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成人知的障害者を子どもに持つ親の障害の捉え方

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成人知的障害者を子どもに持つ親の障害の捉え方

―社会との関わりの中で―

齋藤 陽介・中村 延江 キーワード:障害者を子どもに持つ親 M-GTA 社会

抄録:本研究の目的は,成人知的障害者を子どもに持つ親の障害の捉え方のプロセスを調べる ことであった。障害の捉え方のプロセスを辿ることで,直接支援するための指針となる手がか りを掴めるかもしれないと考えたためである。障害の捉え方は,成人障害者を子どもに持つ親 の内面的な変化だけから見ていくのではなく,社会との関わりの中でどのようなプロセスを経 て現在に至るのかを調べた。対象は,成人知的障害者を子どもに持つ親(性別は問わない)16 名とした。調査は面接によって行われた。面接は研究者が予め用意した質問項目に答えてもら う半構造化面接を用いた。M-GTAによる分析の結果,32の概念が生成された。生成された概 念を,類似性の観点からいくつかのカテゴリーに分類していった。カテゴリーは,【障害者を子 どもに持つ仲間】,【福祉社会】,【家族社会】,【出来事】,【一般社会】,【親子社会】,【不安要 素】,【心理変化】,【親+α】,【障害を持つ子どもの力】という

10個が生成された。本研究の結

果は,成人知的障害者を子どもに持つ親と一般社会との間に心理的距離と物理的距離のどちら も離れているということを浮き彫りにした。

1.序論

障害者を子どもに持つ親は多大な負担を課せられ,解決困難な事態に遭遇することは周知の 事実である。有川(2002)によると,障害児・者の家族の問題は,以前は障害者の背後の問題 だったが,今日では,家族の問題そのものにも焦点が当てられるようになったという。これは,

親の精神保健上の問題が子どもの発達に大きな影響を及ぼすことが指摘されることと関連する

(中塚,1984)。障害児・者の親や家族を対象とした研究には,親の養育態度やストレス研究,

子どもの障害受容過程など様々な視点からのアプローチがみられる(工藤・奥住,2008)。

障害者を子どもに持つ親が研究の対象となることを言い換えると,障害者を子どもに持つ親 は支援の対象となると言える。得津(2009)によると,近年は

“本人(障害者)主体”

から

“家族

主体” という支援が注目されているということである。障害者を子どもに持つ親の研究は,ス トレス研究や親の養育態度研究などによる,親の特徴を明らかにしようとするものが多いもの の,支援を想定した研究も存在する。その研究の多くは,インタビュー形式を用いた質的研究 である。質的研究は,データ解釈における信頼性や客観性が犠牲にされやすいという問題点も あるが,社会状況の中で人間の経験の多彩な報告を解釈することができるという優れた点も有

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している(桑田・神尾,2004)。その中で,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以 下,M-GTA)は,実践的な活用が期待される研究方法である(木下,2007)とされている。実 践的であるため支援を想定されていることになる。また,分析焦点者という対象を一括りにす ることで,対象の特徴を明らかにできるため,事例的な質的研究よりも汎用性が高い。

M-GTA

を含め,障害者を子どもに持つ親の研究は,子どもの障害毎の特徴を踏まえた上で

という考えからなされている。実際に子どもの障害種によって親のストレスに差があったり

(例えば新美・植村,1980),受容過程が異なったり(例えば下田,2006)する研究は見られる。

しかし,障害間よりも健常―障害間での差があること(新美・植村,1980)や,親には障害が ないことを考えると,子の性質ばかりに目を向けるのでは親の支援に結びつかないように思わ れる。子どもの障害が身体障害なのか知的障害なのかといった大きな枠組みは最低限必要では あるが,必要以上にミクロな視点にしないことが,支援においては必要ではないだろうか。

障害者を子どもに持つ親は,社会との関係を意識し,向き合わざるを得なくなっていると言 われている。ストレス研究においては,中塚(1985)が「障害者家族が経験するストレスには,

障害児自身がストレッサーなのではなくて,社会的な偏見や,無理解,制度的な不備が影響す る」と述べている。障害受容の研究においても,加藤(2012)は,人の前に出て話をすることが 多くなったという親の社会化を促進する

“子どもの障害による母親の社会化”

