stallman(1963)である。本稿では、数多くの研 究の中から以下のように地下水と熱に関する解析 式を利用し、境界条件と初期条件から求められた 解を用いて地下水の流動方向と流速の推定を行っ た。 1)浅層地下水の鉛直流の有無を判断するため
Carslaw and Jaeger(1959)、谷口ほか(1984)、榧根・
谷口(1987)による定常1次元熱伝導方程式の解 (式(2))を用いた。 (2) ここで、To:年平均地温(℃)、T:年変動振幅 (℃)、z:深度(cm)、α:温度拡散率(cm2s-1)、 ω:2π/ 周期(s-1)。地下水温が熱伝導のみによ り形成されると仮定した場合、地下の温度は熱伝 導方程式の解によって表すことができる。熱伝導 方程式の解を計算することにより、熱伝導により 形成される地下水温分布が求められる。これを観 測した地下水温分布と比較することにより、熱移 流の影響による地下水温の変化や熱移流をもたら す地下水流動の状況が把握できる。 2)浅層地下水の水平流速を求めるため谷口 (1991)による水平1次元熱移流拡散式の解(式 (3))を用いた。本稿では、水平のダルシー流速 を求めるための式のみを示す。 (3) k:地層の熱伝導率、cρ、c0ρ0:それぞれ地 層と水の熱容量、ΔT0:x=0における変温幅、
ΔTx:x=x に お け る 変 温 幅、vx: 水 平 流 速、 τ:周期。K,V,a:定数 3)深層地下水の流速を推定するため、帯水層 の 水 平 流( 式(4)) は 佐 倉(1977,1984)、 難 透 水 層 の 鉛 直 流( 式(5)) は Breadhoeft and Papadopulos(1965)の研究を参考にした。水平 流は次式で表される。 (4) ここで であり、TAV:帯水層の平 均温度、 T1:帯水層の下部境界での温度、 T2:帯 水層の上部境界での温度、L:帯水層の厚さ、x: 帯水層の長さである。なお、x=0で T=0として 境界条件を設定したため、T1,T2から x=0にお ける実際の温度を差し引く必要がある。次に鉛直 流は次式で表される。 (5) こ こ で で あ り、z: 任 意 の 深 度、 T0:難透水層の上部境界での温度、TL:難透水層 の下部境界での温度、Tz:任意の深度 z における 温度、vz:鉛直流速、L:難透水層の厚さである。 また地下水流動方向は、β値の符号が正の時は下 向き、負の時は上向きとされている。(3)~(5) 式は観測した水温分布の結果を元に地下水流速及 び流動方向を推定するために用いた。また計算さ れた流速はダルシー流速である。 4 .結果 4 .1 地下水位の季節変化 図2は、扇頂部(Sta. 118, 135)、扇央部(Sta. 201, 199)および扇端部(Sta. 42, 172)の浅井戸 水位、深井戸水位および降水量の季節変化を示し た図である。浅井戸は、6~8月に高水位となり、 11~1月に低水位となるほぼ周期的な変化を示 しており、水位の変動幅は、それぞれ4,3,2m と扇端部に向かうにつれ、小さくなる傾向があ る。この季節変化は降水量と密接な関係を示唆し ており、高水位期は灌漑期に一致する。なお、深 井戸は4月に水位低下が著しく、それ以外は浅井 戸と同様の変化を示す。水位急低下の原因として、 2007年1~4月の降水量は平年の平均降水量に 比べ、72%に過ぎない渇水期であったことが挙げ られる。そのためこの年は例年と比べて1~2ヶ 月も早い時期に深井戸からの揚水が開始され、地 下水涵養量を上回る揚水のため、水位の急低下に 繋がったと考えられる。そして、水位回復まで 2~3ヶ月を要したことが図から読み取れる。ま た、自噴井である Sta. 199を除く全調査地域にお いて、浅井戸の水位は深井戸の水位より高かった (図2)。 4 .2 浅層地下水温の平面分布及び地下水面等 高線図 図3は4月と11月の GL-9mにおける地下水 温の平面分布図と地下水面等高線図である。地 下水面等高線の分布は季節変動が小さく、150~ 170m等高線が分布する幅は、右岸側で平均約 2km、左岸側で平均約 3kmであり、概ね動水 勾配は右岸側の方が大きいことが図から読み取れ る。また動水方向は、右岸側は愛知川下流へと流 下、左岸側は第Ⅱ河岸段丘で愛知川に平行にその 下流方向に流下、第Ⅲ・Ⅳ河岸段丘では愛知川へ 図 2 浅井戸と深井戸の地下水位の季節変動
Fig. 2 Seasonal changes in groundwater levels of the shallow and deep wells.
