はじめに
自閉スペクトラム症(autism spectrum disor-der:ASD)は,社会的コミュニケーションおよ び対人相互性反応の障害,興味の限局と常同 的・反復的行動を主徴とし,乳幼児期に発現す る精神発達の障害である.Diagnostic and Statis-tical Manual of Mental Disorders, 4th ed(DSM‒
Ⅳ)1)では広汎性発達障害という上位概念のも とに,自閉症,アスペルガー障害,特定不能の 広汎性発達障害などの下位分類が存在したが, DSM‒52)では ASD という概念で統一された. DSM‒Ⅳ‒TR3)では自閉症の有病率の中央値 は 10,000 人に対して 5 人とされていたが,自閉 症に対する認知度が高まり,さらに自閉症から ASDへの診断基準の拡大が加わり,その有病率 はこの数年急増している4).Baird ら5)によると 英国の疫学調査では,ASD の有病率は 10,000 人 あたり 116 人と推定されている.ASD の有病率 が実際に増加したのか,認知度の高まりによる ものなのか,診断基準の拡大によるのか,研究 方法の違いによるのかは明らかになっていない. 近年,ASD への認識の高まりによって,社会 的にも関心を集めるようになり,専門家による 対応が多く必要となってきている.しかしなが ら,需要が高まっている一方で,十分な診療が 行われているとは言い難いのが現状である. 本稿では,自閉スペクトラム症について,① 概念の変遷,②診断と臨床像,③治療,④経過 と予後,⑤心身医学における ASD の特性理解に ついて述べてみたい.
ASD
概念の変遷
1943 年,米国の Kanner6)によって自閉症が初 めて報告された.彼はその臨床像について,人 との意思疎通がほとんどみられず,こだわりが 強く,常同行動,オウム返しの言語がみられる が,優れた記憶力をもつと記述し,「早期幼児自 Jpn J Psychosom Med 57:19-26, 2017 * 北海道大学大学院保健科学研究院生活機能学分野(連 絡先:傳田健三,〒060‒0812 北海道札幌市北区北 12 条西 5 丁目) 特集:心身医学の臨床における発達障害特性の理解自閉スペクトラム症(ASD)の特性理解
傳田健三
*抄録: 自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)は,社会的コミュニケーションお よび対人相互性反応の障害,興味の限局と常同的・反復的行動を主徴とし,乳幼児期に発現する 精神発達の障害である.DSM‒Ⅳでは広汎性発達障害という上位概念のもとに,自閉症,アスペ ルガー障害,特定不能の広汎性発達障害などの下位分類が存在したが,DSM‒5 では ASD という 概念で統一された.近年,ASD への関心と需要が高まっている一方で,十分な診療が行われて いるとは言い難いのが現状である. 本稿では,自閉スペクトラム症について,①概念の変遷,②診断と臨床像,③治療,④経過と 予後,⑤心身医学における ASD の特性理解について述べてみたい. Key words:自閉スペクトラム症,DSM‒5,神経発達症群,特性理解
閉症」7)と名づけた.一方 1944 年,オーストリ アの小児科医 Asperger8)は共感能力の欠如,一 方的な会話,特定の興味への没頭,ぎこちない 動作などがみられる症例を報告し,「子どもの 自閉的精神病質」と名づけた. 自閉症は当時,子どもの統合失調症として考 えられたり,両親の性格や養育などによる心因 性の情緒障害であると考えられていた.ところ が 1968 年,英国の Rutter9)は自閉症の基本障害 は言語・認知機能の障害であるとし,「言語・ 認知障害仮説」を提唱したのである. 一方,Asperger の症例はほとんど採り上げら れることがなかったが,1980 年頃より英国の Wing10)が,言葉の発達の遅れは伴わず,自閉症 の診断基準は満たさないが,それ以外は自閉症 と同じ特徴をもち,学校や社会で困難を抱えて いる子どもが少なくないことを見い出した.こ れらのグループはかつて Asperger が記述した 子どもと一致することから「アスペルガー症候 群」と命名されたのである.これによって初め て自閉症の概念が拡大した.また,それまでは 知的障害を伴う人たちが圧倒的に多いと思われ ていたが,1990 年代以降,知的障害のない「高 機能自閉症」がかなり存在することがわかって きた. 2013 年,DSM‒5 の改訂に伴い広汎性発達障 害は ASD に変更された.先にも述べたように, 広汎性発達障害の下位分類はなくなり,症状の 軽い状態から重度の状態までを連続的にとらえ る ASD という概念に統一された.すなわち,カ テゴリー診断からディメンション診断へ大きく 方向を転換したといえるだろう.Fig. 1には発 達障害の連続性について図示した11).ディメン ション診断の意義がわかるだろう.