という概念を生 成している。すなわち,障害者を子どもに持つ親と社会との関係は,目的や立場や方法論の異 なる研究においても,重要な要素として顔を出していることになる。

以上から,障害者を子どもに持つ親を直接支援するための指針となる研究を考えていくと,

実践的な活用ができる研究として

M-GTA

が適しているように思われる。障害者を子どもに持 つ親の現在や過去の一時点を切り取り,その際の親や子どもの状況や状態を明らかにするより も,プロセスを明らかにする方が障害者を子どもに持つ親の特徴や背景に関する理解を深めら れるためである。その上で,これまで問題の中心となってきた,子どもの障害種に焦点を当て た研究ではなく,障害者を子どもに持つ親全般が感じているとされる社会との関わり方に焦点 を当てた研究の必要性を感じる。

2.目的

本研究の目的は,成人知的障害者を子どもに持つ親の障害の捉え方のプロセスを調べること である。なお,障害の捉え方は,成人障害者を子どもに持つ親の内面的な変化だけから見てい くのではなく,社会との関わりの中でどのようなプロセスを経て現在に至るのかを調べる。そ の理由としては,先行研究より障害者を子どもに持つ親と社会との関係を調べる意義が唱えら れているが,実証的研究は存在しないためである。

以上のことを調べるため,プロセスを見ていくことに特化している

M-GTA

を分析方法とし て用いる。M-GTAを分析方法として用いる理由としては,他の方法論での研究よりも,障害者 を子どもに持つ親に対して直接支援する指針を見出すことができると考えられたためである。

(3)

3.方法

研究対象者・調査期間・面接形態

成人知的障害者を子どもに持つ親(性別は問わない)16名とした。人数は質的研究の先行研 究(例えば得津,2009)に基づき設定された。成人知的障害者が利用しているサービスは,対 象者によって異なり(例えば,施設入所,グループホーム,通所施設など),障害の種類(ダウ ン症や自閉症等)も問わなかった。成人を過ぎた知的障害者を持つ親という点のみを条件とし た。表

1

は,対象者の属性をまとめたものである。

表1 対象者の属性

性別 女性 16人(100%) 男性 0人(0%)

年代 40代 2人(12.5%) 50代 9人(56.3%) 60代以上 5人(31.2%)

子どもの性別※ 女性 5人(29.4%) 男性 12人(70.6%)

子どもの年代※ 20代 11人(64.7%) 30代 5人(29.4%) 40代 1人(5.9%)

子どもの居住状況※ 自宅 13人(76.5%) 施設・グループホーム 4人(23.5%)

※対象者の中に障害の子どもを2人持つ親が1人いたため合計が17人となる

面接形態・調査期間

調査は面接によって行われた。面接は研究者が予め用意した質問項目に答えてもらう半構造 化面接を用いた。半構造化面接の性質上,対象者は自由に回答することができ,調査者も予め 用意した質問項目以外の質問をすることもあった。面接は対象者につき一回行なわれ,時間は

1時間から 1

時間半であった。面接調査は研究者が全て行った。調査期間は,桜美林大学倫

理審査の承認後の

2012年 3月から 5

月であった。

質問項目・インタビューガイド

調査に入る前に,プロフィール情報として子どもの障害名,家族構成と成員の年齢,利用し ている福祉サービスを聞いた。

研究者が予め用意した質問項目,インタビューガイドは,以下の通りである。質問項目は,

障害に対する捉え方を明らかにするため,社会との関わり,現在の生活,他者との繋がりに関 するものとした。プロセスを重視するため,以下の質問に対して過去はどうだったのかについ ても現在の状況を聞いた後に確認した。インタビューガイドは,中塚(1985)のストレス尺度 の一部の因子の項目を参考にした。障害者の親の量的研究(主にストレス研究)において,近 年まで最も利用されている尺度であることから,障害者の親の特性を捉えるのに適していると 考え採用した。特に,本研究は,子どもが成人であること,社会との関わり,他者との繋がり を把握することを目的としているため,中塚(1985)の尺度の因子の「社会的圧迫感」を重視 し,「不安感」尺度の将来に関する項目も参考にした。

① 成人を過ぎ成長した子どもは社会においてどんな位置づけだと思われますか?

② また,社会からどう思われていると思いますか?

③ 子どもが今の生活を評価するとしたらどういう評価をすると思いますか?

