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不動産競売手続雑感
栗 田 陸 雄
(本法務研究科教授)
民事執行法施行前 には,不動産競売 とい えば,競売 りを原則 的売却法 とし,「入札払」 (現行法上 の期 日入札 に相 当) は例外的売却方法 として規定 されていた (旧民訴法
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条)。強制競売 の 目的 が迅速 にかつで きるだけ高額 で換価す るこ とにあ るこ とは議論 の余地がな く,競売 りが, その理想 型 において は, よ りこの 目的 にかな うこ とは,明 白で ある。す なわち,競売 りは,競争 に よって 申 出価額 が上昇す る方法で あ り,関心 を有す る多数 の者 が 自由に参加 して 申出価格 を競 うとい う条件 が整 う限 りにおいて, もっとも競売 の 目的 にか な うものである。 しか し, 旧法時代 の実務 として, 不動産競売 には,い わば負の部分 がつ きま とっていた。各執行裁判所 における競売手続 にはほぼ一 定 の顔ぶ れの競売 ブローカーが参加 し,一方では, これ らが一般市民 の競売 申出参加 を妨害 し, ま た他方で は談合等 の不正 を行 う実態が あ った。私 は,大学院 の学生 の頃,昭和4 7
年 に学習院大学 で開催 された私法学会 の ジ ンポジュウム 「強制執行法改正 と実体法」 (私法3 5
号収録) に出席 した 際 にこの間題 について活発 に討論 がな された こ とを記憶 してい る。い ま改 めて雑誌 の記事 を確認 し てみ る と, この間題 は竹下教授 の基調報告 で触 れ られ( 2 7
頁), また討論 の時間で故斉藤秀夫教授 に よって実際の経験 が語 られてい るこ とを見 出 した (87頁)。次 の斉藤教授 の発言 は以上 の実態 をよ く説明 してい る。
「‑ 菊井先生,兼子先生 を責任者 に して, も う10数年前 に執行 の実態調査 を したわけで,大阪 の調査 の ときに,私 は買受希望者 の ような顔 を して行 きました。買受希望者 の一部 の者 か ら,君 の ような者 は, こ うい うところに出入 りす るものではない とい う人定尋問的 な排斥 を くらった こ とが あるのです。実態調査 に来 たのだ とい うこ とをか くして,少 しふ ところに金 のある ようなか っこ う を して行 ったつ も りだ ったのです けれ ども,いつで もそ うい う化 けの皮 がす ぐはがれ る ような ぐあ いで あ りま した。私 の ような普通 の市民 も, もし執行手続 のや り方 として安全運転 をや り,最後 は 競落人 の所有権取得 だけはだい じょうぶだ とい う競落人保護 とい う安全運転す る手続 な らば,私 の
ような者で も近寄 るこ とがで き, また参加 で きる ようになる と思い ます。 ‑ 」
民事執行法 は,上記 の問題 についてその立法作業 の初 めか ら (強制執行法改正要綱案第一次試案 第
4 0・3 )
,競売 りで はな く,入札 払い を原則 とす るこ とに転換 し,第6 4
条 1項,2
項 において そ の旨 を法文化 した。 また民執規則34条 は,入札 に,期 日入札 と期 間入札 の2種類 が あるこ とを規 定 してい るO現行法 において も,競売 りは,1つの選択肢 で あるが,実際 には, 旧法時代 における 入札払 の弊害 を防止す るために,期 間入札 の方法 が一般的である。競売 りの場合 と入札 の場合で, 売 却 価 額 に大 きな差 は ない とす る東 京 地 裁 民 事2 1
部 の実 験 結 果 (三 宅 ・民 事 執 行 セ ミナ ー1 3 5 ‑ 1 3 6
頁 の発言参照)が あ り, これに よって現行法 の規定及 びその運用 は正当化 され るのか もし れない。 しか し,買受希望者 に とって,競争相手 に関す る情報 がない状態で適正 な価額 で物件 を取4 不動産競売手続雑感
得す るこ とは,相 当な難事 で あるこ とは間違いがない。 これは現行法 の運用 におけ る 1つ の課題 で ある ように思 われ る。
