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定置網周辺の流動環境変化が落とし網の形状に及ぼす影響
西辻 拓哉
*・平井 良夫
**・山根 猛
**近畿大学農学部水産学科
**日東製網株式会社
The shape of the bag-net resulting from changes in the current profile around the fishing ground of a set-net
Takuya Nishitsuji
*, Yoshio Hirai
**, Takeshi Yamane
**
Synopsis
The catch of a set-net, which is classified as passive fishing gear, is greatly affected by the current profile of the fishing ground. We investigated the shape and the deformation of the chamber affected by measuring the current profile of the fishing ground and the depth data of the chamber. At one side of the set-net, the current profile was different from that one the other side, and as a result the chamber depth varied from 50 m to 5.5 m. We found that the depth of the chamber a great deal as a result of the difference in current profile.
Key words: current profile, deformation of the bag net
近畿大学農学部紀要 第 41 号 131 〜 134 (2008)
緒 言
日本各地で行なわれている定置網漁業は他の漁 業が不安定な漁獲量示す中、年間 50 万 t 前後の 安定した漁獲量をあげており、日本の沿岸漁業に おいて重要な役割を担う漁業である1-3)。定置網 は一般的に垣網、運動場、登り網、落とし網の 4 つの部分から構成された設置型の漁具である。漁 獲される魚は、垣網に遭遇するとそれに沿って網 内に入り、運動場と昇り網を経由して落とし網に 至る。定置網漁業は底引き網漁業や延縄漁業など の能動漁具と異なり漁場に網を設置して漁獲を待 つ受動的漁具であり、その構造から網に入った魚 が再び定置網外に出て行くことが可能となってい る。そのため定置網漁業の漁獲量は対象魚の来遊 量だけでなく、漁場の流動環境にも大きく左右さ れると考えられる2-5)。定置網漁場での流動環境 が定置網の形状に及ぼす影響については解明され
ていない部分が多い。本研究では、富山湾での定 置網漁業において、定置網漁場周辺での流動環境 とそれに伴う落とし網の深度変化の関係を調査し た。
2.材料及び方法
実験は富山県氷見市女良漁協の脇沖定置網
(Fig.1)で夏季(2006 年 7 月 13 日〜 8 月 10 日)
に行った。実験を行った脇沖定置網は片側に二つ の落とし網を持つ越中式落とし網型と呼ばれる大 型定置網であり、水深 30m から 50m の範囲に設 置されている(Fig.1)。本漁場での流動環境情報 を得るため、流向・流速・水温が測定可能な電 磁流速計(ACM-8M,アレック電子社製)2 機を 落とし網に近い沖側の台と岸側の矢引きの水深 15m に設置し 10 分間隔で測定を行った(Fig.1)。
また、落とし網の深度変化を計測するため、落と
132 西辻 拓哉・山根 猛・平井 良夫
し網底部の 4 隅および中央の合計 5 ヵ所に水深 データロガー(DST-milli,Star-Oddi 社製 , 測定 範囲 250m, 測定制度± 0.4% FS)を装着し、10 分間隔で測定を行った。5 ヶ所のデータロガーの データは互いに高い相関を示したため、深度デー タ解析には落とし網中央部のデータロガーのデー タのみを用いた。これらの時系列データから、流 動環境の変化に伴って落とし網の形状がどの様に 変化するのか調査した。
Fig. 1 流速計設置位置
○が台側を、△が矢引き側を、数値は水深(m)
を示す
3.結果および考察
夏季の矢引き側においては南から南南西にかけ ての流向が卓越していた。それに対して台側の流 向の頻度分布は南から南南西、及び北東から北に かけての流向がほぼ同頻度で見られた(Fig.2)。
台側と矢引き側において 20cm/s 以下の流速が 70%を占めたが、南南西方向への流向においての み 20cm/s を超える速い流れが見られた。台側と 矢引き側では台側が矢引き側に比べて水深が約 20m 深く、それが台側と矢引き側での流向の違 いを引き起こしたものと考えられる。落とし網中 央部の深度は最大で 51.3 mを記録し、これは設 計上の最大水深と近似している。網上げ時を除く 測器設置期間中の落とし網の平均水深はは 28.4m であった。水深が 30m から 50m の深い位置に あった 2006 年 8 月 3 日午前 7 時から 2006 年 8 月 8 日午前 7 時までの平均水深は 44.9 mであり、こ の時の台側の平均流速は 13.3cm/s で北方向の流 れ(矢引き側から台側へ向けての垣網に対してほ
