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障害者差別禁止法理における平等取扱原則の意味

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(1)

1.はじめに

 現在日本において,障害者政策委員会差別禁 止部会(以下,差別禁止部会)が先頭に立ち,

2013年障害者差別禁止法案提出に向けた取組み が進んでいる。この障害者政策委員会は,2009 年12月8日に内閣府に設置されて以降,障害者 法制の見直しを進めてきた障がい者制度改革推 進会議が2011年の障害者基本法改正を受けて 2012年7月23日に廃止されたことに伴い,その 事業を引き継いだものである。

 差別禁止部会は,これまで障害の定義や救済 制度をはじめ,多くの論点について議論してき た。その論点の1つとして,差別禁止法が禁止 する差別とは何かが取り上げられ,2012年7月 13日開催の部会に部会三役原案で取りまとめの 方向性が示された。そこで障害者権利条約や諸 外国の立法例を参考にして検討した結果として 俎上に上がったのは,直接差別,関連差別(起 因差別)(1),間接差別,そして合理的配慮義務 の不履行の4類型であった。その上で関連差別 と間接差別は基本的な適用領域が重なり合うも

のとされ,間接差別は関連差別に統合するのが 適切であるとされた。さらに,直接差別と関連 差別に関しても,救済申立の際に区別すること は事実上困難であるとされた。こうした議論を 経て,差別禁止部会の推奨する差別禁止法で禁 止すべき差別とは,不均等待遇と合理的配慮義 務の不履行の2類型に落ち着いた[差別禁止部 会2012

:

4

-

6]。

 この不均等待遇として問題になっているもの においては,実際には様々な要素が複雑に絡み 合っている。障害者差別禁止法案の検討途中で ある日本の現状において,不均等待遇禁止の具 体的な運用例を検討することは有益であろう。

本稿では,差別禁止部会が法案検討に際して参 考にしたイギリスを比較対象国に据え,特に 1995年障害者差別法(

Disability Discrimination

Act.

以下,

DDA

)の平等取扱(差別禁止部会

の資料でいう不均等待遇)原則に焦点を当て,

検討する。

*早稲田大学大学院社会科学研究科 博士後期課程3年 論 文

障害者差別禁止法理における平等取扱原則の意味

−イギリス障害者差別禁止法( DDA )の直接差別と 関連差別に関する議論を中心に−

杉 山 有 沙

(2)

2.イギリス障害者差別禁止法(以下,

DDA)の基本構造

DDA

は,雇用,商品・施設・サービスの提 供,そして不動産の売却や管理に関連する障 害者差別を禁止する法律として,1995年11月 8日に制定された。イギリス障害者差別禁止 法理は,この

DDA

の改正を通じて発展してき た。最終的に2010年平等法(

Equality Act

)制 定によって

DDA

は全面廃止されたが,事実上,

DDA

が構築してきた障害者差別禁止法理は平 等法に引き継がれている(2)

 平等法によって廃止される前の時期の

DDA

は, 直 接 差 別(

DDA

3

A

条 5 項 ), 障 害 に 関 連 す る 理 由 に 基 づ く 差 別(

disability-related discrimination.

 以下,関連差別。同法3

A

条1 項)(3),そして合理的配慮義務の不履行(3

A

2項)という3種の差別類型を禁止していた。

これは,関連差別と合理的配慮義務の不履行 のみを禁止していた制定当初の文言に,2003年

DDA

改正法(

Disability Discrimination Act

1995

Amendment

Regulations

2003

.

以下,2003年法)

によって直接差別を加えたものである。ここで は,各差別類型の関係を分析するに先立って,

それぞれの差別類型の内容とするものを概観し ておこう。

 直接差別とは,本人の障害を根拠として(

on the ground of the disabled person s disability

),同 じ障害を持たない者で関係する諸事情が同じ,

もしくは実質的に異ならない者よりも障害者を 不利に扱うことを指す(3

A

条5項)。直接差別 は,障害を理由に行われた障害者に対する使用 者の取扱いに依拠し,また使用者が適切な比較 対象者に対する取扱いの比較にも依拠する(行

為準則2004

:

4

.

6)。

 次に関連差別とは,障害者の障害に関連する理 由(

which related to the disabled person s disability

によって,この理由が当てはまらない,または 当てはまらないだろう者よりも不利に取扱い,

そして問題となる取扱いを正当化することが できない場合に生じる(3

A

条1項)。具体的に は,障害を持つために車椅子を必要とする女性 が就職願いを出した際に,職務遂行能力がある にも拘わらず,車椅子を理由に彼女を不採用と した場合が挙げられる。この場合,使用者がそ の対応を正当化できなければ,関連差別が生じ たと判断される(行為準則1996

:

4

.

2)。

 最後に合理的配慮義務の不履行は,障害者に 関係して課された合理的配慮義務を履行しな かった場合,使用者が障害者を差別したと見 なすものである(3

A

条2項)[詳しくは,杉山 2011

b;

2012

a;

2012

b

参照]。この合理的配慮義 務の不履行は,平等取扱原則とは――連続性が あるものの――区別された基本原理に基づくも のであるため,本稿の対象からとりあえず除外 する(4)

3.DDA における平等取扱原則規定の 変遷

 直接差別,関連差別,合理的配慮義務の不 履行を禁じられた差別類型とする

DDA

の基本 枠組は,性差別禁止法(

Sex Discrimination Act.

以下,

SDA

)など,他の領域で確立してきた 差別禁止法理とは異なった構造を採用するもの であった。従来の差別禁止法理は,直接差別と 間接差別を禁止する(

SDA

1条1項)。それに 対し,

DDA

が独自の枠組を採用したのはなぜ

(3)

だったのだろうか。

3.1 関連差別概念の誕生

 障害者差別禁止法理の構想自体は1970年代末 から既に存在していたが,福祉財源縮減を狙う 保守党による抵抗を受け,

DDA

制定までに約 15年の時間を要した[杉山2010

:

222]。この間 に労働党議員主導で何度も「市民権(障害者)

法案(

Civil Rights

Disabled Persons

Bill.