診断と臨床像
1. 主徴候 これまで ASD は,1)社会性の障害,2)言 語・コミュニケーションの障害,3)興味の限局 と常同的・反復的行動の 3 つの領域における早 期発症によって定義されてきた.これは原則と して今でも変わらないが,後述するように, DSM‒5 では前二者が 1 つにまとめられること になった. 1) 社会性の障害 これは他者との相互反応の質的な障害であ る.幼少時から 1 人遊びを好み,視線が合いに くく,すぐに目をそらす傾向がある.人に対し て関心がなく,人や状況に対して自然にかかわ れない.また,対人的疎通性に欠け,感情的接 触がとりにくい.傷ついたときに慰めを求めな い.しかし,人見知りや遠慮はない.すなわち, ASDの子どもは社会的文脈に応じて自分の行 動を調整することが困難で,他者の感情を察し て適切に反応することが苦手である.通常,同 年齢の仲間との相互関係が限定され,親密な友 情関係を築くことが困難である.もちろん子ど もによって程度はさまざまである. 2) 言語・コミュニケーションの障害 言語表出においても言語理解においても,さ らに話し言葉もジェスチャーにおいても発達の 遅れがみられる.コミュニケーションの目的と しての言語使用が困難である.自閉症の約 30% は有意味語を獲得しない.言葉が出ても遅れと 偏りが認められる.言葉を意思を伝える道具と して用いることができない.反響言語,代名詞 の逆転,単語や語句の独特な用い方,言葉の創 Fig. 1 発達障害の連続性:ディメンショナル な視点(青木,2012 より引用改変) 自閉症 高機能自閉症 アスペルガー障害 特定不能の広汎性発達障害 発達障害の傾向をもつ人 いわゆる「定型発達」 ①広汎性発達障害(PDD)≒自閉スペクトラム症(ASD) 強 弱 発達障害 の 傾向 ①作,反復的な語句などが特徴的である.ASD の 子どもの会話は他者とやりとりする形ではな く,他者に一方的に話すことが特徴的である. すなわち相互的な言葉のやりとりが困難であ る.言葉を実際に使用するうえではユーモアを 理解したり,皮肉や暗示された意味のような言 葉の文字以外の側面を理解することが困難であ る. 3) 興味の限局と常同的・反復的行動 ASD の子どもは,限定された,反復的で常同 的な行動,興味,活動の様式をもつ.特定の行 動や活動(ルーチンや儀式)への異常なこだわ り,変化に対する抵抗(家具の配置換えにかん しゃくを起こす),同じことを繰り返す常同行 動(手をひらひらさせたり,くるくる回転させ たりする),特異なものへの執着(ゴミ箱や紐・ 輪ゴム),限られたテーマ(列車の時刻表,カレ ンダー,自動車の価格など)に没頭することが 特徴である.また,物体の一部に対する持続的 な熱中(ボタンや身体の一部)や動くものに対 する強い興味(おもちゃの車輪,ドアの開閉な ど)もしばしばみられる.いわゆるサヴァン症 候群といわれる特別な能力が存在することがあ る(読んだものをすべて記憶したり,日付を計 算する驚異的な能力など). 2. DSM‒5 における改訂点 DSM‒5 における改訂点は,第 1 に,ASD は 「神経発達症群/神経発達障害群」の大分類の中 に含まれたことである.この分類には知的能力 障害群,コミュニケーション症群,注意欠如・ 多動症(ADHD),限局性学習症,運動症群, チック症,他の神経発達症群が含まれている. その結果,ASD と ADHD の併記が可能になっ たことも重要な改訂点である.第 2 に先に述べ たように,広汎性発達障害から ASD への変更で ある.これはカテゴリー診断からディメンショ ン診断への転換を意味する.これにより特定不 能の広汎性発達障害が排除された.その結果, こだわり行動が明らかではない群が,ASD では なく社会性(語用論的)コミュニケーション症 に分類されることになった.第 3 に,DSM‒Ⅳ‒ TRまでの広汎性発達障害では主徴候は上記の 3徴候であったが,DSM‒5 では前二者が 1 つに まとめられ,①社会的コミュニケーションおよ び対人的相互反応の障害と②行動,興味,活動 の限局された反復的な様式の 2 徴候となってい る.そして,②の中に感覚刺激に対する過敏 性・鈍感性などの知覚異常の項目が追加された のである.また,重症度に関しては,ASD を軽 度,中等度,重度とそれぞれ具体例を示して判 定を行うことになった.第 4 に,成人でも使用 可能になったことである.従来の幼児期に出現 する症状を中核とした診断基準から,どの年齢 においても用いることが可能なものへ変更に なったのである. 3. 