と流下する方向が認められる。 地下水温は、河川付近を除いて2007年4月は 14.5~16℃を、2007年11月には15.5~17℃を 示し、4月より11月の水温が高温であった。また、 2007年4月には扇頂部と扇端部の河川沿いで最 も低い10℃以下の低温域となっている。第Ⅱ・ Ⅲ河岸段丘では、2007年4月と11月を比較する と、右岸側は水温に大きな変化がないのに対して、 左岸側は季節変動が認められた。 4 .3 浅層地下水温の鉛直分布 観測された浅層地下水温の鉛直分布と熱伝導方 程式(式(2))による計算値を図4に示す。扇頂 部の和南川沿いの第Ⅱ段丘面に位置する Sta. 209 と加領川扇状地に位置する Sta. 136は15m深で も水温の変動幅は約 3℃と大きく、収束してい ない。しかし、愛知川沿いの第Ⅳ段丘に位置す る Sta. 194は深度約12mで収束し、その水温は 14.0℃であった。次に、扇央部の特徴をみると、 観測井は第Ⅱ、Ⅲ段丘面に位置し、水温は深度 約13~17℃で収束した。しかし、恒温層の水温 は左岸側と右岸側で違いがみられ、左岸側がより 高温を示した。最後に、扇端部の愛知川沿いの第 Ⅳ段丘に位置する Sta. 165と188は、距離は近い ものの水温分布は大きく異なっている。Sta. 165 は低温を示しており、水温変動幅が大きい。右 岸側の Sta. 155は、水温分布はほぼ計算値と一致 し、熱伝導により水温が形成されていることを示 唆する。水温の鉛直分布はまた全体的に、恒温層 は約13m以深で現われ、その水温は右岸側で約 15.5℃、左岸側で約16.3℃と右・左岸で約0.8℃ の差があった。 4 .4 深層地下水温の鉛直分布 深井戸の地質柱状図と水温鉛直分布を図5に示 す。まず、右岸側をみると、Sta. 13は扇央部に位置 し、深度約30~70mで15.1~15.4℃、70~85m で0.1~0.2℃低い14.9~15.1℃の水温を示し、 85~100mで15.1~15.4℃を示した。7月を除 けば、80~82mの砂層の付近で水温の低下がみ られた。Sta. 158は右岸側の扇端部に位置し、表 層部は季節変動を示している。その水温分布は 深度20m付近で15.6℃の水温を示し、深度100m まで、殆ど水温は変化しない。このように右岸側 の水温鉛直分布は深度方向の温度変化はほとんど ない。 次に、左岸側をみると、Sta. 135は扇頂部に位 置し、水面から井戸底まで垂直に立った水温分 布を示し、全深度において3月に12.9℃、9月に 19.4℃と水温変動幅が大きかった。しかし、4月 は、深度52~58mの粘土層を境に水温が異な り、その差は約1.5℃であった。Sta. 199は左岸 側の扇央部に位置する自噴井戸(ストレーナー深 度83~100m)であり、表層部は、16.0℃を示し、 18~24mのシルト層の以深から増温し、100m で17.4℃の水温を示した。またストレーナー上部 では、自噴による水温不平衡の可能性があるため、 水位低下がみられた4月から約9月の水温のみを 取り扱った。Sta. 173は左岸側の扇端部に位置し、 図 3 深度 9 mにおける平面等温分布及び浅層地 下水温の地下水面等高線図
Fig. 3 The horizontal distributions of isothermal line at the depth 9m and contour line of the shallow well level.