以下,

CRB

)」が提出された。

DDA

は,後述する差 別類型の相違を除けば,

CRB

から骨格を受け 継いでいるといえる[寺島2002

:

27]。

 しかし

CRB

には関連差別に関する規定は存 在しなかった。関連差別概念が初めて現れるの は,1995年1月12日に保守党政府により下院議 会に提出された最初の

DDA

草案においてであ る。

CRB

は3つの差別類型を禁止する(5)。第1 に「インペアメントを持つ障害者をインペアメ ントを持たない人よりも不利に取扱った場合」

であり,これは直接差別にあたる。第2に「イ ンペアメントを持たない,ある要求に応じるこ とができる人の割合が,インペアメントを持 つ,その要求に応じることができる障害者の割 合よりもかなり高く」なるような場合に,「要 求に応じない,または応じることができないこ とを理由に,インペアメントを持つ障害者をイ ンペアメントを持たない人よりも不利に取り 扱」い,そして「この要求をすることの正当性 を証明することができない」場合である。これ は間接差別にあたる。最後に「障害者に対する 合理的配慮義務を履行しなかった場合」であ り,合理的配慮義務の不履行を指す(

CRB

条)。この

CRB

が採用した差別類型は,他の領

域における差別禁止法の影響を強く見ることが できる(6)

 それに対し

DDA

草案は,禁止する差別類型 として関連差別と合理的配慮義務の不履行とい う2種を提示した(

DDA

草案4条)。これは独 自の差別類型であり,制定者が他の領域におけ る差別禁止法理とは異なる構造の差別禁止法理 を作り出そうとしていたことを示唆する。

 この選択肢の中から,

CRB

ではなく

DDA

案が採用された。その理由として保守党政府 は,

CRB

を採用した場合に使用者側にかかる 過度な財政負担を挙げた。

CRB

は企業に対し て導入開始から5年間で2

,

170億ポンド,その 後も年21億ポンドの負担をかけ続けるとされ,

そのような莫大な費用負担を産業界に課すこと は競争力に悪影響をもたらすだけでなく,使用 者らの反感を買い,結果的に障害者に被害を加 える可能性があるとされた[

IRS

1995

:

2]。こ れに加えて鈴木は,保守党内からも

CRB

の賛 同者が出ていた中,与野党間の議席数が接近し ている政治状況において

DDA

草案を可決しな いと政府の指導力に悪影響が生じかねなかった という政治的理由を挙げる[鈴木1997

:

44]。

DDA

における平等取扱原則の意義を探る本 稿において特に注目すべきなのは,関連差別概 念の形成過程である。時期的に

CRB

が先行し,

DDA

草案を作成する際には

CRB

の差別類型が 意識されていた。それではなぜ,直接差別・間 接差別の禁止ではなく,関連差別という類型が

DDA

で選択されたのであろうか。

 間接差別の不採用に関して障害者担当大臣で

あった

Hague

下院議員は,障害者差別禁止の領

域においては直接差別と同様の方法で間接差別 にも対応できると述べた。彼は,

DDA

草案の

(4)

直接差別の定義で障害者自身に直接的に関わら ない類の問題をも解決できるとする。具体的に は,犬同伴の入店を拒否するカフェに盲導犬を 連れた視覚障害者が入店できないケースが想 定されるが,

DDA

草案の枠組でも違法な障害 者差別の推定(

prima facie case

)が基礎づけら れる[

HC Deb

24

January

1995

vol.

235

cc.

150]。

また当時発行された白書において,そもそも障 害者はインペアメントの違いから様々な問題を 抱えているので,障害者に対する間接差別の一 般的に禁止しても,職務に関する不公正な負担 という結果は予見できないと指摘されている

White Paper

1995

:

4

.

5]。

 確かに,障害者が抱える 障害 の種類・程 度は極めて個別具体的であり,さらに障害概 念は本人の生活する環境に影響を受けるので,

CRB

の間接差別枠組にあるような障害者に一 定程度共通した利害関係があることを前提とし た 割合 を基準に不当な差別があるか否かを 判断するのは難しい。この意味で間接差別を

DDA

草案が採用しなかったことは頷ける。

 結局

DDA

草案は,平等取扱原則違反の差別 類型として,使用者による正当化の余地が残さ れた関連差別の禁止を採用した。どのような 理解を経て

CRB

にあった直接差別禁止から関 連差別禁止へと変化したのだろうか。この点,

Inglewood

貴族院議員は,障害者差別解消のた

めには単に不利な取扱いを禁止するだけでは不 十分で,障害者のインペアメントに基づく制約 を克服するための措置として合理的配慮を位置 づけるが必要があると指摘するが,それでも障 害者の何人かが特定の仕事に就けない可能性を 想定する。そうした場合には「残念ながら不利 な取扱いも完全に正当化可能であることを認め

ざるを得ない」と述べた[

HL Deb

13

June

1995

vol.

564

cc.

1750]。ここに現れるように,正当 化の余地のない直接差別の概念は障害者差別の 文脈では不適当だとする意識があり,その結 果,正当化の余地を残した関連差別の禁止とい う枠組が採用され,そこに他の領域なら間接差 別で扱われる差別事案が含み込まれることに なった。ただ,このような独自の差別概念を採 用したことは,

DDA

制定後に多くの専門家の 混乱を招くことになる。

3.2 1995年制定当時の差別規定

 保守党政府と労働党の間の約15年にも渡る攻 防戦の末に成立した

DDA

が結果的に採用した 禁じられた差別の類型は,関連差別と合理的 配慮義務の不履行だった(7)。関連差別を禁止す る条文の文言は,1995年

DDA

制定から2010年 平等法の制定に伴う

DDA

の全面廃止まで,修 正・変更はない。

 だが

SDA

など従来の差別禁止法で禁止され たような 純粋な直接差別 ――すなわち正当 化の余地なしで不平等取扱を違法とする差別禁 止――が存在しない

DDA

の下で,関連差別の 正体はしばしば議論の対象となった。前述の 関連差別概念の形成過程における議論でも見 られるように,基本的に関連差別は, 純粋な 直接差別 ではないものの, 直接差別 の延 長線で捉えられるものとされていた。例えば

