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デネットの解釈主義とプラグマティズム : 三つの ケーススタディ

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Academic year: 2022

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デネットの解釈主義とプラグマティズム : 三つの ケーススタディ

著者 西村 振一郎

URL http://hdl.handle.net/10236/11587

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論 文 内 容 の 要 旨

 西村振一郎氏の学位請求論文「デネットの解釈主義とプラグマティズム〜三つのケーススタディ〜」は、

認知科学など哲学の枠を超えて大きな影響力を及ぼしている現代アメリカの哲学者ダニエル・デネット

(Daniel Dennett)の哲学の基本的構造を明らかにするとともに、西村氏が不十分な展開しかなされていな いと考える部分をより明快にしようと試みる、極めて意欲的な論文である。

 「三つのケーススタディ」という副題が示すように、本論文は、三つの部分に分かれている。最初の部分 においては、まず、デネットの基本的立場である解釈主義とプラグマティズムの内容が巧みな比喩を用いな がら説明され、それを基盤として、われわれが対象に対して持ちうる志向姿勢、設計姿勢、物理姿勢という 三つの姿勢の意味が説明なされた後に、それら三つの姿勢が存在論的認識論的に等価であることがデネット のプラグマティズムの帰結であることが示される。西村氏は、存在者はそれに対する姿勢に対応してその存 在が示されるというデネットの存在論を、唯一絶対的なという含意を持つ形而上学的存在論と区別するため に、視点によって見えてくる画像が異なるだまし絵との類比を考慮して「だまし絵的存在論」と名付けてい る。そして、デネット的解釈主義とプラグマティズムの興味深い帰結として、広く受け入れられつつあるよ うに見受けられる「クオリア」なる概念が空虚であることが示される。さらに、デネットと同様なプラグマ ティックな立場に基づいて存在論の放棄を主張するリチャード・ローティ(Richard Rorty)と異なり、デネッ トが科学の成果の堅固さを根拠として基盤的科学の存在論を受け入れ、したがってローティのような極端な 立場をとっていないことを明らかにしている。ただし、この立場に立ちつつも、科学のダイナミズムを考慮 しないものとして、チャーチランド(Paul Churchland)などの消去主義的唯物論をデネットが否定してい ることも論じられている。

 論文の二番目の部分は、ヘテロ現象学に関する議論に当てられている。ヘテロ現象学は、心の探求に用い られる方法であるが、科学の方法として、あくまで第三者的観点から検証可能なデータに基づいて探求をす すめるものである。例えば、発話行為や、脳神経のネットワークの状態、ホルモンの分泌のあり方等々が中 心的なデータとなる。このような心の探求の方法は、心をなにか中核的な実体と捉える誤りや、最初に存在 論を決定し、特定の存在論的前提の上に立って心の探求をなすという誤りから免れているという意味で、よ り優れたものである。また、神経生理学的探求プログラムや素朴心理学的探求プログラムなども共に一つの 解釈であり、それらの優劣は、予知と説明にどれほど有用であるかによって決まるという立場を取るヘテロ

学 位 の 専 攻 分 野 の 名 称 学 位 記 番 号 学位授与の要件 学位授与年月日 学 位 論 文 題 目

論 文 審 査 委 員 (主査)

(副査)

西 村 振一郎

デネットの解釈主義とプラグマティズム  〜三つのケーススタディ〜

博 士(哲 学)

甲文第129号(文部科学省への報告番号甲第460号)

学位規則第4条第1項該当 2013年3月2日

浜 野 研 三 久 米   暁 中 島 定 彦

教 授 教 授 教 授

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現象学という心の探求方法が、デネットの解釈学とプラグマティズムの応用例の一つであることがこの部分 の結論として示される。

 論文の三番目の部分は、ミーム理論の説明とともに、デネットが目的論的説明の妥当性に対して懐疑的で あり、少なくとも明瞭なかたちでその妥当性について語っていないことに対して、目的論的説明の妥当性を 明らかにすることによってデネットの体系をより豊かなものにしようすることが試みられている。

 まず、「ミーム」概念が説明され、それが進化論における遺伝子に相当する、多様な人間の考えの最小単 位として人間の脳の中にいかに入り込み複製されてゆくのかを互いに争っているものであること、そして考 える能力を持つに至った人間という動物の集団の中に働く自然淘汰のアルゴリズムに服するものとして理解 されるべきことが論じられる。このようにして、デネットが「ミーム」概念を導入することによって、自然 科学の領域と規範概念が駆使される人文・社会科学の領域を自然淘汰のアルゴリズムによって統一的に探究 できるとする構想を提出していることが明らかにされるのである。それとともに、西村氏は、デネットが自 然主義的誤謬を犯していないことをデネットが「会話ストッパー」なる概念を用いている事実に依拠するこ とによって論証している。