診断ツール 3 主徴のそろった典型的な ASD の診断は比較 的容易であるが,非典型例の何をもって ASD と 診断するかは,専門家の間でも意見が一致しな いことが少なくない4).症状が軽症になるにつ れ,また大人になるにつれ診断一致率は低下す る.これはディメンション診断では当然起こり うることである.グレーゾーンの患者をどのよ うに診断するかは患者に応じた判断が必要にな る.DSM 診断は各項目を満たしているか否か の基準が曖昧なため,DSM のみによる診断で は不十分といわざるを得ない.下記に示すさま ざまな評価スケールと組み合わせることによっ て診断の補助としていく必要がある. わが国で開発され ASD の評価尺度としてよ く用いられているものとしては PARS(Perva-sive Developmental Disorders Autism Society Japan Rating Scale:広汎性発達障害日本自閉症 協会評定尺度)12)13)がある.①対人,②コミュニ ケーション,③こだわり,④常同行動,⑤困難 性,⑥過敏性の ASD に特徴的な 6 領域 57 項目
で構成されており,保護者への面接で実施され る.さほど時間がかからず,一定の知識があれ ば誰でも施行できる評価尺度といえる. 海外の専門家が ASD 診断で使用するツール としては,ADI‒R(Autism Diagnostic Interview‒ Revised)14)と ADOS(Autism Diagnostic Observa-tion Schedule)15)がある.ADI‒R は保護者への面 接で実施され,主として過去の特性の判定を行 い,ADOS は本人を対象とし,現在の特性の判 定を行う半構造化面接である.それぞれが相補 的な関係にあるきわめて有用なツールである. どちらも最近になってようやく日本語版が出版 されたが,評定者には一定の研修が必要であ り,実施には 1~2 時間以上を必要とするため, 日常臨床においてすべての対象に使用すること は容易でない. 発達・知能検査としては,WAIS‒Ⅲ,WISC‒ Ⅳ,新版 K 式などが標準化されている.発達や 知能レベルを客観的に知ることが可能であり, それぞれの認知機能のばらつきによって発達障 害らしさを知ることはできるかもしれないが, その精度は低く,診断に用いることはできな い.しかし,発達・知能レベルを知ることは ASDの子どもの生活適応や困難度を知ること であり,必須の検査であると思われる. 質問紙もさまざまなものが開発されている. 親記入用質問紙としては,わが国で開発された 24項目の IBC‒R(Infant Behavior Checklist‒ Revised:乳幼児期行動チェックリスト改訂 版)16)および 1 歳 6 カ月児を対象とした 23 項目 の M‒CHAT(Modified Checklist for Autism in Toddlers:修正乳幼児期自閉症チェックリスト 日本語版)17)がある.しかし,これらはあくまで スクリーニングのための質問紙である.また, 青年期以降の対象者には自記式質問紙 AQ‒J (Autism Spectrum Quotient Japanese Version: 自閉症スペクトラム指数日本語版)18)19)を用い ることがある.ただし,その結果は記入者本人 の主観であることは忘れてはならない.親や教 師の評価と大きく異なることもまれではない. そのことを十分に理解したうえであれば,対象 者の理解を深めるためには有用といえるかもし れない. 上記のほかにもさまざまな発達障害用の評価 スケールが存在し,いずれも有用ではあるが, これらのスケールのカットオフ値のみで診断す るだけでは不十分であり,発達歴,生活歴,現 病歴,家族歴を把握したうえで,最終的な臨床 診断をする必要がある. 4. 併存する精神症状・疾患 ASD にはさまざまな精神症状あるいは精神 疾患が併存する.不安障害(43~84%),うつ病 (2~30%),強迫性障害(37%),注意欠如・多 動症 ADHD(59%),反抗挑戦症(7%),チッ ク障害(8~10%),てんかん発作(5~49%), 睡眠障害(52~73%)などを合併する頻度が高 い.また,興奮性,攻撃的行動などの非特異的 な異常行動(8~34%)や自傷行動(34%)も多 くみられ評価が必要である20). これらの併存する精神症状や精神疾患の有無 および重症度を適切に評価することによって, 目の前の子どもの問題が ASD の特性によるも のなのか,あるいはむしろ併存する他の精神疾 患によるものなのかが明らかになる.それらを 総合的に診断し,はじめて治療方針を立てるこ とが可能となるのである.