Collins

らは,関連差別を「障害に関連する直接

差別」と記述し,この差別が正当化可能なのは イギリス差別禁止法において特異なものである と指摘した[

Collins, Ewing and McColgan

2001

:

246]。また

Monaghan

は,

DDA

制定当初の関 連差別は障害そのものを理由(

on the ground of

(5)

disability

)とする必要がなく,障害者の障害と 取扱いの因果関係を問題にするので,直接差別 領域をカバーするものと捉えられていたと分 析する[

Monaghan

2007

:

277

,

355]。両者が描 き出す1995年制定当時の関連差別の適用範囲 は, 純粋な直接差別 領域を内包する広範な ものであった。これに対し,関連差別が従来の 直接差別と間接差別を明確に分けずに扱ってい るものだと位置づけたのは

Doyle

だった[

Doyle

2003

:

39]。彼は,関連差別の定義は従来の差別 禁止法で用いられてきた 純粋な直接差別 の 定義と非常に似ていることを指摘した上で,異 なる点として,通常は間接差別で用いられる正 当化の抗弁の余地が加えられている点にある,

と説明した[

Doyle

1997

:

73]。

 制定者が間接差別をも

DDA

の差別枠組で対 応できると考えていたことは先の分析から明ら かだが,障害の性質が個別具体的であることか ら不利の生じる割合に依拠して認定される間接 差別の禁止が採用できなかった事実を踏まえる と,関連差別禁止の規範構造の中に間接差別禁 止と同じものを読み込むことは適切ではないだ ろう。

 いずれにせよ関連差別は 純粋な直接差別 の延長線にある差別概念であるが,その関連差 別に

DDA

特有の正当化の抗弁の余地を加えた 理由は,先の

Inglewood

貴族院議員の発言と同 様に,原則として性別などは人の職務遂行能力 に無関係であるが,障害は関係するからである と説明されることが多い[

Whittle

2001

:

9

;

日本 弁護士連合会人権擁護委員会2002

:

62]。

 だが,この 障害者と非障害者の間には能力 差がある という命題の根底には,障害者と非 障者は対等な力関係にはないというメッセージ

が横たわっているが,これは

DDA

制定に向け て尽力した障害者団体が切望した 障害者と非 障害者の平等な地位の獲得 [杉山2010

:

225]

を根本から否定しかねないものである。従って どのような場合に関連差別の正当化が認められ るのかについては,慎重な検討が要求される。

3.3 2003年法による直接差別概念の導入  このような不明瞭な関連差別の位置づけ は,正当化の余地を残さない直接差別規定

DDA

3

A

条5項)の2003年法による導入で幾 分かの明確さを獲得した。だがこの改正法は,

代わりに

DDA

における直接差別と関連差別の 関係という新たな論点を浮上させた。

 そもそも2003年法は,

EU

の2000年雇用及び 職業における平等取扱のための一般枠組確立す る雇用枠組指令(以下,雇用枠組指令)(8)の規 定を実行したものである[2003年法

Explanatory Note

]。当時の政府によると,2003年法で新た に導入された直接差別とは,使用者がある人の 能力を考慮するのではなく,障害を持つことを 理由に不利な取扱いをする場合に生じるもの で,この差別を禁じる規定の導入意図は,特 定の障害を持つ人の雇用に関する 全面禁止

blanket ban

) のように純粋に障害者であると いう事実のみを理由としてなされる偏見的取 扱いを違法とすることにあるとされる(9)。従っ て,不利な取扱いが使用者の一般化されたステ レオタイプ的な障害観とその障害による影響の 想定を理由に生じた場合,直接差別が生じる可 能性がある(行為準則2004

:

4

.

8

-

4

.

9)。

 後述するように,直接差別禁止と関連差別禁 止の関係については,重要判例の影響で,位置 づけに大きな変化が生じることになる。しか

(6)

し,少なくとも導入時点では,直接差別と関連 差別は同一線上にある差別類型だと認識されて いた。例えば

Monaghan

は,関連差別を直接差 別より広い概念として捉え,両者には明らかに 重なる部分があると指摘する[

Monaghan

2007

:

356

,

359]。

 ただし,これはあくまで重なる領域があると いうことでしかない。例えば 視覚障害者が盲 導犬を連れることである店舗で働けない とい う事例のように,関連差別では救済される可能 性があるが,直接差別ではその可能性はないよ うな事案の存在は当時も認識されていた(10)

3.4 小括

 1995年制定当初,

DDA

における平等取扱原 則は関連差別のみを指していた。当時,関連差 別は従来の差別禁止法でいう直接差別の一変 種と認識されていた。その変種が導入されたの は, 障害者と非障害者の間には能力差がある という障害者像を踏まえて,使用者による正当 化の抗弁の余地を認める選択を制定者がしたか らだった。ただ

DDA

は,障害者自身が他者依 存的な存在としての障害者像を否定し,主体的 な個人としての障害者像を主張する文脈で形成 された法律である。そのため,一般的に能力差 を想定することは,本来は整合性を欠くもの だった。

 それに対し,2003年法で直接差別が導入され てから,

DDA

における平等取扱原則の規範構 造は大きく変貌を遂げる。障害者差別禁止法理 に偏見に基づく差別の絶対的禁止の枠組を組み 入れた2003年法以降の

DDA

は,先の 障害者 と非障害者の間には能力差がある という前提 に異議を唱え,能力差がない障害者がステレオ

タイプ的な障害者像によって不利な取扱いを受 けることは許されないという裁判規範を打ち立 てることになった。

4.DDAで禁止する平等取扱原則違反 とその限界

 ここまで

DDA

における直接差別禁止と関連 差別禁止の位置づけを,法制定・改正の経緯を 追うことによって見てきた。しかしこの2つの 差別禁止の関係は,実際には法運用の過程で,

判例変更を通じて更に変化を重ねていった。

4.1 関連差別

 関連差別禁止の位置づけがしばしば議論の対 象とされたのは,障害者が比較対象者よりも障 害を理由として不利な取扱いを受けていること を法的に認めた上で,その不利益取扱いを使用 者側の理由で正当化できる点が従来の差別禁止 法と比較して異質であったことに端を発する。