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④ あなたは今の生活を評価するとどういう評価をしますか?

⑤ 福祉サービスを利用している以外で子どもに関わる集団に属していますか?

分析方法

分析は修正版グランデッド・セオリー・アプローチ(以下

M-GTA)で行なわれた。M-GTA

はプロセスを見ていくのに適しているため採用された。また,データを切片化せず分析し,明 確な動きのある概念を生成できるため(木下,

2007),親や福祉現場に対してフィードバックを

行いやすいことも採用した理由としてここでは挙げる。

M-GTA

は分析テーマの選定が必要とな ってくる。本研究における分析テーマは,目的と同じ意味となる。すなわち,「成人知的障害者 を子どもに持った親の障害の捉え方のプロセス」である。M-GTAは,分析テーマに加え,分析 焦点者の選定が必要となる。分析焦点者は,特定の個人ではなく,研究対象となる集団である。

本研究においては「成人知的障害者を子どもに持った親」となる。

4.結果 概念とカテゴリー

M-GTA

による分析の結果,32の概念が生成された。次に,生成された概念を,類似性の観

点からいくつかのカテゴリーに分類していった。以後,本論文において概念は『 』,定義は

「 」,カテゴリーは【 】,コアカテゴリーは〈 〉で表示する。カテゴリーは,【障害者を子ど もに持つ仲間】,【福祉社会】,【家族社会】,【出来事】,【一般社会】,【親子社会】,【不安要素】,

【心理変化】,【親+α】,【障害を持つ子どもの力】という

10個が生成された。また,各カテゴ

リーは,いくつかの軸で考えることができたので,その軸をコアカテゴリーとした。コアカテ ゴリーは,〈社会〉,〈子どもの状態〉,〈心理プロセス〉,〈障害者を子どもに持つ仲間の力〉,〈親

+α〉,〈出来事〉という

6

つから構成された。コアカテゴリーによっては,

1

つのカテゴリーの みからも存在する。コアカテゴリー,カテゴリー,概念の一覧が表

2である。

(5)

表 2 カテゴリー表

コアカテゴリー

子どもになりかわること 独特な親子関係

子どもが子どもらしくあるためのささやかな願い ピープルファースト(障害者の前に人間である)

家族の対等性 家族の力

きょうだいへの負担 福祉・教育の課題

福祉から与えられる期待・希望 社会から与えられた障害者の枠 社会から一般常識で捉えられる障害者 社会からの障害の知識不足から生じる反応 社会の障害者に対する優劣

頼れない社会 与えられている側 要サポートの子ども 障害種による引け目

子どもが社会の義務を果たしている側面 子どもの成長

子どもの持つ(特殊な)力

出来事 日常が崩れることによる実感

親自身の生活 頑張った時期

経験の結果による親の成長 親の務め

障害を持つ子どもの親である覚悟 具体的な将来

エネルギーを社会へ

親以外の支援の受け方の重要性

与えられるだけではなく与える側という視点を持つこと 子どもを成人とみなす努力

障害者を子ども

に持つ仲間の力 繋がり・情報=安心感

カテゴリー名

社会

親子社会

家族社会

福祉社会

一般社会

親+α 親+α

障害者を子どもに持つ仲間 子どもの状態

不安要素

障害を持つ子どもの力 出来事

心理プロセス 心理変化

結果図

生成された,コアカテゴリー,カテゴリー,概念の関係を示した結果図が次ページの図

1

で ある。図の矢印はプロセスの流れを意味している。黒塗り矢印はポジティブな側面,白い矢印 はネガティブな側面を表している。どちらとも取れる矢印は灰色で表されている。

(6)

図1 結果図

(7)

ストーリーライン

次に結果図における関係性をストーリーラインとして説明する。各コアカテゴリーの説明を していく。コアカテゴリーの流れに沿ってカテゴリー・概念の説明をしていく。各コアカテゴ リーの説明をしていきながら,そのコアカテゴリーと関連するコアカテゴリーやカテゴリー,

概念についても説明していく。

〈社会〉における立ち位置

① 障害者を子どもに持つ親と障害を持つ子どもとの【親子社会】は,『子どもになりかわるこ と』,『独特な親子関係』に象徴される,密度の濃い親子関係を形成する。その後,『ピープ ルファースト(障害者の前に人間である)』や『子どもが子どもらしくあるためのささやか な願い』といった考えを持つようである。

