近年、IoT
*1、AI
*2などのICT
*3が、様々な分野で活躍しています。水産業の分野にお
いても、ICTを活用した取組が始まっています。また、これらの取組の多くは、産学官連携
により進められています。
本節では各地で取り組まれている事例の紹介を中心にICTの活用についてみていきます。
(1)養殖業におけるICTの活用
養殖業は、ノリ養殖やカキ養殖などの無給餌養殖と、ブリ養殖やクロマグロ養殖などの給
餌養殖に大別されます。
無給餌養殖では、水温や塩分等により、育成が止まったり、逆に育成のスピードが速まっ
たりすることから、計画的に育成させるためには、こうした水温等のデータの把握が欠かせ
ません。従来は、自ら海上に船を出して水温等を直接計測したり、漁業協同組合や水産試験
場が測定したデータをFAXや掲示板で見ることでしか水温等のデータを知ることができま
せんでしたが、海上で水温等のデータを測定し、その結果を携帯電話等で「いつでもどこで
も」見ることができるシステムの開発が各地で試みられており、必要な情報を必要な時にリ
アルタイムで把握できることで時期を逸せずに的確な養殖作業が行えることが期待されます。
一方、餌代が支出の6~7割を占める給餌養殖では、水温や溶存酸素等のデータに加え、
給餌量や成長速度等のデータを蓄積していくことで最適な給餌方法を見つけ出し、出荷計画
に合わせた給餌量の調整や効率的な給餌による餌代の削減などの生産管理が可能になること
が期待されます。また、生簀の中の養殖魚の数は通常は経験的に推測していますが、推測量
の正確さによっては、生産金額の予測と実績に大きなずれが生じる可能性があります。この
ため、生簀の中の魚の数を自動的にカウントしてより正確に把握する手法の開発が進められ
ており、着実な経営と省力化が期待されます。
第3節 ICTの活用
*1 Internet of Things:モノのインターネットといわれる。自動車、家電、ロボット、施設などあらゆるモノがインター ネットにつながり、情報のやり取りをすることで、モノのデータ化やそれに基づく自動化等が進展し、新たな付加 価値を生み出す。 *2 Artificial Intelligence:人工知能。機械学習ともいわれる。第Ⅰ章
第1部
【事 例】
宮城県東
ひがし松
ま つ島
し ま市松
ま つ島
し ま湾
わ んにおける海洋観測ブイを活用したカキ・ノリ養殖
カキ・ノリ養殖が盛んな宮城県松島湾では、東日本大震災以降、海洋環境の変化によりカキの養殖用 種苗である種ガキの生産が不安定になっていることを踏まえ、種ガキのもととなる稚貝を付着させる時 期やカキの成長に合わせて筏いかだを移動する時期を見極めるため、漁業者が水温測定のためのブイを養殖場 に設置し、陸上で1時間毎に確認しています。また、ノリ養 殖では、育苗*1の際の水温と塩分が収獲量・品質に大きな 影響を与えます。このため、漁業者は、水温と塩分が測定で きるブイを養殖場に設置してデータを遠隔で把握し対応して います。 養殖場の状態を遠隔で把握できることにより、何度も漁場 に出て行っていた手間が省け、養殖作業の効率化が図られて います。 海洋観測ブイ (写真提供:NTTドコモ)【事 例】
有明海におけるノリ養殖の取組
ノリ生産量全国1位を誇る有明海では、養殖ノリの品質及び収獲量の向上のため、漁業者が、水温等 が測定できるブイを設置し、これらのデータを遠隔で把握する取組を行っています。 また、佐賀県有明海域では、病害や赤潮対策、ノリ養殖業者の作業の省力化などの課題を解決するた め、行政、大学、民間企業等が連携してICTを活用した実証試験を開始しています。 空からドローン(無人航空機)で養殖場を撮影した映 像や観測ブイから得られたデータをビッグデータとして 蓄積・管理し、AIで画像解析を行い、赤腐れ病等の病害 の発生状況を検知した結果や赤潮の広域的な発生状況を 漁業者に早期に伝えることにより、的確な対策が早期に 講じられることが期待されています。また、今後は観測 ブイから取得した水質データと比較して、AIを用いて病 害、赤潮の発生状況と各種水質データの因果関係を分析 することを目指しています。 有明海上空を飛行するドローン (写真提供:株式会社オプティム) う【事 例】
