研究論文
† 中央大学大学院戦略経営研究科
Chuo Graduate School of Strategic Management, Chuo University
イノベーションプログラムのマネジメントに関する考察
Reflections about the Management of Innovation Programs
山本 秀男
Hideo YAMAMOTO
† 建設工事などのプロジェクトでは、現実の課題から概念モデルを作成し、システム工学方法論 に基づく数値(QCD や財務目標)を指標にしたマネジメントを行っている。しかし、研究開発 や新社会システム構築などのイノベーションプログラムは、プログラム開始時点で課題を概念モ デル化することが難しいため、既存の手法だけで対応すると、うまくマネジメントできない可能 性がある。本論文では、イノベーションの特徴を示し、実務と理論を架橋する観点から、イノベ ーションプログラムをマネジメントする際の課題を論じている。特に、スキームモデルとサービ スモデルにおいては、社会科学の研究アプローチやソフトシステムズ方法論を活用し、実務経験 者にとって「腹に落ちる解決策」に導く研究が必要となることを述べる。 キーワード: イノベーションプログラム、課題のモデル化、ソフトシステムズ方法論System development projects and large building construction projects are managed on the basis of QCD (= Quality, Cost, and Delivery time) by means of a project management methodology. The existing pro-ject management knowledge has been developed by system engineering and operations research, which are based on modeling the actual problems into the conceptual model. But it is difficult to manage an innovation program, such as a large-scale scientific research program or new social system development, by QCD because at the start of the program the actual problems cannot easily be formulated numerically, and the outcomes of the program, such as the scale of the impact on the society, are strongly dependent on the economic situation and consumer behavior at the end of the program. We have to make some assump-tions about the future, right from the initial stage when we start to manage an innovation program. In this paper, management issues relating to innovation programs are discussed, showing the characteristics of innovation programs compared with building construction projects. From the viewpoint of bridging be-tween social scientific theories and actual business, a particular emphasis is placed on the introduction of the soft systems methodology in action, proposed by Peter Checkland, at the initial stage of an innovation program, in addition to use of the existing project management knowledge.
Keywords: innovation programs, modeling the actual problems, soft systems methodology
1 はじめに
不確実な環境において企業が組織的に価値創造活動を進めるためには、組織構成員の行動と 市場の特性を理解してマネジメントすることが必要である。P2M(Project & Program Man-agement)[1]は、ミッションドリブンアプローチ[2][3]を採用し、トップダウンとボトムアップの
融合を図ったマネジメント手法で、暗黙知を共有し集団行動を重視する組織に対して有効に機 能すると考えられる。本学会では 2009 年頃から研究開発に適用した研究[4][5][6][7]が行われ、