28~30mの粘土層の上部は水温が変動するが、 下部以深の水温16.3℃より常に低いのが特徴で ある。Sta. 172は左岸側の扇端部に位置し、深度 20~50mで16.2℃を、50~100mでは水温は深 度と共に増温した。その水温は、4月は16.3℃、 11月は16.9℃を示し、鉛直プロファイルは、10 月(16.6℃)を境に、4~9月は低温域、11~ 3 月は高温域に分布し、特に66~72m、75~82m の砂層で増温が著しい。Sta. 190は左岸側の扇端 部に位置し、恒温層の水温は15.2℃で、30mか ら水温(15.2℃)は低下し、59mでは0.3℃低い 14.9℃を示した。Sta. 190は左岸側に位置するが、 他の観測井に比べ、恒温層の水温が約1.1℃低く、 むしろ右岸側の恒温層の水温(約15.5℃)とほぼ 一致する。恒温層の水温形成に熱移流が寄与する ことから、Sta. 190は右岸側の地下水流動の影響 を受けていることが読み取れる。 5 .考察 5 .1 温度拡散率による浅層地下水流動の推定 結果4-3で浅層地下水温分布は各観測井の位置 図 4 浅層地下水温の鉛直分布(R:右岸側、L:左岸側) (凡例1は熱伝導方程式の計算値および、凡例2は観測値の水温鉛直分布)
Fig. 4 Vertical profiles of the shallow groundwater temperatures (R: right bank, L: left bank)
(Legend 1 is the temperature calculated by the heat conduction equation and Legend 2 is the vertical distribution of observed temperature)
によって異なることを熱伝導方程式の計算値(以 降、計算値)と一緒に示した。各観測井の計算値 は(2)式の温度拡散率α(cm2s-1)をパラメーター とし、年平均地温 Toは観測値と比較のために恒 温層の水温を用いた。また、従来の研究(谷口ほか、 1984)から年変動振幅 T=13℃、砂礫の温度拡散 率をα0=6.3×10-3cm2s-1 として各観測井の水温 鉛直分布と推定できる恒温層の深度から個々の温 度拡散率α(cm2s-1)を求めた。本稿では、砂礫 の温度拡散率α0を熱伝導により形成される水温 分布とみなし、その残差を熱移流として取り扱う ことで、各観測井の地下水流動方向の推定を試み た。また温度拡散率αの値が砂礫の温度拡散率α0 より大きいと水温変動幅は、より深い深度で収束 し(鉛直下向き)、小さいとより浅い深度で収束(鉛 直上向き)する。 表1は、推定した各観測井の温度拡散率と砂 礫の温度拡散率で割った比を表す。扇頂部(Sta. 136, 209)と扇端部の河川付近(Sta. 165, 188)の 観測井でα0に対して2.4~7.1倍に温度拡散率が 高くなっていることが読み取れる。その理由とし て前者は地下水涵養域に当たり、鉛直方向の地下 水流動に伴う熱移流の影響が卓越すると考えら れ、後者は河川水の浸透が卓越しているためと考 図 5 深層地下水温の鉛直分布及び地質柱状図
Fig. 5 Seasonal changes in vertical profiles of observed groundwater temperatures and geologic columnar sections of the deep wells.