私 は,かつて ドイツ滞在 中に
( 1 9 8 0
年9
月‑ 1 9 8 1
年8
月 ・ケル ン大学手続法研究所), ケル ン区 裁判所 におけ る不動産競売期 日を見学す る機会 を得 た。事案 は,執行証書 に基づ く土地 の強制競売 で あ り,期 日は,1 9 8 1
年3
月末 に開かれた。 ドイツで は,売却 は競売 りに よって行 われ,不動産 所在地 の区裁判所 が執行裁判所 とな るが, この ときは,司法補助官 (Rechstpfleger)が売却 を実 施 してい た。競売場 は,大学 におけ る階段教室 の形状 を有 してお り,正面 の席 には,1名 の司法補 助官 と2名 の女性事務官が座 り, また正面 に向か って右前 に債権者, その後 ろ,前列 か ら2/3ほ ど に買受希望者 が座 し, また最後部1/3ほ どの ところに学生用 の傍聴席 が あ り,実際 に30名以上 の 学生 が着席 してい た。私 は,左側 前列 か ら3列 目の ところに座 り,手続 の経過 を見 守 った。15分 ほ ど冒頭手続 がお こなわれ, その最後 の ところで買受希望者 に対 して競売 申出の催告がな された後, 手続 は,休憩 に入 った。時間 は,30分 ほ どで あ った と思 う。買受希望者 は どの よ うな人 か と見 て み る と,例外 な く男性 と女性2人 1組で,おそ ら く不動産 関連 の会社等 に勤務す る競売担当の主任 とその補助 を務 め る事務 員で あ ろ うと推測 された。1 0
組以上 の買受希望者 が,階段席 の通路上 で 情報 を交換 しあ う光景 が見 て とれた。所定 の時間が経過 した後,司法補助官 の指示 に より,買受希 望者 は,用意 された箱 に申出額 を記載 した用紙 を入れ る。事務官が これ を整理 した うえ,司法補助 官が,最高価額 を読 み上 げ るこ とで競売 り開始 となる。最後 の申出額 が3回呼 び上げ られた後,読 売手続 は終結 した。 この ときは,債権者 が買受 けに強い意思 を示 して最終的 に落札 した。期 日に要 した時間は,全体 として1時間半弱で ある。い ま強制競売 ・強制管理法 の条文 を確認 してみ る と, 当時 の7 3
条 が改正 されてい るこ とに気づい た。す なわち,改正前 には, 申出の催告 か ら期 日終 了 まで に最低1時間 の時間 をおか なければな らない こ とにな っていたので あ るが,現在 で は30分 に 短縮 されてい る。 しか し,当時 の印象 として も,期 日は,実 に整然 と短時間で終結 していた。 さら に,関係者 が退席 した後,学生 のために質疑応答 の時間が設 け られていた こ とは,新鮮 に感 じられ た。私 自身 は,売却 の終 了後,学生 の質疑 の最 中に退席 したので あるが, とにか く,手続 が極 めて 開放 的で あるこ と, また円滑 に進行 した こ とが印象 に残 った。競売期 日における多数 の学生 の臨場 には,手続監視 の意味が ある ように も思 われ るが, しか し,
1981年3月当 時, ケル ン区裁 判 所 は,Reichenspergerplatz の裁判所庁舎 にあ った。現在 は,LuxemburgerStrafもeに移 転 してい る。写真 は,AmtsgerichtK61nの ホ ームペ ージか
ら引用 した もので あ る。
おそ らく買受希望者 の法 に基づいて行動す る とい う姿勢 こそが,競売 りが うま く機能 して い るこ との原 因で あろ う。 わが国においては, 競売 りの長所 は一般 に認 め られ る ところで あ
るが, ドイ ツの よ うに法 が社 会規 範 と して 人々の 日常生活 に浸透 してい る とい う前提 が 欠落 してお り, これ を復活 させ るこ とは,過 去 の経験 に照 らして困難 であるか もしれない。
しか し,司法制度 は,現状 に甘んず るのでは な く,買受希望者 が より合理的 に申出額 の決 定 をす るこ とがで きる ように配慮すべ きで あ り, そのためにイ ンターネ ッ トを活用す る等 立法 を含 めてなお改善 の余地 はある ように も 思 われ るのである。