2011 年以降、社会システムや公共システムに適用する研究[8][9]が報告されるようになった。こ れらの事例では、主にスキームモデルにおいて、価値創造を実現するシナリオを策定すること の有効性が論じられている。今後は、新しい社会的な価値を獲得するためのスキームモデルと システムモデルの連携や、サービスモデルにおける施策の研究が進むと期待される。 システムモデルの中のシステム構築マネジメントは、システム工学方法論[10]から発展したシ ステム思考に基づき、与えられた目標を実現するための課題を概念モデル化し、QCD(Quality, Cost and Delivery time:品質・コスト・完成時期)などの定量的指標でマネジメントしている。 しかし、研究開発や新しい社会システムなどのプログラムは、開始段階で目標そのものが曖昧 なことが多く、かつ、市場や利用者の特性を考慮することが必須となるため、システムモデル の考え方を拡張するだけで対応することは難しい。本論文では、まず、P2M の概念を示し、イ ノベーション活動を支援する際の要件を述べる。次に、システムズアプローチの特徴を述べ、 スキームモデルとサービスモデルでは、人間の行動に着目した研究アプローチが必要であるこ とを述べる。最後に、P2M の今後の研究課題について討論する。
2 P2M の概念
[11]2.1 P2M Version 2 の 3S モデル
国際P2M 学会は 2009 年 9 月に、図1に示す P2M Version2 の枠組みを提唱した[11]。本枠 組みの理論的な根拠と詳細は文献[12]~[19]に報告されている。 出典:P2M コンセプト【http://www.iap2m.org/pdf/p2mconcept200906.pdf】図 6 に筆者が加筆・修正した 図1 国際P2M 学会が提唱する P2M の概念 事業主の使命を受けた特命業務活動は、目標を定める段階から始まり、目標を実現するため の「仕組み」作りの過程を経て、「仕組み」を使って目標を達成する活動と活動結果の評価を行って終了する。プログラムマネジメントは、上記のプロセスをそれぞれ、スキーム(Scheme) モデル、システム(System)モデル、サービス(Service)モデルに分け、全体をマネジメントするも のである。上記の3つのモデルを総称して 3S モデルと呼んでいる。 プログラムの初期段階で、事業主から大枠の方針しか示されない場合、プログラムマネジャ ーは、スキームモデルにおいて、経営環境を考慮して企業価値を想定し、その価値をどのよう に提供するかを考える。スキームモデルで想定した価値を、最終的に獲得または実現するため には、システムモデルからサービスモデルを通じて、事業主の意図を理解し、プログラムの利 害関係者とコミュニケーションを図りながらマネジメントすることが必要となる。つまり、プ ログラムマネジャーは、全体ミッションとプログラム戦略の両者を理解し、下記に示す能力を 発揮し自らも創造活動を行わなければならない。 (1) 創造的統合マネジメント プログラムの初期段階では「大枠しか決定できない曖昧な問題」に対して複数の回答案(選 択肢)を示すと同時に、利害関係者の間で目的の調整を行い、「コストと便益」や「リスクと リターン」に関する合意形成を図らなければならない。 (2) 事業主へのフィードバックチャネル 初期段階およびマイルストーン毎に、事業主とプログラムマネジャー間で「確認・提案・合 意」のコミュニケーションチャネル設定し、価値を獲得する方策やリスクを極小化する方策の 提案を行わなければならない。 国際 P2M 学会では、3S モデルの枠組みを様々な事例に適用し、効果が上がる実践的なマネ ジメント手法と、3つのモデルの相互関係がどのようにあるべきかについて研究を進めている。
2.2 特命業務活動の評価
特命業務活動の最終的な評価は、活動への投資に対して得られた成果(outcome)で表され る。成果(outcome)は、社会や市場に与える価値(V)と組織に蓄積される知見や知恵などの 総和である。仮に、全て定量的な数値で表現でき、プログラムの構想が成果に結びつく確率を Δとすると、以下の式が成り立つ。 ・・・・・・・・・式1 Δ= α×β×γ ・・・・・・・・・式2 α:スキームモデルで構想した「仕組み」の価値(V)と条件目標(QCD)が妥当である確率 β:システムモデルで「仕組み」を構築するための条件目標(QCD)が達成できる確率 γ:システムモデルで構築された「仕組み」を使って人間が活動し、当初想定した成果が得ら れる確率 成果(Outcome) 投資 α・構想(Design) ×β・ 成果物(Deliverable) 投資 構想(Design) 成果物(Deliverable) = 成果(Outcome) ×γ・ Δ・α、β、γ(0≦α, β, γ≦1)は以下の3つの不確実性への対応の優劣によって決定される1。 (1) スキームモデルで構想した特命業務活動の価値 V(たとえば、業務の効率化や売り上げの 増加)が獲得できない不確実性(スキームモデルのαとサービスモデルのγが関係する) (2) システムモデルの初期段階に与えられた条件目標「品質・費用・完成時期」が達成できな い不確実性(いわゆるプロジェクト遂行上のリスクと呼ばれるものでβが関係する) (3) 組織の位置づけが変化してしまう不確実性(組織の存在意義や経営判断と強く関係する不 確実性で、α、β、γ全てが関係する) α、β、γは積の関係にあるので、プログラムの成功確率を高めるためには、3モデル間の 相互関係を理解してそれぞれの不確実性に対応しなければならない。 上記の不確実性に対応する手法として、①プロファイリングマネジメント、②プログラム戦 略マネジメント、③アーキテクチャマネジメント、④プラットフォームマネジメント、⑤ライ フサイクルマネジメント、⑥価値指標マネジメントの6個のマネジメント知識と、プログラム 全体を統括するセンスを身につけることが必要であると考えている[11]。 表1に、上述の6個の知識と3S モデルの関係を示す。スキームモデルでは、事業主からの 使命をどのように解釈して価値を見出すかを考察するプロファイリングマネジメント、競争環 境で自組織が生き残るための戦略マネジメント、ならびに、次の段階で「仕組み」を作るため に必要なプロジェクトに詳細化するアーキテクチャマネジメントが重要になる。システムモデ ルとサービスモデルでは、利害関係者間のコミュニケーションや情報流通を円滑に行うための プラットフォームマネジメントとライフサイクルマネジメントが重要で、サービスモデルでは、 それらに加えてプログラムの価値獲得のための価値評価マネジメントが重要となる。 表1 P2M のマネジメントモデルと管理知識 1 (1)の不確実性への対応を P2M Version 1, (3)の不確実性への対応を P2M Version 2 と区別し ている。 モデル スキーム システム サービス 知識 プロファイリングマネジメント ● 戦略マネジメント ● アーキテクチャマネジメント ● プラットフォームマネジメント ○ ● ● ライフサイクルマネジメント ○ ● ● 価値評価マネジメント ○ ○ ● 統合マネジメント ○ ○ ○ ●:各モデルの主要なマネジメント ○:各モデルで必要となるマネジメント
2.3 イノベーションプログラムのマネジメント
シュンペーターは、イノベーションとは、物事の新結合、新機軸、新しい切り口、新しいと らえ方、新しい活用法を創造することにより、新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を 起こすこと[20]と定義している。イノベーションを起こす手法として、青色発光ダイオードのよ うな新素材の開発やウォークマンステレオのような新製品を開発する「プロダクトイノベーシ ョン」と、トヨタの「カンバン」方式のような生産方法やアマゾン・ドット・コムの商品販売 方法のような新しい仕組みを創り出す「プロセスイノベーション」に大別される。クリステン センは、イノベーションには、従来製品・サービスの改良による持続的イノベーションと、従 来とは全く異なる価値を提供する破壊的イノベーションの2 種類があり、破壊的イノベーショ ンは、一般に正しいと思われる経営判断では扱えないことを指摘している[21]。 このようにイノベーションに対する考え方は、プログラムの適用対象によって異なると同時 に、担当者の立場や興味によっても異なる。素材に興味を持つ研究者は、新しい原理や現象の 発見がイノベーションであると考える。しかし、ビジネスパーソンは、新しいビジネスモデル (収益の獲得方法)をイメージするだろう。全く新しい原理や現象の発見を促進するプログラ ムでは、自由な発想と未知へ挑戦する気概が必要である。そのため、スキームモデルからシス テムモデルにかけては、個々の研究者の自由な発想を尊重しながら、社会変革の方向へゆるや かに導くマネジメント[22]が必要と思われる。これに対して、既存技術を活用して新規ビジネス を立ち上げるプログラムでは、市場を深く理解し、起業家精神をもって、既に構築された知識 やプラットフォームの活用に新しさを(不連続さ)を見いだすことが必要である。そのため、 スキームモデルにおける構想がイノベーションの種になる場合がある。 両者の共通点は、サービスモデルにおいて、システムモデルで完成させた「仕組み」を人間 がどのように使って(または使わせて)付加価値を獲得するかが重要になることである。 今井賢一は、イノベーションのプロセスを、「有用な知識」(useful knowledge)の集合が存 在し、その中から知識プラットフォームが生まれ、そのプラットフォーム上に具体的な技術や 製品などの次世代の技術(「臨床の知」)が築かれる。その「臨床の知」から更に新しい「有用 な知識」の集合が紡ぎ出されるという形で、「有用な知識」と「臨床の知」が波状的に出現す る状態[23]と述べている。社会へ大きな影響を与える価値創造活動を支援するプログラムでは、 このようなイノベーションのプロセスを理解したマネジメントが必要になるだろう。3. 研究のヒント
3.1 現実世界のモデル化とシステムズアプローチの再考