えられる。また扇央部の Sta. 76も温度拡散率が2.2 倍高く、その理由として灌漑水の浸透が卓越して いるためと考えられる。 5 .2 浅層地下水の水平流速の推定 地下水の水平流動が卓越する場合、水温変動 は x=0における地点の振幅に対して流動方向に 離れた地点では、減衰傾向を示す。(3)式中の vxをパラメーターとして計算を行い、観測値と比 較することで水平流速が求まる。温度変動幅の 計算には、帯水層が主に砂礫層であることから k=4.5×10-3calcm-1s-1℃-1、cρ=0.6calcm-3℃-1、 c0ρ0=1calcm-3℃-1、年間水温変動幅を求めるの でτ=1年とした。また、観測井の水温変動幅は 水面から恒温層以浅の水温変動が見られる深度 で、各月ごとの平均水温を求め、最高水温から最 低水温を引いて求めた。その結果を図6に示す。 ここで、両岸の x=0での水温変動幅より大きい 幅を示した観測井は河川付近に位置する観測井 (右岸側:Sta. 150, 183、左岸側:165,187,202) であり、その理由として河川水の浸透による影響 を受けるためと考えられるため、水温変動幅の計 算値との比較から省き、また Sta. 76も表1のよ うに鉛直方向の熱移流を灌漑水の浸透による影響 とみなし、そのため大きい水温変動幅を示したと し、同じく省くと、右岸側の Sta. 136, 10, 9, 155 の水温変動幅の観測値は計算値(式(3))とほぼ 一致する減衰を示した。これより水平流速 vxは、 4×10-3cms-1と推定できる。そして、左岸側は Sta. 209, 201, 77の観測値のみを計算値と比較す ると、水平流速 vxは、概ね3×10-3cms-1と推定 できる。この計算結果は、結果4-2で示した動水 図 6 年間水温変動幅の計算値と観測値(図中の数字は Sta. 番号)
Fig. 6 Calculated and observed value of annual water temperature fluctuation range (numbers are observation wells Sta. number)
表 1. 観測井の温度拡散率とα/α0の比(砂礫の温度拡散率α0=6.3×10-3 cm2s-1)
Table 1 Temperature diffusivity and α/α0 rate of shallow wells (Temperature diffusivity of gravel and sand layer
勾配(右岸側:0.01、左岸側:0.007)を元に透水 係数を計算すると、約4×10-1cms-1であり、大 石ほか(2008)が示した段丘砂礫の透水係数の結 果とほぼ一致する。 5 .3 鉛直断面の地下水温 図7は、地下水面等高線図より推定した地下 水流動方向に沿って A-A' 断面と B-B’断面(図 1)の鉛直等温分布図である。地質想定断面図と 地下水ポテンシャル鉛直分布図は Kobayashi et al.(2010)を参考に作成した。 A-A’断面は標高約80mに広がっている粘土 層の上位に透水性の良い砂礫層が広く分布してい る。水温鉛直分布はこの地質的な条件により形 成されることが伺える。等温分布をみると、全 体に中層(標高100~140m)・深層(標高50~ 80m)部で約15.5℃のほぼ等温を示した。しか し、扇頂部の Sta. 160で14.5℃、扇央部の Sta. 13 の中層部と扇端部の Sta. 190の中層部において 15.0℃の水温を示す区域が存在した。この水温分 布は1年を通してほぼ変動しなかった。一般に恒 温層以深では、地中温度は深度とともに増大する が、A-A’断面では、恒温層の温度が深層まで反 映されている。その理由の一つとして、地下水の 鉛直下向きによる熱移流効果により、増温が抑え られた結果と考えられる。また地質構造から百済 図 7 右岸側 A-A’、左岸側 B-B’ 断面の等温鉛直分布及び地下水ポテンシャル鉛直分布図