宇和
わ海
か いにおける養殖業の取組
愛媛県宇和海は、マダイ等の養殖業が盛んな地域です。愛あい南なん町ちょうでは、養殖業者が抱えていた赤潮や魚 病の被害を軽減するため、町内各海域の水温、溶存酸素などの水域情報をネットワークで配信するほか、 赤潮発生時にはあらかじめ登録された生産者の携帯電話等へ緊急メールを送るシステムを構築していま す。このシステムの導入により、赤潮が発生した際には、生産者は餌止めや生簀の移動等の赤潮対策を *1 ノリ網に付着させたノリの殻かく胞ほう子しを健全なノリ芽に育て上げる作業。第1部
第Ⅰ章
早くとれるようになり、赤潮被害の軽減につながっています。また、愛南町が行っている養殖魚の魚病 診断では、診断結果を電子カルテ化して生産者が閲覧できるようにしたことで、生産者が魚病発生の傾 向を把握し効果的な対策をとれるようになっています。 さらに愛南町では、より積極的にICTを養殖業へ活用する試みが行われています。生簀に設置されて いる既存の自動給餌機に水中カメラ等の通信制御装置を連動させ、スマートフォンやパソコンなどでリ アルタイムに養殖魚の摂餌状況を動画で確認し給餌機を遠隔操作できるシステムの開発・実証に取り組 んでいます。これにより、餌の削減や効率的な給餌が可能になるほか、省力化も期待されています。 また、これらを更に発展させて、宇和海全体のセンサーネットワークシステムを構築し、沿岸環境情 報の集積と海況(現況、予測)情報を水産関係業者に発信して、養殖業生産量の増加につなげようとい う取組も始まっています。 既存の給餌機に連動させた給餌管理システム スマートフォンからの遠隔操作画面
【事 例】
宮城県女
お な川
が わ町
ちょうにおける環境ICTを活用したギンザケ養殖
我が国魚類養殖において、ブリ類、マダイに次いで第3位の生産量をあげているギンザケは、宮城県 がその約9割を生産しています。ギンザケはふ化後淡水で約1年育て、11月頃海面生簀に収容し、翌 年夏頃まで養殖しますが、水温が20℃を超えると死亡する個体が急増するので、7月頃までに水揚げ しなければなりません。しかし、より水温が低い底層に生簀を沈めることができれば、単価の高い8月 まで成育・出荷することができます。そのため、女 川町のギンザケ養殖場において、深い水深帯の水温 や溶存酸素等のデータを取得し、そのデータに基づ いて遠隔操作により自動浮沈させる技術の開発を進 めています。また、水中映像で摂餌状況や残餌を自 動検知し、給餌量を調節することによって飼料の節 約や環境負荷低減を図る取組も進めています。 遠隔操作により浮沈操作や給餌作業が可能な生簀 (写真提供:一般社団法人マリノフォーラム21) (写真提供:株式会社ウミトロン)第Ⅰ章
第1部
【事 例】
長崎県松
ま つ浦
う ら市鷹
た か島
し まにおけるクロマグロ養殖の取組
マグロ養殖事業を行う双日ツナファーム鷹島株式会社では、これまで経験則に基づいて行ってきてい る給餌方法(量やタイミングなど)の最適化が課題となっています。そのため、養殖場に環境を測定す るブイを設置し、継続的なデータ取得を開始しており、将来的には、AI技術を用いて環境データと成長 データとの相関関係を分析し、給餌量と給餌タイミングの最適化を確立し、省力化、餌代の削減などを 目指しています。 また、現在行われている尾数管理は、ダイバーによる水中撮影に依存していますが、撮影にかかる作 業負担が大きい上に、天候や水の透明度、撮影位置等の条件により映像の画質が大きく左右されるため、 高性能水中カメラや水中ドローン等の最新機材を用いて撮影作業の省力化と画質の改良を行うととも に、AIの深層学習機能を使った映像解析の精度向上も目指しています。 海中を観測(水中センサーとデータ送信機器) (写真提供:双日ツナファーム鷹島(株)) 撮影によるクロマグロの自動カウント【事 例】
鹿児島県東
あずま町
ちょう漁業協同組合におけるブリ養殖の生産管理システム導入の取組