だが,正当化 の余地が必要になるのは,障 害者差別に関して――まさに障害が一人ひとり 異なる個別具体性を持つことを背景に――比較 対象者の特定が困難な問題を提起することと密 接に関連する。この二つの観点は,車の両輪の 関係にある。ここでは特に,比較対象者の特定 方法という観点から関連差別禁止の規範構造を 分析していきたい。

(1) 比較対象者

 比較対象者の特定方法が緩やかであれば関連 差別が認定され易く,逆に制限的であれば差別 認定が困難となる。関連差別の比較対象者の特 定方法は, 緩やかなもの から 制限的なも

(7)

の へと2度の判例変更を経て転換した。

 比較対象者の特定方法に関する初期の枠組を 築いたのは,1999年

Clark v. Novacold ltd

事件控 訴院判決(11)である。1995年より雇用されてい

た申立人

Clark

は,1996年8月勤務中に背部を

損傷し,脊髄の周りに軟部組織損傷があると診 断された。彼は同年9月から解雇される1997年 1月まで有給休暇を取得した。使用者は,解雇 前に2度に渡り職場復帰時期が不明だとする診 断書を受け取り,結局解雇した。これに対し,

DDA

に基づく不当解雇だとする申立てが行わ れた。

 関連差別を認定するにあたって労働審判所と

EAT

は,比較対象者は 障害を理由とせずに 申立人と同期間休職した者 であるとし,この 比較対象者も解雇されるので,関連差別は生じ ていないと判断した(12)。これに対して控訴院 は,これら判決において比較対象者の特定方法 が誤っており,不利益取扱が存在していた可能 性を認めて,正当化されるか否かを判断するた めに事件を差し戻した。

 まず控訴院は,他の差別禁止法と異なって

DDA

の差別の定義には,同じ,または実質的 な違いがない人を比較対象者として要請する明 確な規定が存在しないことを指摘した。そして 不利な取扱の有無に関する審査は,障害の事実 よりもむしろ,障害者への取扱に対する理屈に 基づいて行われるとし,比較対象者は 申立人 と異なる状況にいたとしても,その理由があて はまらない,またはあてはまらないだろう人 になる,とした。本件でいうと 申立人と同じ 仕事をする人 が,障害を理由に不利益取扱を 受けていない人になる。

 この

Clark

判決で提示された比較対象者の特

定方法は非常に緩やかなもので,長年,関連差 別の比較対象者の特定方法として機能してき た。しかし2008年

London Borough of Lewisham v. Malcom and Equality and Human Rights Commission

事件貴族院判決で

Clark

判決の枠組 は否定され,新たな特定方法として制限的な基 準が要求されることになる(13)

Malcom

判決は,雇用差別に関わるものでは

なく,同じく

DDA

が対象とする不動産分野 に関わるものであった。統合失調症で苦しむ

Malcom

は,被申立人からアパートを借りてい

たが,賃貸契約違反である又貸しを行った。被 申立人は申立人の又貸し行為を知った時にやめ るようにいったが,申立人がこれに応じなかっ たため,被申立人は県裁判所に占有手続を行っ た。これに対して,障害者差別として提訴し た。

 県裁判所は関連差別を否定したが,控訴院は 障害と申立人の行為の因果関係を認め,関連差 別の存在を認定した(14)。これに対して貴族院 の多数判事(5名中4人)は,

Clark

判決の比 較対象者の特定方法を否定して,関連差別の存 在を認めなかった(15)

Clark

判決を否定した判事の1人である

Scott

判事は,障害者に対する不利な取扱いを受ける 理由と関係ない者を比較対象者にする

Clark

決で用いられた認定基準――本件に当てはめ ると, 又貸しをしない賃借者 と比較する手 法――は意味がないと指摘し,本件における適 切な比較対象者が 精神障害をもたない又貸し をした賃借者 であるとした。

 このように比較対象者の特定方法を制限的

にした

Malcom

判決の枠組は,雇用領域を扱う

論者たちによって批判の対象とされた。例え

(8)

Horton

は,

Malcom

判決以前の関連差別は通 常ならば間接差別として扱われる被用者の救済 の要請をも含んでいたが,同判決により救済で きない多くの潜在的な申立人を生み出された と述べ,同判決は制度的な差別と戦う

DDA

裁判規範性を弱体化させたと批判した[

Horton

2008

:

378

,

383]。

 確かに

Horton

が指摘する通り,

Malcom

判決 の枠組の方が

DDA

による救済対象者の範囲を 狭める。だが前述のように,比較対象者の特定 方法は,関連差別禁止の規範構造の中にあっ て,正当化の抗弁の成立範囲に関わる問題と表 裏一体の関係にある。そのため,

Malcom

判決 による比較対象者の特定方法の変化は, 正当 化 の枠組を検討した上でなければ評価できな いであろう。

(2) 正当化される関連差別

 いったん存在が認められた関連差別の違法性 が,正当化の要件を使用者側が満たすことに よって阻却されるとは,何を意味するのだろう か。

DDA

3

A

条3項によると,関連差別の理由 が特定の事案の状況において実質的(

material

であり,かつ重大(

substantial

)である場合の み,取扱いは正当化される,とある。また「実 質的」とは,取扱いの理由と特定の事案の状況 の間に合理的な意味で強い関係があることを指 し,「重大」とは,正当化の文脈において,そ の理由が実際の重点であり,本質であることを 意味する(行為準則2004

:

6

.