寺断層や山麓部に卓越する礫層を経て地下への涵 養が考えられ、その後中層部で連続的に広がる難 透水層に沿った地下水流動が考えられる。 B-B’断面は中層・深層部で右岸側とほぼ同条 件の地質構造を示しているが、表層部は連続的 に広がった難透水層の分布により地形に沿った 水平方向の地下水流動が考えられる。まず、Sta. 135は図5に示したように2007年4月は標高約 150mに分布する粘土層を境に1.5℃の水温差が みられ、その以外は全層に渡って気温の変動に対 応した水温を示した。この理由として断層や河川 からの地下浸透や流動しやすい透水性の良い礫質 層が表層部に分布するためと考えられる。扇央・ 扇端部の等温線をみると、表層部は16.0℃、中層 部には16.5℃の等温線が分布し、Sta. 199の深層 部(標高約80m)は水温17.5℃と年間を通じて 一定の等温線が分布した。Sta. 199付近の中層・ 深層部では、全体に等温線は若干上に凸の形を示 した。この理由として深層部の被圧された地下水 の上向きの流動による影響(地下水ポテンシャル 線165m, 170m)と標高約100m付近に広がる厚 い粘質土層の形状により水温が形成されると考え られる。 以上のことからほぼ等温を示した右岸側と深度 により増温した左岸側の水温鉛直分布は、それぞ れの地質分布の違いを反映し、地下水流動系が異 なると考えられ、また地下水ポテンシャル鉛直分 布から推定される地下水流動方向による結果と考 えられる。 5 .4 深層地下水の水平・鉛直流速の推定 図7の結果を元に一部での深層地下水流速の推 定を行った。深層地下水の水平流速は左岸側の難 透水層で挟まれた古琵琶湖層群の砂礫層からなる 帯水層(標高約100~150m)を対象に、鉛直流 速 は 増 温 が 観 測 さ れ た 難 透 水 層( 標 高50~ 100m)を対象にして計算を行った。まず、水平 流 速 の 計 算( 式(4)) は、 帯 水 層 の 長 さ x= 5000m、 平 均 厚 さ L=45mと し、 流 入 水 温 を 16.0℃、帯水層の上面で、T2=16.2℃、下面で、 T1=16.5℃、 帯 水 層 の 平 均 温 度 TAV=16.35℃、 k=4.5×10-3calcm-1s-1℃-1 と し て 行 っ た。(4) 式の左右辺が一致するように p 値を計算すると、 p=1.5が求められ、 の式から平均流 速 vx=7.4×10-5cms-1が求められた。また図7の 地下水ポテンシャル分布から、深度100mにおけ る動水勾配は約0.01であり、ダルシー法則によ り透水係数は7.4×10-3cms-1と求められた。こ の結果も大石ほか(2008)が示した古琵琶湖層群 の砂礫層の結果とほぼ一致する。 次に、鉛直流速の計算(式(5))は、Sta. 172, 199の難透水層で行った。難透水層の厚さ L は、 Sta. 172で35m( 深 度50 ~85m)、Sta. 199で 25m(深度75~100m)とし、この範囲における 熱 伝 導 率 k は 主 に 粘 土 層 で あ る こ と か ら 2×10-3calcm-1s-1℃-1とした。また計算には、(5) 式の右辺のβ値をパラメーターとし、タイプカー ブを作成した。そして深度方向に増温がみられた 月の観測結果から左辺を計算し、タイプカーブに あてはめた。その結果を図8に示す。まず Sta. 172をみると、(5)式の左辺の観測値は右辺のタ イプカーブに乗っていないので、β値を決定する ことは困難である。しかし、この結果から地下水 流動方向は推定できると考えられる。β値は、7 月に正の側に位置し、9,1,3月の順に負の側に 移動する。このことは結果4.1に示したように揚 水による影響が水温に反映されたことを示唆す る。また深度50~85mにおいて地下水流動方向 は、揚水による影響で7月には下向きの鉛直流が 卓越し、水位回復と共に上向きの鉛直流になって いくことが推定できる。次に Sta. 199をみると、 β値は常に負の側に位置することから、上向きの 鉛直流が推定される。また9月の観測値はタイプ カーブに合わず、計算から省いた。その理由とし て自噴の影響が考えられる。図8の横軸0.6~1 は深度90~100mに当たり、β値は-10以上の 線上に乗っている。このことは自噴による井戸内 の温度の撹乱が表れたことを示唆する。計算を 行った4月と6月は揚水による水位低下から回復 に向かう時期であり(図2)、β値を求めること で水位回復に伴う各月の鉛直流速が推定できると 考えられる。まず多項式(2次)近似曲線からβ値 を求めると、4月は約-0.3、6月は-1となる(図 8)。鉛直流速 の式に各月のβ値を代 入し、計算をすると、4月は vz=2.4×10-7cms-1、 6 月は vz=8×10-7cms-1と評価される。この計