図2に現実世界のモデル化と研究手法の関係を示す。ここでは、文献[10][24][25][26][27]を参 考にして、現実世界を人工物2とそれを扱う人間活動に分けた3。 2 Artifacts: ハーバード・サイモン『システムの科学』[26] p.6-8 の考え方と用語を採用した。 3 考察の対象が自然界にも影響を及ぼす場合、食物連鎖などの人工物以外のシステムも考慮す る必要があるが、ここでは自然界のシステムは捨象した。図2 現実世界のモデル化と研究手法 社会の仕組みや企業組織を分析・評価する社会科学の研究手法は、統計データ分析の結果か ら仮説を検証する実証主義的アプローチ、ケース分析や現場の観察から因果関係の仮説を導き 出す解釈主義的アプローチ、現場の実感を重視するアクションリサーチの3つに分けられる。 アクションリサーチは、研究者自らが現場の臨場感を体感しながら研究を進める姿勢[28][29] であ るため、客観性を重視する実証主義や解釈主義とは異なる研究アプローチと考えた。 上記の社会科学の因果関係を追究する研究アプローチに対して、社会現象の問題をシステム の概念を用いて解決に導くシステムズアプローチ[10][26]と呼ばれる手法がある。システムズアプ ローチは、現実世界の問題状況を構造化し、概念モデルを作成して関連する様相を考慮しなが ら、最適な解決案を導く手法である。P2M のシステム構築マネジメントは、システムズアプロ ーチの中で人工物を扱うハードシステムズ方法論に基づいている。ハードシステムズ方法論に は、オペレーションズリサーチ(OR)、システムズアナリシス(SA)、システム工学などの 手法があり、数学的な手法を活用して最適解を求めることが可能である。 しかし、研究開発や新社会システム構築などのイノベーションプログラムは、開始時点で課 題を概念モデル化することが難しいため、既存のプロジェクトマネジメント手法だけで対応す ると、うまくマネジメントできない可能性がある。利害関係が複雑に絡み合った問題の解決を 目指すプログラムも、同様である。 つまり、問題が与えられ、検討対象が人工物に近い場合は、ハードシステムズ方法論は問題 解決方法(how)を導き出す強力な武器となる。しかし、問題が複雑で、何を(what)すれば 良いかから検討しなければならない場合には、ハードシステムズ方法論だけで対応することが 難しい。 このような問題に対して、実務経験者にとって「腹に落ちる解決策」を導くためには、人間 活動に焦点を当てた研究手法を用いることが必要であろう。社会科学の実証主義的アプローチ や解釈主義的なアプローチの分析手法と、ハードシステムズ方法論の手法との橋渡しを行う、 あるいは、ハードシステムズ方法論の欠点を補うソフトシステムズ方法論[27][28] などの利用を検 討すべきである。
3. 2 3S モデルの研究対象
P2M では、現状の分析ばかりではなく、将来の姿も描いてマネジメントするので、3Sモ デルそれぞれで着目点が異なる。図3 に、現在と将来の 2 軸、システム系(人工物)と人間活 動の2 軸からなる 4 象限に対して、各モデルがどの象限に着目しているかを示す。 スキームモデルは4 象限全てを俯瞰して、現状のシステムと人間行動の両者を分析・評価す ると同時に、将来像を描く。現在の状態から将来に向けたあるべき姿を描く手法の一つとして、 表1で示したプロファイリングマネジメントや戦略マネジメントの知識が使われる。 システムモデルは第3象限と第4象限に着目している。プログラムの下位に存在する各プロ ジェクトではハードシステムズ方法論に基づく定量指標による管理が行われているので、プロ グラムレベルでは、利害関係者間の情報交流や知識の共有を行うプラットフォームマネジメン トとライフサイクルマネジメントを行う。 サービスモデルは第1象限と第4象限に着目し、システムモデルで構築した「仕組み」(図 3右の第4象限では「現システム」と表現)と人間活動の両者に対して価値評価マネジメント を行う。 注)グレー部分が主なマネジメントの対象 図3 3Sモデルの研究対象 図3に示したように第1象限と第2象限に着目するスキームモデルとサービスモデルでは、 人間活動の評価が必須である。スキームモデルでは、経営学で用いられている社会科学的な手 法やソフトシステムズ方法論で現状を分析すると同時に将来構想を描き、サービスモデルでは、 システムモデルで完成させた新しい「仕組み」と人間活動の両者を、ケース研究やアクションリサーチなどの手法によって評価すべきであろう。あわせて、オペレーションズリサーチなど のハードシステムズ方法論に対しては、現在と将来の両者をシミュレーションできるような概 念モデル構築のための条件を示すことも必要である。
4.討論 ~3Sモデルに対する研究課題~
P2M の枠組みは、これまでの研究によって研究開発のように何(what)をなすべきかから考 える必要がある特命業務に対して有効であることが示唆されているが、実践的なマネジメント 知識として体系化するためには、様々な事例を集めて研究を進める必要がある。 以下では、P2M に対する典型的な質問に回答する形で、イノベーションを扱う際のマネジメ ントの研究課題について述べる。 (1) なぜ「手順の提示」ではなく「モデルの提示」をしているのか? 与えられた条件目標を効率的に達成する方法(how)を示すのであれば、マネジメントの手 順を提示する方がわかりやすい。しかし、P2M が扱うプログラムでは、必ずしも「スキーム」 →「システム」→「サービス」の順番に行われるとは限らない。不確実な環境では、走りなが ら考えなければならない特命業務が多い。そのような特命業務をマネジメントするために、手 順ではなくモデルを提示している。 