3)。

 この関連差別の正当化の抗弁が使用者にとっ てどのような存在であるのかを論じた判決に,

1999年

H J Heinz Co Ltd v Kenrick

事 件

EAT

決がある(16)。申立人

Kenrick

は,1996年5月か

ら解雇された1997年4月まで疾病休暇を取得し ていた。この期間,申立人の症状の原因は不明 であった。解雇された後に慢性疲労症候群であ るとの診断が下った。申立人は,本件を不当解 雇と障害者差別として申立てた。

 雇用審判所は,解雇時点で正式な診断が下っ ていなかったとしても,使用者には申立人の不 具合の状況は医療関係者から伝わっており,そ れにも拘わらず不利益取扱をしたことに対して 関連差別が認定できるとし,更に正当化の要件 も満たないとされないと判断した(17)

EAT

雇用審判所の判断を支持した。

 本件関連差別は結局,正当化できないとされ たが,この判断を導き出すにあたって

EAT

は,

関連差別の正当化の要件が非常に低い敷居でし かないと述べた。旧

DDA

5条3項(改正後は 3

A

条3項に変更)にある 特定の事案の状況 において実質的であり,かつ重大 とは,ある 問題となる理由が個人的な状況に関係し,そし て軽微でも些細でもないことを意味するので あって,正当化の要件は十分条件というより必 要条件を構成するに過ぎないものだと位置づけ られた。さらに

EAT

は,正当化を審査するに あたって雇用審判所は障害を持つ被用者と使用 者の利益衡量を行わなければならないとし,旧

DDA

5条3項にいう「特定の事案の状況」と は使用者の状況も含むと説明した。

 このように 低い敷居 でしかない 正当化 の抗弁 の立証責任はあくまで使用者側にある ことを強調したのが,

Jones v. Post Office

事件控 訴院判決である(18)。郵便配達員である申立人

Jones

は,1979年に糖尿病と診断され,1997年か らインシュリン治療が始まった。申立人の職務 には運転が必要であったが,社内基準としてイ

(9)

ンシュリン投薬者の運転は全面的に禁じられて いた。その後使用者は,社内基準を見直し,申 立人に対して1日に2時間だけ運転を認めた が,申立人はこの使用者側の申し出を不服とし て,障害者差別を申立てた。

 雇用審判所は,使用者側の提示した社内基準 の医学的根拠は正しくないため,運転の制限は 正当化されないと判断して関連差別を認めた。

これに対して

EAT

は,雇用審判所が医学的根 拠の正否を判断した点を非難し,使用者側の正 当化の抗弁を認めた(19)。控訴院も

EAT

と同様 に申立人の主張を退けた。

 雇用審判所の権限の範囲に関して控訴院は,

DDA

5条3項(改正後は3

A

条3項に変更)

が雇用審判所に要請するのは,不利な取扱いの 理由が特定の事案の状況に対して 実質的 で あるか,そして 重大 なものかの検討に限ら れると述べた。本件における不利な取扱いとは 運転制限であり,この理由は長時間運転に伴う リスクであるが,リスク評価にあたって被申立 人が医学的専門家の意見を聞いた事実が認めら れた。使用者は,理由が正当化の要件を満たす ことを証明する必要があるが,適切に行われた リスク評価は使用者が直面する実質的でかつ重 大な理由となり,それに矛盾がない場合は,審 判所は使用者が行った評価に代えて自らの判断 を通用させることはできない,と控訴院は判断 した。

 この判決は,関連差別の正当化の抗弁を極 めて容易なものにしたといえよう[

Lawson

2008

:

142]。このように使用者側に有利な関連 差別の正当化の審査手順は,

Murray v. Newham Citizens Advice Bureau Ltd

事件

EAT

判決で改め て説明された(20)。ボランティアを志願した申

立人

Murray

は,事前面接の際,自分が妄想型

統合失調症ゆえに隣人を刺し刑務所にいたこと を告げた。これを受けて被申立人は申立人を不 採用にした。それに対して申立人は

DDA

違反 として差別救済を申立てた。

 雇用審判所は,関連差別の存在を認めなかっ たが,仮に正当化の抗弁を検討したとしても暴 力の潜在的危険性から正当化可能だと判断し た(21)。これに対して

EAT

は,正当化の抗弁に 関して十分な検討がないとして,事件を差し戻 した。

EAT

は正当化の判断をする際に雇用審判所 が取るべき手順を以下のように定めた。雇用審 判所はまず,被申立人が採用不可の決定を正当 化するために面接当時どのような資料を有して いたかを検討しなくてはならない。次に審判所 は,被申立人は申立人の医師から追加的な情報 を適切に得ていたか否かを判断する。もし情報 が適切に得られていたならば,雇用審判所は,

その情報をもとにした採用拒否の決定は実質的 で重大のものかを検討する,という手順であ る。

 正当化の抗弁の立証責任は使用者側にあり,

使用者には常に,問題となった差別的取扱が申 立人の障害に関連していないとして正当化する 余地が残されている。これは,

DDA

の枠組に おいて使用者が特定人物の障害を考慮に入れ ても適法である可能性が残されていることを 意味するものであると説明される[

Doyle

2003

:

65]。

(3) 小括

 正当化の抗弁は,使用者側の状況を考慮に入 れやすいもので,使用者にとっての敷居は低 い。だが同時に関連差別の存在に関する障害者

(10)

に課された立証責任も,

Clark

判決以前につい ては比較対象者の幅を広く捉えるもので,容易 なものだった。すなわち関連差別においては,

申立人となる障害者の差別の立証を簡単にする 代わりに,使用者による正当化の抗弁をも容易 にできる構造があったといえる。そして関連差 別で使用者による正当化の余地が広く認められ ているのは――障害者と非障害者の間にある能 力差よりむしろ――比較対象者の緩やかな特定 を通じて本来ならば実質的な根拠があったはず の異なった取り扱いが推定上違法とされてしま う事態にも対応するためのものといえよう(22)。 だとすれば,これは実体的な差別の認定基準と いうよりも,立証責任に伴う技術論的な側面に 関わる。だがこの――ある意味均衡が取れてい た――差別構造は,

Malcom

判決によって崩れ ることになる。すなわち正当化の抗弁の基準は 緩いままで,比較対象者の証明が困難になっ た。

 2008年

Malcom

判決以前の関連差別の枠組を 踏まえて2003年に直接差別が導入された意義を 見直すと,関連差別が緩やかな基準による正当 化の余地を組み込んでいることで相対化される おそれがあったために,絶対に許されない差別 領域を確保する目的で直接差別という差別類型 が導入されたものと理解することができる。

4.2 直接差別

 関連差別と直接差別の違いは, 正当化の余 地 に還元できると捉えてよいのだろうか。こ の問題を考えるにあたって,まず直接差別禁止 の規範構造を確認する必要があるだろう。

 ここでいう直接差別とは,障害を理由にその 障害を持たない者よりも障害者を不利に取扱っ

た場合,この使用者の取扱いを違法とする差別 類型である(行為準則2004

:

4

.