算結果は水位回復と共にこの難透水層の上部と下 部間の動水勾配が大きくなり、上向きの鉛直流速 が速くなることを示唆する。 6 .まとめ 1.地下水位は周期的な季節変化をし、この変化 は降水の季節変化や灌漑期とよく対応した。 また深井戸は揚水により、水位低下がみられ た。 2.愛知川の右岸側と左岸側の水温平面分布は異 なり、扇頂部と扇端部の河川沿いで低温域が みられた。また、恒温層は約 GL-13m以深 で現われ、その水温は右岸側で約15.5℃、左 岸側で約16.3℃と右・左岸で約0.8℃の差が あった。 3.浅層地下水の水温鉛直分布から、扇頂部と左 岸側の第Ⅱ河岸段丘面では鉛直方向の地下水 流動が卓越し、河川付近の一部の観測井で 河川水の浸透を受けることがわかった。ま た、年間水温変動幅から、右岸側は水平流速 vx=4×10-3cms-1、 左 岸 側 は 水 平 流 速 vx=3×10-3cms-1と評価された。 4.深層地下水の水温鉛直分布から、右岸側では、 全体的に15.0~15.5℃の水温を示し、左岸 側では、表層部で16.0℃、中層部で16.5℃、 深層部で17.5℃と深度が増すにつれ水温は 上昇した。また左岸側の長さ5000m、標高 約100~150mの帯水層の水平平均流速は vx=7.4×10-5cms-1と評価された。また Sta. 199の深層(深度75~100m)難透水層の上 向き鉛直流速は、4月で vz=2.4×10-7cms-1、 6月で vz=8×10-7cms-1と評価された。 謝 辞 本研究を行うにあたって、野外調査に同行し、 ご指導及び熱心なご議論いただいた東伸コンサル タントの浜田貞二氏、また、大阪市立大学大学院 理学研究科人類紀自然学研究室の皆さんにお礼申 し上げます。 参考文献 内田洋平・佐倉保夫・荒川隆嗣(1993):山形盆地の地 下の温度分布から推定される地下水流動.ハイドロ ロジー、23(4)、169~179. 大石 朗・小林正雄・浜田貞二・奥田英治・宮崎精介・ 許 成基(2008):愛知川扇状地の水文地質構造. 扇状地水環境研究会、159~174. 榧根 勇・谷口真人(1987):長岡平野の地下水(Ⅲ), 水利科学、29(3)、1~17. 許 成基・小林正雄(2008):愛知川扇状地(総説). 扇状地水環境研究会、145~158. 図 8 地下水の鉛直流動を推定するためのタイプカーブ及び観測値
佐倉保夫(1977):帯水層の温度分布から地下水流速を 推定する試みについて.筑波大学水理実験センター 報告、1、68~76. 佐倉保夫(1984):温度による地下水調査法.日本水文 科学会会誌、26(4)、193~197. 島野安雄・谷口真人・榧根 勇(1989):阿蘇西麓台地 における地下水温の分布特性について.ハイドロロ ジー、19(3)、155~169. 谷口真人・三條和博・榧根 勇(1984):地下水調査 における地下水温の重要性.ハイドロロジー、14、 50~60 谷口真人(1987):長岡平野における地下水温の形成機 構.地理評、60、725~738. 谷口真人・島野安雄・榧根 勇(1989):地下水温を 用いた阿蘇西麓台地の地下水流動解析.ハイドロロ ジー、19(3)、171~179. 谷口真人(1991):水温による地下水流動解析.実例に よる新しい地下水調査法、105~112. 堀野治彦・渡辺紹裕・丸山利輔(1989):農業用水利用 における地下水の役割に関する実証的研究.農業土 木学会論文集、144、9~16.
Breadhoeft, J, D. and I. S. Papadopulos (1965): Rates of vertical groundwater movement estimated from earth's thermal profile. Water Resour. Res., 1, 325~328. Carslaw, H. S. and J. C. Jaeger (1959): Conduction of
Heat in Solids. Second edition, Oxford University Press, 50~91.
Kobayashi M., M. Yamada, H. J. Yang and T. Hijii (2010): Study of the groundwater flow system in the Echi-gawa alluvial fan, Shiga Prefecture, Japan. Groundwater
Response to Changing Climate, CRC Press, 179~195.
Stallman, R. W. (1963): Computation of ground-water velocity from temperature data. U. S. G. S. Water
Supply Pap., 1544 ~ H, H36~ H46