② 【親子社会】を含む形で【家族社会】が存在する。『日常が崩れることによる実感』として

『家族の力』を感じ,『ピープルファースト』の考えの派生として『家族の対等性』を持った りする。【不安要素】として『きょうだいへの負担』が伴う場合もある。

③ 【親子社会】,【家族社会】と離れた位置に【一般社会】と【福祉社会】が存在する。【一般社 会】と【福祉社会】は重なる部分がある。【福祉社会】に対しては,『福祉から与えられる期 待・希望』というポジティブな側面と,『福祉・教育の課題』というネガティブな側面が存 在する。同様に,【一般社会】もポジティブな側面とネガティブな側面に分かれているよう に思われる。しかし,【一般社会】におけるポジティブな側面は,『社会から与えられた障 害者の枠』であり,このことがネガティブに働くことも懸念される。【一般社会】は,『頼 れない社会』に代表されるネガティブな側面を多く持つ。社会からの目として,『社会から の障害者に対する優劣』で判断されたり,子どもの問題行動は親のしつけから来るなどの

『社会からの障害の知識不足から生じる反応』を感じたり,働かざるもの食うべからずと いった『社会から一般常識で捉えられる障害者』と認識している。【一般社会】に対する感 じ方の影響が【家族社会】との距離を生み,『ピープルファースト』といった考えを強くし ている可能性も考えられる。

〈子どもの状態〉

① 〈子どもの状態〉は,親にとっての【不安要素】であると同時に,プラスの【障害を持つ子 どもの力】という側面も持つ。【不安要素】は,『与えられている側』,『要サポートの子ど も』,『障害種による引け目』,そして【家族社会】とも関係する『きょうだいへの負担』で ある。これらは【一般社会】と【福祉社会】の特に【福祉社会】と密接に関係している。『要 サポートの子ども』であるために【福祉社会】からの支援は必要だが,福祉が充実すれば 子どもは『与えられている側』と強く思ってしまう。これら【不安要素】は,【心理変化】に おける『頑張った時期』にも影響する。子育ての初期は,【不安要素】があるために頑張っ ていくのである。

② その頑張りが収束していくのは,もう

1つの子どもの状態である〈障害を持つ子どもの力〉

によるものが大きい。『子どもの成長』などを確認することで,親自身が頑張る必要がない

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ことに気付くのである。ここでの『頑張った時期』が収束するからといって,子どもを放 置・放任するようになるのではなく,過剰な頑張りが収束するという意味である。『子ど もが社会の義務を果たしている側』になったり,『子どもの持つ(特殊な)力』の存在に気 付いたりすることは,直接【一般社会】などと関係するわけではなく,【親+α】といった ような障害者を子どもに持つ親の域を超えた考えに結びつく。

〈心理プロセス〉

① 〈心理プロセス〉は,子どもに障害があると告知されたことに関係する概念は削除され,そ れ以降の,『障害を持つ子どもの親である覚悟』が最初の概念であった。この覚悟は,子ど もに障害があるときから持ち,現在も継続されていることがある。ただし強度は異なる可 能性がある。覚悟の上,子どもと接していくものの,『不安要素』から過剰な『頑張った時 期』を迎える。しかし,子どもの成長や頑張りとも関係する『経験の結果による親の成長』

により過剰な頑張りは収束に向かう。子どもの成長,親の成長を目の当たりにし,『親とし ての務め』に気付く。それと同時期に余裕が生まれ,幾分かの申し訳なさを感じながらも

『親自身の生活』を考えられるようになる。『具体的な将来』を考えることも,子どもと自 身の生活を客観的に見ることができるようになったときに考えるようになっている。

〈出来事〉によって生じること

① 障害者を子どもに持つことによって,思わぬ〈出来事〉に遭遇することが多々ある。それ により『日常が崩れることによる実感』を持つこととなる。その出来事は,障害者を子ど もに持つ持たないに関わらず誰しも遭遇する出来事と,障害者を子どもに持つことによっ て遭遇する出来事の

2

種類に分かれる。どちらであっても,些細な出来事で日常は崩れ,

それを取り戻そうとすることで,【家族社会】における『家族の力』を再認識したり,親が 予想していたよりも『子どもの成長』などの〈障害を持つ子どもの力〉を実感したりする。