5)。この差別に おける比較対象者は,関係する諸事情が同じ,

もしくは実質的に異ならない者であり,つまり 問題となる障害者が抱える同じ障害をもって いない者 となる(行為準則2004

:

4

.

13)。この 直接差別の枠組自体は,

SDA

など従来の差別 禁止法と等しい。そうであるなら,直接差別の 枠組においては,障害が個人的・個別的な事情 としてしか存在しないことによる特殊性は特に 存在しないようにも思われる。

 だが,この直接差別においても,障害者差別 禁止にあっては,他の差別禁止法には見られな い特徴が存在する。従来の差別禁止法において は,逆に直接差別が絶対に正当化されないわけ ではない。人種や性別に関わる差別禁止法にお いては,直接差別を許容する本質的な職業能力

genuine occupational qualifications

)規定や,直 接差別を正当化しないまでも責任阻却する例外 規定が存在する[

Collins, Ewing and McColgan

2001

:

309]。それに対して

DDA

の直接差別に は,そのような例外規定は存在しない。これが 意味することは何であろうか。

(1) 合理的な区別としての不平等取扱  

DDA

の直接差別では 本質的な職業能力 による例外はない代わりに,制限的な比較対象 者の特定方法によって,職場の安全・健康とい う名目の下で 本質的な職業能力 に関係する ような不利益取扱が同法対象の差別ではないと 判断される枠組が用意されている。

 政府見解によると,障害を持つという事実は 必ずしもその人には健康上・安全上の意味で追 加的リスクがあることを意味するわけではな

(11)

く,障害の健康上・安全上の含意に関するステ レオタイプ的な想定に基づく取扱いは直接差別 にあたるとされる(行為準則2004

:

6

.

7)。しか し使用者は,全ての被用者の勤務中の健康,安 全,福祉に関する合理的な施策を確保する義務 を有し(行為準則2004

:

6

.

8),健康・安全に関 してどのような施策をとるかを決めるのは使用 者である(行為準則2004

:

6

.

9)。

 一見するとこの政府見解は妥当のように思わ れる。だが

DDA

がインペアメント考慮型社会 モデルを採用したことを忘れてはならない(23)。 このモデルでいうインペアメントとは,身体的

/知的/精神的機能が健康状態にないために障 害者本人に不利が生じる障害である。この障害 が実体として存在すると考えることは,例えば 雇用領域において本人の職務遂行能力に関係し ない部分で,インペアメントを理由に健康上・

安全上の弊害が生まれる可能性の――現実的な リスクだけでなく偏見に基づくものも含めた――

想定につながる危険がある。

 この問題に関連して,

HIV

陽性の障害者に 対する差別が比較対象者の制限的な特定方法に よって否定されたケースがある。2006年

High Qualty Lifestyles ltd v. Watts

事 件

EAT

判 決 で あ(24)

HIV

陽性の申立人

Watts

は,利用者とと もに生活して学習障害や自閉症者などへの支援 を行う仕事をしていた。当初申立人は自身の障 害を使用者側に伝えていなかかったが,昇進の 際に告知した。産業医は,仕事上で起こりうる ことによって

HIV

が伝染する可能性は少ない と診断した。更に申立人の仕事振りはよかった のだが,結局申立人の障害の状況はリスク査定 を理由にして受け入れがたいとされ,解雇され た。申立人は,解雇は障害者差別であるとして

救済を申立てた。

 直接差別に関して雇用審判所は,比較対象者 を 申立人と同じ立場にいる障害を持たない 者 とし,解雇理由を リスク査定の結果 と したが,障害と解雇の因果関係は切り離せない として,直接差別があったと判断した(25)。こ れに対して

EAT

は,直接差別は生じていない とし,使用者側の主張を認めた。

EAT

は,直接差別の対象となる障害に基づ く取扱いは,関連差別の対象となる障害に関連 する取扱いの射程と同じ,もしくは後者よりも 狭いと考えた。そして直接差別の比較対象者 は 申立人と同じ,もしくは実質的な違いがな い者 であり,本件では

HIV

陽性ではない ものの,医学的状況などによって同じようなリ スクを抱える者 ,具体的には 肝炎患者であ る外科医 や 結核患者の歯科医 が挙げられ た。そのような医療従事者が解雇されるのであ れば,申立人が解雇されても不利な取扱いは存 在していないと

EAT

は判断した。

 また直接差別の立証責任に関して

EAT

は,

被申立人にとって正当化の抗弁の余地がないか らこそ,申立人の側が有効な比較対象者が存在 することだけでなく,その比較対象者であるな ら不利な取扱いを受けなかったことをも証明し なければならない,とした。

 このように,他の差別禁止法では許容されて いる本質的な職業能力による例外が障害者差別 の領域で認められていないことは,

Watts

判決 が直接差別を否定したことに明らかなように,

極めて制限的な比較対象者特定のアプローチを 採用して障害者に対する直接差別の範囲を限 定するよう判決に促すことになった[

Lawson

2008

:

154]。

Watts

判決で比較対象者を限定した

(12)

際の

EAT

の問題設定は,まさしく本質的な職 業能力の問題を考慮したものといえよう。他の 差別禁止法領域であれば本質的な職業能力の問 題として適用除外されていたところ,

DDA

直接差別にはその規定が存在せず 直接差別が 生じたら即違法 という枠組があるために,比 較対象者の特定方法を極めて制限的にすること で問題が処理された。

(2) 小括

 勤務中の被用者の安全・健康の確保,そして 被用者だけに限らず職務に関係する者たちの安 全・健康の確保という使用者に課された責務の 観点から考えると,使用者がリスクを最小に抑 えるために予防を過多に行う可能性があると想 定することはたやすい。だが,この過剰予防の 可能性は,

