高信頼・高精度・高可搬な数値計算法の研究 Studies on numerical algorithms retaining high reliability, high accuracy and high portability
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(2) 本論文は高信頼・高精度・高可搬な数値計算法に関する研究成果をまとめ たものである.本論文において高信頼な数値計算法とは,数値計算結果に対 して数学的に厳密な誤差上限が与えられる計算法を指す.また,高精度な数 値計算法とは,環境によらず精度のよい結果を返す計算法を指す.高可搬な 数値計算法とは様々な環境で所望の値を得る計算法を指す.本論文ではこれ らの三つの特徴を持つ数値計算法について述べ,特にそれらの特徴を持つ区 間 演 算 法 に つ い て 詳 細 に 述 べ ら れ て い る .ま た こ れ ら に 関 連 す る 内 容 と し て , 高精度な内積計算法の並列化法と,高信頼かつ高速な数値積分法について説 明されている. 本 論 文 は , 現 在 の 電 子 計 算 機 に よ る 数 値 計 算 の 主 流 で あ る , IEEE 754 標 準 規 格 の 浮 動 小 数 点 数 を 基 礎 と し て い る . IEEE 754 標 準 規 格 は 浮 動 小 数 点 規 格 の 一 つ で あ り ,「 電 子 計 算 機 の 中 に お け る 数 の 表 現 」や「 四 則 演 算 と 平 方 根 の 演 算 結 果 精 度 」,「 丸 め 」,「 例 外 」 な ど を 定 め て い る . 数 値 計 算 で は 実 数 を 直 接扱えない代わりに浮動小数点数を扱っているため多くの計算において誤差 が 伴 い ,電 子 計 算 機 の 誕 生 当 初 か ら 問 題 点 と し て 認 識 さ れ て き た .そ の 結 果 , 計算法の安定性等について多くの知見が得られ,多くの優れた計算法は誤差 の影響がなるべく小さくなるように設計されている.しかし実際の計算にお いて丸め誤差の影響を完全に把握することは難しく,既存の計算法の大半は 計算結果の精度について確実な保証を与えることはできない. これらの現状を踏まえて,本論文の前半では,申請者が提案した丸めの変 更を用いない区間演算法について述べられている.浮動小数点数を利用した 計算機では全ての実数を表すことはできないため,入力された値や計算結果 は丸められることになる.そのため計算機の中で数学的な計算結果を正しく 保持するために,区間の概念が自然に導入される.区間は数の集合を表し, そ の 区 間 内 の 全 て の 数 を 表 す . 数 学 的 な 計 算 結 果 よ り 大 き い (ま た は 小 さ い ) 浮動小数点数の中で最も計算結果に近い値を得るのに,広く丸めの変更を用 い た 方 法 が 利 用 さ れ て き た . 丸 め と は IEEE 754 標 準 規 格 で 規 定 さ れ る 浮 動 小数点演算のパラメータの一つで,数学的な計算結果に対して,どの浮動小 数 点 数 を 返 す か を 定 め て い る . IEEE 754 標 準 規 格 で は , 最 近 点 へ の 丸 め , 上 向き丸め,下向き丸め,ゼロへの丸めの 4 つが定義されており,浮動小数点 数を用いた区間の四則演算では,上向き丸めと下向き丸めを利用してそれぞ れ計算を行なえば,数学的な結果を含む最も区間幅の小さな区間が得られる ことが知られていた.一方で,丸めの変更はそれなりに実行時間がかかるだ けでなく,利用しているプラットフォームやコンパイラによって利用命令が 大きく異なり,計算環境によっては最近点への丸めしか無い物も多く存在す る.これらの問題点に対し申請者は,現在の数値計算環境で最も利用されて いる最近点への丸めのみを利用し,丸めを利用した区間演算と同じ精度を達 成する,区間演算法を提案した.提案法は無誤差変換を用いて計算誤差を把 1.