当然,『日常が崩れることによる実感』はポジティブな側面だけではなく,【一般社会】に 対するネガティブな認識を強めることにも繋がる。日常が崩れたとき【一般社会】や【福 祉社会】から助けられる側面も含まれるが,『頼れない社会』という認識が強くなる方が多 い。

〈障害者を子どもに持つ仲間の力〉の影響力

① 〈障害者を子どもに持つ仲間の力〉は,一言で表すと『繋がり・情報

=

安心感』である。繋 がりは,単純に群れるためのものではなく,仲間からの情報を得て,これらは安心感に結 びつく。〈障害者を子どもに持つ仲間の力〉は,他のカテゴリーにも影響を与える。特に親 の【心理変化】の例えば『親の務め』はこうあるべきであるという思想をもたらす。さらに は,【親+α】な発想へと加速させる。色々な情報を得るということはメリットだけではな く,時にはデメリットにもなる。それは,情報を知りすぎることによる,他者と自身や子 どもを比較してしまうことなどである。

〈親+α〉

① 一般的な子を持つ親としての務めとしてだけでなく,障害者を子どもに持つ親としての務

(9)

めの域を超えることがあり,それが〈親+α〉である。その特徴は,エネルギーの多さであ り,それが『エネルギーを社会へ』向けること,『与えられるだけではなく与える側という 視点を持つこと』に結びつく。前者は〈一般社会〉との関係の悪さを解消するための動き であり,後者は〈福祉社会〉による一方的な支援関係に対する反発である。『親以外の支援 の受け方の重要性』は,〈福祉社会〉と関係しているものの,福祉を仕事としている人たち の力だけでなく,子どもに関わる全ての人を取り込みたいという思いを含めると,壮大な 概念なのである。『子どもを成人とみなす努力』は,対外的ではないが『子どもが社会の義 務を果たしている側』になっていることを踏まえ,子どもを成人として扱おうとするエネ ルギーの強さが,〈親+α〉なのである。

5.考察

社会との関係性からいえること(親が見た「社会」について)

本研究の結果から,成人知的障害者を子どもに持つ親は,一般社会と距離を感じていること がわかった。社会から子どもが制度上守られているという感覚はなく,別枠として扱われてい るように感じている。子どもに多くのお金がかかっているなどの情報は入っているものの,社 会をネガティブに感じざるをえない出来事と遭遇することが多いであろう。障害者に対する社 会からの目は,具体的な出来事から「かわいそう」と優劣で捉えられたり,「しつけの問題だ」

と知識不足から判断されたりしている。親と子の関係が密であることから,子どもが弱者であ るという見られ方をしていることにより,親は同様の見られ方をされているのではないかと感 じている可能性がある。

福祉社会に対しても,支援を受ける側という一方的な支援関係のように感じており,福祉の 在り方を考えていかなくてはならない。支援を受ける側という姿勢が強くなることで,障害者 の子どもを持つこと自体がネガティブなのではないかという考えを助長しているのではないだ ろうか。子どもを支援する立場の者は,支援者と被支援者の親という関係が,元々対等でない ことを自覚しておくことが求められるであろう。

一般社会との距離が近くなることは容易いことではない。一般社会の一部として福祉社会が 取り込まれているのであれば,それは不可能ではないかもしれない。福祉社会が一般社会と家 族社会の架け橋となるためには,どのような支援が必要なのか。それには,本論文の冒頭でも 述べた障害者主体の支援から家族主体の支援という視点が必要なのではないだろうか。しか し,現状は障害者と関係する福祉制度は,障害者本人が受給できるものが多く,家族が受けら れるのは補助金等,金銭的な援助のみである。障害者を抱える家族の生活が一般社会のものと して保障される制度が何よりも急務だと考える。

福祉社会が障害者本人主体の支援から脱却できていないからこそ,障害者を子どもに持つ親 は,同じく障害者を子どもに持つ親の仲間との繋がりを強め,小さな福祉社会として成り立つ ものも出てきて,最終的には親本人たちで社会に立ち向かっていこうとする構図となっている ように思われる。一見,障害者を取り巻く社会は,福祉社会が中心をなしているように思われ