鹿児島県は、ブリ養殖の生産量が全国1位ですが、多数の小規模経営者からなる東町漁業協同組合で は、多様な販売先の要望に対して素早く的確に対応するための仕組み作りが強く求められていることか ら、生簀毎の生産工程(給餌量、成長量、生残率等)と環境情報(水温等)を統合管理するための養殖 管理システムを導入し、生産・生育の状況を「見える化」することにより、販売先から求められる品揃 えや数量に対して効率的に出荷するための共販システムづくりを目指しています。 そのため、(研)水産研究・教育機構が中心となり、県や民間企業が連携して、環境データや養殖管理 データを養殖業者が生簀上からタブレット端末を活用して 簡便に入力するシステムを試験的に開始するとともに、生 簀に水中カメラを設置し、養殖魚の体長と個体数を高い精 度で自動的に計測する画像解析処理システムなど、生産過 程を正確に可視化するためのシステム開発を行っています。 この技術を通じて蓄積されたデータを用いて、短期的に は適切な給餌方法やコスト削減の指導、また、将来的には、 市場の求めに正確に自動的に対応することができる販売管 理のシステムづくりに役立つことが期待されます。 タブレットを活用した生産管理 (資料提供:(研)水産研究・教育機構)第1部
第Ⅰ章
(2)沿岸漁業におけるICTの活用
沿岸漁業において、ICTは、養殖業と同様に水温等のデータを測定して海の状況を把握す
ることに加え、過去の漁獲データを基にした漁場予測や漁獲予測、更には資源管理等のため
の活用が期待されています。養殖業に比べると、ICTの活用は、事例は少ないもののタブレッ
ト端末の導入など、近年、急速に進んでいる関連機器の小型化などにより、漁獲量や水揚金
額等に関する情報の収集や分析、流通業者や消費者との情報共有が行われることによって、
適切な資源管理や効率的な操業、流通の合理化につながることが期待されます。
【事 例】
北海道留
る萌
も い市におけるナマコの資源管理
北海道留萌市の沿岸域では、中国市場の開拓によって単価が上昇したナマコの漁獲意欲が高まり、ナ マコ資源が急激に減少しましたが、漁業者は自分の漁獲状況からしか資源状況を推測できなかったため、 資源管理に向けての合意形成ができませんでした。そこで、ナマコ桁網漁船全16隻がお互いの位置情 報と漁獲情報を共有することでナマコの資源状況をより正確に把握し、資源管理に取り組んでいます。 平成22(2010)年からは、公立はこだて未来大学が中心となってタブレット端末による操業日誌の【コラム】
養殖魚の正確な尾数カウントの重要性
生簀の中の養殖魚の尾数の把握については、例えば、生簀に移す際に映像を撮影し、後でその映像を 基に人力で尾数をカウントしたりしていますが、人力による作業では実際の尾数との間にどうしても誤 差が生じます。 では、数%の尾数の誤差があったとき、どのくらい生産金額や収益に差が出るのかブリ養殖で試算し てみましょう。 このように、尾数がわずか数%のずれであっても、収益の減少率でみるとかなりのずれが生じます。 したがって、尾数を正確にカウントすることは、養殖業者にはとても重要なことなのです。 尾数 生産金額 (生産金額-漁労支出)収益 予定収益に対する減少率(%) 予定 3万5,000尾 1億3,125万円 2,898万円 - 尾数が1%少なかった場合 3万4,650尾 1億2,994万円 2,767万円 ▲5% 尾数が3%少なかった場合 3万3,950尾 1億2,731万円 2,504万円 ▲14% 注:1)農林水産省「漁業・養殖業生産統計」(平成28(2016)年)のブリ類の養殖生産量14万868トンから尾数を算 出(約2,817万尾:1尾当たり5kgと仮定)し、「2013年漁業センサス」のぶり類養殖を営んだ経営体(795経営 体)から、1経営体当たりのブリの尾数(約3.5万尾)を求めた。 2)5kgまで育て、750円/kgで出荷すると仮定。 3)漁労支出は、便宜的に農林水産省「漁業経営調査報告」のぶり類養殖業を営む個人経営体の平成24(2012)~ 28(2016)年の漁労支出の平均値(1億227万円)とした。 表:ブリ養殖における1経営体当たりの尾数のカウントのずれによる生産金額のずれ第Ⅰ章