DDA

においては厄介な問題を投げ かける。すなわちインペアメント考慮型社会モ デルに基づいてインペアメントの存在を認めた

DDA

は,特に伝染病のようなインペアメント が周囲の安全・健康を脅かすという強迫観念を 使用者に植え付ける可能性がある。その使用者 者の考えが偏見に基づくものであるのか否かを 判断することは難しいし,また顧客が強い偏見 を持っていた場合には使用者にはそれに対応す るインセンティヴが生じる。

 このような難しさはあるが,それでも

DDA

は差別禁止法である以上,純粋な能力評価以外 の偏見を排除するための規範枠組として機能し なければならない。先述の伝染病のケースに限 らず,インペアメントの存在は,他者に能力差 があるような印象を与えがちである。

Watts

決では――

EAT

は事実上本質的な職業能力の 問題と同様な論理を用いて判断したが――仕事

振りが良かった点,そして仕事をするだけで は

HIV

が感染する可能性が低いという客観的 データがあった点を考えると,実際には本件に おいて純粋な能力評価はなされなかったのであ り,

EAT

の判決の中にさえステレオタイプ的 な差別があったと考えられる。

4.3 判決における直接差別と関連差別の関係  個別具体的な障害を持つ者に対する差別を禁 止するために,関連差別の禁止には,純粋な直 接差別と間接差別の特徴を一気に引き受ける役 割が期待された。しかしこの関連差別には,正 当化の余地があるために裁判規範として相対化 されるおそれがあり,新たに絶対的な差別禁止 領域を画する直接差別禁止による補完が必要と されるに至った。この2つの差別類型の禁止 は,重複する領域がありながらも,基本的には 使い分けられてきた。しかしこの両差別の関係 は,関連差別を認定する際の比較対象者を特定 する方法を直接差別と同様に制限的なものにし た2008年の

Malcom

事件貴族院判決で崩れた。

 2011年

JP Morgan Europe ltd v. Chweidan

事件 控訴院判決(26)は,

Malom

判決によって直接差 別禁止と関連差別禁止が事実上同じ構造のもの となったと判断した。控訴院は,

Clark

判決以 降,関連差別が長い間,直接差別とは違う差別 類型と見なされていたことを確認しつつ,しか

Malcom

事件の影響により,独立の差別類型

としての関連差別という観念はなくなったもの とした。

 このように2008年

Malcom

判決により独立し た差別類型としての

DDA

における存在意義を 失った関連差別であるが,2010年平等法で,障 害に起因する差別(

Discrimination arising from

(13)

disability.

以下,起因差別)として再び復活す ることになる(平等法15条)(27)。この差別類型

は,

Malcom

判決で確立した比較対象者の新た

な特定方法によって関連差別にもたらされた混 乱を受け,救済申立の際に障害者側に 比較対 象者と比べて不利益取扱いを受けた という立 証責任を課さず,あくまで 障害の結果生じた ものを理由に不利益取扱いを受けた ことを証 明すれば事足りる枠組を採用した。これにより 平等法は,

Malcom

判決の主な問題を回避した

Incomes Data Services

2010

:

41

-

42]。

5.障害者差別禁止法理における「平等 取扱原則」の意味

 ここまで

DDA

における平等取扱原則として 直接差別禁止と関連差別禁止を検討してきた。

ここで,この2つの差別禁止から浮かび上がる

「不合理な差別」とは何かを確認してみよう。

 まず出発点として,

DDA

においても,障害 者と比較対象者の間において不平等な取扱いが あった場合には平等取扱原則に対する違反が あったかどうかが問題となる。このとき,平等 取扱原則に反する差別の存在を否定するため に,2つの方法が想定できる。第1に平等取扱 原則違反が生じたことを認めた上で,正当化に よって違法性を阻却する方法である。続いて第 2に,比較対象者の特定方法を制限的にするこ とで,そもそも平等取扱原則違反が存在しな かったとする方法である。

 第1の正当化の抗弁による違法性の阻却に関 していうと,確かに使用者の立証責任が果たさ れれば低い敷居で不利益取扱いが正当化される が,しかしだからといって判例上,障害を理由

とした不当な差別が許されているわけではな い。立証責任を果たす上では,前述の

Kenrick

判決の場合のように,使用者による適切な情報 収集がなされていないときには正当化の抗弁を 遮断するメカニズムが機能することがある。

 第2の比較対象者の特定方法を通じた違法差 別の認定回避は,主に直接差別の文脈で用いら れる。適切な比較対象者の選定に基づいて平等 取扱が否定されることは,それ自体非難すべき ものではない。だが前述の

Watts

判決で見られ たように,慎重に比較対象者を判別しなけれ ば,一見インペアメントの性格から仕方がない ことのように見える不利益取扱いが,実際には 偏見に基づく不利益取扱いである危険性に注意 する必要がある。

 このように,確かに平等取扱原則違反が許容 される場面があるものの,差別認定を回避する 方法は両者とも,障害者本人の個人としての正 当な能力評価の歪曲を許容するものではない。

その点を考えると,

DDA

における平等取扱原 則は,障害者がステレオタイプや偏見に基づい て問題となる能力を正当に評価されない事態,

あるいは本人に責任はないのに障害を持つこと を理由に不当に取り扱われる事態に対して,特 定の特徴に依拠したカテゴリー化に対抗する権 利として位置づけられる。

 関連差別の形成過程の議論で見られたよう に,個別具体的な特徴である 障害 ではなく 障害者 に着目することは,正当な能力の評 価をせずに 障害者と非障害者の間には能力差 がある という帰結に繋がりやすい。これはま さにステレオタイプや偏見であり,まさしく他 者依存的で保護の対象としての生き方を障害者 に迫る医学モデル的な見解である。主体的な個

(14)