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るが,本研究の結果において福祉社会はあまり重要なポジションではなかった。重要なポジシ ョンを占めていたのは,障害者を子どもに持つ仲間であった。親に「どうせわかってくれるの は同じ境遇の人だけ」と思わせないためにも,福祉社会は,障害者の親の繋がりと密接になり,

そして前述したように一般社会との架け橋になるというような,役割が残されている気がして ならない。

障害者を子どもに持つ親の心理プロセスから

障害者を子どもに持つ親は母子分離が難しいとされるが,本研究の結果はもう少し補足でき る。子どもが成人を迎えた親であっても,子どもになりかわったり,子どもが要サポートであ ると思ったりしているため,厳密な母子分離ができているとは言い難い。しかし,子どもを成 人にみなそうとしたり,社会に貢献できていることを強調したりと母子分離の努力をし続けて いるといえるだろう。その努力の集大成といえるのが,+αの動きとして親以外の支援の受け 方を親が模索していることであろう。障害者を支援する側の人間が,親に対し子どもへの愛情 が過剰であるだとか母子分離すべきであるなどと考えるべきではなく,このような親の心情を 加味し,子どもである障害者の支援を行いながら,母子分離を努力していることに対して目を 向ける必要があるのではないだろうか。年数を重ねても離れられない心理的・物理的な距離が 障害者とその親には存在することを理解することは重要なのである。

成人知的障害者を子どもに持つ親の心理変化の過程である『頑張った時期』についても考察 したい。この時期は,結果でも述べた通り,不安要素あっての時期であり,子どもの状態や障 害の理解が低い時期といえる。そのような時期における,不安要素を含め拭った一番の要因は,

再三重要視している障害を持つ子どもの親の仲間の力なのである。障害を持った仲間の存在 が,頑張った時期に意味を与えているということではないだろうか。支援という視点で考察を 加えるのであれば,頑張った時期に頑張りを認めつつも,どう不安要素を取り除くかが重要で はないだろうか。障害者を子どもに持つという共通感から認め合いが生じ不安が解消されると すると,支援者は事実や正論で不安を解消するのではなく,親の頑張りを受容するという,カ ウンセリング的な視点に立ち支援することが求められるのではないだろうか。

文献

有川宏幸 2002 自閉症児・者をもつ家族の地域支援のあり方 特殊教育学研究,40,429 –434 木下康仁 2007 ライブ講義M-GTA実践的質的研究法 修正版グラウンデッド・セオリー・アプロー

チのすべて

加藤のぞみ 2012 知的障がい児をもつ母親の内的変容―母子関係に着目して― 京都大学大学院教 育学研究科紀要,58,327 –339

工藤麻由・奥住秀之 2008 障害児をもつ親のストレスに関する文献研究 東京学芸大学紀要 総合 教育科学系,59,235 –241

桑田左絵・神尾陽子 2004 発達障害児をもつ親の障害受容過程についての文献的研究 九州大学心 理学研究,5,273 –281

中塚善次郎 1984 障害児をもつ母親のストレスの構造 和歌山大学教育学部紀要 教育科学,33,

27–40

(11)

中塚善次郎 1985 障害児をもつ母親のストレスの構造(Ⅱ) 和歌山大学教育学部紀要 教育科学,

34,5–10

新美明夫・植村勝彦 1980 心身障害幼児をもつ母親のストレスについて―ストレス尺度の構成― 

特殊教育学研究,18 (2),18–33

下田茜 2006 高機能自閉症の子をもつ母親の障害受容過程に関する研究−知的障害を伴う自閉症と の比較検討― 川崎医療福祉学会誌,15,321 –328

得津慎子 2009 知的障害者家族にみる日常生活を維持する力:M-GTAによるプロセス研究 関西福 祉科学大学紀要,13,19 –35

表 2 カテゴリー表 コアカテゴリー 子どもになりかわること 独特な親子関係 子どもが子どもらしくあるためのささやかな願い ピープルファースト(障害者の前に人間である) 家族の対等性 家族の力 きょうだいへの負担 福祉・教育の課題 福祉から与えられる期待・希望 社会から与えられた障害者の枠 社会から一般常識で捉えられる障害者 社会からの障害の知識不足から生じる反応 社会の障害者に対する優劣 頼れない社会 与えられている側 要サポートの子ども 障害種による引け目 子どもが社会の義務を果たしている側面 子どもの

参照

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