治療
1. 心理社会的治療 Rutter21)は ASD の治療の主な目的を以下の 4 つにまとめている. 1)認知,言語および社会性の正常な発達を 可能な限り促進,刺激すること. 2)硬直性,常同性,柔軟性のなさのような自 閉症と関連した不適切行動を減らすこと. 3)多動,刺激性,衝動性などの非特異的な不 適応行動を減らす,もしくはなくすこと.4)家族のストレスと負担を軽減すること. ASD の治療は家族カウンセリング,構造化さ れた特別な教育的手法,個人の行動修正,在宅 でのトレーニング,特別支援学校やデイケアセ ンターでの就労援助など多様である.最近の研 究では,早期の集中的な行動への介入によって 予後がよくなることが明らかになっている22). 適応獲得のためのプログラムとして,応用行 動分析(ABA),包括的な TEACCH プログラ ム,社会生活技能訓練(Social Skills Training: SST)などがある.認知発達段階に注目した太 田ステージ評価は治療教育の個別プログラムを 作成するうえで有用である.また,家庭環境, 学校環境,地域や職場などの環境を適切化する ことにより,積極的な社会参加が追及されてい る23).しかし,実地臨床では上記のプログラム を正式な方法で厳密に行うことができる施設は 限られている.それぞれの要素を採り入れなが ら,各施設のできる範囲で応用しているのが現 状であろう. 2. 薬物療法 ASD の攻撃行動,興奮性などの非特異的な異 常行動に対しては,aripiprazole と risperidone が RCT(randomized controlled trial)で効果を実証 され,FDA(アメリカ食品医薬品局)でも ASD への投与が適応とされている.わが国で唯一 ASDへの投与が保険適応となっている薬物は pimozideである.しかしながら,併用禁忌薬の 多さ,QT 延長のリスクが知られているうえ, 臨床研究で十分に効果が検証されていないた め,第 1 選択薬とすることには無理がある4). 合併するうつ症状,不安症状に対する薬物療 法としては,ASD を対象とした RCT で明確な 効果が確認された薬物はないが,定型発達児を 対象とした SSRI(選択的セロトニン再取り込み 阻害薬)の結果を外挿して治療法を検討するの が妥当な方法であると考えられる.ただし,児 童・青年期の子どもへの SSRI 服薬と自殺関連 行動との関係が指摘されており,投与初期や増 量・減量時に細心の注意が必要であることはい うまでもないことである. また薬物療法を児童・青年期の ASD 患者に 行う場合,わが国ではほとんどすべての薬剤が off‒label(適応外)使用となる.投与前に本人・ 家族に対して十分な説明と同意を得る必要があ り,投与時の注意深い観察が不可欠である.
経過と予後
Goodman ら24)によれば,自閉症状のすべてを もつ子どものうち,約 70%が有意な言語を獲得 する.5 歳までに言語を獲得しなかった子ども は,その後に獲得する可能性は低いと考えられ る.IQ が 70 以上で 5~7 歳までに適切な言語を 使用することができる自閉症児は予後が良好で ある.高機能自閉症児の 5 歳時点と思春期の 13 歳時点での症状を比較した追跡研究では,若干 の自閉症的特徴を残してはいるものの,もはや 自閉症の診断基準に適合しない事例もみられ, 言語能力と社会関係の改善が最も多く報告され た25).自閉的孤立は全症例の半数強で改善し, 積極奇異的な社会的関心に置き換わる. 青年期には次のようないくつかの変化が認め られる24).①てんかん発作の発症のピークは 11~14 歳である.②早期の多動は不活発や無気 力に置き換わるだろう.③約 10%の自閉症の子 どもは青年期に言葉を失い,ときに知能低下を も伴う時期を経験する.この機能低下は進行性 ではないが,失った言語能力は一般に回復しな い.④興奮はよく起こり,ときに深刻な激越状 態に至る.⑤扱いにくい不適切な性的行動が起 きることがある. Goodman ら24)によれば,成人期までに,すべ ての自閉症状をもつ者の約 10%は就労でき,自 立できる.より少数の者が,よい友人をもち, 結婚し,親になる.長期的な社会的独立を最も 予測する因子は子どもの IQ と,5 歳までに話し 言葉を獲得したかどうかである.非言語性 IQが 60 未満の子どもはほぼ確実に,成人期に なっても重度の社会的障害が残り,独立して生 活することはできないだろう.より IQ が高い 子どもは,特に 5 歳までに有意味語を獲得して いれば,おそらく独立して生活することができ るだろう.しかし IQ と言語に恵まれても,典 型的な自閉症の子どもが成人期に良好な社会的 転帰をとる可能性は 50%しかない.軽症の自閉 症スペクトラム障害の予後は一般により良好で ある.自閉症の者が成人期に統合失調症を発症 する危険が高いということはない.