(3) 握し,その値を判定することで,数学的な結果がどの区間に含まれるかを判 定する.提案法を利用することで丸めの変更が不要となり,また,最近点へ の丸めに基づく既存の高精度計算ルーチンが直接利用可能となったことで, 高精度な区間演算の構築が容易となった. 本論文の後半では,区間演算に関連する二つの事柄について述べられてい る.まず,申請者が提案した高精度な内積計算法の並列化法について述べら れ て い る . こ れ は , 荻 田 ・ Rump・ 大 石 が 提 案 し た 高 精 度 内 積 計 算 法 に 対 し , 分散型並列計算機上においても,一台の計算機で計算した結果と同じ,また は , よ り 高 精 度 な 結 果 を 得 る 並 列 化 法 で あ る . 荻 田 ・ Rump・ 大 石 に よ る 高 精 度内積計算法は,無誤差変換を用いた高精度な内積計算法で,倍精度浮動小 数点数のみを利用し,それより長い仮数部を持つ浮動小数点数を利用し計算 を行なったときと同等の結果を返す特徴を持つ.一方でこの計算法は,誤差 無しで計算を行なう性質上,データ依存性が非常に強く,分散型並列計算機 における並列計算は難しいと考えられていた.この問題点に対し申請者は, 一台の計算機での内積計算結果を複数の倍精度浮動小数点数の形で保持する ことで,データの情報を出来る限り失うこと無く,また,各計算機間の通信 情報量を大幅に増やすこと無く,一台の計算機で計算した結果と同じ,また は,より高精度な結果を並列計算機で得ることに成功した.また申請者は, 提案法の数学的解析によって誤差上限を示し,数値実験においてもその特徴 が表れていることを示した. 次に申請者が提案した,高信頼かつ高速な数値積分法について述べられて いる.これは,高橋・森が提案した二重指数関数型積分公式を利用した,一 変数関数に対する高信頼かつ高速な自動積分法である.一般に,数値積分の 実行時間は,必要となる分点数の関数値計算時間が多くを占める.近似計算 において利用者が指定した要求精度を満たす分点数を事前に把握することは 容易ではなく,また,多くの数値積分法では得られた結果が要求精度を満足 するか否かの判定を繰り返しているため,実際に必要な分点数より多くの関 数値計算を行なうことが多く,実行時間に直接的な影響を与えていた.この 問題点に対し申請者が提案した計算法は,数値積分を行なう過程で発生する 全ての誤差を事前に把握するよう試み,要求精度を満たす分点数を予め求め る.これにより,二重指数関数型積分公式を用いた数値計算法において,高 信頼で,従来の計算法に比べて同程度か,時にそれより高速な計算法を作成 することに成功した. 第 1 章では,本研究が行われた背景として高信頼・高精度・高可搬な数値 計算法に関する事柄が記述され,本論文の概要と構成が述べられている. 第 2 章では,高信頼・高精度・高可搬な区間演算法について説明されてい る.まず,最近点への丸めを用いた区間演算の方針として,二つの手法があ ることが説明されている.続いて必要となるいくつかの関数について具体的 2.
(4) な計算手順が示され,それぞれの方針における四則演算の詳細な計算法が述 べられている.特に乗算に関しては,区間行列積の計算を考慮し,従来広く 行なわれてきた区間行列積の計算法に比べ,より高精度な結果を返す計算法 についても述べられている.高精度区間行列積計算法の詳細な計算手順が示 され,数値実験により従来の計算法に比べ,高精度な結果が得られているこ とが示されている. 第 3 章 で は ,高 精 度 内 積 計 算 法 の 並 列 化 法 に つ い て 議 論 さ れ る .ま ず 荻 田 ・ Rump・ 大 石 に よ っ て 提 案 さ れ た 高 精 度 な 内 積 計 算 法 に つ い て , 計 算 手 順 と そ の誤差解析が述べられている.続いて,それらの計算法に対応する並列化法 について詳細な計算手順とその誤差解析が証明と共に述べられている.最後 に数値実験において,その特徴が表れていることや,提案された並列化法の 並列化効率について述べられる. 第 4 章では,高橋・森が提案した二重指数関数型積分公式を利用した,高 信頼かつ高速な自動積分法について述べられている.はじめに,二重指数関 数型積分公式についての基礎的な事実が述べられ,続いて,岡山・松尾・杉 原による誤差解析定理が説明されている.次に,この誤差解析を改良し,二 重指数関数型積分公式のより適切な分点数と区間幅を計算する定理が示され, その有効性についても説明される.また,高速化を達成するための手法とし て,二重指数関数型積分公式に対する丸め誤差の事前誤差計算法とその有効 性が述べられる.最後に提案手法が詳細に述べられ,数値実験によって高信 頼な計算結果が,従来の計算法に比べて同程度か,時にそれより高速に計算 が行なえることが示されている. 第 5 章 で は ,本 論 文 の 結 論 と し て ,ま と め と 今 後 の 展 望 が 述 べ ら れ て い る . 以上で述べたように,申請者は,高信頼・高精度・高可搬な区間演算法を 提案し,これに関連して,高精度な内積計算法の並列化法と,高信頼かつ高 速な数値積分法を提案した.区間演算法に代表される申請者が提案した数値 計 算 法 は , 信 頼 性 ・( 高 精 度 化 の ) 簡 便 性 ・ 可 搬 性 の 高 い , 従 来 に な い 計 算 法 であり,数値計算法に関する研究に新しい知見をもたらした.よって,本論 文は博士(工学)の学位論文として価値あるものと認める. 平 成 23 年 1 月 審査員 主査 早稲田大学教授. 工学博士(早稲田大学). 大石 進一. 早稲田大学教授. 博 士 ( 数 理 学 )( 九 州 大 学 ). 室谷 義昭. 早稲田大学教授. 理学博士(京都大学). 田端 正久. 早稲田大学教授. 博 士 ( 工 学 )( 早 稲 田 大 学 ). 柏木 雅英. 3.
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