人としての障害者の正当な能力評価を求める障 害者差別禁止法理が 差別禁止 を主張し続け る意義は,障害を持つことによって常に他者に よる恩恵がなければ生きられない他者依存的な 地位に転落する危険性を抱える障害者の, 平 等な地位 を保持することにあるといえよう。

6.むすびにかえて

 本稿では障害者差別禁止法理における平等取 扱原則の意味を検討するために,

DDA

の直接 差別と関連差別を素材に考察した。この結果,

同法理における平等取扱原則とは, 障害者 という特定のカテゴリーに基づいて事前に評価 されるのではなく,障害者本人の能力を正当に 評価した上で,適切な取扱いを要請するもので あることが明らかになった。

DDA

は2010年平等法により全面廃止となっ たのだが,この

DDA

の法理を引き継いだ平等 法に関して十分に検討することができなかっ た。これについては他日を期したい。

付記 本研究は,早稲田大学日欧比較基本権理 論研究所2012年度研究プロジェクトの成 果の一部である。

〔投稿受理日2012.8.24/掲載決定日2013.1.24〕

(1)ここでいう関連差別とは,障害に関連する事由 を理由とする区別,排除または制限というような 異なる取扱いを問題とする差別であり[差別禁止 部会2012: 4],本稿で検討する関連差別と同義で ある。

(2)平等法では,障害以外にも,年齢,性別再指定,

婚姻・民事パートナーシップ,妊娠・出産,人種,

宗教・信条,性別,性的指向に関わる差別領域を

も対象とし,これらの特徴に基づく差別を労働,

不動産取引,教育など包括的な場面において禁止 する[詳しくは,川島: 2012参照]。

(3)筆者は,論文において 関連差別 を 関係差別 と記述してきたが,障害者政策委員会差別禁止部 会の用語選択に習い,今後 関連差別 という呼 称に統一する。

(4)本稿においては合理的配慮義務の不履行を検討 しないが,ここで関連差別禁止と合理的配慮義務 の関係について簡単に説明する。合理的配慮義務 は,独自的な権利として存在する(行為準則2004: 4.25)。これに関係して本文にあるClark事件控訴 院判決[1999] IRLR319は,関連差別と合理的配慮 義務の不履行は切り離された存在であるが,重な る領域もあると述べた。

(5)CRBは議会に何度も提案されたが,本稿では DDA草案と時期が近いH.バーンズ下院議員の CRB(1995年1月7日提出)を検討対象とする。

(6)例えば1975年11月12日に制定されたSDAは,使 用者が性別を理由に男性が取扱われるよりも女性 を不利に取扱った場合,あるいは使用者が男性と 同様に女性に対してもある要求または条件をあて はめるが,それらに応じられる女性の割合がそれ に応じられる男性の割合よりもかなり低く,そし てその要求または条件が性別に関係しないことを 証明できずに女性に損失を与えた場合,その使用 者は性差別を行った,とする規定を置く(SDA1 条1項)。これはCRBの差別禁止規定と似ている。

(7)便宜上,本稿では2003年法以前のDDAの条文を 旧DDAと表記する。関連差別禁止は旧DDA5条 1項において,合理的配慮義務は旧DDA5条2項 において規定された。

(8)Council Directive 2000/78/EC of 27 November 2000 establishing a general framework for equal treatment in employment and occupation.

(9)The (Draft) Disability Discrimination Act 1995

(Amendment) Regulations 2003――Explanatory Notes and Supplementary Questions.

(10)正当化の余地を認めない直接差別禁止概念は,

合理的配慮義務のような積極的措置の妥当性を巡 る議論を生じされた。例えばBamforthらは,DDA が片面的な差別禁止法理であるため,DDAの法対 象者は障害者だけで,非障害者はDDAの救済対象 となりえないと指摘した[Bamforth, Malik and O Cinneide 2008: 1051]。 更 にDearkinら も,DDAの

(15)

直接差別規定とSDAの直接差別規定は文言上似て いるが,DDAの差別救済対象は障害者に限定して おり,これによりDDAは障害者に対する積極的措 置の余地を認めている,と指摘した[Deakin and Morris 2005: 716]。

(11)[1999] IRLR319.=1999年3月25日控訴院判決。

(12)控訴院判決によるものを引用。

(13)[2008] IRLR700.=2008年6月25日貴族院判決。

[詳しくは,鈴木2009: 78-80参照]

(14)貴族院判決によるものを引用。

(15)Malcom事件で問題となった条文はDDA24条

1項であるが,この規定は3A条1項と全く同じ 規定である。本件は,雇用領域にも類推適用す る(Child Support Agency v. Truman事 件EAT判 決

[2009] IRLR277)。

(16)[2000] IRLR144.=1999年12月3日EAT判決。

(17)EAT判決によるものを引用。

(18)[2001] IRLR384.=2001年4月11日控訴院判決。

(19)控訴院判決によるものを引用。

(20)[2003] IRLR340.=2003年3月20日EAT判決。

(21)EAT判決によるものを引用。

(22)長谷川は,多くの場合において関連差別の申 立がなされたという事実は障害が労働能力に何ら かの影響を与えていることを意味すると指摘した

[長谷川2009: 52]が,その評価は本文記載の観点 から慎重にせねばならない。

(23)インペアメント考慮型社会モデルとは,障害者 が抱える障害をインペアメントと社会から生じる 障害の二重構造で捉えるモデルである。このモデ ルは障害者が被る障害の社会側の責任を強調し,

障害者を 他者依存的な存在 ではなく 主体的 な個人 として再定義するもので,障害者と非障 害者の 平等な地位 の実現を切望する障害者運 動の文脈で生成された[杉山 2010: 225-229]。

(24)[2006] IRLR850.=2006年4月10日EAT判決。

(25)EAT判決によるものを引用。

(26)[2011] IRLR673.=2011年2月27日控訴院判決。

(27)個人Aが障害者Bの障害の結果生じるものを理 由にBを不利に取扱い,そしてAが法的目的の達 成の意味で問題となる取扱いが適切だったことを 証明できなかった場合,Aは障害者に対して差別 したとする(平等法15条1項)。

参考文献

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(16)

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参照

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