第1部
デジタル化に取り組み、漁業者がタブレット端末からリアルタイムで送信した曳網時刻と漁獲データを もとに稚わっか内ない水産試験場が資源量を推定し、結果を漁業者に報告するというシステムを構築しました。そ の報告を目にした漁業者が資源量減少を実感して資源保護に取り組んだ結果、この沿岸域でのナマコの 資源量は平成22(2010)年度59トンから平成27(2015)年度96トンへと順調に回復を続けています。 なお、北海道内の他の地域でも、公立はこだて未来大学が中心となって、ICTの導入を始めています。 奥 おく 尻 しり 町 ちょう では、ウニ、アワビ等の磯根資源の漁獲と保護の状況を可視化するとともに、海洋情報と漁船の GPS情報からベテラン漁師の技を継承できる担い手育成のための技術開発や位置情報と潮流情報から 海難救助体制を構築する取組を始めています。また、函はこ館だて市しでは、いか釣りや定置網で漁場予測システ ムの導入が検討されています。 タブレット端末での漁獲情報の入力 漁船の航行記録 ナマコを水揚げする様子 (写真提供(全て):公立はこだて未来大学)
【事 例】
宮崎県日
ひ ゅ う が向灘
な だにおける浮魚礁で得られた沿岸海況情報の提供
宮崎県日向灘沖に設置されている複数の浮魚礁は、回遊性魚類の優れた漁場を形成するとともに、水温、 流速等を計測する機器が取り付けられており、これらの情報は定期的に陸上の観測基地に送信され、水 産試験場により海況情報の基礎データとして利用されています。また、収集された海況情報は、カツオ 一本釣りや曳縄の漁業者の効率的な操業に役立つよう、浮魚礁の位置とともにweb上で公開されています。 (写真提供:宮崎県) 沿岸海況情報の 提供にも資する浮魚礁 風向・風速・流向・ 流速等の情報を公開第1部
第Ⅰ章
【事 例】
宮城県東
ひがし松
ま つ島
し ま市における効率的な定置網漁業の取組
宮城県東松島市の定置網漁業では、網の中の魚の入り具合で出漁の必要性の有無を判断したり、出漁 時に船の数や人手の適正化を図る取組を進めています。 漁業者が定置網の海中にカメラを設置して、送信されてくる海中画像を漁業者がスマートフォンで確 認できるシステムを導入するとともに、水温等を計測できるセ ンサーを取り付けたブイを浮かべて海洋データの収集を行って います。 また、海洋データと過去の漁獲データを解析して漁獲量を予 測する取組も行っており、現在はその的中精度を高める研究を 行うとともに、漁獲情報等を小規模飲食店にもオープンにする ことで漁業者と直接取引を行う新しい水産物産地直送も目指し ています。 これらのシステム導入により、将来的には買い手の需要に応 じた漁獲や漁獲予測を踏まえた漁獲規制等漁業の効率化が図ら れることが期待されます。 海洋観測ブイからのデータをタブレット端末で確認 (写真提供:KDDI株式会社)【事 例】
山口県日本海域におけるマアジやケンサキイカの漁場予測システム
山口県では、近年、海水温の上昇による環境の変化等もあり、マアジ、ケンサキイカの来遊量や漁場 形成が不規則になっている中、県内の関係する漁業者の操業の効率化やコスト削減のため、JAFICとの 共同研究により、これらの魚種を対象にした漁場予測システムの運用を平成29(2017)年7月から開 始しています。 沿岸域の海水温観測データ等と過去の漁獲記録を解析して、形成される漁場を予測(主漁期(5~ 11月)においては10日ごとに漁場予測を更新)し、インターネットで情報提供しています。 (資料提供:山口県)図:8月下旬のケンサキイカの漁場予測図
図:8月下旬のマアジの漁場予測図
【事 例】
宮城県東松島市における効率的な定置網漁業の取組
第Ⅰ章
第1部
(3)沖合域におけるICTの活用
沖合域においては、1980年代から衛星情報の利用が始まり、近年は漁場予測システムに加
え漁労活動へのICTの活用が始まっています。沖合域の漁場で操業する比較的規模の大きな
漁船では国際競争力の確保が課題であり、ICTを活用した漁場予測の精度向上による燃油使