ぼ垂直な流向)が 90%を占めた(Fig.3)。矢引き 側の平均流速は 10.7cm/s で、南から南西への流 向(台側から矢引き側方向へ向けての垣網に対し てほぼ垂直の流向)が高い頻度で見られた。
落とし網の水深が 5.5m から 28.5m の浅い位置 にあった 2006 年 7 月 15 日の午前 7 時から 2006 年 7 月 19 日午前 7 時までの平均水深は 12.1 mで あった。この時台側における平均流速は 23.5cm/
s で、矢引き側の平均流速は 41.5cm/s であった。
台側では南への流向が 80%を占め、矢引き側で は南西への流向が 90%を占めた(Fig.4)。落とし 網の水深が深い位置にあったときの流動環境と比 較すると、流速は台側で 10cm/s、矢引き側では 30cm/s 以上も強い流れであった。流向を比較す ると台側では落とし網の水深が深い位置にあった 時のほぼ反対方向の流向が発生していることがわ かる。それに対し矢引き側の流向には大きな差は 認められなかった。これらのことから、落とし網 の形状は台側の流向に大きく依存するのではない かと考えられる。
この時、落とし網に設置した全てのデータロ ガーの水深が中央部に設置されたものとほぼ同じ で、非常に高い相関を示していることから、落と し網の形状は底面がほぼ平面状になった状態で水 深 12 m付近に吹き上げられていると推察される。
底面が平面状にになった形状の場合には落とし網 が深い水深にある時と比較して、空間容積が大幅 に減少しており、対象魚の遊泳行動に影響をおよ ぼしていると考えられる。今後、これらの流動環 境データと数値計算を用いた落とし網の形状変化 シミュレーション4)や、バイオテレメトリー手 法による対象魚の入網行動情報の取得が可能にな れば、より明確な漁獲プロセスが解明されるよう になるであろう。
0 2 4 6 8
2 4 6 8 0
45
90
135 180 225 270
315
矢 矢 矢引引引ききき
台 台 台
落 落 落とととししし網網網 0
3 6 9 12 15 18
3 6 9 121518 0
45
90
135 180 225 270
315
N
○
○
○
△
△ 頻
頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 (((%%%%%%%%%%%%)))
頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 頻 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 度 ((%%%%%%%%%)))
Fig. 2 台側・矢引き側の流向の頻度分布
133 定置網周辺の流動環境変化が落とし網の形状に及ぼす影響
5.要 約
受動漁具である定置網の漁獲量は漁場の流動環 境に大きく左右されると考えられる。漁場の流動 環境と落とし網の深度データを計測することによ り、流動環境が落とし網の形状に与える影響を調 査した。実験を行った富山県氷見市の脇沖定置網
漁場においては台側と矢引き側において流動環境 が異なった。落とし網の深度は流動環境の変化に 伴い大きく変化していた。
6.謝 辞
本研究を行なうにあたり、近畿大学農学部水産
N
台
50 40 30 20 10
網の深度変化(m) 2006/08/032006/08/03
52006/08/03 502006/08/03
0 2006/08/04 2006/08/05 2006/08/06 2006/08/07 2006/08/08
dat
矢引き
2006/08/03 2006/08/04 2006/08/05 2006/08/06 2006/08/07 2006/08/08 dat
10cm/s
Fig. 3 2006/8/3から2006 8/8の流動環境と落とし網の深度変化
台
50 40 30 20 10
網の深度変化(m)矢引き
0:00 12:00
2006/07/15 0:00
2006/07/16 12:00 0:00
2006/07/17 12:00 0:00
2006/07/18 12:00 0:00 2006/07/19 dat
N
10cm/s
Fig. 4 2006/7/15から2006 7/19の台側での流動環境と落とし網の深度変化
134 西辻 拓哉・山根 猛・平井 良夫
学科漁業生産システム研究室の髙木 力准教授、
光永 靖講師、鳥澤 眞介 COE 博士研究員、鈴 木 勝也 COE 博士研究員には適切な助言とご指 導を頂き、深謝の意を表します。並びに計測機器 の設置を含め多大な協力を頂いた日東製網株式会 社の皆様に厚く御礼申し上げます。また、データ 収集のために漁場を利用させて頂いた富山県氷見 市女良漁協、脇沖の漁業者の皆様にも甚大な御協 力を頂き深く感謝致します。近畿大学農学部漁業 生産システム研究室の学部学生ならびに大学院生 の諸氏に御助言、御協力を得ることができ、研究 を円滑に進めることができた。本研究遂行にあた り御協力頂いた関係者各位に深く感謝致します。
参考文献
1) 平成 18 年度水産白書
2) 井上 実:漁具と魚の行動 恒星社厚生閣,
pp.20-50
3) 木幡 孜:漁業の理論と実際 成山堂書店 , pp.24-31
4) 鈴木 勝也:網地の形状と運動に関する数値 計算手法の開発と箱型生簀網への応用 平成 13 年度 北海道大学大学院水産科学研究科 修士学位論文
5) 井上 喜洋:ソナーによる定置網漁場におけ る、魚群の行動に関する研究 水工研報告 9,
1998 年 pp.227-234