ある適用分野においてマネジメント経験が蓄積されると、3モデルの区切りが明確になって くる。適用分野毎に使いやすいマネジメント知識を得るための研究課題としては、以下があげ られる。 (a) 3モデルの間のインタフェース(確実に意志が伝わる情報交流の方法)の提案 (b) 数値目標で管理する活動と定性的な指標で管理すべき活動の階層構造の提案 (c) プログラムと個別プロジェクトの間のインタフェースの提案 (2) なぜ経営と切り離さないのか?(切り離した方が、責任が明確になるのではないか?) 経営のトップが正しい判断を行い、それを正しく確実に実行できるメンバーが存在するので あれば、経営とプロジェクトマネジメントは明確に分離した方が良いと思われる。しかし、イ ノベーション活動は、トップの方針を理解した現場の発想や工夫から生まれることが多い。し たがって経営と一体化したマネジメントが有効と考えている。経営との違いは、定常業務は扱 わない点と、最終判断を経営トップにゆだねる点であり、P2M の論理は経営の論理とは異なる。 しかし、P2M は、組織のメンバーに経営感覚を持たせトップの思いを共有して行動させること が特徴であるため、経営の論理に踏み込んで研究を進めている。環境変化に素早く対応できる ミドルマネジャーの育成に役立つ知識も多く含まれている。 P2M は、経営と現場活動の両面からの研究アプローチが必要であるため、研究課題として以 下が考えられる。 (a) スキームモデルとシステムモデルにおいて、経営の研究分野(競争戦略論、管理会計 論、組織論、マーケティング戦略論など)の成果やツールを使い、特命業務活動の付加価値を創出する方法の提案 (b) サービスモデルにおいて、人的資源管理やリーダーシップ論の成果を利用した組織の 価値を高める方法の提案 (c) 現実とシステムズアプローチによる概念モデルの違いによって発生するプログラム運 用上のリスクを低減させる方法の提案 (3) プログラムの特徴は有期性のはずだが、サービスモデルの終了時点はどこなのか? 2.2の式1で示したように、もしプログラム活動の全てが定量的な数値で表現できるので あれば、投資を回収した時点がプログラムの終了時点になる。営利企業では、武富が文献[19] で述べているように、プログラムの成果(outcome)が資産計上できるモノ(あるいはコト) ならば、サービスモデルの最終点は、システムモデルで構築した「仕組み」の仮勘定4を貸借対 照表の資産として計上した時点という考え方が妥当であろう。しかし、研究開発費用の会計上 の扱いは現時点では明確になっていないようである。また、プログラムの成果(outcome)が 知的資産やブランド価値のような無形資産の場合をどのように扱うかは研究段階である。その ため、現実的なプログラムの終了は、事業主が経営の視点から判断すべきである。プログラム の成果は、財務的な視点ばかりではなく利害関係者の調和を尊重することから、バランススコ アカードの手法が有力である。現在の企業活動は、経済的価値を創造しながら事業を営む地域 社会の経済条件や社会状況を改善する共通価値(shared value)に取り組むべきだ[30]という考え方 もプログラムの評価の視点に取り入れるべきであろう。 営利企業でない場合には、サービスモデルにおける会計上の扱いが全く異なる。その上、新 社会システムを開発するような公共投資プログラムにおける価値評価手法は現段階で確定し ていないように思われる。社会プロジェクトを扱う場合、スキームモデルで財務指標に加えて 社会的価値を考慮すべきとの提案[31]もあり、P2M の社会プロジェクトへの具体的な適用法も今 後の重要な研究課題である。
5.むすび
少子高齢化の先進国である日本において企業が持続的に発展していくためには、新しい価値 を創りだしていく活動が必要であり、イノベーションをマネジメントすることはますます重要 になってくると思われる。全く新しい素材の研究からスタートするプログラムは、研究段階か ら商品化を経て産業化に至るプロセスを注意深く分析し、イノベーションを誘発するための課 題を3S モデルにマッピングし直すことが必要かもしれない。一方、ICT システムのような既 に存在する技術や知識を活用して新しいビジネスモデルを創出するプログラムでは、現実の問 題を経営学や経済学の研究手法で分析し、その結果をシステムズ方法論へ橋渡しする研究が必 要だと思われる。社会科学分野の実証主義的アプローチや解釈主義的アプローチは、ともに発 4 ソフトウェアなどの無形固定資産を開発中に仮に計上する勘定品目展段階であるため、幅広い視点で研究を進めることが重要である。国家的な視点で将来を構想 する場合には、上記に加えて文化論や哲学的な考察も不可欠となるだろう。 P2M の適用拡大に向け、実務と理論を架橋する観点からの批判や助言を頂きたい。 謝辞:本稿の執筆に対してヒントを頂きました吉田邦夫国際 P2M 学会会長、小原重信国際 P2M 学会副会長、亀山秀雄東京農工大学教授、綿木久雄国際 P2M 学会理事に感謝いたします。 本研究は JSPS 科研費 23510185 および中央大学特定課題研究費の助成を受けたものです。
参考文献
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