用量の節約や生産性の高い漁具の導入などによって、漁業経営の安定化が図られることが期
待されます。
【事 例】
九州北部水域での漁場予測システム
九州北部水域では、九州大学が中心となって、漁業者参加型の海域観測網を整備した上で、観測デー タを用いた高精度の沿岸海域モデルを開発し、漁場形成の鍵となる潮目や水温分布の情報を高い頻度で 漁業者に提供する仕組みを構築しています。そのため、関係県や民間が連携して、漁業者自身がリアル タイムで、自分が出漁した海域の情報(水温、塩分等)を取得することができる、安価で簡易な小型計 測機器の開発を行っています。 また、取得した観測データ等を用いて、今後、周辺海域のどこに漁場が形成されるのかを予測するモ デルを開発するとともに、これを使った予測情報を漁業者の携帯端末等に配信するアプリの開発も行っ ています。 これにより、沿岸海域の水質や潮流の変化を正確に予測するとともに、携帯端末等を用いて「漁場の 見える化」を図り、経験が少なくても、より効果的な漁業ができるようになることが期待されます。 CTD*1試作機 CTDから得られたデータをスマートフォンから手軽に見られるように する試み *1 Conductivity Temperature Depth:電気伝導度、水温及び深度を測定する機械。第1部
第Ⅰ章
【事 例】
遠洋かつお・まぐろ漁業でのICTを活用したビッグデータ化の取組
漁船上で取得される海洋環境や漁獲物に関するデータは、リアルタイムで電子的に記録や通信がなさ れておらず、有効に活用されていないのが現状です。このため、(研)水産研究・教育機構では、これ らのデータを集約して陸上に伝達し、分析すること(ビッグデータ化)により、海況予測や資源評価、 魚群の来遊予測等様々な分野に活用することを目指して、以下のような技術開発を進めています。 ①漁船上のデータを集約して陸上のサーバーに送信するシステムの試行を行っています。 ②漁船上のデータの中で、魚種別漁獲量データは最も基本で重要なデータですが、漁船上では漁獲量 も魚種組成も、漁業者が目視で推測しているのが通常です。より正確に推定するため、船上にベル トコンベアを設置し、その上を通過する魚を撮影し、画像解析と機械学習により、個体数・魚種・ サイズをリアルタイムで把握する試験を行っています。 ③カツオ自動釣り機の実用化につなげていくため、乗組員の釣獲動作を3Dモーションセンサーによ り測定し、上級者と初心者の違いなどを数値化しています。将来的には、上級者の動きを自動釣り 機に取り込んで釣獲成績をアップさせることを視野に入れています。 ④かつお漁では、最初に魚を狙う海鳥をレーダーで探索し、その後海鳥がいる海域まで船を移動させ て魚群を探しています。このため、カメラを搭載したドローンを海鳥のいる海域に向かわせて魚群 の有無を確認する技術の検討を進めており、実現すれば操業の省力化、船の燃料節約、漁獲量の増 加などが期待できます。 ⑤マグロの脂肪含量を瞬時に測定するための脂肪測定器を開発しました。こうした品質情報を電子化 して流通業者に提供することによって、魚価の向上につながることが期待されます。 (写真提供:(研)水産研究・教育機構) 画像解析による自動計測 3Dモーション(上級者と初中級者)【事 例】
北西太平洋のアカイカ漁場予測システム
夏季における北太平洋日付変更線付近のアカイカ漁は、漁場が遠方かつ広域であることに加え、漁船 隻数の減少により効率的な漁場探索が難しくなっています。 このため、漁海況情報を基にアカイカの好適な生息域を推定する漁場予測モデルを開発し、予測結果 を漁船に配信するとともに、現場の漁獲状況をリアルタイムに漁船から研究機関に配信することにより 漁場予測のずれやその原因を操業期間中に把握することでアカイカ漁の推奨海域を漁船にフィードバッ クするアカイカ漁場予測システムが試行されています。さらに、報告された漁獲状況を人工知能技術を第Ⅰ章
第1部
(4)多様な漁業分野におけるICTの活用
活かして予測の改良に役立てる研究開発も進んでいます。 これらにより、漁場探査の効率化や燃油削減に繋がることが期待されています。図:漁業情報の双方向通信システム