 以上の様な仕方で西村氏は「ミーム」概念がデネットの体系においていかに重要な役割を果たしているの かを示しつつ、他方において、デネットが目的論的説明が無限背進に陥るとしてそれに適切な位置を与えて いないとして、社会的合意という概念を用いて無限背進を止めることができることを示し、「ミーム」概念 に依拠したもの以外の説明方法があることを論じた。そして、最後に、デネット哲学の魅力とともに、目的 論的説明に適切な認識論上の位置を与えたこと、およびそのことによってデネット哲学の基盤である解釈主 義とプラグマティズムをより一層徹底化させたという自らの論文のメリットを挙げてまとめとしている。

論 文 審 査 結 果 の 要 旨

 西村氏の論文は、多くの著作が邦訳されているにもかかわらず、その哲学の全体像に迫るようなまとまっ た研究書が、管見の限りでは、日本ではまだ一冊も出版されていないダニエル・デネットの哲学の全体的な 構造を明らかにし、それを貫く解釈主義とプラグマティズムという基盤的原理がどのような役割を果たして いるのかを明らかにした点で、大いに評価できるものである。

 特に最初の二つの部分においては、多様で適切な例や比喩を用いてデネットの三つの姿勢論やヘテロ現象 学の内容が明確に説明されている。さらに、それが持つ存在論的意味が、通常の形而上学的意味合いを持た ない独自のものであることが明瞭な言葉で示されている。この基礎的作業の故に、デネットが何故チャーチ ランドのような消去的唯物論をとらないかが明瞭に理解される。また、現代の心の哲学の研究者が陥りがち な、特定の存在論を前提とした上で心の問題の探求を行う誤りをデネットが免れ得たことの理由が容易に理 解されるような説明がなされた。

 さらに、往々にして受け入れられがちな、まとまった一つの対象としての 「 私 」 ないし 「(私の)心 」 な る概念がいかに実体を持たない虚構であるのかをデネットの多元草稿モデルを援用しながら示したり、同様 に、次第に人々に受け入れられつつある「クオリア」概念がデネットのヘテロ現象学の観点からは、空虚な 概念としてその意義が無化されることを示したりして、デネット哲学の魅力をアピールすることに成功して いる。

 第三部分においても、自然淘汰のアルゴリズムが通常の意味での生物進化の場だけではなく、人間の文化 における考えの変化の説明に使えることが、「ミーム」概念を導入することにより可能になること、そして、

それが自然科学と人文・社会科学の統一というデネット哲学の目標を達成するための中核的な理論装置であ ることを明らかにしている。そして、デネットの目的論的説明批判に対して、「社会的合意」という概念に

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よって、デネットの批判の核心である無限背進を止めることができるという議論を展開して、デネットが明 瞭な形で語っていない目的論的説明に適切な位置を与えようとしたことは、十分評価に値する。しかも、そ のような立場が、デネット自身の体系の基盤をなす解釈主義とプラグマティズムの徹底を意味し、したがっ て、デネット哲学の精神にも合致するという議論によって、自らの立場を強化しようとしたことは、独立し た研究者としての思考の努力を示していて、評価できるところである。

 以上のように、西村氏の論文は、デネット哲学の提示する世界像や科学方法論に正面から立ち向かい、自 らの研究者としての地平を開こうとする氏の努力とその成果が明らかに見て取れる、博士の学位に値するも のであるということができる。

 しかし、氏の論文について、いくつかの難点を指摘することができる。その第一のものは、デネットが目 的論的説明を一旦は否定しながら、自然主義の内容をより複雑で豊かなものにすることによって、目的論的 説明に正当な場所を与えていることを見逃している点である。デネットは、貪欲な還元主義と周到な還元主 義の区別をなし、前者に依存した形で自然主義と矛盾しない形で目的論的説明や規範的要素の説明をなすこ とは不可能であると考えていたが、後者を用いれば、そのような立場を矛盾なく構築できると考えていた。

西村氏は、上記の二つの還元主義の区別に言及し、その区別の重要さを理解していたが、それが持つより大 きな意義を把握し、表現するには至っていないように感じられた。

 第二の難点は、第一のものと関連するものであるが、デネットが文化の発生以前と発生以後について、説 明の仕方やそれに用いられる語彙に質的な相違を導入している点に対して、十分な目配りが欠けているよう に思えることである。

 以上のような難点は、外国語の文献においても明瞭な仕方では語られておらず、西村氏の博士論文に特有 の問題とは言えない。このため博士論文の価値を大きく下げるものではないが、今後のより一層の研鑽が求 められる。

 審査委員会は2月13日に公開の口頭試問を行い、上記の難点を含めたさまざまな掘り下げた質問を投げか けたが、西村氏は、非と認めるものは非と認め、賛成できない意見に対しては筋道だった反論を試みるとい う仕方で、すべての質問に対してできる限り公正かつ論理的に答えようとする態度を示し、その真摯な態度 に審査委員全員が強い印象を受けた。

 以上のような論文の審査と口頭試問の結果を考慮して、本審査委員会は、西村振一郎氏が博士(哲学)の 学位を授与されるにふさわしいとの結論に達したので、その旨ここに報告する。

参照

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