心身医学における ASD の特性理解
26) 発達障害という概念は現代精神医学に大きな パラダイムの変換をもたらしたといえる.精神 疾患の診断において,従来の内因性,外因性, 心因性という要因に,新たな発達障害の視点を 加える必要性が生じてきたことは間違いのない 事実である. 心身医学の臨床においても,心身症,気分障 害,摂食障害,不安障害などと診断される人の 背景に,ASD やその疑わしきものがあることに 気づくことがあるだろう.ASD という視点で見 直すと,一見関係のないようにみえた日々の言 動や症状が,初めてつながったものとして理解 できることが少なくない. 例えば,頑固に拒食を続ける神経性無食欲症 の症例を考えてみよう.特有のコミュニケー ションのとりづらさ,対人関係構築の拙劣さ, 独特のこだわりや興味の限定などは,ASD の諸 特徴とオーバーラップするところが少なくな い.ひるがえって,アレキシサイミア概念も再 考してみると,Sifneos27)が提唱した,①感情機 能が制限されている,②想像活動が貧困であ る,③感情を適切な言語で表現することが困難 である,④力動的精神療法の良好な適応になり にくいなどの特徴も ASD のそれとさまざまな 点で類似するといわざるを得ない.いまや一般 臨床は,発達という視点なしには行えないとい う印象を多くの臨床家が抱くようになってお り,治療や援助にも新たな工夫が求められてい るのである. 一方,発達障害の過剰診断が問題になってい ることも事実である.幼小児期や学童期には特 別な問題に気づかれることなく,青年期・成人 期に初めて受診した人の診断には注意を要す る.本人の現症だけで ASD と診断することは避 けるべきである.親から詳細な発達歴をとり, 心理検査を含めた諸検査を行う必要がある. ただし,発達障害に過剰診断が生じやすいこ とは,疾患自体がもつ特性でもある.先にも述 べたように,発達障害は,インフルエンザや癌 のようなカテゴリカルな疾患ではなく,正常か ら重症に至るまで連続的に移行するディメン ショナルな障害だからである.すなわち,発達 障害の諸特徴は,健常な人たちの中にも多かれ 少なかれ潜む特性でもあるのだ. 一般に ASD の特質は,心理的,環境的なスト レスが加わったときに際立ちやすい.すなわ ち,危機的なとき,緊張したときなどに,「発達 障害らしさ」が顕在化してくるのである.しか し,環境調整が整い,うつや不安の治療が奏効 してみると,その人たちの「発達障害らしさ」 が急速に薄れていくこともまた事実なのであ る.この場合,この人たちに発達障害という診 断をつけるべきかについては多くの問題が残っ ている. 診断に際しては,個々の症例において,従来 の精神障害あるいは心身医学の診断とともに, 発達障害的要素がどの程度認められるのかとい う評価を,丁寧に行っていくことが大切であ る.また,生得的な発達障害の要因がどのくら いで,後天的な環境要因がどのくらいか,ある いはその人のプラスの特質と考えられるところ がどの程度認められるか,などの多面的な理解 が必要になる.発達障害という診断をつけるこ とによって,新たな治療が開始されたり,これ までの治療方針が変更されたり,診断によって本人が初めてこれまでの生きづらさの意味を理 解できたりする場合は診断する価値があるが, ただレッテルを貼るだけの診断は厳に慎まなけ ればならない.いずれにしても,今後は発達を 視野に入れた「発達精神病理学 developmental psychopathology」という考え方が発展していく 必要があるだろう. なお,本論文について開示すべき COI 関係にある 企業などはありません. 文献
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Abstract
Understanding Individualities in Autism Spectrum Disorder
Kenzo Denda, MD, PhD*
*Department of Functioning and Disability, Faculty of Health Science, Hokkaido University
(Mailing Address:Kenzo Denda, North 12, West 5, Kita‒ku, Sapporo‒shi, Hokkaido 060‒0812, Japan) Autism spectrum disorder(ASD)is a neurodevelopment disorder appearing in infancy, characterized by qualitative deficits in social interaction and communication ability, and restricted and repetitive behavior as the primary symptoms. The alteration from DSM‒Ⅳ to DSM‒5 is a change from a category of pervasive developmental disorders(PDDs) including several subcategories, to a unitary concept of ASD with no subcategories. Recently, the interest and demand to ASD have been increasing, but it cannot be said that enough care has been carried out.
In this report, the change of concept, diagnoses and clinical characteristics, treatments, course and prognosis, and an understanding of individualities in ASD were discussed.