(資料提供:(研)海洋研究開発機構)図:水深150m水温分布図と漁場予
測図(リアルタイムで配信)
これまでは、生産に関わる現場でのICTの活用事例を紹介してきましたが、密漁防止や
内水面におけるカワウ被害対策などの分野においても、様々なICTの活用がなされていま
す。今後、これまで活用が見られなかった分野でも、ICTが活用され、省力化等につなが
ることが期待されます。
【事 例】
青森県陸奥湾における密漁監視システム
青森県陸奥湾ではホタテとともにナマコも生産されていますが、高級食材であるナマコは比較的沿岸 の浅いところに生息し、移動が遅いことから簡単に採捕できるため、密漁が横行しています。資源管理 を行っている漁業者による密漁監視にも限界があり、資源の枯渇が懸念されています。 このような状況を踏まえ、青森県漁業協同組合連合会はむつ湾漁業振興会と連携して効率的に監視で きるシステムを導入しました。 密漁監視システムは陸奥湾に15台のカメラを設置し、AIがカメラの画像から漁船か密漁船かを判断 し、密漁船と判断すれば、自動的に関係漁業協同組合等に警報が発信される仕組みになっています。 このシステムは24時間365日リアルタイムで監視することが可能で、平成29(2017)年4月からの 運用開始以降、密漁件数の減少傾向が見られており、ナマコの資源回復・維持が期待されます。 衛星通信 アカイカ ウェブサイト アカイカ漁船 アカイカ漁場予測 操業位置、漁獲量 リアルタイムで報告 インターネット回線 水温・塩分・流速予測 漁海況 情報 予測 情報 150m水温分布図 漁場予測図第1部
第Ⅰ章
監視カメラ 密漁船 (写真提供:青森県漁業協同組合連合会)
【事 例】
ドローンを活用したカワウ被害対策
カワウによるアユ等の食害が全国の内水面漁業者等にとって大きな問題となっています。一般に行わ れる被害対策には、漁場での銃器等による駆除や追い払い、卵をふ化させないための巣へのドライアイ スの投入や、カワウが漁場付近に定着するのを防ぐためにカワウが嫌がる音の出るプラスチックテープ (環境に配慮した生分解性プラスチック)の樹木への張り渡しがあります。しかしながら、銃器の使用 が困難な地域、崖の上や高い樹木の上等の人の立入りが困難な場所にカワウが巣を作ることも多く、組 合員の高齢化や減少という問題を抱える各地の内水面漁業協同組合は、より効果的な被害対策がないか と頭を悩ませています。そこで、(研)水産研究・教育機構を中心とした共同研究機関は、ドローンを 利用した、カワウ被害防止技術の開発を進めています。例えば、地元の漁業協同組合と協力して、ドロー ンを用いて、高い樹木に生分解性プラスチックテープを張ったり、ドライアイスを巣の中に投入したり する技術開発と、それらの効果を評価するための実証実験を行っています。今後、より安全で省労力な 手法の開発により、全国のカワウ被害に悩む内水面漁業者の負担が軽減されることが期待されます。 アユを食べるカワウ カワウの巣にドライアイスを投入するドローン (山梨県笛ふえ吹ふき川がわ) (写真提供:(研)水産研究・教育機構)第Ⅰ章
第1部
【事 例】
福井県竹
た け田
だ川
が わ漁業協同組合の遊漁券オンラインシステム「フィッシュパス」
第5種共同漁業の免許を受けた漁業協同組合は、漁業法に基づき、河川等における種苗放流等により 資源を増殖する義務が課され、その経費の一部を賄うため、遊漁者から遊漁料を徴収することが認めら れています。この徴収は一般に、漁業協同組合が発行する遊漁券を地元の商店や河川の現場等で遊漁者 に販売する形で行われています。しかしながら、遊漁券を取り扱う商店が早朝に開店していなかったり、 漁業協同組合職員等の高齢化により漁場の見回り活動が困難になりつつあることから、遊漁料徴収が十 分に実施できないといった課題があります。 こうした課題を解決するため、最近、一部の漁協では、民間事業者が開発したオンライン遊漁券購入 システムの導入を始めています。 このシステムの導入により、遊漁者は、いつでもどこでも スマートフォン端末から遊漁券を購入することが可能とな り、また、漁業協同組合側にとっても、これまで遊漁料徴収 が困難であった釣り人からの徴収が可能となることで収入増 大が図られるとともに、オンライン情報を通じて遊漁券を購 入した人の数や位置を把握することで、漁場の見回り活動の 際に遊漁券を購入していない者の発見が容易となるといった メリットが出ています。福井県の竹田川漁業協同組合では、 平成29(2017)年にこうした機能を持つ「フィッシュパス」 を試験的に導入したところ、遊漁券の販売額が前年を上回る とともに、漁場の見回り活動時間が短縮されました。 こうしたICTの活用が、遊漁券の販売だけでなく、駐車場 の位置、イベント開催、防災等、遊漁者にとって有益な情報 の提供を通じて内水面の漁業協同組合と遊漁者の結びつきを より強め、漁業協同組合を中心とした内水面漁業の振興に大 きく役立つことが期待されます。 スマートフォンのフィッシュパス アプリ画面 (株式会社フィッシュパスウェブサイトより)【事 例】
ICTを活用した効率的な漁場整備
水深が深い海域における漁場整備の施工中及び完成後の構造物の形状確認については、従来の音響測 深機による方法では、構造物の形状の把握に時間を要したり、精度が水深の影響を受けたりすることが ありました。しかしながら、マルチビームソナーによる詳細な3次元データを活用することにより、水 深が深い沖合域においても石材やコンクリートブロックの設置状況を短時間に高精度で把握することが 可能になり、施工中及び完成後の構造物の形状確認を効率的に行うことができるようになっています。 また、遠隔操作型無人探査機を使用し、水深が深い海域に設置した構造物や水産生物の生息状況を詳 細に調査することにより、漁場整備の効果をより多角的に把握することが可能となっています。第1部
第Ⅰ章
全球測位衛星システム(GNSS)で位置を測定 扇状の測深幅で広範囲を面的に調査 沖合の水深の深い海域でも高精度に調査可能 測深状況(船内パソコン画面)
(5)ICTを活用した流通・加工
漁業分野だけでなく、流通・加工分野においてもICTの活用が始まっています。今後、生
産者・消費者双方にメリットが生じるような形での水産物の電子商取引の拡大が期待されま
す。また、高齢化や人手不足等が課題とされている加工現場では、作業の効率化や省力化に
加え、精度の高い品質管理や熟練作業員の技術のロボット化などが期待されます。
【事 例】
宮城県漁業協同組合が運営する「おらほのカキ市場」
(電子卸売市場)
宮城県は全国でも有数のカキの生産地であり、そのほとんどはむき身の状態で宮城県漁業協同組合に よる共販事業で取引されています。東日本大震災後は産地価格が低迷したこともあり、生産者による直 接取引も模索されましたが、定期的な大規模直接取引は経営リスクとコストを伴うため、多くの生産者 にとって安定した新たな収益源とはなり得ませんでした。 そのため、平成25(2013)年度より、国立研究開発法人産業技術総合研究所と宮城県漁業協同組合は、 従来の共販事業では扱われていなかった殻付きカキの産直販売を促進するための電子商取引市場「おら ほのカキ市場」を開発しました。さらに、実証実験として宮城県内の8か所のカキ生産者と、首都圏の 飲食店や仲卸などのバイヤーとの電子商取引を行った結果、平成29(2017)年度までに殻付きカキの 販売実績が約10万個(約1千万円)となりました。 東日本大震災や高齢化等の影響を受けてむき身作業を行う作業員(むき子)が減少する中、殻付きカ キの販売による新たな商品と新たな販路開拓が生産者の収益改善につながることが期待されています。 また、宮城県漁業協同組合は、カキフライやホタテ、ギンザケ等についても電子商取引による販売を第Ⅰ章
第1部
開始しており、今後取り扱う商品を更に拡大していく方針です。 なお、(研)産業技術総合研究所では、今回の「おらほのカキ市場」の研究開発成果を宮城県以外に も横展開し、「スマートフィッシュマーケット」として全国的な水産物電子商取引市場に発展させるこ とを目指しています。 (おらほのカキ市場(宮城県漁業協同組合直営)ウェブサイトより)